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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 韓国

『 非常宣言 』 -デタラメなパワーで突っ切る韓国映画-

Posted on 2023年1月12日 by cool-jupiter

非常宣言 70点
2023年1月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ソン・ガンホ イ・ビョンホン チョン・ドヨン イム・シワン
監督:ハン:ジェリム

色々あって年末年始は劇場に行けなかったが、新年一本目に本作をチョイス。

あらすじ

パク・ジェヒョク(イ・ビョンホン)の娘は、トイレで不審な男性を目撃する。その後に搭乗したハワイ行きの航空便で、乗客が吐血して死亡。機内はパニックに陥る。同じ頃、国内ではバイオテロの犯行予告動画が拡散しつつあった。捜査に乗り出したク・イノ刑事(ソン・ガンホ)は、テロの標的となった飛行機に妻が乗っていると知り・・・

ポジティブ・サイド

物語の開始から、最初の死者が出るまでが非常にスピーディーだが、このテンポが最後まで落ちない。やれやれ、話がちょっと一段落したか、と思った瞬間から、新たな展開が矢継ぎ早に始まっていく。普通の映画だったらここで終わり、という瞬間からさらに40分は尺を稼ぐが、そこに長さを感じない。最初から最後まで無茶苦茶な展開ながら、観る側を飽きさせずに惹きつけ続ける力を持っている。

撮影という面でビックリさせられたのは、機長が感染して、飛行機の操縦が滅茶苦茶になるところ。飛行機がきりもみ回転しながら降下していくシーンでは、キャビンの乗客の一部がマイナスのGの作用で天井にはりつけられてしまう。トム・クルーズの『 ザ・マミー/呪われた砂漠の王女 』のように本物の飛行機を使ったとは思わないが、観ていてハッとさせられた。

ソン・ガンホとイ・ビョンホンという二大巨頭の揃い踏みだが、バイオテロの犯人を演じたイム・シワンが最も凄みのある演技を見せる。『 殺人鬼から逃げる夜 』のウィ・ハジュンでも感じたことだが、整った顔立ちの青年が狂気をはらむ歪んだ笑顔に変わっていく瞬間は、本当に気持ち悪い。これは誉め言葉である。イム・シワンが聞けば「俺の演技力を見たか」と思うに違いない。

もちろん両巨頭の見せ場も十分にある。妻を思う心優しきソン・ガンホが、そんな馬鹿なという方法で状況を打開するし、トラウマを抱えるイ・ビョンホンがそれを乗り越えていく過程にもドラマがある。チョン・ドヨン演じる強気の大臣も素晴らしい。緊急事態宣言下でサービスエリアが営業しない中で、トラック運転手にコンビニ利用を促したどこぞの島国のアホな国土交通大臣とは大違い。このようなリーダーシップを真正面から描ける点は素直に羨ましい。

ネガティブ・サイド

アメリカに追い返される韓国機はまだしも、日本の航空自衛隊があんな対応するかなあ。厚木の米軍が出張ってくるのは現実的にも本作のストーリー的にも考えられるが、百里あたりの自衛隊が、下手したら日韓戦争の引き金をひくような真似をするだろうか。やはり日韓は互いに相手を仮想敵国と見ているのか。

韓国国民が飛行機に対して拒絶反応を起こすのは理解できるが、たかだが数時間程度の間に各種のプラカードや横断幕を準備して、組織だった反対デモが起こるものだろうか。いくらデモ好きの韓国人とはいえ、非現実的に見えた。

総評

劇中の韓国国民が感染者を多数抱えた飛行機を受け入れるかどうかで激論を交わす様は、2020年当時の我々がダイヤモンド・プリンセス号に対して投げかけた言説と同じであることを思い起こさせられた。ちょうど本作鑑賞の前日に中部空港のジェットスターに爆破予告の電話があったとのニュースが。パンデミックと航空機テロという二つの要素が、この上ないタイミングで合わさった韓国スリラーである。

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ピ

血の意。劇中で何度も何度も「ピ!ピ!」とキャラたちが大騒ぎするので、すぐに分かる。チとピで何となく似ている気がする。

次に劇場鑑賞したい映画

『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』
『 ファミリア 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イ・ビョンホン, イム・シワン, スリラー, ソン・ガンホ, チョン・ドヨン, 監督:ハン・ジェリム, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 非常宣言 』 -デタラメなパワーで突っ切る韓国映画-

『 犯罪都市 THE ROUNDUP 』 -鉄拳はすべてを解決する-

Posted on 2022年12月15日2022年12月15日 by cool-jupiter

犯罪都市 THE ROUNDUP 65点
2022年12月11日 心斎橋シネマートにて鑑賞
出演:マ・ドンソク ソン・ソック
監督:イ・サンヨン

『 犯罪都市 』の続編。マ・ドンソクが出るだけでマ・ドンソクの映画になってしまうのだから、この役者のスターパワーには相当なものがある。とにかく鉄拳が全てを解決してしまうのだ。

 

あらすじ

衿川警察の強力班の刑事マ・ソクト(マ・ドンソク)は、国外逃亡犯の身柄引き受けのためにベトナムに向かう。しかし、領事館に自首してきた容疑者を不審に感じたマは、背後にカン・ヘサン(ソン・ソック)という凶暴な犯罪者の存在を察知。ベトナムで独自に調査を開始する。一方で、カン・ヘサンに息子を殺された韓国の大企業の会長は、独自に殺し屋を雇ってカン・ヘサン抹殺を目論んで・・・

ポジティブ・サイド

冒頭から不穏な空気が流れる。若手社長がいきなり拉致され、ボコボコにされてしまう。この有無を言わせぬバイオレンスが韓国映画らしさ。その一方で、これはマ・ドンソクの主演映画。どんなにドギツイ描写があっても、彼が出てくれば一気にコミカルになる。冒頭で婦女子を人質にした立てこもり犯を前に右往左往する衿川警察の強力班の面々。そこに現れるマ・ソクト。なんだかんだありながらも、ナイフの相手を剛腕でノックアウト。狂暴なカン・ヘサンと剛腕マ・ソクトの対照的な導入で、これだけで二人の対決のショーダウンが楽しみになってくる。

 

その後の展開もカン・ヘサンのパートは容赦ない犯罪と暴力、マ・ドンソクのパートではコミカルな笑いを提供と、メリハリの利いた構成で物語が進んでいく。ベトナムまでやってきて、しかも領事館の中で「真実の部屋」をやるマ・ドンソクには笑ってしまう。対してカン・ヘサンも、殺害した若手社長の父親が送り込んでくるヒットマン連中を先制攻撃で撃退。狂暴なだけではなく、本物の戦闘力の持ち主であることを見せつける。前作のユン・ゲサンとチン・ソンギュもかなりの狂いっぷりを見せてくれたが、頭のおかしさと言う意味では今作のソン・ソックも全く負けていない。というか、これぐらい狂ったキャラでないと、マ・ドンソクと対峙できない。つくづくスターパワーのある役者である。

 

カン・ヘサンはベトナムの犯罪者たちのアジトに乗り込んでの大立ち回り。そこに遅れてやって来るマ・ドンソクとの最初の対決が中盤の見どころ。ここであのコミカル班長が大ダメージを負ってしまうが、彼の怪我とその後の病院での対応がストーリーにぴったりハマっている。単に怪我をさせられました、ではなく物語を勧めていく上での必然性のあるイベントになっていた。ここから舞台は韓国へ。

 

韓国でもカン・ヘサンが大暴れ。これはもう一所轄の一警察署の案件ではない。が、そこもあっさりとクリア。これなら元大阪府警のJovian義父も納得してくれそうな一コマがある。自分を狙う者すべてを殺し、カネを奪っていくカン・ヘサンを追う中で、強力班のメンバーもダメージを負っていく。警察の総力を挙げてカンを追うカー・チェイスのシーンはかなりの迫力。そして最後はカン・ヘサンとマ・ソクトの第2ラウンド。やはり鉄拳はすべてを解決するのである。ラストは『 エクストリーム・ジョブ 』的な大団円。本当のクランクアップのシーンをそのまま映画に使ったのかな?と思うほど。これはもう一本続編が来るかもしれない。

ネガティブ・サイド

刑事は二人で行動するのが基本中の基本。班の一人が単独行動することで、逆にカン・ヘサンに刺されてしまうが、これだとカン・ヘサンが強いというよりは刑事の方が間抜けに見えてしまう。班長とマ・ソクトは二人組で行動していたが、それでも班長はカンに重傷を負わされた。この刑事も二人組で行動していて欲しかった。

 

おとり捜査は日本でも条件付きで行われ始めているらしいが、韓国では民間人(というか不法滞在者)をこんな風に捜査に駆り出すのはOKなのだろうか?ここで警察署長もしくは班長にもう一回根回しをしておけば印象も違ったのだが。

 

ヴィランのカン・ヘサンの悪人っぷりに文句はないが、彼のやっている犯罪行為そのものはちんけに思える。この点では前作のユン・ゲサンとチン・ソンギュのペアによる組織犯罪の方がはるかに脅威に思えた。『 ただ悪より救いたまえ 』のように、国外でうごめく巨悪を叩くというプロットを構想できなかったものか。

 

総評

『 ただ悪より救いたまえ 』のように明らかにアジア市場を意識した作りになっている。というか、やっていることは『 ただ悪より救いたまえ 』にそっくりの韓流ノワールなのだが、マ・ドンソクが暴れるだけでスカッとした爽快アクションになるのだから不思議である。この丸顔中年筋肉オヤジはどこかチャールズ・バークレーやシャキール・オニールといった、子どもがそのままデカくなったような雰囲気がある。どんなにバイオレンス色が強まっても、それを中和してしまうキャラクターというのはなかなか見当たらない。スカッとした気分になりたければ、前作を鑑賞の上、本作を観よう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I would like …

・・・が欲しい、というのを丁寧に言う表現。I want some coffee. の代わりに I would like some coffee. と言えば、それだけでかなり丁寧になる。英語圏でも非英語圏でも、海外旅行する際に何かをリクエストする時には I would like ~を使っておけば大怪我をすることはない。

次に劇場鑑賞したい映画

『 グリーン・ナイト 』
『 ホワイト・ノイズ 』
『 夜、鳥たちが啼く 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アクション, ソン・ソック, マ・ドンソク, 監督:イ・サンヨン, 配給会社:HIAN, 韓国Leave a Comment on 『 犯罪都市 THE ROUNDUP 』 -鉄拳はすべてを解決する-

『 フェイク 我は神なり 』 -信じる者は救われる?-

Posted on 2022年8月21日 by cool-jupiter

フェイク 我は神なり 70点
2022年8月19日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ヤン・イクチュン
監督:ヨン・サンホ

待てど暮らせど返却されない『 マインド・ゲーム 』。しゃーないので、前々から気になっていた本作をセレクト。

 

あらすじ

韓国の田舎の村。ダム建設のために近く水没する予定のこの村に、ミンチョル(ヤン・イクチュン)が帰ってきた。村では若いソン牧師が村人から崇敬を集めていた。しかし、その傍らには村人から補償金を巻き上げようとする詐欺師ギョンソクの姿があり・・・

 

ポジティブ・サイド

アニメではあるが、韓国映画の容赦ないテイストがこれでもかと詰め込まれている。『 はちどり 』の父親よりも暴力的なミンチョル。それを『 息もできない 』のヤン・イクチュンがけれんみタップリに演じるのだから笑おうにも笑えない。いや、笑ってしまうようなストーリーではないのだが、韓国の伝統的な父親像を体現するダメ親父が、確立された宗教的権威に挑むというのだから、普通は笑ってしまうだろう。しかし、この無茶なプロットを成立させるのも韓国映画の剛腕っぷりと言えようか。

 

能弁家のギョンソクと若い牧師のソンが立ち退き料を受け取った村人に、あの手この手で浄財をさせようという序盤が目を引く。「こんな馬鹿な手口に引っかかるとは、さすが韓国の田舎者」と感じたら、それだけで負けである。日本でも毎年のように数億円規模の詐欺集団が検挙されているが、逆に言えば野放しの詐欺集団もたくさんいるということである。個人を悪く言うものではないが、2021年に死去した細木数子などはギョンソクと同種の人間だろう。彼女がテレビで「地獄に落ちるぞ」と言うたびに、ああ、室町時代の坊主はこんな感じで庶民を食い物にしてたんやろなあ、と思っていたものである。

 

閑話休題。本作は、ろくでなしが語る真実と聖人君子がもたらすまやかしのどちらを信じるのかを我々に問いかけてくる。『 沈黙 サイレンス 』そのままに、神は黙して語らない。だからこそ、その代弁者としてのソン牧師や、そのスポークスマンであるギョンソクの言葉に村人は耳を傾ける。このあたりのイライラ感と、他人に対して粗野にしか振る舞えないミンチョルのイライラ感が合わさって、観ていて非常にストレスが溜まる。警察もとことん無能で、こいつら仕事する気あんのかいな?とイライラさせられる。このイライラが最高潮に達する時、すべてが破滅に向かって動き出す。この救いの無さは『 ソウル・ステーション パンデミック 』でも明らかだったヨン・サンホ監督の持ち味か。何を信じるのかではなく、信じるという営為そのものが持つ危うさが本作の肝である。

 

ネガティブ・サイド

アニメではなく実写でやるべきテーマ、かつストーリーだろう。ミンチョルのような粗野で暴力的な中年を演じられる俳優も、韓国にはいくらでも存在するだろう。『 息もできない 』のヤン・イクチュンが、そのまま本作のミンチョルを演じるところを是非とも見たかった。

 

これは一種のネタバレだが、字幕に問題ありである。おそらく翻訳者は気を利かせて、ある簡単な韓国語を別の言い方に訳してしまっているが、これによって終盤のあるシーンの驚きが減じてしまうことにつながっている。小さな親切が余計なお世話になることもある。

 

総評

日本の代議士、特に政権与党が旧統一教会(&創価学会)に汚染されまくっていて、なおかつ「知らなかった、今後は気を付ける」で済ませようとする国会議員の多さ、その神経の図太さには呆れるばかりである。そんな状況なものだから「旧統一教会によって救われた人もいる」という発言も大いにバッシングを浴びるわけだが、日本人はそもそも宗教とは何か、信仰とは何かを知らない。「日本人に哲学なし」とは中江兆民の言だが、これは「日本人に宗教なし」とも言い換えられるかもしれない。では宗教とは何か?その問いに対するひとつの答えが本作にはある。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

カ

Ka is go, Ke is stay. と昔、Korean American の非常勤講師に教わったことがある。さよなら=アンニョンヒ「カ」セヨは相手が去る時、アンニョンヒ「ケ」セヨは自分が去る(=相手が残る)時だ、と。本作では「カ」の一言で「帰れ」のように使っていた。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アニメ, サスペンス, ヤン・イクチュン, 監督:ヨン・サンホ, 配給会社:ブロードウェイ, 韓国Leave a Comment on 『 フェイク 我は神なり 』 -信じる者は救われる?-

『 女神の継承 』 -古今東西のホラーミックスの怪作-

Posted on 2022年8月12日 by cool-jupiter

女神の継承 75点
2022年8月12日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ナリルヤ・グルモンコルペチ サワニー・ウトーンマ
監督:バンジョン・ピサンタナクーン

 

『 チェイサー 』、『 哭声 コクソン 』のナ・ホンジン監督が原案およびプロデュースを担当。それだけで一筋縄ではいかない映画だとわかる。実際に有名ホラー映画のインターテクスチャリティー満載の作品であった。

 

 

あらすじ

霊媒のニム(サワニー・ウトーンマ)は女神バヤンの依代として、地域住民の悩みや病気の解決の手助けをしていた。彼女の姪のミン(ナリルヤ・グルモンコルペチ)が謎の体調不良に見舞われたことから、ニムは女神バヤンがミンを新たな依代に選んだと考えていたが・・・

 

ポジティブ・サイド

Jovianは大学で宗教学を専攻していた。より詳しく言えば古代東北アジアの思想、特にアニミズムを勉強していた。なので東南アジアのシャーマニズムについては門外漢ではあるものの、感覚的に理解できることがかなりあった。ただし本作を堪能するために専門知識は必要ない。むしろアジア人=多神教やアニミズムを何となく受け入れている民族であれば、それだけで恐怖が倍増するだろうと感じた。

 

全編通じて『 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 』的なドキュメンタリー形式で撮影されており、随所に『 カメラを止めるな! 』的な要素もある。序盤のニムへのインタビューや、ニムの霊媒としての仕事ぶりは、ナショジオ的な趣すら感じられた。

 

姪のニムが女神バヤンの新たな継承者の兆候を見せ始めるところから、テレビ番組的な趣は消え、本格ホラーに移行していく。『 エクソシスト 』へのオマージュが散りばめられ、最後には各種ゾンビ映画のごった煮状態に昇華する。

 

その過程で観る側の神経をざわつかせるのは、ニムの変化。最初は体調不良だったのが、子どもに対する乱暴行為、それがエスカレートして大人にも暴言暴行、果てはニムの祈祷に対して緑色の吐しゃ物を出すなど、行為の変化が肉体の変化に起因することを示している。この見せ方は日本のホラーにはあまりないが、もっと取り入れても良いように思う。目が赤く光るとか、口角がありえないほど引きつるといった外見的な描写よりも、血液の色がおかしい、吐しゃ物が異常といった内部の描写に切り込む本作は、かなりの野心作である。

 

いよいよ悪霊祓いとなった時に「はあ?」という事件が発生する。これはなかなかの不意打ちだった。もはやグッドエンドは期待できない中、物語は突き進んでいく。このクライマックスの凄惨さは、映画なのか漫画なのか分からないレベル。一歩間違えればギャグにしか見えないシーンの数々を恐怖映像としてしっかりまとめ上げたピサンタナクーン監督の手腕は見事である。

 

また主演の二人の女優も印象的。ニムはいかにもタイの土着的なおばちゃんで、日本なら沖縄あたりでユタをやっていそうな感じ。ミンを演じたナリルヤ・グルモンコルペチは対照的に、西洋風な面持ちのスレンダー美女。あられもないセックスシーンから、狂乱状態のトップレス披露まで、日本のホラー映画に出てくる女優とは明らかに気合いが違う。各種の動物の形態模写から、血しぶきブシャーの殺戮シーンまで、何でもござれ。ルックスを売りにする日本の若手女優は、ナリルヤの爪の垢を煎じて飲むべきである。

ネガティブ・サイド

ドキュメンタリー風に撮るなら、もっとカメラマンが画面に映ってもいい。あちこちでカメラが切り替わるが、それはそこにカメラ・オペレータがいるから。終盤は撮影者も次々に死んでいくが、中盤あたりから「女神継承」あるいは「悪魔祓いの儀式」をカメラに収める人間たちの存在をもっとアピールしても良いと感じた。『 カメラを止めるな! 』の成功要因の一つに、これは映画を撮っている人たちを撮っている映画、と思い込ませた点がある。実際には、映画を撮っている人たちを撮っている人たちを、さらに撮っている映画だった。そこを強調する仕掛けが本作にあっても良かった。

 

犬が重要なキーワードの本作であるが、その犬の悪霊に憑かれた人間が襲う対象が少々不可解。えーと、その人は犬を〇〇している人だったっけ?むしろ、それを疑問に思っている人だったのでは?

総評

タイ映画といえば『 ホームステイ ボクと僕の100日間 』や『 バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』など、都市部の若者にフォーカスするイメージを持っていたが、それが見事に覆された。ホラーに耐性がない人はスルーのこと。ホラーに耐性がある人はぜひ鑑賞を。古今東西のホラー映画のエッセンスが詰め込まれた、まるで鍋料理のような融通無碍な味わいが得られることだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

medium

原題は The Medium = 霊媒 である。med から mid 、つまり真ん中がイメージできればOK。マスコミをメディアと呼ぶのは、情報伝達の面で政府や芸能界と一般大衆の中間を担っているから。霊媒も超自然的存在と人間をつなぐ中間的存在であることから英語では medium となる。こんな語彙を知っておくべきなのは好事家だけだろうが。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サワニー・ウトーンマ, タイ, ナリルヤ・グルモンコルペチ, ホラー, 監督:バンジョン・ピサンタナクーン, 配給会社:シンカ, 韓国Leave a Comment on 『 女神の継承 』 -古今東西のホラーミックスの怪作-

『 モガディシュ 脱出までの14日間 』 -極限状況から脱出せよ-

Posted on 2022年7月4日 by cool-jupiter

モガディシュ 脱出までの14日間 75点
2022年7月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:キム・ユンソク チョ・インソン チョン・マンシク
監督:リュ・スンワン

名優キム・ユンソク主演作。韓国が国際社会での存在感を増そうともがいていた時代を映したという意味で『 国家が破産する日 』とよく似ている。あちらも焼けつくようなサスペンスがあったが、こちらも言葉そのままの意味で手に汗握り、固唾をのんでしまう作品であった。

 

あらすじ

1990年、国連加盟を目指す韓国はアフリカ諸国の支援を取り付けようと躍起になっていた。ソマリア駐在大使ハン(キム・ユンソク)も、ソマリア大統領やその側近に接近していた。しかし、同じく国連加盟を目論む北朝鮮の妨害にあっていた。そんな中、内戦が勃発。北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)は、韓国大使館へ助けを求めようとするが・・・

ポジティブ・サイド

太陽政策以来、南北は、少なくとも韓国側は融和への路線を歩んでいる。だが、本作は1990年、つまり南北がバチバチに対立していた頃の話。その争いも、北がソマリアのチンピラを雇って、韓国大使の自動車を銃撃し、大統領との面会に遅刻させるという、ユーモラスなのか深刻なのか分からないもの。だが、いったん内戦が勃発するや、わずかに残っていたユーモアは消し飛び、物語は戦場さながらの、いや戦場そのままの修羅場からの脱出劇へと変貌する。

 

まずソマリア人たちの trigger happy ぶりに怖気を奮うしかない。銃社会と言えば『 女神の見えざる手 』のアメリカが思い浮かぶが、銃を誰がどう手に入れるかではなく、誰もが銃を持ち、政権側は反乱軍に発砲するし、反乱軍も政権側に発砲する。同国人に対してそうなのだから、外国人に対して容赦などするはずもない。相手が外交官であっても反乱軍は気にしない。いや、反乱軍だからこそ気にしない。そんな恐怖感が、逆に南北朝鮮人の心を近づける。

 

命からがら韓国大使館へと逃げ込む北朝鮮外交官たちとその家族たちが、晩餐を振る舞われるが、誰もそれに手を付けない。元々一つの国家だった朝鮮半島であるが、彼らはその文壇の始まりをモガディシュに見出していたのだろう。キム・ユンソクがホ・ジュノと自分の器を無言で入れ替え、むしゃむしゃと食べ始めたところで、北朝鮮側も三々五々食べ始める。ここで、南北の女性が同時に荏胡麻の葉に同時に橋を伸ばすシーンは、人間が本来持っている思いやりというものを淡々と描く名場面だった。

 

本作は南側の視点に立っているが、北を問答無用の悪に描くことはせず、また南を無条件に善に描くことをしない。北の人間が自分たちの子どもたちに南の文化を見させまいとして、我が子の目を覆うシーンもある一方で、南の人間は北の人間すべてが暗殺者として育てられていると陰口をたたく。どっちもどっちである。この相容れない同民族が、極限状況で互いを認め合っていくのが本作の一つの見どころである。分断されるソマリアと、分断される中で統一・・・とは言わないが、一つにまとまっていく南北朝鮮の人々のコントラストが映える。非常に逆説的であるが、民族や部族がまとまるために極限状況は不要であるというメッセージが強く伝わってくる。

 

クライマックスのイタリア大使館に向けての逃走劇はカーアクションの白眉である。カーアクションだけ見れば『 新 感染半島 ファイナル・ステージ 』や『 ただ悪より救いたまえ 』よりも上である。4台のクルマが連なって銃撃の雨あられをかいくぐる一連のシークエンスは、カメラワークの巧みさもあり、非常にスリリングな出来に仕上がっている。脱出した先に見る光景、それはもう一つの分断だった。このやるせなさよ。清々しい余韻を残して終わることを良しとしない韓国映画の面目躍如である。

 

1990年と言えば湾岸戦争勃発のイメージが強く、ソマリアで内戦が起きていたことなど当時はリアルタイムで知りようがなかったし、そんな情報も自分には入ってこなかった。小学生だったから当たり前だが、当時の大人も海外の一大事といえば湾岸戦争だったはずだ。だが、そんな戦争の裏でこれほど濃密なドラマが繰り広げられていたとは知らなかった。韓国映画の勢いは、コロナ禍でも衰えを知らないようだ。

ネガティブ・サイド

南北の参事官同士が肉弾戦を繰り広げるシーンがあるが、あまりにも南が北を圧倒しすぎではないか。もっと互角の殴り合い(というか蹴り合い)をしてくれれば、終盤のカーアクション後の展開をもっとドラマチックに演出できたことだろう。

 

各国大使たちの丁々発止のやりとりや、時に支え合い、時に出し抜こうとする外交官の駆け引きが描かれていれば、終盤のイタリア大使館やエジプト大使館から協力を得られる展開がもっと感動的になったと思われる。

 

総評

韓国映画はしばしばハリウッド映画の亜種とされるが、まさにハリウッド的なテイストに溢れた作品。序盤はユーモアを交え、60分で一つ目の山場、90~105分に対立と緊張の中で芽生える南北の人間の奇妙な友情や連帯感は、陳腐ではあるが、それゆえにいくらでもドラマを生み出すことができる。『 PMC ザ・バンカー 』はスーパー・エクストリームな展開だったが、こちらは歴史的な事実に基づいている。その意味ではリアリティが抜群である。韓国映画と邦画の差は開くばかりである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

15 minutes late

『 シャンチー テン・リングスの伝説 』で紹介した 90% confident の類似表現。劇中ではキム・ユンソクが We were only 15 minutes late. = たった15分遅刻しただけなのに、と正しい形で使っていた。前にも書いたが、Jovianの以前の職場の英検1級ホルダー3名はそろいもそろって 〇〇 san will be late for 15 minutes を「正しい英語である」と認識するトンデモ英語講師であった。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, キム・ユンソク, サスペンス, チョ・インソン, チョン・マンシク, 歴史, 監督:リュ・スンワン, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 モガディシュ 脱出までの14日間 』 -極限状況から脱出せよ-

『 ベイビー・ブローカー 』 -家族像を模索する-

Posted on 2022年6月30日 by cool-jupiter

ベイビー・ブローカー 80点
2022年6月26日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ソン・ガンホ カン・ドンウォン イ・ジウン ペ・ドゥナ イ・ジュヨン
監督:是枝裕和

 

是枝裕和監督が単身韓国に向かい、韓国人スタッフと作り上げた異色のロードムービー。家族とは何なのかを模索する是枝色が色濃く出た逸品。

あらすじ

サンヒョン(ソン・ガンホ)とドンス(カン・ドンウォン)教会のベイビーボックスに預けられた赤ん坊を養子として売るブローカー業に従事していた。ソヨン(イ・ジウン)は自分の預けた赤ん坊がいないと知り、警察に通報しようとする。サンヒョンとドンスは赤ん坊を高く買ってくれる里親を探しに行くのだと白状する。ソヨンもその旅に同行することになるが、そこには人身売買を捜査する刑事スジン(ペ・ドゥナ)らも迫っており・・・

ポジティブ・サイド

日本は昭和半ばの年間中絶数100万から順調(?)に減らして、令和の今は年間10~20万件。韓国は今は5万件を切っているようで、人口比で考えれば日本とどっこいどっこいのようである。では、中絶できず、望まれないままに生まれてしまった命はどうなるのか。赤ちゃんポスト、ベイビーボックス。どう呼んでも、その本質は同じ。育てられないにもかかわらず、産み落とされた赤ちゃんを託す場所、あるいは制度だ。このベイビーボックスを巧みに利用して裏の養子縁組仲介業を営む者たちの人間ドラマが本作の見どころである。

 

まずソン・ガンホの控えめにして重厚な存在感が素晴らしい。『 パラサイト 半地下の家族 』でも市井の人を演じたが、ソン・ガンホのどこにでもいそうな韓国のおっちゃん的な顔には安心感がある。同時に、平々凡々な顔であるからこそ、シリアスになった時のギャップに驚かされる。基本的にはクリーニング屋のオヤジなのだが、そこかしこで見せるおかしみや優しさ、その逆の悲哀や怒りが、観ている我々に痛切に伝わってくる。ダンディな中年俳優ではこうはいかない。試しに西島秀俊や竹野内豊が本作でベイビー・ブローカーをやっているところを想像してみてほしい。まったく似合わない、むしろそうした絵が浮かんでこないだろう、

 

対するペ・ドゥナによる刑事も非常に人間味に溢れている。それは慈愛や思いやりを前面に押し出しているというわけではない。詳述は避けるが、彼女の夫が張り込み中の妻に差し入れを持ってくるシーンには唸らされた。一筋縄ではいかないキャラで、夫婦関係のあれやこれやを否応なく想像させられる。その想像を下敷きに、彼女の目線でサンヒョンやドンス、ソヨンの里親探しの旅を見つめると、子を持つこと、あるいは親になることについて深く考えさせられるだろう。

 

彼女の仕掛けるおとり捜査を、ドンスが機転を利かせて回避する演出もいい。海千山千のしたたかなブローカーで、彼自身の出自、そしてそれまでの人生経験をどんな言葉よりも雄弁に語っていた。彼の手練れたブローカーっぷりと腕っぷしの強さが相棒サンヒョンと奇妙な凸凹コンビになっており、物語に上手く起伏をもたらしていた。

 

旅路の中で出会っていく里親候補たちと、彼らとの物別れを超えて形成されていくサンヒョンらの疑似家族的な関係の行きつく先は、決して温かいものでも優しいものでもない。しかし、人は人を救うことができるという確信が得られることは間違いない。『 ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 』が強く示唆した子どもの行方不明事件とは別の角度から韓国社会の居間に迫った秀作。それでいて『 デイアンドナイト 』で描かれたような、人間の表の顔と裏の顔をシリアスかつコメディ色も交えて描いている。新しい家族観を呈示しているという意味で、『 万引き家族 』や『 朝が来る 』に並ぶ傑作である。

ネガティブ・サイド

序盤でヤクザ者が血まみれのシャツをクリーニングするように言ってくるシーンでは、もう少しサンヒョンに蘊蓄を語らせても良かったのではないかと思う。そうすることでサンヒョンは血抜きに通じている=流血沙汰に巻き込まれる顧客がいる=裏社会とつながりがある、ということを示唆できた。その方が終盤の展開に説得力を与えられたはず。また『 ただ悪より救いたまえ 』が真正面から描いた小児の人身売買の闇の部分を強調できただろうと思うのである。

 

総評

日韓の才能が見事に融合した作品。隣国は、社会のダークな面を描くのが本当にうまいと思う。そのことが、社会の理不尽に抗う個の強かさを描くことに定評のある是枝の強みと結びついたのだろう。最近、トランプ前アメリカ大統領の置き土産のせいで、アメリカでは人工妊娠中絶の実施が難しくなった。アメリカでも本作のような物語がこれから生み出されていくのだろうか。そのようなことを予感させてくれる、社会派映画の良作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

complainer

クレーマーの意。日本語で言うところのクレーマーをそのままアルファベットにすると claimer となるが、この表現はあまり使われることはない。complainer というのは実際によく使うので、こちらは脳にインプットしておきたい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, イ・ジウン, イ・ジュヨン, カン・ドンウォン, ソン・ガンホ, ヒューマンドラマ, ペ・ドゥナ, 監督:是枝裕和, 配給会社:ギャガ, 韓国Leave a Comment on 『 ベイビー・ブローカー 』 -家族像を模索する-

『 バニシング 未解決事件 』 -臓器売買の闇に迫る-

Posted on 2022年5月17日2022年5月17日 by cool-jupiter

バニシング 未解決事件 65点
2022年5月15日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ユ・ヨンソク オルガ・キュリレンコ
監督:ドゥニ・デルクール

『 流浪の月 』を鑑賞したかったが、指定席とも言うべきシートが取れず、次点の本作をチョイス。なかなかの硬派な映画だった。

 

あらすじ

ソウルで女性の遺体が発見されるが、腐敗が進行しており、身元の割り出しに難航する。パク班長(ユ・ヨンソク)はフランスの法医学者ロネ教授(オルガ・キュリレンコ)に助力を求める。彼女が採取した指紋から、遺体は行方不明になっていた中国人女性と判明する。捜査を進めるパク班長とロネ教授は、臓器売買の謎に迫っていき・・・

ポジティブ・サイド

韓国映画と見せかけて、これは実はフランス映画。つまり少ない登場人物でも、巧みにミステリやサスペンスを盛り上げる。舞台を韓国に移しても、そうしたフランス文芸・フランス映画の特色はしっかりと維持されていた。

 

まずユ・ヨンソク演じるパク班長が従来の韓国警察の刑事のイメージを大きく覆す。韓国といえば『 ビースト 』のような汚職や暴力を厭わぬ刑事か、あるいは『 暗数殺人 』のひらすらに黙々と事件を追う刑事の印象が強いが、ドゥニ・デルクール監督はそんな刑事はお呼びでないとばかりに、全く新しい刑事像を打ち出してきた。演じるユ・ヨンソクは『 建築学概論 』の嫌な先輩役だったそうだが、本作ではそんなマイナスのオーラは一切出さず、理知的な刑事を演じきった。発音は韓国なまりだが、普通に英語は上手い。パッと聞いた感じだけなら、チェ・ウシクの英語と比べても遜色ないように感じた。姪っ子を溺愛し、手品も上手いという特徴が、中盤以降に物語の本筋にしっかりと関連してくる。

 

バディを組むことになるロネ教授ことアリスも静かに、しかし確実に法医学のプロフェッショナルとしての印象を観る側に刻み付けた。難解な専門用語を交えて流暢に講義を行い、腐敗が進んだ死体からも見事に指紋を採取する。しかし、単なる職業人としてだけではなく、パーソナルな部分にも人間味がある。序盤にパク班長との会話で不可解な受け答えをするのだが、その謎が明らかになる中盤、そしてそれに決着をつける終盤の展開には心を揺さぶられる。

 

二人がロマンチックな雰囲気になりながらも、プロフェッショナルに徹するところも潔い。特に、パク班長からのごく私的な問いにアリスが敢えてフランス語で真摯に答えるシーンは、男女というよりも人間同士の心の響き合いだった。

 

死体遺棄事件の元にある臓器売買事件の闇に迫る二人に思いがけぬ事実が立ち現われてくる。事件は一応の解決を見るが、臓器売買ネットワークは残ったまま。そして、食い物にされる中国人女性や、臓器を買い取る富裕層という格差の構図は何も解決されぬまま。それでも、パク班長とアリスの淡い別れに、今後も二人が機を見て reunite し、新たな事件に取り組む可能性を感じさせて物語は閉じていく。

 

ネガティブ・サイド

臓器売買のネットワークは、そのまま人身売買のネットワークでもあるだが、それを仕切っていると思しき韓国ヤクザの描写があまりにもしょぼい。『 ザ・バッド・ガイズ 』は荒唐無稽ではあったが、国際的な犯罪ネットワークを構想する気宇壮大な韓国ヤクザが出てきた。それぐらいの巨悪を描いても良かったのではないか。

 

臓器売買の片棒を担ぐ医師が、意外(でもないが)な主要人物とつながっていることで、アリスの心的なトラウマは解消されても、全く別の方面で救われない人物が生じてしまっている。もちろん、違法な臓器売買を阻止する=助からない命が出てくるわけで、問題はその助からない命に大して、我々が大きく感情移入してしまうことである。アリスのキャラを立てるためとはいえ、この展開は観ていて心苦しかった。

 

パク班長とアリスの別れ際も、もうちょっと余韻というか、今後の二人の再会と活躍を予感させるようなものの方が良かった。アリスが韓国に残ることを予感させるよりも、パク班長がアリスに姪っ子と時々ビデオ通話する仲になってほしいと頼む方が、劇中で「感情表現に乏しい」とされた韓国人っぽいではないか。しかし、韓国人が感情表現に乏しいというのはフランスの脚本家の手によるもの?よく共同脚本家の韓国人がそれOKしたなと思ってしまう。

 

総評

テンポが良く、サスペンスも適度に盛り上がり、思わぬ人間関係も終盤に見えてくる。韓国語、英語、フランス語、中国語が飛び交う国際色豊かな作品である。『 マスカレード・ホテル 』のような変則バディものがイマイチと感じられる向きにこそ本作を勧めたい。そうそう、日本のサラリーマンは主人公のパク班長の英語力を一つの目標にするといい。情報を得る、あるいは与える、問題を提示する、あるいは解決する、そして相手との信頼関係を築くというのは、必ずしも準ネイティブ級の語学力を必要としないことが分かるだろう。語彙を増やしたりTOEICスコアを追求するのではなく、コミュニケーション能力を磨こうではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Would you be able to V?

相手に何かを依頼する丁寧な表現。普通のビジネスパーソンなら

Could you V?
Would you be able to V?
It would be great if you could V. 
I was wondering if you could V. 

あたりを口頭あるいはメールのやりとりでは使いまわせばよい。

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, C Rank, オルガ・キュリレンコ, サスペンス, フランス, ユ・ヨンソク, 監督:ドゥニ・デルクール, 配給会社:ファインフィルムズ, 韓国Leave a Comment on 『 バニシング 未解決事件 』 -臓器売買の闇に迫る-

『 コンジアム 』 -韓国ホラー映画の不発弾-

Posted on 2022年2月6日 by cool-jupiter

コンジアム 50点
2022年2月4日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ウィ・ハジュン イ・スンウク
監督:チョン・ボムシク

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220206225949j:plain

近所のTSUTAYAで目についた。確か塚口サンサン劇場かどこかで上映していた時に、スルーしてしまった作品。サスペンスでは文句なしの韓国映画だが、ホラーではどうか。うーむ・・・という出来だった。

 

あらすじ

廃墟となったコンジアム精神病院への潜入ルポをYouTube配信しようというハジュン(ウィ・ハジュン)とその仲間たち。各種機材やカメラ、そして少々の演出も準備して臨んだ撮影だが、徐々に怪奇現象が起こり始め・・・

 

ポジティブ・サイド

このコンジアム廃病院は、何と実在するようである。セットや大道具、小道具では出せないおどろおどろしさが建物内には確かに充満していた。精神病院に首吊り自殺だの集団自殺だの人体実験だのといった属性を付与していくのは、現代日本だと難しそう。差別的、あるいは既に存在する差別を助長するかどで、そんな設定の映画や小説があれば、すぐに糾弾されるように思う。それをやってしまう韓国のエンタメ追求精神よ。

 

YouTuberとホラーという点では『 貞子 』よりもこちらが先行していた。その着眼点も悪くない。ホラー映画では登場人物の真後ろや真横から怪異がいきなり登場するのが最早お約束だが、今回の潜入パーティーのメンバーは皆、全身にカメラ装備。あらゆる角度を撮影していている。これにより、多くのホラー作品にありがちな「そのショットは誰が撮っているの?」という問い、すなわちカメラマンの存在を観る側の意識から消すことに役立っている。

 

このカメラマンの存在というのが、後半に明らかになる序盤にすでに起きていた怪奇現象につながっていて、これには少し唸らされた。

 

ジャケット裏の黒目少女はインパクトがあったが、これはマイナスか。ただし、彼女がしゃべる異言には一瞬だけ怖くなってしまったことは告白しておかねばなるまい。

 

ネガティブ・サイド

廃病院に行くまでは『 キャビン 』のように男女がワイワイしている。それはいい。だが、コンジアム病院に行くまでが長く感じられるし、肝腎のコンジアム病院内でも、ことが起こり始めるまでがひたすらに長い。定番のホラー的な展開になるまでに58分を要するというのは、いかがなものか。

 

霊の起こす怪異も、すでにどこかで見たものばかり。廃病院のただならぬ雰囲気を伝えるのに腐心しすぎて、観る側に恐怖の感情を催させることに失敗している。YouTuberの潜入レポートなら、雰囲気を伝えるだけで十分。しかし、これは潜入YouTuberを題材にした映画。捉えるべきはキャラクターの感じる恐怖。その意味では、多彩かつ臨場感あるカメラワークそのものは興味深かったものの、彼ら彼女らの恐怖の感情を存分に映し出したとは言い難い。その意味では『 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 』は素晴らしかった。何も起きていないのに恐怖する学生たちの様を赤裸々に映し出していた。

 

マネキンやかつらなどのガジェットもジャパネスク・ホラーで散々扱われて手垢がついている。それを使うというのは感心しない。『 パラノーマル・アクティビティ 』から『 サイレントヒル 』まで、どこかで観たシーンや演出の繰り返しで、60分以降は完全に惰性で画面を眺めるだけになってしまった。

 

隊長のハジュンが、隊員からのギャラのアップ要求を受けるシーンも何か違うのではないか。逆にハジュンの方から隊員にギャラアップを申し出て、撮影を完了させる意志を見せるべきだったように思う。韓国語の「生きよう」の字が「死のう」に変わるのを見たことで弱気になるのなら、そもそもコンジアム病院に突撃しないだろうし、隊員が不甲斐ないからと自ら出陣もしないだろうと思う。

 

ハジュンの死に方も怖くない。例えば、霊に捕まって、どこかに閉じ込められて、救いの手が伸びてきたので力いっぱい掴んだ。しかし、それが実は序盤にロッカーに手を入れてきた隊員の女子の手で・・・という展開で暗転して終わり、という展開なら、観ているこちらも相当なショックを受けただろう。

 

総評

サスペンスでは邦画は韓国映画に手も足も出ないが、ホラーならまだまだ勝てるかな。とは言え、『 牛首村 』の出来映えによっては、ジャパネスク・ホラーもいよいよ終焉し、韓国映画に全ジャンルで抜かれてしまうかもしれない。大して怖い作品ではないので、ホラー映画に興味があるけれど、どれを入門編に選んでよいか分からない、という向きにお勧めできる程度の怖さである。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

チンチャ

廃病院内でパーティーの面々が何度も何度も「チンチャ、チンチャ」と言っている。字幕は「本当だよ!」だったような。雰囲気的には「マジだって」、「ホントなんだよ」のような、カジュアル要素が感じられた。一時期、女子高生の間で「チンチャそれな」というフレーズが流行っていたらしいが、実際にそういうノリで使う言葉なのだろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, イ・スンウク, ウィ・ハジュン, ホラー, 監督:チョン・ボムシク, 配給会社:ブロードウェイ, 韓国Leave a Comment on 『 コンジアム 』 -韓国ホラー映画の不発弾-

『 雨とあなたの物語 』 -韓流ロマンスの佳作-

Posted on 2022年1月13日 by cool-jupiter

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220113233342j:plain

雨とあなたの物語 70点
2021年1月10日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:カン・ハヌル チョン・ウヒ カン・ソラ
監督:チョ・ジンモ

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『 ただ悪より救いたまえ 』鑑賞時に、劇場内の販促物で本作も知った。面白そうだと直感し、チケットを購入。シネマート心斎橋の韓国映画には基本的にハズレがない。

 

あらすじ

冴えない二浪生のヨンホ(カン・ハヌル)は、ある日、小学校の時の同級生女子ソヨンを思い起こし、彼女に手紙を書く。その手紙を受け取ったソヨンの妹ソヒ(チョン・ウヒ)は、病気の姉に成り代わり、「質問しない、会いたいと言わない、会いに来ない」という約束のもと、文通を続けていくが・・・

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ポジティブ・サイド

毎年数千万枚単位で年賀状の数が減っていると報じられているが、そんな中でも『 ラストレター 』は久しぶりに手紙にフォーカスした映画だった。そして韓国も負けじと手紙が鍵となる作品を送り出してきた。

 

日本は大学全入時代になって久しいが、韓国は今でもすごい受験熱らしい。『 少年の君 』

では中国の受験戦争の怖さが描かれ、日本でも松田優作主演の『 家族ゲーム 』のような時代もあったが、冒頭にいきなり出てくる予備校教師の圧倒的なモラハラっぷりが逆に笑える。そんな中でヨンホは浪人仲間のスジン(『 サニー 永遠の仲間たち 』のリーダー役のカン・ソラ)と出会う。立ち食いおでんの店で、おでんとスープを注文し、それを強引にヨンホに支払わせるという美少女にあるまじき振る舞い。その後もヨンホに飾らない好意をぶつけ、one night stand もOKという剛の者・・・と見せて、これが実に一途で純な女子なのである。意味が分からんという人こそ、本作を鑑賞すべし。

 

本作は現在のシーンと回想シーンを織り交ぜるストーリーテリングで、小学生時代のヨンホとソヨンの淡く儚い関係が描かれ、現在では浪人中というアイデンティティの定まらないヨンホと、職人であるその父、そしてビジネスマンである兄の関係が描き出される。同じように、病気のソヨンとその妹ソヒの関係、そして母の営む古本屋の様子もていねいに映し出される。手作りの小物や古本といった、時代に取り残されそうな、しかし手触りのあるものが両者に共通してあり、だからこそ手紙という媒体が古ぼけておらず、逆にとてもナチュラルなコミュニケーション手段に映る。この手紙にしても色々な工夫がされていて、「あなたに太陽が降り注ぐ魔法をかけました」といったような文言には???となったが、意味が分かってびっくり。こんなロマンチックな魔法、自分でも高校生ぐらいの時に思いついてみたかった。文通を続けるヨンホとソヒが絶妙にすれ違うシークエンスにはやきもきさせられた。

 

決して会えない二人。過ぎて行く時間。ヨンホは大学進学をやめ、傘職人になるために日本に向かう。自分をいつまでも好いてくれるスジンを後に残していくことになるが、この時のスジンがまた、どこまでも健気なのが泣かせる。それでもスジンと付き合うことのないヨンホの姿に、ソヨンへの思慕の大きさが見えてくる。傘職人として独り立ちしたヨンホを不意に訪ねてくるスジンに、ヨンホが手渡す惜別の傘の美しさには正直泣けた。

 

12月31日に雨が降ればソヨンに会えると信じて、ひたすらに待ち続けるヨンホの健気さと一途さよ。もう決して出会えないのだと分かっていても、それでも待ち続ける姿には胸を打たれる。そうそう、エンディングのクレジットが始まったからといって、席を立ったり、あるいは再生を途中で止めてはいけない。ビックリする展開が待っている。いや、これはキャスティングの勝利だなあと思う。意味が分からんという人、やはり鑑賞すべし。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220113233419j:plain

ネガティブ・サイド

過去と現在を行ったり来たりするが、Jovianの妻はどれがいつなのかを把握するのに、一部手間取ったとのこと。Jovianはそうでもなかったが、観る人によっては時系列的に今がどこなのかは確かに分かり辛い構成かもしれない。

 

ヨンホが傘職人になろうと思い立つ過程をもう少し丹念に描写してくれてもよかったのではないか。もちろん父の影響、そして兄への反発からだろうが、なぜそこで日本を修行の地に選んだのかという説明も少しでいいから欲しかった。

 

ヨンホが8年という歳月を待つことに費やすわけだが、そこでスジン以外にもう一人、小学校以来の悪友を登場させても良かった。きっと彼は良い奴のままだろう。周りがどんどんと変わり続ける中で、変わらぬ想いを抱き続けるのは並大抵のことではない。変わらないままにいてくれる親友という存在も、本作に居場所はあっただろうと感じた。

 

総評

韓国映画といえば容赦ないバイオレンス映画、あるいは経済格差を直視したドラマのイメージが強いが、優れたロマンスも数多く生み出している。それも甘酸っぱさを前面に押し出したような作品だけではなく、『 建築学概論 』のような恋のほろ苦さを思い起こさせる名作も多い。本作はほろ苦さを味わわせてくれる作品で、少ない登場人物で濃密なドラマを生み出している。まるでフランスのミステリ小説のような味わいの作品である。雨の日こそ本作を劇場鑑賞しよう。あるいはレンタルや配信で観るのも趣があっていいだろう。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

イーセッキ

こんなコテコテのロマンスでも、イーセッキ=「この野郎」という卑罵語が出てくるのが韓国らしいと言えば韓国らしい。北野武の映画を外国人が観れば「この野郎」という日本語をすぐに覚えるのと同じで、韓国映画はどんなジャンルでもイーセッキやケーセッキといった悪罵が頻出する。つくづく近くて遠い国である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, カン・ソラ, カン・ハヌル, チョン・ウヒ, ロマンス, 監督:チョ・ジンモ, 配給会社:シンカ, 韓国Leave a Comment on 『 雨とあなたの物語 』 -韓流ロマンスの佳作-

『 ミスターGO! 』 -頭を空っぽにしたい時に-

Posted on 2022年1月8日 by cool-jupiter

ミスターGO! 60点
2022年1月5日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:シュー・チャオ ソン・ドンイル オダギリジョー
監督:キム・ヨンファ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220108142841j:plain

観終わって身も心も消耗するタイプの映画ばかりを立て続けに観たので、a change of pace が必要だと思い、近所のTSUTAYAで本作をピックアウト。リフレッシュするにはちょうど良い作品だった。

 

あらすじ

四川省の大地震で祖父を亡くしたウェイウェイ(シュー・チャオ)は、雑技団メンバーと野球の打撃を特技とするゴリラのリンリン、そして支払いきれない借金を託されてしまった。途方に暮れるウェイウェイだったが、韓国の万年再建中のプロ野球団ベアーズがリンリンと契約したいと言い・・・

 

ポジティブ・サイド

よくまあ、こんな奇想天外な設定を思いついたものだと感心するやら呆れるやら。日本でも『 ミスター・ルーキー 』という珍作があり、確かに「覆面をしてプレーをしてはならない」とは野球協約には書いていないらしい。同じく、性別を理由にプロへの門戸が閉ざされることがないのはどこの国でも同じなようで、『 野球少女 』ではプロ野球選手を目指す女子の姿を描いた。しかし、ゴリラをプロでプレーさせようとは・・・ ところがこのCGゴリラ、相当な凝りようだ。中国の『 空海−KU-KAI− 美しき王妃の謎 』のCG猫はひどい有様だったが、このゴリラは『 ライオンキング 』とは言わないまでも、かなり真に迫っている。

 

無垢な中国の少女をなかば騙すかのような形で強引に契約を結んでしまうベアーズのエージェント・ソンが韓国映画お得意の悪徳商売人・・・と見せかけて終盤に思わぬ感動を呼んでくれる。

 

ゴリラ使いのウェイウェイの操るウッホウッホなゴリラ語(?)も、照れなどは全くなく、むしろ外連味たっぷりで笑わせてくれる。指令を受けるゴリラのリンリンも規格外のホームランを連発し、それに対抗する他チームの投手陣は、あの手この手で打たせまいとしてくるが、それらを全て弾き飛ばすリンリンの打撃がとにかく痛快だ。

 

途中で読売と中日のオーナーがやって来るが、韓国球界が日本をどう見ているのかが垣間見えて、なかなかに興味深い。2020年5月に以下のようなツイートがなされて、野球ファンの間で結構話題になったのを覚えている人もいることだろう。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220108143527j:plain

極めて妥当な評価だと思う。韓国球界からすれば、スターを日本に高く売りつけるのは、NPBがスターをメジャーにポスティングするようなものだろう。韓国や台湾で活躍した選手が日本で苦労するのは李承燁や王柏融など、打者では枚挙にいとまがない。投手は結構成功している印象で、日本の打者もメジャーではさっぱりだが、投手はなぜか成功することが多いのとよく似ている。

 

閑話休題。リンリン以外の野球シーンも結構本格的で、ダブルプレーを独特なカメラアングルで捉えたりするなど、工夫のほどがうかがえる。終盤にはリンリンの対とも言うべき、ゴリラの投手レイティが現われ、200km/hの剛速球を投げる。当然、人間に打てるはずもなく、畢竟、物語はリンリンとレイティのゴリラ対決につながっていく。その結末は見届けてもらうほかないが、よくこんなことを考えたなと感心させられた。序盤に野球協約がゴリラのプレーを禁じていないことに言及したことで、野球のルールのちょっとした盲点になっているところを上手く突きつつ、そこに説得力を与えている。

 

韓国の俳優たちが結構な量の日本語を割と流ちょうに操っているので、そうしたシーンを楽しむのもいいだろう。頭を空っぽにして楽しめるし、あるいは日韓比較スポーツ文化論の材料にもなりうるだろう。

 

ネガティブ・サイド

ウェイウェイとエージェント・ソンのヒューマンドラマは不要だったかな。もっと「ゴリラが野球をする」という部分にフォーカスをしていれば、コメディとしてもっと突き抜けることができただろう。また、ウェイウェイの演技が going overboard =大げさだったと感じる。感情を爆発させるお国柄ではあるが、その部分にもう少しメリハリが必要だった。

 

リンリンが打撃専門となるまでの描写も必要だったように思う。CG製作に時間も金もかかるというのなら、ベアーズの首脳陣がミーティングをする場面でもよい。リンリンが一塁手だったら、または捕手だったら・・・と誰でも想像するだろう。打撃でWARを積み上げるが守備でそれを帳消し、あるいはチーム構成上守備は困難という、野球にもっとフォーカスした場面が欲しかった。

 

最終盤のチェイスとアクションは完全に蛇足。乱闘が野球の華だったのは平成の中頃まで。それは韓国でもアメリカでも同じだろう。

 

総評

スポーツコメディとしてまずまずの出来。ソンが日本語で罵詈雑言をがなり立てるシーンはかなり笑える。野球はしばしば人間ドラマや人生の縮図に還元されるが、それをゴリラを使って実行してしまえという構想力には感心すると同時に呆れてもしまう。重苦しい映画を立て続けに観たことによる心身の重さはこれにて回復。天候やコロナのせいで出歩けないという終末に、頭をリセットするにはちょうど良い作品ではないだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

The Doosan Bears

斗山ベアーズの英語名である。スポーツチーム名は、それが複数形である場合、まず間違いなく頭に定冠詞 the がつく。

僕はニューヨークメッツの一員になりたい。
I want to be a New York Met.

彼はかつてシカゴブルズの一員だった。
He used to be a Chicago Bull.

のように言えるが、a Bull や a Met の集団が、The Bulls や The Metsになる。ここでザ・シンプソンズを思い浮かべた人は good である。これは、「シンプソンという人の集団」=「シンプソン一家」ということである。ここまでくれば、The United States や The Philipines、The Bahamas、The Maldivesといった国の名前に the がつく理由も見えてくるだろう。州や島の連合体が一つにまとまっているということである。

 

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