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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: B Rank

『 ブラインド 』 -韓流サスペンスの秀作-

Posted on 2019年9月30日 by cool-jupiter

ブラインド 75点
2019年9月25日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:キム・ハヌル
監督:アン・サンフン

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『 見えない目撃者 』は文句なしに逸品であった。リメイクとは原作が面白いから作られるわけで、ならば本作の面白さは観る前から保証されていたとも言える。事実、日本版とはかなり異なるが、どちらも面白さを保っている。

 

あらすじ

 

警察学校を卒業したミン・スア(キム・ハヌル)は、孤児院で育った弟的存在のドンチョルを交通事故で死なせてしまい、自身も失明してしまう。それから3年。ある時、乗り込んだタクシーが人身事故を起こしてしまうのに遭遇。だが運転手は犬をはねたと言うばかり。追及するスアを置いて、運転手は逃走する。スアは警察に事件を報告するも、警察はなかなかまともに取り合わず・・・

 

ポジティブ・サイド

日本版とは異なり、こちらは最初から犯人が分かっている。それによって生み出されるスリルとサスペンスも上質である。狂信者ではなくサイコパス。殺すことに外在的な理由は不要。そして暴力性も日本版の犯人よりも上。怖さもこちらが上である。一般論だが、バイオレンスにおいては韓国映画は邦画の上を行っている。

 

また主役のスアの描写も素晴らしい。聴覚だけではなく嗅覚や触覚もフルに使って周囲の情報を手に入れ、分析し、自分のものにする。その説明的な描写が説明的でありすぎず、かといって些細でもありすぎず、ちょうど良い塩梅である。そして触覚。盲導犬のスルギとの触れ合いがふんだんに描写され、彼女の第一のパートナーはスルギであるということがよくよく伝わってくる。日本版では母親と一緒に暮らしているなつめが、母親よりもパムを気にかけてしまうところに少し違和感を覚えてしまったが、オリジナルはそこのところをよく分かっている。

 

クライマックスの暗闇の中での逃走劇と反撃も素晴らしい。目が見えないというハンディキャップをアドバンテージに変えてしまった秀作に『 ドント・ブリーズ 』があるが、スアの嗅覚が冴え渡るシーンに息を飲みつつもニヤリ。日本版も生姜焼きを当てるくらいなら、なつめの五感を活かした演出をもっと設けるべきだった。最後の対決の舞台が孤児院であることに意味があるという点では、オリジナルの勝ち。スアが犯人を倒すシークエンスのサスペンスは日本版の勝ちか。全体的には甲乙つけがたい出来である。

 

ネガティブ・サイド

目撃者の少年ギソブが犯人に狙われ、襲われてしまったところから捜査とスアの警護に加わる流れがやや説得力に欠ける。未成年の少年の無鉄砲さと、警察官に対してうっすらと抱いていた信頼と正義への期待、そういったものがあまり見せられないままに、ギソブが巻き込まれていく描写が弱い。ギソブの友達の存在はむしろ不要で、一人さびしい少年の設定の方がよかった。

 

犯人の設定にも少し不満が残る。産婦人科医で堕胎手術の専門家ということだが、普通の外科医で良かったのでは?またこの犯人がギソブを殺さずにおく理由も見当たらない。刑事を刺した後には余裕綽々デ身だしなみをチェックしていたのに、ギソブに関してはそうはならなかった。これはご都合主義だろう。また言及する順番が前後したが、刑事の死に様にも不満が残る。この点では日本版リメイクの圧勝である。

 

総評

『 見えない目撃者 』のクオリティの高さから、本作にも再び注目が集まるだろう。どちらにも良さがあり、どちらにも弱点があるが、それは個人の好みによってポジティブにもネガティブにもなりうる。韓流映画のバイオレンスが苦手だという人を除けば、本作はカジュアルな映画ファンにもハードコアな映画ファンにもお勧めできる逸品である。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

アラッソ

 

色々と韓流を見ていると、同じフレーズが同じような場面で使われていることに気づく。それがこの「アラッソ」である。意味は「分かった」である。外国語学習をしていて、自分は初級の殻を破りつつある、あるいは破ったと言える人は、まず辞書を脇に置くべし。そして、読む、あるいは聞くことに集中して、何度も何度も現れてくる表現の意味を文脈から類推しよう。Jovianの指導経験から、すぐに辞書を引く人は伸びない、ということが言える。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, キム・ハヌル, サスペンス, 監督:アン・サンフン, 配給会社:ブラウニー, 韓国Leave a Comment on 『 ブラインド 』 -韓流サスペンスの秀作-

『 見えない目撃者 』 -韓国映画のリメイク成功例-

Posted on 2019年9月29日2020年4月11日 by cool-jupiter

見えない目撃者 75点
2019年9月23日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:吉岡里帆 高杉真宙 大倉孝二
監督:森淳一

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吉岡里帆主演の『 パラレルワールド・ラブストーリー  』は文句なしに駄作だった。なので『 音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!! 』はスルーさせてもらった。今回もスルー予定だったが、結果的にチケットを買ってよかった。

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あらすじ

浜中なつめ(吉岡里帆)は配属直前の警察官。しかし弟を補導した帰りに、事故を起こして、弟は死亡、自身も視力を失ってしまう。それから3年。とある車の接触事故の場に居合わせたなつめは、車内から助けを求める少女の声を聞く。だが警察は視覚障害者のなつめの言うことをまともに取り合わない。なつめは独自に接触被害にあったスケボー少年の春馬(高杉真宙)に会うが・・・

 

ポジティブ・サイド

これは近年の邦画(韓国映画のリメイクだが)サスペンスの中では出色の出来映えである。現代日本社会の闇を浮かび上がらせつつも、単なる社会派としてだけではなくミステリ要素あり、スリラー要素ありと、非常に野心的な作品に仕上がっている。

 

個人的には事件を追う刑事たちと夏目と春馬の民間人ペアのチームワークが見どころだった。暇があれば靴磨きに余念がない定年間近でやる気のないベテランと、メンドクセーという空気を醸し出す中年刑事が、徐々に吉岡演じる盲目女性とスケボー少年ペアと chemistry を起こしていく展開の見せ方が上手い。特に非行少年の春馬が成り行きから捜査に加わり、犯人に狙われ、これ以上は深入りするなと言われながらも警察となつめに協力していく様は、物語のサブプロットでありながらも、最終的には春馬自身のビルドゥングスロマンにつながっていく。この脚本は見事である。

 

このリメイクはオリジナルよりもミステリ要素が強めである。というよりも、オリジナルは完全なるサイコ・サスペンスだが、森淳一監督は松本清張的な社会派ミステリ要素を加えてきた。そして、それが奏功している。例えば『 チワワちゃん 』は本作のようなストーリーをたどって、本作のような犯人に殺されたとしても不思議はなかったのである。そして、そのことが単なるニュースとして消費されるような社会に我々は現に生きている。日本という国の近現代の歴史の大きな一面は都市化だった。綾辻行人がしばしば指摘することであるが、都市という空間では人間は基本的に他者に無関心である。より正確に言えば、社会の規範から外れた者に無関心である。それは時に家出少女であり、非行少年であり、障がい者であり、特殊な嗜好の持ち主である。本作が社会派たり得ている理由はこれだけでもお分かり頂けよう。

 

だがエンターテインメント性も忘れてはならない。本作はサスペンス要素がてんこ盛りである。過剰とも思えるほどに主人公およびそのパーティーメンバーに危機が訪れる。そして物語の中で、上手く小道具を使い、危機をくぐりぬけていく。特にクライマックスのシークエンスは見事の一語に尽きる。このアイテムを使って何かをするだろうな、ということは観ている時からすぐに分かるが、その使い方が素晴らしい。

 

本作で主演を張った吉岡里帆はJovianの中では redeem された。Shawshank Redemption and Rita HayworthならぬShawshank Redemption and Riho Yoshiokaである。光を失いながらも、その他の感覚研ぎ澄ませ、警察官ではなくともその身は軽く、頭脳も明晰。そして、一度は失ってしまった弟を再び失うことはすまいと、自らの信じる正義に愚直なまでにその身を投じていく様に、女優としての階段を着実に一歩上ったという印象を受けた。満腔の敬意を表したいと思う。

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ネガティブ・サイド

盲導犬パムとなつめの触れあいの描写が不足している。原作と違い、失明後も母親と暮らしているにもかかわらず、犯人に襲われ、病院で目覚めた後に真っ先にパムを気遣うのがやや腑に落ちなかった。もちろん、失明している人間には盲導犬が最高のパートナーであることは分かるが、その間に培われてきた絆の描写がもう少し欲しかった。

 

そして、上の流れにつながる流れ、トレイラーにもあった電車のシークエンスはサスペンスフルではあるが、論理的に考えればご都合主義以外の何物でもない。なつめがどこの駅で降りるかなど、分かりようがないのだから。サスペンスが途切れないのが本作の最大の長所であるが、この点だけは劇場鑑賞中に???となってしまった。

 

クライマックスのとある豪邸でのシークエンスでも、オリジナルではライターが小道具として有効に機能していたが、今作ではスマホのライト機能を使っていた。これも時代に合わせた変更であろうが、それにしても本来光で照らされているべき箇所が、とてもそのようには見えなかった。また、実際に強烈な光を対象に浴びせてしまうと、ある小道具の存在がばれてしまうということもあったのだろう。だが、このような盲目のキャラクターが登場する作品こそ、光の扱いに注意してもらいたい。文字通りの意味での光と闇のコントラストが本作最大のクライマックスで、そこに至る過程は座頭市の決闘さながらのサスペンスを生み出したが、実際とは異なる演出のせいで、またもご都合主義を感じさせてしまった。

 

ポスターについても一言。『 マスカレードホテル 』でも指摘したが、ハードコアな映画ファンやミステリファンの中には、あらゆる角度から情報を収集・分析して、鑑賞に臨む者もいるのである。販促物で犯人を暗示することはご法度である。劇中でも不自然なさりげなさを醸し出すシーンがあるが、一部の販促物と合わせて考えれば、物語の中盤前に犯人にピンと来てしまう。実際にJovianはピンと来た。うーむ・・・

 

総評

弱点・欠陥を抱えた作品であることは間違いないが、劇場の大画面、大音響で鑑賞すれば、そんなものは一瞬で吹っ飛ぶほどの緊迫感溢れるシーンの連続である。『 SUNNY 強い気持ち・強い愛 』が原作韓国映画の換骨奪胎に失敗した轍を、本作は踏まなかった。『 クリーピー 偽りの隣人 』や『 ミュージアム 』よりも面白いと勝手に断言させてもらう。ただ、グロいシーンもいくつかあるので、それに耐性のない人だけは注意を。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Whatever you do, don’t cause me trouble.

 

「何をしようと勝手だが、俺に迷惑だけはかけるな」とは、スケボー少年の春馬の教師の面談の場での発言である。異物排除の論理が日本社会、特に大人の価値観を支配していることを端的に表す言葉である。「何をしてもかまわんが、~~~だけはするな」と言う場合には “Whatever you do, don’t V.”というのが公式のようなものである。

 

Whatever you do, don’t borrow money from him.

Whatever you do, don’t touch my computer.

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, サスペンス, スリラー, ミステリ, 吉岡里帆, 大倉孝二, 日本, 監督:森淳一, 配給会社:東映, 高杉真宙Leave a Comment on 『 見えない目撃者 』 -韓国映画のリメイク成功例-

『 やっぱり契約破棄していいですか!? 』 -英国発のシリアスなコメディ-

Posted on 2019年9月27日2020年4月11日 by cool-jupiter

やっぱり契約破棄していいですか!? 70点
2019年9月23日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:アナイリン・バーナード トム・ウィルキンソン フレイア・メーバー
監督:トム・エドモンズ

 

嫁さんが、「これを観るんや」と、決めたから、秋分の日は、シネ・リーブルへ

 

うむ、秋になると一句詠みたくなる。会心の駄作ができた。

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あらすじ

小説家を志すウィリアム(アナイリン・バーナード)は、全く芽が出ない自分に嫌気が差し、自殺を試みること幾数度。全て失敗に終わった。ある時、橋から飛び降りようとする時に、殺し屋レスリー(トム・ウィルキンソン)に声をかけられる。飛び降りが失敗に終わったウィリアムはレスリーに自分の殺しを依頼する。だが、出版社のエミリー(フレイア・メーバー)から出版のオファーが入る。ウィリアムスはながらうべきか、死すべきか・・・

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ポジティブ・サイド

まず自殺未遂7回というところからして面白い。イギリスの八切止夫である。違うのは、八切はゲイで、ウィリアムはストレートというところ。だが、どちらもペシミストであることに変わりはない。

 

漫画『 沈黙の艦隊 』でライズ保険のエグゼクティブが「イギリスでは物事を決めるのはランチタイムと決まっている」とクールに言い放つシーンがあるが、本作もその通りに、ウィリアムはランチタイムにレスリーに自身の殺しを依頼する。そのオプションも笑えるし、レスリーが属する殺し屋のギルドの在り方も笑えてしまう。まるで、赤帽か何かの組合のようだ。

 

いったんレスリーが仕事にかかると、この好々爺は確かに凄腕の殺し屋であることが分かる。そして、殺人という職務に忠実で誇りすら感じているプロフェッショナルであることも分かる。まるで、漫画『 HUNTER×HUNTER 』でコムギを誤爆してしまったゼノのようである。つまり、それぐらい凄みを感じさせるということである。

 

主演のアナイリン・バーナードは、どこかイライジャ・ウッドを思わせる英国産アクターで、気弱な男よりも悪役が似合いそうに思う。ハリウッドのB級アクション映画で、ブリティッシュ・イングリッシュを喋るヴィランとして出て来て欲しい。

 

ヒロインのフレイア・メーバーは、絶世の美女というわけではない(失礼!)が、街中で見かけたら、目の保養にしてしまいそうである。シネ・リーブル梅田で上映していた『 モダンライフ・イズ・ラビッシュ ロンドンの泣き虫ギタリスト 』はスルーしてしまったが、DVDはいつかチェックしてみたい。リリー・ジェームズともキーラ・ナイトレイとも違う、正統派英国美女である。

 

だが、本作で最も光っているのはレスリーの妻だろう。長年連れ添った夫に愛情を注ぎ、夫の退職を甲斐甲斐しく祝おうとし、そして殺し屋の妻としての胆力も兼ね備えている。嫁にするならば、このような女性である。このような妻を持てた男は果報者である。レスリーに幸あれ。そしてウィリアムにも幸あれ。

 

ネガティブ・サイド

殺し屋ギルドが当初はジョークとして機能していたが、ストーリーが進むにつれて、笑うに笑えない組織になってきた。ビジネスとしての殺しと、ビジネスとは無関係の殺しを峻別するのは、殺し屋本人の葛藤に任せて。組織としては粛々と失敗したものを粛清あるいは強制引退させればよかった。そうでなければ、暗殺者の集団をまとめ上げられないだろう。

 

ラストシーンに、もう少し捻りを効かせることはできなかったのだろうか。せっかくのコメディックなシーンなのに、笑うに笑えない終わり方である。元々、このシーンはフレイア・メーバー不在だったからである。彼女がその場にいることで、このエンディング・シークエンスがもっと悲劇的に、もしくは喜劇的にならなければならなかった。ただ、彼女がその場にいるだけで終わってしまったのは、何とも anticlimactic だった。

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総評

本作はBGMの面でも光っている。エドガー・ライトのように音楽をして語らしめるのが、この監督の手腕なのだろう。秀逸なブラック・コメディであり、ライトなラブロマンスでもあり、お仕事ムービーでもある。ブラック・コメディ好きなら、観ても決して損はしない。保証する。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Tell me about it.

 

直訳すれば、「それについて教えて」であるが、実際の意味は正反対で、「言われなくても知ってるよ」である。ネイティブにしか通じない表現なので、グローバル・イングリッシュを使う人は注意が必要かもしれない。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アナイリン・バーナード, イギリス, トム・ウィルキンソン, ブラック・コメディ, フレイア・メーバー, 監督:トム・エドモンズ, 配給会社:ショウゲートLeave a Comment on 『 やっぱり契約破棄していいですか!? 』 -英国発のシリアスなコメディ-

『 HELLO WORLD 』 -安心の野崎まどクオリティ-

Posted on 2019年9月25日2020年4月11日 by cool-jupiter

HELLO WORLD 70点
2019年9月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:北村匠海 松坂桃李 浜辺美波
監督:伊藤智彦

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Jovianは野崎まどのファンである。メディアワークスが出している作品はすべて読んだ。『 2 』を除けば、一番のお気に入りは『 小説家の作り方 』である。氏のテーマは一貫している。人間の姿をした人間以上の存在である。そのことを念頭に置いておこう。

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あらすじ

2027年の京都。堅書直美(北村匠海)の前に、10年後の未来からやってきた自分、ナオミ(松坂桃李)と共に一行瑠璃(浜辺美波)に迫っている落雷事故を回避することを目指すが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 二ノ国 』という超絶駄作の超絶クソ voice acting の後なので、ある程度は評価が上方修正されているかもしれないが、北村も松坂も浜辺も及第以上の声の演技をしていた。特に浜辺美波はJovianの贔屓目も入っているが、渡辺徹のようにナレーション業も頑張れば行けそうだ。頑張って欲しい。

 

トレイラーの段階から「この世界は全部、データだった」という直美の独白があるので、その設定そのものに驚く必要はない。我々が本当に観たいのは、【 この物語(セカイ)は、ラスト1秒でひっくり返る 】ところなのである。そして、これから本作を観ようとする諸賢におかれてはご安心されたい。ちゃんとひっくり返ってくれる。厳密にはラスト1秒というわけではないが、怒涛のコンビネーション・ブローを観る側の脳に叩き込んでくれる。

 

これは言葉の正しい意味でのSFである。アニメ作品としては『 イブの時間 劇場版 』に並ぶクオリティである。SFとは何か。人類と文明の関係性を描くフィクションである。アニメとは何か。手塚治虫に言わせれば、「物語が先に存在して、それを伝えるために絵が動くもの」である。その意味では本作は実に正統派のSFアニメである。我々が生きているこの世界が実はデータだったというのは、『 マトリックス 』以来、手垢のついたテーマではあるが、だからこそドンデン返し = big twist に挑戦してみたくなる分野でもある。繰り返すが、本作にはしっかりとしたドンデン返しが存在する。期待して欲しい。

 

本作に採用されている様々なガジェットやキャラクター造形、ショットの構図などは、優れた先行作品の影響を色濃く受け継ぐものである。まずは敵の量産型キャラクター。これは『 BLAME! 』のセーフガードを思い起こさせてくれた。つまり、非常に不気味で、恐怖を感じさせてくれた。それらが最終的にはミラクル卵の最終形態になり、シシ神のデイダラボッチバージョンになり、エヴァンゲリヲンにもなった。これは大迫力だった。エージェント・スミスがこれをやっていたら、彼の名作は更に名作の誉れ高くなったのか、一気に駄作に堕ちてしまったのか、どちらだろうか。

 

物語世界とキャラクターの真実については、アニメではないが映画化されそうでされなかった(できなかった)小説『 ループ 』が思い浮かんだし、ちょっと古い映画で言えば『 13F 』も下敷きにあったのかな。またこうした一種の入れ子構造の作品としては『 イグジステンズ 』や『 トロン 』、『 主人公は僕だった 』や『 ルビー・スパークス 』なども思い起こされた。それでいて、オリジナリティある作品に仕上がっているという、そのこと自体が最も素晴らしい点であると言えるかもしれない。伊藤智彦監督に拍手!

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ネガティブ・サイド

ストーリーテリングや世界観の構築の面では素晴らしいが、一方ではグラフィック面に大きな課題を残した。特に物語が舞台を文字通り大きく様変わりさせるシーンのグラフィックは、そのまんま『 2001年宇宙の旅 』の劣化バージョンである。というよりも、あからさまに『 LUCY/ルーシー 』(監督:リュック・ベッソン)をパクっているとしか思えないものもあった。オマージュとパクリは似て非なるものである。これらのシーンに関しては、製作者側のリスペクトが感じられなかった。そこが残念である。邦画に似せるとオマージュ、外国産の映画に似せるとパクリという判断をJovianはどうやらしているようである。

 

トレーラーにもあった街が崩壊していくビジョンは、まんま『 インセプション 』と『 ドクター・ストレンジ 』だった。もっと独創性ある映像を作って欲しかった。

 

あとは、男女が恋に落ちるプロセス、あるいは恋愛感情を自覚するプロセスに、もう少しオリジナリティが欲しい。多くのアニメ作品では身体、特に特定部位の接触が契機になることが多いように思われるが、そのようなclichéからはそろそろ卒業すべきではないだろうか。近年でも『 夜は短し歩けよ乙女 』や『 打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか? 』などが、まさにこうした手法を使っていた。もっと『 耳をすませば 』のような、ピュアで、それでいてロマンティックな関係性を、宮崎駿以外のクリエイターも描けるはずだ。もっと受け手を信頼すべきだし、あるいは作り手が受け手を啓蒙してやるぐらいの気概を持ってもいい。

 

総評

アニメ作品としては、個人的には年間ベスト級であると感じる。ただし、かなり人を選ぶ作品だろう。関西人、特に京都にゆかりのある人は、「これはあそこだ」、「ここは、あれだな」という見方を楽しめる。ただし、関西弁原理主義者(若い世代にはいないと思うが)の方にはお勧めできない。京都弁などは微塵も出てこない。また、ある程度のSFの素養も必要だろう。野崎まどファンなら、見逃すべきではない。 

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Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I did it.

 

「やってやりました」= I did it. である。何かを行って、そのことを誇らしく思うのなら、こう言おう。相手が何か素晴らしいことをやってくれたなら、“You did it.”と言おう。ただ、この do it という表現には落とし穴もある。しばしば、does itという形で、「~~が悪い」、「~が元凶だ」のような意味になる。Wedding is fine. It’s living together that does it. 結婚は問題ない。悪いのは一緒に住むことだ、のようになる。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, SF, アニメ, 北村匠海, 日本, 松坂桃李, 浜辺美波, 監督:伊藤智彦, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 HELLO WORLD 』 -安心の野崎まどクオリティ-

『 エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ 』 -学校教材に適した映画-

Posted on 2019年9月23日2020年4月11日 by cool-jupiter

エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ 70点
2019年9月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:エルシー・フィッシャー ジョシュ・ハミルトン
監督:ボー・バーナム

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オバマ前アメリカ大統領が2018年のfavorite movies に挙げた内の一本。『 ブラインドスポッティング 』や『 ブラック・クランズマン 』、『 ビールストリートの恋人たち 』などの系列の一本と書くと、「え?」と思われるかもしれないが、アメリカ(に代表される先進国)における“分断”は人種の間にだけ生まれているわけではないのである。

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あらすじ

ケイラ(エルシー・フィッシャー)は8年生。何らかのトピックについて自分の意見を語る動画をYouTubeにアップしているが、閲覧回数は全く伸びない。そして学校でも、“学年で最も無口な生徒”賞を頂戴してしまう。ひょんなことから学校一の美少女の誕生日パーティーに招かれたケイラは、自分を変えようと意を決してパーティーに出席するが・・・

 

ポジティブ・サイド

まるで『 スウィート17モンスター 』の低年齢バージョンである。コミュ障気味というか、自意識過剰な女子の物語であると言えば、概要はお分かり頂けよう。ただし、ヘイリー・スタインフェルド演じるネイディーンは内に溜めこんだマグマを周囲の人間に対して爆発させる痛いタイプの女子だが、こちらのケイラは内に溜めこんだマグマを不特定多数無限大(梅田望夫風に言えば)に向けて爆発させ、空回りするタイプ。ここに本作の特徴がある。つまり、人間関係の本質が、テクノロジーの存在とその進歩により、変化しつつあるのだ。

 

そのことは劇中でも若者達によって語られる。高校生とモールでファーストフードを食べながら、どんなアプリを使っているか、いつからそれを使っているのかで、中学生と高校生ですらジェネレーション・ギャップを感じるのだ。況や、オッサンをや。『 マネーボール 』でブラピ演じるビリー・ビーンが愛娘に言う、“Don’t go on the Internet. Watch TV, read newspapers and talk to people.”=「インターネットなんか見るな。テレビを見て、新聞を読んで、人と話すんだ」という台詞が端的に世代間のギャップを表してくれている。ケイラはまさにビリー・ビーンの娘と同世代なのだ。生身の人間関係と同じくらいに、ソーシャル・メディア上での自分の評価を気にしてしまう世代なのだ。

 

もう一つ、これは日本の若い世代を中心に当てはまることでもあるのだが、ケイラは調べ物をする時に即座にYouTubeへ行く。Jovianはそれ自体は悪いことではないと考える。学習に最も重要な要素はタイミングである。知りたい、学びたい、と思った時こそが絶好のタイミング=レディネスである。問題は知りたい、学びたいという対象や内容である。『 パッドマン 5億人の女性を救った男 』で、大阪のとある小学校の性教育の授業について紹介したが、本作でも学校現場の性教育の一端が開陳される。ごく一部ではあるが、正直アホかと思う導入部である。性教育に関してはおそらく二通りしかない。教師、あるいは大人が自身の体験を真摯に語って聞かせてやる。もしくは、極めてドライに男女の身体の解剖生理学を教え込む。これらしかないと個人的には思っている。前者の好例は【 3年B組金八先生5 第21話 】である。特に若い世代に真剣に観て欲しいと切に願う。学校の先生の話は真面目に聞こう。高校生、大学生、浪人生あたりは英会話スクールの先生の話も真面目に聞・・・かなくても別に構わない。

 

Back on track. 劇中でケイラは自分が生身の人間であることを思い知らされるシークエンスがある。ここで我々は、いかに心と体を一致させるのが困難であるかを思い知る。それは子どもだからとか大人だからという問題ではない。月並みではあるが、コミュニケーションとはテクニックやルールではなく、愛情の有無で決まるものなのだ。相手を思いやる心がそこにあるかどうかなのだ。そのことを全編通して不器用に見せてくれた父親のジョシュ・ハミルトンは『 ミッドナイト・サン タイヨウのうた 』のロブ・リグルと同じく、素晴らしい仕事をしてくれた。世代間の分断、男女の分断を乗り越える熱演だったと評したい。

 

ネガティブ・サイド

高校生グループに混じった時に、もう少しケイラが浮いた感じがあれば、彼女が背伸びしようとするところにもっと説得力が生まれたはずだ。特にYouTubeの自分語り動画並みの背伸びを現実世界でやって、そのせいで痛い目を見るというサブ・プロットがあれば、動画のアップロードを止めることに必然性が生まれたと思う。このあたり、やや唐突過ぎるように感じられた

 

最終盤で、美少女キャラに溜まりに溜まったマグマを吐き出すが、これでは足りない。イケメン男子の方にもぶちかましてやる必要があった。これではバランスが悪いし、カタルシスが充分に得られない。「私は生身の人間で、その中には心があるのよ!」という叫びは、クソ女子とクソ男子、両方にぶつけてやらないと片手落ちではないか。

 

エンディングのもうひと押しも弱かった。自分の住んでいた世界の狭さを知って、人生の次のステージに進んでいくという筋立てでは『 レディ・バード 』が先行しているし、率直に言えば『 レディ・バード 』の方が面白さでは上である。

 

総評

正直なところ、エンターテインメント作品としては普通である。『 スウィート17モンスター 』を私立高校向けの視聴覚教材とするなら、こちらは私立中学校の視聴覚教材にちょうど良いかもしれない。娘の扱いに手を焼いているという世の困ったオジさん連中のエールにもなっている作品なので、自分はそれに当てはまると考える諸兄には速めの劇場鑑賞をお勧めしたい。親子関係に自身があれば、ぜひ娘さんも連れて行こう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

out there

 

これが会話でサラッと使えればJovian先生はその学習者を上級と認定する。辞書的には「そこに」、「世の中には」というような意味になるが、実際は文脈などによってもう少し深い意味が生まれる。例えばテレビドラマ『 X-ファイル 』の THE TRUTH IS OUT THERE=真実はそこにある、は辞書的な意味で使われているが、『 摩天楼を夢見て 』のクライマックスでは「セールスってのは現場で学ぶんだ」という現場=out thereで表現していた。本作でもケイラの父が “put you out there”=自分の身を現場に置くことを説いていた。つまり、世の人々のいるところ、世俗に身を置け、という意味である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, エルシー・フィッシャー, ジョシュ・ハミルトン, ヒューマンドラマ, 監督:ボー・バーナム, 配給会社:トランスフォーマーLeave a Comment on 『 エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ 』 -学校教材に適した映画-

『 怪しい彼女 』 -Youth is Short, Walk on Girl!-

Posted on 2019年9月23日 by cool-jupiter

怪しい彼女 75点
2019年9月19日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:シム・ウンギョン
監督:ファン・ドンヒョク

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森見登美彦の小説およびそのアニメ映画化作品の『 命短し歩けよ乙女 』は傑作だった。そして英題は“The night is short, Walk on girl”である。若さもまた短い。知らぬ間に失っているものだ。そして一度失えば二度と手には入らない。だが、もし若返ることができれば?The Fountain of Youthを求めるの古今東西の共通テーマである。老人が若返る映画はブラピ主演の傑作『 ベンジャミン・バトン 数奇な人生 』からライアン・レイノルズ主演の駄作『 セルフレス/覚醒した記憶 』まで数多い。韓流のお手並みはいかに?

 

あらすじ

70代の意地悪ばあさんオ・マルスンは、ある時、青春写真館で写真を撮ってもらう。するとどういうわけか20歳の若さに逆戻り。新生オ・マルスン=オ・ドゥリ(シム・ウンギョン)として新たな人生を歩み出す。そして、彼女の家族や周囲の人間に様々な影響を及ぼして・・・

 

ポジティブ・サイド

なんといってもシム・ウンギョンの熱演、これである。老マルスンを演じたナ・ムニは大阪は鶴橋か、東京なら新大久保または上野にしぶとく生息していそうなサバイバル系パワフルばあちゃんだが、シムは彼女の表情や話し方、仕草、体の使い方などを相当に研究した跡が伺える。『 ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー 』のオールデン・エアエンライクは本作を観て反省するように。もちろん、メイクさんや衣装さんの力が大きかったのは言うまでもない。

 

若さを取り戻せたら、我々は何をするだろうか。ある者は勉強に打ち込むかもしれないし、スポーツに打ち込む者もいるだろう。恋愛にうつつを抜かす者もいれば、旅をして見聞を広める者もいるだろう。共通していることは、やれなかったこと、やり残したことをやってみたいという想いがそこにあるということだ。一個人の過去の苦労話だけではなく、韓国社会の暗部にも光を当てた点が本作の貢献だろう。現に『 主戦場 』でも、韓国の授業的価値観に支配された社会、伝統主義、教条主義的家父長制がミキ・デザキの批判の対象になっていた。だが、これはなにも韓国だけの暗部ではない。『 あなたの名前を呼べたなら 』ではインド社会における未亡人の生き辛さが直接・間接に描かれていたし、『 マイ・ブックショップ 』では英国の事情が、『 今日も嫌がらせ弁当 』では未亡人と男やもめのしんどい生活が(コミカルに)描かれていた。(ただ、日本の場合はどうなのだろうか。女やもめに花が咲く、男やめもに蛆が湧くと今でも言うように、日本において伝統的とされる価値観は戦後、せいぜい遡っても明治大正あたりが起源になるものが相当に多いのではないだろうか。夫婦ではなく女男(めおと)と昔は女性を前に呼称していたわけだから。日本の伝統の闇は浅くて深そうである)。

 

Back on track. マルスンは若かりし頃の夢を追うわけだが、逆に言えば年齢を理由に夢をあきらめる必要などないという高齢者へのエールにもなっているわけだ。さらに推し進めて言えば、年齢を理由に夢をあきらめてはならないという強迫的・脅迫的なメッセージを発している。年齢を重ねるとは、それだけ死に近づくということだ。ハイデガーならずとも、現存在は死にコミットしている。死ぬまでに何をすべきかである。本作は我々にそのことをあらためて考えるきっかけを与えてくれる。

 

もうひとつ、本作が単純に若さを謳歌すること、若さを賛美すること以上に高齢者へのエールとなっている点がある。それはパク氏の存在である。グループホームなどの施設で高齢者同士の恋愛が美しく花開いたり、あるいはとんでもないトラブルになったりすることはよくあるらしいが、このパク氏は一方的な思慕の念を70代になるまで抱き続けた、ある意味で男の中の男である。『 アンダー・ユア・ベッド 』や『 宮本から君へ 』を楽しみにしているJovianからすれば、無限のリスペクトを捧げたいほどの男である。パク氏の愛情に幸あれ。ファン・ドンヒョク監督も同じように感じていたようで、パク氏には素敵なプレゼントが贈られる。楽しみに待ってほしい。

 

本作はラブコメとしても秀逸で、外見はうら若き女子、中身はクソババアというキャラクターが自分の孫に夭折した自分の夫を重ね合わせるシーンが白眉である。ロマンティックでありながらコメディックなのだ。この監督はコメディを手掛けるの初めてらしいが、なかなかの手腕を持っている。今後にも期待。

 

ネガティブ・サイド

音楽のシーンにもう一つ迫力と臨場感が欲しかった。もちろん、音楽映画ではないのは承知しているが、老人ホームのカラオケで老マルスンのライバル的女性がセクシーな歌いっぷりを見せてくれたのだから、若マルスンも負けじと色っぽい歌い方をしてほしかった。年老いた心もときめくのだから、それを体で表現しても良かったように思う。

 

若返りの効果が失われるきっかけの見せ方は良かったが、それによって結末が見えてしまう。不治の病、交通事故、実は血のつながった親子または兄妹というのは韓流ドラマや韓国映画のお約束であるが、さすがにそろそろ別の路線を模索する時期に来ているのではないだろうか。

 

総評

高齢化においては世界ナンバーワンの日本である。老いてますます盛んという言葉があるし、ビューティフルエージング協会も活発に活動している。老いるというのは生理現象であって、そこにネガティブな要素を本来は見出すべきではないのだろう。姥捨て山はおとぎ話であって、しかもハッピーエンディングである。不器用な生き方が祟って、家族に捨てられそうになった老人が、若さを得、そして家族と最終的に和解するという、とてもシリアスなコメディである。日本版リメイクもチェックしようと思うし、ハリウッドリメイクも楽しみである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Did you sleep with him?

 

「アイツと寝たのか?」の意である。日本語でも英語でも、寝るという営みは、生理現象と共に男女の行為を指す意味でも使われている。それは韓国語でも同じだろう。“I want to sleep with you.”や“I don’t want to sleep without you.”と言えるようになれば、英会話スクールは卒業である。こうした言葉をスッと口に出せる関係を作れるほどに、コミュニケーションが取れているということだから。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, コメディ, シム・ウンギョン, 監督:ファン・ドンヒョク, 配給会社:CJ Entertainment Japan, 韓国Leave a Comment on 『 怪しい彼女 』 -Youth is Short, Walk on Girl!-

『 アス 』 -我々の敵とは誰か-

Posted on 2019年9月22日2020年4月11日 by cool-jupiter

アス 75点
2019年9月19日 東宝シネマズ梅田にて鑑賞
出演:ルピタ・ニョンゴ
監督:ジョーダン・ピール

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ジョーダン・ピール監督の『 ゲット・アウト 』は、一部意味不明な描写があったものの、全体的にはギャグとホラーの両方をハイレベルに融合させた傑作だった。ピール監督の意識の根底に人種差別の問題があるのは間違いない。そして、その問題意識は本作にも貫かれているし、この作品はそのように観られるべきだろう。だが、Jovianは直感的には少々異なる見方、分析および考察をした。

 

以下、ネタばれに類する記述あり

 

あらすじ

アデレード(ルピタ・ニョンゴ)は、幼少期に自らの分身を目撃したショックから失語症になってしまった。月日は流れ、彼女は夫と娘と息子と共にカリフォルニアにバカンスにやってきた。しかし、彼女はそこで過去のトラウマがまたしても自分の身に迫っていると予感し、恐怖に怯える。果たして、深夜、家の外に自分たちそっくりの一家が現れて・・・

 

ポジティブ・サイド

冒頭のウサギは異世界への案内人代わりか。『 マトリックス 』でもそうだったが、J・ピール監督は、どのような世界に我々を誘ってくれるのか。

 

ドッペルゲンガーと遭遇する物語で近年の白眉と言えばドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『 複製された男 』だろうか。アデレードたちのもとに現れたアス=私たちは、普通に考えれば地下世界のクローンなのだが、Jovianは彼ら彼女らはインターネット世界のアバター=自分の分身を体現したものなのかと感じた。たいていの人はインターネット上では意見が過激になるし、他者に対して攻撃的な態度に出てしまいがちだ。そして、そんな一部の過激なネット上の声が、現実世界の政治にまで影響を及ぼす。そんなディストピアな世界にまさに我々は住んでいる。同じ国に住まう者が、同じ国に住まう者を攻撃する。アジア系のアメリカ人、ヒスパニック系のアメリカ人、様々なアメリカ人が存在する。『 ボヘミアン・ラプソディ 』でフレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレックはエジプト系のfirst generation Americanであると、自身がオスカー授与式の際に語っていたことを覚えている映画ファンも多いだろう。一方で『 ブラック・クランズマン 』に見られるように、同じアメリカ人でありながらも、白人か黒人かという違いだけで、一方が他方を攻撃の対象にすることもある。また、人種の別に依らず、価値観、信条などでも一方が他方を攻撃することがある。プロライフ派が人工中絶を行うクリニックを爆破する事件(というか犯罪、またはテロ行為)は今でも行われているのだ。また政治的思想もアメリカの分断の特徴である。共和党主義者と民主党主義者で“分断”されるアメリカ=USA=US=Us=アスを、この映画は象徴しているのだろう。現実世界ではトランプ支持の声は決して大きくなかったものの、実はネットではトランプ支持の声が相当にあったという分析もある。まるで梅田望夫が著書『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる 』で2005年の郵政解散での小泉勝利を予見したように、ネット上の言説空間での声は時に現実世界にまで影響を及ぼすのである。

 

こうした穿った、明後日の方向の分析をしてしまうのは、Jovianが日本の現状について問題意識を抱いているからだろう。『 判決、ふたつの希望 』で日本のコンビニ店員さんたちがどんどん外国人労働者になってきていることに触れたが、これは外国人による日本への攻撃なのか。つまり虐げられる、弱い立場にあった者たちが力(それは往々にして経済力と政治的な発言力だ)を持ちつつあることを脅威であると感じることなのか。それとも、外国人との共存を模索する契機とすべき変化なのか。レッドが片言の英語を話すのは、現代日本で問題になっている親の片方が外国人である子どものランゲージ・バリアーのモチーフと見るのはさすがに穿ち過ぎか。いや、オーソドックスな分析や考察は他サイト、他ブログに譲ろう。本当に強調すべきは、本作は実に多様な見方を許容する深みのある作品であるということだ。

 

他に特筆すべきことがBGMのクオリティの高さである。『 ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 』でも重低音の効いた、静かで、それでいて迫力のあるサウンドが魅力的だったが、本作のBGMの重低音は下腹部ではなく背筋に響いてくる感じがする。このサウンドは音響の良い劇場で味わって頂きたいと思う。

 

ルピタ・ニョンゴ渾身の演技。ジョーダン・ピール監督の現実批評とユーモアのセンスのバランス感覚。意表を突くカメラワークもある。決して見逃すことなかれ。

 

ネガティブ・サイド

普通の人間が決して知らない、近づけない地下世界があるという世界観は、既に『 アンダー・ザ・シルバーレイク 』が先行している。また、序盤早々のモグラたたき(Whack ‘em All)は地下に住む存在が顔を出したら、すかさずブッ叩くという世界観の背景を表したものかと思ったが、それを説明または強調する描写や演出はなかった。うーむ・・・

 

アスの長男の撃退が、江戸川乱歩の『 目羅博士の不思議な犯罪 』である。かなり衝撃的なシーンのはずだが、個人的には「おいおい、ここでそのネタかよ」であった。だが、ここは評価が分かれるシーンであろう。たまたまJovianのテイストに合わなかっただけである。

 

父親がユーモラスなのだが、『 ゲット・アウト 』のリル・レル・ハウリーの面白さには到底及ばなかった。同じ監督であっても微妙にトーンの異なる映画であったが、今回の父親はもっと振り切った面白さを表現して欲しかった。アスが家の外で手に手を取っているシーンは、もっとファニーにできただろう。そうすることで、ストーリーの陰陽の反転がもっと鮮やかに感じ取れることができただろう。

 

総評

これは傑作であると言ってよい。『 ゲット・アウト 』とどちらが上かと言われれば、評価は分かれるだろう。一つ言えるのは、ピール監督は、映画でもって現実批評をさせれば、いま最も旬な監督であるということだ。US=アメリカのことだけだと思わずに、この物語現代日本社会に当てはめた時に、どのようなアレゴリーになっているかを考察してみるとよい。きっと様々な仮説が生まれてくることだろう。単なるホラーではない、思考を刺激するホラー映画である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

You gotta be kidding me!

 

マイケル・ルイス著の『 マネーボール:不公平なゲームに勝利する技術 』でビリー・ビーンが他球団のドラフト1位指名を聞いた時に“You fucking gotta be kidding me!”と叫んだとされる。訳書では「ほんとか、おい!」となっている。何か信じがたいこと、冗談だろうと思えるようなことが起きた時に、この台詞を使ってみよう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, ホラー, ルピタ・ニョンゴ, 監督:ジョーダン・ピール, 配給会社:東宝東和Leave a Comment on 『 アス 』 -我々の敵とは誰か-

『 ブラインドスポッティング 』 -見えない自分のアイデンティティを巡って-

Posted on 2019年9月18日2020年4月11日 by cool-jupiter

ブラインドスポッティング 70点
2019年9月15日 大阪ス―ションシティシネマにて鑑賞
出演:ダビード・ディグス ラファエル・カザル
監督:カルロス・ロペス・エストラーダ

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オバマ前アメリカ大統領が選んだ favorite movies of 2018の一つであると鑑賞後に知った。Jovianがオバマ氏は大統領としては功罪相半ばする人物だと今でも考えている。彼の美点はトレイボン・マーティン射殺事件の下手人であるジマーマンへの無罪判決に怒りと悲しみの涙を流せることであり、彼の醜悪な点は『 華氏119 』ミシガン州フリントの水道水汚染に対して必要な手段を講じず、下手なパフォーマンスで逃げ切ろうとしたところだ。だが、オバマ氏の映画鑑賞眼には興味がある。本作はどうだろうか。

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以下、ネタバレに類する記述あり

 

あらすじ

黒人青年コリン(ダビード・ディグス)と白人青年マイルズ(ラファエル・カザル)は11歳の頃からの親友だった。過去のある事件の保護観察期間があと3日で終わろうという夜にマイルズは銃を購入。コリンはそれを煙たがる、その翌日の仕事帰り、コリンは警察官が逃げる黒人男性を射殺するところを目撃する。動揺するコリン。マイルズはそれを茶化す。徐々に、二人の間の盲点が浮かび上がってきて・・・

 

ポジティブ・サイド

オープニングからスクリーンが左右に二分割されている。コリンとマイルズ、二人が見ているオークランドの景色は、実は少し異なっているということが観客に「視覚的に」分かるように作られている。これは面白い試みである。

 

アメリカ社会の抱える問題は至って明白である。差別意識である。いや、意識ではなく無意識と言った方がふさわしいかもしれない。マイルズという男は親友が黒人、嫁さんも黒人という、一見すると人種差別とは無縁な男に映る。しかし、コリンの目撃した黒人射殺事件について、「4発撃たれた」という報道のコメントに「それがどうした? 14発撃ち込まれた奴もいたじゃないか!」と返す。数の問題ではないだろう。相手が抵抗しているわけでもないのに、警告や威嚇射撃もなく、複数回発砲することの是非を考えようとしないのか。こうしたところにコリンとマイルズの意識の違いが垣間見えるが、この無意識レベルで見えている、感じているものの違いが徐々に大きくなり、爆発していく展開は見事である。

 

コリンが射殺事件の現場を目撃してから抱く恐怖感は、ジェームズ・ボールドウィンが『 私はあなたのニグロではない 』で執拗に訴えていた、死への恐怖と全く同質のものである。『 ビールストリートの恋人たち 』でファニーが警察に理由なくしょっ引かれ、いつまでも自由を奪われたままでいるという物語を経験した者からすれば、コリンに共感することはいと容易い。想像力や感受性が豊かな方であれば、現在の日本の言論空間で在日外国人、なかんずく在日韓国人が感じる恐怖もこれと同質であると実感できれば、いかに日本が不自由で不寛容な国家になりつつあるのかを実感頂けよう。マイルズも言ってみれば『 パティ・ケイク$ 』に代表されるようなホワイト・トラッシュ=ゴミのような下層白人なのだ。それでも、彼は死の恐怖とは無縁に生きてくることができた。そこに埋めがたい人種の溝が存在する。しかし、決して埋めらない溝ではない。物語は、絶望ではなく希望をもって終わっていく。

 

それにしても、社会的な弱者やマイノリティを描くに際しては、普通の台詞や対話ではもう一つ足りない。『 サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所 』はそこをミュージカル風に仕立てたが、自らの内に眠るマグマを爆発させるための技法としては、本作のようなラップの方が遥かに良い。ラグタイム、ジャズ、ブルース、ロック、ラップ。これらは全て、黒人のソウルから生まれたものだからである。

 

それにしてもクライマックスの例の警察官の「殺すつもりはなかった」ってアホかいな。銃を向けて、1発で飽き足らず4発をぶち込んでおいて、殺すつもりはなかった。これがアメリカの現実なのである。これを我々は他山の石とせねばならない。

 

ネガティブ・サイド

いわゆるホワイト・トラッシュが無意識、無自覚に差別の構造に加担していたことを、もっと衝撃的に伝える演出が欲しかった。冒頭でマイルズがveggieなハンバーガーを「喰ってられるか」と吐き出すが、その後に店員にイチャモンをつけるシーンで、軽いラップ調で相手を罵ってもよかったのではないだろうか。そうすることで、黒人になり切れない白人を描くこともできるし、その後の金持ち白人のパーティーでみじめな思いをさせられるシーンが、よりhopelessでhelplessに描くことができたと思う。客の立場にある白人が、店員である白人を罵りながら、IT長者の主催するパーティーで黒人とケンカになってしまうというプロットは斬新で面白い。そこで親友で黒人のコリンが自分に加勢してくれなかったことで、マイルズは二重の意味で裏切られたように感じる。その部分の苦悩がもっと深まるような演出がほしかった。

 

コリンとマイルズの関係についても、単なる友情だけではなく、仕事上のプロフェッショナリズ、例えば『 ブラック・クランズマン 』におけるストールワースとジマーマンのような奇妙なパートナーシップが描かれていれば、二人の間のギクシャクした空気が、希望と共に回復していくところがより説得力と迫真性をもって感じられたはずだ。そのあたりがエストラーダ監督の課題なのかもしれない。

 

総評

100分以内でまとまったコンパクトな映画で、それでいてメリハリもしっかりついている。プロットはややpredictableだが、クライマックスのサスペンスは息をするのも忘れるほどの迫力がある。本作が究極的に問うのは、人間とは何かということである。この問いに正しく答えるのは難しいだろう。ただ、我々は正解を出すことはできなくとも、何が誤答であるかは即座に判断できるはずだ。本作を通じて、意識の盲点を意識するようにしてみて頂きたい。

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Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Chill out!

 

チルド・フードなどでお馴染みchillである。意味は主に二つ。一つはcalm down = 落ち着け、の意である。もう一つは、hang out = 何もしない、遊ぶ、の意味である。文脈や状況によって使い分けたり、解釈を変えてみよう。Chillだけでも「落ち着け」、「静かにしろ」の意味で使うことも多い。ジョン・シナはWWEでプロレスをやっていた頃は、よく“Chill, chill, chill”と観客に言っていた。

 

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Posted in 映画Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, ダビード・ディグス, ラファエル・カザル, 監督:カルロス・ロペス・エストラーダ, 配給会社:REGENTSLeave a Comment on 『 ブラインドスポッティング 』 -見えない自分のアイデンティティを巡って-

『 マトリックス レボリューションズ 』 -Dawn of humanity-

Posted on 2019年9月16日 by cool-jupiter

マトリックス レボリューションズ 75点
2019年9月10日 レンタルBlu-rayにて鑑賞
出演:キアヌ・リーブス ローレンス・フィッシュバーン ヒューゴ・ウィービング
監督:アンディ・ウォシャウスキー 監督:ラリー・ウォシャウスキー

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シリーズの完結作・・・だったはずだが、第4作の製作が決定したとの報が。インディ・ジョーンズになってしまうのでは、との懸念があるが、評価はこの目で確かめてから下したいと思う。

 

あらすじ

マトリックスに接続することなくマトリックスに侵入したネオ(キアヌ・リーブス)。現実世界とマトリックスの中間にあたる謎の空間に幽閉されていたが、モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)らによって救出される。ザイオンにはセンティネル兵団が迫っている。状況を変えるためネオは一人、マシン・シティーを目指すが・・・

 

ポジティブ・サイド

ナイオビの船が狭い空間を滅茶苦茶な操艦技術で通り抜けていく様は爽快の一言。元ネタは『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還 』のデス・スター内部への侵入と脱出シークエンスだと思われるが、これは純粋なオマージュとして受け取ろうではないか。同じように狭いところを飛ぶというコンセプトは、ゲームの『 エースコンバット 』シリーズにも受け継がれているし、他にも継承者は探せばもっともっとあるはずだ。

 

また、マトリックスからプログラムが現実世界に位相を移してくるというアイデアも素晴らしい。小説『 クリスタルサイレンス 』でも主人公たる透明人間が同じようなことをしていたが、“ウェットウェア”というアイデアは、今後確実に中国かロシア、またはアメリカが開発を目指すことになるだろう。素晴らしい着想である。

 

マシン・シティーは全てCGではあるが、どこかH・R・ギーガー的な雰囲気を帯びていたのが印象的だ。そのフィールドを闊歩する巨大なマシンたちは、漫画および映画の『 BLAME! 』の建設者のようである。というか、やはりこれもオマージュと見て良いのだろう。そう判断させてもらう。Jovianはこういうオマージュは大好物であり、大歓迎する。

 

初見では???だったエンディングにも一定の意味を見出すことができた。スミスの言う、“The purpose of life is to end.”へのアンチテーゼなのだろう。生命の目的とは、「続く」ということ、もしくは「始まる」ということを強く示唆しているように思えてならない。悪性腫瘍の如く増殖したスミスは、実際にはウィルスに近い存在だ。他の生物の細胞分裂の機序にただ乗りすることで増えるのがウィルスであるが、ネオはそのウィルスを見事に駆逐した。生きとし生けるものは、自らの生を自らで背負わねばならない。生きていくことそのものを目的にしなければならない。エンディングはそのように観る者に語りかけているように感じられた。ウォシャウスキー兄弟は、おそらくこうしたメッセージを発したわけではないだろう。しかし、受け手が自分なりに答えを受け取ることができる映画というのは、そう多くない。

 

ネガティブ・サイド

SFアクションの世界で、バトルが全て肉弾戦というのも、それはそれでありだろう。だがいやしくもSFであるのなら、そこには武器・兵器をしっかりと使いこなしてほしい。『 スター・ウォーズ 』が唯一無二の名作なのは、SF的な世界(正しくはおとぎ話、昔話の世界)にチャンバラと持ちこんだことが大きい。もちろん、ブラスターによる撃ち合いは西部劇のアナロジーである。だが、戦闘機によるドッグファイトやデス・スターやスター・キラーといった超絶トンデモ兵器の存在によって、すべてのバランスが奇跡的に整っている。それは本作も同じで、ネオとスミスのバトルとザイオンとセンティネル兵団の戦いは、奇妙なパラレリズムを成している。問題は、やはりそのバランスだ。マトリックスという仮想現実空間でのバトルが少なすぎる。そのバトルも漫画『 ドラゴンボールZ 』の影響を受けていることがありありと分かってしまう、少々残念なもの。前作でアイデアが枯渇してしまっているのだろうか。

 

ミフネ隊長率いる部隊は、そのまんま『 エイリアン2 』のパワーローダー。シリーズを通じて様々なガジェットが過去の偉大な作品へのオマージュになっていることが伺えたが、これはあまりにも露骨だった。だが、本シリーズのセンティネルは『オール・ユー・ニード・イズ・キル 』のギタイのモデルとして採用されたようだ。インスパイアの連鎖は続いているのだから、これは減点材料ではないのかもしれない。

 

総評

マトリックスと人類の奇妙な共存および敵対関係の円環が閉じたと感じられる、完結作にふさわしい幕切れである。が、大いなる疑問も残る。救世主たるネオはどうなった?培養人間たちの今後は?プログラムやマシンの見出す目的とは?本作の本当の評価が定まるのは、まだ見ぬ続編のリリース後になるだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

This is it.

 

単純明快な表現だが、訳すとなると難しい。文脈に応じて意味が変わるからだ。This =現在の状況、またはこれから起こること、it = 話者のイメージしていること、と理解しよう。そうすれば、「これで終わりだ」、「遂に始まったぞ」など、コンテキストに応じて意味を解釈できるだろう。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, B Rank, SFアクション, アメリカ, キアヌ・リーブス, ヒューゴ・ウィービング, ローレンス・フィッシュバーン, 監督:アンディ・ウォシャウスキー, 監督:ラリー・ウォシャウスキー, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 マトリックス レボリューションズ 』 -Dawn of humanity-

『 マトリックス リローデッド 』 -前作からはパワーダウン-

Posted on 2019年9月15日 by cool-jupiter

マトリックス リローデッド 70点
2019年9月9日 レンタルBlu-rayにて鑑賞
出演:キアヌ・リーブス ローレンス・フィッシュバーン ヒューゴ・ウィービング
監督:アンディ・ウォシャウスキー 監督:ラリー・ウォシャウスキー

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『 マトリックス 』は文句なしの大傑作だったが、続編たる本作はペーシングに少し問題を残す。前半は完全なるアクション映画、後半は完全なるSFミステリ。このあたりの作品のトーンの統一が為されていれば、シリーズ三部作のクオリティは『 スター・ウォーズ 』や『 バック・トゥ・ザ・フューチャー 』に迫っていたかもしれない。

 

あらすじ

救世主として覚醒したネオ(キアヌ・リーブス)は、モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)らと共にマシンとの闘いに身を投じていた。だが、マシン側はザイオンを壊滅させんと25万ものセンティネルを送り込んできた。マシンの侵攻を止めるには、「ソース」にネオが出向くしかない。「ソース」にたどり着く鍵、キー・メーカーを探し出すため、ネオはマトリックスに入っていく・・・

 

ポジティブ・サイド

高速道路のアクションはクレイジーの一言に尽きる。ネオのスーパーマンごっこもクレイジーだし、大量のエージェント・スミス相手の無双もクレイジーだ。特に、金属の棒でスミスをぶっ叩き、薙ぎ払っていくのは、PS2ゲームの『 戦国無双2 』のオープニング・デモを思わせる。というよりも、KOEIは本作をヒントに無双アクションを考えたのではないかとさえ思えてくる。極端な話、頭を空っぽにしても前半は視覚的に存分に楽しめる。

 

また、このシリーズで最も際立ったキャラクターはエージェント・スミスを演じるヒューゴ・ウィービングで間違いない。前作では3人のうちのリーダー格という程度だったが、今作では最も危険なエージェントとして覚醒。その風貌、サングラス、スーツ、口調、特徴的なレジスター(=使用言語領域)と相俟って、完璧なキャスティングであると言える。サングラスとスーツがこれほど似合うキャラクターは、ブルース・ブラザーズを除いてはエージェント・スミスだけだろう。

 

ザイオンという都市もディストピアな感じを上手に醸し出していている。ハイテクなメカを使用する軍事体制と、古代ギリシャ・ローマ的な原始的な政治体制の共存は、人類の後退を確かに思わせる。そんな中でも普遍的な家族愛や男女の愛憎入り乱れる人間関係は、人間の人間らしさを思わせると同時に、人間とマシーン、人間とプログラムとの間の境目を曖昧模糊としたものにしている。メロビンジアンとその愛人の関係は、人間のそれと何ら遜色がない。その不思議な感覚を受け入れられる世界を構築したウォシャウスキー兄弟の卓越した想像力と構想力は、現代においても評価を下げることは全くない。むしろ更に評価を上げている。なぜなら、現実の世界においてシンギュラリティ=技術的特異点が到来することがますます現実味を帯びて予感されているからだ。

 

本作の最もスリリングな瞬間は、ネオとアーキテクトの対話であろう。新約聖書の使徒行伝か、それとも何らかの手紙の記述に、「イエスという奴が出てきたらしい。革命の指導者になれる器だそうだ」「前にもそういう奴がいたが、結局は駄目だった。今回もしっかり様子を見よう」という会話が交わされる箇所があった。マトリックス世界は、マシンをローマ軍、ザイオン=シオン=イスラエル=パレスチナ(この等式が乱暴であることは理解しているつもりである)という過去の歴史の模倣、パロディであると見ることもでいるだろう。そもそもトリニティからして三位一体=神=精霊=イエスの意味である。何を言っているのか分からないという向きには『 ジーザス・クライスト=スーパースター 』を鑑賞してみてほしい。

 

ネガティブ・サイド

トリニティとネオのラブシーンは果たして必要か?いや、生々しいベッドシーンも、マトリックスという仮想現実との対比でリアリティを演出したいという意図があってのことなら、理解できる。また、マシンとの戦争という命の危機にあって、生存本能が極限にまで高まっているからという説明も許容可能だ。しかし、サイケデリックなラブシーンやダンスシーンというのは、個人差もあるだろうが、マトリックス世界にはそぐわないように感じた。

 

また、前作『 マトリックス 』ではそれほど目立たなかったものの、本作ではモーフィアスのネブカドネザル号の内部のコクピットシーンが、スター・ウォーズのミレニアム・ファルコン号のそれと酷似していると感じられたり、あるいは白スーツのエージェントが『 ゴーストバスターズ 』を彷彿させたりした。もちろん、前作も様々な映画の換骨奪胎ではあるのだが、それらの残滓や痕跡をほとんど感じさせないパワーがあった。アクションはパワーアップしたが、オリジナリティ溢れる物語の、そして映画の技法のパワーが本作には少々不足していた。その点が大いに不満である。

 

総評

革命的な面白さだった第一作には及ばない。しかし、クオリティの高さは十分に保っているし、二十年近い歳月を経てもアクションやSF的な要素に古さを感じさせないことは、それだけでも名作の証である。『 エイリアン2 』は『 エイリアン 』を未鑑賞でも楽しめてしまうが、本作はBTTFの1、2と同じく、一作目の鑑賞が必須である。ゆめゆめ本作から鑑賞する愚を犯すことなかれ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

So far, so good.

 

預言者がネオの台詞を聞いてこのように言う。「ここまでのところは順調だ」のような意味である。

“How’s the project going?” / “So far, so good.”

などのように使う。機会があれば、使ってみよう。フレーズは正しいシチュエーションとセットで使うことで身に着く。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, B Rank, SFアクション, アメリカ, キアヌ・リーブス, ヒューゴ・ウィービング, ローレンス・フィッシュバーン, 監督:アンディ・ウォシャウスキー, 監督:ラリー・ウォシャウスキー, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 マトリックス リローデッド 』 -前作からはパワーダウン-

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