Skip to content

英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

  • Contact
  • Privacy Policy
  • 自己紹介 / About me

タグ: 配給会社:ハピネットファントム・スタジオ

『 パスト ライブス/再会 』 -初恋は実らない-

Posted on 2024年4月14日 by cool-jupiter

パスト ライブス/再会 65点
2024年4月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:グレタ・リー ユ・テオ
監督:セリーヌ・ソン

 

大学開講の第1週で多忙につき、簡易レビュー。

あらすじ

12歳のノラ(グレタ・リー)とヘソン(ユ・テオ)は互いに思いあっていたが、ノラの両親のカナダ移住に伴って離れ離れになってしまう。24歳でオンラインで再会を果たす二人だったが、やがて疎遠になってしまう。そして36歳、ヘソンは休暇でニューヨークを訪れ、ノラと再会することになり・・・

ポジティブ・サイド

監督の自伝的要素が非常に強く、パーソナルな面で突き刺さるものが多かった。特に Facebook のような Social Media でかつての知人友人を見つけて連絡が取れてしまうというのは過去にはありえない、現代に特有の事象。似たような経験があるという30代、40代、50代は多いのではないだろうか。

 

イニョンという考え方はアジア、特に仏教圏、輪廻転生の概念が普及している地域の人間には分かりやすい。イニョンとはいわゆる縁起のこと。本作がアカデミー賞にノミネートされたというのは、ここらへんがアメリカ人に新鮮だったのもあるからでは?

 

ヘソンとアーサーの距離感、またノラとアーサーの距離感が絶妙だった。アメリカ人がアメリカで異邦人の気持ちになる。これもアカデミー会員の心の琴線に触れたシーンかなと思う。

 

ネガティブ・サイド

男はいくつになっても男の子のままというある種の偏見を飲み屋に集まる変わらない面々で描くというのは少々芸がないと感じた。いや、これも一種の同族嫌悪かな。

 

結局のところ、両親のエゴに振り回された子どもたちの話だったのでは?という印象が拭えなかった。割と引っ越しばかりで、それが嫌だった自分が強く思い出されたからな気がしないでもないが。

 

総評

『 僕の好きな女の子 』をもっとドラマチックに、もっと哲学的にしたものだったなという印象。運命というにはあまりにも淡すぎて、悲恋というのはあまりにも濃い。ぜひパートナーと鑑賞してほしい。Jovianと妻の感想は多くの点で非常に対照的だった。逆に結婚という因習は、そうした互いの違いから以下に目をそらし続けるのに役立つかということが逆接的に感じられるかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Lives

lifeの複数形は正しくはライブズとスではなくズとなる。Black lives matter もブラック・ライブズ・マターと報じられていた。一方でワーナー・ブラザースのように、公式にズではなくスを使っている組織もある。まあ、発音は正確に越したことはない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 あまろっく 』
『 貴公子 』
『 ブルックリンでオペラを 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, グレタ・リー, ユ・テオ, ロマンス, 監督:セリーヌ・ソン, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオ, 韓国Leave a Comment on 『 パスト ライブス/再会 』 -初恋は実らない-

『 市子 』 -それでも静かに生きていく-

Posted on 2023年12月19日 by cool-jupiter

市子 75点
2023年12月16日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:杉咲花 若葉竜也
監督:戸田彬弘

 

簡易レビュー。

あらすじ

市子(杉咲花)は同棲している恋人の長谷川(若葉竜也)からプロポーズを受けて快諾する。しかし、市子は翌日に姿を消してしまう。市子を探し求める長谷川は、市子がかつては月子と名乗っていたことを知り・・・

 

ポジティブ・サイド

本作の扱うテーマはレバノン映画の傑作『 存在のない子供たち 』と同じ。戸籍=身分証明=アイデンティティというのが現代社会だが、そこからこぼれ落ちてしまった者はどう生きていけばよいのか。本作はそれを追究しようとしている。

 

これまで少女役ばかりだった杉咲花がやっと一皮むけたかなという印象。弱さと強かさの両方を併せ持つ女性を演じきったのは見事。傾城の美女ではなくともファム・ファタールにはなれるのだ。

 

市子の過去をめぐって様々な人物の物語を移していく手法は『 正欲 』と同じ。また、エンドロールの際に流れる声で物語を想起させる手法は『 カランコエの花 』と同じ。content ではなく form が重なるのは個人的には全然OKである。

 

ネガティブ・サイド

いくらなんでも最初の事件は簡単に事の真相がばれてしまうと思うのだが。そうなると月子→市子というメタモルフォーゼも無理ということなってしまう・・・

 

また次の事件では死んだ人間の仕事がそちら関係なので、必然的に市子およびその周辺も捜査されてしまうと思われる。

 

総評

ウィリアム・アイリッシュの昔から「消えた女」を追うというプロットはハズレが少ない。本作もいくつかの点に目をつぶればOKだ。作劇の面ではいくつかの先行作品とそっくりだが、中身の点では『 さがす 』に似ていると感じた。邦画の世界でも陰影の深い作品が生み出されつつあるのは好ましいことだと思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

hug

ハグするというのは日本語にもなっている。意味は「抱きしめる」である。劇中の長谷川の印象的なセリフに「抱きしめたい」というものがあったが、あれは I want to hug her. となるはず。よりドラマチックかつロマンチックな言い方をするなら I want to wrap her in my arms. となる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ 』
『 怪物の木こり 』
『 きっと、それは愛じゃない 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, 日本, 杉咲花, 監督:戸田彬弘, 若葉竜也, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 市子 』 -それでも静かに生きていく-

『 火の鳥 エデンの花 』 -再解釈に失敗-

Posted on 2023年11月12日 by cool-jupiter

火の鳥 エデンの花 20点
2023年11月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:宮沢りえ 吉田帆乃華 窪塚洋介
監督:西見祥示郎

兵庫県宝塚市出身の巨匠、手塚治虫の数ある作品の中でも、おそらく1、2を争うクオリティの『 火の鳥 』シリーズ、その中でも望郷編がアニメ化されたと知り、チケット購入。

 

あらすじ

辺境惑星エデンに降り立ったロミ(宮沢りえ)とジョージ(窪塚洋介)。エデンに根を下ろすべく、ジョージは水資源を探し求めるが、事故によって帰らぬ人となってしまう。身ごもっていたロミは、ロボットのシバと共に子を産み、育てることになるのだが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 えんとつ町のプペル 』や『 海獣の子供 』のSTUDIO4℃による映像は確かにきれいだった。漫画に描かれていなかったエデンの地上の細部や、あるいは空に浮かぶ近傍惑星の姿、さらに岩船で降り立つ星の奇妙な生態系など、このあたりの描写は漫画を映画にした甲斐があったと評価できる。

 

コム役の声はなかなかの演技。泉下の手塚治虫師も納得のパフォーマンスだったのではないだろうか。

 

ロボットのシバも声とキャラデザ、そして挙動は良かった。

 

ネガティブ・サイド

序盤のストーリー展開を改変、いや改悪してしまったのは何故なのか。手塚治虫が『 創世記 』の一節「カインはその妻を知った」に対して「その妻はどこから出てきた?そうか、こういうことか?」と考えた(かどうかは知らないが、恐らくそうだろうと想像する)その答えが、見事に否定されてしまった。色々と描くのに制約があるのは分かるが、何も直接的な行為を見せる必要があるわけではない。火の鳥という永遠の生命をもつ存在から見れば、人の生き死になど一瞬のこと。しかし、その一瞬の中にも生命は信じられないほどのドラマを生み出すのだというのが『 火の鳥 』という作品のテーマではなかったか。本作は、その信じられないドラマのパートを全部吹っ飛ばしたわけで、以後のシーンはまったく集中して観られなかった。

 

だいたい窪塚洋介の声の演技がひどい。監督は何をどう演出したというのか。宮沢りえも、個人的にはミスキャスト。本作はロミという少女が女性へと変化を遂げ、さらに老境に達しても、性質も話し方も変わらない。そこは演じ分けてほしかった。これも監督の演出なのか。

 

だいたい13年のコールドスリープと1300年のコールドスリープを間違えるか?間違えるにしても、カインもシバも13年間まったく気が付かないことなどありえるか?

 

目覚めたロミが女王として君臨する流れにも違和感ありあり。原作で描かれた禁忌が本作では存在していないため、エデンの繁栄に対してロミが何も寄与していないにもかかわらず女王として崇められるのは不自然過ぎた。

 

その後はイッセー尾形の声のキャラ以外の棒読み演技でじっくりとはとても鑑賞できず・・・ 原作から改変されたエンディングも釈然としなかった。

 

総評

様々な意味で物足りない作品。Jovianは『 火の鳥 』の中では『 未来編 』、『 黎明編 』、『 乱世編 』、『 太陽編 』が好きだが、本作は多分ヒットしないだろうし、他の『 火の鳥 』作品を現代に再解釈しようという機運の醸成にも寄与しないように思われる。うーむ、残念・・・。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

nostalgia

望郷の意味。feel nostalgic for ~ で「~を懐かしく感じる」という形でよく使われる。この語は接尾辞 -ia がついているのがポイント。英検準1級以上を目指すのなら、-iaで終わるのはだいたい、病気、地名、花の名前だと覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 月 』
『 トンソン荘事件の記録 』
『 デシベル 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, SF, アニメ, 吉田穂乃華, 宮沢りえ, 日本, 監督:西見祥示郎, 窪塚洋介, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 火の鳥 エデンの花 』 -再解釈に失敗-

『 水は海に向かって流れる 』 -ストーリーに焦点を-

Posted on 2023年6月26日 by cool-jupiter

水は海に向かって流れる 40点
2023年6月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:広瀬すず 大西利空
監督:前田哲

 

簡易レビュー。

あらすじ

高校生の直達(大西利空)は、通学のため叔父・茂道の家に引っ越すことに。しかし最寄り駅に迎えに来たのは、見知らぬ女性・榊さん(広瀬すず)だった。案内された先はシェアハウスで、漫画家の叔父や女装の占い師たちとの奇妙な同居生活が始まった。そんな中で、直達はいつも不機嫌な榊さんと自分の間に思わぬ因縁が存在したことを知り・・・

ポジティブ・サイド

広瀬すずがムーディーな20代女子を演じきった。天真爛漫女子校生役からは確実に脱却しつつあるようだ。中身が未成熟なままに大人になってしまったという難しい役だったが、代表作とは言えないまでも、近年の出演作の中では上位に来る好演だったと思う。

 

北村有起哉のキャラが良い意味で悪い印象を残してくれる。情けない男なのだが、それでも同じ中年のオッサンとしてはこの男を応援せずにはおれない。そんなキャラ。『 終末の探偵 』に続いて応援したくなった。

 

ネガティブ・サイド

主役の脇を固めるキャストも豪華だが、それらが全く活かしきれていない。高良健吾が脱サラして漫画家になっているのは良いとしても、今どきあんな格好で漫画描くか?生瀬勝久の大学教授役というのも単に都合のいい狂言回し。色々なキャラが登場しまくるが、役割が一つしかないか、あるいは全くない。

 

直達が榊さんに惹かれていく必然性を感じさせるシーンや描写が不足している。たとえば女ものの下着を同居の占い師のものだと思って見ていたら榊さんのものだったとか、トイレにある見慣れない置物の正体を知って一人赤面してしまうだとか、15歳のガキンチョらしさが全くなかった。その逆に、何故にその年齢でそこまで老成、達観しているのかという背景の描写もなかった。原作の小説にはおそらく丹念な描写があるのだろうが、本作は映像でそれを物語ることを一切放棄してしまっている。

 

と同時にキャラクターの心情を時に台詞ですべて説明してしまっている。小説なら文字に頼るしかないが、映画でこれはアカンでしょ。最も典型的だったのは直達のクラスメイト、當真あみの演じた楓だろう。そこでそれを台詞にするか?他にも表情や映像で物語るべきシーンがいくつも説明台詞に取って代わられていた。小説を映画にすることは否定しないが、小説を映像化することには反対である。

 

総評

ほとんどのキャラクターの深堀りが上手く行っておらず、主役の二人の複雑な関係が徐々にほぐれていく過程に特に寄与しない。なので、シェアハウスという舞台そのものに魅力も必然性も感じない。直達も鈍さと鋭さの両方が際立つ変な少年で感情移入が難しかった。広瀬すずのファンなら彼女の新境地を楽しめるのだろうが、普通の映画ファンには少々勧め辛い。貯まったポイントの消化を本作でする、というのは一つの手かもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

shared house

日本語で言うところのシェアハウスの意。分詞の前置修飾というやつである。a used car =中古車、a broken pencil =折れた鉛筆、の仲間である。share house という言い方もあるらしいが、shared house の方が遥かに一般的なので、こちらを使おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・フラッシュ 』
『 告白、あるいは完璧な弁護 』
『 インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ヒューマンドラマ, 大西利空, 広瀬すず, 日本, 監督:前田哲, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 水は海に向かって流れる 』 -ストーリーに焦点を-

『 別れる決心 』 -歪んだ純愛-

Posted on 2023年2月23日 by cool-jupiter

別れる決心 70点
2023年2月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:パク・ヘイル タン・ウェイ
監督:パク・チャヌク

大学の追試や試験代替課題の採点と新年度の準備と研修ラッシュ。ここから1か月半はまさに繁忙期。しばらく簡易レビュー続きになるか。

 

あらすじ

刑事ヘジュン(パク・ヘイル)は、ある男性が山頂から転落死した事件を捜査していた。殺人の可能性を見出したヘジュンは、男性の妻ソレ(タン・ウェイ)に疑惑の眼差しを向ける。しかし彼女にはアリバイがあった。捜査を進めるうちに、強くしなやかに生きるソレに、ヘジュンは徐々に惹かれていき・・・

ポジティブ・サイド

タン・ウェイの妖艶さに尽きる。別にきわどい露出や激しいラブシーンがあるわけではないが(ヘジュンと奥さんのセックスシーンはある)、その femme fatal ぶりには魅了されざるを得ない。理解したいのに理解できない。いや、理解できるが間接的にしか理解できないという刑事ヘジュンと容疑者ソレの距離感が絶妙。時に使用されるスマホの翻訳機能が二人の間の越えがたい、しかし超えられないことはないという壁を象徴している。

 

パク・チャヌクといえば『 オールド・ボーイ 』のようなエロスとバイオレンスが持ち味。しかし、本作のエロスは実に控えめ。バイオレンスなシーンもあるにはあるが、青あざと流血に彩られるようなものでもない。ヘジュンが捜査のために一方的に室内のソレを覗くシーンの演出は見事だった。こうやって、いつの間にか容疑者に同化してしまう、というのは実際にありえそうに感じた。

 

誰かが死ねば、あの刑事がやって来る。あるいは、何らかの謎さえあれば、あの男はやってくる。これをサイコパスの思考と見るか、それとも究極の愛情と見るか。セックスする相手を愛しているのか、それとも愛しているからこそセックスしないのか。様々な問いが渦巻く中、女たちは別れる決心をする。なんとも苦みと深みのある作品だった。

 

ネガティブ・サイド

実質的に二部作的な構成になっているが、これをもうちょっと縮めて2時間ちょうどにはできなかったか。

 

殺人事件そのものの捜査の描写が弱い。ヘジュンが捜査に憑りつかれているのは分かるが、客観的に見て「警部、ちょっとおかしいですよ」と言ってくれるキャラが後半になってはじめて現れるのには違和感を覚えた。

 

総評

韓国映画らしいと言えば韓国映画らしいが、パク・チャヌク映画らしいかと言われれば、あまりそうではない。それでも、巨匠の新境地と言うか、見せないことで想像力を刺激する、あるいは直接的にではなくシンボルを通じて見せるという手法に唸らされることが多かった。もう少しコンパクトにまとめられていれば、韓国映画ファン以外にも勧められる。逆に言えば、韓国映画ファンならばチケット代の価値は十分に得られる。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヨボ

韓国映画ではしばしば夫婦が互いに「ヨボ」と言って呼びかける。日本語で言うところの「あなた」や「なあ」などに当たるらしい。劇中のヘジュンが時々発する言葉だが、この言葉ひとつで距離感が近くなったり遠くなったり感じるのだから、人間関係、就中、夫婦の関係というものは難しい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エゴイスト 』
『 銀平町シネマブルース 』
『 シャイロックの子供たち 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, タン・ウェイ, パク・ヘイル, ラブロマンス, 監督:パク・チャヌク, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオ, 韓国Leave a Comment on 『 別れる決心 』 -歪んだ純愛-

『 そして僕は途方に暮れる 』 -逃げて、逃げて、逃げた先には-

Posted on 2023年1月29日 by cool-jupiter

そして僕は途方に暮れる 70点
2023年1月28日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:藤ヶ谷太輔 前田敦子 中尾明慶
監督:三浦大輔

『 娼年 』の三浦大輔監督が、とにかく目の前の現実から逃げる男の話を作ったと知り、面白そうだと思いチケットを購入。

 

あらすじ

フリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、鈴木里美(前田敦子)と同棲していた。しかし、里美に浮気を問い詰められた裕一は、発作的に家を出てしまう。そして親友の今井伸二(中尾明慶)の自宅に転がり込むが・・・

ポジティブ・サイド

元々舞台劇だったようだが、その臨場感は映画でも健在。主演と監督が舞台と同じだからだろう。冒頭から主人公が絵にかいたようなクソ野郎で、まったく共感できない。いや、クソ野郎ではなくダメ野郎か。日本のモラハラ夫の大部分ははこのようにして生まれているのだろうし、いわゆるニートの一部もこのようにして生まれていると推測される。このダメ男がなにかあるたびに次から次へと逃げていく。そして行きついた先に、自分を超えるダメ野郎と出会い、どう変わっていいのか分からないが、とにかく変わろうと決心する。ここは少し共感できた。特に藤ヶ谷太輔が見せる泣きの演技は『 志乃ちゃんは自分の名前が言えない 』の南沙良の泣きの演技に匹敵する。

 

『 そばかす 』に続き、ここでも前田敦子が絶妙な演技を披露している。Jovianはすっかり前田ファンである。この前田演じる里美も良妻賢母(今はこの言葉を使ってもいいのだろうか・・・)的なキャラと見せかけて、非常に人間味のある失敗をして、観る側を戦慄させる。いや、里美だけではなく、裕一の周囲の人間すべてがそうで、まさに共感と反感をジェットコースター的に感じられる一作に仕上がっている。

 

いくつか第四の壁を破るかのようなセリフがあるが、裕一が最後の最後に何度もこちら=観客席を振り返るのは、そういうこと。あとは世間様が何とか尻拭いしてくれるという甘い期待を抱いているのだ。実際、(Jovianの見た限りでは)劇場に訪れていた人の多くは、中年女性のおひとり様あるいは中年女性の二人組だった。嗅覚の鋭い観客たちである。

 

ネガティブ・サイド

 

映画としての絵のつなぎ方に問題多々あり。夜中のにわか雨のシーンから姉の家に転がり込むところで、小さなハンドタオルで濡れネズミの裕一の全身が拭けるはずがないし、ソファにも座るべきではないだろう。その後、姉の家を飛び出したシーンでも水たまり一つなし。さすがに不自然。

 

裕一のヒゲも変だった。鼻下だけに少し生やしているが、そんなデザインができるような生活をしていないだろう。

 

野村周平がゴジラ映画を撮っていた(?)っぽいが、映画の中に新作映画のCMは入れなくてよい。

 

総評

個人的には共感6割、反感4割の作品。自分でも学校や仕事から逃亡したことがあり、裕一のダメ野郎っぷりにイライラさせられながらも、自分を重ね合わせて見る瞬間も多かった。備わらんことを一人に求むる無かれ。人生とは詰まるところ、他人同士の尻拭いなのかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Like father, like son.

「この父親にして、この息子あり」の意。母娘の場合は、Like mother, like daughter. となる。是枝裕和監督の『 そして父になる 』の英語タイトルも Like Father, Like Son だった。英検準1級以上を目指すなら知っておきたい表現。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ヒトラーのための虐殺会議 』
『 エンドロールの続き 』
『 イニシェリン島の精霊 』

 

 にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村  

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 中尾明慶, 前田敦子, 日本, 監督:三浦大輔, 藤ヶ谷太輔, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 そして僕は途方に暮れる 』 -逃げて、逃げて、逃げた先には-

『 ケイコ 目を澄ませて 』 -岸井ゆきのの新境地-

Posted on 2022年12月23日 by cool-jupiter

ケイコ 目を澄ませて 75点
2022年12月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:岸井ゆきの 三浦友和 松浦慎一郎
監督:三宅唱

日曜の夜の回とはいえ、MOVIXあまがさきの観客はJovianひとりだけ。この『 百円の恋 』に勝るとも劣らない作品がこれでは少々寂しい。

 

あらすじ

生まれつきの感音性難聴の小河ケイコ(岸井ゆきの)は、荒川区の古いボクシングジムに所属するプロボクサー。聴覚障がい者として様々な葛藤を抱え、しばらくボクシングを休みたいと感じ始めるが、その手紙をなかなか会長(三浦友和)には渡せずにいて・・・

ポジティブ・サイド

16mmカメラの粗い映像が良い意味で冴えている。解像度の低い画を見せることで、あなた方がケイコたちを見る時の目はこうなっているのですよ、と言われているように感じた。本作のもう一つの特徴はBGMを極限まで排除したこと。これによって知らず知らずケイコの世界を我々も体験していることになる。バスのシーンが印象的で、路上や車内の騒音がまったく聞こえず、バスの車体の駆動音が振動のような形で伝わってくるシーンが特に印象的だった。

 

冒頭でケイコがトレーナー相手にミット打ちする長回しのワンカットにはしびれた。このワンシーンだけで、ケイコという人物がどれほどボクシングに打ち込んできたのかが如実に示されていた。それはとりもなおさず、演じた岸井ゆきのの鍛錬の成果だ。ボクシング映画は、そういう意味で他のスポーツとはかなり毛色が異なる気がする。ボクシングのバックグラウンドがある役者など、そうそう多くないだろう。もちろんトレーナー役の俳優の力も大きいが、彼は経験者だろう。

 

たいていのボクシング映画の主人公はボクシングにしがみつく男だが、ケイコは違う。ボクシングからしばらく距離を取りたいと思っている。オフの日には仲間とおしゃれなカフェでろうあ者の仲間と女子談義に花を咲かせている。このシーンには唸った。それまでに出ていた手話の字幕が出てこないからだ。一見して楽しそうな話をしていることは分かるが、手話の心得のある人以外にはさっぱりだ。ただし、この後のシーンのケイコの顔や手先をよくよく見れば、そしてジムの会長のケイコへの言葉を聞けば、ケイコたちの交わした会話の内容が自然と理解できてくる。この演出は非常に巧みであると感じた。

 

障がい者と健常者の間にはどうしても壁が生まれやすい。ケイコも社会の中で疎外されてきた経験からそう感じてしまう。一方でボクシングを通じて、実は多くのものを受け取ってきたことにホテルの清掃業を通じて気付くシーンもある。このシーンはちょっと泣けたな。耳が聞こえない中でトレーナーや会長からワンツー・フック・ツー・ウィービングからの右アッパーというコンビネーションを教わる時、観客は当然、指示の声が聞こえる。だが実はケイコには聞こえていない。けれど教える側の動作でそれが伝わるのだ。仕事でも同じこと。ベッドメイキングのコツは言葉ではなくジェスチャーで伝えられる。ボクシングはケイコにコミュニケーション力を与えていたのだ。

 

ボクシングの果てにケイコが見つける、もう一つのもの。それは河川敷にひとり佇立するケイコに唐突に訪れる。ジムは閉鎖し、会長やトレーナーとの縁は切れるかもしれない。けれど、袖振り合うも多生の縁。知らず知らずのうちにボクシングから得ているものがあるのである。意を決して走りだすケイコの姿に、勇気を与えられない人がいるのだろうか。

 

ネガティブ・サイド

ボクシング映画全体に言えることだが、ミット打ちはかなり頑張って撮るが、ガチンコのスパーリングは本作でもお目にかかれなかった。ボクサーはミットを通してパンチのコンビネーションやボディワークを身に着けていくが、ミットの位置に相手のボディや顔面があるわけではない。なので、スパーリングで打点や距離、角度を微調整していく。本作ぐらいボクシングをしている作品なら、そこまで見せてほしかった。

 

もう一つはボクサーに欠かせない減量。女子の場合は特に生理不順を伴うことも多く、非常に神経を使う。そうした過程が一切移されなかったのは拍子抜け。原作である『 負けないで! 』は未読だが、その辺もかなり赤裸々に書かれていると推察する。本当に女優・岸井ゆきのを追い込むのであれば、減量も避けて通るべきでなかった。

 

総評

岸井ゆきのは年間最優秀俳優にノミネートされるべき好演を見せた。Aランクには5点たりないが、それはJovianが過度なボクシングファンだから。これがボクシングではないスポーツあるいはヒューマンドラマなら文句なしにAランクである。『 母性 』で怪演を見せる女優が多数いたが、岸井ゆきのは全く負けていない。むしろ勝っている。このような映画こそ多くの人に見られるべきであると心底から思う。未鑑賞の方は年末年始休みに寒さと感染症に十分対策をして劇場へ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

sign language

手話の意。ボディ・ランゲージは日本語にもなっているが、サイン・ランゲージ=手話ということも知っておこう。野球など、今でも情報伝達にサインを使うスポーツは多いが、あれは一種の手話である。

次に劇場鑑賞したい映画

『 ホワイト・ノイズ 』
『 夜、鳥たちが啼く 』
『 散歩時間〜その日を待ちながら〜 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, スポーツ, ヒューマンドラマ, 三浦友和, 岸井ゆきの, 日本, 松浦慎一郎, 監督:三宅唱, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 ケイコ 目を澄ませて 』 -岸井ゆきのの新境地-

『 MEN 同じ顔の男たち 』 -要グロ耐性のスリラー-

Posted on 2022年12月11日2022年12月11日 by cool-jupiter

MEN 同じ顔の男たち 40点
2022年12月10日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ジェシー・バックリー ロリー・キニア
監督:アレックス・ガーランド

 

『 ワイルドローズ 』のジェシー・バックリー主演作。『 エクス・マキナ 』で、え?という結末を見せたアレックス・ガーランドが監督(ところで『 アナイアレイション 全滅領域 』の続編はいつ?)。ということでチケット購入。

あらすじ

DV気質の夫の自死後、ハーパー(ジェシー・バックリー)は田舎町へやって来る。大家のジェフリー(ロリー・キニア)から家の鍵を受け取り、散歩するなどして田舎生活を満喫していたところ、庭に全裸の不審者が現れる。警察に通報して、男は取り押さえられたが、その後もお面をかぶった少年や牧師など、ジェフリーと瓜二つな男たちが、彼女に不安や不信を植えつけていき・・・

 

ポジティブ・サイド

イングランドの片田舎の自然の風景が美しい。低い空に生い茂った草木などは、鑑賞してはいないが、『 ピーターラビット 』のトレイラーに出てくるような景色を思い起こさせる。こうした風景は確かに都会人を癒やす効果を持つ。特にDV夫の自死を目撃した後なら尚更だろう。

 

前半は美しい自然と、どこか不穏な気配が入り混じった雰囲気が観る側の不安を書き立てる。ハーパーが山中の廃トンネル内の音声のリフレインを使って一人無邪気に歌って遊ぶシーンは、クライマックスの展開を示唆していたのか。

 

ハーパーが教会を訪れるシーン以後、一気にホラー色が強まってくる。このあたりの build up の仕方はお見事。イングランドといえばストーンヘンジのような巨石文化で知られているが、片田舎に行けば土着の古い信仰や遺物もまだまだ眠っている。表が男で裏が女という謎の石像も絶妙な気持ち悪さ。これも終盤の”トラウマ的”な展開の(一応の)伏線になっている。

 

最後の “トラウマ的なイベント” はかなりグロいシーンの連発なので、間違ってもデートで女性を連れてきてはいけない。高校生カップルとかなら尚更である。だが、それゆえに強烈なインパクトを残すことは間違いない。

 

ジェシー・バックリーは意識せず妖艶な雰囲気をまとう女性を好演。だが、それ以上にロリー・キニアが怪演を見せつける。気の良い大家から自己責任を追及してくる聖職者、そしておつむが少々足りない青年まで丁寧に演じ分ける。英国の役者はけれんみが強い印象があるが、キャスティングがハマれば強い。

ネガティブ・サイド

様々なメッセージを発しているのは分かるが、それが物語に直接つながっていない。いや、間接的にすらつながっていないことも多い。こちらにそれを読み解く力がないのかもしれないが、それにしても思わせぶりなメタファーが多すぎて、作っている側もそれを処理しきれなかったのではないか。

 

リンゴ=禁断の果実というのはイマイチ。せっかくイングランドの土着信仰的なアーティファクトを出しているのだから、知恵の実云々の蘊蓄は不要。失楽園を描きたいなら、別の舞台でやってくれ。

 

天の川銀河があるもののモチーフになっているが、このネタは古い。すでにテレビ映画の『 ランゴリアーズ 』が同じことをやっている。

 

トレイラーや邦題でも強調されているが、ロリー・キニアがほとんど全部の男性キャラクターを演じていることに、鑑賞中は恥ずかしながら気付けなかった。お面の青年と牧師と大家だけかと思いきや、全裸の不審者や警察官、バーテンダーやバーの客まで彼が演じていると言う。なぜもっとそのことをビジュアル面で強調しないのか。また、なぜハーパーがそのことに気付かないのか。ハーパーがこの狭いエリアの男たちが皆、同じ顔をしていることに怖気をふるう場面があれば、観ている側もハーパーの感じる不安や恐怖を共有しやすくなるのだが。

 

オチもなあ・・・ ラストの ”トラウマ的” とされるイベントが始まったところで、「ああ、最後はこうだよね」というのが見えてしまう。元ネタは、最近作者が死亡してしまったが、友人が志を継いで再開された某漫画の某展開だろうな。

 

総評

A24らしいと言えばA24らしい作品。『 LAMB/ラム 』や『 ウィッチ 』のように、辺境の地での異様な体験を描いてはいるが、これらの先行作品に比べると明らかに一枚も二枚も落ちる。同じ顔の男たちというのは、虐待された女性から見れば男は全員加害者候補という意味なのだろうが、いくらなんでもメッセージとして極端すぎる。ちなみに一緒に鑑賞したJovian妻は「なんちゅうもん見せてくれたんや」という感じで、鑑賞後はかなり不機嫌だった。人によっては突き刺さるもののある作品なのだろうが、刺さる範囲はかなり狭いと思われる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a stone’s throw

石をひと投げ、転じて「目と鼻の先」という意味。しばしば

A is within a stone’s throw of B.

または

A is a stone’s throw away from B.

という形で使われる。意味はどちらも「AはBの目と鼻の先にある」となる。この表現はアメリカ人よりブリティッシュの方がよく使う印象がある。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 グリーン・ナイト 』
『 ホワイト・ノイズ 』
『 夜、鳥たちが啼く 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, イギリス, ジェシー・バックリー, スリラー, ロリー・キニア, 監督:アレックス・ガーランド, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 MEN 同じ顔の男たち 』 -要グロ耐性のスリラー-

『 マイ・ブロークン・マリコ 』 -遺骨と共に行くリトリート-

Posted on 2022年10月9日2022年10月9日 by cool-jupiter

マイ・ブロークン・マリコ 65点
2022年10月8日 TOHOシネマズ西宮OSにて鑑賞
出演:永野芽郁 奈緒
監督:タナダユキ

ごく最近、お通夜と葬式に参列した。生きること、そして死ぬことについて追究しようとしているのではないかと本作に注目していたので、チケットを購入。

 

あらすじ

トモヨ(永野芽郁)は外回り営業中に、かつての親友マリコ(奈緒)がアパートから転落死したことを知る。幼少の頃から父に苛烈な虐待を受けていたマリコの遺骨を、トモヨはマリコの実家から強奪する。そして、マリコが生前に行きたがっていた「まりがおか岬」を目指すことにして・・・

ポジティブ・サイド

観終わってすぐの感想は「これはロードトリップではなく、リトリートだったな」というもの。リトリートと聞いて「はいはい、リトリートね」と得心できる人は、マインドフルネスにハマっている人、マインドフルネスを大いに実践している人か、または国際基督教大学の現役生か卒業生だろう。リトリートとは、日常から離れて内省することで、まさに本作のトモヨの旅そのものである。

 

本作がいわゆるバディ・ムービーともロード・トリップとも異なるところは、トモヨの相方であるマリコが死んでいるということである。マリコの願いを叶えようと旅に出るトモヨだが、実は癒やしや赦しを求めているのはマリコではなくトモヨの方なのだ。無造作なご飯の食べ方、明らかにニコチン依存症をうかがわせるタバコの吸い方、そして勤め先の絵にかいたようなブラック企業っぷりから、それは明らかである。

 

永野芽郁は『 地獄の花園 』での武闘派OL役が無駄ではなかったと思わせる演技。単純にギャーギャー言うだけなら素人でもできる。遺骨を強奪するシーンでの慟哭と咆哮は素晴らしかったし、居酒屋での切れっぷりも迫力十分。安藤サクラ路線に行けるか?と期待させてくれた。Jovian一押しの奈緒も、壊れてしまった女性を怪演。筆舌に尽くしがたい虐待を受けてきたことで感覚が麻痺してしまっている女性像を如実に提示してきた、DV被害に遭った女性が、再婚相手にまたもDV男を選んでしまうかのように、暴力男と付き合い始め、やっと別れたかと思ったら、またも相手は暴力男という具合。その自分の感性の狂いっぷりを淡々と語る喫茶店のシーンは素晴らしかった。駄作確定の『 貞子 』映画を作るくらいなら、奈緒や永野芽郁を使った『 富江 』映画が観たい。

 

一種の共依存であるトモヨとマリコの旅路の途中に現れる窪田正孝演じる男の飾らなさ、絶妙な距離感の取り方も良い。どうにもならなくなっても、ちょっとしたことで生きていける。そのことをさり気なく気付かせてくれる男で、だからこそトモヨは旅の後に日常に帰っていくことができた。『 レインマン 』のように旅で何かが大きく変わったのではなく、トモヨは日常から数日逃避したわけだ。最後のシーンの解釈は分かれることだろう。Jovianはトモヨが読み取ったのはマリコの感謝であると感じた。何が正解かは分からない。人生、そして人間関係はそんなものだろう。

 

ネガティブ・サイド

原作の漫画がどうなっているのは分からないが、あまりにも展開がご都合主義すぎる。まず引ったくりに遭うタイミングも出来過ぎだし、その引ったくり男が最後の最後で絶妙なタイミングで現れてくるのも「何だかなあ」である。85分という短い尺を95分にして、その10分間でもう少しストーリー展開にリアリティを持たせられたのではないか。

 

マリコの家庭および男性遍歴についても掘り下げられたのではないかと思う。特に付き合う男全てがハズレの暴力男というのはリアリティがある。だからこそ、それを映像でも示すべきだった。そうすることで窪田正孝演じる男と、その他の男どもとのコントラストがより際立ったと思う。

 

これは個人の感想だが、エンドクレジットに流れる曲がストーリーとマッチしていなかった。

 

総評

永野芽郁が『 地獄の花園 』に続いて殻を割ろうとしている作品。かつ、『 ハルカの陶 』の奈緒が新境地を開拓した作品でもある。男同士の恋愛物語が輸入されたり、あるいは邦画でも作られつつあるが、女同士のちょっと普通ではない依存関係、それも故人とのそれを描いた作品はかなり異色だろう。それでも西宮ガーデンズにはかなり多くの、それも若い観客が来ていた。若い人の心をとらえる何かが本作にあるのは間違いない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

child abuse

児童虐待の意。日常では決して使いたくない表現。せいぜい新聞やニュース番組でしか触れたくない。けれど児童虐待は現実に存在する。見かけたらバンバン通報するしかない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ドライビング・バニー 』
『 ソングバード 』
『 千夜、一夜 』

 

 にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村 

Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, C Rank, アドベンチャー, ヒューマンドラマ, 奈緒, 日本, 永野芽郁, 監督:タナダユキ, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 マイ・ブロークン・マリコ 』 -遺骨と共に行くリトリート-

『 この子は邪悪 』 -もっと捻りが必要-

Posted on 2022年9月6日2022年10月31日 by cool-jupiter

この子は邪悪 40点
2022年9月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:南沙良 玉木宏 桜井ユキ
監督:片岡翔

Jovianは南沙良が大好きである。広瀬すずを吹っ飛ばす女優になると思っている。なので、どんなに駄作のにおいがしてもチケットを買う。

 

あらすじ

心理内科医の窪司朗(玉木宏)は、一家で交通事故に遭い、自身は脚に障がいを、次女は顔にやけどを、妻は意識不明の重体のまま植物状態になってしまった。唯一、長女の花(南沙良)だけが無傷だったことから、花はどこか罪悪感に苛まれていた。そんな時、母が5年ぶりに目覚め、自宅に帰ってきた。しかし、花は母にどこか違和感を覚えて・・・

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

ミステリ風味ではあるが、ミステリではない。伏線の張り方は極めてフェアというか、あっけらかんとしている。意味不明の冒頭のシーンで「何だこいつ?」と思ったその感性を大事にしてほしい。「何だこいつ?」であって「誰だこいつ?」ではないことを心に留め置くべし。

 

南沙良が言い知れぬ不安に押しつぶされそうになる少女を好演。この女優は、少女漫画の映画化作品でヒロインを演じるのではなく、常にどこか陰のあるキャラを演じてほしい。天真爛漫な10代女優は毎年陸続と現れては消えていくが、陰のある役を説得力をもって演じられる若手女優は少ない。

 

ロングのワンカットが多用されており、監督の演出上のこだわりが感じられる。また、古い木造家屋を歩く時のキィキィときしむ音が効果的だった。作った音ではなく、ナチュラルな音が観客の不安を煽る。この手法は嫌いではない。

ネガティブ・サイド

ほとんど何の事前情報も入れずに鑑賞に臨んだが、すれっからしのJovianは開始30分ほど、より正確に言うと母親が帰ってきた後、父親がとある発表をするところで話のオチまで予想できてしまった。そのポイントは、過去に類似の先行作品を映画および他メディアでたくさん経験してきたからだろう。以下、それらの作品例(白字で表示)である。

 

小説『 わが体内の殺人者 』

漫画『 多重人格探偵サイコ 』

映画『 ゲット・アウト 』

  『 シェルター 』

  『 悪魔を憐れむ歌 』

 

他にも少年ジャンプで全く同じようなオチの読み切り作品が1980年代にあった(主人公の友達の名前が風太だったような)。

 

欠点は、オチの弱さ、意外性の無さだけではない。ストーリーの核心に触れて以降は、急にカメラワークや演出が陳腐になったと感じた。明らかに『 ミッドサマー 』や『 アンダー・ザ・シルバーレイク 』を意識したシーンがあったが、カメラが全然動かないし、こちらが観たいと思っている絵を映してくれない。その直後のシーンでも、登場人物たちが動かないのなんの。立ち尽くしているにしても、もっと震える、あるいは目を背けるなど、何らかの動きでキャラの心情や思考を語るべきシーンが、見事に spoil されてしまっている。前半と後半の演出上の落差がありすぎる。本当に同一人物が最初から最後まで監督したのだろうか。

 

おそらく玉木宏で女性を、なにわ男子の大西流星で女子を惹きつけようとした作品なのだろう。南沙良と桜井ユキでおっさんから青少年の層もカバー。そうしたライトなファンに各種の先行作品の優れたアイデアをごった煮にした作品を提供しよう、として作った映画にしか思えない。映画ファンをびっくり仰天させてやろうという気概に満ちた作品ではない。最初から「そこそこのヒット作」を志向している。監督は『 町田くんの世界 』の脚本などを務めており、Jovianと波長が合わないとは思わない。先行作品を敬うのはいいが、そのまま倣う必要などない。次作にとりかかる前に、商業主義的にではなくクリエイターとしての自分に向き合うべきだろう。

 

総評

主要キャストのファンなら鑑賞してもいいだろう。また、ライトな映画ファンにもお勧めできそうだ。逆に小説やら映画を相当に渉猟しているという人には勧め辛い。Jovianと同じで、一挙に結末まで予想出来てしまう人は、おそらく日本だけで数万人(その全員が本作を観るとは思えないが)はいると思われる。うーむ、誰に勧めるべきか難しい。『 NOPE / ノープ 』の監督のこれまでの作品を見て( ゚Д゚)ハァ?とならなかった人はどうぞ、と言っておこうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

hypnotize

催眠術にかける、の意。漫画『 聖闘士星矢 』世代なら、ヒュプノス=眠りの神だと知っていることだろう。似たような語に mesmerize もある。こちらの語を知りたければ、邦画ホラーの秀作『 CURE 』(主演:役所広司 監督:黒沢清)をお勧めする。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, サスペンス, ホラー, 南沙良, 日本, 桜井ユキ, 玉木宏, 監督:片岡翔, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 この子は邪悪 』 -もっと捻りが必要-

投稿ナビゲーション

過去の投稿
新しい投稿

最近の投稿

  • 『 28年後… 』 -ツッコミどころ満載-
  • 『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』 -自分らしさを弱点と思う勿れ-
  • 『 近畿地方のある場所について 』 -やや竜頭蛇尾か-
  • 『 脱走 』 -南へ向かう理由とは-
  • 『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

最近のコメント

  • 『 i 』 -この世界にアイは存在するのか- に 岡潔数学体験館見守りタイ(ヒフミヨ巡礼道) より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に cool-jupiter より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に 匿名 より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に cool-jupiter より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に イワイリツコ より

アーカイブ

  • 2025年7月
  • 2025年6月
  • 2025年5月
  • 2025年4月
  • 2025年3月
  • 2025年2月
  • 2025年1月
  • 2024年12月
  • 2024年11月
  • 2024年10月
  • 2024年9月
  • 2024年8月
  • 2024年7月
  • 2024年6月
  • 2024年5月
  • 2024年4月
  • 2024年3月
  • 2024年2月
  • 2024年1月
  • 2023年12月
  • 2023年11月
  • 2023年10月
  • 2023年9月
  • 2023年8月
  • 2023年7月
  • 2023年6月
  • 2023年5月
  • 2023年4月
  • 2023年3月
  • 2023年2月
  • 2023年1月
  • 2022年12月
  • 2022年11月
  • 2022年10月
  • 2022年9月
  • 2022年8月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
  • 2022年3月
  • 2022年2月
  • 2022年1月
  • 2021年12月
  • 2021年11月
  • 2021年10月
  • 2021年9月
  • 2021年8月
  • 2021年7月
  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月
  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月
  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月

カテゴリー

  • テレビ
  • 国内
  • 国内
  • 映画
  • 書籍
  • 未分類
  • 海外
  • 英語

メタ情報

  • ログイン
  • 投稿フィード
  • コメントフィード
  • WordPress.org
Powered by Headline WordPress Theme