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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 2000年代

『 不安の種 』 -民話的ホラーの失敗作-

Posted on 2022年11月5日 by cool-jupiter

不安の種 40点
2022年10月31日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:石橋杏奈 浅香航大
監督:永江俊和

ハロウィーンのホラー映画鑑賞第2弾。昔ちょろっと観て、そこそこ面白いと感じた記憶があり、今回再鑑賞してみたが・・・

 

あらすじ

バイク便ライダーの巧(浅香航大)は、怪我をした青年を救助しようとしたが、彼はおぞましい死を遂げてしまった。そのことが原因で新しいバイトを始めた巧は、勤務先で陽子(石橋杏奈)という不思議な女性に出会う。以来、街に潜む怪異が徐々に姿を現し始め・・・

 

ポジティブ・サイド

時系列をばらばらにして観る者に混乱を、その後に不安や恐怖をもたらそうとする試みは悪くない。様々に現れる怪異の正体のほとんどが不明であるところもいい。特にインパクトが強いのは顔面を藁で覆った女性だろうか。別に危害を加えてくるわけではない。ただ存在するだけ。それが逆に不安を掻き立ててくる。まさに不安の種だ。

 

ストーリーは巧と陽子を軸に進んでいくが、陽子のメンヘラっぷりがなかなかキツい。また、陽子に仕込まれた一種のトリックはなかなか興味深い。山口雅也とか筒井康隆のような小説家が思いつきそうなプロットである。

 

グロ描写もそれなりに頑張っている。須賀健太と津田寛治のシーンでは、Jovian妻は悲鳴を上げて目を背けた。普通の映画好きにこれだけの反応をさせれば、ホラーやスリラーとしては及第点だろう。

 

オチョナンさんの正体を様々に考察するのも面白い。座敷童ならぬ一種の都市童なのだろう。怪異のもたらす不安に負けないためにはどうすればいいのか。自分もその怪異になってしまえばいい。子どもの目から見た社会、世界の理不尽さを強烈に皮肉っているのかなと感じた。さあ、不安の種が生み出すものは何なのか、あなたも考えてみよう。

 

ネガティブ・サイド

2010年代の作品だとしてもCGが相当にしょぼい。眼球が這いずり回るのはなかなかシュールだが、これがもし眼球についた筋肉が蠕動したり、あるいは眼球を覆うヌメヌメの粘液のようなものの質感までCGで表現できていたら、それだけで掴みの印象はかなり異なっただろう。世界観を一気に伝える establishing shot にカネを惜しんではならない。

 

怪異のオンパレードだが、原作に登場する怪異を全部出してやろうとするのではなく、いくつかに絞って、そのうえで登場人物たちにじっくり不安の種を仕込む展開の方が良かったように思う。巧に関して言えば、バイト先の謎の客はまだしも、右腕がない金づち女は蛇足に感じた。

 

アパートのドアに貼られる死のシールも、ちょっと奇異に映った。ここで陽子がアパートの住人の死因を急性心不全ではなく心筋梗塞だと言い切ってしまうのは流石にやりすぎ。そんなことが分かるはずがないし、分かったとすれば犯人だ。本作はスリラーやホラーであってもミステリではない(その要素もあるが)のだから、死因はある意味で二の次でいい。ここは脚本上の大きなマイナス点だ。

 

全体的に古典的なジャンプ・スケアが多めなのも気になった。本作の肝は不安であって恐怖ではない。じわじわと不安感を盛り上げていく手法を模索すべきところを、安易なクリシェに逃げた点も減点対象にせざるを得ない。踏切の向こうで不穏な形と動きを見せる雲・・・のようなシーンをじっくりと積み上げていくべきだった。

 

総評

いくつかのシーンを取り出せば結構面白いのだが、つなげて観ると「なんだかなあ・・・」という出来になる。日常の中に怪異が紛れ込み、さらにそこから怪異が日常を飲み込んでいくという流れは面白いのだから、そのあたりの登場人物の不安をもっと丹念に描くべきだった。来年はもっと面白そうなホラーを選びたい。何かお勧めの和製ホラーがあれば、誰かお教えください。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

 

anxiety

発音はアングザイアティのような感じ。ザイにアクセントを置こう。これは「不安」という意味の名詞。

This movie caused me a lot of anxiety.
この映画は僕を凄く不安な気持ちにさせた

のような使い方をする。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 天間荘の三姉妹 』
『 王立宇宙軍 オネアミスの翼 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2000年代, D Rank, ホラー, 日本, 浅香航大, 監督:永江俊和, 石橋杏奈, 配給会社:是空Leave a Comment on 『 不安の種 』 -民話的ホラーの失敗作-

『 ISOLA 多重人格少女 』 -映画化は失敗-

Posted on 2022年11月1日 by cool-jupiter

ISOLA 多重人格少女 40点
2022年10月29日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:木村佳乃 黒澤優 石黒賢 渡辺真起子
監督:水谷俊之

ハロウィーンということで、伊丹のTSUTAYAで本作と『 不安の種 』、『 水霊 』を借りてきた。本作のことは『 この子は邪悪 』で思い出した。

 

あらすじ

自分探しの為に阪神淡路大震災のボランティア活動に参加した由香里(木村佳乃)は、解離性同一性障害を持つ千尋(黒澤優)と出会う。千尋には13人の人格が宿っていた。由香里は千尋に接していくが、周囲では不審死が頻発する。その原因は、千尋の中に隠れた人格の一つのようで・・・

 

ポジティブ・サイド

冒頭の水音と空中浮遊視点に、原作読了者ならゾッとさせられることだろう。素晴らしい establishing shot で、ドローンのない時代によくこんな空中浮遊映像が撮れたなと感心させられる。 この巧みなカメラワークは本編でも健在で、ISOLAの視点とその他の人物の視点で、カメラワークが全然違う。撮影監督は素晴らしい仕事をしたと思う。

 

阪神大震災をエンタメの題材として扱ったものには、小説『 未明の悪夢 』など割とたくさん活字媒体では生産されたが、映像作品として真正面から震災と向き合ったのは、おそらく本作が初めてではないか。家屋が倒壊した被災地、避難所で雑魚寝する避難所を、かなりの程度、本作は再現したと言える。大道具や小道具のスタッフは相当な労苦をもって仕事をしたことだろう。

 

渡辺真起子って、この頃からバリバリの女優さんやったのね。女の情念を体現できる、日本では希少価値が高い女優さんであると思う。

 

『 CURE 』や『 39 刑法第三十九条 』と並んで、精神のダークサイドを追求しようとした邦画としては、一定の貢献と価値が認められる。

 

ネガティブ・サイド

『 水曜日が消えた 』も一人七役と言いながら実質は一人二役だった。本作はそれよりも酷く、一人十三役とは言わないが、せめて一人四役ぐらいは演じさせるべきだった。黒澤優はアイドルではなく女優だったのだから、それぐらいは追い込むべきだったろう。

 

原作の由香里のエンパスとしての能力、さらに風俗で働いていたというバックグラウンドがきれいさっぱり消されていた。何じゃそりゃ・・・。エンパスとして強烈な想念が視えるということ、そしてISOLAも強烈な想念が視えるということが、原作では強烈なホラーとサスペンスを生み出していた。それが本作では実現されず。難しいのは分かるが、そこを避けて映像化する意味はあったのか。

 

木村佳乃の演技は、今も昔もあまり変わらない。基本、薄っぺらいというか、原作の由香里の持っている強かさと人間らしい弱さ、そのどちらも表出できていなかった。石黒賢も若いというか、ちょっと浮いていた。この人はテレビドラマの役者で、映画向きではない気がする。セリフをしゃべることはできても、表情や立ち居振る舞いで語ることができていない。

 

最大の不満は、磯良とISOLAの説明。なぜISORAではないのか。なぜISOLAなのか。原作にあったこのあたりの説明の巧みさ、そして恐ろしさが本作ではきれいにスキップされてしまった。また原作のバッドエンドが、本作ではハッピーエンドに。いや、改変はある程度認められるが、それならこれ見よがしに出していた漢字辞典の意味は・・・。最後に唐突に現れる憧子という人格は、原作では心臓が止まるほどの恐怖を引き起こす存在なのに、本作では非常にほんわか。ホラーとはいったい・・・

 

総評

端的に言って映画化失敗。当時は角川ホラー文庫から面白いホラー小説が陸続と出てきていたが、今作は『 リング 』から始まったホラー・ジャパネスクの流れに乗り損ねたらしい。DVDが出て、すぐにTSUTAYAで借りた記憶があるのだが、20代の頃はこれを結構楽しんだ記憶がある。黒澤優が可愛かったからか?ぶっちゃけ観る価値はあまりない。原作小説の方が遥かに怖い。読んだら観るなが正解である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

path

道・・・ではない。由香里は empath とされるが、これは共感能力が高い人を意味する。pathはギリシャ語のパトス由来で、人間の感情のこと。ここから telepathy =遠くの人の気持ちが分かるからテレパシー、apathy =感情が無いから無気力、sympathy = 気持ちが一緒になるから同情・共感となる。形態素(接頭辞、語幹、接尾辞)が分かると、語彙力を伸ばしやすくなる。英検準1級に合格したら、ボキャビルの際には形態素を意識してみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 天間荘の三姉妹 』
『 王立宇宙軍 オネアミスの翼 』

 

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2000年代, D Rank, ホラー, 日本, 木村佳乃, 渡辺真起子, 監督:水谷俊之, 石黒賢, 配給会社:東宝, 黒澤優Leave a Comment on 『 ISOLA 多重人格少女 』 -映画化は失敗-

『 少林サッカー 』 -突き抜けた馬鹿馬鹿しさ-

Posted on 2022年10月22日 by cool-jupiter

少林サッカー 75点
2022年10月20日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:チャウ・シンチー
監督:チャウ・シンチー リー・リクチー

大学で教えている教材のユニットの中に The Changing Face of Kung Fu というものがあった。カンフー映画はたくさんあるが、その中でも本作は群を抜いて異彩を放っている。久しぶりに鑑賞せんと、近所のTSUTAYAで借りてきた。

 

あらすじ

かつてはスター選手だったが、八百長を飲んだことから落ちぶれたファン。しかし、少林拳の求道者である青年シン(チャウ・シンチー)と出会い、彼はシンにサッカーを教えることに。シンは少林拳の仲間を集めてチームを結成する。しかし、かつてのファンの因縁の相手であるハンも異能のサッカーチームを率いていて・・・

 

ポジティブ・サイド

拳法それ自体は中国映画、特に香港映画の主要なモチーフ。ブルース・リーにジャッキー・チェン、ドニー・イェンとスターが定期的に生まれてもいる。しかし、本作は拳法とサッカーを混ぜるのだから、言葉の正しい意味でのジャンル・ミックスと言えるだろう。ある意味『 えびボクサー 』や『 ミスターGO! 』に近いのかもしれない。

 

拳法家としてのシンの純朴さが光る。そのため、少林サッカーの馬鹿馬鹿しさが余計に映える。よくこんな大真面目にアホな構図の数々を構想したなと呆れてしまう。これは誉め言葉である。大空翼のドライブシュートか!と思うほどに脚を大きく後ろに反り返した状態から放つスーパーシュート一発でチンピラをのしていくシンに笑わずにはいられようか。

 

シンの仲間の拳法家たちも惜しむことなく笑いを提供してくれる。その一方で、彼らも彼らなりに生活は苦しい。この対比が彼らの快進撃が大きなカタルシスを生む要因になっている。太極拳の達人のムイの変化も見逃せない。醜女から始まって、ジュリアナ系に変身し、最後には坊主に変化する。何をどうやったらこんなプロットを思いつけるのか。

 

チームデビルの面々がアメリカ式のドーピングを使って強化されているのも笑ってしまう。強化されているということにではなく、その強化の見せ方だ。特に長髪ゴールキーパーの守護神ぶりはもはや漫画の領域。ただ、当時はMLBでもど派手なホームラン・ダービーが展開されていて、しかもその多くがステロイド使用者だった。なので、薬を使えば極限までパワーアップできるというアホな設定にも説得力があった時代だった。

 

ブルース・リーのオマージュあり、漫画『 ドラゴンボール 』かと思えるほどの過剰なCG演出ありと、観る者をまったく飽きさせない。22世紀にもカルト映画として鑑賞されていることだろう。

 

ネガティブ・サイド

序盤の展開が少々もたつく。いきなり皆が踊り始めるのは愉快だが、そこは別になくてもいい。皆が心の奥底に封じ込めてしまった夢が、シンたちの活躍によって解き放たれるというのは、別に序盤で示唆しなくてもいい。

 

シンが素でムイの勇気ある告白をスルーするシーンは何度見てもキツイ。ある意味、少林シュートが肉体に与えるダメージ以上に、観る側の精神を削るシーンだ。シンをここまで朴念仁に設定しなくてもよかっただろう。

 

勧善懲悪ものではあるが、悪役であるハンが懲役5年というのは短すぎではないだろうか。

 

総評

コメディの傑作。拳法というのはCGを極力排して、可能な限りレトロな手法で現実的に見せるものだという思い込みを軽々と打ち破ってくれた作品。そう、本作は固定概念をぶち壊してくれるのだ。「拳法を流行させたい」というシンの夢をあっさりと否定するファン。年を取ると夢が見られなくなるが、夢は見ないことには絶対に叶わない。そういう意味で、本作は10年に1回は観た方がいい気がする。本作にインスパイアされて、神韻芸術団の西宮公演のチケットを買ってしまった。単純やね、俺も。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

モウマンタイ

無問題と書いてモウマンタイと読む。ある程度以上の年代なら、ナイナイの岡村の映画『 無問題 』でお馴染みのはず。読んで字のごとく No problem の意味である。タイ語でマイペンライ、韓国語でケンチャナヨーのように、中国旅行をする前に覚えおきたいフレーズ。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ドライビング・バニー 』
『 秘密の森の、その向こう 』
『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, B Rank, コメディ, チャウ・シンチー, 中国, 監督:チャウ・シンチー, 監督:リー・リクチー, 配給会社:ギャガ・コミュニケーションズ, 配給会社:クロックワークス, 香港Leave a Comment on 『 少林サッカー 』 -突き抜けた馬鹿馬鹿しさ-

『 岸和田少年愚連隊 岸和田少年野球団 』 -Take me out to the ballgame-

Posted on 2022年9月19日 by cool-jupiter

岸和田少年愚連隊 岸和田少年野球団 70点
2022年9月19日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:遠藤章造 長田融季 小野浩史 辻󠄀本賢人
監督:渡辺武

『 岸和田少年愚連隊 望郷 』と主要キャストは同じ。しかし、今度は野球。それもそれで一つの青春の形か。

 

あらすじ

ガス(遠藤章造)は新聞記事で、かつて一緒に野球をした友人・隆二(辻󠄀本賢人)が飛行機事故で死亡したことを知る。ガスは少年時代にやっていた野球を思い出し、思い出の品である青いグローブを手に、隆二と過ごした日々を回想する・・・

 

ポジティブ・サイド

前作で竹中直人演じる親父が出ていったところから始まっている。世界観を共有する作品というものは良いものである。

 

今回の主役はガス。リイチでもユウジでも小鉄でもなく、ガスが主人公。少年時代を演じる小野浩史のガスの再現度が素晴らしく高く、まさに岸和田のガキンチョという感じである。野球が下手くそな演技も堂に入っているし、ケンカのシーンの迫力もある。これはなかなか良かった。前作は『 岸和田少年愚連隊 』や『 岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇 』では中学生あるいはそれ以後を大人の芸人が演じていて、それゆえに極端なケンカのシーンも演じることができた。『 望郷 』はそのあたりの描写が竹中直人以外は弱く、子ども同士のケンカ描写はなし。気付けばリイチの顔面に傷ができているばかりだった。

 

本作のケンカの見せ場は大きく二つ。一つはガスが隆二のグローブを盗んだサダ軍団の一員を叩きのめすシーン。もう一つは、試合中の大乱闘。子ども同士のケンカを俯瞰の映像で捉えたりすると、小競り合いにすらなっていないものも多い。本作はそこをかなり踏み込んで、本当に1970年当時の岸和田の悪ガキどものケンカの光景にリアリティを与えている。

 

今の若い世代には意味不明かもしれないが、カズ山本が小学生役で出てきているのは何度見ても笑ってしまう。近鉄戦士だというところが大阪人にとってはたまらないだろうし、また一つの大きなノスタルジーを感じるポイントにもなっている。

 

また隆二=辻󠄀本賢人で、若い世代はこれまた知らないだろうが、15歳にして阪神タイガースに入団した期待の星だった。当時は結構騒がれていた、少なくとも阪神ファンの間では。Jovianは星野仙一の阪神監督就任でファンを解脱して、ロッテファンになったのだ、もしも辻󠄀本が現在の佐々木朗希のようにロッテに入団していれば、そして吉井理人のような理論派のコーチと出会えていれば・・・と、一瞬だけ想像してしまった。栴檀は双葉より芳し。こんな小さな体で、それなりの球が投げられていたのだから、阪神球団はしっかりと育て上げるべきだった。

 

アホな大人に翻弄される子どもたちの物語だが、そのメッセージは「変わらないでいることが嬉しいこともある」ということ。岸和田少年愚連隊は、作品によって人物やエピソードは違えど、色褪せることのないアホな青春の思い出の物語。ほっぺたに強烈ビンタを食らわされた女子と、何故か付き合っていたりする。フィクションだけれどもリアル。今でも昭和のままな街区が残る尼崎市民は、本シリーズがとても愛おしい。

 

ネガティブ・サイド

さすがに子どもを使っての賭博はないわ。作品自体の瑕疵というより、これを観る自分の視点が大人になってしまったんやろうね。維新のIR構想も気に入らんし。『 岸和田少年愚連隊 』の卒業式で塩見三省がチュンバたちを次から次に張り倒していったのは、教育者としての複雑な思いの表れとしてある程度は共感できたが、子どもを使って大人が金儲けするのはアカンわ。

 

安西ひろこのエセ関西弁も耳障り。鈴木紗理奈みたいなコテコテの大阪人をキャスティングせんかいな。

 

エアガン使うジジイもなあ・・・子どもが拳あるいはバットで戦ってるのに、大人が銃器とは・・・ 悪魔のコスプレもくだらなかった。

 

総評

野球映画は結構たくさん作られてきたが、これはその中でも異色の作品。非常に淡い男の友情が心地よい。小学生や中学生の頃は、友達と過ごす時間が本当にかけがえのないものだった。そのことを思い出させてくれる。変わらないでいてくれることが嬉しい。そう言ってくれる、あるいはそう伝えられる友人が自分には何人いるだろうか。自分は誰かの中で美しい思い出になれているのだろうか。そんなノスタルジックな気持ちにさせてくれる作品だ。

 

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

Mens sana in corpore sano

(古典ラテン語なら)メーンス・サーナー・イン・コㇽポレ・サーノーと読む。mens = mind、sana = sane または sound、in の後ろの corpore は奪格なので、この in はそのまま英語でも in = 中に、の意。sano は corpora が中性なので、それに合わせて中性・奪格になっている。全体の意味は A healty mind in a healthy body である。健全な肉体に健全な精神が宿れかし、というのが定番の日本語訳。mens = mind から「dementia って、だから認知症なのか?」と思えた人は、英語学習の上級者である。 

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2000年代, B Rank, 小野浩史, 日本, 監督:渡辺武, 辻󠄀本賢人, 遠藤章造, 配給会社:ドラゴン・フィルム=セディックインターナショナル, 長田融季, 青春Leave a Comment on 『 岸和田少年愚連隊 岸和田少年野球団 』 -Take me out to the ballgame-

『 マインド・ゲーム 』 -This Story Has Never Ended-

Posted on 2022年8月24日2022年8月24日 by cool-jupiter

マインド・ゲーム 75点
2022年8月22日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:今田耕司 前田沙耶香 藤井隆
監督:湯浅政明

『 犬王 』以来、ずっと観たいと思っていた本作を、ついに借りることができた。脳が溶けるような映像&物語体験であった。

 

あらすじ

幼なじみにして初恋の相手みょんちゃん(前田沙耶香)に再会した西(今田耕司)は、みょんちゃんの父親の借金の取り立てにきたヤクザに射殺されてしまう。あの世で神に出会った西は、神の言いつけに逆らって、現世に舞い戻るが・・・

 

ポジティブ・サイド

今田耕司の声だけで笑ってしまうが、物語自体も極めてクレイジーとしか言えない。幼馴染にして初恋の相手、中学の時には両想いになれたのに真剣交際に発展せず。あれよあれよという間にみょんは別の男と付き合い始め、cherry pop ・・・ 哀れ、西は漫画家を目指す。

 

20歳にして偶然にみょんと再会する西だが、みょんにはやはり他に男が。しかも婚約者。もうこの時点でヘタレの西に感情移入するしかない。さらにみょんの実家での西の妄想というか、手前勝手な思考回路はまるで『 君が君で君だ 』の尾崎豊(偽物)を思い起こさせる。Jovianはここで西に同化してしまった。自分でも同化している・・・ではなく、どうかしていると思うが、この西の物語を見届けたい、見届けなければならないという気分にさせられた。

 

ビックリするのは、その次の瞬間にあっさりと西が死んでしまうこと。正確には殺されるわけだが、まず殺される直前の緊迫した空気に戦慄させられる一方で、西の殺され方には不謹慎にも笑ってしまう。このテンションのジェットコースター的な上がり下がりが、物語の全編を通じて続いていく。

 

ストーリーは荒唐無稽もいいところだが、これらは全て西の人生観や世界観のメタファーだ。クジラはどう見ても西の胎内回帰願望だろう。母の子宮内で胎児でいることほどストレスフリーな生き方はない。騒音もなく、常にぬるま湯の中。呼吸をする必要もなく、食事を自分で用意する必要もない。しかし、そんな安楽な環境にいつまでもいられるはずはない。人は常に生み出されなければならない。西にもその時が来る。

 

本作のメッセージは、あまりにもストレートだ。死んだ気になれば、いつでも生まれかれるということだ。絵柄も独特、ストーリーも独特、キャラも独特。何もかもが既存のアニメや既存の映画という枠に囚われない、非常に自由な湯浅政明色の演出に染められている。さあ、脳が溶けてしまうようなトリッピーな映像世界を味わおうではないか。

 

ネガティブ・サイド

西とみょんちゃんのセックスシーンは、もっと婉曲的に描けなかったのだろうか。二人の身体が重なり合うところをもっと抽象的に描く方法はあったはず。機関車=ピストン運動のような非常に直接的かつ間接的案、もっと記号的な形で西とみょんのまぐわいを描く方法を湯浅監督には模索してほしかった。

 

ところどころでキャラクターが実写化されるのはノイズに感じた。島木譲二がヤクザの親分とか、笑えるのは笑えるが、それは面白いから笑っているのではなく、「しゃーないな」と思って笑っているのである。

 

総評

なんというか、『 トップガン マーヴェリック 』を鑑賞し続けているせいか、本作を観て “Don’t think. Just do.” という言葉が思い出された。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

kick one’s ass

「しばく」の意。標準語にするなら「ぶん殴る」か。俗説だが、アメリカ人はストリートファイトであっても蹴ることはあまりない。蹴るのは卑怯で、闘うなら拳だろうと思われているらしい。なんにせよ、kick one’s ass を能動態で日常会話で使うことはあまりないはず。実際は I got my ass kicked. = ぼろ負けした、のように受け身で使うことが多いだろう。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2000年代, B Rank, アニメ, コメディ, ファンタジー, 今田耕司, 前田沙耶香, 日本, 監督:湯浅政明, 藤井隆, 配給会社:アスミック・エースLeave a Comment on 『 マインド・ゲーム 』 -This Story Has Never Ended-

『 サイレントヒル 』 -ゲーム原作の王道ホラー-

Posted on 2022年8月14日 by cool-jupiter

サイレントヒル 70点
2022年8月12日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ラダ・ミッチェル ショーン・ビーン ローリー・ホールデン デボラ・カーラ・アンガー
監督:クリストフ・ガンズ

『 マインド・ゲーム 』がずっと借りられっぱなし。『 女神の継承 』の恐怖体験から回復するためにも普通のホラーを観ようと本作をセレクト。

 

あらすじ

娘のシャロンは夢遊病の中でサイレントヒルという地名を口にする。ローズ(ラダ・ミッチェル)はアメリカ・ウエストバージニア州にサイレントヒルという街があることを探り当て、シャロンと共にそこを訪れる。しかし、謎の人影を避けようとしたことで交通事故を起こす。目覚めた時、車内にはシャロンの姿がなかった。ローズはシャロンを探すために、廃墟となったサイレントヒルに立ち入るが・・・

 

ポジティブ・サイド

Jovianはプレーしなかったが、大学寮の先輩や同級生が本作と『 バイオハザード3 』をプレーしていた。なので本作の世界観やキャラは何となく知っている。映画化されたのは知っていたが、観るのはこれが初めてである。

 

まず雰囲気が素晴らしい。序盤、暗い夜のシャロンの奇行。明るい日中のサイレントヒル行きの話。そして切りと煙に包まれたサイレントヒルの昼とも夜とも言い難い空気感がゲームの世界観とマッチしていた。もったいつけずにあっという間にシャロンとローズがサイレントヒルに着くのもスピーディーで良い。

 

シャロンを探すローズと、そのローズとシャロンを探すクリスという二つの視点で物語が進む。内部からサイレントヒルの謎に迫るローズと、外部からシャロンの出自とサイレントヒルの謎に迫るクリス。この二つの軸により、ホラー要素とミステリ要素が程よい塩梅でミックスされている。

 

ゲームに出てくる異形のクリーチャーの再現度も高い。Jovianは上半身も下半身も脚というクリーチャーに震えあがった記憶があるが、腕がない、目がないクリーチャーたちは普通にキモイし怖い。三角頭の再現度も非常に高く、とあるキャラの内臓を引きずりだして殺すシーンは震えた。無駄にセクシーな看護師軍団も怖い。CG的には粗いのだが、元々がPlayStationのゲームなので気にならない。

 

徐々に見えてくる教団、そして”アレッサ”の意図。宗教と政治のつながりが云々される現代日本にとって示唆的な内容とも言える。魔女狩りと称して誰かを裁くことで団結するのは古今東西の世の常だが、それによって疎外される側が思想や行動をより先鋭化させるのも歴史的事実。製作から10年以上経て、単なるホラーゲームの実写化という意味以上の意味を帯びるという、何とも数奇な作品である。

 

ネガティブ・サイド

ベネット巡査とローズの奇妙な関係をもう少し深堀できなかったか。反目し合う二人が、いつしか様々な面で同化するというのはありきたりではあるが、王道でもある。王道ホラーの本作には、そうした王道的人間関係の追求と描写が似合ったはず。またその描写が、石頭のグッチ警部とそれに反発し続けるクリスの関係と鮮やかなコントラストになったのではないかとも思う。

 

ゲームでは無線に雑音が入るとクリーチャーが近くにいるということを示していたが、その演出が序盤にしか使われていなかったのは残念である。ベネット巡査の無線やローズの携帯を適宜に使えば、サスペンスやスリルをもっと盛り上げられる場面はあっただろうと思う。ただ、本作で本当に怖いのは人間なので、クリーチャーの登場と人間の業のバランスを考えると、致し方のない選択だったのかもしれない。

 

総評

これは面白い。グロ描写もあるが、なにより霧と灰に覆われた街、そして血と錆に汚された建物内部がホラー映画の真髄を思わせる。超常的な何かが起きるよりも前の雰囲気がたまらなく良い。個人、ひいては地域や集団を忌避し、疎外してしまうことで起こる悲劇の物語が非常に現代的である。ゲームの世界をちょっとだけ知っているJovianは本作を大いに楽しめた。ゲームのハードコアなファンはいざ知らず、予備知識があまり無い状態で鑑賞しても十分に堪能できるホラー映画だろう。特に現代日本の政治と宗教の汚染された関係を下敷きに本作を鑑賞してみるのも一興ではないだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

sleepwalk

寝ながら歩く、の意。しばしば夢遊病を指す。必ずしも歩く必要はない。Jovianも小学校高学年ぐらいの時に、寝ながらパジャマを脱ぐことが何度もあったらしい。もしも夢遊病があまりにも長く続く、あるいはそのせいで怪我をしたということであれば、早めに受診されたし。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, B Rank, アメリカ, ショーン・ビーン, デボラ・カーラ・アンガー, ホラー, ラダ・ミッチェル, ローリー・ホールデン, 監督:クリストフ・ガンズ, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 サイレントヒル 』 -ゲーム原作の王道ホラー-

『 四畳半神話大系 』 -青春とは何かを知るための必読書-

Posted on 2022年7月2日 by cool-jupiter

四畳半神話大系 90点
2022年6月15日~6月29日にかけて読了
著者:森見登美彦
発行元:角川文庫

『 ペンギン・ハイウェイ 』のレビューで本作を読み返すと誓っていたが、ここまで遅くなってしまった。仕事で京都の某大学の課外講座を受け持つことになり、その期間中に地下鉄烏丸線や叡山電鉄の車内で本書を読むという、ちょっと贅沢な楽しみ方をしてみた。

 

あらすじ

薔薇色のキャンパスライフを夢見ながら2年間を無為に過ごしてしまった私は、その原因をサークル仲間の小津に帰していた。黒髪の乙女との交際を夢想する私は「あの時、違うサークルに入っていれば・・・」と後悔するが・・・

 

ポジティブ・サイド

多分、読み返すのは4度目になるが、何度読んでも文句なしに面白い。その理由は主に3つ。

 

第一に、文体が読ませる。京大卒の小説家と言えば故・石原慎太郎をして「使っている語彙が難しすぎる」と評された平野啓一郎が思い浮かぶが、森見登美彦の文章にはそうした難解さがない。まず地の文が軽妙洒脱でテンポが良い。各章冒頭の「大学三回生の春までの二年間」から「でも、いささか、見るに堪えない」までのプロローグはまさに声に出して読みたい日本語である。

 

第二に、キャラクターが個性的かつ魅力的である。どこからどう見てもイカ京(近年ではほとんど絶滅しているようだが)の「私」の、良い言い方をすれば孤高の生き様、悪い言い方をすれば拗らせた生き方に、共感せずにいられない。言ってみれば中二病=自意識過剰なのだが、そこは腐っても京大生。衒学的な論理を振りかざして、必死に自己正当化する様がおかしくおかしくてたまらない。また、悪友の小津、樋口師匠、黒髪の乙女の明石さんなど、誰もがキャラが立っている。濃いキャラと濃いキャラがぶつかり合って、そこから何故か軽佻浮薄なドラマが再生産されていく。かかるアンバランスさ、不可思議さが本書の大いなる魅力である。よくまあ、こんな珍妙な物語が紡げるものだと感心させられる。

 

第三に、パラレル・ユニバースの面白さがある。流行りの異世界ではなく並行世界を描きつつ、各章ごとに互いが微妙に、しかし時に大きく相互作用しあう組み立ては見事としか言いようがない。今回は電車の中だけで読むと決めていたが、初めて読んだときは文字通りにページを繰る手が止まらなかった。薔薇色のキャンパスライフを求め、黒髪の乙女との交際を希求する「私」の狂おしさがことごとく空回りしていく展開には大いなる笑いと一掬の涙を禁じ得ない。「私」と自分を重ね合わせながら、あの時の自分がああしていれば、それともこうしていれば・・・と後悔先に立たず。今ここにある自分の総決算を自ら引き受けるしかないのである。

 

四畳半の神話的迷宮から脱出した「私」がたどり着いた境地とは何か。読むたびに世界の奥深さと人生のやるせなさ、そして気付かぬところに存在する矮小な、しかし確かに存在する愛の切なさを痛切に味わわせてくれる本書は、SFとしても青春ものとしても、珠玉の逸品である。

 

ネガティブ・サイド

ケチをつけるところがほとんどない作品だが、言葉の誤用が見られるのが残念なところ。藪用は「野暮用」の誤用だし、天の采配も「天の配剤」の誤用である。

 

総評

Jovianは現役時に京都大学を受験し、見事に不合格であった。それから四半世紀になんなんとする今でも、時々「あの時、京大に合格できていれば・・・」などと夢想することがある。アホである。Silly meである。だからこそ、あり得たかもしれない自分の姿を思う存分「私」に投影してしまう。常に変わらぬ青春がそこにある。下鴨幽水荘≒吉田寮≒国際基督教大学第一男子寮である。アホな男子の巣窟で青春の4年間を過ごした自分が「私」とシンクロしないでいらりょうか。複雑玄妙な青春を送った、送りつつある、そしてこれから送るであろうすべての人に読んで頂きたい逸品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

sidekick

親友、相棒の意。「私」にとって小津は腐れ縁の悪友だが、客観的に見ると親友だろう。best friend や close friend という言い方もあるが、小津のような男は sidekick と呼ぶのがふさわしい。英語の中級者なら、sidekick という語は知っておきたい。

 

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2000年代, S Rank, SF, ファンタジー, 日本, 発行元:角川文庫, 著者:森見登美彦, 青春Leave a Comment on 『 四畳半神話大系 』 -青春とは何かを知るための必読書-

『 遺跡の声 』 -ハードSF短編集-

Posted on 2022年1月23日2022年1月23日 by cool-jupiter

遺跡の声 75点
2022年1月19日~1月22日にかけて読了
著者:堀晃
発行元:東京創元社

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220123013003j:plain

オミクロン株が猛威を振るっている。コロナが流行ると、近所のTSUTAYAが混雑する。そういう時は映画ではなく小説に一時退避する。それも、昔読んで手ごたえのあったもの、かつ、今という時代にフィットする作品が良い。というわけで本作を本棚からサルベージ。

 

あらすじ

銀河の辺境、ペルセウスの腕の先端部で滅亡した文明の遺跡を調査する私に、太陽風事故で死亡したかつての婚約者オリビアの頭脳が転写された観測システムを訪れるようにとの指令が入る。その途上で、私は宇宙を漂流する謎のソーラーセイル状のものと遭遇し・・・

 

ポジティブ・サイド

本作の主人公は『 TENET テネット 』同様に名前がない。すべて一人称の「私」、または「あなた」もしくは「君」で表現されて終わりである。それゆえに感情移入というか、この主人公と自分を identify =同一視しやすくなっている。さらに登場人物も驚きの少なさ。極端に言えば、オリビア、トリニティ、超空間通信で連絡してくる男、これだけ把握しておけばいい。というか、トリニティだけでも十分である。 

 

「私」とトリニティが銀河辺境領域の星々で遺跡を調査したり、救助作業に従事したり、あるいは異星文明とのファースト・コンタクトを果たしていく。それらが短編集に収められている。

 

主人公がひたすら孤独なのだが、その孤独さが孤高さにも感じられる。黙々と職務に励む姿に自分を重ね合わせるサラリーマンは多いはず。相棒がトリニティという結晶生命体なのだが、これが単なる補助コンピュータ的な存在から、パートナー、息子、そして全く位相の異なるものにまで変化していく様が、全編にわたって描かれていく。このトリニティ、『 ガニメデの優しい巨人 』のゾラックのようでもあるし、山本弘の小説『 サイバーナイト―漂流・銀河中心星域 』のMICAの進化の元ネタは本作最後の『 遺跡の声 』であると思っている。

 

どの作品にも共通しているのは、破壊もしくは破滅のイメージである。遺跡とはそういうものだが、これほどまでに静謐な死のイメージを湛える作品の数々を構想し、それをリアルなストーリーとして描き切るという先見性にはお見逸れするしかない。地球温暖化による気候変動や食糧危機問題など、2020年代の今であればそのようなビジョンも湧きやすいだろうが、2007年に発表された『 渦の底で 』を除けば、本作所収の作品はすべて1970〜1980年代に発表されたものなのだ。科学はどうしても時間によって風化してしまうのだが、本作で描かれる地球の科学技術や滅亡した異星文明には、古いと感じられるところがほとんどない。

 

個人的なお勧めは『 流砂都市 』と『 ペルセウスの指 』。前者は、いわゆるナノテクもので、そのスケールの大きさは野尻抱介の『 太陽の簒奪者 』に次ぐ。後者は、藤崎慎吾の『 クリスタルサイレンス 』のKTはこれにインスパイアされたものではないかと密かに考えている。これらはあくまでもJovianの感想(妄想かもしれない)であって、本作を楽しむにあたってハードSFの素養が必要とされるということを意味しない。活字アレルギーかつSFアレルギーでなければ、ぜひ読んでほしい。

 

一話の長さは30〜40ページ。全部で9話が収められている。平均的なサラリーマンが通勤電車に乗る時間に一話が読み切れるだろう。

 

ネガティブ・サイド

悪い点はほとんど見当たらないのだが、フェルマーの最終定理のところだけは現実がフィクションを先行してしまった。そういえば未だ解かれていないリーマン予想の答えを異星由来の知性体(霧子だったかな・・・)に尋ねるものの「データを取り寄せるのに少なくとも4万年かかります」みたいに返されるSFもあった。この作品のタイトル名が思い出せないので、知っている人がいればお知らせいただけると有難いです。

 

主人公の「私」がオリビアを回想するシーンがもう少しあっても良かったのにと思う。性別のない結晶生命と、性別のある地球生命のコミュニケーションから生まれる独自のパーソナリティの形成という過程をもっと詳細に描かれていれば、SFのもたらしてくれる知的興奮という楽しみが更に増したはずだ。

 

総評

コロナ禍の第6波のただ中で、ディスタンスを取ることが必須となっている。だが現実的にはなかなか難しい。せめて物語の中だけでもディスタンスを・・・という人は少数派だろうが、そんな少数派に自信をもってお勧めできる短編集である。もしくは、ここ数年の本屋では訳の分からない転生もののラノベばかりが平積みされていると嘆く向きにもお勧めしたい。スムーズに読めるが、読後に不思議な苦みを残すという、大人の短編集である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

call

「呼び声」の意。表紙に Call of the Ruin とあり、これを訳せば「遺跡の呼び声」となり、タイトルの『 遺跡の声 』となる。『 野性の呼び声 』の原題 The Call of the Wild に従うなら、The Call of the Ruin と定冠詞 The を頭につけるのが(文法的には)正しいのかもしれない。

 

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2000年代, B Rank, SF, 日本, 発行元:東京創元社, 著者:堀晃Leave a Comment on 『 遺跡の声 』 -ハードSF短編集-

『 ソラリス 』 -会えない人に会うということは?-

Posted on 2021年12月27日 by cool-jupiter

ソラリス 60点
2021年12月21日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジョージ・クルーニー
監督:スティーブン・ソダーバーグ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20211227111707j:plain

『 ドント・ルック・アップ 』という地球滅亡もの、さらになかなか終わらないコロナ禍のせいで、ついつい本作に手を出してしまった。古い方の『 惑星ソラリス 』は確か高校生ぐらいの時にテレビ放送で観た。こちらは確か大学卒業後に観た記憶がある。約20年ぶりの再鑑賞である。

 

あらすじ

精神科医のケルビン(ジョージ・クルーニー)は、惑星ソラリスの軌道上で観測任務にあたる友人から「来てほしい」との依頼を受ける。現地に赴いたケルビンは一部のクルーの死亡を知る。残ったクルーに話を聞くが、要領を得ない。そんな中、ケルビンの元に亡き恋人、ハリーが現れて・・・

 

ポジティブ・サイド

SFというジャンルは基本的に論理による面白さを追求するものである。論理とは科学的な思考である。その意味でSF=Science fictionである。けれども、f の字を fantasy であると解釈することもある。『 スター・ウォーズ 』はSFと見せかけたファンタジーであり、おとぎ話である。では本作はどうか。これは fiction と fantasy を上手い具合に配分していると言える。

 

死人が生き返るというのは邦画では結構お馴染みで『 黄泉がえり 』や『 鉄道員(ぽっぽや) 』など、これまで数多く作られてきている。ただ、本作のユニークなところは舞台が地球ではなく宇宙空間であるところ。つまり、生き返っても絶対にそこには来れない場所であるところである。この蘇ってきた存在が持つ記憶というのも非常にユニーク。恩田陸の小説『 月の裏側 』の着想はおそらく本作および原作だろう。

 

アッと驚くとまでは言わないが、ある種のミステリを読み慣れている、あるいは観慣れている人なら予想できる展開だろう。それでもJovianも初見では唸らされた。この人間ではない存在と人間の奇妙な交流と、人間の定義 - つまり見た目なのかコミュニケーション能力なのか、それとも記憶なのか - が本作の眼目である。『 アド・アストラ 』や『 ミッドナイト・スカイ 』のような思弁的な物語を好む向きに、コロナ禍の今こそ鑑賞いただきたい作品である。逆の意味で会いたくなくなったりするかもしれないが。

 

ネガティブ・サイド

オリジナルの『 惑星ソラリス 』も本作も、悪いけれども退屈極まりない。探査船内のショットにしても、クルー以外には誰もいないことを強調するためのアングルで構成されているが、そんなことは観る側全員が分かっている。だからこそ、いるはずのない子どもを追うケルビンの表情であったり、その逸る足取りであったりを映すなど、緊張感やサスペンスを生み出すようなカメラワークが欲しかった。

 

ケルビンとハリーの恋愛回想シーンもかなりくどいという印象。ソダーバーグはこれをSFではなくラブロマンスと解釈したのかもしれないが、それは原作者であるスタニスワフ・レム御大へのリスペクトに欠ける。ジャンルを変えるにしてもヒューマンドラマにしておくべきで、それなら愛憎のどちらも描くことができた。

 

BGMの使い方も気になった。楽曲のクオリティではなく、音楽そのものが果たして必要だったか疑問に感じた。ほぼ探査船内と回想シーンだけで構成されている本作からは、BGMは極力そぎ落とすべきだった。音楽の力で観る側の思考や感情に影響を与えるのは映画の技法の一つではあるが、本作本来の極めて思弁的なSFという性格を打ち出すには音楽は邪魔であったように思う。

 

総評

コロナ禍収束の兆しが世界的に見えない。日本も水際対策に失敗した後で水際対策を強化するありさま。帰省についても政府は「慎重に判断を」と言うばかり。Zoom飲み会なるものも提案され、実行された瞬間に廃れた。「直接に出会う」ということの意味が見直されている時代だからこそ、本作のような思弁的な作品が新たな意味を帯びるのだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Depends

That depends. の省略形。意味は「時と場合によりけりだ」である。How long does it take to make curry? = 「カレーを作るのにどれくらいの時間がかかる?」という質問は、レトルトなのか、それともすじ肉のワイン煮込みベースのカレーなのかで、数分から数日まで答えが変わってくる。そうした質問に対して Depends. / That depends. と返すようにしよう。

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, C Rank, SF, アメリカ, ジョージ・クルーニー, ラブロマンス, 監督:スティーブン・ソダーバーグ, 配給会社:20世紀フォックス映画Leave a Comment on 『 ソラリス 』 -会えない人に会うということは?-

『 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 』 -庵野秀明のトラウマ克服物語-

Posted on 2021年3月21日 by cool-jupiter

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 70点
2021年3月20日 Amazon Prime Videoにて鑑賞
出演:緒方恵美 林原めぐみ 宮村優子 坂本真綾
監督:摩砂雪 鶴巻和哉
総監督:庵野秀明

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210321233829j:plain
 

テレビ版も並行して鑑賞しているが、エヴァンゲリオンというのはつくづく庵野秀明の自意識の世界なのだなと感じる。自分の内面を表現したい。しかしストレートにそれをやるのは気恥ずかしい。だからこそ色々な理屈で糊塗しているのかなと邪推してみたくなる。まあ、似たようなことは手塚治虫も『 火の鳥 』シリーズの猿田や『 ネオ・ファウスト 』でやっているわけで、傑出したクリエイターにはよくあることなのかもしれない。

 

あらすじ

シンジ(緒方恵美)や綾波(林原めぐみ)、アスカ(宮村優子)は使徒との戦いを継続していた。そこに新たなチルドレンとして真希波・マリ・イラストリアス(坂本真綾)もエヴァのパイロットとして加わってくる。戦いが激化していく中、最強の使徒が迫ってきており・・・

 

ポジティブ・サイド

テレビアニメ版では画質はともかく、カラフルな色使いとダイナミックなモーションが大きな特徴だった。それらがさらにパワーアップしている。特にサハクィエルの大気圏突入からの落下と、それを食い止めるエヴァ3体の共闘は本作のみならず、ヤシマ作戦と並んで、テレビアニメ版・劇場版の両方で最も印象深いシーンだ。そして、サハクィエル戦あたりからガラリと物語の様相が変わってくる。まさに「破」である。

 

ポジティブに捉えられる変化は、シンジ、レイ、アスカの物語の密度が高まったこと。フォース・チルドレンとしての鈴原トウジをアスカに置き換えたのがその最たる例だろう。三号機関連のエピソードによって、惣流と式波の二人のアスカは文字通りの意味で別物であると認識させられた。というか、「今日の日はさようなら」の使い方、ヤバすぎやろ・・・

 

エヴァンゲリオンの魅力に、パッと見では意味が分からない、考察してもやっぱり意味が分からない、というものがある。本作で一番の「破」となっているのはゼルエル戦の結末。セカンド・インパクトの謎の解明もなされぬまま、サードインパクトに突入するという超絶展開と渚カヲル登場というクリフハンガー。しかし、これが「Q」にダイレクトにつながっていない(“日の七日間”をどう見るかなのだろうが)のだから、クリフハンガーと呼べるのかどうか。いずれにせよ、最高の形で引いたことは間違いない。テレビアニメ版の、あのモヤモヤ感が蘇ってきたのは、心地よい混乱である。

 

ネガティブ・サイド

オリジナルではアスカが徐々に自身を喪失し、内面を蝕まれていく様を執拗に描写していたが、劇場版ではそこをカット。やっぱりアレか。庵野の欲望の対象が宮村から離れていったということなのか。あるいは宮村との間のあれやこれやが綺麗な思い出に昇華したか、あるいは都合よく忘却することに成功したのか。ただ、90年代のエヴァファンの多くは、シンジやアスカの内面世界の葛藤に激しく共感したことを忘れてほしくない。この部分を大きくカットしたのは、ファンサービスの面ではマイナス評価となる。

 

総評

過去作品を色々と観返すことで、なんとなく『 シン・エヴァンゲリオン劇場版:|| 』で庵野が表現したかったこと、あるいは表現できるようになったことが分かってきたような気がする。

 

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

replaceable

replace = 置き換える。replaceable = 置換可能。綾波の名(迷?)セリフ、「私が死んでも代わりはいるもの」=Even if I die, I am replaceable. となるだろうか。replaceは使用範囲が極めて広いので、中級者以上なら是非とも使いこなせるようになりたい語である。

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2000年代, B Rank, アニメ, 坂本真綾, 宮村優子, 日本, 林原めぐみ, 監督:摩砂雪, 監督:鶴巻和哉, 総監督:庵野秀明, 緒方恵美, 配給会社:カラー, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 』 -庵野秀明のトラウマ克服物語-

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