Skip to content

英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

  • Contact
  • Privacy Policy
  • 自己紹介 / About me

タグ: 2020年代

『 28年後… 』 -ツッコミどころ満載-

Posted on 2025年7月2日 by cool-jupiter

28年後… 30点
2025年6月29日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:アルフィー・ウィリアムズ アーロン・テイラー=ジョンソン ジョディ・カマー レイフ・ファインズ
監督:ダニー・ボイル

 

『 28日後… 』と『 28週後… 』の続編ということでチケット購入。

あらすじ

レイジウィルスによってイギリス全土が隔離されて以来、28年。ある島で細々と生き残っていた人々がいた。ジェイミー(アーロン・テイラー=ジョンソン)は12歳の息子スパイク(アルフィー・ウィリアムズ)を連れて、本土のゾンビ刈りに同行させるが・・・

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

新型ゾンビ・・・ではなく感染者が環境に適応しているというのは、それはそれで面白かった。森に生きる感染者と平原で生きる感染者が異なった生態を示していたのは説得力があった。また異種感染しないという『 28週後… 』の設定も引き継がれていたことが確認できた。感染者を生化学的に分析・攻略するシーンもあり、人間が生きるためにはサイエンスが物を言うことを再確認した。

 

アルファというボスゾンビ・・・ではなくボス的感染者はゲーム『 バイオハザード 』のタイラントあるいはネメシスみたいな感じで、割とすんなり受け入れられた。

 

ネガティブ・サイド

いくら前作で米軍が同士討ちもあって壊滅したとはいえ、世界がイギリスをここまで放置するか?いや、本土はいいとして、離島で生き残った人は保護されてしかるべきだろう。それとも、多くのブリティッシュが自認するようにイギリスは嫌われていることを殊更に明示しているのか。

 

島の人々が Tom Jones の Delilah の大合唱をしていたが、いったい時代はいつなのか。仮に2025年だとしても、さすがに60年前の歌を年寄りだけではなくそれなりに若い世代まで歌えるのか?レコードなどの機械はいっさい見当たらなかったが。

 

そもそも何故に安全な島から出て、本土を目指すのか。もちろん医薬品やら衣料品やら日用品やら使える物は色々と見つかるだろうが、28年も経過してしまうとそれも望み薄だろう。だったら男子のイニシエーションなのか?学校はなくても、子どもを軍事教練に駆り出しているシーンがあったが、学校でこそ感染者の実態を教え込むべきだろう。ジェイミーが実地でスパイクに色々と教え込んでいたのは、フィールドワークならありだが、サバイバルでは愚の骨頂。

 

島そのものが天然の要害になっているが、干潮時の防御がなにもないとはこれ如何に。アルファが矢を10本食らっても倒れなかったというデータがあるなら、矢を20本打つとか、あるいはボーガンを作って威力を上げる、トラバサミのような罠を使うなど、色々と対策はあったはず。それが全くなかったというのは28年あれば人間はアホになるということか。

 

感染者の妊娠というのは中盤で明示されていたし、アイデアとしては誰でも思いつく。漫画『 寄生獣 』で似たようなアイデアはすでに出ていたし。問題はその子どもが〇〇〇だということ。胎盤の奇跡とは・・・仮に胎盤がウィルスをシャットアウト(できるわけないが)したとして、普通に分娩時に経産道感染するはず・・・ なので子どもは『 28週後… 』同様に無症候型キャリアで良かった。また、子どもの父親はアルファであると暗示されていたので、それを元に280年後あるいは28世紀後の地球をゾンビ・・・じゃなかった多数の感染者と本当に細々とだけ残った原始人的人類の物語につなげられただろうに。

 

スパイクが医者を求めてドクター・ケルソンのもとを目指すのは分からんでもないが、まともな教育を一切受けていないスパイクがケルソン先生の診察過程や診断内容を理解できたようには到底思えない。にもかかわらず、あの結末を母親だけではなくスパイクが受け入れる?ちょっと考えづらいのだが。

 

というかケルソン先生も感染者に効くモルヒネとかを、どこでどう調達して28年も維持できたのか。医者というよりも薬学者、それも西洋ではなく漢方薬寄りの学者である。トリカブトやらスズランやら、普通に感染者を安全に殺せそうな毒をこの先生なら調合できそうだが、そういうわけでもないらしい。というか、アルファをストップさせたのなら、そこでもっと大量にモルヒネをぶち込んで殺さんかい、と思ってしまう。

 

島民以外の人間の存在も示唆されていたが、それがラストのあいつら?いくらなんでもあの世紀末軍団があんな見せしめ的な行為に走るだろうか。というか、感染者とのバトルで使う武器が貧相で泣けてくる。普通に体液をまき散らす武器および戦い方で、よくこれで生き延びてこれたなと感心した。

 

続編がありそうな雰囲気だが、たとえ制作されても見ない。コレジャナイ感が非常に強い作品だった。

 

総評

当初から各方面のレビューが賛否両論だった。ということは波長が合えば面白く、波長が合わなければ面白くないわけで、こういう丁半を賭けたばくちも時には必要だ。英語レビューでも賞賛はたくさんあるので、本当に監督や脚本家との相性次第だと思う。ひとつ言えるのはデートムービーではないということ。またファミリーで観るのもお勧めできない。カップルあるいはお一人様での鑑賞が無難である。

 

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

Memento amare

直訳すると、Remember to love となる。Memento は singular の imperative で、amare は to love という英語のto不定詞的な形。合わせて Remeber to love となる。有名な Memento mori は Remember to die だが、ラテン語には形は受動態しかないが意味は能動態という動詞が、loquor, sequor, morior, utorなど、いくつもある。20年以上前の授業の内容でも結構覚えているもので、自分でもびっくりしている。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 フロントライン 』
『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』

 

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アーロン・テイラー=ジョンソン, アメリカ, アルフィー・ウィリアムズ, イギリス, ジョディ・カマー, ホラー, レイフ・ファインズ, 監督:ダニー・ボイル, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 28年後… 』 -ツッコミどころ満載-

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』 -自分らしさを弱点と思う勿れ-

Posted on 2025年6月30日 by cool-jupiter

ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 80点
2025年6月28日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:キム・ゴウン ノ・サンヒョン
監督:イ・オニ

 

なぜか近所の松竹系劇場が土日は本作を上映しない。仕方がないのでTOHOシネマズへ向かう。

あらすじ

ゲイであることを隠しながら生きるフンス(ノ・サンヒョン)は、奔放に生きるジェヒ(キム・ゴウン)と友人になる。互いの恋愛事情には干渉することなく友情を深めていく二人。そして条件付きで同棲することなっていくが・・・

ポジティブ・サイド

男女の友情は成立するのかという問いは古今東西で常に論じられてきたように思う。本作はその命題に対して一定の解を示したと言える。

 

刹那的に生き、恋に恋するタイプのジェヒと、ゲイであることが劣等感になってしまっているフンスが、友人関係になっていく過程が面白い。互いが互いを気に掛けるべき存在であると認識していくが、そこを言葉ではなく表情や動作でじっくりと描いていく。特に、ライターを小道具としてうまく使っていて、あるクラブのシーンでは唸らされた。

 

同居のきっかけにも説得力がある。いや、事件自体は( ゚Д゚)ハァ?というものだが、だからこそジェヒの家にフンスが引っ越してくるのだという話の流れは十分に首肯できるものだった。

 

普通ではない二人が同居しながらも、互いの恋愛事情には決して踏み込んでいかない。その距離感が絶妙だ。そして、それぞれが語り、そして歩んでいくロマンスの道も甘く、しかしほろ苦い。

 

「執着することが愛だというのなら、自分はまだ愛したことがない」というフンスは、大学やクラブで刹那的な情事にかまけていく。一方で、その相手に徐々に依存し、執着していくようになっていくことに無自覚だ。その自分の心境の変化を数年かけてじっくり描き出していく。初恋は実らないというが、失って初めて「自分は執着していたんだな」と思える関係性は、対象が異性であれ同性であれ、美しいにちがいない。

 

「自分らしさがなぜ弱点なのか」というジェヒの恋模様もかなりビター寄りのビタースイートだ。クラブで夜な夜なヒャッハーしつつ、学内でしっかりステディも作る。しかし・・・、この展開は見るに堪えないというか、かなりしんどい。特にある事件で年配女性がジェヒがなじられるが、まさに自分らしさを弱点・欠点扱いされ、さらにそれはジェヒの罪ではないというシーンは本当に胸が痛んだ。

 

大学に馴染めない二人が一般社会でも馴染めるわけがなく、ジェヒは就職先の会社内で職制と序列に適応できず、フンスは就職自体できない。そんな中でも二人の同居生活は続いていく。大都市という人だらけであるがゆえに孤独が強調されてしまう環境で、同病相哀れみ、肝胆相照らす仲の人間がいることがどれだけ心強いことか。

 

母にカミングアウトできないフンスの物語では『 君の名前で僕を呼んで 』がガジェットとして登場する。韓国における映画の影響力と、韓国国民の感受性の高さを感じさせるサブプロットが非常に興味深かった。

 

ジェヒもジェヒでクズ男吸引体質とでも言おうか、まったく報われない関係にばかり身を投じてしまうのが痛々しい。しかし、それを救ってくれるのが、かつて同じようなシチュエーションに駆けつけてくれなかったフンス。このシーンでは正直ちょっとウルっと来てしまった。

 

映画のエンディングでは、劇場のあちこちでお一人様女子たちのすすり泣きが聞こえた。明るくなってから気付いたが、驚きの女子率だった。それも女子同士のペアかお一人様。男女で来ていたのはパッと見でJovian夫妻以外には3組程度だったか。本作が以下に女性に訴求力を持っているのかを垣間見たように思う。

 

ネガティブ・サイド

タバコが意味あるガジェットとして頻繁に用いられるが、フンスとジェヒが二人同時に吸うシーンがなかったのは意外。Jovianは学生時代、仲の良かったドイツ人女子やアルゼンチン人女子とよく一緒にタバコを吸っていたし、彼女たちが帰国する前日には、互いに火をつけたタバコを交換したりもした。間接キスなのだが、そんなことは全く気にならなかった。そんな友情のシーンを見てみたかった。まあ、これは個人的すぎる願望か。

 

総評

傑作である。ステレオタイプであることを承知で言うが、男であるJovianがこれほど感銘を受けるのなら、自分らしさというものに苦しめられる女性なら、もっと力強さや励ましや肯定感を与えられるだろう。観客の反応がそれを如実に物語っている。自分らしさを肯定してくれる人が一人でもいれば、そして誰か一人に執着するような人生の一時期があれば、それはきっと不幸な人生にはならないはず。そう思わせてくれる作品だった。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

パリパリ

早く早く、の意。『 ベテラン 凶悪犯罪捜査班 』でも紹介した表現。韓国人のせわしない気質をよく表した、映画やドラマでおなじみの表現。関西人ならこの感覚が肌でわかることだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 28年後… 』
『 フロントライン 』
『 この夏の星を見る 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, キム・ゴウン, ノ・サンヒョン, ヒューマンドラマ, 監督:イ・オニ, 配給会社:KDDI, 配給会社:日活, 韓国Leave a Comment on 『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』 -自分らしさを弱点と思う勿れ-

『 近畿地方のある場所について 』 -やや竜頭蛇尾か-

Posted on 2025年6月29日 by cool-jupiter

近畿地方のある場所について 60点
2025年6月24日~26日にかけて読了
著者:背筋
発行元:KADOKAWA

 

ずっと積読にしていた作品。映画がもうすぐ公開されるらしいので、それに先んじて読んでみた。

あらすじ

取材の過程で消息を絶った小沢君の仕事を追っていく中で、私は彼が近畿地方のある場所を中心とした怪異を追っていることを知り・・・

 

ポジティブ・サイド

普通の小説とはかなり趣が異なる。登場人物がいて、時間が設定されていて、行動範囲がある程度特定されていて・・・ということがない。というのも、しばしばネットの書き込みが挿入されるから。言ってみれば、珍談奇談怪談風味の四方山話の寄せ集めなのだが、それがだんだんと近畿地方のある場所に収束していく流れは面白い。

 

怪異の始まりがアングラ系サイトというのも現代的。貞子がVHSから様々なメディアに乗り換えてたり、『 シライサン 』がネットの大海原を漂うように、怪異も時代に合わせてアップデートが必要。それを説得力ある形で提示できているところが素晴らしい。

 

個人的に面白かったと感じたのは林間学校、シール、そしてキャンプ場か。特にシールは、実際にありそうな話、というか、トクリュウ系の強盗の下見としてシールが使われているという報道があってから、街中であちこち目が行くようになってしまったので、余計にリアリティを感じた。

 

巻末に綴じられた取材資料があるのだが、これがなかなかに興味深い。個別のエピソードのネタバレ満載なので決して読了前に開くこと勿れ。

 

ネガティブ・サイド

近畿地方のある場所とぼかされてはいるが、近畿=二府四県で狭義の「県境」が存在するのは奈良と和歌山の間しかない。かつ、山があってダムもあるとなると奈良しかない。もっと廃寺やら廃小学校やら、ありふれた舞台を使えば、読みながらもっと疑心暗鬼になれるのに、と少しもったいなさを感じた。

 

怪異に関する謎が収束していく過程は楽しめたものの、収束していく先は正直なところ拍子抜け。

 

近畿地方の方言が最後のインタビュー以外、ほとんど出てこない。その最後のインタビューも、相手はかなりの年配者のはずだが、その特徴がない。おそらく取材もしていないのだろう。奈良や和歌山、あるいは大阪でも河内長野あたりを越えると明らかに標準関西弁とは異なってくる。そうした雰囲気を文字だけで伝える努力はすべきだった。

 

総評

途中まではまさにページを繰る手が止まらないが、終盤でとある調査が行われるあたりで???となり、最後のオチにはドン引き、かつ溜息が出る。でも、これはこれでいいではないか。我々は往々にして最後に残った印象で作品を判断しがちだが、そこに至るまでのゾクゾクやハラハラドキドキも評価しなければならない。そういう意味では十分に佳作以上。映画の脚本がどこを削って、どこを膨らませたのか、非常に気になる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Now that I’ve come this far,

作中に何度も出てくる「ここまで来たら」の私訳。ここまで来たら〇〇〇に行ってみる=Now that I’ve come this far, I am going to go to 〇〇〇. のように言える。come this far は物理的な距離についても使えるし、比喩的にも使える。仕事もしくはキャリアの上で飛躍できた歳に、I never imagined I could come this far. と呟いてみようではないか。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 28年後… 』
『 フロントライン 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 国内, 書籍Tagged 2020年代, C Rank, ホラー, 日本, 発行元:株式会社KADOKAWA, 著者:背筋Leave a Comment on 『 近畿地方のある場所について 』 -やや竜頭蛇尾か-

『 脱走 』 -南へ向かう理由とは-

Posted on 2025年6月27日2025年6月27日 by cool-jupiter

脱走 65点
2025年6月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:イ・ジェフン リ・ヒョンサン
監督:イ・ジョンピル

 

『 サムジンカンパニー1995 』のイ・ジョンピル監督作品ということでチケット購入。

あらすじ

除隊を目前に控えたギュナム(イ・ジェフン)は密かに脱北を計画していた。しかし、同じく脱北をもくろむ部下に計画を見破られたギュナムは、二人での脱出を提案する。あえなく発見された二人だが、ギュナムは脱出者を発見した英雄として扱われてしまい・・・

ポジティブ・サイド

北と南の反目と融和は数々の韓国映画のテーマだが、脱北する兵士に焦点を当てるのは珍しい。ウクライナでもロシアでもひと頃は脱走兵が盛んにニュースになっていたが、軍から逃げたくなるのは決して珍しいことではないはず。北朝鮮のように先軍政治などといって、国家まるごと軍のようなところなら、それこそ亡命したくなって当たり前。本作はなぜ北から逃げ、南を目指すのかについてユニークな答えを呈示してくれる。

 

除隊してしまっては国境線近くの基地から離れてしまい、38度線を超えるのが難しくなる。雨が降ってしまってはせっかく作った地雷原の地図が無駄になってしまう。様々な制約から、もう今しかないというタイミングでの脱北は緊迫感抜群。そこからのプチドンデン返しと、旧友が追手になって迫ってくる展開も手に汗握る。この旧友がとある特技の持ち主なのだが、それが追跡部隊の司令官として生きているところも見逃せない。逃げる側と追う側の個人的な信念が対照的で分かりやすい。つまるところエーリッヒ・フロムの『 自由からの逃走 』の反対なのだ。世界がナショナリズムに回帰しつつあり、そこにファシズムの萌芽も見られる今、本作は自由について考えるきっかにもなりうる。

 

主人公はどこかで見たことのある顔だと思ったら『 建築学概論 』の気弱男ではないか。本作では部下に優しい上官ながら、相手を欺く際には大胆に振る舞い、対決すべき相手には敢然と立ち向かうという、いくつもの顔を見せた。最後に見せる、とある家族への顔、そして誰もいない中で自分だけに見せる顔と、とにかく多彩な表情を使い分けた。北でも南でも、人間は人間。そして人間である限り、一つの顔しか持てないなどということはない、というのが本作のメッセージの一つなのだと思う。

 

ネガティブ・サイド

ちょっと設定に無理がある。そもそも軍隊は四六時中臨戦態勢なわけで、ギュナムがあんなに夜な夜な集団の寝所、さらには基地すらも抜け出して、地雷原の地図の製作に邁進できるものなのか。その地図も底なし沼でびちゃびちゃのボロボロにはならなかったのか。

 

また、ギュナムの射撃の腕前が笑ってしまうほどに良い。良すぎる。スコープ付きのライフルで照準をしっかり定めて撃つスナイパーよりも軽々と遠方の的に当ててしまうのは、いくらなんでも非現実的すぎる。

 

途中で仲間になった連中の結末を暗示程度でよいので映し出してほしかった。

 

総評

脱北のしんどさがよく分かる一作。成功や自由を夢見ての逃走ではなく、成功の手前の段階、あるいは自由の代償を求めての逃走になっている点がユニーク。韓国も『 ソウルの春 』が続けば、北朝鮮のようになっていたのだろうか。平和日本の今に完敗したくなると共に、平和しか知らない日本に一抹の不安も覚える。倒れても立ち上がれるのが本当の意味での良い社会。本邦はどうか。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヒョン

兄の意味だが、必ずしも血のつながりはなくてもよい。日本語で年長の男性に親しみと敬意をこめて兄貴と呼ぶのと同じこと。そういえば「俺のことはヒョンと呼べ」と言ってくれた韓国系アメリカ人の元同僚は元気にしているだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 28年後… 』
『 フロントライン 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アクション, イ・ジェフン, リ・ヒョンサン, 監督:イ・ジョンピル, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 脱走 』 -南へ向かう理由とは-

『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

Posted on 2025年6月23日 by cool-jupiter

JUNK WORLD 80点
2025年6月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:堀貴秀
監督:堀貴秀

 

『 JUNK HEAD 』の続編にして前日譚。良い意味で「ぼくのかんがえたさいきょうのエスエフ」的な仕上がりになっている。

あらすじ

地下世界の開拓のため、人類は人工生命マリガンを創造する。しかし、マリガンはクローンで自己増殖し、人類に反旗を翻した。停戦に合意した両者だが、地下世界に異変が生じる。調査のために人類はトリスを、マリガンはダンテを派遣し、両者が合同チームを組むが・・・

ポジティブ・サイド

マリガンだらけだった前作とは打って変わって、人間とマリガン、ロボット、そして異次元の存在と一気に世界が拡張され、カラフルになった。しかし、物語の根底にあるのは堀貴秀の数々の先行作品へのオマージュ。ここは前作と変わっていない。

 

有機的な頭脳を持つロボットのロビンと、その主人であるトリスの関係が面白い。堀貴秀はミューズを得たようである。まず『 バック・トゥ・ザ・フューチャー 』と『 バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2 』を下敷きにしつつ、『 ターミネーター 』と『 ターミネーター2 』の要素も盛り込んでいる。ロビンの壮大な旅路は、個人的にはうえお久光の小説『 紫色のクオリア 』にインスパイアされたのではないかと感じた。

 

ゴニョゴニョで鑑賞したが、韓国語っぽい発話、フランス語っぽい発話に加えて、日本語のコマーシャル的なキャッチフレーズやらハリウッド映画や俳優の名前がアホぐらい出てきた何度も笑ってしまった。個人的にはビートルジュースと聞こえてきたのは、Beetle Juiceだったのか、Betelgeuse(有名な恒星)だったのか気になる。

 

今回は三馬鹿トリオではなく、トリス、ダンテ、ロビンの凸凹コンビ+1となるだろうか。というよりもロビンの変身と、世界創生、そして時間への旅路とその使者の物語が幕ごとに明らかにされ、意味不明だった物語がひとつまたひとつと意味をなしていく過程が刺激的だった。

 

前作の『 BLAME! 』的な世界観から一転して、ハインラインの『 夏への扉 』(原作小説の方)やアシモフの『 最後の質問 』的な拡張的な世界が現出した。ここからどうやって地下世界に回帰して、そこから地上世界へ帰還するのか。楽しみで仕方がない。第三作が今から待ちきれない。

ネガティブ・サイド

シリーズの一貫したテーマの一つが生殖であるはず。それを茶化すようなシーンがあったのは残念。大使がアワビ(的なもの)を貪り食う、とかならまだ許容できたかも。

総評

期待していた作品とは違っていたが、これはこれで面白いし、鬼才が仕事を辞め経済的な支援を得ても、そのユニークなクリエイティビティが全く衰えていないことに安堵した。トリスはロビンのみならず、堀貴秀氏自身のミューズでもあるのだろう。では、次作でパートンは自身のミューズと出会い、愛を成就=生殖ができるのだろうか。もはや期待しかない。2028年ぐらいには観たい。クラファンはどこでしているのか?数万円ならすぐにでも投資したいところだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

worship

崇拝する、崇敬する、崇めるの意。宗教的な文脈で使われるが、冗談めかして使うこともできる。If you get this job done by Friday, I’ll worship you. のように、親しい同僚などに言ってみるといいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 脱走 』
『 28年後… 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, SF, アニメ, 堀貴秀, 日本, 監督:堀貴秀, 配給会社:アニプレックスLeave a Comment on 『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

『 リライト 』 -小説をまあまあ上手く改変-

Posted on 2025年6月21日2025年6月21日 by cool-jupiter

リライト 55点
2025年6月15日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:池田エライザ 阿達慶
監督:松居大悟

法条遥の同名小説の映画化ということでチケット購入。ラストを一捻りしているが、そこに至るまでは割と原作に忠実だった。

あらすじ

2310年の未来からタイムリープしてきた保彦(阿達慶)と偶然にも親密になった美雪(池田エライザ)は、やがて彼に惹かれていく。しかし、ある悲劇が康彦を襲う。彼を救う全てを求めて10年後の自分に出会いに行く美幸だが・・・

ポジティブ・サイド

原作の少しわちゃわちゃしていたところが視覚化されて、分かりやすくなっていた。原作もそうだったが、『 時をかける少女 』へのオマージュが随所にある。〇〇〇〇を読んだ康彦ではないが、尾道に行ってみたくなるような作品になっている。

本作は(原作もそうなのだが)一種のギャルゲーだと思えばいい。ある意味、『 Ever17 -the out of infinity- 』が近いだろうか。これがネタバレにならないことを祈る。

大人の美雪を掘り下げたところが原作との違いで、ここは面白かった。リライト=rewriteが意味するところは、自分の運命や人生の書き換えでもある。曲がりなりにも分泌のプロになったのなら、Verweile doch, du bist so schön! という精神を持ちたいもの。

ネガティブ・サイド

正直、原作のおどろおどろしい執念のようなものが消えてしまっていて残念。それが何であるか気になる人は原作を読んでほしい。康彦の口癖の「何という無駄!」は削る必要はあったのだろうか。

キャスティングも残念ながら減点材料。池田エライザや橋本愛が高校生を演じるのはさすがに無理があるし、その他の同級生たちもかなりしんどかった。

橋本愛の罪ではないが、販促物、とくにポスタービジュアルなどを手がける人はネタバレを避けてほしい。あるいは鑑賞後にそれと分かる作りにしてほしい。原作未読のうちの嫁さん(に限らず普通の感受性と観察力の持ち主)は、すぐに誰がキーパーソンなのか悟ってしまった。

総評

小説の映画化としてはまあまあ。同作家の作品で言えば『 バイロケーション 』よりはマシである。池田エライザのファンなら鑑賞すべし。そうでなければスルー推奨。本当ならアニメ作品にすべきなのだろう。というわけで、タイムリープものとしては本作よりも遥かに面白い高畑京一郎の小説『 タイム・リープ あしたはきのう 』を、誰か105分程度でアニメ化してくれませんかねえ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I wish time stopped now.

時間が止まってほしい、の意。さて、本作ではとあるキャラクターがこれを日本語で言う。どんな場面なのかしっかりと把握して、ここぞというロマンチックな場面でこれをささやいてみよう。それができれば英検1級を超えて英検0級である。

次に劇場鑑賞したい映画

『 JUNK WORLD 』
『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 脱走 』

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, SF, 日本, 池田エライザ, 監督:松居大悟, 配給会社:バンダイナムコフィルムワークス, 阿達慶Leave a Comment on 『 リライト 』 -小説をまあまあ上手く改変-

『 ぶぶ漬けどうどす 』 -クソ映画オブ・ザ・イヤー候補-

Posted on 2025年6月16日2025年6月16日 by cool-jupiter

ぶぶ漬けどうどす 20点
2025年6月14日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:深川麻衣
監督:冨永昌敬

 

かつて烏丸御池でスクール責任者を数年務めた身として鑑賞せねばと思いチケット購入。残念ながらクソ駄作だった。

あらすじ

まどか(深川麻衣)はライターとして京都を題材に取り上げようとしていた。夫の実家の老舗や洛中の女将たちを取り上げるために京都に移り住んだまどかは、取材と創作を本格化させていくが・・・

ポジティブ・サイド

京都人の奇妙な歴史感覚は確かに味わえる。100年程度では老舗とは呼べず、200年でやっと老舗。そうした矜持と、京都独特の伝統を維持するための有形無形の努力と圧力はそれなりに映し出されていた。

 

ネガティブ・サイド

まず大前提として知っておきたいことは「京都で茶漬けを勧められたら遠回しに帰れと言われている」というのはフィクションだということ。Jovianは生粋の京都人(それこそ江戸時代から同じ区域に先祖代々住んできた方々)複数名に尋ねたことがある。

 

そもそも本作はテーマは何なのだろうか。京都人の陰湿な一面をさらけ出すこと?それとも、京都人の本音と建前の使い分けをユーモラスに描くこと?それとも、そうした京都を前面に押し出しつつ、東京人のアホさ加減を陰で笑うこと?残念ながら、そのいずれにも失敗している。だいたい制作陣に京都出身者、あるいは京都研究者はいなかったのか?パッと調べた限り見当たらないのだが。

 

京都人に陰湿で排外的な一面があることは事実。そしてそれは洛中から洛外(洛外の人々はしばしば結界の外という言い方もする)に向けての姿勢であることがほとんど。ただ、これは京都に限った話ではない。旧浦和と旧大宮が旧与野を叩いたり、あるいは我が兵庫県で言えば神戸が播州を見下したり、あるいは神戸市中央区が神戸市西区を見下したりしている。関東でも、町田市を神奈川扱いしたり、あるいは北関東(茨城、栃木、群馬)を南東北と呼んだりと、どこの地域、どこの都道府県でも見られる現象である。では洛中と洛外で何が違うのかを本作は掘り下げられたか。そこは一切触れられていなかった。だったら京都を取り上げる意味も意義もない。

 

京都人の本音と建前の使い分けについても監督および脚本家は誤解している。あるいは理解を深めていない。本音と建て前の使い分けは京都人の専売特許ではなく、日本語ネイティブのコミュニケーション技術の一つである。つまり京都人以外も普通に使っている。関西弁では「考えときまっさ」というのはお断りの意味である。またビジネス文脈なら「前向きに検討する」は五分五分くらいに聞こえるが、政治家や役人が同じ表現を使ったら、かなりの見込み薄に聞こえる。タイムリーな例を挙げれば、我が兵庫県知事の言う「重く受け止める」も、本音は「うるさいわ、知らんがな」である。では京都人が使う建前は何がどう異なるのか。それは相手と自分の関係性、もっと言えば上下関係や距離が明確な時に使われるのである。このあたりの描写が、まどかと片岡礼子演じる女将連中の間でかなりちぐはぐだった。

 

そもそも、京都を題材にしようと脱サラして作家活動を始めようとするわりに、まどかは事前の京都調査がまったくといっていいほど出来ていない。これは作家として致命的である。しかも老舗の跡取りになる可能性のある京都出身の夫を持ちながらこの体たらく。つまり、アホなのだ。もうこの時点でこの主人公に共感することが困難になる。また夫や創作パートナー、そして京都に巣食う外来種が皆、東京人で、なおかつ裏の顔の持ち主。本作は京都をディスりたいのか、東京をディスりたいのか。テーマを極力絞るべきである。

 

京都の本質を語る学者先生は『 嗤う蟲 』では夫だった若葉竜也。しかし、彼が語る京都の本質に持ち出されるガジェットが琵琶湖?琵琶湖は滋賀県やで・・・ 『 リバー、流れないでよ 』のように、鴨川を使えばいいではないか。もしくは貴船まで上って貴船川でもいい。なぜ琵琶湖?

 

ストーリーもさして面白くなく、BGMも不快。カメラアングルにも光るものはなかった。そもそも京都人たちが皆、京都弁が下手過ぎる。もうちょっとまじめにやれと言いたい。京都人風に評するなら「伝統を尊重してもろて、はばかりさん」とでもなるだろうか。

 

総評

一言、駄作である。職場の同僚、就中、京都人たちには決して観るなかれと忠告したい。東京人が思いっきりアホに描かれているが、作劇上の演出を飛び越えてナチュラルなアホに見える。『 翔んで埼玉 』の含意するところに気付かないプロの東京の批評家が何名かいたが、そうしたお歴々は本作をどう評するのだろうか。そこには少し興味がある。いずれにせよ、観る必要はない。怖いもの見たさやゲテモノ好きは否定しないが。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a venerable shop

老舗の私訳。老舗は古い以外にも格式がある、伝統がある、趣きがあるなどの意味も含んでいるが、それに最も近いのが venerable = 由緒正しい、だろうか。老舗企業なら venerable firm で、老舗料亭なら venerable Japanese restaurant となる。英検準1級以上を目指すなら押さえておきたい語彙。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 JUNK WORLD 』
『 リライト 』
『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, ブラック・コメディ, 日本, 深川麻衣, 監督:富永昌敬, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 ぶぶ漬けどうどす 』 -クソ映画オブ・ザ・イヤー候補-

『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

Posted on 2025年6月15日2025年6月15日 by cool-jupiter

国宝 80点
2025年6月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:吉沢亮 横浜流星
監督:李相日

 

李相日監督作品ということでチケット購入。3時間が苦にならない重厚長大なドラマだった。長引く風邪と仕事の突発的な事案のため簡易レビュー。

あらすじ

極道の父親を失った喜久雄(吉沢亮)は、歌舞伎役者の家に引き取られ、そこで兄弟同然の仲となり習性のライバルとなる俊介(横浜流星)と出会う。歌舞伎の道に邁進する二人だったが、やがてある出来事が転機となり、袂を分かつようになり・・・

ポジティブ・サイド

喜久雄が任侠の跡取り息子から国宝に成り上がるまでの50年間は見応え抜群。歌舞伎の良し悪しは判断しかねたが、役者が役者を演じることの重みは十分に伝わってきた。

 

順調にキャリアを積み上げてきた喜久雄が、思いがけず転落していく最中で見せた屋上での踊りは『 ジョーカー 』を髣髴させた。

 

本作のテーマは、芸とは才か血かというもの。もちろん、この命題に絶対の答えなどない。ただ本作は、才の極みが血を残すのかどうかについて興味深い視点を提供したとは言える。

 

劇中劇の中でも特に『 曾根崎心中 』が良かった。Jovianの出身地の尼崎は近松門左衛門と縁が深く、近松公園は散歩コースかつ時々縁台将棋にも参加させてもらっている。また、死ぬことになる遊女のお初は、梅田近辺にオフィスを持つ企業のサラリーマンなら、露天神社で一度は目にしたことがあるはず。舞台も大阪だし、大阪人や大阪近辺の人間こそ鑑賞すべき作品である。

ネガティブ・サイド

時代のせいだと言えばそれまでだが、女性キャラがそろいもそろって物語上のガジェットのようだった。なぜそこでその男に惚れる?なぜそこでその男についていく?そんな疑問だらけ。

 

また糖尿病もある意味で大活躍。確かに1980年代、1990年代は40代以上の男性の10人に1人(100人に1人ではない)は糖尿病予備軍だと言われていたが、糖尿病悪化で吐血?会社員ではないが、お前ら年に一度の健康診断ぐらいは自腹で受けろ、と感じた。

総評

ある意味、顔で生きてきた吉沢亮が、遂に本物の代表作を手に入れた。歌舞伎という誰もが知りながら、誰も知らない世界をこれほど活写した作品はこれまでなかったし、これからも出てこないだろう。『 ハルカの陶 』の国宝はあまり国宝らしくなかったが、本作の描く人間国宝は国宝の輝きを放っている。ぜひとも大画面、大音響の劇場で鑑賞を。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Living National Treasure

ナショナル・トレジャーといえばニコラス・ケイジを思い出すが、これに living をつけることで、生きている国宝、すなわち人間国宝を意味する。Jovianが知っている人間国宝は中村吉右衛門以外では桂米朝、金重陶陽、藤原啓ぐらい。皆さんが思い浮かべる Living National Treasure は誰だろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』
『 JUNK WORLD 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 吉沢亮, 日本, 横浜流星, 監督:李相日, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

Posted on 2025年6月4日2025年6月4日 by cool-jupiter

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』 50点
2025年5月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:奥平大兼 出口夏希
監督:中川駿

 

『 君の膵臓をたべたい 』の住野よる原作、『 カランコエの花 』の中川駿監督ということでチケット購入。期待はやや裏切られた感じ。

あらすじ

大塚京(奥平大兼)は三木直子(出口夏希)に恋心を抱いていた。しかし、一方で単なるクラスメイトの男子としてのポジションにも満足していた。しかし、不登校だったとあるクラスメイトが学校に帰ってきたことで、京の周囲の人間関係が少しずつ動き出し始めて・・・

ポジティブ・サイド

はっきりとは覚えていないが、Jovianは保育園の年長ぐらいまでは、自分の気持ちも他人の気持ちも目に見えていた。より正確に言うと、AがBに怒っていると、AからBに赤い光線が走る、CがDに感謝しているとCからDに白い光線が走る、のように見えていた。まあ、イマジナリーフレンドのようなもので、自分だけに見えて、自分だけにリアルに感じられるものだったのだろう。小学校に入学したとたんに一切見えなくなったが、特にそれでショックを受けたような記憶もない。けれど、そうした見方をする子どもがいて、その子がそのまま成長したら・・・という想像は容易。なので、本作のキャラクターたちの「他人の気持ちが視覚化されて見える」という隠し事には素直に共感できた。

 

単に主人公とヒロイン、じゃなかったヒーローの二人の関係だけを追求する物語ではなく、5人組がアンサンブルキャストになっている点が良かった。若さとは省みないことたが、逆に省みすぎてしまうことでもある。青春時代、好きになってしまった相手に猪突猛進した人もいれば、好きになってしまったがゆえにその相手に対して身動きが取れなくなってしまった、なぜなら自分は相手にまったくふさわしくないから、と信じ込んでしまった人もいるだろう。本作は後者の集まりで出来ている。それが心理的な駆け引きではなく、それぞれの隠し事によるものだという点が興味深かった。

 

好きという感情もあれば、その反対に嫌いという感情もある。いや、マザー・テレサ風に言えば好きの反対は無関心か。誰かを嫌いになれるのも、それだけ相手を気に掛けているから。あるキャラがやや屈折した考え方(考え方であり、決して感じ方ではない点に注意)から一歩引いたところにいるのだが、これは古典的でありながらも現代的。『 カランコエの花 』のような価値観は本当に遠くのものになってしまったのだとしみじみ実感する。

ネガティブ・サイド

京のしゃべりがボソボソ、モゴモゴで聞き取りにくかった。監督の演出なのだろうか。はっきりとボソボソしゃべってこそ演技と言える。

 

ヅカにはパラ相手の見せ場はあったものの、一人だけ掘り下げが圧倒的に少なかったのは、原作がそうだからなのか、それとも脚本でそうなってしまったのか、はたまた編集の都合なのか。

 

主人公二人の特殊能力が、特に何もドラマを生まないのが一番の不満。他人の心理がある程度わかってしまう。だからこそ自分を抑えてしまうというのは、個人的には若さよりも老いを感じさせる。

 

ミッキーと京の距離が縮まるのがあまりにも唐突過ぎ。なんなら、不登校だったエルと京の間のドラマこそ盛り上がるべきだった。というか、女子からしたら男子にシャンプーを変えたことに気付いてもらえるというのは、メチャクチャ嬉しいか、メチャクチャ気持ち悪いかの二択。だからこそ、そこを追求するサブプロットがあってしかるべきだった。

 

全体的に5人が非常に閉じた世界に敢えて引きこもっているという印象を受けた。何の変哲もないクラスメイトの女子または男子が「お前らの両想い、バレバレだぜ?」みたいに一瞬だけ割り込んでくれば、もっとリアルになったように思う。

 

総評

羊頭狗肉は言い過ぎかもしれないが、「君の秘密を知ったとき、純度100%の涙が溢れ出す。」という宣伝文句は、看板に偽りありとの誹りは免れない。原作小説はしっかりしているのだろうか。中川駿監督の得意とするウソが下手な若者の像は描き出せている。ただ住野よるのテイストが出ていたかというと疑問。鑑賞するなら期待しすぎず、普通の青春群像劇でも観るか、ぐらいのノリでいた方が良い。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

dry up

干上がるという意味以外にも「言葉が出なくなる」という意味もある。He suddenly dried up in the middle of the presentation. =彼はプレゼンの最中に突然黙ってしまった、のように使う。プレゼン中でも商談中でも授業中でも、dry up は怖いものである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 国宝 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, 出口夏希, 奥平大兼, 日本, 監督:中川駿, 配給会社:松竹, 青春Leave a Comment on 『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

『 サブスタンス 』 -エログロ耐性を要する秀作-

Posted on 2025年5月31日2025年6月3日 by cool-jupiter

サブスタンス 75点
2025年5月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:デミ・ムーア マーガレット・クアリー
監督:コラリー・ファルジャ

 

『 金子差入店 』のタイミングが合わなかったので、急遽こちらのチケットを購入。見え見えの展開が続いたが、それでも面白かった。

あらすじ

元人気女優だったエリザベス(デミ・ムーア)は、TVプロデューサーの本音に触れてしまい絶望する。そして、より若く、美しい、完璧な自分を得られるというサブスタンスに手を出してしまう。新しく生まれたスー(マーガレット・クアリー)は栄光を掴んでいく。しかし、サブスタンスの使用に不可欠な厳格なルールを徐々にスーは破り始めて・・・

ポジティブ・サイド

観終わった直後の感想としては、アンソニー・ホプキンス主演の『 マジック 』のように、自分が自分に侵略されるストーリーを、ゲーテの『 ファウスト 』や百田直樹の『 モンスター 』など若さと美への執着で彩りつつ、映像的には『 遊星からの物体X 』、『 プロメテウス 』、『 ザ・フライ 』などのグロ要素も織り交ぜて、最後はスティーヴン・キングの『 キャリー 』でフィニッシュという、色々な作品の文字通りのパッチワークを見せられたという印象。しかし、つまらないことはなく、むしろ非常に面白かった。

 

サブスタンスに手を出してしまうまでのエリザベスの心情は決して言葉では語られない。デミ・ムーアはただ静の演技でそれを描出した。彼女自身のキャリアがエリザベスと同じで、自分でもプロローグ部分では、「そういえばデミ・ムーアって、『 ア・フュー・グッド・メン 』以降は何に出演してたっけ?」となってしまった。

 

若さや美に執着するのは、何も老いた女優だけではない。大学で授業をしている時には「大学生は若くていいなあ」と思うだけだったが、先日たまたま実家で大学の卒業式の時の写真が見つかり、あまりの自分の若々しさに愕然と、そして愕然としてしまった自分にショックを受けた。人間は他人の若さには普通に嫉妬するだけだが、自分自身の若さには異様に激しく嫉妬してしまうらしい。

 

ハリウッドだけではなく男社会全般に根強く蔓延る視線の暴力と、アメリカ的などんぶり勘定の薬の服用習慣、それらの当たり前ではない当たり前を人間のちょっとした妄執とかけあわせることで、オリジナリティには欠けるものの非常に上質なエログロのエンタメに仕上がったのが本作。金曜日のレイトショーで鑑賞したが、意外にというか、それとも予想通りと言うべきなのか、30歳前後ぐらいの女性のお一人様の割合が高かった。それだけ訴求力のあるテーマなのだろう。

ネガティブ・サイド

なぜアメリカ人は成功するとパーティーとセックスに走るのだろうか。いや、それはアメリカに限らず、どこの国の人間でもそうだろうという反論はあろうが、スーはいわばエリザベスの人生2周目。若さを謳歌するためではなく、キャリアに邁進する中でクレイジーになっていく、という展開が見たかった。

 

バイオレンスのシーンでは、いささか荒唐無稽なワイヤーアクションまがいの動きまであり、そこで白けてしまった。普通に若者が老人を力任せにいたぶるだけで十分に痛みは伝わる。

 

総評

観る人を選ぶ作品ではあるが、波長さえ合えばかなり面白いと感じられる作品。エリザベスの苦悩は女性に限定されないし、その懊悩は中高年にしか理解できないものでもない。judgemental という言葉があるが、エリザベスの目に映るプロデューサーの姿に冷や汗をかく男性も多いのではないだろうか。ゲーテやニーチェの言う通り、今という瞬間を肯定することの大切さと、それがいかに困難であるかを教えてくれるエンタメ作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

That’s what I’m talking about.

直訳すれば、それが私が話題にしていることだということだが、実際は目の前の出来事が自分の思い通りに展開した時に言う決まり文句。会議で誰かが我が意を得たりという意見を述べてくれたりしたときに言ってみよう(ただし自分が相手より役職が上の時に限る)。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新世紀ロマンティクス 』
『 金子差入店 』
『 か「」く「」し「」ご「」と「 』

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  
Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イギリス, デミ・ムーア, フランス, ホラー, マーガレット・クアリー, 監督:コラリー・ファルジャ, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 サブスタンス 』 -エログロ耐性を要する秀作-

投稿ナビゲーション

過去の投稿

最近の投稿

  • 『 28年後… 』 -ツッコミどころ満載-
  • 『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』 -自分らしさを弱点と思う勿れ-
  • 『 近畿地方のある場所について 』 -やや竜頭蛇尾か-
  • 『 脱走 』 -南へ向かう理由とは-
  • 『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

最近のコメント

  • 『 i 』 -この世界にアイは存在するのか- に 岡潔数学体験館見守りタイ(ヒフミヨ巡礼道) より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に cool-jupiter より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に 匿名 より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に cool-jupiter より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に イワイリツコ より

アーカイブ

  • 2025年7月
  • 2025年6月
  • 2025年5月
  • 2025年4月
  • 2025年3月
  • 2025年2月
  • 2025年1月
  • 2024年12月
  • 2024年11月
  • 2024年10月
  • 2024年9月
  • 2024年8月
  • 2024年7月
  • 2024年6月
  • 2024年5月
  • 2024年4月
  • 2024年3月
  • 2024年2月
  • 2024年1月
  • 2023年12月
  • 2023年11月
  • 2023年10月
  • 2023年9月
  • 2023年8月
  • 2023年7月
  • 2023年6月
  • 2023年5月
  • 2023年4月
  • 2023年3月
  • 2023年2月
  • 2023年1月
  • 2022年12月
  • 2022年11月
  • 2022年10月
  • 2022年9月
  • 2022年8月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
  • 2022年3月
  • 2022年2月
  • 2022年1月
  • 2021年12月
  • 2021年11月
  • 2021年10月
  • 2021年9月
  • 2021年8月
  • 2021年7月
  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月
  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月
  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月

カテゴリー

  • テレビ
  • 国内
  • 国内
  • 映画
  • 書籍
  • 未分類
  • 海外
  • 英語

メタ情報

  • ログイン
  • 投稿フィード
  • コメントフィード
  • WordPress.org
Powered by Headline WordPress Theme