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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: サスペンス

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』 -革命はテレビで放送されない-

Posted on 2025年10月13日2025年10月13日 by cool-jupiter

ワン・バトル・アフター・アナザー 75点
2025年10月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:レオナルド・ディカプリオ ショーン・ペン ベニシオ・デル・トロ チェイス・インフィニティ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン

 

3時間近い上映時間ということで、しっかり昼寝をしてからレイトショーに出陣。

あらすじ

パット(レオナルド・ディカプリオ)は過激派フレンチ75の一員として活動していた。同志のペルフィディアとその娘と共に暮らすようになるが、ある時、仲間が銀行強盗に失敗。一転して追われる身となったパットは、まだ若い娘のウィラと共に新たな戸籍を得て逃亡する亡するが・・・

ポジティブ・サイド

D・トランプが激怒しそうな作品。もうそれだけで面白い。ある意味でアメリカ版の『 桐島です 』の桐島聡が『 ハリエット 』のハリエット・タブマンと出会ってしまった、という物語だった。

 

あるきっかけによりハリエット、ではなくペルフィディアを執拗に追い回すことになる狂った警察官をショーン・ペンが怪演。個人的には『 アイ・アム・サム 』のイメージの強い俳優だったが、こんな頭のイカれたオヤジ役もやれることに軽く感動させられた。ストーリーが進むほどに狂気の度合いがどんどん増していき、見ているこちらが心配になるほどだった。

 

対照的に、ディカプリオは頭のイカれたオヤジというよりも、腑抜けてしまったオヤジが父親として強さを取り戻していくストーリー。序盤は常に頭がラリっていて、言動も不穏、動きもヨレヨレ。しかし、娘のウィラに魔の手が迫っていることを知ってからは徐々に革命の闘士として再覚醒していく。その過程の描写もサスペンスとユーモアの配分が絶妙。ポール・トーマス・アンダーソンのキャリアの中の演出でも、これはベストではないか。

 

そのボブを手助けするベニシオ・デル・トロ演じるセンセイのキャラも非常に味わい深い。ヒスパニックであり、英語とスペイン語を話し、空手の指導者でありながら教え子のウィラはなぜか韓国語を話すという、劇中で誰よりもアメリカ的と言えるキャラである。かつ現代版のハリエット・タブマンと言える男である。彼が用意しているトンネル(実際にはtunnnelと発音されていた)の字幕が地下鉄道となっていることに気付かれただろうか。これはまさに『 ハリエット 』が車掌を務めた地下鉄道へのオマージュ。字幕翻訳担当の松浦美奈は great job である。警察に逮捕されたボブが見事に脱走できたのも、まさに現代版の地下鉄道の力によるもの。決してご都合主義ではない。もちろん本物の「地下鉄道」にも言及される場面があり、それに言及する人々がどのような人種であるかにも注目してほしい。

 

アメリカのリベラルを強烈に支持しているようにも嘲笑っているようにも見える。受け取り方は様々だろうが、アメリカはしばしば建国の父たちを称揚する。ボブとウィラという一種のいびつな親子関係をアメリカという非常に若い国家の歴史と重ねて合わせて見るとよいだろう。たとえば建国の父たちが定めた One man, one vote. =一人一票という原則は平等に見えて実は違う。これは実はアメリカに限った話ではなく、たとえばアジアの中で最も急速に近代化に成功した日本も、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」の精神を発揮したが、これも実は「天は日本人の上にアジア人を造らず欧米人の下に日本人を造らず」というのが福沢の本音だったりする。本作はアメリカ特有の問題を扱った上質なサスペンスというだけではなく、それが実は先進国の近現代史のダークな精神性の発露とそれへの批判という意味にも捉えられるべきである。

 

ネガティブ・サイド

ペルフィディアのキャラがイマイチよくわからない。序盤早々に姿を消してしまうが、そこは何らかの最後っ屁をかましてほしかった。

 

賞金稼ぎの突然の変心の理由が弱いというか、”I don’t do kids.”と言いながら、ロックジョーの提案にあっさり乗ってしまうのは何故なのか。握手の前に数秒の躊躇なり、一瞬の表情の曇りなどを見せてくれれば、変心のシーンはご都合主義には映らなかっただろう。

 

ウィラにはジャン=クロード・ヴァン・ダムのハイキックをロックジョーにお見舞いしてほしかった。その上でケロッとしているロックジョーというのは、かなりシネマティックなシーンになったはず。

 

総評

3時間近い上映時間に身構えていたが、最初の30分あたりを過ぎてしまえば、後はストーリーに引き込まれるのみ。アクションあり、サスペンスあり、スリルあり、ユーモアありの濃密な時間だった。日本はアメリカの30年遅れだとよく言われるが、外国人人口が全体の3パーセントを占めるようになった今、本作は日本社会の在り方を考えるための大きなヒントにもなりうるエンタメ大作だと言える。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

fight fire with fire

直訳すれば「火を使って火と戦う」だが、実際のニュアンスは「やられたらやり返す」というもの。劇中では火炎瓶を投げてくるモブに対して、Let’s fight fire with fire. のセリフと共に催涙弾が撃ち込まれた。別に火炎放射器で反撃しても、意味としてはおかしくないが。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 さよならはスローボールで 』
『 シークレット・メロディ 』
『 恋に至る病 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, サスペンス, ショーン・ペン, チェイス・インフィニティ, ベニシオ・デル・トロ, レオナルド・ディカプリオ, 監督:ポール・トーマス・アンダーソン, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』 -革命はテレビで放送されない-

『 宝島 』 -エンタメ性がやや不足-

Posted on 2025年9月28日2025年9月28日 by cool-jupiter

宝島 60点
2025年9月27日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:妻夫木聡 永山瑛太 窪田正孝 広瀬すず
監督:大友啓史

 

3時間超の作品と知って尻込みしていたが、ついにチケット購入。沖縄尚学の甲子園優勝の年に公開されるというのは、ある意味でとても縁起がいい。

あらすじ

1952年の沖縄で、米軍基地に侵入し、物資を奪う戦果アギヤーのオン(永山瑛太)、グスク(妻夫木聡)、レイ(窪田正孝)たちは、ある夜、ついに米軍兵に見つかってしまう。必死で逃げおおせたものの、オンは行方知れずとなる。時は流れ、グスクは刑事に、レイはヤクザに、オンの恋人のやまこ(広瀬すず)は教師になって・・・

ポジティブ・サイド

沖縄が飲み込まされてきた理不尽の数々が活写されている。本土に捨てられ、アメリカに踏みにじられる。それも弱い立場の女性や子どもほど。戦果アギヤーの面々が単なる愚連隊ではなかったのは、こうした人々への思いやりがあったから。グスクが刑事として情報源に孤児たちを使うのは非常にクレバーでシャーロック・ホームズ的。逆に言えば沖縄は産業革命後期のロンドンと同じく、貧富の差が拡大し、政治的に取りこぼされた人々を多く生んでいたのだ。沖縄の人々の大半はそうした構造的な苦境に立たされていたわけで、その責任は日本政府と米軍の両方にあったことを本作は余すことなく見せつける。

 

難しいのは、沖縄経済は米軍からのカネに支えられており、基地の存在および一定数存在する頭のおかしい米兵の存在を必要悪として許容できるかどうかという部分。これについて米兵狩りをする組織と、特飲街を仕切るヤクザの間に緊張が生じているという形で描写されており、非常に巧みだと感じた。一方で米兵の婦女暴行や交通事故、果ては飛行機の墜落や毒ガス漏洩など、治外法権状態の沖縄の人々の心情は察して余りある。これを必要経費だと割り切っていいのか。

 

人権や民主主義が絵空事でしかない中で、沖縄の人々が本土復帰を目指していく。グスク、レイ、やまこはそれぞれ異なる立場でその過程に身を投じていく。詳細は書けないが、一貫しているのは日本政府の主体性の無さ。アメリカを刺激するような動きは注視するが、沖縄の本土復帰を支援することはない。沖縄は「本土に復帰する」が、日本は「沖縄を回復する」というのが政治的には正しい表現。しかし、日本政府は「沖縄が本土に復帰」と表現する。香港の時もそうで、当時Jovianは高校生だったが、新聞の見出しはどれも「香港返還」だった。主語が欧米側=視点が欧米側なのだ。本作を鑑賞して米軍や米兵の横暴に対して憤りを覚えるのは正しい。しかし、それは実は我々の多くが無意識に沖縄に向けている意識と同じところから生じている事態だということには自覚的であるべきだろう。

 

クライマックスのコザ騒動と、その最中の嘉手納基地侵入は非常にサスペンスフルだった。こうした暴動を単なる歴史の一ページと思ってはならない。ある程度の年齢の人であれば2011年夏の英国の暴動を覚えているだろうし、2020年のジョージ・フロイド死亡事件に端を発した全米のデモと暴動は、その後のBlack Lives Matter運動につながったのは記憶にたらしいところだ。暴動を肯定するわけではないが、昔の沖縄は大変だったのだなという誤った感想は決して抱いてはならない。

 

ネガティブ・サイド

まず何よりもエンタメ性が足りない。というか、上映時間の長さによってエンタメ性が希釈されてしまっている。たとえばグスクが大柄な変態米兵を逮捕しようとするシーンで、塚本信也演じる相棒とコメディっぽいやりとりをしたり、その米兵に反撃されたりするシーンがあるが、そういうものは不要。ここだけで30秒はカットできると感じた。色々と間延びしていたシーンを引き締めれば30分はカットできたはず。

 

通訳はそれなりに頑張っていたが、決定的におかしなところも多かった。特に最初にアーヴィンがグスクに接触してきたシーンで、He’ll be properly interrgogated. I’ll see to it.のように発言していたのを「適切に立件されるようにする」と訳していたが、interrogateは取り調べするという意味で、立件するでは決してない。他にも Nothing more,

 nothing less. を「身分をわきまえろ」と訳したりするのも、二人の友情や信頼を破壊しかねない意訳。また、アーヴィンがまだ話していない部分も先に日本語に訳している箇所もあった。

 

宝が何であるのかが明らかになる過程はスリリングだったが、その宝が( ゚Д゚)ハァ?という形で消えていくのは原作通りなのだろうか。また、序盤にこれ見よがしに出てきた洞窟が伏線になるかと思いきや、あんな台風の多い地域であんな残り方はないわ・・・ 終わり方でとんでもなく損をしている作品だと感じた。

 

総評

映画として面白いかと言われればやや微妙。しかし本作には『 福田村事件 』と同じく、日本の映画界も韓国のような本格的な社会派映画を(再び)作れるようになってきた契機の一本として数えられるポテンシャルがある。沖縄の歴史ではなく、現在進行形の日本史および世界史だと思って鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

This is no fucking joke!

作中の某シーンでのグスクのセリフ。字幕では「嘘じゃないぞ」みたいな感じだったが、実際は「冗談で言ってるんちゃうぞゴラァ!」みたいな感じ。ただ実際にこれを言えるシチュエーションとこれを言えるような関係性の相手を両方持つことは難しい。ということで日常もしくは仕事ではだいたい同じ意味の “I am dead serious.” =「俺は大真面目だ」を使ってみよう。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 妻夫木聡, 広瀬すず, 歴史, 永山瑛太, 監督:大友啓史, 窪田正孝, 配給会社:ソニー・ピクチャーズ, 配給会社:東映Leave a Comment on 『 宝島 』 -エンタメ性がやや不足-

『 侵蝕 』 -サイコパスをいかに受容するか-

Posted on 2025年9月22日2025年9月22日 by cool-jupiter

侵蝕 65点
2025年9月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:クァク・ソニョン キ・ソユ イ・ソル クォン・ユリ
監督:キム・ヨジョン イ・ジョンチャン

 

謎の体調不良が少しマシになったので、久々に映画館へ。前情報一切なしで本作のチケットを購入。

あらすじ

水泳インストラクターのヨンウン(クァク・ソニョン)は、幼い娘のソヒョン(キ・ソユ)が動物や他人を平気で傷つけていく様に戦慄しながらも、必死にわが子を育てていた。しかし、ある時、ソヒョンが同い年の女の子を決定的に傷つける事件が起こり・・・

ポジティブ・サイド

子役が怖すぎ。どう演技指導したのだろうか。台詞も不穏なものばかりで、演じていたキ・ソユのケアがどう行われていたのか心配になるほどだった。子ども特有の無邪気な残酷さなのか、それともその子だけの悪魔的な性質なのかをあいまいにせず、いきなり後者の路線で描いていたのは潔いと感じた。母を演じたクァク・ソニョンの幸の薄さも、娘の異常性をより際立たせていた。

 

娘に精神的に侵蝕されていく母親の話かと思っていたが、物語は一転して思わぬ方向へ。過去の不明な女と、もう一人の過去の不明な女が織りなすサスペンスとスリラーが始まる。特殊清掃業を営む人たちに家族として拾われていく展開が面白い。特殊清掃=孤独死した人の住居の清掃なわけで、畢竟、家族がいない、あるいは家族と疎遠な仏様ばかりとなる。そこに、家族ではないものが家族的な関係になっていくプロットが対照的に展開され、元々いたミン(クォン・ユリ)の居場所がヘヨン(イ・ソル)に侵蝕されていくことになる。家族の絆をかなり変則的に描いた『 パラサイト 半地下の家族 』とは同工異曲のサスペンスは面白かった。

 

観客側には上記のサスペンスに加えてミステリも提示される。舞台は当初の20年後なのだが、ソヒョンはどうなったのか、誰がソヒョンなのかという謎だ。このあたりは第一感に従えば問題ない。問題は、ソヒョンがヨンウンから得た「人間でも動物でも、寝食を共にすれば家族なのだ」という教えがどれほど彼女に浸透していたのかという点で・・・おっと、これ以上は書かない方がよいだろう。

 

エンディングには賛否両論あるだろうが、Jovianは賛である。なにが救いなのか、それとも救いがそもそもあり得るのかは、それこそ人によるだろう。

 

ネガティブ・サイド

ソヒョンの父親のいい加減さに辟易させられた。子どもから真っ先に逃げ出しておいて、都合のいい時だけ父親面。最初から登場させなくてよかったのでは?

 

精神科医と同様に牧師による説法あるいはヨンウンの告解のシーンが欲しかった。それらがあって、かつ的外れか、全然救いにならない内容であれば、ヨンウンが心理的に追い詰められていく様にもっとリアリティが生まれたはず。

 

某施設は大火災に遭ったはずだが、なぜあのような資料が残っていたのだろうか。そこが腑に落ちなかった。

 

総評

本作を鑑賞して、佐世保の女子高生による同級生殺人事件を思い出した人は多いのではないだろうか。ダイバーシティだとかインクルージョンだとか言われて久しいが、他者に危害を加える存在を「どのように」許容するかは難しい問題。家族は最も小さな社会の単位だが、そこへの所属を争うという『 パラサイト 半地下の家族 』とは別の意味でのサスペンスが盛り上がる異色作。日本では絶対に書かれない脚本なので、興味のある向きはぜひ鑑賞を。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ソンセンニム

ソンセン=先生、ニム=様である。韓国は役職や肩書の後にも尊称をつける文化なのである。大学で講師をしていた時、たまに勘違いした学生がプロフェッサーと呼んでくることはあったが、高校の英検対策課外授業だと、明らかにふざけてソンセンニムと言ってくる男子高生がいたりした。女子としゃべるためには英語よりも韓国語の時代か。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 蔵のある街 』
『 ブロークン 復讐者の夜 』
『 宝島 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, イ・ソル, キ・ソユ, クァク・ソニョン, クォン・ユリ, サスペンス, スリラー, 監督:イ・ジョンチャン, 監督:キム・ヨジョン, 配給会社:シンカ, 韓国Leave a Comment on 『 侵蝕 』 -サイコパスをいかに受容するか-

『 入国審査 』 -移住の勧め・・・?-

Posted on 2025年8月4日2025年8月4日 by cool-jupiter

入国審査 70点
2025年8月2日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:アルベルト・アンマン ブルーナ・クッシ
監督:アレハンドロ・ロハス フアン・セバスティアン・バスケス

 

残業weekなので簡易レビュー。

あらすじ

米国移住のためスペインからニューヨークに降り立ったディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クッシ)は、乗り継ぎの際に空港職員に別室に誘導される。型通りの質問はやがて拒否権のない尋問へと変わっていき・・・

ポジティブ・サイド

単純なプロット、非常に短い時間、そして非常に限定された空間だけで、極めて濃厚なサスペンスとドラマを生み出すことに成功している。

 

本作の尋問の数々に『 港に灯がともる 』のネガティブ・サイドを思い出した。帰化の経験がある人は少ないだろうが、お国というのはしばしば一線を越えた質問をしてくる。書いてしまうと問題になりかねないので書けないのだが、本作を見て思い出したのが帰化前の法務局のお役人様との面談だったということ、それ自体が日本(そしてたいていの国)の本音を雄弁に物語っていると言えよう。

 

印象的だったのはBGM。BGMの使い方ではなく、いかにBGMを使わずに状況を描写するのか。環境音や空港の放送の声が非常に無機質かつ緊迫感を伴ったものになっていくというのは、非常に得難い経験だった。序盤のちょっとした会話が大きな伏線になっていたりと、脚本も上質。劇場鑑賞を逃しても配信やレンタルでぜひ鑑賞されたし。

 

ネガティブ・サイド

ボールペンはどうなった?

 

エレナは色々と迂闊すぎ。ディエゴはもっと色々と迂闊すぎ。もう少し地に足の着いたキャラクターでも同等のサスペンスは生み出せたのではないかと思う。

 

総評

低予算映画のお手本のような構成。77分という短時間ながら体感では105分ほどのボリューム感があった。アメリカがフォーカスされてはいるが、日本に置き換えて鑑賞してもOK。入管といえばウィシュマ・サンダマリ事件が想起されるが、人権意識に欠けた対応が日常茶飯事になっていることは想像に難くない。参院選できな臭い政党が議席数を大幅に伸ばしたが、出入国管理は厳密に、しかし適正に行ってほしいと切に願う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Third time’s a charm.

三度目の正直の意。一度目の挑戦でうまくいかなくても、粘り強く挑戦し続ければいつかは報われるかもしれない。職場や日常生活で  “Don’t give up yet. They say ‘Third time’s a charm.’” のようにサラッと言えれば英検1級以上だろう。知っているというのは passive knowledge、使えて初めて active knowledge と言える。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 近畿地方のある場所について 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アルベルト・アンマン, サスペンス, スペイン, ブルーナ・クッシ, 監督:アレハンドロ・ロハス, 監督:フアン・セバスティアン・バスケス, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 入国審査 』 -移住の勧め・・・?-

『 BAD GENIUS バッド・ジーニアス 』 -カンニングはやめよう-

Posted on 2025年7月29日2025年7月29日 by cool-jupiter

BAD GENIUS バッド・ジーニアス 60点
2025年7月27日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:カリーナ・リャン
監督:J・C・リー

 

休日出勤&残業weekなので簡易レビュー。

あらすじ

移民の子のリン(カリーナ・リャン)は全米トップクラスの頭脳の持ち主。それにより奨学金を得て、名門高校に入学し、グレースと友人になる。リンは試験に呻吟するグレースをアシストしてしまうが・・・

ポジティブ・サイド

原作の天才ふたりに、移民の子かつ有色人種という味付けをほどこしたのは、いかにもアメリカらしい。さらにそうした天才の頭脳をうまく搾取しようとするのは、やはり白人。しかもとびっきり頭が悪そうな奴ら。製作者たちはよく分かっている。

 

クンタ・キンテを持ち出すことで、黒人コミュニティの中の序列を見せつけ、さらにもう一人の天才バンクの背景についても示唆するという手法は見事だった。ボブ・グリーンの『 マイケル・ジョーダン物語 』で、ジョーダンが『 ルーツ 』について熱く語るシーンが印象に残って、岡山の紀伊国屋で『 ルーツ 』を買ってもらい、読んだ記憶がある。上下巻だったかな。

 

閑話休題。

 

第二次トランプ政権は発足早々に不法(とされる)移民を大量に送還し、留学生数にもキャップを設けようとしているが、たとえばアメリカの大学院レベルで情報学やコンピュータサイエンスを学んでいるのは圧倒的にインド人と中国人が多い。こうした学生を減らしてしまうと、後々にシリコンバレー自体が弱ってしまうことに気付いていない、あるいはその可能性から目を背けているのが彼の国の現状。そうした現状を背景に本作を見れば、最後のリンの決意がかなり独特な色彩を帯びたものとして映ってくるだろう。

 

ネガティブ・サイド

リンがクロスカントリーの実力者であるという設定はどこに行ったのか。まったく無用の設定だった。

 

リンが某試験の計算内容を用紙に残してしまうとは、本当に天才か?こんな smoking gun を残してしまうのはあまりにも間抜けだろう。その後の学校生活で要注意人物として教師たちに目を付けられるはずだが。

 

リンがなぜ音楽をそこまで勉強したいのかが、少しわかりにくい。というか説得力に欠けた。母親との大切な思い出であり、辛い現実からの逃避先でもあるのは分かるが、それをカンニングに使おうというのは、いくら子どもとはいえ倫理的にどうなのか。

 

総評

鑑賞後、オリジナルの『 バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』と同時に『 ルース・エドガー 』も思い起こした。脚本家が同作の監督兼脚本なのか。アメリカ社会の課題をうまく作品世界に落とし込んでいる。日本でもTOEICの不正受験が最近ニュースになったり、少し前には就活・転職時のSPIの替え玉受験もニュースになった。カンニングについて考えるきっかけになる作品だと言える。

 

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

Resolvere. Provocatio vincere. 

試験の教室の壁に書かれていた標語。直訳すると To solve. To conquer the challenge. となる。ある程度英語に慣れた人なら、resolvereにresolveが見えるだろうし、provocatioにはprovocationが見えるだろう。興味のある人は etymology dictoinaryで調べるとよい。日本語に訳すなら「(問題を)解くこと。(それは)困難に打ち勝つこと」となるだろうか。これはカンニングの手法およびリンの決断の両方を示唆していることに鑑賞後に気づくことだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 入国審査 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, カリーナ・リャン, クライムドラマ, サスペンス, 監督:J・C・リー, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 BAD GENIUS バッド・ジーニアス 』 -カンニングはやめよう-

『 ハルビン 』 -歴史的暗殺劇を淡々と描写する-

Posted on 2025年7月18日 by cool-jupiter

ハルビン 60点
2025年7月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヒョンビン リリー・フランキー
監督:ウ・ミンホ

 

伊東博文暗殺劇に興味がわき、チケット購入。残業続きで余裕がないため簡易レビュー。

あらすじ

大韓義軍のアン・ジュングン(ヒョンビン)は日本軍と交戦し、勝利する。しかし、捕虜として解放した将兵がヒョンビン不在の義軍を襲撃。ヒョンビンは大韓義軍の幹部たちからスパイとしての疑惑の目を向けられることになり・・・

ポジティブ・サイド

特に深い説明もなく、いきなり対日本軍のゲリラ戦が始まる。テンポがいい。

 

アン・ジュングンが英雄として祭り上げられていく映画かと思っていたが、実際はその逆。大韓義軍の中でアン・ジュングンがある意味で孤立化し、それでも一軍を率いて前線に立ち続ける姿は英雄というよりは孤高の人だった。この解釈は面白い。

 

リリー・フランキー演じる伊東博文の韓国の統治論は、真理ゆえにまさに韓国人の最も気に食わないところだろう。

 

韓国、ウラジオストク、満州、ハルビンと国際的なスケールで物語が進行していく。その中にスパイも紛れ込み、緊張感が否応なく増していく。アン・ジュングンがコン夫人にロシア語を尋ねたのは史実だろうか。テロリストではなく義士として国際的にも歴史的にも名を遺す名シーンにつながった。

 

ネガティブ・サイド

日本を悪者にしたいのは分かるが、そもそもアン・ジュングンが捕虜を解放しなければよかっただけの話。これはこれでアン・ジュングンの説く平和論につながるのだろうが、劇中でその側面が強調される効果は生まれていなかった。

 

森という軍人さんは頑張ってはいたものの、日本語に難あり。名のある役者は好感度ダウンを恐れて引き受けなかったのだろうが、無名かつ野心のある日本の役者ならオファーを受けたことだろう。ここは日本人の役者を起用すべきだった。

 

アン・ジュングンの周囲にスパイが送り込まれ、それは誰なのかというサスペンスが盛り上がるが、このハラドキ感は長続きしなかった。容疑者が実質一人しかいないからだ。

 

総評

韓国ではヒット、しかし日本では興行的にはさっぱりだろう。ただ、日本も閔妃暗殺やら張作霖爆殺やら色々とやらかしていることを忘れてはならない。閔妃の悲劇的な最期もそのうち映画化されるだろう。選挙前なので政治的なことを言うが、外国とは別に仲良くする必要はない。ただ、敵に回すようなことはすべきではないということ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

トンジ

同志の意。ロシアや一昔前の日本の過激派左翼と同じで、仲間のことは同志と呼ぶのが韓国でも習わしだったようである。韓国の抗日映画は今後も作られると思うので、そうした作品ではトンジという言葉が飛び交うことだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』
『 桐島です 』

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, ヒョンビン, リリー・フランキー, 歴史, 監督:ウ・ミンホ, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:KADOKAWA Kプラス, 韓国Leave a Comment on 『 ハルビン 』 -歴史的暗殺劇を淡々と描写する-

『 アマチュア 』 -知力で戦え-

Posted on 2025年4月16日2025年4月16日 by cool-jupiter

アマチュア 70点
2025年4月12日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ラミ・マレック ローレンス・フィッシュバーン
監督:ジェームズ・ホーズ

 

『 ボヘミアン・ラプソディ 』のラミ・マレック出演作ということでチケット購入。

あらすじ

CIAで暗号分析官を努めるチャーリー(ラミ・マレック)は、ロンドン出張中の妻がテロリストに殺されたことを知らされる。妻の復讐を自らの手で果たすため、CIAのトレーニングを受けようとするチャーリーは、教官のヘンダーソン(ローレンス・フィッシュバーン)と出会うが・・・



ポジティブ・サイド

見始めて少し経つまで、これが小説『 チャーリー・ヘラーの復讐 』だと気付かなかった。『 100冊の徹夜本 』の中で触れられていたので、高校生の時に岡山市内の古本屋で買ってもらって読んだことをうっすら覚えている。とにかく知力だけで戦う話だった。今作でも、舞台が現代で、テクノロジーも当然現代のものだが、チャーリーの戦い方は知力オンリー。そこが『 アメリカン・アサシン 』との違いで、本作のユニークなところ。

 

協力者のインクワラインと共に4人の標的を追っていくが、ド派手アクションに走る前のM:Iシリーズの趣きが感じられ、サスペンスフルだった。実際に女性(テロリストだが)相手にも組み負けてしまうチャーリーは非常にリアルで、だからこそナードやギークの星たりえる。ピッキング動画を視聴しながら、実際に解錠するシーンは笑った。Jovianの友人にも、パソコンの分解動画を見ながら、実際にパソコンを分解する男がいるので、このシーンは可笑しみがありつつも説得力があった。

 

原作小説では確かCIAから見捨てられるような展開だった気がするが、今作ではそのCIAを、ある意味ではテロリスト以上の悪に描いている。その背景も実際にあってもおかしくないような設定で、情報というものに信が置くことが難しい現代という舞台に、原作の設定を見事に着地させているという印象。

 

標的の最後の一人から思わぬ逆襲を食らうチャーリーが、見事な機転で危地を脱する展開には唸らされた。現代は技術全盛で、特にコンピュータ関連の知識とスキルはそのまま金になるし、使い方を変えれば武器にもなる。PCオタクでも愛する人の敵を討つヒーローになれるのだと新しく示してくれたのは一つの功績であると思う。

 

ネガティブ・サイド

偽造パスポートを作った当のCIAが、その偽造パスポートが使われた場所や日時を特定できないとはこれ如何に。

 

また、マスクやサングラスでいくらでも隠しようのある顔をシステムで追うのも疑問。邦画『 プラチナデータ 』はイマイチだったが、歩き方でターゲットを補足しようというアイデアには先見の明があった。実際にCIAは職員のそうしたデータを持っているはずなのに、なぜそれを活用しなかったのか。

 

協力者のインクワラインの出番がもう少し欲しかったと思う。

 

総評

普通に面白い作品。スパイやエージェントでありながら各地でドンパチ(本作にもちょっとそういうシーンはあるが)やる映画とは違い、知識と技術さえあれば圧倒的な暴力にも対抗できるのだ、という物語そのものに爽快感がある。『 ベテラン 』『 プロフェッショナル 』など強そうなタイトルと同時上映されているが、『 アマチュア 』にはアマチュアの良さがあるのだ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Keep your head on a swivel.

『 ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密 』でも紹介した表現。周囲への警戒を怠るな、の意味。PS2のゲームのAce Combat 04とAce Combat 5で使われている。AIに尋ねたところ、軍事や警察以外でも、文脈さえ正しければ As a sales rep, you really need to keep your head on a swivel to pick up on any business trends. のように使ってもいいそうである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 悪い夏 』
『 片思い世界 』
『 シンシン/SING SING 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, アメリカ, サスペンス, ラミ・マレック, ローレンス・フィッシュバーン, 監督:ジェームズ・ホーズ, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 アマチュア 』 -知力で戦え-

『 教皇選挙 』 -2020年代を予見した作品-

Posted on 2025年3月25日2025年3月25日 by cool-jupiter

教皇選挙 80点
2025年3月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:レイフ・ファインズ
監督:エドワード・ベルガー

 

元・宗教学専攻として興味を惹かれ、チケット購入。

あらすじ

教皇が亡くなり、新たな教皇を選出するため世界各地から枢機卿がバチカンに集った。教皇選挙=コンクラーベを取り仕切るローレンス(レイフ・ファインズ)は旧知のベリーニを推そうとする。そんな中、カブールからベニテスという枢機卿がやって来て・・・

 

ポジティブ・サイド

礼服を身にまとった聖職者たちが一堂に会し、選挙という名の一種の派閥構築と権力闘争に勤しむ姿は、それだけで非常に cinematic だった。英語、ラテン語、イタリア語などが飛び交うのも楽しめた。

 

有力者が票を伸ばしながらも得票多数には至らず、逆にスキャンダルの発覚により失脚していく。『 スポットライト 世紀のスクープ 』を思い出す人も多いだろう。聖職者は性職者などと揶揄されても仕方がないスキャンダルだった。また権謀術数も駆使され、米大統領選でもここまでほじくり返すかと思われるような過去の詮索もあり、選挙=戦争であるというベリーニの叫びは真実であると実感させられる。

 

主人公のローレンスはコンクラーベを恙なく執り行うために奔走するが、その様子をつぶさに見るにつけ、結局は人種や地域の壁を人間が超えることは難しいのだと思わされる。序盤で「英語を話す者は英語を話す者と、イタリア語を話す者はイタリア語を話す者とくっつく」と言われるが、結局はカトリックもバベルの塔の崩壊後の姿のままということか。

 

ローレンスは「確信こそが最大の敵であり、確信してしまえば mystery が存在せず、すなわち信仰も存在しなくなる」と語る(mysteryの字幕は何だったのだろう)。これは多くの現代人が肝に銘じておくべき言葉だと感じた。「公職選挙法に違反していないと認識している」とアホの一つ覚えのように繰り返す兵庫県知事などはこの最たる例で、確信=思い込みは罪になりうるのだ。

 

終盤に大事件が起き、外部から遮断されるべきコンクラーベも中断を余儀なくされる。そこで枢機卿たちによって交わされる議論が本作の核心。ローマ・カトリックの繁栄はレコンキスタや十字軍、さらには大航海(という名の間接的侵略と武器の売買)によってもたらされたものだという歴史的事実を完全に無視した妄言、そしてそれを静かに打ち砕く言説には震えた。

 

最後にローレンスはとある秘密を知ってしまう。その秘密を彼はどう受け止めたのか。奇妙な舞台装置がここに投入されるが、劇中でのとある会話とローレンスが最後に取った行動を合わせて考えれば、その真意は推察できる。

 

10年前のテイラー・スウィフトの東京ドームでのコンサートに行ったが、そこでテイラーは “You are not your mistakes.” だと語ってくれた。今やっとその意味が分かったような気がする。劇中でとある人物が言う “I am *******” と、本質的に同じ意味だったのだ。 

ネガティブ・サイド

アジア系の枢機卿もいたが、ほんの一瞬映ることが2回あったぐらい。もう少しアジアもフォーカスしてくれ。

 

先代教皇は結局、何者だったのか。どこまで見通して死んでいったのか。何かヒントになるような情報がまったく呈示されなかったので、モヤモヤした気持ちだけが残った。

総評

聖職者としての建前と人間としての本音が交錯し合う非常にスリリングな会話劇。トランプ米大統領の二度目の就任の際に、アメリカの司教が慈悲を求めた説教が話題になった。おそらく米国の聖職者たちの中でも政治的にデリケートな話題について我々の目に見えないところで相当に深く議論がされていたのだろうと想像される。そうした言葉のやりとりを楽しめる人は楽しめるだろうし、楽しめない人は楽しめないだろう。Jovianは波長がピタリと合った。今年のイチ押しの作品である。

 

Jovian先生のワンポイントイタリア語レッスン

Come stai

英語でいうところの How are you? にあたる表現。おそらくイタリア語会話の本の最初の3ページ以内に必ず出てくる表現。これから鑑賞するという人は、どこでこの台詞が出てくるか注目してみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 Flow 』
『 ミッキー17 』
『 ケナは韓国が嫌いで 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アメリカ, イギリス, サスペンス, ミステリ, レイフ・ファインズ, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 教皇選挙 』 -2020年代を予見した作品-

『 嗤う蟲 』 -村八分の恐怖-

Posted on 2025年2月1日 by cool-jupiter

嗤う蟲 60点
2025年1月31日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:深川麻衣 若葉竜也 田口トモロヲ
監督:城定秀夫

 

『 アルプススタンドのはしの方 』、『 愛なのに 』の城定秀夫が監督ということでチケット購入。

あらすじ

杏奈(深川麻衣)と輝道(若葉竜也)の夫婦は都会から田舎に移住。杏奈はイラストレーターとして、輝道は農家として働いていた。地域の顔役の田久保(田口トモロヲ)をはじめ、村人たちは二人を歓迎するが・・・

ポジティブ・サイド

移住者に対する村の歓待がエスカレートしていく前半、そして村の闇が垣間見える中盤、そしてタイトルの意味がはっきりとする終盤と、非常にテンポよく進んでいく。しかし、細部の描写はかなりねっとりしている。人間関係の力学が都会のそれとはかなり違い、ここまで大袈裟ではないにしろ、ド田舎で似たような状況を目撃してきたJovianは結構なリアリティを感じた。

 

徐々に村のシステムに取り込まれていく夫と、リモートで働く妻のコントラストも際立っていた。そして妻の妊娠と、村を挙げての不穏なまでの歓迎ムードが否が応にも観る側の不安を掻き立てる。そしてその不安は現実として襲い掛かってくる。鑑賞後にJovian妻は開口一番、「田口トモロヲはいつも顔と名前が一致せんわ」と言っていたが、本人が聞けばガッツポーズをするだろう賛辞である。それぐらいキレッキレの演技だったし、杉田かおるの行き過ぎた近所のおばさん感や、片岡礼子の壊れた中年女性感、そして松浦祐也の絶望で暴走した中年男性像など、役者の演技が本作を引き締めていた。

 

タイトルにある蟲の意味は終盤ではっきりする。我々は虫を農薬で殺したり、手でつぶしたり踏みつぶしたりするが、それが中央と地方の構図に非常に似通っていることに慄然とする。特に能登半島の復旧の遅さなどは、地理的な難しさもあるが、それ以上に政治的な力学が要因になっているように思えてならない。エンドクレジット後にも短い映像があるので見逃すことなかれ。それが何のメタファーなのか、というよりも何のメタファーだと解釈するのかで自身の感性や思考が見えてくるはずだ。

 

ネガティブ・サイド

杏奈と輝道がなぜ田舎移住を決断したのかがよく見えなかった。無農薬に対するこだわりの背景などが描かれていれば、輝道が田久保に屈していくという過程に観る側がもっと杏奈に同調して切歯扼腕できたのにと思う。

 

また移住して2~3年は経過したと思われるが、そのあたりの描写がもう少しあっても良かった。たとえば畑や田んぼの様子だったり、あるいはどんな虫がどんな植物についていたり、あるいは虫がまったく姿を消してしまったりといった描写を要所で入れていれば、それだけで季節の移り変わりを明示できたはず。

 

総評

『 ヴィレッジ 』には及ばないが、『 変な家 』や『 みなに幸あれ 』といった珍品よりは遥かに面白い。今後ますます人口減少が進んで、地方はさらに衰退していく。本作で描かれたような村が生まれてきても驚きはない。同時に都市部でも経済格差や人種・国籍などで「こちら側」と「あちら側」に住民が分断されていく。行き着くところは日本という国家が世界から村八分にされること。製作者の意図ではないだろうが、そんなことまで考えさせられた作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

rural migration

田舎移住の私訳。というか、田舎移住はしばしば rural migration と表現される。あるいは urban-to-rural migration のように、都市から田舎への移住と明確にすることもある。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 雪の花 ―ともに在りて― 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 日本, 深川麻衣, 田口トモロヲ, 監督:城定秀夫, 若葉竜也, 配給会社:ショウゲートLeave a Comment on 『 嗤う蟲 』 -村八分の恐怖-

『 #彼女が死んだ 』 -社会の闇の一端を覗く-

Posted on 2025年1月19日 by cool-jupiter

#彼女が死んだ 70点
2025年1月18日 kino cinéma 心斎橋にて鑑賞
出演:ピョン・ヨハン シン・ヘソン イエル
監督:キム・セフィ

 

予告編が面白そうだったのでチケット購入。

あらすじ

不動産業を営むク・ジョンテ(ピョン・ヨハン)は顧客から預かった鍵で家に入り込み、最も不要そうなものを失敬するという趣味の持ち主。彼はある時、インフルエンサーとして振る舞うハン・ソラ(シン・ヘソン)に興味を抱く。そのハン・ソラが引っ越しするということで、ジョンテは部屋の鍵を託される。留守を見計らって侵入したジョンテが見たのは、腹部から大量出血してピクリとも動かないソラだった・・・

 

ポジティブ・サイド

不動産屋に対しての信頼がゼロになりそうな冒頭ながら、他人のスマホやSNSを覗き込む主人公ジョンテに対して、徐々にシンクロしてしまうという現代人は多いのではないだろうか。そのような巧みな掴みから、ハン・ソラの死亡シーンの遭遇、そして消えた死体と刻々送られてくる謎めいた脅迫状と、中盤まで怒涛のスピードで展開される疾走感は、まさしく韓国映画。

 

中盤以降、ハン・ソラの見えざる顔が見えてくるあたりから、社会の闇が浮かび上がってくる。そんな中でも、極めて異質な個人として浮かびあってくるのは・・・おっと、ここから先は言ってはいけない。

 

中盤から登場するオ刑事の存在感が素晴らしい。本邦だと『 ドクター・デスの遺産 BLACK FILE 』で北川景子が長髪をくくりもせずに捜査現場に出向いていたが、無能揃いで知られる韓国警察も、女性刑事となるとリアリティが格段に増す。いかつい顔、長身、肩幅広い、気が強い、結構な武闘派という刑事で、彼女の登場シーンは一か所を除いて全てが絵になっていた。

 

それにしても韓国映画は、女優の発狂シーンを描くのが本当にうまい。人間の感情を視覚的に表現することにかけては韓国の俳優陣は世界でもトップレベルではないだろうか。そしてエンタメ作品ながらも、最後に苦味を残すのも『 目撃者 』同様に、韓国映画のお約束。主演の二人は『 エンドレス 繰り返される悪夢 』でも共演していた。確かに、二人ともうっすらと記憶にあった。

 

ネガティブ・サイド

お客さんから預かっている鍵の保管方法が緩すぎではないだろうか。ダイヤル式の金庫に入れておいてもいいと思うのだが。

 

詳しくは書けない(何故なら詳しく描写されていない)が、現代社会において取り扱いに厳重な注意を要する二つの対象が abuse されていたというのが本作の一つの肝。しかし、その部分の描写が必要最低限を下回っているように見えた。『 トガニ 幼き瞳の告発 』とまでは言わないが、1~2分で良いので、とある対象への虐待シーンは入れてほしかった。

 

とある殺人シーンがあまりにも非合理的。滑車が使われていたわけでもあるまいに、あそこまで物理的な力が作用するか?

 

総評

陰鬱かつ凄惨なサスペンスである。以下、ビミョーにネタバレっぽく言うなら、ビル・S・バリンジャーの小説『 歯と爪 』と、デビッド・フィンチャー監督の映画『 ゴーン・ガール 』、アニーシュ・チャガンティ監督の『 search サーチ 』に韓国テイストを加えたような感じと言えば伝わるだろうか。つまり、古典的・典型的な要素を盛り込みながらも、現代風にアップデートされた作品ということ。観て損はしない一作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Love what you do

スティーブ・ジョブズのスピーチの一節として知られる。当時はこれをどう訳すのかで英語界隈で結構な議論が巻き起こった。loveは愛せ、大好きになれ、惚れ込め、などで良いのだろうが、what you do を果たして仕事と訳してよいのかどうか。文脈的には仕事で問題ない。ただし、 What do you do? = お仕事は何ですか?と暗記するのは間違い。中学の同級生と10年ぶりに再会して、「久しぶり、今は何してるの?」というのが、What do you do?の意味。答えは「大学院に通ってる」かもしれないし、「サラリーマンやってる」かもしれないし、「バイトしながら投資の勉強してる」かもしれない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 港に灯がともる 』
『 怪獣ヤロウ! 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, B Rank, イエル, サスペンス, シン・ヘソン, ピョン・ヨハン, 監督:キム・セフィ, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 #彼女が死んだ 』 -社会の闇の一端を覗く-

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