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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 千と千尋の神隠し 』 -大人向けかつ子ども向けファンタジー-

Posted on 2020年8月14日 by cool-jupiter

千と千尋の神隠し 70点
2020年8月10日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:柊瑠美 入野自由
監督:宮崎駿

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200814172539j:plain
 

大学生4年生と夏休みに劇場で観た。それ以来の再鑑賞。それなりに発見できるものはあったが、『 風の谷のナウシカ 』や『 もののけ姫 』には及ばないという印象。

 

あらすじ

千尋(柊瑠美)は家族で引っ越しする途中、不思議なテーマパーク跡地のようなところに迷い込むが、そこは八百万の神々を癒す油屋だった。油屋の主である魔女・湯婆婆によって両親を豚に変えられてしまった千尋は、謎の少年・ハク(入野自由)の助力の元、油屋で働くことになって・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200814172609j:plain
 

ポジティブ・サイド

過剰なまでの色彩と、八百万の神々と言うにふさわしい多種多様なクリーチャーたち。トンネルを抜けた先にある、日本でありながら日本でないような歓楽街は、すぐそこにある異世界の存在をありありと感じさせる。ハクの言う「もうすぐ夜になってしまう」というのは、昼の町と夜の町は、全く異なる世界であることを如実に示している。「夜とは観念的な異界である」と喝破したのは山口昌夫だったか。神話的な幻想世界でありながら、公衆浴場を中心に物語が展開するので、観る側は現実離れした感覚と同時に現実的な感覚の両方を味わうことができる。

 

「子どもとは性と労働から疎外された存在」としばしば定義されるが、油屋で働くことになる千尋=千は、まさに子どもから大人に向けての階段を一歩上ったわけである。ナウシカやキキやシータ、サンの系譜のビジュアルではないが、千尋の目の描き分けには唸らされた。序盤のクルマの中の死んだ魚のような目と、最後の最後に湯婆婆に「それがお前の答えか!」と凄まれた時の自信に満ちた目の違いは、注目に値する。「男子三日会わざれば刮目して見よ」ならぬ「女子三日会わざれば刮目して見よ」である。青少年よりも、小中学生が感情移入しやすいキャラクターで、宮崎駿が常々口にする「子どものための映画」に仕上がっていると同時に、大人が観ても色々と発見ができる作品になっている。

 

『 ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 』が映画化されたのは2009年。以降、2010年代になって油屋=ホワイト企業、湯婆婆=経営者の鑑という見方が広まったが、それは確かに正しいと感じられた。湯場場の「お客様とて許せぬ!」からのかめはめ波は、日本アニメ史に残るべき、いや残すべき名シーンである。

 

カオナシという存在も興味深い。大学生当時はよく理解できない存在だったが、不惑にして思うのは、これは他人と適切な距離や関係を構築できない不器用な人間のパロディであるということである。他人の口を借りてしか話すことができず、カネの力で他者を侍らせるが、その営為の虚しさを逆に誰よりも雄弁に語ることになる存在である。官僚の用意した文章を読むしか能がない亡国・・・もとい某国の総理大臣のようにも思えるし、あるいはSNSやインターネット掲示板などでしかまともに騒げない自称インフルエンサーのようにも思える。カオナシという名前通りに、どんな顔を思い浮かべるかは観る者に委ねられているのだろう。

 

人間と神々、そして人間と魔女、人間と人間ではない者の交流が豊かに描かれ、そしてガール・ミーツ・ボーイ物語としても成立している。上々のエンターテインメントであると言えるだろう。

 

ネガティブ・サイド

ハクの声優があまりにも稚拙すぎる。というか、『 もののけ姫 』の石田ゆり子にも感じたことだが、これが宮崎駿のこだわりの結果であれば受け入れるべきなのだろうが、それにしても入野自由の voice acting はダメダメである。

 

油屋を訪れる八百万の神々があまりにもアニメチックである。もっと百鬼夜行絵巻や歌川国芳の浮世絵に出てくるような妖怪を描けなかったのだろうか。初回もそうだったし、19年ぶりに再鑑賞して感じたのは、デカいひよこの集団がキモチワルイということである。このあたりは個人の美意識の問題なのだろうが、ひよこなのに大きいとか、赤ん坊なのにボンが巨大であるというところが、生理的に受け入れづらいのである。

 

『 メアリと魔女の花 』は、本作から多大以上の影響を受けているが、ハクと千が夜空を駆けるシーンはどう見ても『 日本昔ばなし 』の龍とそれにまたがったでんでん太鼓を持った童子のパロディだとしか思えない。白竜という神秘的な存在と自立しつつある少女が天翔ける構図としてはドラマチックさにもオリジナリティにも欠けていた。

 

総評

年月を経て再鑑賞してみて、少し評価が上がった作品である。この夏、大人たちは『 風の谷のナウシカ 』や『 もののけ姫 』だけではなく、本作も子どもたちに見せてやらねばなるまい。それが大人に課せられた、特別な夏の宿題であろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Don’t be afraid.

ハクの言う「怖がるな」である。ナウシカも「怖くない」が口癖だったし、『 となりのトトロ 』のお風呂のシーンなど、怖いという感情をいかに克服するかが宮崎駿アニメの一つの裏テーマであるようだ。 be afraid of ~ = ~が怖い、は割とよく使う/使われる表現なので、英語学習者なら絶対にマスターしておきたい。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2000年代, B Rank, アニメ, ファンタジー, 入野自由, 日本, 柊瑠美, 監督:宮崎駿, 配給会社:東宝

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