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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 染谷将太

『 初恋 』 -粗が目立つ意欲作にして珍作-

Posted on 2020年3月5日2020年9月26日 by cool-jupiter

初恋 50点
2020年3月1日 MOVIあまがさきにて鑑賞
出演:窪田正孝 大森南朋 染谷将太 小西桜子
監督:三池崇史

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200301183227j:plain
 

『 ラプラスの魔女 』をはじめ、多くの奇作・珍作を作ってきた三池監督。本作もやはり、珍品であった。

 

あらすじ

新進気鋭のボクサー葛城レオ(窪田正孝)は、格下相手にラッキーパンチをもらいKO負け。病院行きとなってしまった。その病院で脳に腫瘍があり、余命幾ばくもないと告知されてしまう。自暴自棄になっていたところ、レオは夜の街で薬物依存症の娼婦モニカ(小西桜子)と巡り合う。それにより、レオはヤクザや刑事、中華マフィアをも巻き込んだ騒動の渦に否応なく巻き込まれていく・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200301204745j:plain
 

ポジティブ・サイド

窪田正孝は意外にボクシングの型ができている。試合のシーンでも左フックのダブルトリプルを見せたが、これは鬼塚勝也の得意技だった。ボクサーにフィーチャーした映画は色々あるが(『 あゝ荒野 』を早く鑑賞せねば・・・)、左オンリーのコンビネーションはかなり珍しいように思う。この一瞬のシーンを撮るためだけに、かなりの鍛錬を積んできたことが伺える。一瞬、角海老が映っていたように見えた。角海老と言えば坂本博之。坂本博之と言えばvs畑山隆則。レオが素手で格闘するシーンは、坂本vs畑山、あるいは吉野弘幸vs金山俊治のような“熱”が確かにあった。

 

染谷将太のヤクザ役はそれなりに堂に入っていた。チンピラ的な小物オーラから殺人を厭わない冷酷無比な暴力男の顔まで、硬軟自在に演じていた。予告編のパープリンな顔に騙されてはならない。『 君が君で君だ 』で向井理がヤクザ役を演じて新境地を拓いたように、また『 ザ・ファブル 』でも安田顕がヤクザを好演したように、少々伸び悩みやキャリアのプラトーにある役者がヤクザを演じるのは、良い転換になるのかもしれない。

 

中華マフィアの存在や暗躍にも説得力がある。『 ギャングース 』でも中華料理屋が中華マフィアの隠れ蓑になっていたが、これも日本の国力の衰えが顕著になっているひとつの証拠か。中国人が高倉健の“仁”に魅せられるというのも面白い。任侠は元々は古代中国に起源を持つとされているが、文化は辺境に残るものなのだ。ヤクザという非常に暗く狭い領域にも、高齢化以上にグローバル化の波が訪れている。外圧である。非常に屈折した形ではあるものの、これは三池監督流の日本へのエールであろう。そのことは終盤の「日本車を信じろ」という一言にも端的に表れている。

 

終盤のチャンバラも迫力十分。剣戟と言えば昭和の頃のVシネ任侠映画のクライマックスと相場が決まっていたが、北野武あたりから一方的な銃撃戦になってきた(それも非常に乾いた世界観にマッチしていて悪くなかったが)。やはりヤクザの喧嘩の華は昔も今もチャンバラなのである。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200301204221j:plain
 

ネガティブ・サイド

ベッキーの怪演が凄い!という評判が先に立っていたが、Don’t get your hopes up. 『 ディストラクション・ベイビーズ 』の小松菜奈の切れ具合と同程度では?あるいは本格的な役者ではないが、半狂乱を超えた全狂乱でヒール街道をひた走ったこともあるWWEのマクマホン家の娘、ステファニー・マクマホンの方がよほど迫力と凄みがあった。目を見開いてバイオレンスなアクトをすれば怪演・・・というわけではない。ギャップによる意外さはあっても演技として格別に優れていたとは感じられなかった。

 

ストーリーの上で、レオが天涯孤独であるということにいまひとつ必然性を感じられなかった。別に両親が離婚して施設に預けられたでも、小さなころに両親と死別したでも、なんでもよかった。生まれてすぐに捨てられた、だから親の顔も何も知らない。そのことがレオというキャラクターの性格にも天性のボクシングセンスを持っていることにも関連がない。つまりはキャラが立っておらず、薄いのである。冒頭でレオに取材に来る記者も笑わせる。人気のコラムのタイトルが「あしたのチャンピオン」とは、いかにも漫画『 あしたのジョー 』の「明日のために」をパロった、あるいはパクったものだろう。どうせパクるなら「熱病的観戦法」のような、一般人にはさっぱりでも古くからのボクシングファンならば思わずニヤリとしてしまうようなものにすれば良いのにと思う。作りが無難なのだ。

 

これは一種のファンタジー映画なのでリアリティ云々は興ざめであることは自覚している。それでも言わねばならない。

 

血は水では洗い落とせない!ボクサーであるレオがそれを知らないはずはない。いや、血ほど布から落ちにくいものはないというのは、鼻血でも何でもいいので、とにかく血を福に垂らしてしまった人ならば誰でも知っていることだろう。冷水シャワーを浴びて、肌はまだしも、衣服からもきれいに血の跡が消えてしまうのは不自然極まりない。

 

中華マフィアが使う刀剣が大刀(巷間言われる青龍刀)ではなく日本刀というのも疑問符である。確かに高倉健を憧憬する中国人女性は出てくるが、ポン刀を使う中国人はそこまで高倉健ファンではなかっただろう。せっかくの迫力あるチャンバラシーンなのだが、これが青龍刀と日本刀の戦いなら、もっともっと絵的に映えたように思えてならない。

 

最大の問題点は「日本車」である。日本車の性能云々ではなく、その描写である。本作は一種のファンタジーであるが、クライマックスで一挙に漫画、それもギャグマンガの域に到達する。三池監督でなければ「は?」となるが、三池監督なので「ま、ええか」となる。これは決してポジティブに評価しているわけではない。匙を投げているのである。

 

プロットもまんま『 ガルヴェストン 』である。死の宣告を受けた男が、娼婦を連れて逃避行に出る。そして行く先々でイザコザが起きる。ほら、『 ガルヴェストン 』でしょ。もうちょっとオリジナル要素を入れるべきだ。モニカが離脱症状(いわゆる禁断症状)で見てしまう幻覚にも、ギャグ要素は不要である。ホラーのテイストをそのまま保てばよかった。幻覚に怯えるモニカに目の前で渾身の右ストレートを一閃。そのあまりの鋭さに幻覚が霧散。生身の人間のパンチに宿る威力を思い出して、離脱症状に苦しむときにもそのパンチを思い出して、自身を奮い立たせる。モニカにそうした描写があればよかったが、ない。そして、『 ガルヴェストン 』のオチと同じオチが本作にも訪れる。って、ちょっとは捻らんかいな・・・

 

総合的に見て同じ東映でも『 孤狼の血 』にかなり劣る。一部にかなりのバイオレンス描写があるが、韓国映画の『 The Witch 魔女 』や『 ブラインド 』の暴力描写にも負けている。まあ、近年の三池クオリティの作品である。

 

総評

突出して面白いわけではないが、どこをとってもダメというわけでもない。とにかくオリジナリティがない。一部の役者の熱演に支えられてはいるが、かえってそのことが作品全体のトーンから一貫性を奪っている。ただし、映画を事細かにexamineしてやろうという目で見なければ、そこそこに楽しめる作品になっているのではないだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Yakuza don’t belong in the sun.

「ヤクザに朝日は似合わねえ」というセリフの私訳。ヤクザはinternational languageでyakuzaとなり、これは単複同形である。受験英語ではしばしばbelongと来たらto、と教えるようだが、This belongs in a museum. (これは美術館に所蔵されるべきだ)だとか、あるいはテイラー・スウィフトの“You Belong With Me”のように、belongの後にto以外の言葉を自然につなげられるようになれば、英語の中級者である。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, アクション, ラブロマンス, 大森南朋, 小西桜子, 日本, 染谷将太, 監督:三池崇史, 窪田正孝, 配給会社:東映Leave a Comment on 『 初恋 』 -粗が目立つ意欲作にして珍作-

『 パラレルワールド・ラブストーリー 』 -文句なしに駄作-

Posted on 2019年6月6日2020年4月11日 by cool-jupiter

パラレルワールド・ラブストーリー 20点
2019年6月2日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:玉森裕太 吉岡里帆 染谷将太 
監督:森義隆

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最初のトレイラーを観た時は、「なんか駄目っぽい」という印象だった。Jovianはそもそも東野圭吾との相性が良くないのだ。だが監督が『 聖の青春 』の森義隆ということで少し期待感が高まった。しかし、2つ目か3つ目のトレイラーの「こっちが・・・現実だ・・・」という玉森の台詞にがっくりさせられた。並行世界の物語ではなく、仮想現実または妄想・空想の世界の物語であることがバレてしまったからだ。それでも鑑賞を決断したのは、このトレイラー自体も misleading のための仕掛けではないかと思ったからだ。そして、このタイトルはmisleadingであり、かつmisleadingではなかった。

 

あらすじ

敦賀崇史(玉森裕太)は恋人の津野麻由子(吉岡里帆)と同棲していた。しかし、目覚めると麻由子は親友の三輪智彦(染谷将太)の恋人になっていた。二つの世界を行き来する崇史。いったい彼の見ている現実とは何なのか・・・

 

ポジティブ・サイド

吉岡里帆のベッドシーン。肝心の部分は見せてもらえないが、誰もが『 娼年 』のような映画に出演して、すっぽんぽんになれるわけではない。そんなことになったら、ラブシーンの価値が下がるだけである。吉岡ファンならば、劇場鑑賞はありであろう。音響の良い映画館ならば、吐息の音をリアルに感じられるかもしれない。

 

構成も悪くない。序盤でCG丸出しの山手線と京浜東北線が二手に分かれていく様は、確かに世界の分岐、パラレルワールドの存在を感じさせてくれた。わずか一駅だけの間、並走する電車の中に運命的な相手を見いだせれば、それは相当にロマンティックなことだろう。JR西日本では、宝塚線の快速と神戸線の快速が、しばしば尼崎駅をほぼ同時刻に発車して、この物語と同じように並走する。交わりそうで交わらない線が、思いがけない形で交わる時、人が正常でいられなくなるのは無理からぬことなのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

 

以下、ネタばれに類する記述あり

 

残念ながら様々な面でリアリティを欠き過ぎている。冒頭からファンタジー路線ではなく、脳科学に関する業務の話が専門的な用語を交えてポンポンと飛び出してくるが、これはsciencyではあってもscientificではなかった。というよりも、記憶を改変・改編させるのに大袈裟な装置を使う必然性が見つからない。根気良く催眠療法的なセッションを繰り返してはいけないのだろうか。また、脳の特定部位の励起状態を別領域に転写する、それを光刺激を与えることで特定遺伝子を刺激することでその状態を生み出せるなどという説明があるが、完全に意味不明だ。光刺激を目に入れないところが分からないし、百歩譲って皮膚に光を照射、メラニンへの刺激経由で脳に影響を波及させるというなら話は分からないでもないが、そもそも照射装置が見当たらない。また、色々な電極やコードらしきものが光を放つにしても、髪の毛ふさふさの頭には効果は極小だろう。

他にも、記憶の分類を劇中でしっかり行わないため、記憶改変のインパクトが強く感じられない。あるキャラクターが出身地に関する記憶を改変されてしまうのだが、エピソード記憶をいじくることが可能というインパクトは個人的には大きかった。しかし、劇中の、しかも白衣を着てラボで働くような連中が事の重大性を全く認識していないかのように振る舞うのは不可解極まりない。人間の記憶ほどあてにならないものはない。それは、亡国の政治家や官僚の答弁を聞けば、よくよく分かることである。また、記憶改変によって周辺記憶と齟齬をきたした場合には、自分に都合の良いように話を置換してしまう“ドミノ効果”なるものもイマイチ分からない。これこそまさに“バタフライ・エフェクト”で、その効果・影響の大きさなど知る由もないではないか。なぜ智彦はこんな危険な効果を指して「100%大丈夫だ」などと断言できるのか。サンプル数が1とか2という段階で、こんなことを言えてしまうとは本当に科学者なのか。また、会社の上層部もこの研究や装置については把握していたようだが、ならば何故こんな危険性が未知数の代物を、一研究者が自由に使えてしまう状況を放置するのか。複数役員の承認、それも指紋や声紋、虹彩による認証などを必要とするようなものに思えるが、課長または部長級に見える男性が監視らしき真似ごとをするのみ。麻由子も監視するならちゃんと監視しろ。スリープ状態になってしまう恐れがあるのだから、呑気に電話報告するにしても、尾行ぐらいしろ。巨大企業の危機管理とは思えない杜撰さ。リアリティがとにかく足りない。

だが、何よりも不可解なのは、キャラクターの行動原理だ。それこそ「恋愛感情」というもので済ませてしまえばよいのだが、あまりにも醜い面が噴出しすぎている。友情よりも恋愛に走る崇史は誰も批判や非難はできない。しかし、レイプは完全に犯罪ではないか。麻由子とベッドインできない智彦には同情するが、だからといって自ら身をひこうなどとは思えない。障がいを揶揄するつもりは一切ないが、乙武氏でも立派に不倫・不貞行為はできるのだ。何をくよくよしているのだ。

ラストはそれこそ『 バタフライ・エフェクト 』の丸パクリ。様々な可能性を残して、観る側の想像力に委ねるのは、ここまで来るともはやクリシェを通り越して、製作者側の怠慢である。

 

総評

駄作である。『 プラチナデータ 』級の科学的不可解さが満載である。「記憶」または「タイムトラベル」を巡る物語の序盤は常に面白いものだ。しかし、本作はストーリーの根幹を支えるべき科学的リアリティとキャラクターの人間性の酷さによって、それなりに良い食材が、最後まで食べるのが苦痛なフルコースになってしまった。残念至極である。記憶をテーマにした映画や小説はそれこそ無数にある。よほどの東野圭吾ファンでなければ、これを選択する意味は無い。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190606121257j:plain

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, E Rank, SF, ミステリ, 吉岡里帆, 日本, 染谷将太, 玉森裕太, 監督:森義隆, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 パラレルワールド・ラブストーリー 』 -文句なしに駄作-

『予兆 散歩する侵略者 劇場版 』 -黒沢および東出史上二番目の出来か-

Posted on 2019年5月4日 by cool-jupiter

予兆 散歩する侵略者 劇場版 50点
2019年5月3日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:夏帆 染谷将太 東出昌大 岸井ゆきの
監督:黒沢清

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率直に言わせてもらえば、黒沢清監督は駄作メーカーだ。『 CURE 』以外に、標準レベルより上に達している作品は無いと言わせてもらう。東出も、正直なところ大根役者だと思っている。彼が最高の演技を見せたのは、自分自身の色を出そうとせず、ある意味で羽生善治の物まねに徹した『 聖の青春 』だった。本作はそんな二人の久々のヒットだと評したい。

 

あらすじ

悦子(夏帆)は、同僚のみゆき(岸井ゆきの)の「幽霊が見える」という相談を受ける。困惑しつつも、宿を提供する悦子だが、みゆきは悦子の夫、辰雄(染谷将太)に対しても異常な反応を見せる。不安を覚えた悦子は、夫の勤める病院にみゆきを連れていくが、そこにいた新任の外科医、真壁(東出昌大)に悦子はただならぬ何かを感じ取り・・・

 

ポジティブ・サイド

『 散歩する侵略者 』の不可解な点に、長澤まさみを妻に持つような男が浮気をするのか?というものがあった。まあ、男女、夫婦の仲には色々あるが、浮気を疑っていた夫とやりお直すチャンスをそこに見出す妻、というのも個人的にはリアリティを感じなかった。本作にはそうした要素はない。ちょっと歪な夫婦の形がそこにあるだけである。これならば許容できる。

 

夏帆のキャラが良い。マイケル・クライトンの小説『 アンドロメダ病原体 』でも、一部のキャラが感染を免れたように、宇宙人の概念泥棒が通用しない地球人個体というのは、非常にリアリティのある存在である。本編の長澤まさみは、個体として特殊なのか、それとも抱いていた愛の概念が特殊なのか、今一つ判断ができなかった。今回の、特殊な個体の存在を描写するというのは、良い試みであると言えよう。

 

東出も中盤まではいつもの東出なのだが、最終盤に魅せる。『 散歩する侵略者 』の長谷川博己が爆撃を食らった後に文字通り人間離れした動きを見せたのと同じような動きを見せる。また、概念を盗む際にまばたきを一切しなくなるというのも、『 ゴジラ FINAL WARS 』のX星人ネタではあるが、キャラを立たせる要素として機能していた。東出は演じるよりも真似をする方が良い仕事をする。本作では久々に良い東出を見た気がした。

 

本編では宇宙人が動物に乗り移りながら最終的に人間に寄生し、奇妙な装置を作り上げて、本隊と交信していたが、本作ではより直接的な描写を見せる。こちらの方が感覚的に分かりやすい面もあり、これはこれでありだと思えた。

 

宇宙人同士のコミュニケーションの噛み合わなさ加減や、支配-被支配の関係の不気味さ、また実質的に3人しか出てこなかった本編とは異なり、こちらはそこかしこに宇宙人のガイドがいるのではないかと予感させるサスペンスフルな作りになっていて、観る側の想像力をより喚起させてくれる。個人的にはこういう構成も好みである。

 

ネガティブ・サイド

染谷将太の右腕ネタは不要だったかもしれない。どうしたって『 寄生獣 』を連想する。そうしたメタなネタを取り入れるのならば、監督や原作者、他キャストなどに何らかの共通点がある時だけにしてもらいたい。

 

同じく染谷将太演じる辰雄があまりにも人間的すぎる。概念を盗むターゲットを選ぶのに、バックストーリーは必要だったのだろうか。ほんのちょっとした違和感の積み重ねが不安やサスペンスを盛り上げてくれるのだが、観る側が共感してしまうようなエピソードを放り込んできては、「概念」を盗むという非常に奇抜なアイデアの良さが損なわれてしまうではないか。彼我の思考にはどうしようもない違いがある、というところが散歩する侵略者の特徴なのだから、そんな侵略者に共感を覚えるような要素は極力排除すべきだと個人的には考える。

 

また低予算だったためか、全体的な作り込みにしょぼさを感じる。逃げ惑う人々のショットがわずか一つだけ、時間にして2秒程度というのはいかがなものか。また、『 シン・ゴジラ 』とまでは言わないが、都市部でグリッドロック現象が起きているような描写も必要だろう。テレビやラジオ放送の声にも緊迫感が足りず、侵略の予兆を感じ取るのが難しかった。

 

総評

スピンオフというよりもリメイクまたはリブート的なもののように感じられた。スピンオフならば、本編に登場した警察官もしくは医療従事者たちの視点からストーリーを捉え直すようなものであるべきだろう。ただ、『 散歩する侵略者 』と本作の両方を鑑賞することで、物語の理解が深まったり、異なるものが見えてくるのも事実である。本編が気に入ったという人ならば、鑑賞して損をすることは無いだろう。

 

Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, SF, 夏帆, 岸井ゆきの, 日本, 東出昌大, 染谷将太, 監督:黒沢清, 配給会社:ポニーキャニオンLeave a Comment on 『予兆 散歩する侵略者 劇場版 』 -黒沢および東出史上二番目の出来か-

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