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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 日本

『 フロントライン 』 -見せ方に一考の余地あり-

Posted on 2025年7月8日2025年7月8日 by cool-jupiter

フロントライン 60点
2025年7月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:小栗旬 松坂桃李 窪塚洋介 池松壮亮
監督:関根光才

 

看護師の母が絶賛(一部酷評)していた作品ということでチケット購入。

あらすじ

豪華客船のダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナ患者が発生。横浜に停泊する同船内で治療にあたるため、本来は災害派遣されるDMATに白羽の矢が立つことに。リーダーの結城(小栗旬)はチームを招集し、厚労省の役人の立松(松坂桃李)と共に現地に赴くが・・・

ポジティブ・サイド

当時のニュースはよく覚えているし、マスコミの論調もよく覚えている。また岩田某がアホな動画をアップしたことも覚えているし、その動画に踊らされたアホなメディアや民衆のこともよく覚えている。そうした喧騒を背景に、静かに戦った医師や看護師を丁寧に描き出していた。

 

まず目についたのは窪塚洋介。野戦病院のリーダーとして、冷静沈着ながらも内に秘めた闘志と使命感を感じさせる医師を好演した。官僚を演じた松坂桃李も印象的だった。杓子定規な役人かと思いきや、意外に話せるし、見た目通りに有能。かなり柔軟な姿勢の持ち主で、必要とあらば法の規定も迂回する。2020年の春は大学関連業務の中でも教務パートを受け持っていたが、物流が滞っていて肝心の教科書が会社にも学校にも普通の書店にも届かなかった。そんな時に文化庁長官が各出版社に「著作権について格別の配慮」を求めた結果、教科書のデータを一時的に使わせてもらえたり、それを複製して配布したり、あるいはZoomなどで画面共有したりすることが可能になった。同じようなことがもっと大きなスケールで医療の現場で起きていたのだなと感慨深かった。

 

閑話休題。医師たちは、メディアやその背後の多くの国民の願い、すなわちコロナを国内に持ち込むなという思いとは別の思いで動いていたことが知れたのは非常に良かった。ここのすれ違いがメディアの暴走を生み、ひいては差別や国民間の分断を生んだことは記憶に新しいところだ。実際、トラックの運転手などはウィルスの運搬人扱いされていた。なんたること・・・

 

船内の状況や近隣(とは言えないところまで含めて)の医療機関との連携が形を成してきたところで、物語は暗転していく。例の動画だ。医療従事者たちが手指消毒を欠かさず、マスクや防護服も着用していたことは分かるし、船にクリーンルームやクリーンフロアが作れるはずがないことも、ちょっと頭を使えば分かる。あるいは取材すれば分かる。メディアはそれをしないし、大衆もそれを調べようとしない。それどころか(もう故人なので名前を出すが)小倉智昭などは「患者がいっぱいなので病院は儲かっている」だの、「ECMOは高額なので利益が出る」だの、めちゃくちゃ言っていたし、それに信じる人間も一定数この目で見た。こうした無責任なメディアを本作は遠回しに、しかし確実に批判している。

 

エッセンシャル・ワーカーたちの戦いに改めて敬意を表する機会を本作は提供してくれる。

 

ネガティブ・サイド

医療従事者のプロフェッショナリズムとプライベートの部分、すなわち彼ら彼女らの私生活、なかんずく家族についての描き方に不満がある。池松壮亮の家族がサブプロットとして描かれていたが、これは蛇足だった。なぜなら本作を鑑賞する多くの人々は、このことを覚えているはずだから。また、後年に見ることになる人々も周囲に話を聞いたり、あるいはネットで調べたりすることができるから。主要人物すべてが、時々メールをしたり、ひそひそ声で電話したりするシーンを映し出し、観客の想像力に訴えかければ事足りたはず。

 

同じく、小栗旬が桜井ユキからあることを尋ねられた際にも、言葉でていねいに答える必要はなかった。単に小栗旬に「具問だな」という表情をさせるだけでよかった。言葉でもって物語るということは、マスコミが言葉でもって一面的、皮相的にニュースを報じるのと構図の上では同じだ。相手の発する言葉を受け止めるのではなく、相手の働きぶりや立ち居振る舞いから読み取ることの重要性を逆説的に訴えかけてほしかった。

 

あとはメイクか。船の中でどんどん髪が乱れ、髭も伸び、頬もこけて、肌つやもなくしていく野戦病院の院長然としていた窪塚洋介とは対照的に、常に小ぎれいに身を整えていた野戦病院の理事長的な小栗旬の対比が痛々しかった。

 

総評

演出にやや問題あり。考えさせる映画ではなく、教える映画のように感じた。当時のニュースで〇〇〇と感じたが、この映画でやっぱり◎◎◎だと感じた、というのでは、既存メディアは信用ならん、SNSは信用できるという思考とパラレルである。このあたりがアメリカや韓国の社会派映画との違いか。とはいえ、エンタメだと割り切って観れば、それなりに楽しめるはず。最後の最後に映し出されるスーパーインポーズに何を思うのかで、本作の評価や印象がかなり変わると思うので、最後を注視してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

listen to one’s chest

胸を聴診するの意。聴診するという医学用語にはauscultateという語があるが、こんなのは英検1級ホルダーでもなかなか知らない(OET受験者は案外知っているが)。劇中でも小栗旬が breathe in, breathe out と呼び掛けていたが、息を吸って吐くところまでがセットである。ちなみに心臓の音は基本的には胸側からしか聴けない。呼吸音は両側から聴ける。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』
『 ハルビン 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, 小栗旬, 日本, 松坂桃李, 歴史, 池松壮亮, 監督:関根光才, 窪塚洋介, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 フロントライン 』 -見せ方に一考の余地あり-

『 時限病棟 』 -ピエロの恐怖再び-

Posted on 2025年7月6日2025年7月6日 by cool-jupiter

時限病棟 70点
2025年7月1日~7月3日にかけて読了
著者:知念実希人
発行元:実業之日本社

 

『 仮面病棟 』の続編ということで購入。

あらすじ

倉田梓が目覚めると、そこは廃病院だった。自分以外にも4人の男女がここに拉致監禁されていた。犯人もその目的も不明。そこには道化師からの謎のメッセージと6時間というタイムリミットだけがあり・・・

 

ポジティブ・サイド

場所は病院、期間は6時間、登場人物はごく少数。よくできたフランスミステリ的でありつつ、サスペンス色も非常に濃い。ページを繰る手が止まらないと言うと大げさだが、毎晩就寝前に100ページをめどに楽しんで読むことができた。

 

謎の廃病院でクラウン=道化師からの謎のメッセージを受け取り、それを基に推理を働かせ、次のステージに進んでいく。タイムリミットを破れば、地下の大量のガソリンが一気に爆発炎上する。単純な仕掛けだが面白い。

 

集められた男女の共通点が次第に明らかになり、そこから見えてくる人間関係から一人の人物が浮上する。ここを理解しやすくするために『 仮面病棟 』を先に読んでおくことを強く勧める。

 

途中でいろいろと挿入される警察のシーンはまだるっこしいので飛ばし・・・てはならない。病院の内と外の両方の視点から、読者は様々な情報を得ることになる。ネタバレになるので詳述しないが、クラウンが追い詰めたいのは倉田梓をはじめとする5人だが、著者が追い詰めたいのは我々読者なのだ。そのあたりの二重の駆け引きを楽しんでもらいたい。

 

ネガティブ・サイド

ミステリにある程度慣れている人なら、最初の数ページでかなり犯人を絞り込めるだろう。もうちょっと犯人は演技をしてもよかった。

 

とあるアリバイトリックが壮大だが、ちょっと現実味が薄いというか、ご都合主義が強いと感じた。

 

エンディングが『 仮面病棟 』とほとんど同じだったような気がする。さて、この人物はこのまま消えるのか、それともどこかで何かを起こすのか。続編の余地を残す終わり方は否定しないが、前作と同じというのもどうかと思う。

 

総評

Jovianも昔、MOVIXあまがさきで脱出ゲームに参加したことがあるが、3分の2ぐらいまでしか進めなかった。ただし、行き詰った瞬間に「ん?」と気づく瞬間の爽快感は格別だったと今も覚えている。本作は読む脱出ゲームであり、それを読んでいる自分と書いている作者との推理合戦でもある。リーダビリティは抜群なので、前作を読んだ人はぜひ手に取ってほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

die

死ぬの意。作中では「死ね」で使われているが、ここにちょっとしたトリックがある。看護師や看護学生なら一発でわかるはず。ちなみに「しね」と”die”をまったく違う言語・意味で使っている小説に貴志祐介の『 天使の囀り 』がある。かなり古い小説だが、バイオホラーの傑作なので、興味のある向きはぜひ読んでほしい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 フロントライン 』
『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』

 

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2010年代, B Rank, スリラー, 日本, 発行元:実業之日本社, 著者:知念実希人Leave a Comment on 『 時限病棟 』 -ピエロの恐怖再び-

『 近畿地方のある場所について 』 -やや竜頭蛇尾か-

Posted on 2025年6月29日 by cool-jupiter

近畿地方のある場所について 60点
2025年6月24日~26日にかけて読了
著者:背筋
発行元:KADOKAWA

 

ずっと積読にしていた作品。映画がもうすぐ公開されるらしいので、それに先んじて読んでみた。

あらすじ

取材の過程で消息を絶った小沢君の仕事を追っていく中で、私は彼が近畿地方のある場所を中心とした怪異を追っていることを知り・・・

 

ポジティブ・サイド

普通の小説とはかなり趣が異なる。登場人物がいて、時間が設定されていて、行動範囲がある程度特定されていて・・・ということがない。というのも、しばしばネットの書き込みが挿入されるから。言ってみれば、珍談奇談怪談風味の四方山話の寄せ集めなのだが、それがだんだんと近畿地方のある場所に収束していく流れは面白い。

 

怪異の始まりがアングラ系サイトというのも現代的。貞子がVHSから様々なメディアに乗り換えてたり、『 シライサン 』がネットの大海原を漂うように、怪異も時代に合わせてアップデートが必要。それを説得力ある形で提示できているところが素晴らしい。

 

個人的に面白かったと感じたのは林間学校、シール、そしてキャンプ場か。特にシールは、実際にありそうな話、というか、トクリュウ系の強盗の下見としてシールが使われているという報道があってから、街中であちこち目が行くようになってしまったので、余計にリアリティを感じた。

 

巻末に綴じられた取材資料があるのだが、これがなかなかに興味深い。個別のエピソードのネタバレ満載なので決して読了前に開くこと勿れ。

 

ネガティブ・サイド

近畿地方のある場所とぼかされてはいるが、近畿=二府四県で狭義の「県境」が存在するのは奈良と和歌山の間しかない。かつ、山があってダムもあるとなると奈良しかない。もっと廃寺やら廃小学校やら、ありふれた舞台を使えば、読みながらもっと疑心暗鬼になれるのに、と少しもったいなさを感じた。

 

怪異に関する謎が収束していく過程は楽しめたものの、収束していく先は正直なところ拍子抜け。

 

近畿地方の方言が最後のインタビュー以外、ほとんど出てこない。その最後のインタビューも、相手はかなりの年配者のはずだが、その特徴がない。おそらく取材もしていないのだろう。奈良や和歌山、あるいは大阪でも河内長野あたりを越えると明らかに標準関西弁とは異なってくる。そうした雰囲気を文字だけで伝える努力はすべきだった。

 

総評

途中まではまさにページを繰る手が止まらないが、終盤でとある調査が行われるあたりで???となり、最後のオチにはドン引き、かつ溜息が出る。でも、これはこれでいいではないか。我々は往々にして最後に残った印象で作品を判断しがちだが、そこに至るまでのゾクゾクやハラハラドキドキも評価しなければならない。そういう意味では十分に佳作以上。映画の脚本がどこを削って、どこを膨らませたのか、非常に気になる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Now that I’ve come this far,

作中に何度も出てくる「ここまで来たら」の私訳。ここまで来たら〇〇〇に行ってみる=Now that I’ve come this far, I am going to go to 〇〇〇. のように言える。come this far は物理的な距離についても使えるし、比喩的にも使える。仕事もしくはキャリアの上で飛躍できた歳に、I never imagined I could come this far. と呟いてみようではないか。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 28年後… 』
『 フロントライン 』

 

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2020年代, C Rank, ホラー, 日本, 発行元:株式会社KADOKAWA, 著者:背筋Leave a Comment on 『 近畿地方のある場所について 』 -やや竜頭蛇尾か-

『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

Posted on 2025年6月23日 by cool-jupiter

JUNK WORLD 80点
2025年6月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:堀貴秀
監督:堀貴秀

 

『 JUNK HEAD 』の続編にして前日譚。良い意味で「ぼくのかんがえたさいきょうのエスエフ」的な仕上がりになっている。

あらすじ

地下世界の開拓のため、人類は人工生命マリガンを創造する。しかし、マリガンはクローンで自己増殖し、人類に反旗を翻した。停戦に合意した両者だが、地下世界に異変が生じる。調査のために人類はトリスを、マリガンはダンテを派遣し、両者が合同チームを組むが・・・

ポジティブ・サイド

マリガンだらけだった前作とは打って変わって、人間とマリガン、ロボット、そして異次元の存在と一気に世界が拡張され、カラフルになった。しかし、物語の根底にあるのは堀貴秀の数々の先行作品へのオマージュ。ここは前作と変わっていない。

 

有機的な頭脳を持つロボットのロビンと、その主人であるトリスの関係が面白い。堀貴秀はミューズを得たようである。まず『 バック・トゥ・ザ・フューチャー 』と『 バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2 』を下敷きにしつつ、『 ターミネーター 』と『 ターミネーター2 』の要素も盛り込んでいる。ロビンの壮大な旅路は、個人的にはうえお久光の小説『 紫色のクオリア 』にインスパイアされたのではないかと感じた。

 

ゴニョゴニョで鑑賞したが、韓国語っぽい発話、フランス語っぽい発話に加えて、日本語のコマーシャル的なキャッチフレーズやらハリウッド映画や俳優の名前がアホぐらい出てきた何度も笑ってしまった。個人的にはビートルジュースと聞こえてきたのは、Beetle Juiceだったのか、Betelgeuse(有名な恒星)だったのか気になる。

 

今回は三馬鹿トリオではなく、トリス、ダンテ、ロビンの凸凹コンビ+1となるだろうか。というよりもロビンの変身と、世界創生、そして時間への旅路とその使者の物語が幕ごとに明らかにされ、意味不明だった物語がひとつまたひとつと意味をなしていく過程が刺激的だった。

 

前作の『 BLAME! 』的な世界観から一転して、ハインラインの『 夏への扉 』(原作小説の方)やアシモフの『 最後の質問 』的な拡張的な世界が現出した。ここからどうやって地下世界に回帰して、そこから地上世界へ帰還するのか。楽しみで仕方がない。第三作が今から待ちきれない。

ネガティブ・サイド

シリーズの一貫したテーマの一つが生殖であるはず。それを茶化すようなシーンがあったのは残念。大使がアワビ(的なもの)を貪り食う、とかならまだ許容できたかも。

総評

期待していた作品とは違っていたが、これはこれで面白いし、鬼才が仕事を辞め経済的な支援を得ても、そのユニークなクリエイティビティが全く衰えていないことに安堵した。トリスはロビンのみならず、堀貴秀氏自身のミューズでもあるのだろう。では、次作でパートンは自身のミューズと出会い、愛を成就=生殖ができるのだろうか。もはや期待しかない。2028年ぐらいには観たい。クラファンはどこでしているのか?数万円ならすぐにでも投資したいところだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

worship

崇拝する、崇敬する、崇めるの意。宗教的な文脈で使われるが、冗談めかして使うこともできる。If you get this job done by Friday, I’ll worship you. のように、親しい同僚などに言ってみるといいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 脱走 』
『 28年後… 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, SF, アニメ, 堀貴秀, 日本, 監督:堀貴秀, 配給会社:アニプレックスLeave a Comment on 『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

『 リライト 』 -小説をまあまあ上手く改変-

Posted on 2025年6月21日2025年6月21日 by cool-jupiter

リライト 55点
2025年6月15日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:池田エライザ 阿達慶
監督:松居大悟

法条遥の同名小説の映画化ということでチケット購入。ラストを一捻りしているが、そこに至るまでは割と原作に忠実だった。

あらすじ

2310年の未来からタイムリープしてきた保彦(阿達慶)と偶然にも親密になった美雪(池田エライザ)は、やがて彼に惹かれていく。しかし、ある悲劇が康彦を襲う。彼を救う全てを求めて10年後の自分に出会いに行く美幸だが・・・

ポジティブ・サイド

原作の少しわちゃわちゃしていたところが視覚化されて、分かりやすくなっていた。原作もそうだったが、『 時をかける少女 』へのオマージュが随所にある。〇〇〇〇を読んだ康彦ではないが、尾道に行ってみたくなるような作品になっている。

本作は(原作もそうなのだが)一種のギャルゲーだと思えばいい。ある意味、『 Ever17 -the out of infinity- 』が近いだろうか。これがネタバレにならないことを祈る。

大人の美雪を掘り下げたところが原作との違いで、ここは面白かった。リライト=rewriteが意味するところは、自分の運命や人生の書き換えでもある。曲がりなりにも分泌のプロになったのなら、Verweile doch, du bist so schön! という精神を持ちたいもの。

ネガティブ・サイド

正直、原作のおどろおどろしい執念のようなものが消えてしまっていて残念。それが何であるか気になる人は原作を読んでほしい。康彦の口癖の「何という無駄!」は削る必要はあったのだろうか。

キャスティングも残念ながら減点材料。池田エライザや橋本愛が高校生を演じるのはさすがに無理があるし、その他の同級生たちもかなりしんどかった。

橋本愛の罪ではないが、販促物、とくにポスタービジュアルなどを手がける人はネタバレを避けてほしい。あるいは鑑賞後にそれと分かる作りにしてほしい。原作未読のうちの嫁さん(に限らず普通の感受性と観察力の持ち主)は、すぐに誰がキーパーソンなのか悟ってしまった。

総評

小説の映画化としてはまあまあ。同作家の作品で言えば『 バイロケーション 』よりはマシである。池田エライザのファンなら鑑賞すべし。そうでなければスルー推奨。本当ならアニメ作品にすべきなのだろう。というわけで、タイムリープものとしては本作よりも遥かに面白い高畑京一郎の小説『 タイム・リープ あしたはきのう 』を、誰か105分程度でアニメ化してくれませんかねえ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I wish time stopped now.

時間が止まってほしい、の意。さて、本作ではとあるキャラクターがこれを日本語で言う。どんな場面なのかしっかりと把握して、ここぞというロマンチックな場面でこれをささやいてみよう。それができれば英検1級を超えて英検0級である。

次に劇場鑑賞したい映画

『 JUNK WORLD 』
『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 脱走 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, SF, 日本, 池田エライザ, 監督:松居大悟, 配給会社:バンダイナムコフィルムワークス, 阿達慶Leave a Comment on 『 リライト 』 -小説をまあまあ上手く改変-

『 ぶぶ漬けどうどす 』 -クソ映画オブ・ザ・イヤー候補-

Posted on 2025年6月16日2025年6月16日 by cool-jupiter

ぶぶ漬けどうどす 20点
2025年6月14日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:深川麻衣
監督:冨永昌敬

 

かつて烏丸御池でスクール責任者を数年務めた身として鑑賞せねばと思いチケット購入。残念ながらクソ駄作だった。

あらすじ

まどか(深川麻衣)はライターとして京都を題材に取り上げようとしていた。夫の実家の老舗や洛中の女将たちを取り上げるために京都に移り住んだまどかは、取材と創作を本格化させていくが・・・

ポジティブ・サイド

京都人の奇妙な歴史感覚は確かに味わえる。100年程度では老舗とは呼べず、200年でやっと老舗。そうした矜持と、京都独特の伝統を維持するための有形無形の努力と圧力はそれなりに映し出されていた。

 

ネガティブ・サイド

まず大前提として知っておきたいことは「京都で茶漬けを勧められたら遠回しに帰れと言われている」というのはフィクションだということ。Jovianは生粋の京都人(それこそ江戸時代から同じ区域に先祖代々住んできた方々)複数名に尋ねたことがある。

 

そもそも本作はテーマは何なのだろうか。京都人の陰湿な一面をさらけ出すこと?それとも、京都人の本音と建前の使い分けをユーモラスに描くこと?それとも、そうした京都を前面に押し出しつつ、東京人のアホさ加減を陰で笑うこと?残念ながら、そのいずれにも失敗している。だいたい制作陣に京都出身者、あるいは京都研究者はいなかったのか?パッと調べた限り見当たらないのだが。

 

京都人に陰湿で排外的な一面があることは事実。そしてそれは洛中から洛外(洛外の人々はしばしば結界の外という言い方もする)に向けての姿勢であることがほとんど。ただ、これは京都に限った話ではない。旧浦和と旧大宮が旧与野を叩いたり、あるいは我が兵庫県で言えば神戸が播州を見下したり、あるいは神戸市中央区が神戸市西区を見下したりしている。関東でも、町田市を神奈川扱いしたり、あるいは北関東(茨城、栃木、群馬)を南東北と呼んだりと、どこの地域、どこの都道府県でも見られる現象である。では洛中と洛外で何が違うのかを本作は掘り下げられたか。そこは一切触れられていなかった。だったら京都を取り上げる意味も意義もない。

 

京都人の本音と建前の使い分けについても監督および脚本家は誤解している。あるいは理解を深めていない。本音と建て前の使い分けは京都人の専売特許ではなく、日本語ネイティブのコミュニケーション技術の一つである。つまり京都人以外も普通に使っている。関西弁では「考えときまっさ」というのはお断りの意味である。またビジネス文脈なら「前向きに検討する」は五分五分くらいに聞こえるが、政治家や役人が同じ表現を使ったら、かなりの見込み薄に聞こえる。タイムリーな例を挙げれば、我が兵庫県知事の言う「重く受け止める」も、本音は「うるさいわ、知らんがな」である。では京都人が使う建前は何がどう異なるのか。それは相手と自分の関係性、もっと言えば上下関係や距離が明確な時に使われるのである。このあたりの描写が、まどかと片岡礼子演じる女将連中の間でかなりちぐはぐだった。

 

そもそも、京都を題材にしようと脱サラして作家活動を始めようとするわりに、まどかは事前の京都調査がまったくといっていいほど出来ていない。これは作家として致命的である。しかも老舗の跡取りになる可能性のある京都出身の夫を持ちながらこの体たらく。つまり、アホなのだ。もうこの時点でこの主人公に共感することが困難になる。また夫や創作パートナー、そして京都に巣食う外来種が皆、東京人で、なおかつ裏の顔の持ち主。本作は京都をディスりたいのか、東京をディスりたいのか。テーマを極力絞るべきである。

 

京都の本質を語る学者先生は『 嗤う蟲 』では夫だった若葉竜也。しかし、彼が語る京都の本質に持ち出されるガジェットが琵琶湖?琵琶湖は滋賀県やで・・・ 『 リバー、流れないでよ 』のように、鴨川を使えばいいではないか。もしくは貴船まで上って貴船川でもいい。なぜ琵琶湖?

 

ストーリーもさして面白くなく、BGMも不快。カメラアングルにも光るものはなかった。そもそも京都人たちが皆、京都弁が下手過ぎる。もうちょっとまじめにやれと言いたい。京都人風に評するなら「伝統を尊重してもろて、はばかりさん」とでもなるだろうか。

 

総評

一言、駄作である。職場の同僚、就中、京都人たちには決して観るなかれと忠告したい。東京人が思いっきりアホに描かれているが、作劇上の演出を飛び越えてナチュラルなアホに見える。『 翔んで埼玉 』の含意するところに気付かないプロの東京の批評家が何名かいたが、そうしたお歴々は本作をどう評するのだろうか。そこには少し興味がある。いずれにせよ、観る必要はない。怖いもの見たさやゲテモノ好きは否定しないが。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a venerable shop

老舗の私訳。老舗は古い以外にも格式がある、伝統がある、趣きがあるなどの意味も含んでいるが、それに最も近いのが venerable = 由緒正しい、だろうか。老舗企業なら venerable firm で、老舗料亭なら venerable Japanese restaurant となる。英検準1級以上を目指すなら押さえておきたい語彙。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 JUNK WORLD 』
『 リライト 』
『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, ブラック・コメディ, 日本, 深川麻衣, 監督:富永昌敬, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 ぶぶ漬けどうどす 』 -クソ映画オブ・ザ・イヤー候補-

『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

Posted on 2025年6月15日2025年6月15日 by cool-jupiter

国宝 80点
2025年6月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:吉沢亮 横浜流星
監督:李相日

 

李相日監督作品ということでチケット購入。3時間が苦にならない重厚長大なドラマだった。長引く風邪と仕事の突発的な事案のため簡易レビュー。

あらすじ

極道の父親を失った喜久雄(吉沢亮)は、歌舞伎役者の家に引き取られ、そこで兄弟同然の仲となり習性のライバルとなる俊介(横浜流星)と出会う。歌舞伎の道に邁進する二人だったが、やがてある出来事が転機となり、袂を分かつようになり・・・

ポジティブ・サイド

喜久雄が任侠の跡取り息子から国宝に成り上がるまでの50年間は見応え抜群。歌舞伎の良し悪しは判断しかねたが、役者が役者を演じることの重みは十分に伝わってきた。

 

順調にキャリアを積み上げてきた喜久雄が、思いがけず転落していく最中で見せた屋上での踊りは『 ジョーカー 』を髣髴させた。

 

本作のテーマは、芸とは才か血かというもの。もちろん、この命題に絶対の答えなどない。ただ本作は、才の極みが血を残すのかどうかについて興味深い視点を提供したとは言える。

 

劇中劇の中でも特に『 曾根崎心中 』が良かった。Jovianの出身地の尼崎は近松門左衛門と縁が深く、近松公園は散歩コースかつ時々縁台将棋にも参加させてもらっている。また、死ぬことになる遊女のお初は、梅田近辺にオフィスを持つ企業のサラリーマンなら、露天神社で一度は目にしたことがあるはず。舞台も大阪だし、大阪人や大阪近辺の人間こそ鑑賞すべき作品である。

ネガティブ・サイド

時代のせいだと言えばそれまでだが、女性キャラがそろいもそろって物語上のガジェットのようだった。なぜそこでその男に惚れる?なぜそこでその男についていく?そんな疑問だらけ。

 

また糖尿病もある意味で大活躍。確かに1980年代、1990年代は40代以上の男性の10人に1人(100人に1人ではない)は糖尿病予備軍だと言われていたが、糖尿病悪化で吐血?会社員ではないが、お前ら年に一度の健康診断ぐらいは自腹で受けろ、と感じた。

総評

ある意味、顔で生きてきた吉沢亮が、遂に本物の代表作を手に入れた。歌舞伎という誰もが知りながら、誰も知らない世界をこれほど活写した作品はこれまでなかったし、これからも出てこないだろう。『 ハルカの陶 』の国宝はあまり国宝らしくなかったが、本作の描く人間国宝は国宝の輝きを放っている。ぜひとも大画面、大音響の劇場で鑑賞を。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Living National Treasure

ナショナル・トレジャーといえばニコラス・ケイジを思い出すが、これに living をつけることで、生きている国宝、すなわち人間国宝を意味する。Jovianが知っている人間国宝は中村吉右衛門以外では桂米朝、金重陶陽、藤原啓ぐらい。皆さんが思い浮かべる Living National Treasure は誰だろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』
『 JUNK WORLD 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 吉沢亮, 日本, 横浜流星, 監督:李相日, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

Posted on 2025年6月4日2025年6月4日 by cool-jupiter

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』 50点
2025年5月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:奥平大兼 出口夏希
監督:中川駿

 

『 君の膵臓をたべたい 』の住野よる原作、『 カランコエの花 』の中川駿監督ということでチケット購入。期待はやや裏切られた感じ。

あらすじ

大塚京(奥平大兼)は三木直子(出口夏希)に恋心を抱いていた。しかし、一方で単なるクラスメイトの男子としてのポジションにも満足していた。しかし、不登校だったとあるクラスメイトが学校に帰ってきたことで、京の周囲の人間関係が少しずつ動き出し始めて・・・

ポジティブ・サイド

はっきりとは覚えていないが、Jovianは保育園の年長ぐらいまでは、自分の気持ちも他人の気持ちも目に見えていた。より正確に言うと、AがBに怒っていると、AからBに赤い光線が走る、CがDに感謝しているとCからDに白い光線が走る、のように見えていた。まあ、イマジナリーフレンドのようなもので、自分だけに見えて、自分だけにリアルに感じられるものだったのだろう。小学校に入学したとたんに一切見えなくなったが、特にそれでショックを受けたような記憶もない。けれど、そうした見方をする子どもがいて、その子がそのまま成長したら・・・という想像は容易。なので、本作のキャラクターたちの「他人の気持ちが視覚化されて見える」という隠し事には素直に共感できた。

 

単に主人公とヒロイン、じゃなかったヒーローの二人の関係だけを追求する物語ではなく、5人組がアンサンブルキャストになっている点が良かった。若さとは省みないことたが、逆に省みすぎてしまうことでもある。青春時代、好きになってしまった相手に猪突猛進した人もいれば、好きになってしまったがゆえにその相手に対して身動きが取れなくなってしまった、なぜなら自分は相手にまったくふさわしくないから、と信じ込んでしまった人もいるだろう。本作は後者の集まりで出来ている。それが心理的な駆け引きではなく、それぞれの隠し事によるものだという点が興味深かった。

 

好きという感情もあれば、その反対に嫌いという感情もある。いや、マザー・テレサ風に言えば好きの反対は無関心か。誰かを嫌いになれるのも、それだけ相手を気に掛けているから。あるキャラがやや屈折した考え方(考え方であり、決して感じ方ではない点に注意)から一歩引いたところにいるのだが、これは古典的でありながらも現代的。『 カランコエの花 』のような価値観は本当に遠くのものになってしまったのだとしみじみ実感する。

ネガティブ・サイド

京のしゃべりがボソボソ、モゴモゴで聞き取りにくかった。監督の演出なのだろうか。はっきりとボソボソしゃべってこそ演技と言える。

 

ヅカにはパラ相手の見せ場はあったものの、一人だけ掘り下げが圧倒的に少なかったのは、原作がそうだからなのか、それとも脚本でそうなってしまったのか、はたまた編集の都合なのか。

 

主人公二人の特殊能力が、特に何もドラマを生まないのが一番の不満。他人の心理がある程度わかってしまう。だからこそ自分を抑えてしまうというのは、個人的には若さよりも老いを感じさせる。

 

ミッキーと京の距離が縮まるのがあまりにも唐突過ぎ。なんなら、不登校だったエルと京の間のドラマこそ盛り上がるべきだった。というか、女子からしたら男子にシャンプーを変えたことに気付いてもらえるというのは、メチャクチャ嬉しいか、メチャクチャ気持ち悪いかの二択。だからこそ、そこを追求するサブプロットがあってしかるべきだった。

 

全体的に5人が非常に閉じた世界に敢えて引きこもっているという印象を受けた。何の変哲もないクラスメイトの女子または男子が「お前らの両想い、バレバレだぜ?」みたいに一瞬だけ割り込んでくれば、もっとリアルになったように思う。

 

総評

羊頭狗肉は言い過ぎかもしれないが、「君の秘密を知ったとき、純度100%の涙が溢れ出す。」という宣伝文句は、看板に偽りありとの誹りは免れない。原作小説はしっかりしているのだろうか。中川駿監督の得意とするウソが下手な若者の像は描き出せている。ただ住野よるのテイストが出ていたかというと疑問。鑑賞するなら期待しすぎず、普通の青春群像劇でも観るか、ぐらいのノリでいた方が良い。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

dry up

干上がるという意味以外にも「言葉が出なくなる」という意味もある。He suddenly dried up in the middle of the presentation. =彼はプレゼンの最中に突然黙ってしまった、のように使う。プレゼン中でも商談中でも授業中でも、dry up は怖いものである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 国宝 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, 出口夏希, 奥平大兼, 日本, 監督:中川駿, 配給会社:松竹, 青春Leave a Comment on 『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』 -青春の痛々しさが爆発する-

Posted on 2025年5月14日2025年5月14日 by cool-jupiter

今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 75点
2025年5月10日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:萩原利久 河合優実 伊東蒼
監督:大九明子

 

『 勝手にふるえてろ 』や『 私をくいとめて 』の大九明子監督の作品ということでチケット購入。

 

あらすじ

友人がほとんどいない大学生の小西徹(萩原利久)は、ふとしたことから気になっていた桜田花(河合優実)に声をかける。二人は瞬く間に意気投合し、仲を深めていくが・・・

 

 

ポジティブ・サイド

全然キラキラしていない大学生を見ると、つい自分を思い出す・・・というわけでもないが、萩原利久演じる小西は非常に感情移入しやすい。おもいっきり乱暴に彼のキャラを例えるなら、『 新世紀エヴァンゲリオン 』の碇シンジと、ゲーム『 ファイナルファンタジーVIII  』のスコールを足したような奴である。

 

そこに同級生の桜田花と、バイト先の仲間であるさっちゃんが絡み、甘酸っぱい青春の始まりを予感させながら、物語は急遽暗転する。ある程度予想通りだが、緩急のつけ方が上手い。

 

大九明子監督の作品の中ででは、『 勝手にふるえてろ 』の松岡茉優然り、『 私をくいとめて 』能年玲奈然り、とことんまで物語る女性キャラが出てくるものが当たりである。そして本作は当たり。今回物語るのは伊東蒼。表情やしぐさがわざとらしすぎる女の子なのだが、あるシーンでは表情を一切見せずに独白しきるシーンは圧巻の一語に尽きる。『 さがす 』や『 世界の終わりから 』で見せた独特の存在感を、本作でもいかんなく発揮している。

 

本作はところどころで不可思議な映像が挿入されるが、数々の伏線と共にその意味が明らかになる展開には唸らされた。これは脚本の勝利。伏線については、ぜひ目だけではなく耳も済ませてほしい。

ネガティブ・サイド

よくわからない点が二つ。1つはさっちゃんの大学。出町柳が最寄り駅ということは京都大学?あの交差点は、あの交差点やし・・・ 偏見かもしれないが、京大生が銭湯でバイトするというのは現実離れしているような。

 

2つには、洗濯機の埃やら何やらを回収するメッシュの袋。あれを好きな女子の前に持って来ることができる感性にドン引き。いや、その気持ちを否定しているのではなく、なぜこのアイテムを原作者はわざわざ選んだのか。キモイにもほどがある。

 

総評

傑作とまではいかないが良作であるのは間違いない。チケット購入時はスカスカだったのに、当日は完売していた。そして観客の大半が若いカップル。おそらくほとんど全員関大生だったのだろう。表情から満足度の高さが読み取れた。実はJovian妻も関西大学の卒業生で、法学部と文学部があるから法文坂というような蘊蓄を色々と教えてもらった。別に関大生である必要はない。若い世代、あるいはかつての青っちょろい自分が嫌いではないという人にお勧めできる作品に仕上がっている。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I know you haven’t the slightest interest in me.

直訳すれば「あなたが私に一切興味がないことを知っている」となる。劇中で非常に印象的なセリフの一つ。普通は you don’t have the slightest interest と言うが、ブリティッシュは割とhave動詞を今でも使うし、アメリカ人でもこのような表現を好む者(作家のマイケル・ルイスなど)もいる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 新世紀ロマンティクス 』
『 サンダーボルツ* 』
『 金子差入店 』

 

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Posted in テレビ, 国内Tagged 2020年代, B Rank, ラブロマンス, 伊東蒼, 日本, 河合優実, 監督:大九明子, 萩原利久, 配給会社:日活, 青春Leave a Comment on 『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』 -青春の痛々しさが爆発する-

『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

Posted on 2025年5月6日 by cool-jupiter

うぉっしゅ 65点
2025年5月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中尾有伽 研ナオコ
監督:岡﨑育之介

 

『 異端者の家 』を観るはずが、レイトショーがやっておらず、急遽こちらのチケットを購入。意外にしっかりした作りだった。

あらすじ

ソープで働く加那(中尾有伽)は、母の突然の入院治療のため、遠方の祖母、紀江(研ナオコ)の介護を一週間だけ引き受けることになる。しかし紀江は認知症のため加那のことを覚えておらず、毎回初対面のように振る舞う。そうして昼は介護、夜はソープという加那の奇妙な生活が始まって・・・

ポジティブ・サイド

めちゃくちゃ久しぶりに研ナオコを見た気がする。おそらく10年ぶりぐらいか?ナチュラルに老人になっていて、自分自身が年を取ったと実感する。そして研ナオコ演じる紀江の認知症は母方の祖母の認知症とそっくり。祖母も90過ぎてからは会うたびに「誰?どこから来た?仕事は?」と聞いてきたっけか。最初は少なからずショックを受けたが、おふくろからとある話を聞いて納得した。そしてその話とほとんど同じことを劇中でとある人物が語ってくれた。

 

本作で真に迫っていたのは紀江だけではない。他のキャラクター、特に隣家のおばさんと風俗店のボーイは際立っていると感じた。他にもホストに入れ込むソープ嬢仲間や、ソープ業界から足を洗おうという仲間も印象的だった。ああいう業界の人間関係はドライに見えてウェット、ウェットに見えてドライだと想像するが、現実もきっとそうなのだろう。

 

介護の場面でも、入浴介助のシーンだけ生き生きする加那には説得力があったし、介護のあれこれを動画で学ぶのも『 アマチュア 』と同じく現代っぽさを感じさせた。特に薬を飲むことを拒否する高齢者というのは、看護の現場でもあるあるだった。

 

加那がソープ嬢として客に忘れられること、そして孫として祖母に忘れられることの痛みを受け入れる転機は生々しかったし、それだけに説得力があった。会いに来るのを待つというのと、こちらから会いに行くということの違いをこれだけ鮮明に打ち出した作品は、ロマンスものですら珍しいと思う。

 

認知症は認知機能の衰えであって、感情は残るとされている。徘徊老人という言葉は数十年前からあるが、彼ら彼女らがどこに向かっているのかを追究しようとした作品としても本作はユニーク。昔の研ナオコを知っているオールドファンからすれば、一瞬だけだが非常に気分がアゲなショットも用意されている。

 

職業に貴賎なし。スティーブ・ジョブズの言葉を借りれば、Love what you do となるだろうか。自分を肯定できれば、相手も肯定できるのだ。

 

ネガティブ・サイド

ベッドで上半身を持ち上げてからの端座位への移行が、ぶっちゃけ下手くそだった。腕力を使ってはダメ、きゃしゃな女性なら尚更。最初にうまく行かず、そこでプロの指導動画を観る、のような流れであれば自然だった。ちなみに実践的には、自分から遠い方の相手の肩を抱いて少し自分側に引いてやり、その反動で相手を少し押す。そこで生まれた遠心力を使って、相手の尻を起点にサッと回してやるのがコツである。

 

名取さんのご高説は興味深かったものの、介護業が長かったのなら、家族が一番というのは必ずしも現実ではないと分かるはず。たとえば『 博士と彼女のセオリー 』などからも明らかだし、実際にそうだからこそ直接の家族でなくとも介護の貢献が認められた者にも相続権が認められる特別寄与制度も整備された。家族論には色々あるし、それは大いに語られるべきだが、本作のそれは少し的外れに感じられた。

 

総評

ソープと介護という一見して共通点がなさそうなものを見事に結び付けた珍品。だからといって程度が低い作品ではない。サブキャラのサブプロットも無理のない範囲で掘り下げられているし、それが主人公キャラに深みを与えている。セクシーなシーンはあっても、エロいシーンはないので、高校生、大学生のカップルでも鑑賞に支障なし。親が上手に説明できるならという条件付きで、ファミリーで鑑賞するのもありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Nice to meet you.

はじめまして、の意。初対面の相手には、まずはこれを言おう。SlackやZoomで話したことはあっても、直接に合うのは初めてという場合は、Nice to meet you in person. や Nice to meet you face to face. のように言おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』

 

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, コメディ, ヒューマンドラマ, 中尾有伽, 日本, 監督:岡崎育之介, 研ナオコ, 配給会社:ナカチカピクチャーズLeave a Comment on 『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-

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