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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 歴史

『 キングダム 大将軍の帰還 』 -大沢たかおの独擅場-

Posted on 2024年7月24日 by cool-jupiter

キングダム 大将軍の帰還 65点
2024年7月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山崎賢人 大沢たかお
監督:佐藤信介

 

『 キングダム 運命の炎 』の続編。ますますキャラ映画になってきたが、大沢たかおはついに代表作と言えるものを手にしたようである。

あらすじ

突如、自陣に現れた龐煖によって窮地に陥る飛信隊。退却するしかなくなった飛信隊だが、尾到と尾平は気絶した信(山崎賢人)を安全に逃がすために、他の部隊の面々とは異なる方向に逃げていくが・・・

ポジティブ・サイド

本作で賞賛すべきポイントはほぼ一点に絞られる。それは王騎将軍。

 

副題の「大将軍」とは大沢たかお演じる王騎将軍のこと。『 キングダム 』の初登場時からコスプレ&なりきり演技だったが、今作で大沢たかおは王騎将軍と完全にシンクロした。原作の数々の名場面と名台詞をこれでもかと繰り出してくるが、まるで第一作目や前作はあえて抑制した演技をしていたのだろうか。まるでリアルタイムで読んでいた連載漫画の王騎将軍の声がそのまま劇場内で聞こえた。こんな体験はめったにない。とにかく本作は大沢たかお=王騎将軍の大沢たかお=王騎将軍による大沢たかお=王騎将軍のための作品になっていると感じた。

 

原作に忠実ながらも「全軍、前進」を上手くアレンジするなど、ここで本シリーズが完結となってもいいようにきれいにまとめてもいる。興行成績次第だろうが、続編があっても驚きはない。

ネガティブ・サイド

BGMを使いすぎ。尾到と信の夜の語らいのシーンは原作でもかなり上位に来る名シーン。あそこはBGMなしで、ふたりの台詞だけを静謐な夜の山の中でじっくりと聞かせるべきだった。

 

あとは少し長すぎか。2時間10分に編集できなかっただろうか。

 

総評

コスプレ大会であることに変わりはないが、とにかく原作屈指の人気キャラ王騎将軍の完成度が高すぎて、それだけでチケット代の元は充分に取れていると感じる。できれば続編も観てみたいので、できるだけ多くの人に劇場鑑賞してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

This is your turf.

劇中の「これが貴様の土俵だ」の私訳。turfはゴルファーにはお馴染みの言葉。芝、あるいは芝地の意。転じて、比喩的に「専門領域」や「有利な地形」のような意味で用いられることもある。英検1級を目指すのなら知っておいても良い。そうでなければ覚える必要は特にない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 』
『 デッドプール&ウルヴァリン 』
『 大いなる不在 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, アクション, 大沢たかお, 山崎賢人, 日本, 歴史, 監督:佐藤信介, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 キングダム 大将軍の帰還 』 -大沢たかおの独擅場-

『 密輸 1970 』 -虚々実々の密輸ドラマ-

Posted on 2024年7月15日 by cool-jupiter

密輸 1970 70点
2024年7月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヨム・ジョンア キム・ヘス
監督:リュ・スンワン

 

『 モガディシュ 脱出までの14日間 』のリュ・スンワン監督作品ということでチケット購入。

 

あらすじ

港町クンチョンは工場排水により漁が成り立たなくなりつつあった。そんな中、海女のリーダーのジンスク(ヨム・ジョンア)は生活のために密輸に協力することを決断する。ある時、税関によってジンスクは現行犯逮捕され、親友チュンジャ(キム・ヘス)だけがその場から逃亡するが・・・

ポジティブ・サイド

1970年代の韓国と言えば民主化前=軍事政権下ということぐらいしか知らないが、工業化による公害が問題になるところは日本と同じか。海女たちが自発的にではなく、生活の糧を売るためにやむなく密輸に協力するというプロットには説得力があった。

 

その海女たちが一度は摘発され、刑務所で過ごし、娑婆に戻ってからも汚れた海で生きるしかないという描き方が痛切。腐った海藻でスープを作って幼い子どもに与えざるを得ないシーンには胸が痛んだ。こうした背景があるため、密輸という犯罪に従事する海女たちを一方的に断罪することができない。

 

その海女の中心人物ジンスクを演じたヨム・ジョンアと、裏切り疑惑のチュンジャの再会。そこから動き出すヒューマンドラマとクライムドラマの両方が、非常にテンポよく展開される。随所で挿入される韓国版懐メロも映像とストーリーにマッチしていて、それもストーリーテリングに一役買っている。

 

ソウルの密輸王、クォン軍曹と彼の片腕がアメリカのグリーンベレーかと思うほど強すぎるが、ベトナム戦争帰りだという設定によって、荒唐無稽なアクションシーンにもリアリティが感じられた。終盤の水中での大立ち回りは非常に新鮮に映った。水連達者の海女が男たちを一人また一人と始末していくのは痛快だった。

 

最後はすべての悪を華麗に打ち倒して、ハツラツとしている海女たち。密輸や殺人に関わっておきながらそれはないだろうとも思うが、「まあ、そんなことはええか」と思わせるだけのデタラメなパワーを持った作品でもある。韓国映画は邦画が絶対に作れない作品を時々軽々と作ってくれるが、本作は間違いなくそうした一品である。

 

ネガティブ・サイド

海女たちの集合写真がまんま『 セックス・アンド・ザ・シティ 』なのは時代が合わないし、オリジナリティにも欠けると感じた。

 

チュンジャがクォン軍曹の信用を得る過程の描き方が弱かった。軍人上がりでソウルの地下社会・密輸業の実力者たるクォン軍曹の片腕的なポジションに成り上がるまでに、クンチョン以外の舞台でのチュンジャの活躍を2~3分挿入しても良かったのではないかと思う。

 

韓国(映画)では警察=無能、役人=悪人という等式が成立するが、本作でもそれは例外ではない。そういう意味では本作の真相にはあまりサプライズを感じられなかった。

 

総評

50年前の韓国でこんなに生き生きと女性が活躍していたとは思えないが、それでも「ひょっとしたらこんな人たちがいたのかも・・・」と思わせるだけの妙なパワーが本作にはある。実話ベースということだが、おそらく海女さんが密輸に協力していたことがあっただけで、ヤクザや税関相手に大立ち回りをしていたはずはない。ただ、そうした荒唐無稽な想像を実際に映画に仕立て上げてしまうリュ・スンワン監督の手腕は見事。子供向けとは言えないが、40代以上なら男女を問わずに楽しめるはずの作品だ。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

セグァン

税関の意。言わずと知れた輸出入に関わるレギュレーションを担当するお役所。本作で最も多く聞こえてくる語彙の一つ。今学期、Jovianは薬学部で英語を教えていたが、受講者の中には「将来は麻薬取締官になりたい」という者も毎年ちらほらいる。彼ら彼女らは将来、税関と連携して、水際で禁輸や密輸を食い止めてくれることだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 朽ちないサクラ 』
『 キングダム 大将軍の帰還 』
『 YOLO 百元の恋 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, キム・ヘス, ヨム・ジョンア, 歴史, 監督:リュ・スンワン, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:KADOKAWA Kプラス, 韓国Leave a Comment on 『 密輸 1970 』 -虚々実々の密輸ドラマ-

『 関心領域 』 -歴史は繰り返すのか-

Posted on 2024年6月9日 by cool-jupiter

関心領域 75点
2024年6月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:クリスティアン・フリーデル サンドラ・ヒュラー
監督:ジョナサン・グレイザー

 

興味のあった作品なので、チケット購入。

あらすじ

ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とヘートヴィヒ・ヘス(サンドラ・ヒュラー)の夫妻は、多くの子どもたち、そして召使いとともに郊外で幸せに暮らしていた。しかし、家のすぐ隣にあるのはアウシュビッツ収容所だった・・・

 

ポジティブ・サイド

まるで『 2001年宇宙の旅 』を思わせるオープニング。真っ黒の画面に音だけがあり、そこからしばらくして幸せいっぱいの家族の場面へ。状況説明してくれるようなナレーションや説明のスーパーインポーズも一切なし。ただ淡々とヘス一家の暮らしぶりを描いていく。

 

ドイツ軍の将校であるヘスは中間管理職を務めるサラリーマンさながらに職務に精勤し、家族サービスも忘れない。一方で男として共感できない(あるいは非常に共感できる)一面も持っており、否応なしに血肉の通った人間として描かれている。それゆえに一切映されることのない塀の向こうの収容所およびそこにいる人々への想像を掻き立てられる。序中盤では特に背景にうっすらと煙が立ち上っていることが多く、生理的な嫌悪感を催さずにはおれない。

 

本作にはBGMがほとんどないが、たまに聞こえてくる音楽それ自体がホラーである。特にエンド・クレジットのBGMは『 GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 』の「謡」、または『 ウィッチ 』のエンド・クレジットのBGMをもっと不気味にしたものと言えば伝わるだろうか。新しいホラー映画の形態と言えるのかもしれない。

 

最後の最後に左フックをチンにきれいにもらったかのような衝撃を受けた。この作品を観ているあなたも、結局はこの歴史を「鑑賞」または「消費」しているんでしょ?と言われたかのように感じられた。そして、そのことを否定できる現代人もほとんどいないのではないだろうか。

ネガティブ・サイド

あの白黒でところどころ出てきた女の子は誰だったのだろうか。『 ジョジョ・ラビット 』におけるエルサのようなものだろうか。何かもう少し明示してくれるような映像が欲しかった。

 

あのおばあちゃんが出て行った真相は?これももう少し何かヒントが欲しかった。

 

総評

一言、怪作である。ヘス一家の何気ない(ことはないシーンもあるが)数々の日常を映し出しながら、観る側に不安や嫌悪、恐怖を催させる手法にはお見逸れしましたと言うしかない。『 落下の解剖学 』のサンドラ・ヒュラーも印象に残ったが、それ以上に本作での犬(ラブラドール・レトリーバー?)の演技が光っていた。年末には犬に Supporting Role of the Year を贈るかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント独語レッスン

アウフヴィーダーゼーエン

ドイツ語で「さようなら」の意。劇中ではほとんど「ヴィーダーゼーエン」という形で発話されていた。英語でも Good bye はフォーマルかつ、ちょっとシリアスに聞こえかねない時があるので、しばしば Bye とか Bye now とうちの同僚たちは言っている。ドイツも語もおそらく同じような理由でアウフを省いていると思われる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 バジーノイズ 』
『 あんのこと 』
『 かくしごと 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, イギリス, クリスティアン・フリーデル, サンドラ・ヒュラー, ポーランド, ホラー, 伝記, 歴史, 監督:ジョナサン・グレイザー, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 関心領域 』 -歴史は繰り返すのか-

『 オッペンハイマー 』 -伝記映画の傑作-

Posted on 2024年4月7日 by cool-jupiter

オッペンハイマー 80点
2024年4月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:キリアン・マーフィー
監督:クリストファー・ノーラン

 

『 ソウルメイト 』や『 続・夕陽のガンマン 地獄の決斗 』を立て続けに鑑賞して、やや面白不感症気味になっていたが、本作はめちゃくちゃ面白かった。

あらすじ

物理学者のロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、第二次世界大戦中のアメリカでマンハッタン計画の責任者に任命される。職務に邁進するオッペンハイマーだが、複雑な人間関係や敵対国ドイツ、同盟国ながら共産主義国家であるソ連との競争にもその身を投じていくことになり・・・

ポジティブ・サイド

なんとも重厚かつ長大な物語だった。オッペンハイマー目線での過去と現在が頻繁に行き来し、なおかつ科学者としてのオッペンハイマーだけではなく家族人(だが決して典型的なファミリー・マンではない)として実像や、一人の男として、あるいは軍事や政治におけるポスター・ボーイとして、あらゆる面が映し出されていた(ちなみに本作が鑑賞しづらかったという向きには『 インセプション 』を観てからの再鑑賞をお勧めする)。まさに伝記映画の超大作だった。

 

冒頭から原子の世界のイメージや恒星の活動や死滅のイメージがオッペンハイマーの頭の中でありありと生起されていくところが観客に共有される。これだけ想像力豊かな人物が広島や長崎で起きたことを想像できなかったということの重みは計り知れない。「原爆被害に対する描写がないのはけしからん」と気色ばむ方々は、まず第一に本作はオッペンハイマーの伝記であって、彼は戦時中、あるいは戦争直後に日本を訪れていないということを知るべきだ。また作中でも色濃く描かれているが、オッペンハイマーは非常に想像力豊かな人間で、外国に対して関心と敬意を抱き、自らのユダヤ系のルーツから差別に対しても寛容ではなかったと描かれている。そんな彼がヒロシマやナガサキの惨状を頭の中で思い描けなかったということは、繰り返しになるが、それだけ重いことなのだ。

 

実は国際基督教大学の第一男子寮の一つ上の先輩がロスアラモスで研究員をやっている(ちょっとググれば出てくるし、ご本人も全く隠していない)。2023年11月にその先輩たちとZoom飲み会をした際に、本作の出来(≠内容)やアメリカでの受け止められ方を少しだけ聞くことができた(が、それは興味のある人が自身で調べればいいだろう)。

 

Jovian自身は大学時代に多くの留学生たちと一緒に『 火垂るの墓 』を鑑賞した後、とあるアメリカ人から “Why did you not surrender earlier?” と言われたこと、そして前の職場の同僚アメリカ人に “If Japan had nuclear weapons, they would have used them.”(アメリカ人は仮定法を正しく使えないのだ)と言われたことは、今でもはっきり覚えている。 一部の日本人は自分たちが戦争の被害者として正しく扱われていないと感じたいようだが、自分たちに自分たちなりの歴史認識があるように、相手にも相手なりの歴史認識がある、ということは理解すべきだ。

 

あまり映画の感想になっていないが、ヒロシマ、ナガサキに続いて福島がフクシマになりかけた日本は、オッペンハイマーの想像した破滅のビジョンに対してもっと敏感であってしかるべきと思う。批判する前に鑑賞しよう。鑑賞してから批判しよう。

ネガティブ・サイド

当時のロスアラモスにも間違いなく「研究できればそれでいいや」というマッドサイエンティストがいたはず。そうした無邪気な(だからこそタチが悪い)科学者とオッペンハイマーの対比が欲しかった。そこの描写は不十分であったように感じた。

 

アカデミーが助演男優賞を送るとしたら、ダウニー・Jr よりマット・デイモンの方がふさわしかったのではないだろうか。

 

総評

180分という上映時間も2時間程度に感じられた。それだけ密度の濃い映画だった。オッペンハイマーの生涯を描いた本作からは様々な教訓が得られる。それは観る人の年齢、性別、職業、問題意識によって異なる。一つ言えるのは「想像力を持つこと」の重要性。より良い未来を想像するのか、より悪い未来を想像するのか。自分の仕事や人生について深く考えるきっかけをもたらしてくれる傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Your reputation precedes you

直訳すれば「あなたの評判はあなたに先行しています」で、あなたがここに来るより先にあなたの評判が届いていますよ、ということ。『 トップガン マーヴェリック 』でもサイクロンがマーヴェリックに全く同じセリフを言っていた。ちょうど異動の季節なので、噂の新戦力がやって来た時などに使ってみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 変な家 』
『 パスト ライブス/再会 』
『 あまろっく 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アメリカ, キリアン・マーフィー, サスペンス, 伝記, 歴史, 監督:クリストファー・ノーラン, 配給会社:ビターズ・エンドLeave a Comment on 『 オッペンハイマー 』 -伝記映画の傑作-

『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』 -王朝没落前夜の宮廷悲喜劇-

Posted on 2024年2月29日 by cool-jupiter

ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 75点
2024年2月25日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:マイウェン ジョニー・デップ バンジャマン・ラベルネ
監督:マイウェン

ルイ15世の公妾ジャンヌ・デュ・バリーを描く。『 ナポレオン 』でも、ジョセフィーヌという女性との関係からナポレオンを描出したが、映画の世界にも文学に続いて本格的な feminist theory による再解釈の波が到来しているのだろうか。

 

あらすじ

ジャンヌ(マイウェン)は美貌と才覚で娼婦として台頭し、ついには国王ルイ15世の公妾としてヴェルサイユ宮殿に入っていく。しかし、国王の寵愛を受けるジャンヌを快く思わぬ宮廷の勢力もおり・・・

ポジティブ・サイド

まずはプロダクションデザインが素晴らしいの一語に尽きる。というか、本作の撮影のために本物のヴェルサイユ宮殿を使ったというのだから、それは素晴らしいに決まっている。

 

キャスティングも当たり。ローティーンの可憐なジャンヌが天使と見まがうハイティーンに成長、そこからベテラン娼婦のマイウェンになった時には一瞬「アレ?」と感じたが、その熟女ジャンヌが宮廷に召し出され、公妾として宮殿に現われた時には、まさに国王最後の愛人という輝きを放っていた。メイクアップアーティストやヘアドレッサーは本当に素晴らしい仕事をしたと思う。

 

ジョニー・デップもすべてフランス語で好演。このベテラン俳優は濃い化粧の時はヒット、素に近い顔だとハズレというイメージが強いが、今作は『 ギルバート・グレイプ 』以来の当たり役・・・は流石に言い過ぎだが、『 ナポレオン 』を演じたホアキン・フェニックスと同等かそれ以上のフランス為政者としてインパクトを残した。

 

ただ、何といっても本作はルイ15世の最側近、そしてジャンヌの戦友とも言うべき羅・ボルドに尽きる。ジャンヌの教育に余念なく、宮廷内の権力闘争や権謀術数からは距離を置き、ただひたむきに王に忠実であり続ける。『 銀河英雄伝説 』のローエングラムになる前のラインハルトをルイ15世とするなら、ラ・ボルドは間違いなくキルヒアイス。この感じ、分かる人には分かるはず。

 

絢爛豪華なヴェルサイユ宮殿を舞台に少人数での濃密なドラマが繰り広げられる、あっという間の2時間。フランス史に詳しければ歴史や伝記として楽しめるし、仮に詳しくなくともロマンスやヒューマンドラマを堪能できるだろう。ぜひ劇場にて鑑賞してほしい。

 

ネガティブ・サイド

閨房の様子がまったく描かれなかったのは何故だろう。別に行為を映せと言っているのではない。王がジャンヌにどのような類の癒しを求めたのかを純粋に知りたいと感じた次第である。たとえばルイ15世がジャンヌを自分から抱きしめるのか、それともジャンヌに膝枕(フランスでもやるのかね?)をしてもらうのかで、王の抱えているストレスや苦悩が見えてくる。そういうシーンをほんの少しでいいので見たかった。

 

総評

一言、良作。歴史・伝記ジャンルの作品であるが、背景知識がなくても充分に楽しめる作りになっている。全編フランス語(一瞬だけラテン語もあるが)なので、フランスらしさを味わうなら『 ナポレオン 』よりも本作だろう。とにかく多くの人に本作を観て、そしてラ・ボルドと彼を演じたバンジャマン・ラベルネのファンになってほしい。

 

Jovian先生のワンポイント仏語レッスン

N’ayez pas peur

発音としては ネ・エ・パ・プー のような感じ。英語にすれば Don’t be afraid = 怖がらないで、である。劇中で2~3回聞こえたかな。20年ぐらい前に熱心にWWEを観ていた頃、フランス人設定のレスラーがデビュー前にCMでしきりに “N’ayez pas peur.” と言っていて、そこに字幕で Don’t be afraid. と出ていたので、それで覚えていた。あの頃はなんでも、いくらでも頭に入ったのだが・・・

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜明けのすべて 』
『 ソウルメイト 』
『 落下の解剖学 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, ジョニー・デップ, フランス, マイウェン, ラブロマンス, 伝記, 歴史, 監督:マイウェン, 配給会社:ロングライドLeave a Comment on 『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』 -王朝没落前夜の宮廷悲喜劇-

『 ナポレオン 』 -人間ナポレオンに迫る-

Posted on 2023年12月27日2023年12月28日 by cool-jupiter

ナポレオン 70点
2023年12月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ホアキン・フェニックス ヴァネッサ・カービー
監督:リドリー・スコット

簡易レビュー。

 

あらすじ

砲兵長ナポレオン(ホアキン・フェニックス)は英国軍の撃退などで軍人として昇進していく。その中で未亡人のジョゼフィーヌ(ヴァネッサ・カービー)と出会い、結婚する。戦争の中で頭角を現し、出世を重ねるナポレオンだが、ジョゼフィーヌの浮気が判明して・・・

ポジティブ・サイド

大学時代にフランス人、ドイツ人と一緒に暮らしていた時、ドイツ人が冗談めかして「ヒトラーさえいなかったら、ヨーロッパの嫌われ者はナポレオンを生んだフランスだったのに」と言ったところ、フランス人が「だろうな」と応じたことがあった。本作を見れば、ナポレオンがいかにヨーロッパ中で戦争していたのかが分かる。

 

その一方で、本作が本当に描き出したかったのは、英雄や悪魔としてのナポレオンではなく、一人の男性としてのナポレオン。もっと言えば、女に弱いナポレオン。英雄色を好むと言われるが、ナポレオンも例外ではない。一方で、意外なほどにジョゼフィーヌ一筋で、ヨーロッパ史にまあまあ詳しいJovianも知らないエピソードがあって面白かった。

 

『 her 世界でひとつの彼女 』や『 ジョーカー 』で隙のある男というか、今風に言えば弱者男性を演じたホアキン・フェニックスが、稀代の快男児のナポレオンを演じるとともに、どこまでジョゼフィーヌに執着するキモ男も同時に好演。これは配役の勝利。個人的にはウェリントン卿がイメージそのままで、クライマックスのワーテルローの戦いは非常に楽しめた。もう一つの見どころは戴冠式。ルイ・ダヴィッドも一瞬だけ映る。

 

『 最後の決闘裁判 』には及ばないが、人間、就中、男と女の真実(≠事実)を明らかにせんとするリドリー・スコットの哲学が開陳された一作。

 

ネガティブ・サイド

トラファルガーの海戦がスルーされたのは何故?もちろん撮影はしたのだろうが、ここをバッサリと切ってしまうと「英国は海戦は知っていても陸戦は知らない」というナポレオンの言葉に説得力がなかったように思う。

 

今でこそロシアとウクライナが戦争していたり、イスラエルとパレスチナが戦争していたりして、為政者が戦争を起こす、あるいは国民が戦争を強く支持してしまうという構図があるので、本作の社会的意義も見出せるが、それがなければ単なるエンタメ作品では?というと、エンタメとしてはちょっと弱い気がする。戦争シーンに迫力はあるが、大砲で人がバタバタ倒れていくシーンには迫真性はなかった。『 プライベート・ライアン 』とは言わないが、『 エイリアン 』並みのグロ描写があっても良かったのでは?最初の馬のシーンで期待をさせておいて、えらく尻すぼみだなと感じられた。

 

総評

ヨーロッパ史にある程度の造詣がないと鑑賞はお勧めできない。逆に言えばナポレオンおよびその周辺の歴史をある程度知っているなら楽しめる。また人間としてのナポレオンに注目するのだと割り切って鑑賞するのもありだろう。そんな向きはいないと思うが、デートムービーにするのは禁物である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a close-run thing

「紙一重の出来事」の意。劇中では使われなかったが、ウェリントン卿がワーテルローの戦いの後に言ったとされる言葉。ただし、実際は a damn nice thing もしくは the nearest-run thing が正しい言葉だとも言われる。ナポレオンの「吾輩の辞書云々」と同じで、一種の伝説のようなもの。同僚ブリティッシュによると British Englishでは今日でも使われるとのこと。危機一髪の状況をなんとか生き残ったら、That was a close-run thing. と表現してみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 TALK TO ME トーク・トゥ・ミー 』
『 PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ 』
『 きっと、それは愛じゃない 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, ヴァネッサ・カービー, ホアキン・フェニックス, 伝記, 歴史, 監督:リドリー・スコット, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 ナポレオン 』 -人間ナポレオンに迫る-

『 首 』 -北野武の自伝映画-

Posted on 2023年12月6日 by cool-jupiter

首 65点
2023年12月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ビートたけし 西島秀俊 加瀬亮
監督:北野武

 

Jovianはまあまあ歴史好きで、日本史だと八切止夫の悪影響のせいか、明智光秀が好きである。ちなみに本作を鑑賞するにあたって歴史的な考証や学説を背景にして考えてはいけない。あくまでも北野史観、もしくは北野武の自伝として観るべきである。

あらすじ

天正七年。荒木村重は主君・織田信長(加瀬亮)に反旗を翻した。謀反を平定した織田軍では、重臣の明智光秀(西島秀俊)と羽柴秀吉(ビートたけし)が乱の首謀者の村重を捕縛すれば、信長の跡目になれると伝えられて・・・

 

ポジティブ・サイド

観終わって一番の感想は「これはたけしの自伝だな」だった。やることがすべて石原軍団や東京キッズの猿真似だったピートたけしが、やることすべてが信長の猿真似と言われた秀吉を演じているところからも、そのことがうかがわれる。男しか軍団に入れない「たけし軍団」の思想が本作にも色濃く投影されている。一部でBL色が強いという声もあるようだが、衆道や男色は別に安土桃山時代の専売特許ではなく、それこそ足利将軍時代から現代まで連綿と存在してきたわけで、それを指してBLと呼ぶのは少し違う気がする。むしろ、戦国時代の男たちの関係を描くことで、北野武が自らの思想を開陳したと見るべきなのだろう。火事で死亡したたけしの師匠・深見千三郎が本作における織田信長であることは火を見るよりも明らかだ。

 

映像は北野武作品らしいバイオレンスとユーモアに満ちている。それが命があっさりと消えてしまう戦国時代を非常にリアルに映し出していた。個人的に最も笑わせてもらったのが徳川家康と影武者。三方ヶ原の戦いの頃から影武者が何人もいたのは有名な話で、これでもかと刺客に狙われて、そのたびにどんどん影武者が死んでいく。男しか出てこない本作の中で、数少ない例外が柴田理恵か。夜伽の相手に一番の年増を選ぶ家康に笑ってしまうし、鬼の形相で家康に襲い掛からんとする柴田理恵にも笑ってしまう。もう一つ女性が出てくる場面は備中高松城。退陣していく羽柴軍を見て「メシの種が逃げていく」と焦る遊女たちにも笑ってしまう。

 

本作を別の視点から見る重要キャラに曽呂利新左エ門がいる。芸人の祖にあたる人物でカムイさながらの抜け忍。東西冷戦さなかのダブルエージェントのごとく、あちらこちらへ飛び回り、情報を仕入れてくる。また侍大将を夢見る百姓の茂助のキャラもいい。お笑い界の頂点を目指さんと青雲の志を抱き、アホながら一直線に駆け抜けるも・・・という、まさに現代お笑い界の芸人そのままの生きざま。

 

生え抜きだろうが外様だろうが、有能であればどんどん取り立ててきた信長が晩年には自らの息子たちに甘々になっていたのは近代の歴史学が明らかにしたところ。加瀬亮のキレっぷりばかりがフォーカスされているが、魔王としての信長と人間としての信長の両面を描いた作品は他にはなかなか思いつかない。『 利休にたずねよ 』が近いぐらいか。芸人としての師匠と人間としての師匠を重ね合わせていたのだろう。

 

物語を通じてこれでもかというぐらいに人が死ぬが、首にこだわって死んだ茂助と首に執着せず、結果的に天下を取った秀吉。この残酷なコントラストの意味するところは、誰を殺したかではなく何人を殺したかということ。お笑いで天下を取りたければ、審査員を笑わせるのではなく一般大衆を笑わせろ。ビジネスで天下を取りたいなら、特定クライアントではなく世間を喜ばせろ、ということか。

ネガティブ・サイド

秀吉や家康は信長よりかなり若いのだが、本作ではそこがおかしい。秀吉はビートたけしがどうしても演じたかったのだろうが、家康には40歳ぐらいの俳優で適任を探せなかったのか。

 

一部の役者の演技がワンパターン。というか、西島秀俊は誰を演じても西島秀俊。ニコラス・ケイジやハリソン・フォードと同じタイプの俳優やな。案外、椎名桔平あたりが明智光秀に合っていたかも。

 

秀吉、秀永、官兵衛の三人が喋るシーンはかなりの割合でアドリブが入っていなかったか。明らかにおかしな「間」が散見された。これが北野武流の映画作りだと言われれば納得するしかないが、面白さを増していたかと言われれば大いに疑問である。

総評

歴史的・史料的な正確性を過度に求めなければ十分に楽しめるはず。北野作品ということでグロテスクなシーン、暴力的なシーンもあるので、そこは注意のこと。本能寺の変という日本史上の一大ミステリの真相についても一定の答えを提示している点も興味深い。デートムービーには向かないが、時代劇好き・歴史好きな父親を持っていれば、たまにはご尊父を映画館に誘って、親孝行してみるのもいいだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

successor

跡継ぎ、継承者の意味。知っての通り、織田信長の権力基盤を受け継いだのは形の上では織田信雄だが、実質的な権力を継承したのは羽柴秀吉だった。本作ではしきりに跡目という表現が使われるが、英語で最も一般的に使われる跡目、跡継ぎは successor である。successor to the throne =王位継承者、successor to the business =事業承継者のように、前置詞 to を使うことを覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 市子 』
『 エクソシスト 信じる者 』
『 PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ 』

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, C Rank, ビートたけし, 加瀬亮, 日本, 歴史, 監督:北野武, 西島秀俊, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 首 』 -北野武の自伝映画-

『 福田村事件 』 -100年前と思うなかれ-

Posted on 2023年9月9日 by cool-jupiter

福田村事件 80点
2023年9月2日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:井浦新 田中麗奈 永山瑛太
監督:森達也

大学後期の開講直前につき簡易レビュー。

 

あらすじ

1923年、智一(井浦新)は朝鮮半島から故郷の福田村に妻の静子(田中麗奈)とともに帰ってくる。一方、讃岐から来ていた沼部新助(永山瑛太)率いる行商団15名は、薬売りをしながら千葉へと向かっていた。やがて関東大震災が発生。一帯は混乱に陥り、朝鮮人が攻めてくるとの噂が飛び交い、人々は疑心暗鬼に陥り・・・

ポジティブ・サイド

本作について、なにかをクドクドと言う必要はない。2020年に自分のFacebookで以下のように投稿したことがある。

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米ウィスコンシン州の警察官による黒人銃撃事件を報じるYahoo Japanニュースのコメント欄が恐ろしいことになっている。「銃を取りに行っているように思われても仕方がない」「黒人は元々犯罪率が高い」「白人でも普通に撃たれる案件」「警察の制止を無視する方が悪い」等々。世論を何らかの方向に誘導したい勢力に雇われているのか、それとも本気でそう思っている人間が一定数存在しているのか。すべてがステレオタイプにまみれた意見で、ジェイコブ・ブレイクという個人がどんな人間だったかということに全く関心がないらしい。

いくら銃社会のアメリカでも、『無抵抗』で『丸腰の人間』を『後ろから』、『7発』撃つ理由は見当たらないだろう。相手を無力化させるのではなく殺すことが目的の行動としか解釈できない。

黒人が殺された、ではなく、無抵抗の人間が殺された、ということに恐怖を感じる人間が、日本ではマイノリティであるらしい。そのことに戦慄させられる。「なんでもかんでも人種差別に結び付けるな」というエクストリーム意見もあるようだが、そういう人間の頭をカチ割って中身を見てみたい。人種差別云々ではなく、人を人とも思ってない所業が繰り返されてることに何か感じひんのかなあ・・・ 人種差別ではなく人間差別になってるとは思わんのかな・・・ アメリカのこの手の問題の根っこはracismではなくdehumanizationになりつつあると感じる。

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これが本作の問題提起そのもの。なんでもかんでもアメリカに追従する日本だが、実は人間差別という点ではアメリカに先んじていたのかもしれない。そこから日本人は進歩したと言えるのか。本作が問うのはそこである。

 

ネガティブ・サイド

東出の間男っぷりが現実とリンクしているのは一種のブラックジョークなのだろうか。当時の風俗習慣を垣間見る上では興味深いのだが、虐殺とそこに至るまでの社会的な混乱を描く上では不必要な要素に思えた。東出絡みのシーンはすべてカットして、120分ちょうどに収めてほしかった。

 

総評

Jovianも〇万円をクラファンに投じた作品が満を持して公開。実はクレジットにも名前が出ている。なぜ今、100年前の話なのか?と問うなかれ。これは現代の物語である。現代日本が持つことができずにいる多様性、その原因の根っこが本作で明らかにされている。日本人とそれ以外の人間に分けて考えるという二項対立的な思考がそれだ。それを一気に打ち砕く新助の言葉と、そこから始まる虐殺シーンの凄惨さは近年の邦画の中でも出色の出来。『 主戦場 』に並ぶ傑作。今という時代に本作を製作・公開した森達也監督の炯眼に満腔の敬意を表したい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

vigilante

2017年にシネ・リーブル梅田にて『 ビジランテ 』というタイトルの映画が上映されていた。意味は「自警団」である。form a vigilante = 自警団を組む・組織する、のように使う。ただ、自警団は往々にして組むこと自体が違法もしくは非合法であることを忘れてはならない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ヴァチカンのエクソシスト 』
『 アステロイド・シティ 』
『 さらば、わが愛 覇王別姫 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, スリラー, 井浦新, 日本, 歴史, 永山瑛太, 田中麗奈, 監督:森達也, 配給会社:太秦Leave a Comment on 『 福田村事件 』 -100年前と思うなかれ-

『 ヒトラーのための虐殺会議 』 -淡々と進む超高速会話劇-

Posted on 2023年1月29日2023年1月29日 by cool-jupiter

ヒトラーのための虐殺会議 70点
2023年1月29日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:フィリップ・ホフマイヤー ヨハネス・アルマイヤー
監督:マッティ・ゲショネック


トレイラーを観て、面白そうだと感じたのでチケット購入。

あらすじ

時は1942年、ベルリンのヴァンゼー湖畔の邸宅にナチス親衛隊と各省の事務次官が集められ、ユダヤ人の絶滅を効率的に進めていくための会議が持たれた。議長のラインハルト・ハイドリヒ(フィリップ・ホフマイヤー)は、右腕のアドルフ・アイヒマン(ヨハネス・アルマイヤー)と共に、利害対立を調停していき・・・

ポジティブ・サイド

『 シン・ゴジラ 』も真っ青の超高速会話劇である。どのようにプロジェクトを進行させていくのかを各々が自分の立場から語っていくという意味では『 決算!忠臣蔵 』に近いとも感じた。ただし、怪獣対策や主君の仇討とは違い、ヴァンゼー会議で話し合われたのはジェノサイド計画。わずか十数名が90分でこの計画について話し合い、実務家レベルでの協議は続けていくとしたものの、大筋で合意してしまうのだから、戦時下という非常時とはいえ、当時のドイツがいかに狂っていたのかがよく分かる。

 

同時に、なぜ当時のドイツがヨーロッパをあっという間に蹂躙できたのかも見えてくる。恐ろしいまでに勤勉なのだ。わき道にそれるが、Jovianは大学時代にドイツ人留学生二人と寮で共に暮らした経験がある。そこで「『 今度、同盟組む時はイタリア抜きにしようぜ 』っていうジャーマン・ジョークがあるって聞いたけど、本当?」と尋ねたことがある。答えは「え、それはジャパニーズ・ジョークじゃないのか?」だった。一時期、日本人サッカー選手で海外で活躍するのは皆、ブンデスリーガ所属だったが、ドイツ人も日本人もとにかく勤勉なのだ。イタリア人と一緒に暮らしたことはないが、イタリア旅行に行ったことがある多くの知人友人から聞くところによると、勤勉な民族ではなさそうだ。

 

閑話休題。議長を務めるハイドリヒを会社の事業統括本部長とするなら、その最側近のアイヒマンは営業部長あたりか。この二人が実質的に取り仕切る会議に、各省や各方面軍の幹部が自らの権益を主張し、あるいは自らの負担減を主張する。丁々発止のやりとりで、ある時はハイドリヒが個別に話をし、またある時はアイスマンが冷静にデータとエビデンスを提示する。ビジネスプランを話し合っているのならお手本にしたくなるような映画だが、議題はあくまでもジェノサイド計画。

 

内務省次官のシュトゥッカートが強硬にユダヤ人疎開計画に反対するので、「あれ?」と感じたが、彼の出してきた対案に戦慄させられた。その直後、別室でハイドリヒとシュトゥッカートが二人だけで話すシーンでは、互いの家族について軽く談笑する。よくそんな話題を出して、しかも笑顔になれるなと背筋が寒くなった。もう一人、人道的な観点からの懸念を述べるクリツィンガーにも唖然とさせられる。人道的って、そっちの意味かよ・・・

 

本作はエンタメとしての要素を徹底的に削ぎ落している。BGMも音響も無し。凝ったカメラワークも一切なし。普通なら、書記役としてその場にいた若い女性の視点で会議を眺めるショットをいくつも入れそうなものだが、そんなものは一切なし。普通の人間の普通の視点からだけカメラを回すことで、作為性を一切排除した歴史ドキュメンタリー的な作品に仕上がった。無音のエンドクレジットを観て、虚無感が胸に去来した。

ネガティブ・サイド

おそらく議事録通りなのだろうが、会議出席者の自己紹介が欲しかった。一人だけというのはちょっと分かりにくい。まあ、本作はわざわざ鑑賞する向きは近代ドイツ史にまあまあ詳しい、あるいは関心があるという層のはずだが、ライトな鑑賞者もいるはずである。

 

『 RRR 』のように、エンドロールでヴァンゼー会議出席者たちの写真を映し出すぐらいしてもよかったのではないか。

 

総評

想像でしかないが、本作で描かれたのと同じような会議が2021年11月から2022年1月ぐらいにかけて、クレムリンのどこかで行われていたのではないか。自国の暗部を映画化することにかけては韓国が抜きん出ているが、その闇の濃さにかけては本作が突き抜けている。こんな主義および体制の国家と日本は同盟を結んでいたわけだが、ドイツにはヴァイツゼッカー大統領がその後に現れたが、本邦にはまだそのような為政者は現れていない。そのことをどう感じるべきかは、観る側の良識に委ねられている。

 

Jovian先生のワンポイント独語レッスン

interessant

発音はインテレサント、意味は「面白い」。英語の interesting にあたる。作中で Danke = ダンケと同じくらい聞こえてきたように思う。Jovianもたまにドイツ人と英語で話す時、アンドではなくウントと言うことがある。interessant も相槌か何かで使ってみようと思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エンドロールの続き 』
『 イニシェリン島の精霊 』
『 グッドバイ、バッドマガジンズ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ドイツ, フィリップ・ホフマイヤー, ヨハネス・アルマイヤー, 歴史, 監督:マッティ・ゲショネック, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 ヒトラーのための虐殺会議 』 -淡々と進む超高速会話劇-

『 RRR 』 -炎と水の英雄譚-

Posted on 2022年11月26日2022年11月26日 by cool-jupiter

RRR 80点
2022年11月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:N・T・ラーマ・ラオ・Jr. ラーム・チャラン
監督:S・S・ラージャマウリ

久しぶりのインド映画。『 バーフバリ 』のS・S・ラージャマウリ監督作品ということで、鑑賞後は心地よい疲労感に包まれた。

 

あらすじ

1920年、英国植民地下のインド。英国人に買われていった妹マリを救おうとするビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr.)と、英国政府に仕え、インド人暴徒を鎮圧する警察官ラーマ。二人は事故に巻き込まれた少年を協力して救ったことから無二の親友となる。しかし、お互いが自分の使命を果たさんとする時、遂に二人は激突することになり・・・

ポジティブ・サイド

『 バーフバリ 』の前後編でも感じたが、インドの映画人は自らのビジョンを具体化するのに一切躊躇がない。これはS・S・ラージャマウリ監督だけかな。炎と水の勇者が冒頭から大暴れ。ラーマが暴徒の海に飛び込んで見せる無双アクションはやりすぎもいいところ。ビームが狼を仕留めようとして、結果的に虎を仕留めてしまうのも無茶苦茶。しかし観ている最中はまったくそう感じない。インド映画の魔力である。

 

二人が出会うきっかけになる少年の救出ミッションもメチャクチャ。二人が空中でがっちりと互いの手を握り合うシーンにはリアリティーの欠片もないのだが、それでも押し通してしまうラージャマウリ監督の怪力よ。そこから始まる二人の友情も美しい。インドは世界でも類を見ない多民族、多言語、多宗教の国なので、相互の理解はなかなか難しいと思われるが、逆に男と男の友情に言葉はいらないというテーゼを力強く提示しているとも感じた。

 

本作が近年のインド映画と少々異なっているのは、ダンスシーンを思い切りぶっこんでいるところ。国際的なマーケットで売るには、映画は2時間弱がベスト。ダンスシーンを入れてしまうと、それだけで数分は消費する。畢竟、近年の大作インド映画はダンスシーンが少ない、あるいは全くない、もしくはエンドクレジットに持ってくる。だが、本作は InteRRRval 前のストーリーの中盤あたりでナートゥというダンスのシーンがあり、これがまさにクレイジーの一語に尽きる。このナートゥが単なるダンスではなく、異文化対決であり、異文化交流であり、友情を深めるシーンでもあり、ラーマとビームの力関係を決定づける役割も担っている。

 

ビームはマリを見つけ、ラーマはスコット知事の邸宅に突入してきたビームと遂に激突。友情と使命の狭間で揺れる二人の対決は見応え抜群。そして絶妙なタイミングで InteRRRval へ。 

 

後半はいきなりビームがラーマに拷問を食らうシーンで、観ているだけで胸が痛い。ここでビームが取るある行動が、ラーマに、そして民衆に響く。ラージャマウリ監督は単なるアクションてんこ盛り作品を見せたいわけではなく、インドらしさを見せたいわけで、この後に現れるインド史上の超有名人の思想の先取りをここで披露する。この構成には恐れ入った。

 

後半では昇進を果たしたラーマの過去、そして真の目的が描写されるが、ここで明らかになる過去は暗く、そして重い。ラーマが親友や許嫁よりも大切にしたいものがあるということが痛いほど伝わってきた。そして、そのことを知ったビームによるラーマの救出劇と、そこから始まる二人の無双の活躍に言葉はいらない。人馬一体という言葉があるが、人人一体の大活躍である。客観的に見れば ( ゚Д゚)ハァ? なのだが、このアクションシーンを成立させてしまうのがラージャマウリ監督なんだな。そこから先は炎の戦士と水の戦士の超強力タッグによる英国紳士ぶっ殺しまくりタイムに突入。最後の最後にスコット知事もぶっ倒してスッキリ爽快。

 

本作は最後にほんの僅かな苦々しさも残す。ラーマが自分を牢獄から助け出してくれたビームにお礼をしたいと言う。そこでビームが欲しかったものに、インドという国の歴史、そして未来を見た気がした。もっと大袈裟に言うなら、独立不羈の国民国家を樹立するのに必要なのは腕っぷしや武器ではなく、ビームの欲したものこそが本当に必要なものなのだろう。教育業界の人間の端くれとして、非常に突き刺さるメッセージを最後に受け取った。

ネガティブ・サイド

エンディングのダンスシーンで少しだけ出てくるが、ビームとジェニーのその後についてほんの少しでよいので触れてほしかった。

 

毒にやられたり、結構な外傷を負ったりするが、ラーマの回復力が異常であるように思う。

 

THE STORYのR、FIREのR、WATERのRのように冒頭で表示されるが、WATERよりもFORESTのRの方がしっくり来る気がする。

 

総評

友情か、使命かというテーマの作品なら邦画で『 ヘルドッグス 』があったが、アクションは本作の方がはるかに上。岡田准一も原田監督も、ここまで突き抜けたアクションを志向してほしい。非常に不謹慎だが、InteRRRval 後の後編では「いけいけやれやれ、英国人どもをぶっ殺せ!」という気分で鑑賞してしまった。とにかく主役二人の友情とアクションが熱すぎる。これをマサラ上映で鑑賞したら、それだけで1kgぐらい痩せるような気がする。頭を空っぽにして3時間楽しめる、インド映画の傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

call

呼ぶ、の意。call A B という形で「AをBと呼ぶ」という意味になる。劇中ではビームが身振り手振りと片言英語でジェニーに名前を尋ね、Don’t call me ma’am, sir. It’s just Jenny. というセンテンスそのものを彼女の名前だと勘違いするシーンに笑った。ちなみに先日、業務で某アメリカ人女子プロゴルファーの通訳を行ったが、Jovianの第一声は What should I call you? =「 何とお呼びすればよいですか?」だった。便利なフレーズなので覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザリガニの鳴くところ 』
『 サイレント・ナイト 』
『 母性 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, N・T・ラーマ・ラオ・Jr., アクション, インド, ラーム・チャラン, 歴史, 監督:S・S・ラージャマウリ, 配給会社:ツインLeave a Comment on 『 RRR 』 -炎と水の英雄譚-

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