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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 2020年代

『 ハンサム・ガイズ 』 -ホラーとコメディの融合作-

Posted on 2025年10月17日2025年10月17日 by cool-jupiter

ハンサム・ガイズ 60点
2025年10月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:イ・ソンミン イ・ヒジュン コン・スンヨン
監督:ナム・ドンヒョプ

 

シリアスな作品を連続で鑑賞したので、箸休めに本作のチケットを購入。

あらすじ

強面のジェピル(イ・ソンミン)と筋骨隆々のサング(イ・ヒジュン)は山奥に夢のマイホームを購入。しかし、近くに遊びに来ていた大学生グループのミナ(コン・スンヨン)を湖から助けたことから、大学生たちに殺人鬼だと勘違いされ・・・

ポジティブ・サイド

おっさん二人で家を買うという関係性がいい。「ハンサムな俺たちがモテないのは、モテようとしていないからだ」という発言も笑ってしまう。なるほど、この映画は一見して冴えない二人がモテるようになるストーリーなのだな、と分かりやすく予感させてくれる。

 

対するは、よくあるイケイケの大学生グループ。これが車で黒山羊を轢き殺してしまったことで、悪魔がよみがえってしまう。何を言っているのかわからないかもしれないが、『 破墓 パミョ 』みたいなものだと思えばよろしい。

 

ミナが殺人鬼に捕らえられたと勘違いした一団が、一人、また一人とアホな死に方をしつつ、死ぬことで悪魔の手先として復活する展開には笑った。と、同時にとある大学生の死にざまと復活は極めてまっとうなホラーになっていたりもする。バランスがいい。序盤の家のリフォーム作業や、その際に見つかった以前のオーナー神父の所有物も、終盤にしっかり効いてくる。

 

最後はほのぼの。モテるとは、不特定多数の異性から人気抜群になることではない。得難い異性の友を得ること、それができれば、そいつらはきっとハンサムだ。

 

ネガティブ・サイド

大学生がミナの奪還に乗り出す理由が弱い。もっと『 愚行録 』的な内容だったら、その後の言動との整合性がより強くなったと思うのだが。

 

ジェピルが理不尽にボコボコにされるシーンは、何らかの方法でもっとシリアスさを減じることはできなかったか。かなり胸が痛むシーンだった。男子大学生は、このシーンがあろうとなかろうと、すでに十分に嫌な奴。なので、彼にヘイトを集めるという意味も薄かった。

 

I don’t know English. と言っていた神父が(文字通りに)大きく成長して登場。なので、本当の意味での成長も見てみたかった。ラテン語を読めると思えるシーン(病室の床頭台の上のテクスト)があったのだから、『 エクソシスト 』のカラス神父よろしく、ラテン語を話すぐらいはしてほしかった。

 

総評

最初の30分ぐらい、本気でジェピル=イ・ソンミンだと気付かなった。それぐらいメイクも濃かったし、表情の作り方も違う。本当にカメレオン俳優だと思う。ホラーというにはコメディでありすぎ、コメディというにはホラーでありすぎる。ジャンル・ミックスの成功作品で、韓国宗教に関する知識がなくとも問題なく楽しめるライトな作品。度を越したグロ描写はないが、想像するのもはばかられるような死に方が一つあるので、そこだけは注意のこと。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヌグセヨ

韓国ドラマや映画でしょっちゅう聞こえてくる。意味は「どちら様ですか」で、ドア越しでも電話でも使える。意味としては Who is it? もしくは Who are you? である。次に韓国のドラマや映画を観る時には、ぜひ耳を澄ましてみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 さよならはスローボールで 』
『 ハウス・オブ・ダイナマイト 』
『 恋に至る病 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, イ・ソンミン, イ・ヒジュン, コメディ, コン・スンヨン, ホラー, 監督:ナム・ドンヒョプ, 配給会社:ライツキューブ, 韓国Leave a Comment on 『 ハンサム・ガイズ 』 -ホラーとコメディの融合作-

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』 -革命はテレビで放送されない-

Posted on 2025年10月13日2025年10月13日 by cool-jupiter

ワン・バトル・アフター・アナザー 75点
2025年10月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:レオナルド・ディカプリオ ショーン・ペン ベニシオ・デル・トロ チェイス・インフィニティ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン

 

3時間近い上映時間ということで、しっかり昼寝をしてからレイトショーに出陣。

あらすじ

パット(レオナルド・ディカプリオ)は過激派フレンチ75の一員として活動していた。同志のペルフィディアとその娘と共に暮らすようになるが、ある時、仲間が銀行強盗に失敗。一転して追われる身となったパットは、まだ若い娘のウィラと共に新たな戸籍を得て逃亡する亡するが・・・

ポジティブ・サイド

D・トランプが激怒しそうな作品。もうそれだけで面白い。ある意味でアメリカ版の『 桐島です 』の桐島聡が『 ハリエット 』のハリエット・タブマンと出会ってしまった、という物語だった。

 

あるきっかけによりハリエット、ではなくペルフィディアを執拗に追い回すことになる狂った警察官をショーン・ペンが怪演。個人的には『 アイ・アム・サム 』のイメージの強い俳優だったが、こんな頭のイカれたオヤジ役もやれることに軽く感動させられた。ストーリーが進むほどに狂気の度合いがどんどん増していき、見ているこちらが心配になるほどだった。

 

対照的に、ディカプリオは頭のイカれたオヤジというよりも、腑抜けてしまったオヤジが父親として強さを取り戻していくストーリー。序盤は常に頭がラリっていて、言動も不穏、動きもヨレヨレ。しかし、娘のウィラに魔の手が迫っていることを知ってからは徐々に革命の闘士として再覚醒していく。その過程の描写もサスペンスとユーモアの配分が絶妙。ポール・トーマス・アンダーソンのキャリアの中の演出でも、これはベストではないか。

 

そのボブを手助けするベニシオ・デル・トロ演じるセンセイのキャラも非常に味わい深い。ヒスパニックであり、英語とスペイン語を話し、空手の指導者でありながら教え子のウィラはなぜか韓国語を話すという、劇中で誰よりもアメリカ的と言えるキャラである。かつ現代版のハリエット・タブマンと言える男である。彼が用意しているトンネル(実際にはtunnnelと発音されていた)の字幕が地下鉄道となっていることに気付かれただろうか。これはまさに『 ハリエット 』が車掌を務めた地下鉄道へのオマージュ。字幕翻訳担当の松浦美奈は great job である。警察に逮捕されたボブが見事に脱走できたのも、まさに現代版の地下鉄道の力によるもの。決してご都合主義ではない。もちろん本物の「地下鉄道」にも言及される場面があり、それに言及する人々がどのような人種であるかにも注目してほしい。

 

アメリカのリベラルを強烈に支持しているようにも嘲笑っているようにも見える。受け取り方は様々だろうが、アメリカはしばしば建国の父たちを称揚する。ボブとウィラという一種のいびつな親子関係をアメリカという非常に若い国家の歴史と重ねて合わせて見るとよいだろう。たとえば建国の父たちが定めた One man, one vote. =一人一票という原則は平等に見えて実は違う。これは実はアメリカに限った話ではなく、たとえばアジアの中で最も急速に近代化に成功した日本も、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」の精神を発揮したが、これも実は「天は日本人の上にアジア人を造らず欧米人の下に日本人を造らず」というのが福沢の本音だったりする。本作はアメリカ特有の問題を扱った上質なサスペンスというだけではなく、それが実は先進国の近現代史のダークな精神性の発露とそれへの批判という意味にも捉えられるべきである。

 

ネガティブ・サイド

ペルフィディアのキャラがイマイチよくわからない。序盤早々に姿を消してしまうが、そこは何らかの最後っ屁をかましてほしかった。

 

賞金稼ぎの突然の変心の理由が弱いというか、”I don’t do kids.”と言いながら、ロックジョーの提案にあっさり乗ってしまうのは何故なのか。握手の前に数秒の躊躇なり、一瞬の表情の曇りなどを見せてくれれば、変心のシーンはご都合主義には映らなかっただろう。

 

ウィラにはジャン=クロード・ヴァン・ダムのハイキックをロックジョーにお見舞いしてほしかった。その上でケロッとしているロックジョーというのは、かなりシネマティックなシーンになったはず。

 

総評

3時間近い上映時間に身構えていたが、最初の30分あたりを過ぎてしまえば、後はストーリーに引き込まれるのみ。アクションあり、サスペンスあり、スリルあり、ユーモアありの濃密な時間だった。日本はアメリカの30年遅れだとよく言われるが、外国人人口が全体の3パーセントを占めるようになった今、本作は日本社会の在り方を考えるための大きなヒントにもなりうるエンタメ大作だと言える。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

fight fire with fire

直訳すれば「火を使って火と戦う」だが、実際のニュアンスは「やられたらやり返す」というもの。劇中では火炎瓶を投げてくるモブに対して、Let’s fight fire with fire. のセリフと共に催涙弾が撃ち込まれた。別に火炎放射器で反撃しても、意味としてはおかしくないが。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 さよならはスローボールで 』
『 シークレット・メロディ 』
『 恋に至る病 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, サスペンス, ショーン・ペン, チェイス・インフィニティ, ベニシオ・デル・トロ, レオナルド・ディカプリオ, 監督:ポール・トーマス・アンダーソン, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』 -革命はテレビで放送されない-

『 ラテン語でわかる英単語 』 -校正と編集に甘さを残す-

Posted on 2025年10月9日2025年10月9日 by cool-jupiter

ラテン語でわかる英単語 50点
2025年10月1日 読書開始(読了時期未定)
著者:ラテン語さん
発行元:株式会社ジャパンタイムズ出版

 

折に触れて小説やら新書を紹介しているが、今回はかなり異色の書籍を紹介したい。

 

概要

「本書は、英検®1級レベルの高い語彙力をつけたい方が効率よく英単語を学習できるように作成したものです」(3ページより抜粋)

 

ポジティブ・サイド

Jovianは英検1級に合格しているが、特段、対策はしなかった。なぜなら(と言っていいかどうか分からないが)ラテン語のバックグラウンドがあったからだ。大学3年生のまるまる一年間、〈ラテン語Ⅰ〉、〈ラテン語Ⅱ〉、〈ラテン語購読〉(わが母校は3学期制なのだ)を受講して、平日には2~3時間、ラテン語を勉強していた。もちろん、20年以上経った今ではかなり忘れてしまっているが、X(旧Twitter)界隈で時々見かける「語源がうんぬんかんぬん」と宣う輩よりは、遥かにetymologyの知識はあると自負している。そのJovianの目から見ても、なかなか面白い語がたくさん取り上げられている。

 

たとえば jus = 権利(86ページ)という語がある(個人的には ius と書きたいが)。これが jurisdiction や prejudice、juror や jury の語源であると知れば、一気にそうした方面の語彙が増える、あるいは覚えやすくなるだろう。

 

136ページの via = 道も面白い。ある程度英語力があれば、via Tokyo = 東京経由で、という意味になるのをご存じだろう。あの via である。ここから convey や convoy、また deviate などの語が派生している。

 

140ページの labor も味わい深い。英語でも労働だが、ラテン語でも労働だ。ここから laboratory = 仕事するところ → 実験室 となったり、あるいは elaborate《形容詞》 で「手の込んだ」、中島誠之助風に言うなら「いい仕事をしている」、という意味にもなる。日本語にも定着したコラボ= collaboration にも、しっかりと labor が入っている。

 

179ページの cedere = 行く、もぜひ知っておきたい。これにより exceed = 外に出ていく=超える、precede =(時間的に)先に行く、proceed =(空間的に)先に行く、secede = 脱退・分離独立する、なども容易に把握できる。本書では seccession をアメリカの南部諸州の独立だと紹介しているが、この語は2014年のスコットランド独立住民投票前に英字新聞で盛んに使われていたし、おそらくスペインからのカタルーニャ独立運動などが英語圏で報じられる際にも使われているはず。シネフィル(映画好き)っぽく言わせてもらえば、『 スター・ウォーズ 』の prequel trilogy で戦争が勃発したのは、通商連合が分離主義勢力=secessionist と組んでからだった。

 

語源の知識が英語力を伸ばすかどうかは不明だが、語彙力を伸ばす手助けになるのは間違いない。英検1級を目指す人が、ちょっと目先を変えた単語帳を求めるなら、本書も選択肢に入れていいだろう。

 

ネガティブ・サイド

大きな弱点が2つ。1つは著者の問題で、もう1つは編集・校正の問題。

 

ラテン語由来の英単語の網羅性がやや甘い。gradi を語源とする語としてregress, digress, congress, egress まで挙げておきながら ingress がないのは解せない。

 

manus = 手についても、派生語ではなく語の説明のところに manual = 手引書だと書くだけで、普通の学習者の腹落ち具合はかなり異なってくると思うのだが。なんでもal = 手引書だと書くだけで、普通の学習者の腹落ち具合はかなり異なってくると思うのだが。なんでもかんでも英検1級を基準に考えるべきではないと思う。parare のところで repair を取り上げているのだから、取り上げる英単語の選択が首尾一貫しているとは言い難い。

 

次に編集のミス(それとも著者のミス?)について。255ページのferreについて、「英語のtransfer「輸送する」とtranslate「翻訳する」は、同じ動詞(の違う語幹)が元になっている。つまり、完了形「私は運んだ」はtuli、「運ばれた」という意味になる完了受動分詞はlatusで、どちらもferreと起源が異なる形が使われているのだ」とあるが、起源は両方ともferreで同一である。正しくは『どちらもferreの時制や態が変化してできた異なる語幹(tulやlat)が使われているのだ』となるだろうか。

 

hortusの説明に「226で紹介したcohorsの関連語」とあるが、226とナンバリングされた語のところにも、226ページにもcohorsは記述されていない。これは編集・校正段階のミスだろう。

Jacereのところで、Jacta alea est =「さいは投げられた」としているが、これはAlea iacta est. の間違いではないか。いや、ラテン語は語順には融通無碍だが、歴史的な格言はそのままの語順を保つべきだ。

 

ザーッと軽く流し読みしただけで、これだけ「ん?」という記述が見つかるのだから、熟読するとどうなることやら・・・

 

英語のインデックスはあるが、ラテン語のインデックスがない。何故?

 

総評

英検1級を目指す人には向くかもしれない。あるいは時々存在する英単語マニアには好適か。ラテン語あるいはフランス語学習をある程度済ませた人には向かない。本書がベストセラーあるいはロングセラーになれば、そのうち errata がつくかもしれない。それを期待する意味でも本書を紹介しておく。もっとライトな語源の本がいいという人は GENGOZO でググってみよう。これはかつてのJovianの上司が作った本。たまにメルカリやヤフオクで売られている。間違いがかなり含まれているが、語源と英単語そのものの網羅性は(一応)本書よりも上である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』

 

現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

I am now slowly phasing over to https://jovianreviews.com. This site will continue to be updated on a regular basis for the time being.

Posted in 国内, 書籍Tagged 2020年代, D Rank, 学術書, 日本, 発行元:株式会社ジャパンタイムズ出版, 著者:ラテン語さんLeave a Comment on 『 ラテン語でわかる英単語 』 -校正と編集に甘さを残す-

『 君の声を聴かせて 』 -王道の恋愛映画かつ家族映画-

Posted on 2025年10月7日 by cool-jupiter

君の声を聴かせて 70点
2025年10月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ホン・ギョン ノ・ユンソ キム・ミンジュ
監督:チョ・ソンホ

 

『 あの夏、僕たちが好きだったソナへ 』と同じく、台湾映画の韓国リメイク。そうとは知らずにチケット購入したが、かなり面白かった。

あらすじ

ヨンジュン(ホン・ギョン)は定職に就かず、実家の弁当屋を嫌々手伝っていた。ある日、配達先のプールでろうあ者の水泳選手ガウル(キム・ミンジュ)を世話する姉のヨルム(ノ・ユンソ)に一目惚れして・・・

 

ポジティブ・サイド

哲学専攻ゆえに就職に難儀するというのは、宗教学専攻ゆえ同様の経験をしたことがあるJovianにはいたく共感できた。自分がある程度、社会不適合者であるという自覚は当然あったが、いかなる分野であれ学問をそれなりに収めてきた人間を冷遇する社会は息苦しいではないか。

 

本作はしかし、ヨンジュンに手話を授けていた。手話を学んだ理由も終盤に明かされるが、純朴青年そのものという感じでほっとする。プールサイドで見かけた美女の妹に速攻で姉の名前を聞きに行くという行動がキモいと感じられないのは、彼のピュアさが垣間見えるからか。

 

互いにソウル在住の26歳だとは思えないほどのスローな関係の進展に全くやきもきしない。それは本作が恋愛映画ではなく家族の物語だから。ヨンジュンの両親は、本当なら息子を家からたたき出してもおかしくないのに、優しく見守る。ヨルムとガウルの両親も、木の上に立って見るの例えではないが、遠くから娘を信じて見守っている。

 

本作にはとある仕掛けがあり、気付く人は最初の10分で気付くだろう。普通の人でも中盤で、どんなに鈍い人でも終盤には分かるはず。たとえば『 マローボーン家の掟 』のように、登場人物同士の・・・おっと、これ以上は興ざめになる。しかし、本作が優れているのは、その仕掛けが分かっていても楽しめる構成にある。両片思いの変則バージョンとでも言おうか。

 

全編ほとんど手話で、しかもその手話のほとんどが韓国ローカルの手話。したがって、日本の手話を解する人なら、たとえば『 ケイコ 目を澄ませて 』のカフェでの会話シーンが理解できただろう。しかし、本作は無理。だが、どういうわけか通じるように感じられるのだ。それは、手話を使うヨンジュン、ヨルム、ガウルがとても表情豊かだから。しかも、それが演技ではなく、本当に恋する男女が互いの心を図らずもさらけ出しているかの如く。いや、それも監督の演出、役者の演技なのだが、観ている側が「いい演技だなあ」ではなく、「いいやつだなあ」、「かわいい子だな」と素直に思えるキャラクター像を作り上げている。本質は家族の物語なのだが、ラブロマンスとしても非常に味わい深い作品に仕上がっている。

 

ネガティブ・サイド

クレームおばさんが実際にペナルティを食らうシーンが5秒でいいから欲しかった。

 

クラブのシーンはとある伏線なのだが、その伏線は別のシーンでも張られていて足りていた。個人的にはもっと『 ベイビー・ドライバー 』でジョーが骨伝導スピーカーで音楽を楽しんだような、もっと少人数で屋内で音楽を楽しむようなシーンが欲しかった。

 

とある事件をきっかけに姉妹がギクシャクする展開になるが、この前のシーンから姉妹の間の思いのズレに関する描写を小出しにしていってくれていれば、ガウルの涙の訴えがもっとドラマチックになったのではないだろうか。

 

総評

エンタメとして普通に面白く、ロマンスとしてもさわやかで、ヒューマンドラマとしても申し分ない出来栄え。デートムービーに最適だが、中高年カップルが息子や娘が交際相手を連れてくる現代的シミュレーション物語として鑑賞するのもいい。スルーしていた『 ぼくが生きてる、ふたつの世界 』や、小説が面白かった『 レインツリーの国 』あたりを鑑賞してみたくなった。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

チャンカンマン

ちょっと待って、の意。これもパリパリ=早く早く、と並んで非常によく聞こえてくる表現、かつパリパリ同様に2回連続で発話されることが多い。ドラマや映画で必ずと言っていいほど聞こえてくるので、ぜひ耳を澄ませてみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, キム・ミンジュ, ノ・ユンソ, ヒューマンドラマ, ホン・ギョン, ラブロマンス, 監督:チョ・ソンホ, 配給会社:KDDI, 配給会社:日活, 韓国Leave a Comment on 『 君の声を聴かせて 』 -王道の恋愛映画かつ家族映画-

『 宝島 』 -エンタメ性がやや不足-

Posted on 2025年9月28日2025年9月28日 by cool-jupiter

宝島 60点
2025年9月27日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:妻夫木聡 永山瑛太 窪田正孝 広瀬すず
監督:大友啓史

 

3時間超の作品と知って尻込みしていたが、ついにチケット購入。沖縄尚学の甲子園優勝の年に公開されるというのは、ある意味でとても縁起がいい。

あらすじ

1952年の沖縄で、米軍基地に侵入し、物資を奪う戦果アギヤーのオン(永山瑛太)、グスク(妻夫木聡)、レイ(窪田正孝)たちは、ある夜、ついに米軍兵に見つかってしまう。必死で逃げおおせたものの、オンは行方知れずとなる。時は流れ、グスクは刑事に、レイはヤクザに、オンの恋人のやまこ(広瀬すず)は教師になって・・・

ポジティブ・サイド

沖縄が飲み込まされてきた理不尽の数々が活写されている。本土に捨てられ、アメリカに踏みにじられる。それも弱い立場の女性や子どもほど。戦果アギヤーの面々が単なる愚連隊ではなかったのは、こうした人々への思いやりがあったから。グスクが刑事として情報源に孤児たちを使うのは非常にクレバーでシャーロック・ホームズ的。逆に言えば沖縄は産業革命後期のロンドンと同じく、貧富の差が拡大し、政治的に取りこぼされた人々を多く生んでいたのだ。沖縄の人々の大半はそうした構造的な苦境に立たされていたわけで、その責任は日本政府と米軍の両方にあったことを本作は余すことなく見せつける。

 

難しいのは、沖縄経済は米軍からのカネに支えられており、基地の存在および一定数存在する頭のおかしい米兵の存在を必要悪として許容できるかどうかという部分。これについて米兵狩りをする組織と、特飲街を仕切るヤクザの間に緊張が生じているという形で描写されており、非常に巧みだと感じた。一方で米兵の婦女暴行や交通事故、果ては飛行機の墜落や毒ガス漏洩など、治外法権状態の沖縄の人々の心情は察して余りある。これを必要経費だと割り切っていいのか。

 

人権や民主主義が絵空事でしかない中で、沖縄の人々が本土復帰を目指していく。グスク、レイ、やまこはそれぞれ異なる立場でその過程に身を投じていく。詳細は書けないが、一貫しているのは日本政府の主体性の無さ。アメリカを刺激するような動きは注視するが、沖縄の本土復帰を支援することはない。沖縄は「本土に復帰する」が、日本は「沖縄を回復する」というのが政治的には正しい表現。しかし、日本政府は「沖縄が本土に復帰」と表現する。香港の時もそうで、当時Jovianは高校生だったが、新聞の見出しはどれも「香港返還」だった。主語が欧米側=視点が欧米側なのだ。本作を鑑賞して米軍や米兵の横暴に対して憤りを覚えるのは正しい。しかし、それは実は我々の多くが無意識に沖縄に向けている意識と同じところから生じている事態だということには自覚的であるべきだろう。

 

クライマックスのコザ騒動と、その最中の嘉手納基地侵入は非常にサスペンスフルだった。こうした暴動を単なる歴史の一ページと思ってはならない。ある程度の年齢の人であれば2011年夏の英国の暴動を覚えているだろうし、2020年のジョージ・フロイド死亡事件に端を発した全米のデモと暴動は、その後のBlack Lives Matter運動につながったのは記憶にたらしいところだ。暴動を肯定するわけではないが、昔の沖縄は大変だったのだなという誤った感想は決して抱いてはならない。

 

ネガティブ・サイド

まず何よりもエンタメ性が足りない。というか、上映時間の長さによってエンタメ性が希釈されてしまっている。たとえばグスクが大柄な変態米兵を逮捕しようとするシーンで、塚本信也演じる相棒とコメディっぽいやりとりをしたり、その米兵に反撃されたりするシーンがあるが、そういうものは不要。ここだけで30秒はカットできると感じた。色々と間延びしていたシーンを引き締めれば30分はカットできたはず。

 

通訳はそれなりに頑張っていたが、決定的におかしなところも多かった。特に最初にアーヴィンがグスクに接触してきたシーンで、He’ll be properly interrgogated. I’ll see to it.のように発言していたのを「適切に立件されるようにする」と訳していたが、interrogateは取り調べするという意味で、立件するでは決してない。他にも Nothing more,

 nothing less. を「身分をわきまえろ」と訳したりするのも、二人の友情や信頼を破壊しかねない意訳。また、アーヴィンがまだ話していない部分も先に日本語に訳している箇所もあった。

 

宝が何であるのかが明らかになる過程はスリリングだったが、その宝が( ゚Д゚)ハァ?という形で消えていくのは原作通りなのだろうか。また、序盤にこれ見よがしに出てきた洞窟が伏線になるかと思いきや、あんな台風の多い地域であんな残り方はないわ・・・ 終わり方でとんでもなく損をしている作品だと感じた。

 

総評

映画として面白いかと言われればやや微妙。しかし本作には『 福田村事件 』と同じく、日本の映画界も韓国のような本格的な社会派映画を(再び)作れるようになってきた契機の一本として数えられるポテンシャルがある。沖縄の歴史ではなく、現在進行形の日本史および世界史だと思って鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

This is no fucking joke!

作中の某シーンでのグスクのセリフ。字幕では「嘘じゃないぞ」みたいな感じだったが、実際は「冗談で言ってるんちゃうぞゴラァ!」みたいな感じ。ただ実際にこれを言えるシチュエーションとこれを言えるような関係性の相手を両方持つことは難しい。ということで日常もしくは仕事ではだいたい同じ意味の “I am dead serious.” =「俺は大真面目だ」を使ってみよう。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 妻夫木聡, 広瀬すず, 歴史, 永山瑛太, 監督:大友啓史, 窪田正孝, 配給会社:ソニー・ピクチャーズ, 配給会社:東映Leave a Comment on 『 宝島 』 -エンタメ性がやや不足-

『 蔵のある街 』 -ご当地映画の佳作-

Posted on 2025年9月25日2025年9月25日 by cool-jupiter

蔵のある街 75点
2025年9月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中島瑠菜 山時聡真
監督:平松恵美子

 

岡山県倉敷市のご当地映画ということでチケット購入。『 しあわせのマスカット 』が見事に失敗した岡山のご当地ムービー制作が、本作で実現された。

あらすじ

自閉症の兄、きょん君と暮らす紅子(中島瑠菜)は美大へ進学したいという想いを封じ込めていた。ひょんなことから幼馴染の蒼(山時聡真)たちがきょん君と交わした「鶴形山から打ちあがる花火を見せてやる」という実現不可能な約束を、紅子は無責任だと非難する。蒼たちはきょん君との約束を果たすべく、動き出すが・・・

ポジティブ・サイド

冒頭で家族で見上げる打ち上げ花火のシーンから一転、キャンバスの前で微動だにしない紅子、そこからきょん君の登場と、テーマと主要キャラクターの導入のテンポが小気味いい。蒼と祈一のコンビも邦画の高校生的なお約束、いわゆる二枚目と三枚目のコンビではなく、それぞれに苦悩するキャラクターになっていた。花火大会開催の一因となるきょん君も『 レインマン 』のダスティン・ホフマン的な演技で、自閉症のリアリズムを遺憾なく表現した。

 

世の中には優しい嘘と残酷な嘘があるが、善意でついた嘘が結果的に相手を苦しめることもある。どう責任を取るのか。嘘を本当にするしかない。そこに助け舟を出すのは高橋大輔。関西大学卒なので関西人かと思っていたが、倉敷出身だったのか。正式な署名を100人分集めよ、という無茶な指令を出す。そのためにダメダメ男子高校生が奔走する様は滑稽だ。そこに紅子から思わぬアシスト。イラストには力が宿るのだ。

 

花火大会を開こうと蒼と祈一が奮闘していく中で、倉敷の歴史、そこに生きる人々の気質と仕事・産業、駅前と美観地区の街並みの対比、そして何よりもバラバラになってしまっている紅子の家族の絆の再生の端緒も描かれていく。それは家族が一つになることを必ずしも意味しない。『 焼肉ドラゴン 』のように、旅立ちや独立も家族のあるべき在り方であることを本作は静かに、しかし力強く提示している。

 

ネガティブ・サイド

蒼のサクソフォンの話はどこにいった?演奏で耳目を引き、署名活動につなげるなどの描写は編集でカットされたか。

 

演技力のギャップが色々とありすぎた。主要キャラたちの岡山弁は、まあ大目に見るが、一部の役者はダメダメ。駅前のチンピラやフルート奏者(そもそも役者ではない?)は、別の役者を使えなかったのだろうか(高橋大輔は地元出身なので許す)。

 

橋爪功の出演シーンも不要だったように思う。。

 

総評

倉敷の美観地区を誇張することなく、その特徴をよく映し出している。海側に水島コンビナートがありながら、どこか大正や昭和の趣を残した街並み、しかしそれなりに発展した駅前や洋風の瀟洒な建物もあり、旅情を喚起する。家族の結びつきや恋愛感情を至上としない現実的な人間ドラマだった。ご当地映画の白眉と言える。岡山県民のみならず、多くの人に鑑賞されるべき作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

signature

署名の意。数多く集めれば、効力を発揮することもある。劇中の高橋大輔の「署名を100通集めたら力を貸そう」は “If you get a hundred signatures, then you’ll have my support.” ぐらいだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ブロークン 復讐者の夜 』
『 宝島 』
『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 中島瑠菜, 山時聡真, 日本, 監督:平松恵美子, 配給会社:マジックアワー, 青春Leave a Comment on 『 蔵のある街 』 -ご当地映画の佳作-

『 侵蝕 』 -サイコパスをいかに受容するか-

Posted on 2025年9月22日2025年9月22日 by cool-jupiter

侵蝕 65点
2025年9月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:クァク・ソニョン キ・ソユ イ・ソル クォン・ユリ
監督:キム・ヨジョン イ・ジョンチャン

 

謎の体調不良が少しマシになったので、久々に映画館へ。前情報一切なしで本作のチケットを購入。

あらすじ

水泳インストラクターのヨンウン(クァク・ソニョン)は、幼い娘のソヒョン(キ・ソユ)が動物や他人を平気で傷つけていく様に戦慄しながらも、必死にわが子を育てていた。しかし、ある時、ソヒョンが同い年の女の子を決定的に傷つける事件が起こり・・・

ポジティブ・サイド

子役が怖すぎ。どう演技指導したのだろうか。台詞も不穏なものばかりで、演じていたキ・ソユのケアがどう行われていたのか心配になるほどだった。子ども特有の無邪気な残酷さなのか、それともその子だけの悪魔的な性質なのかをあいまいにせず、いきなり後者の路線で描いていたのは潔いと感じた。母を演じたクァク・ソニョンの幸の薄さも、娘の異常性をより際立たせていた。

 

娘に精神的に侵蝕されていく母親の話かと思っていたが、物語は一転して思わぬ方向へ。過去の不明な女と、もう一人の過去の不明な女が織りなすサスペンスとスリラーが始まる。特殊清掃業を営む人たちに家族として拾われていく展開が面白い。特殊清掃=孤独死した人の住居の清掃なわけで、畢竟、家族がいない、あるいは家族と疎遠な仏様ばかりとなる。そこに、家族ではないものが家族的な関係になっていくプロットが対照的に展開され、元々いたミン(クォン・ユリ)の居場所がヘヨン(イ・ソル)に侵蝕されていくことになる。家族の絆をかなり変則的に描いた『 パラサイト 半地下の家族 』とは同工異曲のサスペンスは面白かった。

 

観客側には上記のサスペンスに加えてミステリも提示される。舞台は当初の20年後なのだが、ソヒョンはどうなったのか、誰がソヒョンなのかという謎だ。このあたりは第一感に従えば問題ない。問題は、ソヒョンがヨンウンから得た「人間でも動物でも、寝食を共にすれば家族なのだ」という教えがどれほど彼女に浸透していたのかという点で・・・おっと、これ以上は書かない方がよいだろう。

 

エンディングには賛否両論あるだろうが、Jovianは賛である。なにが救いなのか、それとも救いがそもそもあり得るのかは、それこそ人によるだろう。

 

ネガティブ・サイド

ソヒョンの父親のいい加減さに辟易させられた。子どもから真っ先に逃げ出しておいて、都合のいい時だけ父親面。最初から登場させなくてよかったのでは?

 

精神科医と同様に牧師による説法あるいはヨンウンの告解のシーンが欲しかった。それらがあって、かつ的外れか、全然救いにならない内容であれば、ヨンウンが心理的に追い詰められていく様にもっとリアリティが生まれたはず。

 

某施設は大火災に遭ったはずだが、なぜあのような資料が残っていたのだろうか。そこが腑に落ちなかった。

 

総評

本作を鑑賞して、佐世保の女子高生による同級生殺人事件を思い出した人は多いのではないだろうか。ダイバーシティだとかインクルージョンだとか言われて久しいが、他者に危害を加える存在を「どのように」許容するかは難しい問題。家族は最も小さな社会の単位だが、そこへの所属を争うという『 パラサイト 半地下の家族 』とは別の意味でのサスペンスが盛り上がる異色作。日本では絶対に書かれない脚本なので、興味のある向きはぜひ鑑賞を。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ソンセンニム

ソンセン=先生、ニム=様である。韓国は役職や肩書の後にも尊称をつける文化なのである。大学で講師をしていた時、たまに勘違いした学生がプロフェッサーと呼んでくることはあったが、高校の英検対策課外授業だと、明らかにふざけてソンセンニムと言ってくる男子高生がいたりした。女子としゃべるためには英語よりも韓国語の時代か。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 蔵のある街 』
『 ブロークン 復讐者の夜 』
『 宝島 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, イ・ソル, キ・ソユ, クァク・ソニョン, クォン・ユリ, サスペンス, スリラー, 監督:イ・ジョンチャン, 監督:キム・ヨジョン, 配給会社:シンカ, 韓国Leave a Comment on 『 侵蝕 』 -サイコパスをいかに受容するか-

『 8番出口 』 -平々凡々な脚本-

Posted on 2025年9月8日2025年9月8日 by cool-jupiter

8番出口 40点
2025年9月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:二宮和也 河内大和 浅沼成
監督:川村元気

 

鑑賞予定はなかったが、本作のモデル駅がJR大阪天満宮駅だという説に興味を惹かれた。なぜならJovianは毎日同駅の8番出口から会社に向かっているから。というわけでチケット購入。

あらすじ

地下鉄で派遣先へ向かっていた男(二宮和也)は、不思議な空間に迷い込み、出られなくなってしまう。異変がなければ進み、異変があれば引き返し、そして8番出口から出ることという謎のルールに従って、男は前へ進んでいくが・・・

ポジティブ・サイド

なんといっても謎のおじさんを演じた河内大和が抜群の存在感を放っている。あの歩き方、曲がり方、表情の作り方、止まり方、そのすべてがリアル。ここでいうリアルとは、こんなおじさんは絶対に存在しないはずなのに存在してしまっているという意味。

 

ゲームに忠実で、異変のあるべき場所もだいたい同じ(だった気がする)。通路の雰囲気も確かに大阪天満宮駅の8番出口脇から伸びて左に曲がっていくやや上りのスロープの場所とよく似ていた。9番出口を出てちょっと北に進むと某専門学校がある。KOTAKE CREATEはこの学校出身なのかもしれない。

ネガティブ・サイド

最初の5分でストーリーの展開と着地点が見えてしまった。ある程度映画を見慣れている人の多くがそう感じたのではないだろうか。そうしたキャラクターの背景を一切抜きにして、理不尽かつ意味不明なゲームの世界をまず最初に提示する。そして通路のポスターなどを、たとえば病院主催のパパママ教室にするなどして、主人公の葛藤を言葉ではなく主人公の表情やたたずまいから感じ取らせる。そういう演出は不可能だったか。

 

主人公のキャラクターがほとんどそのまま『 グーニーズ 』のマイキーだったり、異変とともに出てくるクリーチャーが古今東西でおなじみの姿だったり、異変の一つが『 シャイニング 』のパクリだったり、とにかくオリジナリティがない。

 

そもそも基のゲームに存在した理不尽なゲームオーバーがない。おじさんがいきなり目の前に迫ってくるという異変に対して背を向けることができずにゲームオーバー、そして → 0番出口 の掲示の前からリスタート・・・のような理不尽さがないと、異変の危険度というか、異変をどれくらい真剣に捉えなければならないかといった真剣度が高まらない。

 

異変を見逃さないということは、逆に言えば我々はそれだけ世の中の変化を見逃している、あるいは世の中の変化を拒んでいるとも言える。それを一つのテーマに挙げるのは結構だが、そのことを主人公が悟るのではなく、まったく別のキャラクターの口から語らせるのは、凡百の邦画がやってしまう安易な方法で、本作もその陥穽にはまってしまっている。やたらけばけばしい女子高生キャラクターは不要だった。もっと言えばおじさんのパートも不要だった。

 

本作は二宮やら小松やらの名のある俳優が出てくるが、それがノイズになっているように感じた。『 侍タイムスリッパー 』や『 最後の乗客 』のように、無名だが実力あるキャストをそろえて撮影してほしかった。そうすれば観ている側も感情移入できるし、代り映えのしない駅のコンコースにもより注意を向けられるようになると思うのだが。

総評

Jovianは原作は未プレイ。だが、Jovian妻がHIKAKINの配信動画を観ていたのを時々横から眺めてはいた。映画にするならゲームに忠実に作りつつ、オリジナルなアイデアを盛り込んでほしかった。本作は残念ながら原作の再現度もオリジナル要素もどちらも中途半端。駄作とまでは言わないが、面白いとも言えない。貯まっているポイントを消化して無料鑑賞するのはあり。配信やレンタルを待つのもありだ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

anomaly

異変や異常を指す単語。はじめて知ったのは小説『 星を継ぐもの 』の原著 “Inherit the Stars”でだった。解剖学的異常など、医学の分野で使うことが多いが、同小説では月のレゴリスの放射性同位元素の不均衡な分布を指してアノマリーという言葉を使っていた。調べてみたところ、『 8番出口 』の異変も anomaly と訳されている。英語学習者はこれを機に本単語も覚えてみよう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 蔵のある街 』
『 侵蝕 』
『 ブロークン 復讐者の夜 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, スーパーナチュラル・スリラー, ホラー, 二宮和也, 日本, 河内大和, 浅沼成, 監督:川村元気, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 8番出口 』 -平々凡々な脚本-

『 Osaka Shion Wind Orchestra ドラゴンクエストコンサート in 伊丹 』  -DQ Ⅳ, Ⅴ, Ⅵ-

Posted on 2025年9月6日2025年9月6日 by cool-jupiter

Osaka Shion Wind Orchestra ドラゴンクエストコンサート in 伊丹 
2025年9月6日 東リ いたみホールにて鑑賞
演奏:Osaka Shion Wind Orchestra
指揮:井田勝大

 

自身の体調不良やら妻の体調不良やらがあったが、今日は無事に前々からチケットを予約していたコンサートに行くことができた。

簡単に感想を。

 

『 ドラゴンクエストIV 導かれし者たち 』からは、やはり「ジプシー・ダンス」が最も印象的だった。あの跳ねるようなリズムと独特な華やかさは、DQシリーズ全体を通じてもかなり異色の楽曲であると再確認した。

 

『 ドラゴンクエストV 天空の花嫁 』からは「不死身の敵に挑む」が特によかった。ゲーム自体をプレーしたのは30年前になるだろうか。それでも曲がかかった瞬間に「ああ、ゲマ戦か」と思い出すことができた。ゲマはまさに因縁の相手というにふさわしかったし、その戦闘音楽も自分の中にくっきり残っていたことに驚かされた。

 

『 ドラゴンクエストVI 幻の大地 』だと「木漏れ日の中で」に感動した。名前は思い出せなかったが、曲を聞いた瞬間に妹と村のことを思い出した。

 

アンコールはなんと『 ドラゴンクエストIII そして伝説へ… 』から「冒険の旅」。指揮者の井田勝大は「母親はエスタークよりも怖かった」と語っていたことから、「ははあ、アンコールは「邪悪なるもの」なのか」と思い込んでいたが・・・ これは嬉しい不意打ちである反面、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵをテーマにしたコンサートに選ぶべきではないではとも感じた。なぜなら休憩時間中に2026年1月18日の大津のDQ Ⅰ, Ⅱ, Ⅲのコンサートのチケットを買っていたからだ。まあ、いいか。



演奏全体に関して言うと、唯一の弦楽器のコントラバスの存在が光っていた。かなり小柄な女性が演奏していたが、力強さと繊細さ、さらに重厚さと軽さを併せ持った音を出していた。特に指で弦をポンポン弾く奏法は初めて見たような気がする。これもコンサートに行かないと得られない気づきだった。

 

一方でバイオリンなどがないことで、音自体はあまり立体的ではなかった。奥行きがなかったと感じたとでも言えようか。ただ、元々ファミコンやスーパーファミコンで聴いていた音楽を生音で聴けただけでも楽しかったし、色々な気づきもあった。すぐ後ろの男性3人組は標準語だったので関東からの遠征組だろう。また10代や20代のカップルの姿もちらほら。親の影響か、それともリメイクを楽しんだのか。ドラクエというフランチャイズは現代にもしっかり生きているようだ。

 

映画のサントラやゲームのサントラは、それ自体では存在できないが、それ自体を楽しむことができるという非常に特異な音楽ジャンルだろう。今は来年のDQ 1, 2, 3のコンサートと、Ace Combat30周年記念コンサート(チケットが取れるかどうかわからないが)が非常に楽しみである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 8番出口 』
『 蔵のある街 』
『 侵蝕 』

 

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代Leave a Comment on 『 Osaka Shion Wind Orchestra ドラゴンクエストコンサート in 伊丹 』  -DQ Ⅳ, Ⅴ, Ⅵ-

『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

Posted on 2025年8月15日2025年8月15日 by cool-jupiter

桐島です 75点
2025年8月14日 シアターセブンにて鑑賞
出演:毎熊克哉
監督:高橋伴明

 

『 BOX 袴田事件 命とは 』の高橋伴明監督が逃亡犯・桐島聡を描いた作品ということで、やっとのことでチケット購入。

あらすじ

企業・政府による人民搾取に静かに業を煮やしていた桐島聡(毎熊克哉)は、やがて過激派に属し、爆弾闘争に身を投じていく。しかし、その過程で負傷者を出してしまったことを公開する。また、組織に官憲が迫ったことで逃亡していくが・・・

 

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

誰もが一度は目にしたことがあった桐島聡の指名手配写真。それが2024年1月、病院で見つかり、そのまま死んでいったというニュースはかなりセンセーショナルだった。そんな逃亡犯を毎熊克哉が好演した。

 

『 三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 』で描かれた1969年から数年後の1970年代。そこで桐島聡は労働者階級の待遇改善と諸外国民の搾取反対を表明するため、大資本への闘争を続けていた。同作でかつての三島親衛隊員が述べていた、全共闘は市井の中に拡散していったと、いわば負け惜しみ的に語っていたが、その数少ない拡散先に桐島がいたのかと思うと、なんとも複雑な気分になった。事実は小説よりも奇なりという意味でそう感じるということである。事実、『 正体 』は本作によってかなり陳腐化したと言える。

 

桐島は学生運動の延長線上に常に身を置くことで、いきなりガールフレンドから別れを告げられてしまう。デートに選んだ映画のチョイス(『 追憶 』)もまずかったようだ。とある時代の感性を保つことは、別の人間から見れば時代遅れとなる。時代という言葉が大仰かもしれないが、現代でも往々にしてこうした見方の対立は生じている。故・安倍晋三の桜の会疑惑その他は、しばしば支持者から「いつまで終わったニュースをやっているんだ」となるし、そうでない者からすれば「なんで勝手に先に進んでいるんだ」となる。

 

後者に属する桐島は労働者階級が資本家に搾取される構図を訴えようと過激派の爆弾闘争に身を投じていくが、そこで人を傷つけることには反対する。仲間は、企業にダメージを与えることを人を傷つけないことの矛盾をアウフヘーベンしていこうと言うが、自己主張の手段に言論ではなく武器を選んでいる時点で、その矛盾を止揚できるはずがない。しかし桐島はある時点から言葉に惹きつけられていく。これは事実なのか脚色なのかわからないが、桐島の人物像を深めつつも、桐島の思想については浅くもしていると感じた。

 

着の身着のままで逃亡した先で、運よく経験不問かつ寮付きの工務店で職を得た桐島は、内田洋を名乗って生活する。生真面目に生活のルーティンを守り、模範的に働き、たまにバーに顔を出しては酒や音楽という世俗の歓楽を享受する。要するに、大多数の小市民と何ら変わりのない生活を送っていく。その一方で、自身の関与した爆破事件について忘れることはできず、またいつでも逃亡できるように警戒を怠ることもないという、ある種の矛盾した生活も送っている。

 

行きつけのバーで知り合った若い歌手に恋心を寄せられても拒絶せざるを得なかったのは逃亡者だったからか。それとも時代遅れの自分がトラウマになっていたからか。奇妙な縁を深めることになった謎の隣人が、犯罪者・逃亡者としての桐島の人間関係にユーモアと緊張感の両方をもたらしていて、甲本雅裕は非常に強いインパクトを残した。

 

在日韓国人の同僚、不法滞在するクルド人就労者、集団的自衛権の容認を国会を経ず閣議で決定した安倍晋三など、国家の歪みを感じさせる事象に対して怒りと悲しみを感じる桐島聡だが、その一方で運転免許試験と教習所は結託していると語ったり、またメタボ検診を製薬会社と厚労省の癒着だと断じたりと、非常に危うい、あるいは偏った正義感の持ち主である点も描かれる。外側のアイデンティティを偽りつつも、内側のアイデンティティは偽れなかったのだろう。その思想が良いものなのか悪いものなのかは軽々に判断すべきでない。しかし、高橋監督は桐島に説教されたと思しき若い同僚に「内田さんが死ぬのはいやっすよ」と言わしめた。それが彼のメッセージなのだろう。

 

後年にかつての反日武装戦線の領袖が出版した詩集を読み耽る桐島は、

 

毎熊克哉が青年から高齢までの桐島を見事に演じきった。今年の主演男優賞は彼と『 国宝 』の吉沢亮の一騎打ちとなるだろう。

 

ネガティブ・サイド

かつての同志の宇賀神が語る「桐島は公安に勝利した」という宣言は、桐島の代弁とは言えないのではないか。桐島は一貫して日雇い労働者に代表される下級労働者の搾取の構造を変えたがっており、そこにいるのが日本人であれ外国人であれ、それは救済の対象だった。桐島の勝利とは労働者の勝利であり、最後まで逃げ切ったことを勝利というのは矛盾に感じた。それこそ遺書でも残しておき、死後に桐島聡という存在が内田洋に成り代わっていたことが明らかになったというのなら話は別だろうが。

 

最後の最後に登場する日本赤軍の生き残り女性の存在が滑稽に映った。というのも作中に登場する安倍晋三は2024年時点では既に暗殺されていたからだ。まさに事実は小説よりも奇なり。

 

総評

ハリソン・フォードの『 逃亡者 』的なアクションなど一切なし。非常に地味なドラマである。しかし、一人の人間の半生を通して、変わっていったものと変わらないものを同時に映し出すという試みは大いに成功している。爆弾テロは論外だが、反体制の闘士を生み出す土壌がかつての日本にはあったということは知るべきだろう。そしてその土壌から誤って芽吹いたのが参政党や日本保守党であることは憂慮していい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pseudonym

偽名の意。pseudoは疑似的な、を意味する接頭辞。nymは名前を意味する接尾辞。偽名と訳されるが、どちらかというとペンネームなどの仮の名前を指す語。一方で false name となると正に偽の名前で、これは犯罪や悪事の際に用いられる名前。これらをちゃんと区別できれば英検準1級以上だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 亀は意外と速く泳ぐ 』
『 渇愛 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 歴史, 毎熊克哉, 監督:高橋伴明, 配給会社:渋谷プロダクションLeave a Comment on 『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

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