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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 2020年代

『 ヒトラーのための虐殺会議 』 -淡々と進む超高速会話劇-

Posted on 2023年1月29日2023年1月29日 by cool-jupiter

ヒトラーのための虐殺会議 70点
2023年1月29日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:フィリップ・ホフマイヤー ヨハネス・アルマイヤー
監督:マッティ・ゲショネック


トレイラーを観て、面白そうだと感じたのでチケット購入。

あらすじ

時は1942年、ベルリンのヴァンゼー湖畔の邸宅にナチス親衛隊と各省の事務次官が集められ、ユダヤ人の絶滅を効率的に進めていくための会議が持たれた。議長のラインハルト・ハイドリヒ(フィリップ・ホフマイヤー)は、右腕のアドルフ・アイヒマン(ヨハネス・アルマイヤー)と共に、利害対立を調停していき・・・

ポジティブ・サイド

『 シン・ゴジラ 』も真っ青の超高速会話劇である。どのようにプロジェクトを進行させていくのかを各々が自分の立場から語っていくという意味では『 決算!忠臣蔵 』に近いとも感じた。ただし、怪獣対策や主君の仇討とは違い、ヴァンゼー会議で話し合われたのはジェノサイド計画。わずか十数名が90分でこの計画について話し合い、実務家レベルでの協議は続けていくとしたものの、大筋で合意してしまうのだから、戦時下という非常時とはいえ、当時のドイツがいかに狂っていたのかがよく分かる。

 

同時に、なぜ当時のドイツがヨーロッパをあっという間に蹂躙できたのかも見えてくる。恐ろしいまでに勤勉なのだ。わき道にそれるが、Jovianは大学時代にドイツ人留学生二人と寮で共に暮らした経験がある。そこで「『 今度、同盟組む時はイタリア抜きにしようぜ 』っていうジャーマン・ジョークがあるって聞いたけど、本当?」と尋ねたことがある。答えは「え、それはジャパニーズ・ジョークじゃないのか?」だった。一時期、日本人サッカー選手で海外で活躍するのは皆、ブンデスリーガ所属だったが、ドイツ人も日本人もとにかく勤勉なのだ。イタリア人と一緒に暮らしたことはないが、イタリア旅行に行ったことがある多くの知人友人から聞くところによると、勤勉な民族ではなさそうだ。

 

閑話休題。議長を務めるハイドリヒを会社の事業統括本部長とするなら、その最側近のアイヒマンは営業部長あたりか。この二人が実質的に取り仕切る会議に、各省や各方面軍の幹部が自らの権益を主張し、あるいは自らの負担減を主張する。丁々発止のやりとりで、ある時はハイドリヒが個別に話をし、またある時はアイスマンが冷静にデータとエビデンスを提示する。ビジネスプランを話し合っているのならお手本にしたくなるような映画だが、議題はあくまでもジェノサイド計画。

 

内務省次官のシュトゥッカートが強硬にユダヤ人疎開計画に反対するので、「あれ?」と感じたが、彼の出してきた対案に戦慄させられた。その直後、別室でハイドリヒとシュトゥッカートが二人だけで話すシーンでは、互いの家族について軽く談笑する。よくそんな話題を出して、しかも笑顔になれるなと背筋が寒くなった。もう一人、人道的な観点からの懸念を述べるクリツィンガーにも唖然とさせられる。人道的って、そっちの意味かよ・・・

 

本作はエンタメとしての要素を徹底的に削ぎ落している。BGMも音響も無し。凝ったカメラワークも一切なし。普通なら、書記役としてその場にいた若い女性の視点で会議を眺めるショットをいくつも入れそうなものだが、そんなものは一切なし。普通の人間の普通の視点からだけカメラを回すことで、作為性を一切排除した歴史ドキュメンタリー的な作品に仕上がった。無音のエンドクレジットを観て、虚無感が胸に去来した。

ネガティブ・サイド

おそらく議事録通りなのだろうが、会議出席者の自己紹介が欲しかった。一人だけというのはちょっと分かりにくい。まあ、本作はわざわざ鑑賞する向きは近代ドイツ史にまあまあ詳しい、あるいは関心があるという層のはずだが、ライトな鑑賞者もいるはずである。

 

『 RRR 』のように、エンドロールでヴァンゼー会議出席者たちの写真を映し出すぐらいしてもよかったのではないか。

 

総評

想像でしかないが、本作で描かれたのと同じような会議が2021年11月から2022年1月ぐらいにかけて、クレムリンのどこかで行われていたのではないか。自国の暗部を映画化することにかけては韓国が抜きん出ているが、その闇の濃さにかけては本作が突き抜けている。こんな主義および体制の国家と日本は同盟を結んでいたわけだが、ドイツにはヴァイツゼッカー大統領がその後に現れたが、本邦にはまだそのような為政者は現れていない。そのことをどう感じるべきかは、観る側の良識に委ねられている。

 

Jovian先生のワンポイント独語レッスン

interessant

発音はインテレサント、意味は「面白い」。英語の interesting にあたる。作中で Danke = ダンケと同じくらい聞こえてきたように思う。Jovianもたまにドイツ人と英語で話す時、アンドではなくウントと言うことがある。interessant も相槌か何かで使ってみようと思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エンドロールの続き 』
『 イニシェリン島の精霊 』
『 グッドバイ、バッドマガジンズ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ドイツ, フィリップ・ホフマイヤー, ヨハネス・アルマイヤー, 歴史, 監督:マッティ・ゲショネック, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 ヒトラーのための虐殺会議 』 -淡々と進む超高速会話劇-

『 そして僕は途方に暮れる 』 -逃げて、逃げて、逃げた先には-

Posted on 2023年1月29日 by cool-jupiter

そして僕は途方に暮れる 70点
2023年1月28日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:藤ヶ谷太輔 前田敦子 中尾明慶
監督:三浦大輔

『 娼年 』の三浦大輔監督が、とにかく目の前の現実から逃げる男の話を作ったと知り、面白そうだと思いチケットを購入。

 

あらすじ

フリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、鈴木里美(前田敦子)と同棲していた。しかし、里美に浮気を問い詰められた裕一は、発作的に家を出てしまう。そして親友の今井伸二(中尾明慶)の自宅に転がり込むが・・・

ポジティブ・サイド

元々舞台劇だったようだが、その臨場感は映画でも健在。主演と監督が舞台と同じだからだろう。冒頭から主人公が絵にかいたようなクソ野郎で、まったく共感できない。いや、クソ野郎ではなくダメ野郎か。日本のモラハラ夫の大部分ははこのようにして生まれているのだろうし、いわゆるニートの一部もこのようにして生まれていると推測される。このダメ男がなにかあるたびに次から次へと逃げていく。そして行きついた先に、自分を超えるダメ野郎と出会い、どう変わっていいのか分からないが、とにかく変わろうと決心する。ここは少し共感できた。特に藤ヶ谷太輔が見せる泣きの演技は『 志乃ちゃんは自分の名前が言えない 』の南沙良の泣きの演技に匹敵する。

 

『 そばかす 』に続き、ここでも前田敦子が絶妙な演技を披露している。Jovianはすっかり前田ファンである。この前田演じる里美も良妻賢母(今はこの言葉を使ってもいいのだろうか・・・)的なキャラと見せかけて、非常に人間味のある失敗をして、観る側を戦慄させる。いや、里美だけではなく、裕一の周囲の人間すべてがそうで、まさに共感と反感をジェットコースター的に感じられる一作に仕上がっている。

 

いくつか第四の壁を破るかのようなセリフがあるが、裕一が最後の最後に何度もこちら=観客席を振り返るのは、そういうこと。あとは世間様が何とか尻拭いしてくれるという甘い期待を抱いているのだ。実際、(Jovianの見た限りでは)劇場に訪れていた人の多くは、中年女性のおひとり様あるいは中年女性の二人組だった。嗅覚の鋭い観客たちである。

 

ネガティブ・サイド

 

映画としての絵のつなぎ方に問題多々あり。夜中のにわか雨のシーンから姉の家に転がり込むところで、小さなハンドタオルで濡れネズミの裕一の全身が拭けるはずがないし、ソファにも座るべきではないだろう。その後、姉の家を飛び出したシーンでも水たまり一つなし。さすがに不自然。

 

裕一のヒゲも変だった。鼻下だけに少し生やしているが、そんなデザインができるような生活をしていないだろう。

 

野村周平がゴジラ映画を撮っていた(?)っぽいが、映画の中に新作映画のCMは入れなくてよい。

 

総評

個人的には共感6割、反感4割の作品。自分でも学校や仕事から逃亡したことがあり、裕一のダメ野郎っぷりにイライラさせられながらも、自分を重ね合わせて見る瞬間も多かった。備わらんことを一人に求むる無かれ。人生とは詰まるところ、他人同士の尻拭いなのかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Like father, like son.

「この父親にして、この息子あり」の意。母娘の場合は、Like mother, like daughter. となる。是枝裕和監督の『 そして父になる 』の英語タイトルも Like Father, Like Son だった。英検準1級以上を目指すなら知っておきたい表現。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ヒトラーのための虐殺会議 』
『 エンドロールの続き 』
『 イニシェリン島の精霊 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 中尾明慶, 前田敦子, 日本, 監督:三浦大輔, 藤ヶ谷太輔, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 そして僕は途方に暮れる 』 -逃げて、逃げて、逃げた先には-

『 モービウス 』 -二番煎じのオンパレード-

Posted on 2023年1月28日 by cool-jupiter

モービウス 35点
2023年1月28日 レンタルBlu rayにて鑑賞
出演:ジャレッド・レト マット・スミス アドリア・アルホナ
監督:ダニエル・エスピノーサ

 

劇場公開時にはスルーした作品。近所のTSUTAYAで準新作になったので、クーポン使用でレンタル。

あらすじ

天才医師マイケル・モービウス(ジャレッド・レト)は、自らが患っている血液難病の治療法を探していた。ある時、コウモリの血清を使った治療法を自分自身に試した結果、マイケルは異能の力を授かってしまう。同時に、抑えようのない血液への渇望に苛まされるようになり・・・

 

ポジティブ・サイド

メインのキャラを演じた俳優たちは皆、ハマっていた。ジャレッド・レトは言うに及ばず、親友かつ宿敵となるマイロを演じたマット・スミスも『 ラストナイト・イン・ソーホー 』同様に、心に闇を抱えたキャラを好演した。

 

マイケルの同僚マルティーヌを演じた女優は美人だなと感じた。

 

ネガティブ・サイド

何もかもに既視感を覚えた。キャラもそうだし、ストーリーもそう。オリジナリティが決定的に欠如している。

 

ヴィランと見せかけてヒーローでした、は既に『 ヴェノム 』でやったこと。さらに主人公に立ちはだかるヴィランが主人公と同じパワーを持っているという筋立ても『 インクレディブル・ハルク 』以来、使い古されたプロット。幼い患者を救おうと結成を投与したらヴィランになってしまった。倒すためではなく止めるため、または元に戻して別の治療を施すために自らも結成を投与して患者であった少女と対峙する・・・のようなストーリーなら相当にドラマが盛り上がるはずなのだが。

 

マイケルとマイロのバトルも、まるでファンタビを観ているかのよう。コウモリがバトルをするのかどうかは知らないが、エコーロケーションによって死角からの攻撃も交わしてしまう、あるいは暗闇でも闘えるといった、コウモリらしさが感じられなかった。

 

血の臭いにすこぶる敏感になっていたマイケルだが、街中に出たら混乱するのでは?ちょっと下品かもしれないが、雑踏の中には「現在、生理中です」という女性などいくらでもいただろう。そうした臭いに反応してしまってもすぐに自制できる。しかし、マルティーヌの血の臭いには抗いがたい何かがある・・・といった描写をほんの少し入れてくれれば、それだけでマイケルが一気に人間臭くなり、感情移入しやすくなったと思う。

 

総評

近年のMCUの傾向を中耳になぞるかのように、一つの映画が一つの長大なインフォマーシャルになってしまっている。エンディングのカットシーンを観ても、もはや興奮できない。義理で鑑賞しているように感じ始めたMCUだが、あと1~2年で劇場鑑賞から離脱するのが吉かもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

work

上手く行く、の意。劇中では It worked. = 実験が成功したわ、のように使われていた。日本語でも「このプランは本当にワークするのか?」のように、一部の業界人は日常的に使っているのではないか。しばしば work like a charm = 魔法のように上手く行く = 実に上手く行く、見事に効く、という形で使われる。英会話中級者なら耳にしたことはある表現だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 そして僕は途方に暮れる 』
『 ヒトラーのための虐殺会議 』
『 エンドロールの続き 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, E Rank, アクション, アドリア・アルホナ, アメリカ, ジャレッド・レト, マット・スミス, 監督:ダニエル・エスピノーサ, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 モービウス 』 -二番煎じのオンパレード-

『 パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女 』 -カーアクションは少なめ-

Posted on 2023年1月26日 by cool-jupiter

パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女 70点
2023年1月22日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:パク・ソダム チョン・ヒョンジュン
監督:パク・デミン

 

仕事が繁忙期なので簡易レビュー。

 

あらすじ

クルマを運転させれば右に出る者がいないウナ(パク・ソダム)は、裏の世界の運び屋として生きている。ある日、プロ野球賭博のブローカーとその息子を運ぶという依頼が入る。しかし、アクシデントにより依頼人の幼い息子と300億ウォンの貸金庫の鍵だけを運ぶことになる・・・

ポジティブ・サイド

冒頭の数分間は『 ドライヴ 』、『 ベイビー・ドライバー 』、『 トランスポーター 』への韓国映画界なりのオマージュか。街中の路地の爆走や、静かに闇に紛れる様。クルマを駆る天才ドライバーというのは実に絵になる。パク・ソダムの無表情でのクールな演技は本作にマッチしていた。

 

子役のチョン・ヒョンジュンは『 パラサイト 半地下の家族 』ではあまり印象に残らなかったが、本作では守られるべき小さな子どもから、ヒロインを守らんとする男の子に成長する。よくこんな脚本を書いて、子どもに演じさせて、さらにそれを面白い筋立てに仕上げるものだと関心させられた。

 

韓国の警察は無能というのが定番だったが、今作の悪徳警察は特に悪辣。さっさと誰かこいつをぶっ殺せ、と心の底から思わせてくれた。

 

パク・ソダムはこれから役者としてのピークが来るだろう。続編も期待して良さそうだ。

 

ネガティブ・サイド

カーアクションが決定的に少ない。もちろん終盤の肉弾戦の迫力は否定しないが、本作の最大のアピールは華麗なるドライビング・テクニックであるべきだ。

 

国家情報院のおばちゃんに見せ場がなかった。悪徳刑事を吊し上げるのはこの人だと思ったが。

 

インドの青年にも、もう一つぐらい見せ場が欲しかった。

 

総評

『 非常宣言 』と同じく、日本ではとても作れそうにないダークな娯楽作品。ぜひ続編を作ってほしい。運び屋という裏稼業に興味のある人は、Jovianの先輩の書いた小説『 運び屋 』も読んでみよう。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

サジャン

社長の意。社 = シャ ⇒ サ、長 = チョウ ⇒ チャン。昔、うちの親父も韓国旅行していた時に「社長、社長、社長にはこれが似合う」とか言われて、高いカバンを露天商に買わされていたな。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 そして僕は途方に暮れる 』
『 ヒトラーのための虐殺会議 』
『 エンドロールの続き 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, チョン・ヒョンジュン, パク・ソダム, 監督:パク・デミン, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズ, 韓国Leave a Comment on 『 パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女 』 -カーアクションは少なめ-

『 そばかす 』 -アロマンティックという生き方-

Posted on 2023年1月23日 by cool-jupiter

そばかす 75点
2023年1月21日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:三浦透子 前田敦子 伊藤万理華
監督:玉田真也

簡易レビュー。

 

あらすじ

三十路になっても結婚せず、実家暮らしを続ける蘇畑佳純(三浦透子)に業を煮やした母親は、佳純に無断でお見合いをセッティングする。半ば騙されてお見合いをすることになったが、出会ったのはいきつけのラーメン屋の店主で、しかも彼は結婚を考えるよりも仕事に打ち込みたいと言う。佳純は彼と友達付き合いを始めるが・・・

ポジティブ・サイド

カメラワークではなく会話劇で魅せる。自宅の居間や職場の屋上など、何気ない日常のシーンをじっくりと切り取って、そこで交わされる言葉とその言外の意味でもってキャラクターの背景を語ってくれる。佳純と母親、佳純と父親、佳純と妹の会話の中身や、その声のトーンなどから、家族の人間関係が浮き彫りになってくる。非常に舞台演劇的で、Jovianは好きである。

 

三浦透子の自然体に見える演技がいい。アロマンティックやアセクシャルを公言する友人知人がいないので想像しかできなかったが、三浦の演技はその意味で非常にリアルだと感じた。村上春樹とは波長が合わないのだが『 ドライブ・マイ・カー 』にも少し興味が出てきた。

 

『 イニシエーション・ラブ 』あたりでは今一つだった前田敦子が、今や完全に女優になったなと感じる。『 食べる女 』や『 町田くんの世界 』あたりから進境著しい。Jovianは今作で前田のファンになってしまった。

 

シンデレラを書き換えるのは面白いし、実際には文学の世界では feminist theory の元、様々なおとぎ話がリライトされている。代表的なのはフィオナ・フレンチの『 スノー・ホワイト・イン・ニューヨーク 』だろうか。興味のある向きは大型図書館や大学の図書館などで借りてみよう。

 

ネガティブ・サイド

『 終末の探偵 』でも感じたが、BGMがうるさい。もっとシンプルにキャラクターのたたずないや風景だけで魅せてほしいと感じるシーンがいくつもあった。

 

最後のチェロの演奏シーンは正直ガッカリさせられた。音にではなく、演奏時の三浦の運指が音とあまり合っていなかった。『 セッション 』のマイルズ・テラーや『 ボヘミアン・ラプソディ 』のグウィリム・リーやベン・ハーディとまでは言わないが、玉田監督ならもっとリアリティにこだわって欲しかったし、三浦透子ならその期待にも十分に応えられると思うのである。

 

総評

『 僕の好きな女の子 』でも感じたが、Jovianは玉田真也監督と波長が合うらしい。男の普遍的な性質を活写する一方で、本作ではアロマンティックやアセクシャルという生き方を鮮やかにスクリーンに描き出した。本作はそうした生き方を素晴らしいと称揚しているわけではない。ただ、自分と同じ生き方を志向している人間はきっとどこかにいるのだ、ということを教えてくれる。実際にそうした人に出会えるかどうかは分からない。けれど、自分は独りではないと知ることは大きな empowerment になることは間違いない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

aromantic

ロマンティックに否定の接頭辞の a をつけたもの。意味は「恋愛感情を抱かない」。apathy = 感情がない、と構造的には同じ。sympathy = 気持ちが同じ = 共感、telepathy = 遠くの気持ち = テレパシー。asexual = 性的関心・欲求がないは生物学的にレアだと思うが、aromantic は割と普通だと思われる。romantic それ自体が元々が「ローマ的」という意味で、イクラ強力なミームであっても、一民族、一国家の性質を全人類に当てはめられるわけではないと考える。

 

ところで・・・外来語をカタカナで表記する際、元の語の成り立ちや読みやすさを考慮して、ア・ロマンティックのように書けないだろうか。最近、リスキリングという言葉が人口に膾炙するようになったが、これもリ・スキリングと書けば「スキルにイングがついて、死の前にリがついているのか」と感じられるようになる。ただ、そうするとリプレーをリ・プレーと書いたり、プレビューをプレ・ビューと書くことになるのか・・・ 外来語の翻訳と表記はかくも難しい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 そして僕は途方に暮れる 』
『 パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女 』
『 ヒトラーのための虐殺会議 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 三浦透子, 伊藤万理華, 前田敦子, 日本, 監督:玉田真也, 配給会社:ラビットハウスLeave a Comment on 『 そばかす 』 -アロマンティックという生き方-

『 終末の探偵 』 -裏社会と表社会のはざま-

Posted on 2023年1月20日 by cool-jupiter

終末の探偵 70点
2023年1月15日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:北村有起哉 武イリヤ
監督:井川広太郎

超絶繁忙期のため簡易レビュー。

 

あらすじ

しがない探偵の新次郎(北村有起哉)は、ヤクザと中国系マフィアのいざこざの元になった人物の捜索を依頼される。同じ頃、ミチコ(武イリヤ)という女性もクルド人の友人を探してほしいと依頼に訪れてきた。捜査を同時に進めていく中で、新次郎は別の巨悪の存在に近づいていき・・・

 

ポジティブ・サイド

北村有起哉の立ち居振る舞いが素晴らしい。正義の味方でもなく、ヤクザと友人関係にあるが、さりとて極悪人でもない。まさに表社会と裏社会のはざまに生きる探偵だと、ありありと感じられた。タバコをくゆらせながら旧知のヤクザと、おそらく最後となるであろう会話を交わすシーンは、

 

先日公開された『 ファミリア 』と同じく日本社会と移民の軋轢を描いているが、どうにも説教臭かった『 ファミリア 』よりも、本作の方がエンタメとしての純粋な面白さは上だと感じた。

 

『 マイスモールランド 』に続いてクルド人という、チベット人と同じく国を持たない民族出身の個人が失踪した。こうした寄る辺なき民に焦点を当てることには重要な意味があるように思う。ロシアによるウクライナ侵攻は、ある時突然自分が難民になりうるという可能性を世界に示した。そうした難民を受け入れるのか、拒絶するのか。それはそのまま自分の将来になっているのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

プロットがしょぼい。外国人を食い物にする者の正体は・・・って、これではテレビドラマではないか。昔の火曜サスペンス劇場を現代風に作り変えたら、こうなるのではないか。

 

ヤクザとマフィアが素手ゴロで決着というノリには個人的にはついていけなかった。『 初恋 』のような王道チャンバラでよかったのでは?

 

総評

テレビドラマの映画化と思うほどコンパクトな作品だが、逆にもう2~3本は同工異曲の作品を作ってみてもいいのではないか。劇場の入りもかなり良かった。映画館に足しげく通うようなファンなら、本作も是非チェックされたし。ニヒルで、それでいて熱い北村有起哉が堪能できる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

scavenger 

劇中で新次郎が自身を「俺は街のどぶさらいだ」と言うが、英語にすると I’m a scavenger. となるだろうか。scavenger と聞いて『 スター・ウォーズ エピソード7/フォースの覚醒 』を思い浮かべた人はナイス。元々は腐肉食動物を指すが、転じて廃品回収業者も指すようになった。古い関西弁を知っている人なら「ああ、ガタロみたいなものか」と感じることだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 そばかす 』
『 そして僕は途方に暮れる 』
『 パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, クライムドラマ, ヒューマンドラマ, 北村有起哉, 日本, 武イリヤ, 監督:井川広太郎, 配給会社:マグネタイズLeave a Comment on 『 終末の探偵 』 -裏社会と表社会のはざま-

『 ファミリア 』 -新たな家族像を提示する-

Posted on 2023年1月16日 by cool-jupiter

ファミリア 50点
2023年1月14日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:役所広司 吉沢亮 MIYAVI
監督:成島出

昨年末から気になっていた作品。『 ヤクザと家族 The Family 』とは異なる形で、新しい時代の家族の在り方を提示する野心作。

 

あらすじ

プラントエンジニアの学(吉沢亮)は、アルジェリア赴任中に現地で知り合ったナディアと結婚し、陶芸家の父・誠治(役所広司)のもとに彼女を連れてきた。その夜、地元の半グレ集団とトラブルに陥ったブラジル人のマルコスが誠治の仕事場に迷い込んできた。暴れるマルコスを誠治と学は必死で匿って・・・

ポジティブ・サイド

社会問題・時事問題をふんだんに盛り込んだ作品。特に、Jovianは2008年に某信販会社を辞めて、同年10月に富士重工関連会社から内定取り消しを食らった。リーマン・ショックの煽りで派遣切りが横行していた頃だ。また2013年当時は、大阪の某英会話スクールで日揮の社員のいるクラスを担当していたので、色々と話を聞かせてもらったことがある。なので本作の鑑賞中は、頭の中を色々なことが駆け巡った。

 

働いている業界が業界なので、Jovianの周りは国際結婚だらけである。同僚には夫もしくは妻がアメリカ人、カナダ人、イングランド人、メキシコ人、ペルー人、韓国人、中国人まで様々だ。なので学がナディアと結婚することを素直に受け止めることができたし、実際に今後はこうした国際結婚がどんどん増えていくのは間違いない。学というキャラクターの先駆的なところは、日本に来る外国人と結婚するのではなく、日本の外でパートナーを見つけたこと。これはJovianの周りでも二人しかいないので、かなり珍しい。今はそうした日本人は珍しいが、今後はもっと出てくるはず。それを予感させてくれたのは良かった。

 

MIYAVIは『 ヘルドッグス 』と同じような役だったが、『 BLEACH 』の頃に比べて演技力は格段に向上した。そう感じるのは、彼が弊社の某アンバサダーを務めているからではない。純粋にパフォーマーとしてまだまだ成長できるし、本人がそれを志向しているのだろう。愛する家族を失ったがゆえに暴走するという、役所広司とは異なるベクトルの狂気を巧みに表していた。その役所広司の演技は堂に入ったもの。『 ハルカの陶 』に登場してもおかしくなさそうな指使いで土ひねりをする様には見入ってしまった。吉沢亮との父子の関係もナチュラルで、まさに日本の俳優の大御所である。

 

ブラジル人(別にベトナム人でも中国人でもインド人でも良い)という異質な存在を社会がどう受け入れるのか、または疎外するのか。そうした状況において、個人と個人はいかなる関係を結べるのか、または結べないのか。今後、日本社会のあちこちで進行していくであろうこうした物語を、かなり極端な形ではあるが、本作は描いている。老若男女問わずに観て、そして考えてほしい作品である。

ネガティブ・サイド

ストーリーが全体的にちぐはぐ。息子を失った父の暴走の方向が『 空白 』とは全く違った形で炸裂する中盤の展開は、ホンマかいなと感じてしまった。日本の政治家や役人が海外のテロに何か手が打てるわけがないし、情報が手に入れられるわけでもない。これは歴史的史実。それよりも学とナディアを日本に帰還させて「自己責任!」という言葉を浴びせかける日本社会を描写した方が、もっと強力な社会風刺映画になったことだろう。

 

提示したい家族像が強すぎるというか、届けたいメッセージが強烈すぎるような気がする。愛する妻と娘を失った男が狂気に駆られ、愛する息子を失った男が狂気に駆られるも、最終的には新たな家族を見出すというのは、ちょっとご都合主義が過ぎる。受け取りようによっては、血のつながりは代替可能であるとも取れてしまう。また誠治にそれが可能なのは、彼自身が孤児だったという背景にその要因があるという描写も個人的には受け入れがたかった。

 

半グレやヤクザが在日ブラジル人の若者をとことん痛めつけるが、北野武の映画かいなというぐらいの暴力描写。それはもちろん構わないのだが、そこが一種の見せ場になっているのはどうなのかなあ。公園で遊ぶ小学生ぐらいの子どもたちが無意識に、あるいは意識的に見せる差別意識やいじめの描写を入れることで、逆にエリカやマルコスがどのような艱難辛苦を現在も味わい続けているのかを観る側に想像させる方が、より大人な映画作りであると思うのだが。

 

マルコスが陶芸作りに興味を持ったきっかけが不明瞭だと感じた。色んなあらすじでは、「誠治に亡き父の面影を見出し・・・」的なことを書いているが、そんな描写あったっけ?ここを深堀りしないとタイトル詐欺になるのだが・・・

 

総評

非常に示唆的なドラマと、物語のために無理やり過剰に盛り上げるドラマが混在する作品。結局のところ、役所広司というスーパーな俳優の包容力によってかろうじて成り立つ物語である。ただ『 しあわせのマスカット 』のように時事問題・社会問題を大胆に取り入れた点は評価できる。愛と狂気は表裏一体だが、MIYAVIのキャラが地元有力者の御曹司という点が気になった。ただの一般人が憎悪に駆られていく。その一方で、ただの一般人は愛情を見出していく。そんな対比があれば、もっと上質な人間ドラマになったはず。役所広司やMIYAVIのファンなら鑑賞しても損はない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

take care of ~

~の世話をする、の意味。劇中では「息子をよろしく頼みます」=Please take care of my son. と訳されていた。今後、日本でも国際結婚が増加する。これぐらいの簡単な英語ぐらいは知っていてもいいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女 』
『 そして僕は途方に暮れる 』
『 死を告げる女 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, MIYAVI, ヒューマンドラマ, 吉沢亮, 役所広司, 日本, 監督:成島出, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 ファミリア 』 -新たな家族像を提示する-

『 非常宣言 』 -デタラメなパワーで突っ切る韓国映画-

Posted on 2023年1月12日 by cool-jupiter

非常宣言 70点
2023年1月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ソン・ガンホ イ・ビョンホン チョン・ドヨン イム・シワン
監督:ハン:ジェリム

色々あって年末年始は劇場に行けなかったが、新年一本目に本作をチョイス。

あらすじ

パク・ジェヒョク(イ・ビョンホン)の娘は、トイレで不審な男性を目撃する。その後に搭乗したハワイ行きの航空便で、乗客が吐血して死亡。機内はパニックに陥る。同じ頃、国内ではバイオテロの犯行予告動画が拡散しつつあった。捜査に乗り出したク・イノ刑事(ソン・ガンホ)は、テロの標的となった飛行機に妻が乗っていると知り・・・

ポジティブ・サイド

物語の開始から、最初の死者が出るまでが非常にスピーディーだが、このテンポが最後まで落ちない。やれやれ、話がちょっと一段落したか、と思った瞬間から、新たな展開が矢継ぎ早に始まっていく。普通の映画だったらここで終わり、という瞬間からさらに40分は尺を稼ぐが、そこに長さを感じない。最初から最後まで無茶苦茶な展開ながら、観る側を飽きさせずに惹きつけ続ける力を持っている。

撮影という面でビックリさせられたのは、機長が感染して、飛行機の操縦が滅茶苦茶になるところ。飛行機がきりもみ回転しながら降下していくシーンでは、キャビンの乗客の一部がマイナスのGの作用で天井にはりつけられてしまう。トム・クルーズの『 ザ・マミー/呪われた砂漠の王女 』のように本物の飛行機を使ったとは思わないが、観ていてハッとさせられた。

ソン・ガンホとイ・ビョンホンという二大巨頭の揃い踏みだが、バイオテロの犯人を演じたイム・シワンが最も凄みのある演技を見せる。『 殺人鬼から逃げる夜 』のウィ・ハジュンでも感じたことだが、整った顔立ちの青年が狂気をはらむ歪んだ笑顔に変わっていく瞬間は、本当に気持ち悪い。これは誉め言葉である。イム・シワンが聞けば「俺の演技力を見たか」と思うに違いない。

もちろん両巨頭の見せ場も十分にある。妻を思う心優しきソン・ガンホが、そんな馬鹿なという方法で状況を打開するし、トラウマを抱えるイ・ビョンホンがそれを乗り越えていく過程にもドラマがある。チョン・ドヨン演じる強気の大臣も素晴らしい。緊急事態宣言下でサービスエリアが営業しない中で、トラック運転手にコンビニ利用を促したどこぞの島国のアホな国土交通大臣とは大違い。このようなリーダーシップを真正面から描ける点は素直に羨ましい。

ネガティブ・サイド

アメリカに追い返される韓国機はまだしも、日本の航空自衛隊があんな対応するかなあ。厚木の米軍が出張ってくるのは現実的にも本作のストーリー的にも考えられるが、百里あたりの自衛隊が、下手したら日韓戦争の引き金をひくような真似をするだろうか。やはり日韓は互いに相手を仮想敵国と見ているのか。

韓国国民が飛行機に対して拒絶反応を起こすのは理解できるが、たかだが数時間程度の間に各種のプラカードや横断幕を準備して、組織だった反対デモが起こるものだろうか。いくらデモ好きの韓国人とはいえ、非現実的に見えた。

総評

劇中の韓国国民が感染者を多数抱えた飛行機を受け入れるかどうかで激論を交わす様は、2020年当時の我々がダイヤモンド・プリンセス号に対して投げかけた言説と同じであることを思い起こさせられた。ちょうど本作鑑賞の前日に中部空港のジェットスターに爆破予告の電話があったとのニュースが。パンデミックと航空機テロという二つの要素が、この上ないタイミングで合わさった韓国スリラーである。

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ピ

血の意。劇中で何度も何度も「ピ!ピ!」とキャラたちが大騒ぎするので、すぐに分かる。チとピで何となく似ている気がする。

次に劇場鑑賞したい映画

『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』
『 ファミリア 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イ・ビョンホン, イム・シワン, スリラー, ソン・ガンホ, チョン・ドヨン, 監督:ハン・ジェリム, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 非常宣言 』 -デタラメなパワーで突っ切る韓国映画-

『 ナイト・ウォッチャー 』 -ドンデン返しが少し弱い-

Posted on 2023年1月3日 by cool-jupiter

ナイト・ウォッチャー 60点
2023年1月1日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:タイ・シェリダン アナ・デ・アルマス ジョン・レグイザモ ヘレン・ハント
監督:マイケル・クリストファー

新年一発目は近所のTSUTAYAの準新作コーナーから、『 ザ・メニュー 』のジョン・レグイザモ出演作の本作を pick out 。

 

あらすじ

アスペルガー症候群持ちのバート(タイ・シェリダン)は、ホテル受付の夜間シフトで働いている。彼は秘密裡に客室を盗撮し、人間同士のやりとりから普通のコミュニケーションを学んでいた。ある夜、ホテルで殺人事件が発生。バートのカメラに犯人とその犯行が映っていたが、彼はそれを警察に知らせることができず、逆に第一発見者として警察にマークされてしまう。系列の別ホテルに異動となったバートは、懲りずに盗撮を行うが、そこに謎めいた美女のアンドレア(アナ・デ・アルマス)が客として訪れ・・・

 

ポジティブ・サイド

タイ・シェリダンがアスペルガー役を好演。合わない視線、過剰な答え、あるいは質問に対する返答拒否ともいえる応答、相手の気持ちや会話の流れをぶった切る発話など、まさに言葉の正しい意味でのコミュ障である。客室を盗撮・盗聴して、そこでのやりとりから普通の人のコミュニケーションを研究するというのだから、まさに他人の気持ちが理解できていない。この主人公に感情移入するのはなかなか難しいが、母親やホテルの経営者が良き理解者になってくれているので、観ている側は一定の距離でバートを見守ることができる。

 

序盤の終わり、アナ・デ・アルマス演じるアンドレアの登場からシチュエーションが一気に動く。コミュ障であるバートがいかにしてこの美女と距離を縮めていくのか。このプロセスが、アスペルガーだけではなく、広くコミュ障全般、いや、ある程度青臭い男性全般に当てはまるような描き方をされているので、観ている側(特に男性)はここで一気にバートを応援したくなる。この流れの絶妙さは、是非とも鑑賞の上で確認を!

 

殺人事件の第一発見者であるバートを第一容疑者として追う刑事が、厳しさと優しさを併せ持っていて、彼の存在もバートの難しいパーソナリティをオーディエンスが理解することを助けている。観ている我々はバートが犯人ではないことを知っていて、しかしバートはそのことを刑事には伝えられず、なおかつ刑事はバートを追わざるを得ないという、観ている側がキャラに感じるジレンマと、キャラがキャラに対して感じるジレンマが複雑に入り組んだプロットは本当にもどかしい。それが観る側をストーリーに引き付ける。最後に「え?」と思わせる展開も待っており、低予算映画としては満足のいくクオリティのサスペンスに仕上がっている。

 

ネガティブ・サイド

バートがどういうきっかけで盗撮・盗聴からコミュニケーションを勉強しようと思い立ったのかが分からない。『 ベイビー・ドライバー 』のベイビーがテレビをザッピングしながら色々なセリフを吸収していくのと同じようなシーンが少し挿入されていれば、バートなりのアスペルガーのコーピングがどういうものなのか理解しやすくなったのだが。

 

アンドレアが語るアスペルガーの弟の話は必要だっただろうか。アスペルガーが転帰して死に至ることは普通はない。こうした一種の障がいを描く映画は、必ずしもその障がいをユニークかつポジティブなものとして描く必要はないが、だからと言って誤った情報、あるいは誤解を与えかねないような描写は慎むべきではないだろうか。

 

最後のドンデン返しがちょっと弱いと感じる。というよりも、やはりアンドレアの弟の話を抜きにクライマックスを構成すべきだったと思う。相手がアスペルガーであろうと普通人であろうと、態度を変えないのがアンドレアの長所であるべきではなかったか。

 

総評

90分と非常にコンパクトな作品で、サスペンス風味でありながら、最後にミステリの様相も帯びる作品。ドンデン返しに少々不可解さも残るが、バートという青年の一種のビルドゥングスロマンだと思えば、納得いくクオリティだと言える。アナ・デ・アルマスのヌードも拝めるので、スケベ映画ファンはそれを目当てに視聴するのもありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

die from ~

~が原因で死ぬ、の意。

die of 直接的な死因

die from 間接的な死因

と覚えよう。普通は die of cancer =ガンで死亡する、のように of を使うが、劇中では die from love =愛で死ぬ、のように使われていた。

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜、鳥たちが啼く 』
『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アナ・デ・アルマス, アメリカ, サスペンス, ジョン・レグイザモ, タイ・シェリダン, ヘレン・ハント, 監督:マイケル・クリストファー, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズLeave a Comment on 『 ナイト・ウォッチャー 』 -ドンデン返しが少し弱い-

『 アバター ウェイ・オブ・ウォーター 』 -オリジナリティはどこに?-

Posted on 2022年12月31日2022年12月31日 by cool-jupiter

アバター ウェイ・オブ・ウォーター 50点
2022年12月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:サム・ワーシントン ゾーイ・サルダナ スティーブン・ラング シガニー・ウィーバー
監督:ジェームズ・キャメロン

 

妻が3Dで観たいというのでチケットを購入。

あらすじ

ジェイク(サム・ワーシントン)ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)は子宝にも恵まれ、パンドラの森で幸せに暮らしていた。しかし、クオリッチ(スティーブン・ラング)がアバターとして復活し、ふたたびパンドラに武力制圧に乗り出してきたことで、ジェイクは一家を連れて、海の民メトケイナ族のところに身を寄せるが・・・

ポジティブ・サイド

3Dで鑑賞したが、森の木々や葉の重なりの表現には驚かされた。前作『 アバター 』でジェームズ・キャメロンは「観客をパンドラに連れていくのではない。そこに住んでもらうんだ」と語っていたが、その映像世界への没入感はさらに上がったと言える。海のシーンでもそれは同じ。透き通った水の世界への没入感はすごかった。特にサンゴ礁的な場所で次男ロアクが大ピンチに陥るシーンは、呼吸できない水中ならではの緊迫感とも相まって、まさに息もできないほどだった。

 

中盤以降のドンパチ満載のアクションは大迫力の一言。『 エイリアン2 』や『 ターミネーター2 』に勝るとも劣らない大スペクタクルで、この水中、水上、船上、船内のバトルの連続だけでご飯が3杯は食べられるほど。CGを駆使したアクションの迫力だけなら『 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 』や『 アベンジャーズ / エンドゲーム 』よりも間違いなく上だろう。製作費が2億ドル超らしいが、その予算を正しく使ったのだと言える。

 

本作は『 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス 』と同じテーマを追求している。すなわち、父親とは誰かという問いに対する答えを提示しようとしている。GoGでは、産みの親なのか、それとも育ての親なのかという二者択一の問いだったが、本作は父親であろうとしないジェイク、そして父親であることを拒否するクオリッチという対比が非常にユニークだ。これはジェイクとネイティリの子どもたちが直面するアイデンティティ・クライシスにもつながる問題で、This family is our fortress. = 家族こそが砦だ、と言い切るジェイクの弱さにドラマの焦点が当てられている。ナヴィという種族に惹かれたというよりも、ネイティリという個人に惹かれたという印象の強かったジェイクは、ある意味で成長していない。父親であろうとするよりも司令官であろうとする。それがある意味で、すぐに自分の子どもに向かって “Who’s your daddy?!” と説教するアメリカ人的(ジェームズ・キャメロンはカナダ人だが)だ。対するクオリッチは、スパイダーという自分の生物学的な息子をナヴィ後の便利な通訳ぐらいにしか考えていないが、その姿勢が最後に変化する。このコントラストの鮮やかさが本作のドラマ上のハイライトと言える。

 

疑似的な父子の関係を追求は『 トップガン マーヴェリック 』でも見られたが、これはアメリカ人(キャメロンはカナダ人・・・)の好物テーマ。ということは日本人好みのテーマでもあるということ。アクションだけではなくドラマもかなり盛り上がったと感じる。

ネガティブ・サイド

超上空から超大熱量のレーザーで撃ってくる地球人に、「すわ、パンドラに危急存亡の秋か?」と緊張が走るが、元々は鉱物資源の採掘に来たのではないの?貴重な資源にまでダメージを与えそうな超兵器をいきなり使うのはどうなの?と思ったら、今度はパンドラのトゥルカンの脳髄からゲットできる脳漿(?)のようなものが地球人の不老につながる???だからトゥルカンを狩りまくる???アバターを生み出せるほどの科学技術があるなら、その謎の不老物質もラボで生み出せるのでは?このトゥルカン狩りの指揮者がコテコテのブリティッシュ・イングリッシュ・スピーカーで、新天地の富を収奪するのはアメリカ人ではなく英国人という意味不明な印象操作。ジェームズ・キャメロンのアイデンティティーはどうなっているのか。

 

トルーク・マクトという伝説の英雄的なポジションに就きながらも、ジェイクがあっさりとその立場を放棄して、森の民を捨てて、森から離れてしまうのかがよく分からない。いや、それはあんな超兵器を見せられたら逃げるしかないのは分かるが、普通に考えればその宇宙船もサリー一家が逃げる先に移動できるわけで、なぜ海にまで追ってこないのか。単に舞台を海に移したいがためだけに出てきた超兵器なのか。

 

水の映像は文句なしに美麗だが、海という環境、そこに住まう生物に関してはオリジナリティが全く感じられなかった。前作のトルークはまあまあ独特な生物だと感じられたが、今作ではクオリッチもあっさりと乗りこなしてしまったことでプレミア感がダウン。また、代わりに登場する絆を結ぶ相手が思いっきりトビウオ。もっと異星感を出せなかったのか。トゥルカンもまんまクジラで、人とクジラは絆を結べ=クジラを食べるな、とでも主張しているのか。前作の、ヨーロッパ人が新大陸アメリカを発見した的な世界観はまだ許せるが、その新世界にもアメリカ的なルールを持ち込みますというのは頂けない。というか、ジェームズ・キャメロンは何がしたいんや。自分の息子やキリなどの、いわゆる混血児が疎外されてしまう問題を「家族の絆」で乗り越えようというのは理解できないこともないが、動物との関係をどう考えてるの?

 

生物学の専門家ではないJovianの目から見ても、スキムウイング(パンドラのトビウオ)が海面を飛び出て飛ぶようになったには、捕食者から逃れるか、または海面上にエサがあるからだろう。後者の描写はなく、おそらくトゥルカンがスキムウィングの捕食者なのだろうが、だとすれば片方でスキムウィングに乗りつつ、トゥルカンと絆を結ぶメトケイナ族とはいったいどんな二枚舌部族なのか。というか、トゥルカンは魚類なのか哺乳類なのか。というのも体を左右に振る魚式の泳ぎ方と上下に振るクジラ式の泳ぎの両方を見せていたから。クジラと同じく頭のてっぺんから潮を吹く生物が魚だとは考えにくいが、スタッフの誰もこの泳法の違いには気付かなかったのだろうか。

 

総評

3時間超の作品だが、映像体験としては文句なし。アクションに次ぐアクションで尿意を感じる暇もなかった。その一方で、ストーリーとしてはツッコミどころ満載かつオリジナリティに欠ける。『 ポカホンタス 』のアナザーストーリーをあと何回観ればよいのだろうか。次は地下か?それとも雲の上?クオリッチがある意味、不死者になってしまったため、エイワの力によって色々なキャラを復活させないと、今後のドラマは作りにくそう。まあ、そういったあれこれを考察するだけのドラマはしっかりと用意されている。生物学だの文化人類学だのの観点から考えなければ、スリリングな3時間を過ごすことはできる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

fortress

「砦」の意。音楽をやっていた人ならフォルテ=強く弾くという用語を知っているだろう。これはラテン語の fortis = strong から来ている。英検準1級レベルであれば、stronghold ≒ fortress というのも知っているはず。戦争映画や戦争ゲームでよく出てくる語なので、そのジャンルのファンなら知っておいて損はない。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, D Rank, SFアクション, アメリカ, サム・ワーシントン, シガニー・ウィーバー, スティーブン・ラング, ゾーイ・サルダナ, 監督:ジェームズ・キャメロン, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 アバター ウェイ・オブ・ウォーター 』 -オリジナリティはどこに?-

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