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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: B Rank

『 ツイスター 』 -1996年以来の再鑑賞-

Posted on 2024年8月11日 by cool-jupiter

ツイスター 70点
2024年8月11日 Amazon Primeにて鑑賞
出演:ヘレン・ハント ビル・パクストン フィリップ・シーモア・ホフマン
監督:ヤン・デ・ボン

 

これは多分、高1の夏休みに父親と一緒に(旧)岡山メルパで観たような記憶がある。が、話の中身はほとんど忘れていたので『 ツイスターズ 』の前に復習鑑賞。

あらすじ

竜巻チェイサーのジョー(ヘレン・ハント)は、元夫のビル(ビル・パクストン)に離婚届けに直ちにサインしてくれと頼まれる。だがジョーに竜巻観測機のドロシーを見せられたジョーは、一日だけ彼女の竜巻観測に付き添うことになり・・・

 

ポジティブ・サイド

かつて大谷の所属チーム・LAエンゼルスの主砲、マイク・トラウトの趣味が気象観測、特に竜巻観測であることを知っている野球ファンは多いことと思う。本作はそうした竜巻チェイサーの物語。単なる好事家ではなく、竜巻を現地で直に観測し、いち早く注意報や警報を出すという使命感で動く人々のストーリーでもある。

 

竜巻の内側から観測するセンサーの名前がドロシーという点にニヤリ。言わずと知れた『 オズの魔法使 』へのオマージュ。それを飛ばしてデータを受け取るというアイデアは、パソコンや携帯電話が爆発的に普及し始める時代の前夜の脚本としては非常に先見の明があったと言える。

 

とにかく行く先々で竜巻が発生し、ジョーとビルとその仲間たちが狂喜乱舞して突っ込んでいく。あるいは必死に地下に逃げ込む。その繰り返し。常識人のメリッサの ”You are all crazy, and she is the craziest of all!” という悲痛な叫びは決して届かない。『 エイリアン 』のキャッチコピー、”In space, no one hears you scream” ならぬ “In tornadoes, no one hears you scream” である。

 

車にトラックに牛までが飛ばされるが、そうしたCGも迫力満点。本物らしくないという批判はまっとうだが、竜巻を間近で観たことがある人がどれほどいるのか。これこそ作家の想像力がものを言うところ。現代(2020年代)でも『 デス・ストーム 』のように竜巻ものは製作されているが、そうした作品のCGと比べてもまったく見劣りはしていない(『 デス・ストーム 』が人間ドラマに寄せすぎなのもあるが)。

 

劇中での『 シャイニング 』の使い方も絶妙だ。同作で最も有名なシーンであるジャック・ニコルソンが斧で扉を破壊するシーンは、まさに迫りくる竜巻そのもの。こんな怪物に立ち向かっても仕方ない。しかし観測はできる。人に可能な範囲で最善を尽くそうとするジョーとビルの奮闘っぷりには素直に頭が下がる。1990年代は『 アルマゲドン 』や『 ボルケーノ 』のように、天変地異に立ち向かうヒーロー映画が多かったが、本作もそうした系譜に連なる映画。一般人でもヒーローになれるという幻想を与えてくれる、良くも悪くも9.11以前の映画だった。

 

ネガティブ・サイド

ベトナム戦争やら湾岸戦争を経て、PTSDに対する社会的な理解も浸透していたはずの1990年代とは思えない言動をビルがジョーに対して繰り返す様には正直辟易した。フェミニズムがハリウッドに浸透していない時代とはいえ、トラウマに対して「忘れろ!」は禁句だろう。

 

ドロシーを飛ばす手順がめちゃくちゃ。JovianもICT系の部署に異動になり、外部の業者との連携や情報共有が生じるようになったが、エンジニアという人種は作ることばかり考えて、運用することを考えない。そうした日々のちょっとしたフラストレーションが本作を観て増幅してしまった。ドロシーを本当に飛ばしたいなら凧、あるいは風船を使え。

 

最後の最後のシーンも、うーむ。普通にデブリが飛んできて負傷の一つや二つは負わないと不自然だが・・・

 

総評

色々と突っ込みどころはありつつも、テンポの良いストーリーとシンプルな人間関係で魅せる。日本でも竜巻が発生するようになってしまったが、その注意報や警報は誰かが出してくれている、誰かの発明品によって支えられているということを頭の片隅に置いておこう。なにかと叩かれる本邦の気象庁であるが、本当はもっとリスペクトされるべき団体であると思う。本作を観てそう感じた次第である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

bite one’s head off

(人に)食ってかかる、の意。夫婦喧嘩は犬も食わぬと言うが、それは往々にして一方が他方に、あるいは互いが互いに食ってかかるからに違いない。あまり自分から使う表現ではないが、これを使えるということは英語ネイティブの親友もしくは配偶者がいるということだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ツイスターズ 』
『 先生の白い嘘 』
『 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる! 』

 

ツイスター [Blu-ray]

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  • ヘレン・ハント
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現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

I am now slowly phasing over to https://jovianreviews.com. This site will continue to be updated on a regular basis for the time being.

Posted in 映画, 海外Tagged 1990年代, B Rank, アメリカ, ディザスター, ビル・パクストン, フィリップ・シーモア・ホフマン, ヘレン・ハント, 監督:ヤン・デ・ボン, 配給会社:UIPLeave a Comment on 『 ツイスター 』 -1996年以来の再鑑賞-

『 密輸 1970 』 -虚々実々の密輸ドラマ-

Posted on 2024年7月15日 by cool-jupiter

密輸 1970 70点
2024年7月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヨム・ジョンア キム・ヘス
監督:リュ・スンワン

 

『 モガディシュ 脱出までの14日間 』のリュ・スンワン監督作品ということでチケット購入。

 

あらすじ

港町クンチョンは工場排水により漁が成り立たなくなりつつあった。そんな中、海女のリーダーのジンスク(ヨム・ジョンア)は生活のために密輸に協力することを決断する。ある時、税関によってジンスクは現行犯逮捕され、親友チュンジャ(キム・ヘス)だけがその場から逃亡するが・・・

ポジティブ・サイド

1970年代の韓国と言えば民主化前=軍事政権下ということぐらいしか知らないが、工業化による公害が問題になるところは日本と同じか。海女たちが自発的にではなく、生活の糧を売るためにやむなく密輸に協力するというプロットには説得力があった。

 

その海女たちが一度は摘発され、刑務所で過ごし、娑婆に戻ってからも汚れた海で生きるしかないという描き方が痛切。腐った海藻でスープを作って幼い子どもに与えざるを得ないシーンには胸が痛んだ。こうした背景があるため、密輸という犯罪に従事する海女たちを一方的に断罪することができない。

 

その海女の中心人物ジンスクを演じたヨム・ジョンアと、裏切り疑惑のチュンジャの再会。そこから動き出すヒューマンドラマとクライムドラマの両方が、非常にテンポよく展開される。随所で挿入される韓国版懐メロも映像とストーリーにマッチしていて、それもストーリーテリングに一役買っている。

 

ソウルの密輸王、クォン軍曹と彼の片腕がアメリカのグリーンベレーかと思うほど強すぎるが、ベトナム戦争帰りだという設定によって、荒唐無稽なアクションシーンにもリアリティが感じられた。終盤の水中での大立ち回りは非常に新鮮に映った。水連達者の海女が男たちを一人また一人と始末していくのは痛快だった。

 

最後はすべての悪を華麗に打ち倒して、ハツラツとしている海女たち。密輸や殺人に関わっておきながらそれはないだろうとも思うが、「まあ、そんなことはええか」と思わせるだけのデタラメなパワーを持った作品でもある。韓国映画は邦画が絶対に作れない作品を時々軽々と作ってくれるが、本作は間違いなくそうした一品である。

 

ネガティブ・サイド

海女たちの集合写真がまんま『 セックス・アンド・ザ・シティ 』なのは時代が合わないし、オリジナリティにも欠けると感じた。

 

チュンジャがクォン軍曹の信用を得る過程の描き方が弱かった。軍人上がりでソウルの地下社会・密輸業の実力者たるクォン軍曹の片腕的なポジションに成り上がるまでに、クンチョン以外の舞台でのチュンジャの活躍を2~3分挿入しても良かったのではないかと思う。

 

韓国(映画)では警察=無能、役人=悪人という等式が成立するが、本作でもそれは例外ではない。そういう意味では本作の真相にはあまりサプライズを感じられなかった。

 

総評

50年前の韓国でこんなに生き生きと女性が活躍していたとは思えないが、それでも「ひょっとしたらこんな人たちがいたのかも・・・」と思わせるだけの妙なパワーが本作にはある。実話ベースということだが、おそらく海女さんが密輸に協力していたことがあっただけで、ヤクザや税関相手に大立ち回りをしていたはずはない。ただ、そうした荒唐無稽な想像を実際に映画に仕立て上げてしまうリュ・スンワン監督の手腕は見事。子供向けとは言えないが、40代以上なら男女を問わずに楽しめるはずの作品だ。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

セグァン

税関の意。言わずと知れた輸出入に関わるレギュレーションを担当するお役所。本作で最も多く聞こえてくる語彙の一つ。今学期、Jovianは薬学部で英語を教えていたが、受講者の中には「将来は麻薬取締官になりたい」という者も毎年ちらほらいる。彼ら彼女らは将来、税関と連携して、水際で禁輸や密輸を食い止めてくれることだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 朽ちないサクラ 』
『 キングダム 大将軍の帰還 』
『 YOLO 百元の恋 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, キム・ヘス, ヨム・ジョンア, 歴史, 監督:リュ・スンワン, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:KADOKAWA Kプラス, 韓国Leave a Comment on 『 密輸 1970 』 -虚々実々の密輸ドラマ-

『 あんのこと 』 -社会の一隅の現実-

Posted on 2024年6月19日 by cool-jupiter

あんのこと 75点
2024年6月15日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:河合優実 佐藤二朗 稲垣吾郎
監督:入江悠

 

旧シネ・リーブル梅田の頃にパンフレットを見て興味を抱いたのでチケットを購入。

あらすじ

学校にも六に通えず、母親から虐待されて育った香川杏(河合優実)は、売春と薬物使用の疑いで警察に逮捕される。しかし、そこで人情味あふれる刑事、多々羅(佐藤二朗)やジャーナリストの桐野(稲垣吾郎)と出会い、更生への道を歩み始めるが・・・

 

ポジティブ・サイド

よくもここまで暗い話を描けたものだと感心する。まるでよくできたた社会派の韓国映画を観ているようだった。それを可能にしたのは第一に脚本の力、次に役者の力だろう。

 

まず、2020年6月の朝日新聞の記事だが、これは無料登録すれば読めるので、ぜひ多くの人に(映画鑑賞後に)読んでほしい(読み終わったら、すぐに登録解除のこと)。コロナによって日本社会のセーフティネットの脆さが浮き彫りになったと言われるが、問題はそもそもセーフティネットにかからない人々が最初から一定数存在するということ。劇中でも小学校にすらまともに行けなかったという人が役所で体よく生活保護申請を却下されそうになるが、そもそも不登校の時点で登校を両親に促さない行政の怠慢があったはずなのだ。杏にしても同じこと。「自己責任」(小泉政権)やら「自助・共助・公助」(菅政権)という一種のスローガンで切って捨てるのではなく、言葉の本当の意味でのインクルージョンについて考えるべきではないのか。

 

ハナさんの人生の壮絶さは想像するしかないが、虐待、性被害、薬物使用など一人で現代社会の諸問題の総合商社をやっている杏というキャラクターの内面は想像すらできない。実際に、杏の心中がナレーションや字幕などで物語られることも一切ない。すべては杏の表情や立ち居振る舞いから推測するしかないが、河合優実は見事に演じきった。ネタバレになるので書けないが、親に愛されなかった自分を、自分自身で取り戻す機会などそうそうあるものではない。それを奪われた。絶望するには充分だ。この絶望感は観る側に間違いなく感染するだろう。

 

ネガティブ・サイド

ラストシーンが意味深。新たな家族の再生なのか。それとも新たな虐待親子関係の始まりなのか。どちらとも判断しかねるが、ここはどちらなのかを入江監督にはっきりと映し出してほしかった。『 MOTHER マザー 』のラストシーンもそうだったが、解釈を観る側にゆだねるのではなく、作家としてのメッセージを明確に示してほしかったと思う。

 

総評

鑑賞後、『 トガニ 幼き瞳の告発 』を観終わった時のような虚無感を覚えた。それだけ見る者の心に澱みを残す作品だと言える。『 ギャングース 』でも見られた入江監督の社会の底辺で生きる者たちへの眼差しは、本作でさらに透徹したものになったと評していいだろう。杏というキャラクター、そしてそのモデルとなった人物にどれだけ思いを馳せられるのか。想像力を試される作品だと言える。メンタルの調子を整えてから鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

abuse

アビューズと発音する。本作には三つの abuse が描かれている。一つは drug abuse = 薬物乱用、もう一つは child abuse = 児童虐待、最後に power abuse = 職権乱用である。いずれも全く良い意味ではないが、現代のニュースを英語で見聞きする際には、悲しいかな、必要な語彙である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 バジーノイズ 』
『 チャレンジャーズ 』
『 ザ・ウォッチャーズ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 伝記, 佐藤二朗, 日本, 河合優実, 監督:入江悠, 稲垣吾郎Leave a Comment on 『 あんのこと 』 -社会の一隅の現実-

『 関心領域 』 -歴史は繰り返すのか-

Posted on 2024年6月9日 by cool-jupiter

関心領域 75点
2024年6月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:クリスティアン・フリーデル サンドラ・ヒュラー
監督:ジョナサン・グレイザー

 

興味のあった作品なので、チケット購入。

あらすじ

ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とヘートヴィヒ・ヘス(サンドラ・ヒュラー)の夫妻は、多くの子どもたち、そして召使いとともに郊外で幸せに暮らしていた。しかし、家のすぐ隣にあるのはアウシュビッツ収容所だった・・・

 

ポジティブ・サイド

まるで『 2001年宇宙の旅 』を思わせるオープニング。真っ黒の画面に音だけがあり、そこからしばらくして幸せいっぱいの家族の場面へ。状況説明してくれるようなナレーションや説明のスーパーインポーズも一切なし。ただ淡々とヘス一家の暮らしぶりを描いていく。

 

ドイツ軍の将校であるヘスは中間管理職を務めるサラリーマンさながらに職務に精勤し、家族サービスも忘れない。一方で男として共感できない(あるいは非常に共感できる)一面も持っており、否応なしに血肉の通った人間として描かれている。それゆえに一切映されることのない塀の向こうの収容所およびそこにいる人々への想像を掻き立てられる。序中盤では特に背景にうっすらと煙が立ち上っていることが多く、生理的な嫌悪感を催さずにはおれない。

 

本作にはBGMがほとんどないが、たまに聞こえてくる音楽それ自体がホラーである。特にエンド・クレジットのBGMは『 GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 』の「謡」、または『 ウィッチ 』のエンド・クレジットのBGMをもっと不気味にしたものと言えば伝わるだろうか。新しいホラー映画の形態と言えるのかもしれない。

 

最後の最後に左フックをチンにきれいにもらったかのような衝撃を受けた。この作品を観ているあなたも、結局はこの歴史を「鑑賞」または「消費」しているんでしょ?と言われたかのように感じられた。そして、そのことを否定できる現代人もほとんどいないのではないだろうか。

ネガティブ・サイド

あの白黒でところどころ出てきた女の子は誰だったのだろうか。『 ジョジョ・ラビット 』におけるエルサのようなものだろうか。何かもう少し明示してくれるような映像が欲しかった。

 

あのおばあちゃんが出て行った真相は?これももう少し何かヒントが欲しかった。

 

総評

一言、怪作である。ヘス一家の何気ない(ことはないシーンもあるが)数々の日常を映し出しながら、観る側に不安や嫌悪、恐怖を催させる手法にはお見逸れしましたと言うしかない。『 落下の解剖学 』のサンドラ・ヒュラーも印象に残ったが、それ以上に本作での犬(ラブラドール・レトリーバー?)の演技が光っていた。年末には犬に Supporting Role of the Year を贈るかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント独語レッスン

アウフヴィーダーゼーエン

ドイツ語で「さようなら」の意。劇中ではほとんど「ヴィーダーゼーエン」という形で発話されていた。英語でも Good bye はフォーマルかつ、ちょっとシリアスに聞こえかねない時があるので、しばしば Bye とか Bye now とうちの同僚たちは言っている。ドイツも語もおそらく同じような理由でアウフを省いていると思われる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 バジーノイズ 』
『 あんのこと 』
『 かくしごと 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, イギリス, クリスティアン・フリーデル, サンドラ・ヒュラー, ポーランド, ホラー, 伝記, 歴史, 監督:ジョナサン・グレイザー, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 関心領域 』 -歴史は繰り返すのか-

『 ミッドナイト・イン・パリ 』 -劇場鑑賞-

Posted on 2024年5月2日 by cool-jupiter

ミッドナイト・イン・パリ 75点
2024年4月28日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞

出演:オーウェン・ウィルソン レイチェル・マクアダムス マリオン・コティヤール レア・セドゥー
監督:ウッディ・アレン

 

『 ミッドナイト・イン・パリ 』が劇場にて再上映ということでチケット購入。

あらすじ

脚本家のギル(オーウェン・ウィルソン)は婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)とその両親と共にパリに旅行に来ていた。深夜のパリで偶然に乗り込むことになったクルマは、なんとギルを1920年代のパリに連れて行き、多くの歴史上の作家や芸術家と交流することに。それ以来、ギルは夜な夜なパリの街に繰り出しては、不思議な時間旅行に出かけて・・・

ポジティブ・サイド

『 マリの話 』の高野徹監督はホン・サンスから多大な影響を受け、そのホン・サンスは韓国のウッディ・アレンと呼ばれることもある。インテリ男性が女性と恋に落ちるが、なんだかんだで失恋してしまう。男の願望と現実が絶妙にブレンドされた作品を産み出すのがウッディ・アレン。そのストーリーテリングの妙味は本作でも遺憾なく発揮されている。

 

ポールとギルを通じて知識と教養の違いが明らかにされている。すなわち前者はそれ自体を蓄積するもの、後者はそれを使って仕事や趣味を充実させるもの。ギルの文学者や芸術家への憧憬があり、それが彼の葛藤にもなっているが、逆にそれによってパリを堪能できている。対するポールはパリを解説するばかり。男たるもの(という表現は不適切かもしれないが)、ギルのように生きたいものだ。

 

不思議なタイムスリップをしながらも「黄金時代症候群」は現代特有の病ではなく、いつの時代の文化人も罹患した、ある意味で普遍的な病理だったということが分かる展開は秀逸。

 

Jovian妻は冒頭から最終盤まで、パリの街を堪能したとのこと。以前に一人旅をした時にあちこちを歩いたことがあり、映画のままのパリを思い出したという。俺もパリジャンの友達にいつか会いに行きたいなあ。

 

ネガティブ・サイド

何回観てもレイチェル・マクアダムス演じるイネズが必要以上に不愉快なキャラに見えてしまう。もっと普通の、もっと stereotypical な嫌な女でよかったのに。何故にここまで不快な女性に仕立ててしまったのだろうか。 

 

総評

暗転した劇場、大画面、大音響で鑑賞するだけで物語の面白さが一割増しになる気がする。DVD鑑賞時は70点だったが、77点に感じられたので75点としておく。中年カップルや女性のおひとりさまが多く、総じて客層は良かった。ゴールデンウィークのデート・ムービーにぴったり・・・かどうかは結婚しているかどうかによる。未婚向けか既婚向けかは、実際に鑑賞して感じ取ってほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

by day, by night

アドリアナの台詞に “I don’t know if Paris is more beautiful by day or by night” のようなものがあった。by day と by night はしばしばセットで使用される。意味は「昼は、昼に」と「夜は、夜に」だが、対称性を表現したい時に使われることが多い。

He is Bruce Wayne by day and Batman by night. 
彼は昼間はブルース・ウェインで夜はバットマンだ。

のように使う。He is Bruce Wayne during the day and Batman at night. と言ってもいいが、あまりナチュラルには感じない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 貴公子 』
『 ザ・タワー 』
『 キラー・ナマケモノ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, オーウェン・ウィルソン, スペイン, ファンタジー, マリオン・コティヤール, レア・セドゥー, レイチェル・マクアダムス, 監督:ウッディ・アレンLeave a Comment on 『 ミッドナイト・イン・パリ 』 -劇場鑑賞-

『 存在しない時間の中で 』 -本邦SFの佳作-

Posted on 2024年4月21日 by cool-jupiter

存在しない時間の中で 70点
2024年4月18日~2024年4月20日にかけて読了
著者:山田宗樹
発行元:角川春樹事務所

 

最寄り駅のエキナカの書店で購入。

あらすじ

天山大学のカピッツァ・クラブの発表会に闖入者が現れる。彼はホワイトボードに長大な数式を書き残し、忽然と姿を消した。その数式を解析したところ、この世界は別次元の世界の影であること、すなわち世界は上位の存在によって作られたものであるということが示唆されて・・・

 

ポジティブ・サイド

久々に論理の面白さを堪能できる作品に出会えた。物語の設定としては山本弘の『 神は沈黙せず 』に近いし、途中で起こる超常現象はどうしたってグレッグ・イーがんの『 宇宙消失 』を思い起こさせる。著者もある程度意識して書いたことだろう。

 

本作の本筋というかユニークな面はカピッツァクラブの面々よりも人間の精神世界、もっと言えば宗教観や死生観を色濃く反映する莉央のパートにあると感じた。政界宗教汚染なるコラムが注目を集める一年も前に本書が刊行されていたことが著者の炯眼を物語っている。人間は論理で割り切れるものを信じて、論理で割り切れないものは受け入れないという生き物ではない。マス=大衆が人生に意味を見出せなくなったときのシミュレーションとしてよくできている。

 

最後は映画『 インターステラー 』的に着地するのかなと予想していたが、きれいに外れた。なるほどなあ、広げた大風呂敷をうまく畳むにはこれが最善か。この世界も実は『 イエスタデイ 』みたいに出来ていて、「存在しない時間」を生きた人がいるのかな・・・と感じた。預言者とは実はこうして生まれてきたのかな?などとあらぬことも少し考えさせられた。

 

ネガティブ・サイド

序盤に第四の壁を超えて語り掛けてくるページがいくつかある(「以下の数理的な説明は難しければ読み飛ばしていいよ」的なもの)が、これは結構ノイズだと感じた。また、次元についての説明が不足しているとも感じた。次元とは方向のことで、たとえば虚数も実数とは別方向に伸びている数列だと明らかになっている。このあたりの次元の説明をもっとかみ砕いた形で提示してくれていれば、もっと readability が上がったはず。

 

総評

小川一水の短編『 幸せになる箱庭 』を思いっきり換骨奪胎すると本作になるのだろう。10次元だとか26次元だとか非可換幾何学だとかポアンカレ予想によると宇宙がドーナツ型だとか、宇宙は必然なのか偶然なのかますます分からなくなってきている。万が一、宇宙が被造物だと判明した時の心の準備のために本作を一読しておくのも一興だろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

nonexistent

科学もしくは形而上学の文献ではしばしば目にする表現。

Extra terrestrial intelligence seems to be nonexistent in the universe. 
地球外知性は存在しないようである

のように使う(実際は存在するだろうが、我々が観測可能な時間と空間にはいなさそう)。本書が英訳されるとすればタイトルは In Nonexistent Time となるだろうか。あまりに直訳すぎるかな。

 

次に読んでみたい書籍

『 6月31日の同窓会 』
『 百年法 』
『 代体 』

 
存在しない時間の中で (ハルキ文庫 や 18-2)

存在しない時間の中で (ハルキ文庫 や 18-2)

  • 作者:山田 宗樹
  • 角川春樹事務所
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Posted in 国内, 書籍Tagged 2020年代, B Rank, SF, 山田宗樹, 日本, 発行元:角川春樹事務所Leave a Comment on 『 存在しない時間の中で 』 -本邦SFの佳作-

『 あまろっく 』 -尼崎市民、観るべし-

Posted on 2024年4月16日 by cool-jupiter

あまろっく 70点
2024年4月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:江口のりこ 中条あやみ 笑福亭鶴瓶
監督:中村和宏

 

尼崎市民としては鑑賞すべきだろうということでチケット購入。

あらすじ

東京でコンサルタントとして働いていた優子(江口のりこ)だったが、理不尽なリストラにより尼崎の実家に戻ってくることになった。自堕落な生活を送っていたところ、父の竜太郎(笑福亭鶴瓶)が20歳の早希(中条あやみ)と再婚すると言う。遥かに年下の義理の母の出現に困惑する優子だったが・・・

 

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

映画の宣伝で江口のりこがあまりにも無気力だったが、実際は頑張って演技していた。中条あやみも標準語の時よりも良い演技を披露できていたように思う。

 

家族とは何か。『 焼肉ドラゴン 』(この舞台は隣町の伊丹。ちなみにこの作品での焼肉の焼き方監修をした人が尼崎で商売をしておられる。山里食品ではない、念のため)でも追究されたテーマで、家族とはそもそも壊れて、新しく生まれる、あるいは作るものだった。

 

本作は65歳の男性と20歳の女性の再婚を通じて、年下の義理の母親はありなのか?適齢期を過ぎても結婚しないパラサイトはありなのか?シングルマザーに支えは必要なのか否か?

こうした新たな問いに一定の答えを出そうというのが本作である。赤の他人の優子と早希の距離が徐々に縮まっていく過程はユーモラスであり現実的でもある。

 

尼崎市民は観ていて楽しめるだろう。Jovianの家の目と鼻の先のうどん屋だったり、散歩コースのすぐ脇の工場が近松鉄工所だったり、魚釣り公園や寺町など、まさにご当地ムービー、おらが町の映画だと感じられた(阪急沿線民には不評かもしれない)。

ネガティブ・サイド

冒頭からいきなり「尼ロックなんか誰も知らんわ!」という台詞が聞かれるが、ホンマかいな。今も昔も尼崎市内の結構な数の小学校が社会科見学で尼崎閘門に行っているはずなのだが。

 

工場でとあるアクシデントが起きるが、工都・尼崎の工場職人がこんな杜撰なことをするんかな?ちょっと無理のある脚本に思えた。

 

ブランクが何年もあるはずの優子がいきなり第一線のコンサルタント然として話し出すシーンには違和感ありあり。普段から経済ニュースや経済紙に目を通していたという描写があれば、少しは説得力も生まれるのだが。

 

2018年の台風を元ネタにしたと思しきシーンがあるが、地元民としては少し複雑。尼ロックが水害を防いだのは確かだろうが、あの時はとんでもない暴風被害が出て、杭瀬の工務店のおっちゃんが「2か月で3年分の仕事量や!」と特需を享受していた。フィクションだと思えばいいのだろうが、だったら阪神淡路大震災を持ち出すのもやめてほしかった。

 

『 ハルカの陶 』でも思ったが、地理がめちゃくちゃ。まあ、突っ込んでも意味がないんやけどね。ただJR沿線民と阪神沿線民は楽しいはず。

 

総評

実際は60点だが、地元民のよしみで10点おまけしておく。某映画サイトでやたらと高評価されているが、これは兵庫県民、特に尼崎市民が先行上映を観て星を与えていることに注意されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

complete strangers

「赤の他人」の英訳。他にも total strangers という表現もある。劇中では「あんたと私は赤の他人や!」というのがあったが、英語だと You and I are complete strangers! となるだろうか。間違っても red strangers とは言わないように。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 貴公子 』
『 ブルックリンでオペラを 』
『 ゴジラxコング 新たなる帝国 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 中条あやみ, 日本, 江口のりこ, 監督:中村和宏, 笑福亭鶴瓶, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 あまろっく 』 -尼崎市民、観るべし-

『 マリの話 』 -Boys be romanticists-

Posted on 2024年3月11日 by cool-jupiter

マリの話 75点
2024年3月9日 シネ・ヌーヴォにて鑑賞
出演:成田結美 ピエール瀧 松田弘子
監督:高野徹

アソシエイト・プロデューサーの一人が大学の卒論ゼミの仲間という本作。その同級生は『 Bird Woman 』にもエキストラで出演していたりする。彼女から鑑賞を依頼されチケット購入。

 

あらすじ

映画監督の杉田(ピエール瀧)は夢の中で理想の女性に出会う。ある夜、自分の夢の中の女性が目の前に現れた。意を決した杉田はその女性マリ(成田結美)に自身の映画への出演を依頼するが・・・

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

本作は上映時間60分という異色のオムニバス構成。そのエピソードの一つ一つが絶妙なバランスで結びついている。上映後の監督あいさつで最初に第4章を独立した一つの作品として仕上げたものの、それだけでは背景が不足するということから、残りの1~3章を作り上げたとのこと。

 

第1章「夢の中の人」ではスランプの映画監督が、夢に見た理想の女優が目の前に現れたところから始まる。監督と女優という距離感が徐々に男と女のそれへと縮まっていくペースが絶妙。高野監督自身「ホン・サンスはかなり意識した」と言っていた通りに、インテリ男が酒の席で美女を口説くシーンはまさにホン・サンス調。ピエール瀧が仕事に行き詰った中年男性のパトスを見事に表現していた。

 

第2章「女優を辞める日」では、女優として活動し始めたマリが監督と本格的な男女の仲になっていく過程が描かれる。といっても生々しいシーンなどはなく、ロマンチックなシーンは海辺のキスぐらい。この章で上手いなと感じたのは、夢か現か幻かを判然とさせない描き方。冴えない中年オヤジが妙齢の美女とベッドインできるか?これもまた夢なのでは?と観る側に思わせるところ。

 

第3章「猫のダンス」はかなり異色。フミコという老女がいなくなった猫を探しているところに、通りかかったマリが手助けをするというもの。そこからいつしか二人は互いの心情を赤裸々に語り始める。この章のラストで描かれるマリとフミコの触れ合いは、まさに二匹の猫のじゃれあい。言葉よりも雄弁に心情を物語る名シーンだった。

 

第4章「マリの映画」は、マリ自身が作成した短編映画。これがマリから杉田への一種のビデオレターになっている。フランスの森で詩を交えて語り合う恋人たち。即物的あるいは身体的にしか女性とつながれない男に比べて、想像力の翼をはためかせる女性という構図のコントラストが映える。

 

上映終了後に監督に「映画監督は、キャラクターを先に考えるのか、それともストーリーを先に考えるのか」と質問させてもらったところ、『今作は第4章から先に作って、そこから残りの章を作った。キャラクターから先に作るかどうかは作家による』という趣旨の答えだった。その後、高野監督のインタビュー記事を見つけたので読んでみると、しっかり「夢の中の人」から構想してるやんけ(笑)と思ってしまった。

 

ロングのワンカットが非常に多く、役者だけではなく録音や撮影のスタッフも相当に監督のわがままに振り回されただろうが、それでもこれだけのクオリティのものが出来上がったのなら納得するだろう。ヨーロッパ風のテイストを前面に出しながら、韓国風でもありつつ。しっかりと日本映画にもなっている。

ネガティブ・サイド

ぶっちゃけキスシーンがイマイチだった。Jovianは『 ロッキー 』で、ロッキーがエイドリアンを自宅に招き入れた時に玄関でするキスのシーンと、『 スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲 』で、ミレニアムファルコン修理時のハン・ソロとレイアのキスシーンが all time best だと思っている。そこまでのインパクトは求めないが、杉田とマリのキスも、もう少しロマンチックにできなかっただろうか。

 

総評

本作を鑑賞してつくづく感じたのは「映画とは自分の美意識」という『 カランコエの花 』の中川駿監督の言葉は本当なのだなということ。高野監督のロマンス観が見事に開陳されている。コンテンツとフォームの両面で非常に上質なので、関西周辺の方は是非シネ・ヌーヴォまでご足労を。TOHOシネマズのような大手はこういう映画こそ一日一回で良いので上映してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

imagination

英語とつづりは同じだが、フランス語の発音はイマジナスィオンに近い。想像力は創造の基本。映画を観て、脚本家や監督がどこからどのように inspiration = アンスピラスィオンを得たのか考察するのも面白いはず。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ソウルメイト 』
『 デューン 砂の惑星 PART2 』
『 梟ーフクロウー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ピエール瀧, ラブロマンス, 成田結美, 日本, 松田弘子, 監督:高野徹, 配給会社:ドゥヴィネットLeave a Comment on 『 マリの話 』 -Boys be romanticists-

『 落下の解剖学 』 -真実を知るは犬のみ-

Posted on 2024年3月9日2024年3月9日 by cool-jupiter

落下の解剖学 70点
2024年3月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ザンドラ・ヒュラー ミロ・マシャド・グラネール スワン・アルロー
監督:ジュスティーヌ・トリエ

 

『 ある閉ざされた雪の山荘で 』は地雷臭がプンプンしていたが、こちらは面白そうだと思ったのでチケット購入。実際にかなり面白かった。

あらすじ

雪山の山荘で視覚障がいを持つダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)は転落死した父親を発見。当初は事故死かと思われたが、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻である作家サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)に疑いがかけられて・・・

 

ポジティブ・サイド

少ない登場人物でミステリーやサスペンスを生み出すのはカトリーヌ・アルレーやボワロー=ナルスジャックが得意としたところでフランス小説のお家芸。そうしたエッセンスは本作にも見られる。

 

注目すべきキャラは息子ダニエル、母サンドラ、弁護士のヴァンサン、検事、そして犬のスヌープ。これだけ。法廷以外のパートで夫の死の真相を暗示するようなシーンなどは見当たらなかったので、本作はミステリーではなくドラマとして見るべきだろう。それも上質な法廷ドラマで、その法廷の弁論の中で、夫婦の確執が次々に明らかになっていく。

 

この二人、元々は国際結婚。ドイツ人妻とフランス人の夫が英語でコミュニケーションを取っているが、そこで交わされる会話から、夫と妻のそれぞれが抱えていたストレスが露になっていく。Jovianは正直、夫にかなり感情移入したが、Jovian妻は終始妻サンドラ側に立って見ていたとのこと。何を言ってもネタバレになるのでこれ以上は書けないが、法廷で録音が再生されるシーンがめちゃくちゃ面白いということだけは強調しておきたい。

 

もう一つ本作で注目すべきは犬。犬にここまでの演技ができるとは驚異的の一語に尽きる。特にとあるシーンで臥せったスヌープがいわくありげな上目遣いをするシーンには震えた。『 落下の解剖学 』というタイトルの落下は、第一義的には夫の転落を指すのだろうが、上から下に落ちたものはそれだけなのか。今は上にあって、これから下に落ちることになるものは何であるのか。そうした視点で本作を鑑賞してみてほしい。

 

解剖学というタイトルの言葉通り、人間、就中、夫婦の内面に鋭くメスを入れる秀作である。それ以上に、事実は一つ、真実は複数。では、それらの真実の中から自分はどれを選ぶのか。ある意味で本作は究極のビルドゥングスロマンとも見なしうるのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

序盤が少々退屈。もちろん夫のDIYや妻のインタビューなど、どれも必要なシーンなのだが、ここをもう少し速いテンポで映し出してほしかった。

 

検事が妻の小説のプロットを持ち出して、殺意の証拠にしようとしたのにはさすがにドン引きした。検察を悪に描こうという意図でもあったのだろうか。悪ではなく暗愚というか

 

総評

法廷ものとファミリードラマのハイレベルの融合。日本社会は、特にネット空間で顕著だが、「疑わしきは罰せず」という原則を忘れているように思う。疑わしい=疑われる方が悪いという理屈で、誹謗中傷が行われるのはいかがなものか。本作はある意味で観る者の法感覚を測る格好の題材であると言えるかもしれない。ぜひ夫婦で鑑賞をどうぞ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

One for the road

劇中では One more for the road. という使われ方をしていた。松本孝弘の楽曲に ONE FOR THE ROADがある。意味は「場を離れる前の最後の一杯」の意。Jovianのオールタイムベストの小説『 星を継ぐもの 』に下のような描写がある。参考にされたし。

Hunt took a cigarette from his case and lit it. “You know,” he said at last, blowing a stream of smoke slowly toward the glass wall of the dome, “it’s going to be a long voyage to Jupiter. We could get a drink down below—one for the road, as it were.”

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ソウルメイト 』
『 マリの話 』
『 デューン 砂の惑星 PART2 』

 

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『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』 -王朝没落前夜の宮廷悲喜劇-

Posted on 2024年2月29日 by cool-jupiter

ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 75点
2024年2月25日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:マイウェン ジョニー・デップ バンジャマン・ラベルネ
監督:マイウェン

ルイ15世の公妾ジャンヌ・デュ・バリーを描く。『 ナポレオン 』でも、ジョセフィーヌという女性との関係からナポレオンを描出したが、映画の世界にも文学に続いて本格的な feminist theory による再解釈の波が到来しているのだろうか。

 

あらすじ

ジャンヌ(マイウェン)は美貌と才覚で娼婦として台頭し、ついには国王ルイ15世の公妾としてヴェルサイユ宮殿に入っていく。しかし、国王の寵愛を受けるジャンヌを快く思わぬ宮廷の勢力もおり・・・

ポジティブ・サイド

まずはプロダクションデザインが素晴らしいの一語に尽きる。というか、本作の撮影のために本物のヴェルサイユ宮殿を使ったというのだから、それは素晴らしいに決まっている。

 

キャスティングも当たり。ローティーンの可憐なジャンヌが天使と見まがうハイティーンに成長、そこからベテラン娼婦のマイウェンになった時には一瞬「アレ?」と感じたが、その熟女ジャンヌが宮廷に召し出され、公妾として宮殿に現われた時には、まさに国王最後の愛人という輝きを放っていた。メイクアップアーティストやヘアドレッサーは本当に素晴らしい仕事をしたと思う。

 

ジョニー・デップもすべてフランス語で好演。このベテラン俳優は濃い化粧の時はヒット、素に近い顔だとハズレというイメージが強いが、今作は『 ギルバート・グレイプ 』以来の当たり役・・・は流石に言い過ぎだが、『 ナポレオン 』を演じたホアキン・フェニックスと同等かそれ以上のフランス為政者としてインパクトを残した。

 

ただ、何といっても本作はルイ15世の最側近、そしてジャンヌの戦友とも言うべき羅・ボルドに尽きる。ジャンヌの教育に余念なく、宮廷内の権力闘争や権謀術数からは距離を置き、ただひたむきに王に忠実であり続ける。『 銀河英雄伝説 』のローエングラムになる前のラインハルトをルイ15世とするなら、ラ・ボルドは間違いなくキルヒアイス。この感じ、分かる人には分かるはず。

 

絢爛豪華なヴェルサイユ宮殿を舞台に少人数での濃密なドラマが繰り広げられる、あっという間の2時間。フランス史に詳しければ歴史や伝記として楽しめるし、仮に詳しくなくともロマンスやヒューマンドラマを堪能できるだろう。ぜひ劇場にて鑑賞してほしい。

 

ネガティブ・サイド

閨房の様子がまったく描かれなかったのは何故だろう。別に行為を映せと言っているのではない。王がジャンヌにどのような類の癒しを求めたのかを純粋に知りたいと感じた次第である。たとえばルイ15世がジャンヌを自分から抱きしめるのか、それともジャンヌに膝枕(フランスでもやるのかね?)をしてもらうのかで、王の抱えているストレスや苦悩が見えてくる。そういうシーンをほんの少しでいいので見たかった。

 

総評

一言、良作。歴史・伝記ジャンルの作品であるが、背景知識がなくても充分に楽しめる作りになっている。全編フランス語(一瞬だけラテン語もあるが)なので、フランスらしさを味わうなら『 ナポレオン 』よりも本作だろう。とにかく多くの人に本作を観て、そしてラ・ボルドと彼を演じたバンジャマン・ラベルネのファンになってほしい。

 

Jovian先生のワンポイント仏語レッスン

N’ayez pas peur

発音としては ネ・エ・パ・プー のような感じ。英語にすれば Don’t be afraid = 怖がらないで、である。劇中で2~3回聞こえたかな。20年ぐらい前に熱心にWWEを観ていた頃、フランス人設定のレスラーがデビュー前にCMでしきりに “N’ayez pas peur.” と言っていて、そこに字幕で Don’t be afraid. と出ていたので、それで覚えていた。あの頃はなんでも、いくらでも頭に入ったのだが・・・

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜明けのすべて 』
『 ソウルメイト 』
『 落下の解剖学 』

 

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