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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: サスペンス

『 聖地には蜘蛛が巣を張る 』 -イラン社会特有の病理と思うなかれ-

Posted on 2023年4月30日 by cool-jupiter

聖地には蜘蛛が巣を張る 70点
2023年4月26日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:メフディ・バジェスタニ ザーラ・アミール・エブラヒミ
監督:アリ・アッバシ

 

監督の名前だけでチケット購入。

あらすじ

イランの聖地マシュハドで、娼婦だけを狙うスパイダー・キラーという連続殺人鬼が出現。住民は不安に慄くが、犯行を支持する者もいた。女性ジャーナリストのラヒミ(ザーラ・アミール・エブラヒミ)は独自に事件を追っていくが・・・

ポジティブ・サイド

娼婦ばかりを狙う殺人鬼では『 チェイサー 』が思い出されるが、本作は社会の底辺で繰り広げられる追跡劇ではなく、広く社会全般に蔓延する空気の淀みに息が詰まる。そしてその空気とは女性蔑視。

 

ただのオッサンが淡々と娼婦を買い、淡々と殺しては淡々と捨てていく。それを追うジャーナリストの女性が周囲から受ける奇異の眼差しが突き刺さる。

 

一見して普通の人が大量殺人犯だったという真相の裏に、戦争で死ねなかった、あるいは戦争がもっと続けば功成り名遂げるチャンスもあったという想いがあったのではないか、という仮説を提示しているところが、なんとなく『 殺人の追憶 』を彷彿させる。

 

サイードの宗教観と、彼の家族の事件の受け止め方に戦慄させられる。これをイスラム社会およびムスリムの特異性と受け取るか、それともあらゆる文化は相対的に特異であると受け取るかで、本作の評価はガラリと変わるはずだ。

 

ネガティブ・サイド

サイードの家族だけが異様に映ってしまうが、サイードのかつての軍隊仲間の家族たちの様子や、治安の悪化を不安がっていた近所の人々のサイード逮捕後の反応なども描いていれば、イラン社会の不安定さと、それゆえの変化への希望と絶望の両方が表せたのではないだろうか。

 

裁判シーンか、それに関連するシーンをもう少し増やして、イスラム法がどのようなものなのかを観る側に知らせてくれても良かったと思う。あるいは傍聴人同士の会話や新聞、ニュース番組、SNSのやりとりなど、何故かくもサイードが支持されるのか非イスラム圏にも、もう少し伝わりやすくしてほしかった。

 

総評

『 ボーダー 二つの世界 』で描かれた、人間と人間とは異なる存在が交わることなく存在する世界同様に、本作では男と女という交わるのだが交わらない存在、その位相の非対称性が強く打ち出されている。殺害シーンはかなりショッキングなので注意のこと。本作を他山の石にできるかどうかが、その文化圏あるいは視聴する個人の一種のテストであるかのように感じられる。

 

Jovian先生のワンポイントペルシャ語レッスン

キー

誰、の意味。劇中に何度も何度も聞こえてくるので、さすがに分かる。ラテン語の qui が元になっているのかな、などとあらぬことを一瞬考えた。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・ホエール 』
『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』
『 放課後アングラーライフ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, ザーラ・アミール・エブラヒミ, サスペンス, スウェーデン, デンマーク, ドイツ, フランス, メフディ・バジェスタニ, 監督:アリ・アッバシ, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 聖地には蜘蛛が巣を張る 』 -イラン社会特有の病理と思うなかれ-

『 ヴィレッジ 』 -ムラ社会のダークサイド-

Posted on 2023年4月23日 by cool-jupiter

ヴィレッジ 75点
2023年4月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:横浜流星 黒木華
監督:藤井道人

藤井道人監督ということでチケット購入。

 

あらすじ

片山優(横浜流星)は、死んだ父の犯した罪と母親の借金のために、故郷の霞門村で肩身を狭くして生きていた。ある日、ゴミ処理場で働く優は、東京から帰ってきた昔馴染みの美咲(黒木花)と再会することになり・・・

ポジティブ・サイド

能の場面、そして『 三度目の殺人 』を彷彿させる火から始まるオープニングに、剣呑な空気が充満している。

 

村で生きる優の能面のような表情と、その内に封じ込められた激情の対比が序盤と中盤の分かれ目。霞門村のシステムに取り込まれることで豊かな表情を取り戻していく優の姿に、観る側は非常にアンビバレントな気持ちにさせられる。

 

この「閉鎖社会から出ていこうにも出ていけない」あるいは「出ていったはいいものの、結局帰って来るしかなかった」というジレンマは、大都市の人間には分からないのではないか。過去数十年の日本の行政の地方創生戦略が機能したためしがないのは、都市の人間がムラに関する施策を決定するという構図が原因ではないか。地方に交付金やら補助金やらを恵んでやる一方で、ゴミ処理場や原子力発電所などを押し付けるのは大きな間違いだったということは、過去10年を見れば分かることだ。

 

Jovianは霞門村ほどのド田舎に住んだことはないが、それでも30年以上前に住んでいたO県B市ぐらいの田舎だと、同級生だった市長の孫が中学校でむちゃくちゃデカい面していて、教師も腫れ物に触れるような扱いをしていたものだった。その市長の苗字が、本作の村長と同じで笑ってしまった。こういう閉鎖社会の権力者とその一族あるいは取り巻きは、その依って立つ基盤が砂上の楼閣とはいえども、周囲に多大な影響力を行使することはある。その点を藤井道人はよくよく見抜いている、あるいは取材しているなと感じた。

 

横浜流星以外で目立った役者は一ノ瀬ワタル。『 宮本から君へ 』同様の暴力キャラが良く似合う。「この村にはハラスメントなんか存在しねえ」という台詞はリアルだった。仕事で奈良や滋賀のかなりの田舎の学校にまで教えに行くこともあるが、そうしたところはコロナ禍真っただ中でも隣近所の人間とノーマスクで話していることなどザラだった。中央や都市部があーだこーだ言っても、本当の田舎は大昔から何も変わらないものである。

 

環境センターという昼の顔と不法投棄現場という夜の顔が、そのまま村および村民たちの二面性になっているのが興味深い。エンドロール後のラストショットに仮託されているのは、希望なのか絶望なのか。それは是非、自身の目で確かめて頂きたい。

 

ネガティブ・サイド

中村獅童演じる刑事が無能すぎる。杉本哲太演じるヤクザも無能すぎる。ここら辺のキャラにはリアリティが欠けていた。

 

最大のツッコミどころは「そこにそれを捨てるか?」というものと、「なんでそれを破壊しないの?」というもの。後者はクラウドが云々かんぬんというのがあるかもしれないが、前者についてはお粗末すぎる。『 藁にもすがる獣たち 』を見習えと言いたい。

 

総評

『 デイアンドナイト 』と同工異曲の秀作。共同体の伝統を壊そうとする者は排除するか、あるいは共同体に取り込んでしまうのが日本社会のお家芸。つまりはダイバーシティなどというものはお題目に過ぎないのだ。自国の闇をエンタメに仕上げられるのは、問題意識とクリエイター意識の両方を併せ持った人。藤井道人は邦画界に置ける数少ないそのような作り手の一人、かつ第一人者だろう。ぜひ鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

History repeats itself.

歴史は繰り返す、の意。優の父の犯した罪や、村長の「そうやってこの村は続いてきたんだ」という発言が印象的。歴史はいつでもどこでも繰り返されるものだが、日本の地方は特にその傾向が強いようである。History has repeated itself. や Will history repeat itself? のようにも使うことがある。英語中級者なら既に知っている表現だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・ホエール 』
『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』
『 聖地には蜘蛛が巣を張る 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, 日本, 横浜流星, 監督:藤井道人, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:スターサンズ, 黒木華Leave a Comment on 『 ヴィレッジ 』 -ムラ社会のダークサイド-

『 search #サーチ2 』 -珠玉のスリラー-

Posted on 2023年4月21日 by cool-jupiter

search #サーチ2 75点
2023年4月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ストーム・リード
監督:ウィル・メリック ニック・ジョンソン

簡易レビュー。

 

あらすじ

ジューン(ストーム・リード)は、恋人とコロンビア旅行に出かけた母が予定日に帰国しないことから、犯罪に巻き込まれたことを危惧し、連邦警察に連絡する。一方でジューンはSNSや各種ネットの情報を使い独自に母を探そうとするが・・・

ポジティブ・サイド

『 search サーチ 』の続編的な作品。正直なところ、同じ手法でもう一度びっくりさせるのは無理だろうと思っていたが、こちら側のそうした予想を軽く超えてきた。

 

コロナ禍で一気に浸透したZoomやGoogle Meetのおかげで、PC画面上で様々な事象が展開されることに全く違和感を覚えなくなった。前作は今思えば、少々強引な自宅内のショットや音声もあったが、今作のPCカメラ映像や音声には不自然なところは一切ない。

 

人間、誰でも秘密を抱えているもの。本作はPCからあらゆるサービスやサイトに侵入していき、様々なキャラの秘密が次々に明かされていく。『 スマホを落としただけなのに 』とは比較にならないサスペンスだ。

 

そんな中でも現地コロンビアの協力者ハビエルがすごく良い人。ネットの先にこそリアルな人間関係がある。

 

ネガティブ・サイド

大活躍のGoogle様だが、普段使っていないデバイスからアクセスされると本人に通知が行くはずだが。ジューンがあそこまで好き勝手できたことに「Google、仕事しろ」と思ってしまった。

 

いくらコロンビアでも、あそこで発砲するか?ここも納得いかなかった。

 

総評

『 search サーチ 』に負けず劣らずの秀作。form は同じながら、content をガラリと変えてきた。あまり書くとネタバレになってしまうが、前作を見た人ほど製作者側の思惑に引っかかってしまうのではないだろうか。Jovianはかなり早い段階で「ああ、黒幕はこいつだろうな」と目星をつけて大失敗。いやはや、こういう感覚は何度味わっても楽しい。本作から鑑賞して、前作に行くのも可能。今春の見逃すべからざる逸品だ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

itinerary

アイティネラリィと発音する。TOEICに頻出する語で、意味は「旅程表」や「旅行の行き先」のこと。普通に実生活でも使うので、ビジネスパーソンならずとも知っておきたい語彙である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ヴィレッジ 』
『 ザ・ホエール 』
『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, サスペンス, ストーム・リード, スリラー, ミステリ, 監督:ウィル・メリック, 監督:ニック・ジョンソン, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 search #サーチ2 』 -珠玉のスリラー-

『 ロストケア 』 -題材は良かった-

Posted on 2023年4月2日 by cool-jupiter

ロストケア 60点
2023年4月1日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:松山ケンイチ 長澤まさみ
監督:前田哲

 

繁忙期のため簡易レビュー。

 

あらすじ

ある訪問介護詞節のセンター長がサービス利用者の自宅で死体で発見され、住人も死亡が確認された。容疑者として浮上したのは、同僚からも介護家族からも慕われる介護士の斯波(松山ケンイチ)だった。検事の大友(長澤まさみ)は取り調べの中で、斯波の務めるセンターの要介護者の死亡者数が多いことに疑問を抱き・・・

 

ポジティブ・サイド

松山ケンイチが素晴らしい。どこか『 DEATH NOTE デスノート 』のLっぽさを醸し出しつつも、人間性と残虐性を両立させている。感情を抑えた演技をすることで、うちに渦巻く多種多様な感情を逆説的に観る側に想起させる。役者、かくあるべし。

 

介護はきれいごとではない。Jovianも甥っ子たちのお締めを換えたりしたが、それは数年すれば終わること。介護のお締め好感はいつ終わるのか分からない。Jovian祖母が死んだ2年後ぐらいか、親父と二人でNHKの介護番組を観ていたら、親父がいきなり「まあ、おふくろは寝たきりになる前に死んでくれたからなあ」と呟いた。正直、なんちゅう親父やと感じたが、今なら首肯するしかない。

 

ネガティブ・サイド

もっと『 PLAN 75 』のように振り切った社会批判をしてもよいのに。国家を挙げて老人を始末せんとする『 PLAN 75 』とは対照的に、本作は介護は自己責任と切って捨てる日本社会を撃ってはいるものの、結局それが斯波と大友の個人的なやりとりに集約されてしまっている。『 人魚の眠る家 』でもそうだったが、政治批判や社会批判が難しい土壌が邦画の世界にはあるのだろうか。まあ、あるんだろうな・・・

 

長澤まさみは頑張ってはいるものの、acting という感じがする。松山ケンイチが acting と being 中間ぐらいに見えるため、どうしても見劣りしてしまう。

 

あとは八賀センター管轄の要介護者の死亡率か。事故・自殺以外は全員他殺はありえない。あの地区では自然死する老人はゼロだった?確率的、統計学的にそんなことがありうるのか?

 

総評

ある意味で『 グッド・ナース 』を日本流に再解釈したような作品で、これはこれで面白かった。しかし、力のある役者に骨太なストーリーを与えても、日本的な演出を盲目的に盛り込んでしまっては意味がない。映画というよりも役者の演技を観賞するつもりでチケットを購入されたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

carer

ケアラーと読む。意味は介護者。近年、ヤングケアラーが急増している。というよりも、高齢者が増えすぎて、介護士が不足し、結果として家族の中で子どもまでもが介護に駆り出されているようになっている、というのが実相だろう。看護師や保健師はエッセンシャル・ワーカーと認知されたが、介護士がそのように認知される日は果たして来るのか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 マッシブ・タレント 』
『 search #サーチ2 』
『 シンデレラ 3つの願い 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 日本, 松山ケンイチ, 監督:前田哲, 配給会社:日活, 配給会社:東京テアトル, 長澤まさみLeave a Comment on 『 ロストケア 』 -題材は良かった-

『 別れる決心 』 -歪んだ純愛-

Posted on 2023年2月23日 by cool-jupiter

別れる決心 70点
2023年2月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:パク・ヘイル タン・ウェイ
監督:パク・チャヌク

大学の追試や試験代替課題の採点と新年度の準備と研修ラッシュ。ここから1か月半はまさに繁忙期。しばらく簡易レビュー続きになるか。

 

あらすじ

刑事ヘジュン(パク・ヘイル)は、ある男性が山頂から転落死した事件を捜査していた。殺人の可能性を見出したヘジュンは、男性の妻ソレ(タン・ウェイ)に疑惑の眼差しを向ける。しかし彼女にはアリバイがあった。捜査を進めるうちに、強くしなやかに生きるソレに、ヘジュンは徐々に惹かれていき・・・

ポジティブ・サイド

タン・ウェイの妖艶さに尽きる。別にきわどい露出や激しいラブシーンがあるわけではないが(ヘジュンと奥さんのセックスシーンはある)、その femme fatal ぶりには魅了されざるを得ない。理解したいのに理解できない。いや、理解できるが間接的にしか理解できないという刑事ヘジュンと容疑者ソレの距離感が絶妙。時に使用されるスマホの翻訳機能が二人の間の越えがたい、しかし超えられないことはないという壁を象徴している。

 

パク・チャヌクといえば『 オールド・ボーイ 』のようなエロスとバイオレンスが持ち味。しかし、本作のエロスは実に控えめ。バイオレンスなシーンもあるにはあるが、青あざと流血に彩られるようなものでもない。ヘジュンが捜査のために一方的に室内のソレを覗くシーンの演出は見事だった。こうやって、いつの間にか容疑者に同化してしまう、というのは実際にありえそうに感じた。

 

誰かが死ねば、あの刑事がやって来る。あるいは、何らかの謎さえあれば、あの男はやってくる。これをサイコパスの思考と見るか、それとも究極の愛情と見るか。セックスする相手を愛しているのか、それとも愛しているからこそセックスしないのか。様々な問いが渦巻く中、女たちは別れる決心をする。なんとも苦みと深みのある作品だった。

 

ネガティブ・サイド

実質的に二部作的な構成になっているが、これをもうちょっと縮めて2時間ちょうどにはできなかったか。

 

殺人事件そのものの捜査の描写が弱い。ヘジュンが捜査に憑りつかれているのは分かるが、客観的に見て「警部、ちょっとおかしいですよ」と言ってくれるキャラが後半になってはじめて現れるのには違和感を覚えた。

 

総評

韓国映画らしいと言えば韓国映画らしいが、パク・チャヌク映画らしいかと言われれば、あまりそうではない。それでも、巨匠の新境地と言うか、見せないことで想像力を刺激する、あるいは直接的にではなくシンボルを通じて見せるという手法に唸らされることが多かった。もう少しコンパクトにまとめられていれば、韓国映画ファン以外にも勧められる。逆に言えば、韓国映画ファンならばチケット代の価値は十分に得られる。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヨボ

韓国映画ではしばしば夫婦が互いに「ヨボ」と言って呼びかける。日本語で言うところの「あなた」や「なあ」などに当たるらしい。劇中のヘジュンが時々発する言葉だが、この言葉ひとつで距離感が近くなったり遠くなったり感じるのだから、人間関係、就中、夫婦の関係というものは難しい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エゴイスト 』
『 銀平町シネマブルース 』
『 シャイロックの子供たち 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, タン・ウェイ, パク・ヘイル, ラブロマンス, 監督:パク・チャヌク, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオ, 韓国Leave a Comment on 『 別れる決心 』 -歪んだ純愛-

『 対峙 』 -緊迫の対話劇-

Posted on 2023年2月20日 by cool-jupiter

対峙 75点
2023年2月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ジェイソン・アイザックス マーサ・プリンプトン リード・バーニー アン・ダウド
監督:フラン・クランツ

日本は犯罪者だけではなく、その家族にも異様に厳しいが、犯罪大国アメリカはそのあたりどうなのか。本作は非常に緊迫感のある対話劇であった。

 

あらすじ

高校生による銃乱射事件が発生。多くの生徒が死亡し、犯人も図書室で自らを撃って死亡した。事件から数年後、被害者の息子の父ジェイ(ジェイソン・アイザックス)と母ゲイル(マーサ・プリンプトン)はセラピストの勧めにより、とある教会で加害者の父リチャード(リード・バーニー)と母リンダ(アン・ダウド)と出会い、対話を持つことに・・・

ポジティブ・サイド

4人の親たちの台詞のみが部屋に響く。そこに派手な効果音や観る側の情緒を揺さぶるようなBGMは一切ない。これにより、ドキュメンタリー的な作品とは一味違うリアリティのある作品に仕上がっている。カメラワークも、序盤はひたすら定点カメラからの映像で、ここはドキュメンタリー的に感じる。しかし、終盤からは手振れのあるカメラワークとなり、まるで観ている自分もその場にいるかのように感じさせられた。

 

肝心のストーリーはどうか。非常に珍しい。低予算映画ほど台詞だらけになりがちだが、本作は演じる役者たちが、言葉に魂を乗せている。愛する者を失った者の悲嘆や、理不尽な死に対する怒りなどが、観客に存分に伝わってくる。

 

本作の特徴として「見せない」ということが挙げられる。数々の写真のやりとりがなされるが、どれ一枚として映されることはない。また、悲惨極まりない銃乱射事件やその余波についても大いに語られるが、回想シーンも全くない。本作は観る側の想像力を信頼している。それは、そのまま「あなたが被害者の親になったとしたら?」、「あなたが加害者の親になったとしたら?」という問いにつながっている。

 

この被害者の両親と加害者の両親が出会い、言葉を交わすことの意味とは何か。ここで対峙する彼ら彼女らの言葉について語るのは無粋だろう。なので、ちょっと違う角度から。本作の原題は Mass である。これは日本語で「ミサ」の意。Jovianは一応、国際基督教大学で宗教学(といってもキリスト教ではなく古代東洋思想史だったが)を専攻していたし、先輩後輩同級生にはキリスト者がたくさんいたし、そんな学生やOYRと呼ばれる留学生たちとミサに出たこともある。ミサとはめちゃくちゃ分かりやすく言うと、人間関係の完成である。

 

キリスト教の教えの一つに「汝の敵を愛せ」というものがある(余談だが、国際基督教大学から割りと近い府中市には「酒は人類の敵である。汝の敵を愛せ」という看板を掲げた酒屋があった)。もちろん、劇中で誰かが Love your enemies などと言うわけではない。しかし、舞台が教会でタイトルが「ミサ」ということは、本作が提示するひとつの結論は融和であると言える。馴染みのある人は多くないかもしれないが、本作を鑑賞する際はキリスト教的価値観を少しだけ意識してみてほしい。

 

ネガティブ・サイド

オチが弱いというか、アメリカ人的な死生観というか人生観というか、そういったものは結局『 ウインド・リバー 』で開陳されたものと何一つ変わらない。結局のところ、アメリカ人の精神に刻まれた陰影の濃さは、昔も今もあまり変わらないということなのだろう。

 

序盤のジェイとゲイルの車内の会話はカットしてよかった。同様に最後の最後にリンダによって語られるエピソードも不要であると感じた。見せないことで想像させる手法を貫いたのだから、語らないことで想像させる手法も貫くべきだった。

 

総評

非常にユニークな作品。ひたすら語りで進んでいくが、その言葉の一つひとつが非常に重い。まるで舞台劇を観ているかのように感じられる。日本をはじめとする東洋では、個人の罪によって三族皆殺しがありうる。過激極まりない考え方だが、この思想は現代にも残っている。高畑淳子がとっくに成人した息子の犯罪でコテンパンに叩かれたのは記憶に新しい。家族が犯罪加害者になってしまった、あるいは犯罪被害者になってしまった時、自分は何に、どのように向き合うべきなのか。それを示唆する、非常に現代的な作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

in hindsight

「今にして思えば」、「後から思い起こしてみると」のような意味。ほぼ同じ意味の表現として in retrospect もあるが、こちらの方が少しフォーマルな印象がある。英語中級者なら知っておきたい表現。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エゴイスト 』
『 銀平町シネマブルース 』
『 シャイロックの子供たち 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, アン・ダウド, サスペンス, ジェイソン・アイザックス, ヒューマンドラマ, マーサ・プリンプトン, リード・バーニー, 監督:フラン・クランツ, 配給会社:トランスフォーマーLeave a Comment on 『 対峙 』 -緊迫の対話劇-

『 ヒトラーのための虐殺会議 』 -淡々と進む超高速会話劇-

Posted on 2023年1月29日2023年1月29日 by cool-jupiter

ヒトラーのための虐殺会議 70点
2023年1月29日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:フィリップ・ホフマイヤー ヨハネス・アルマイヤー
監督:マッティ・ゲショネック


トレイラーを観て、面白そうだと感じたのでチケット購入。

あらすじ

時は1942年、ベルリンのヴァンゼー湖畔の邸宅にナチス親衛隊と各省の事務次官が集められ、ユダヤ人の絶滅を効率的に進めていくための会議が持たれた。議長のラインハルト・ハイドリヒ(フィリップ・ホフマイヤー)は、右腕のアドルフ・アイヒマン(ヨハネス・アルマイヤー)と共に、利害対立を調停していき・・・

ポジティブ・サイド

『 シン・ゴジラ 』も真っ青の超高速会話劇である。どのようにプロジェクトを進行させていくのかを各々が自分の立場から語っていくという意味では『 決算!忠臣蔵 』に近いとも感じた。ただし、怪獣対策や主君の仇討とは違い、ヴァンゼー会議で話し合われたのはジェノサイド計画。わずか十数名が90分でこの計画について話し合い、実務家レベルでの協議は続けていくとしたものの、大筋で合意してしまうのだから、戦時下という非常時とはいえ、当時のドイツがいかに狂っていたのかがよく分かる。

 

同時に、なぜ当時のドイツがヨーロッパをあっという間に蹂躙できたのかも見えてくる。恐ろしいまでに勤勉なのだ。わき道にそれるが、Jovianは大学時代にドイツ人留学生二人と寮で共に暮らした経験がある。そこで「『 今度、同盟組む時はイタリア抜きにしようぜ 』っていうジャーマン・ジョークがあるって聞いたけど、本当?」と尋ねたことがある。答えは「え、それはジャパニーズ・ジョークじゃないのか?」だった。一時期、日本人サッカー選手で海外で活躍するのは皆、ブンデスリーガ所属だったが、ドイツ人も日本人もとにかく勤勉なのだ。イタリア人と一緒に暮らしたことはないが、イタリア旅行に行ったことがある多くの知人友人から聞くところによると、勤勉な民族ではなさそうだ。

 

閑話休題。議長を務めるハイドリヒを会社の事業統括本部長とするなら、その最側近のアイヒマンは営業部長あたりか。この二人が実質的に取り仕切る会議に、各省や各方面軍の幹部が自らの権益を主張し、あるいは自らの負担減を主張する。丁々発止のやりとりで、ある時はハイドリヒが個別に話をし、またある時はアイスマンが冷静にデータとエビデンスを提示する。ビジネスプランを話し合っているのならお手本にしたくなるような映画だが、議題はあくまでもジェノサイド計画。

 

内務省次官のシュトゥッカートが強硬にユダヤ人疎開計画に反対するので、「あれ?」と感じたが、彼の出してきた対案に戦慄させられた。その直後、別室でハイドリヒとシュトゥッカートが二人だけで話すシーンでは、互いの家族について軽く談笑する。よくそんな話題を出して、しかも笑顔になれるなと背筋が寒くなった。もう一人、人道的な観点からの懸念を述べるクリツィンガーにも唖然とさせられる。人道的って、そっちの意味かよ・・・

 

本作はエンタメとしての要素を徹底的に削ぎ落している。BGMも音響も無し。凝ったカメラワークも一切なし。普通なら、書記役としてその場にいた若い女性の視点で会議を眺めるショットをいくつも入れそうなものだが、そんなものは一切なし。普通の人間の普通の視点からだけカメラを回すことで、作為性を一切排除した歴史ドキュメンタリー的な作品に仕上がった。無音のエンドクレジットを観て、虚無感が胸に去来した。

ネガティブ・サイド

おそらく議事録通りなのだろうが、会議出席者の自己紹介が欲しかった。一人だけというのはちょっと分かりにくい。まあ、本作はわざわざ鑑賞する向きは近代ドイツ史にまあまあ詳しい、あるいは関心があるという層のはずだが、ライトな鑑賞者もいるはずである。

 

『 RRR 』のように、エンドロールでヴァンゼー会議出席者たちの写真を映し出すぐらいしてもよかったのではないか。

 

総評

想像でしかないが、本作で描かれたのと同じような会議が2021年11月から2022年1月ぐらいにかけて、クレムリンのどこかで行われていたのではないか。自国の暗部を映画化することにかけては韓国が抜きん出ているが、その闇の濃さにかけては本作が突き抜けている。こんな主義および体制の国家と日本は同盟を結んでいたわけだが、ドイツにはヴァイツゼッカー大統領がその後に現れたが、本邦にはまだそのような為政者は現れていない。そのことをどう感じるべきかは、観る側の良識に委ねられている。

 

Jovian先生のワンポイント独語レッスン

interessant

発音はインテレサント、意味は「面白い」。英語の interesting にあたる。作中で Danke = ダンケと同じくらい聞こえてきたように思う。Jovianもたまにドイツ人と英語で話す時、アンドではなくウントと言うことがある。interessant も相槌か何かで使ってみようと思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エンドロールの続き 』
『 イニシェリン島の精霊 』
『 グッドバイ、バッドマガジンズ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ドイツ, フィリップ・ホフマイヤー, ヨハネス・アルマイヤー, 歴史, 監督:マッティ・ゲショネック, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 ヒトラーのための虐殺会議 』 -淡々と進む超高速会話劇-

『 ブレイン・ゲーム 』 -色々な要素を詰め込みすぎ-

Posted on 2023年1月4日 by cool-jupiter

ブレイン・ゲーム 50点
2023年1月2日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジェフリー・ディーン・モーガン アンソニー・ホプキンス アビー・コーニッシュ コリン・ファレル
監督:アルフォンソ・ポヤート

2018年にシネ・リーブル梅田で公開していたのを覚えている。何故かこのタイミングで近所のTSUTAYAで準新作扱いだったので、クーポンを使って割引料金でレンタルしてきた。

 

あらすじ

謎の連続殺人事件を捜査するFBIのジョー(ジェフリー・ディーン・モーガン)とキャサリン(アビー・コーニッシュ)は、予知能力を持つ医師クランシー(アンソニー・ホプキンス)に助力を求める。しかし、捜査を進めるにつれて、クランシーは犯人が自分を上回る予知能力の持ち主であると気付き、捜査から降りると言い出す・・・

 

ポジティブ・サイド

序盤のいくつかの謎めいた殺人事件の現場はなかなかの迫力。異様な死に様を見せる被害者の数々に、『 セブン 』や、アンソニー・ホプキンスつながりで言えば『 羊たちの沈黙 』のような猟奇殺人事件映画の傑作の予感が漂う。カウルズ捜査官も、どことなくスターリング捜査官の雰囲気をたたえている。序盤の捜査開始シーンから真犯人のコリン・ファレル登場シーンまでは結構面白い。

 

コリン・ファレルの狂信的なまでのサイコパス殺人鬼の演技も堂に入っている。アンソニー・ホプキンスを鼻で笑うような演技はなかなかできない。『 AVA / エヴァ 』でも感じたが、この役者は老人とバトルを繰り広げるのが似合うのかもしれない。その超絶的な予知能力を物語る、とある録画映像の演出も地味ながら素晴らしい。

 

原題の Solace は慰めの意。本作のテーマに mercy killing =安楽死がある。ペインコントロールの上手く行かない末期癌患者は時に「殺してくれ」と叫ぶこともある。その瞬間の苦しみから解放するには死は最も確実かつ手っ取り早い手段だろう。『 いのちの停車場 』や『 ドクター・デスの遺産 BLACK FILE 』が扱ったトピックでもあるが、本作はさらに一歩踏み込んで、苦痛を感じ始める前に殺すという、屈折した思想を持った犯人像を作り上げた。この安楽死を単なる殺人と切って捨てるのか、それとも救いや慰めの一手段と見るのか。この部分について、ある意味で非常に剣呑な誘いをもって本作は閉じられる。この幕の閉じ方はなんとなく『 CURE キュア 』を思わせてくれた。

 

ネガティブ・サイド

ホプキンスやファレルの持つ超能力の正体がよく分からない。予知能力も物や人に手を触れて発動する場合と、不意に発動する場合がある。さらに、劇中でもたびたびフラッシュバックのように挿入されるビジョンには予知と過去視の両方があって、かなりややこしい。しかも、その能力の発動タイミングもかなり(製作者にとって)恣意的に思える。能力発動の条件があいまいなままストーリーが進むので、どうしてもご都合主義に見えてしまう。カーチェイスの最中および直後などはその最たる例だ。

 

真犯人=ファレルの存在は、あらすじどころかポスタービジュアルやDVDのカバーで明かされてしまっているが、この男の登場がとにかく遅い。1時間40分のストーリーのうち1時間ぐらい過ぎたあたりで登場してくるというのは、脚本のペース配分ミス、あるいは編集ミスだろう。あまりにバランスが悪すぎる。

 

キャスティングも、別にアンソニー・ホプキンスを起用する必要はなかったのでは?まあ、彼自身が製作総指揮に名を連ねているので、それはできない相談か。しかし、それでもクランシー博士とその娘がどうみてもお祖父ちゃんと孫にしか見えないし、妻とも相当な年齢の開きがあるように見えた。60歳ちょっとの別の役者を起用できなかったのか。役者としてのホプキンスは否定しないが『 羊たちの沈黙 』の二番煎じを狙うのは無理。ストーリーそのものは悪くないのだから、自分よりも若い役者を起用し、超知性かつ超能力の犯人を、友情と経験で追い詰めるような素直な物語にしてほしかった。

 

総評

序盤から中盤にかけての面白さは文句なし。ただし、いったんコリン・ファレルが現れてからは「なんじゃ、そりゃ・・・」という展開のオンパレード。超能力対決というのは『 スキャナーズ 』の昔から陸続と生み出されてきたが、本作はその中でも凡庸な部類に入る。ヒューマンドラマのパートにもっと力を入れるか、あるいは犯人と刑事&博士の対決にもっと尺を取れば、もう少し面白さも増したはず。アンソニー・ホプキンスのファンなら鑑賞もありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

precognition

 

予知の意。『 マイノリティ・リポート 』好きならプリコグという言葉を覚えているはず。あれは precognition の派生語、precognitives の省略形だ。cognition というのは取っ付きにくい語だが、この元のラテン語の cognosco は、同じ意味のギリシャ語 gnosis に由来する。gnosis は知識という意味で、ニュースアプリの「グノシー」の社名はまず間違いなくここから来ている。また、診断=diagnosis というのも、gnosis を含んでいる。身体診察や問診を通じて(dia = through)病気を「知る」ということである。

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜、鳥たちが啼く 』
『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SF, アビー・コーニッシュ, アメリカ, アンソニー・ホプキンス, コリン・ファレル, サスペンス, ジェフリー・ディーン・モーガン, 監督:アルフォンソ・ポヤート, 配給会社:ポニーキャニオンLeave a Comment on 『 ブレイン・ゲーム 』 -色々な要素を詰め込みすぎ-

『 ナイト・ウォッチャー 』 -ドンデン返しが少し弱い-

Posted on 2023年1月3日 by cool-jupiter

ナイト・ウォッチャー 60点
2023年1月1日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:タイ・シェリダン アナ・デ・アルマス ジョン・レグイザモ ヘレン・ハント
監督:マイケル・クリストファー

新年一発目は近所のTSUTAYAの準新作コーナーから、『 ザ・メニュー 』のジョン・レグイザモ出演作の本作を pick out 。

 

あらすじ

アスペルガー症候群持ちのバート(タイ・シェリダン)は、ホテル受付の夜間シフトで働いている。彼は秘密裡に客室を盗撮し、人間同士のやりとりから普通のコミュニケーションを学んでいた。ある夜、ホテルで殺人事件が発生。バートのカメラに犯人とその犯行が映っていたが、彼はそれを警察に知らせることができず、逆に第一発見者として警察にマークされてしまう。系列の別ホテルに異動となったバートは、懲りずに盗撮を行うが、そこに謎めいた美女のアンドレア(アナ・デ・アルマス)が客として訪れ・・・

 

ポジティブ・サイド

タイ・シェリダンがアスペルガー役を好演。合わない視線、過剰な答え、あるいは質問に対する返答拒否ともいえる応答、相手の気持ちや会話の流れをぶった切る発話など、まさに言葉の正しい意味でのコミュ障である。客室を盗撮・盗聴して、そこでのやりとりから普通の人のコミュニケーションを研究するというのだから、まさに他人の気持ちが理解できていない。この主人公に感情移入するのはなかなか難しいが、母親やホテルの経営者が良き理解者になってくれているので、観ている側は一定の距離でバートを見守ることができる。

 

序盤の終わり、アナ・デ・アルマス演じるアンドレアの登場からシチュエーションが一気に動く。コミュ障であるバートがいかにしてこの美女と距離を縮めていくのか。このプロセスが、アスペルガーだけではなく、広くコミュ障全般、いや、ある程度青臭い男性全般に当てはまるような描き方をされているので、観ている側(特に男性)はここで一気にバートを応援したくなる。この流れの絶妙さは、是非とも鑑賞の上で確認を!

 

殺人事件の第一発見者であるバートを第一容疑者として追う刑事が、厳しさと優しさを併せ持っていて、彼の存在もバートの難しいパーソナリティをオーディエンスが理解することを助けている。観ている我々はバートが犯人ではないことを知っていて、しかしバートはそのことを刑事には伝えられず、なおかつ刑事はバートを追わざるを得ないという、観ている側がキャラに感じるジレンマと、キャラがキャラに対して感じるジレンマが複雑に入り組んだプロットは本当にもどかしい。それが観る側をストーリーに引き付ける。最後に「え?」と思わせる展開も待っており、低予算映画としては満足のいくクオリティのサスペンスに仕上がっている。

 

ネガティブ・サイド

バートがどういうきっかけで盗撮・盗聴からコミュニケーションを勉強しようと思い立ったのかが分からない。『 ベイビー・ドライバー 』のベイビーがテレビをザッピングしながら色々なセリフを吸収していくのと同じようなシーンが少し挿入されていれば、バートなりのアスペルガーのコーピングがどういうものなのか理解しやすくなったのだが。

 

アンドレアが語るアスペルガーの弟の話は必要だっただろうか。アスペルガーが転帰して死に至ることは普通はない。こうした一種の障がいを描く映画は、必ずしもその障がいをユニークかつポジティブなものとして描く必要はないが、だからと言って誤った情報、あるいは誤解を与えかねないような描写は慎むべきではないだろうか。

 

最後のドンデン返しがちょっと弱いと感じる。というよりも、やはりアンドレアの弟の話を抜きにクライマックスを構成すべきだったと思う。相手がアスペルガーであろうと普通人であろうと、態度を変えないのがアンドレアの長所であるべきではなかったか。

 

総評

90分と非常にコンパクトな作品で、サスペンス風味でありながら、最後にミステリの様相も帯びる作品。ドンデン返しに少々不可解さも残るが、バートという青年の一種のビルドゥングスロマンだと思えば、納得いくクオリティだと言える。アナ・デ・アルマスのヌードも拝めるので、スケベ映画ファンはそれを目当てに視聴するのもありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

die from ~

~が原因で死ぬ、の意。

die of 直接的な死因

die from 間接的な死因

と覚えよう。普通は die of cancer =ガンで死亡する、のように of を使うが、劇中では die from love =愛で死ぬ、のように使われていた。

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜、鳥たちが啼く 』
『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アナ・デ・アルマス, アメリカ, サスペンス, ジョン・レグイザモ, タイ・シェリダン, ヘレン・ハント, 監督:マイケル・クリストファー, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズLeave a Comment on 『 ナイト・ウォッチャー 』 -ドンデン返しが少し弱い-

『 母性 』 -トレーラーを観るなかれ-

Posted on 2022年12月9日 by cool-jupiter

母性 50点
2022年12月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:戸田恵梨香 永野芽郁 高畑淳子 大地真央 中村ゆり
監督:廣木隆一

湊かなえ原作ということでチケット購入。原作は未読だが、おそらく脚本家および監督が小説の良さを少しスポイルしてしまったと思われる。トレーラーも misleading すぎる。

 

あらすじ

箱入り娘のルミ子(戸田恵梨香)は、絵描きを趣味にする鉄工所務めの田所と結婚する。娘の清佳(永野芽郁)を授かり、幸せな家庭を築いていた。ルミ子は母からの教え通りに清佳に惜しみなく愛情を注いでいく。しかし、清佳が祖母、つまり自分の母の愛情を受けることにルミ子は内心で激しく嫉妬していて・・・

ポジティブ・サイド

観始めた瞬間から、よく分からない違和感を覚えた。看護師や助産師が戴帽しているシーンを見て「いつの話だ?」と感じた。また、ルミ子の家の電話が固定電話。さらに新居の家のテレビがブラウン管のテレビ。この時点で、これは昭和の物語なのだ、と確信できた。この時点で俄然興味が湧いてきた。Jovianも一応昭和生まれなわけで、アメリカ人の同世代の demographic が1980年代をノスタルジックに思っているように、我々世代も昭和を懐かしむのである。

 

本作がオーディエンスに感じ取ってほしいと思っている点は、タイトルにもなっている母性である。母と女性の違いは何か。それは、母は子どもを産んでいるということ。女は弱し、されは母は強しと言われるが、母性も行き過ぎると鬼子母神になってしまう。我が子は可愛いが、他人の子はどうでもいいということになってしまう。ある意味でその究極形が『 母なる証明 』だった。我が子への愛が狂気の暴走を見せる大傑作だ。その一方で、邦画も『 MOTEHR マザー 』を近年送り出してきている。我が子を愛さず、我が子に自分を愛させるという母親にフォーカスした怪作である。本作はどちらの系譜に属するのか。そのどちらにも属さない。

 

母の愛を一身に受けたルミ子が、自分が母になることでその愛を我が子に向ける・・・ようにならない。逆に、自らが母であるにもかかわらず、敢えて娘であり続けようとするルミ子の姿は異様に映る。戸田恵梨香は長澤まさみに近いレベルの演技を見せたと言える。

 

しかし、本作のタイトルにある母性を最も強烈に体現したのは、ルミ子の母親を演じた大地真央とルミ子の義母を演じた高畑淳子ではないだろうか。命をつなぐこと、その素晴らしさ、それを喜べること。そうした心を持ち、娘も孫も愛する大地真央。対照的に、息子の嫁をいびり倒す義母。この妖怪女優二人が同じ画面に出てくることはないのだが、明らかに二人は演技バトルをしている。この両者の演技対決だけでも鑑賞の価値がある。

 

母性とはことほどさように、女を優しくもするし、また醜くもする。ルミ子と清佳の築く関係の真実は何なのか。「母であること」と「母であろうとすること」は同じものなのか、異なるものなのか。愛憎入り混じる母娘の関係は母性を育むのか、それとも阻害するのか。普通に考えれば愛は母性を育みそうだが、ルミ子と実母の関係はそうではない。一方で、ルミ子と義母の関係は最終的には非常に興味深い形に発展する。そこから考えられるルミ子と清佳の関係、さらにその先をどう想像するべきなのか。本作が我々に問うのはそこである。

 

ネガティブ・サイド

永野芽郁の力不足が顕著だった。『 マイ・ブロークン・マリコ 』で少し殻を破った感があったが、女の友情を体現することはできても、母の愛と憎しみを一身に受け止める役は演じきれなかったという印象を強く受けた。まだ女子校生あるいはOL止まりなのかな。箱入り娘のまま母親になってしまった戸田恵梨香に完全に食われてしまっていた。いや、テーマは母性であって娘性ではないので、抑えた、控え目な演技をしていたと捉えることもできる。であれば、トレーラーで母と娘の対立を煽るべきではない。これは宣伝・広告のマズさが本編の面白さを減じてしまった悪しき例だろう。

 

そもそも予告編は本作をミステリとして売っていたのではなかったか。「母の証言を信じないでください」、「娘の証言を信じないでください」という、立場によって事象の見え方、捉え方が違うというところが本作の肝と言えるほど大きくなかった。というか、女子高生が首を吊ったという事件を冒頭で映しておきながら、同時に教員として働いている永野芽郁を映してしまっては、ミステリとしての面白さ=女子高生は永野芽郁なのか、何が彼女を自死に追い込んだのかという疑問への興味がしぼんでしまう。トレーラーから普通に考えれば、死んだ女子高生は永野芽郁の同級生もしくはクラスメイトだろう。冒頭でいきなり「それは違います」と言われても・・・

 

母性にフォーカスするなら、夫の浮気やら何やらはばっさりカットしてもよかった。あるいは夫の浮気を「男の甲斐性」だと擁護する義母像をもっと強く打ち出すべきだった。2022年は昭和でいえば97年。完全に大昔だ。または甲斐甲斐しく義母を介護するルミ子だが、遺産は一銭も入らないということをもっと強調して、現在は血縁がなくても介護者に遺産が入るような法的根拠が整備されたという情報をサラリと挿入することもできたはず。母性というテーマをルミ子というキャラクター周辺に限定して描くことで、本当に現代に訴えるべきテーマがぼやけてしまったと感じる。

 

総評

トレーラーから『 白ゆき姫殺人事件 』のようなものを想像していたが、これが全然違った。予告編と本編が違うのは別に構わない。ただ、ミステリ要素を前面に出しておきながら、この作りでは納得できるものも納得できない。物語そのものも面白さやインパクトに欠ける。男性と女性で受け取り方が大きく異なる作品だと思うが、Jovian妻もあまり感銘は受けなかったようだ。もしもチケットを購入するのなら、高畑淳子や大地真央といった大ベテランの演技を堪能することに集中されたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Women are weak, but mothers are strong.

女は弱し、されど母は強しの意。出典はビクトル・ユーゴーの『 ああ無情 』らしいが、読んだのが大昔過ぎて覚えていない。シンプルだが、女も母も複数形にするのがポイント。そういえば数年前にバズった動画がある。ミステリではないが、ドンデン返しなら本作よりこちらの動画の方がインパクトは上だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 グリーン・ナイト 』
『 MEN 同じ顔の男たち 』
『 ホワイト・ノイズ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, サスペンス, ミステリ, 中村ゆり, 大地真央, 戸田恵梨香, 日本, 永野芽郁, 監督:廣木隆一, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画, 高畑淳子Leave a Comment on 『 母性 』 -トレーラーを観るなかれ-

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