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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: ミシェル・ヨー

『 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』 -最後に愛は勝つ-

Posted on 2023年3月8日 by cool-jupiter

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 50点
2023年3月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ミシェル・ヨー キー・ホイ・クァン ステファニー・スー
監督:ダニエル・クワン ダニエル・シャイナート

繁忙期のため、簡易レビュー。

 

あらすじ

零細コインランドリーを経営するエヴリン(ミシェル・ヨー)は、優しいがあまり働かない夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)、頑固で認知にも問題のある父やガールフレンドとの付き合う娘のジョイ(ステファニー・スー)と共に暮らしていた。税金の控除を申請するために役所に入ったところ、突如、夫のウェイモンドが「自分は別の宇宙から来た」と言い、「多くの宇宙の脅威になっているジョブ・トゥパキを倒してほしい」とエヴリンに頼んできて・・・

 

ポジティブ・サイド

MCUのフィジカルに移動できてしまうマルチバースに比べると、こちらのマルチバースは意識だけが移動する。その移動した先の別の自分から、特技だけを拝借してくるという設定は、どことなく『 マトリックス 』っぽい。

 

アジア人のミシェル・ヨーがカンフーで戦うのも絵面としてはあり。『 グーニーズ 』や『 インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説 』をリアルタイムではないが、発売直後のVHSで観ていた世代としては、キー・ホイ・クァンの銀幕への復帰は嬉しい。まるで小学校時代の友人と再会したかのようだ。

 

全編、予想の斜め上を行くコメディ展開で突き進み、最後にホロリとさせてくる。なかなかに味わい深い作品。

 

ネガティブ・サイド

アホなことをするとヴァース・ジャンプするというアイデアは笑えない。『 2001年宇宙の旅 』やら『 スター・ウォーズ 』やらをパクりまくっているが、オマージュに見えない。これらの作品は他世界ではなく、この世界のはるか昔、あるいは未来(といっても今は2023年だが)だからだろう。マルチバースもので描くのはセンスがない。

 

意識が宇宙と宇宙の間をジャンプするのはいい。だが、その意識のジャンプを観測しているアルファ・ヴァースの連中の意識はどこにあるのだろうか?そもそも、ヴァース・ジャンプに必要なイヤホン?ヘッドホン?的なアイテムはどこから来た?意識だけ到来したアルファ・ヴァース人がこっちの世界で大急ぎで作った?そんな馬鹿な。

 

生命が発生できなかった世界にも意識が飛んでいくシーンはシュール。けど、意識が岩に宿るんかな?いや、その世界にあのイヤホン?があるの?わけが分からん。

 

総評

『 スイス・アーミー・マン 』は文句なしに面白かったが、今回のダニエル・クワンとダニエル・シャイナートのコンビとは波長が合わなかった。昨年からアメリカでの評価が異様に高かったので期待していたが、裏切られた気分である。これがアカデミー賞ノミネートなら『 クレイジー・リッチ! 』もノミネートされていたはず。観賞の際は Don’t get your hopes up. 

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

all at once

「一度に」あるいは「突然に」の意味。The students stopped talking all at once. = 生徒たちは一斉に話すのをやめた、のように使う。英検準2級、TOEIC500点レベルぐらいの表現。

 

次に劇症鑑賞したい映画

『 シャイロックの子供たち 』
『 湯道 』
『 少女は卒業しない 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アメリカ, キー・ホイ・クァン, コメディ, ステファニー・スー, ミシェル・ヨー, 監督:ダニエル・クワン, 監督:ダニエル・シャイナート, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』 -最後に愛は勝つ-

『 シャン・チー テン・リングスの伝説 』 -MCU新フェイズの幕開け-

Posted on 2021年9月11日 by cool-jupiter

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210911214330j:plain

シャンチー テン・リングスの伝説 65点
2021年9月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:シム・リウ オークワフィナ ミシェル・ヨー トニー・レオン
監督:デスティン・ダニエル・クレットン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210911214346j:plain

『 ブラック・ウィドウ 』に続く Marvel Cinematic Universe の新フェイズ。明らかに中国市場を意識した作りになっているが、諸事情あって肝腎の中国では上映されないとか。なかなかの力作だけに実にもったいないと思う。

 

あらすじ

ホテルの駐車係のショーン(シム・リウ)は親友のケイティ(オークワフィナ)との出勤途中のバスで、片腕が剣になっている男に襲われる。ショーンは自らの秘めた力で応戦するが、それは彼の父の組織「テン・リングス」との闘いの幕開けだった・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210911214403j:plain

ポジティブ・サイド

冒頭からトニー・レオンが荒ぶる。テン・リングスという、まさに仙術武具とも言うべき武器の威力を見せつける。元ネタはやはり乾坤圏なのだろうか。非常にアジア的で、MCUの新フェイズを強く印象付ける。最初から最後まで悪役なのだが、MCUにちらほら出てくる小物的な悪ではなく、カリスマ的な悪のオーラを放っている。それもこれも愛する妻のためだというのが、陳腐ながら説得力あり。

 

ショーンことシャン・チーの実力発揮までも簡潔でよろしい。オークワフィナ演じるケイティとのバディっぷりを見せながら、バスの中でのいきなり格闘戦の始まりまでに無駄がない。アクロバティックな体術ながら、確かにこれなら鍛錬を極限まで積んだ人間なら出来そうなムーブで敵モブを蹴散らすのは爽快だった。ブルース・リーやジャッキー・チェンなら実際にできただろう。シム・リウには悪いが、彼らの顔を思い浮かべながら楽しませてもらった。

 

妹シャーリンとの再会と共闘もどこか『 フェアウェル 』的で、中国を市場として大いに意識しつつも、西洋文化に回収してやろうという意識を読み取れないでもない。シャン・チーとシャーリンの叔母にミシェル・ヨーがキャスティングされているのはその表れだろうと思う。CGとスタントダブル全開ながら、そのミシェル・ヨーもアクションで魅せる。とにかく一時期のWWEかと思うほど、ストーリーの緩急の緩に差し掛かると、無理やりにバトルである。ここまで開き直った作りは嫌いではない。

 

クライマックスのシャン・チー勢力 vs 父率いるテン・リングスの激突に第三勢力の登場、そしてスペクタクル満載のフィナーレへ。深く考えてはならない。『 ゴジラ FINAL WARS 』のようなものだと思うべし。人間同士のバトルと、怪物同士のバトル。つまりは派手なお祭りである。祭りなら楽しんだ者の勝ちである。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210911214418j:plain

ネガティブ・サイド

さすがにMCU映画も作りすぎてしまったか、映像やアクション面で新境地は少しは開かれているものの、構図がどれも似たり寄ったりになっていると感じる。バス車内でのバトルは『 デッドプール 』の乗用車内でのバトルを彷彿させるし、家族内の争いがそのまま世界の命運につながってしまうというのは、まんま『 ブラック・ウィドウ 』である。建設中のビルの足場でのバトルは残念ながら『 ザ・ファブル 殺さない殺し屋 』の方が先に映像化および公開をしてしまった。

ラストのバトルも、後から思い起こすと『 千と千尋の神隠し 』+『 モンスターハンター 』+『 アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー 』の足し算に見えてしまった。パッと見には真新しく見えるけれど、実は古い革袋に新しい酒ならぬ、新しい革袋に古い酒になっている。

 

未見だが、ディズニーの実写『 ムーラン 』もこんな感じなのだろうか。アジアのスーパーヒーローのMCU参戦は大歓迎だが、シャン・チーが『 ドクター・ストレンジ 』のエンシェント・ワン並みにユニークな闘い方の特徴を今後見せられるかが少し不安になってしまった。

 

総評

往年のブルース・リーの名作の数々から『 ベスト・キッド 』までの流れを汲みつつも、『 クレイジー・リッチ! 』や『 フェアウェル 』のような家族ドラマの要素も強い。アクション全開かつ満載で、何も考えなければ一気に最後までノッて行けるが、「どっかで観た構図だな、これ」とか考え出すとドツボにはまる。『 ドラゴンボール超 』のアニメ映画を観るつもりで鑑賞すべきだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

90% confident

劇中で「90%自信がある」というふうに使われていた。ここで知っておいてほしいと思うのは、【 数字+(単位)+形容詞 】という構造。最も一般的なのは I am 20 years old. や She is 155 centimeters tall. のような使い方だろう。ところがどういうわけか英会話スクール講師(日本人)の中にすら、Your student, 〇〇 san, will be late for 10 minutes. のような文章をメモやメールで使う者が多い。正しくは、〇〇 san will be 10 minutes late. である。ちなみにJovianの前の職場の日本人英会話講師は全員 late for 10 minutes を正しい英語だと判断する困った方々であった。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アクション, アメリカ, オークワフィナ, シム・リウ, トニー・レオン, ミシェル・ヨー, 監督:デスティン・ダニエル・クレットン, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 シャン・チー テン・リングスの伝説 』 -MCU新フェイズの幕開け-

『 ラスト・クリスマス 』 -ワム!のファンならずとも必見-

Posted on 2019年12月7日2020年4月20日 by cool-jupiter

ラスト・クリスマス 70点
2019年12月7日 東宝シネマズなんばにて感想
出演:エミリア・クラーク ヘンリー・ゴールディング ミシェル・ヨー エマ・トンプソン
監督:ポール・フェイグ

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英国には偉大なシンガーを生み出す土壌がある。『 イエスタデイ 』のビートルズ、なかんずくジョン・レノン、『 ボヘミアン・ラプソディ 』のフレディ・マーキュリー、『 ロケットマン 』のエルトン・ジョン、そして現代ではサム・スミス。本作はワム!、特にジョージ・マイケルの楽曲で彩られている。上に挙げた歌い手に共通するのは、愛を求めて彷徨ったということだろうか。永遠の名曲“Last Christmas”にインスパイアされた本作も、大きな愛を歌っている。

 

あらすじ

ユーゴスラビアからの移民であるケイト(エミリア・クラーク)は、“サンタ”(ミシェル・ヨー)の経営するクリスマスショップで働きながら、歌手としてデビューすることを夢見て、オーディション参加を繰り返していた。家族と疎遠であるケイトは、友人宅などを泊まり回るも、トラブルばかりで行き先をなくしてしまう。そんな時、店先に現れた不思議な青年(ヘンリー・ゴールディング)と知り合って・・・

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ポジティブ・サイド

名曲“Last Christmas”に新たな解釈を施したエマ・トンプソンに満腔の敬意を表したい。失恋からの立ち直りの歌をこうも鮮やかに再解釈するのかと唸らされた。何をどう解説してもネタばれの恐れがあるので、敢えて類似の作品を挙げるだけに留める。

 

『 ブルーアワーにぶっ飛ばす 』

『 イソップの思うツボ 』

『 思い出のマーニー 』

『 勝手にふるえてろ 』

 

パッと思いつくのは、これらだろうか。作品タイトルだけでネタばれになりかねないので、シネフィルな方々におかれては、鑑賞前に上の白字部分を読むのは自己責任でお願いしたい。

 

『 シンプル・フェイバー 』でもヘンリー・ゴールディングを起用したポール・フェイグ監督だが、そのヘンリー・ゴールディングは『 クレイジー・リッチ! 』に続いてアジアのレジェンド女優ミシェル・ヨーと共演。アジア人がメインキャストを占めて、舞台がロンドン、製作国はアメリカというところに、時代の変化を感じざるを得ない。また、主人公がユーゴスラビア移民であること、国際化・多様化が極度に進むロンドンを舞台にしていることにも大きな意味がある。そしてJovianが冒頭でF・マーキュリーやE・ジョンやS・スミスに言及したことにも意味がある。ミシェル・ヨーというマダムがメインキャストを張ることにも意味があるのである。生きるとは、助け合うことであるということを本作は高らかに宣言する。

 

エミリア・クラークは『 ターミネーター:新起動 ジェニシス 』ではウブ、『 ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー 』ではウブから百戦錬磨に、本作では逆に百戦錬磨からウブに戻って行く感じがして、非常に健康的な魅力を物語中盤からふりまくようになった。特にスケートリンクでのシーンは『 ロッキー 』でのロッキーとエイドリアンの語らいを彷彿とさせた。

 

小説『 クリスマス・キャロル 』では、スクルージは悔い改め、クリスマスは孤独に過ごすものではなく、家族と過ごすものだと気付いた。本作ではケイトも同じことに気付く。そう、これは家族の物語だったのだ。ケイトが見つけ出した家族とは誰か?それは劇場で確認して欲しい。クライマックスに楽曲と共にもたらされるカタルシスは『 リンダ リンダ リンダ 』のそれに匹敵する。

 

ネガティブ・サイド

ストーリーが本当の意味で始まるまでに、かなりの時間を要する。また、ケイトのあまりのダメ人間っぷりは、何らかの精神的な疾患もしくは障がいをも疑わせるレベルである。もしくは『 女神の見えざる手 』のスローン女史のような、セックス依存症一歩手前なのかとも考えた。終盤になってこのあたりの事情が明かされるのだが、これは少々アンフェアというか、非常に分かりづらかった。青春の真っただ中を空爆されるユーゴスラビアで恋を知らずに生きてきた反動で、bitchになってしまったのかと思ったが、そういうわけでもない。このへんの見せ方とストーリー上の秘密を、もう少し上手い具合に組み合わせるべきだった。

 

ビミョーにネタばれになるが、“Last Christmas”を一曲まるごと、どこかの場面で歌う、もしくは流してほしかった。『 ロケットマン 』でも“Your Song”がフルで流れることがなかったように、少々フラストレーションがたまる構成である。また、ワム!というよりは、ジョージ・マイケルにフォーカスした楽曲の選定になっているので、ワム!のファンは少々物足りなく感じるかもしれない。

 

総評

ジョージ・マイケルのファンにもワム!のファンにも観て欲しい。彼らのファンではない方々にも観てもらいたい。聖歌ではないクリスマス・ソングとしては、おそらくビング・クロスビーの “White Christmas” に並ぶ知名度の“Last Christmas”を聴いたことがないという人は、日本でも超少数派だろう。ジョージ・マイケルが泉下の人となって3年。この偉大なアーティストへのR.I.P.の念も込めて、是非多くの人にこの物語を味わってほしい。

そうそう、本作をきっかけにユーゴスラビアに興味を持った向きには、米澤穂信の小説『 さよなら妖精 』をお勧めしておく。

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, エマ・トンプソン, エミリア・クラーク, ヘンリー・ゴールディング, ミシェル・ヨー, ラブロマンス, 監督:ポール:フェイグ, 配給会社:パルコLeave a Comment on 『 ラスト・クリスマス 』 -ワム!のファンならずとも必見-

『クレイジー・リッチ!』 -ハリウッドの新機軸になりうる作品-

Posted on 2018年9月30日2019年8月22日 by cool-jupiter

クレイジー・リッチ! 75点

2018年9月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:コンスタンス・ウー ヘンリー・ゴールディング ジェンマ・チャン リサ・ルー オークワフィナ ハリー・シャム・Jr. ケン・チョン ミシェル・ヨー ソノヤ・ミズノ
監督:ジョン・M・チュウ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20180930202209j:plain

原題は”Crazy Rich Asians”、≪常軌を逸した金持ちアジア人たち≫の意である。ここで言うアジア人とは誰か。オープニング早々にスクリーンに表示されるナポレオン・ボナパルトの言葉、”Let China sleep, for when she wakes, she will shake the world.”が告げてくれる。中国人である。中国の躍進はアジアのみならず世界の知るところであり、その影響は政治、経済、文化に至るまで極めて大きくなりつつある。そして映画という娯楽、映像芸術の分野においてもその存在感は増すばかりである。そうした事情は、今も劇場公開中の『MEG ザ・モンスター』に顕著であるし、この傾向は今後も続くのであろう。それが資本の論理というものだ。その資本=カネに着目したのが本作である。

ニューヨークで経済学の教授をしているチャイニーズ・アメリカンのレイチェル(コンスタンス・ウー)は、恋人のニック(ヘンリー・ゴールディング)が親友の結婚式に出席するために、共にシンガポールを目指す。が、飛行機はファースト・クラス・・・!?ニックがシンガポールの不動産王一家の御曹司で常軌を逸した金持ちであることを知る。そして、ニックの母のエレノア(ミシェル・ヨー)、祖母(リサ・ルー)、ニックの元カノ、新しくできた友人たちなど、人間関係に翻弄されるようになる。果たしてレイチェルとニックは結ばれるのか・・・

本作の主題は簡単である。乗り越えるべき障害を乗り越えて、男と女は果たして添い遂げられるのか、ということである。平々凡々、陳腐この上ない。シェークスピアの『ロミオとジュリエット』(オリビア・ハッセーver >>>>> ディカプリオver)のモンタギューとキャピュレットの対立は貴族間の階級闘争であったが、本作はそこに様々に異なるギャップ、格差の問題を放り込んできた。それは例えば、『シンデレラ』に見出されるような、王子様に見初められる平民の娘という文字通りのシンデレラ・ストーリーの要素であり、男が恋人と母親の間で右往左往する古今東西に共通する男の優柔不断さであったり、同じ人種であっても文化的に異なる者を迎え入れられるかという比較的近代に特有の問いを包括していたり、また『ジョイ・ラック・クラブ』の世代の二世達がアメリカという土地で生まれ、成長してきたにも関わらず、アメリカ社会では生粋のアメリカ人とは認めらず、中国・華僑社会でも中国人とは認められない、二世世代の両属ならぬ無所属問題をも扱っている。また家父長不在の華僑家族におけるタイガー・マザー的存在、さらには、女の仁義なき戦い、将来の嫁vs姑による前哨戦および決戦までもがある。とにかく単純に見える主題の裏に実に多くの複雑なテーマが込められているのが本作の一番の特徴である。

詳しくは観てもらって各自が自分なりの感想を抱くべきなのだろうが、まだ未鑑賞の方のためにいくつか事前にチェックしておくべきものとしてタイガー・マザーと異人が挙げられる。民俗学や人類学の分野でよく知られたことであるが、異人は異邦の地では異人性を殊更に強化しようとする。横浜や神戸に見られる中華街、大阪・鶴橋のコリアンタウンなどは代表的なものであるし、在日韓国・朝鮮人が自分たちの学校を作り、民族教育を行うのも、異人性の強化のためであると考えて差し支えない。中国人には落地生根という考え方がある。意味は読んで字の如しであるが、落地成根とは異なるということに注意されたい。本作で最大のサスペンスを生むレイチェルとエレノアの対峙は、ある異人は他の異人を受け入れられるのかという問いへの一定の答えを呈示する。彼女たちは中国にルーツを持ちながらも、生まれ育った土地や文化背景を本国とは異にする者たちである。彼女たちの相克は、世代間闘争であり、経済格差間闘争であり、文化間闘争でもある。この“闘う”という営為に中国人が見出すものと現代日本人が見出すものは、おそらく大きく異なることであろう。それを実感できるというだけでも、本作には価値があると言える。

本作を鑑賞する上で、先行テクストを挙げるとするなら、エイミー・タンの『ジョイ・ラック・クラブ』であろう。Jovianの母校では、一年生の夏休みの課題の一つは伝統的にこの小説を原書で読み感想文を英語で書くというものだった。それは今もそうであるらしい。今までにチャイニーズ・アメリカン、コリアン・アメリカン、フィリピーノ・アメリカン、コリアン・カナディアン、ジャパニーズ・アメリカンらにこの小説を読んだことがあるかと尋ねたことがあるが、答えは全員同じ「俺たちのようなバックグラウンドの持ち主で読んでいないやつはいない」というものだった。映画化もされており、大学一年生の時に観た覚えがある。そこで麻雀卓を囲む母親の一人がニックの祖母を演じたリサ・ルーである。『ジョイ・ラック・クラブ』が伝えるメッセージを受け取った上で本作を鑑賞すれば、上で述べた闘争の本質をより把握しやすくなるだろう。

長々と背景について語るばかりになってしまったが、映画としても申し分のない出来である。それは、演技、撮影、監督術がしっかりしているということだ。特にニック役のヘンリー・ゴールディングとその親友を演じたクリス・パンは素晴らしい。ヘンリーは演技そのものが初めてであるとのこと。今後、ハリウッドからオファーが色々と舞い込んでくると思われる。しかし何よりも注目すべきはミシェル・ヨーである。一つの映画の中で嫌な女、強い女、責任感のある女、認める女とあらゆる属性を発揮する女優は稀だからだ。『ターミネーター』と『ターミネーター2』におけるリンダ・ハミルトンをどこか彷彿させるキャラクターをヨーは生み出した。この不世出のマレーシア女性の演技を堪能できるだけでチケット代の半分以上の価値がある。

『MEG ザ・モンスター』の原作からの改変具合、特に中国色があまりに強いことに拒否反応を示す人がいるだろうが、Jovian自身が劇場の内外(ネット含む)で聞いた残念な感想に、「なぜ皆、あんなに英語が上手なのだ?」という、無邪気とも言える疑問である。おそらくこのあたりに真田広之や渡辺謙がハリウッド界隈で日本一でありながらアジア一ではない理由がある(アジア一はイ・ビョンホンだろう)。なぜ本作の中でK-POPがディスられながらも日本文化はスシ(≠寿司)の存在ぐらいしか言及されないのか。なぜ錚々たるアジア企業やアジアの国の名前が挙げられる場で、日本の名が出てこないのか。英語というのは学問ではなく技能である。そして言語である。言語は、他者との関係の構築と調整に使うもので、特定の誰かに属するものではない。言語への無関心、そして学習への意欲の無さが、そのまま日本の国力および国際社会でのプレゼンスの低下を招いていることを、もっと知るべきだ。言語に対してアジア人たる我々が取るべき姿勢については【Learning a language? Speak it like you’re playing a video game】を参照してもらうとして、東南アジア各国は“闘争”をしているし、東北アジアでは日本と北朝鮮は“闘争”をしていないとJovianは感じる。単に時代や社会背景を敏感に写し撮った映画であること以上の意味を、アジア人たる我々が引き出せずにどうするのか。デートムービーとしても楽しめるし、深い考察の機会をもたらしてくれる豊穣な意味を持つ映画として鑑賞してもよい。台風が去ったら、劇場へ行くしかあるまい。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, コンスタンス・ウー, ヒューマンドラマ, ヘンリー・ゴールディング, ミシェル・ヨー, ロマンティック・コメディ, 監督:ジョン・M・チュウ, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『クレイジー・リッチ!』 -ハリウッドの新機軸になりうる作品-

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