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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: アニャ・テイラー=ジョイ

『 マローボーン家の掟 』 -精緻に作られた変則的スリラー-

Posted on 2020年4月21日 by cool-jupiter

マローボーン家の掟 65点
2020年4月20日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジョージ・マッケイ アニャ・テイラー=ジョイ
監督:セルヒオ・G・サンチェス

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200421164937j:plain
 

アニャ・テイラー=ジョイが出ていたら、とりあえず観る。それがJovianのポリシーである。『 1917 命をかけた伝令 』で堂々たる演技を見せたジョーイ・マッケイも英国紳士然としていて好感が持てる。これはきっと良く出来たクソホラーに違いない。そう思っていたが、どうしてなかなかの佳作であった。

 

あらすじ

辺鄙な街はずれで暮らすマローボーン家。長男のジャック(ジョージ・マッケイ)はアリー(アニャ・テイラー=ジョイ)と恋仲になっていた。しかし、母ローズが亡くなってしまう。兄弟たちはジャックが法的に成人と認めらる21歳になるまで、母の死を秘匿することを誓う。だが、虐待者であり殺人者の父の影が屋敷に迫っていて・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200421165002j:plain
 

ポジティブ・サイド

どこかロン・ウィーズリー/ルパート・グリントを思わせる顔立ちのジョージ・マッケイが輝いている。母代わりに一家を主導する者として、青春のただ中の青年として、そして父親に立ち向かう長兄として、様々な役を一手に引き受けている。『 1917 命をかけた伝令 』でも序盤はあどけなさを残しつつ、中盤のある女性との交流からエンディングまでの流れで一人前の男の顔になっていた。なんとも男前な役者である。

 

本作のテイストを一言で説明するのは難しい。『 ヘレディタリー/継承 』と『 スプリット 』と『 ジョジョ・ラビット 』を足した感じとでも言おうか。ジュブナイルで始まり、サスペンスが盛り上がり、スーパーナチュラル・スリラーのテイストが色濃く現れてくる中盤までは、まさにホラーの王道。このあたりまでは「ああ、やっぱり良く出来たクソホラーだな、こりゃ」と高を括っていた。だが、本作が本当に面白くなるのはここからである。前半~中盤ははっきり言って盛り上がりに欠ける展開だが、全てはあるプロットのためなのである。やはり白字で書くが、『 カメラを止めるな! 』とまでは行かなくとも、『 ブルーアワーにぶっ飛ばす 』ほどにはぶっ飛ばされる。悔しいなあ、こんな演出に引っかかるなんて。しかし、伏線の張り方としては、これは非常にフェアであると言える。物語のどの部分を見返しても、ちゃんと筋が通っている。

 

最終盤は山本弘の短編小説『 屋上にいるもの 』を思い起こさせる。同時に、作中の様々なキャラクターやガジェットがどれもこれも見事なコントラストを成していることにも気づかされる。またまた悔しいなあ、こんな仕掛けに気づかないとは。観終わってDVDプレーヤーのトレーを開けて、また悔しい思いをさせられた。これはジェームズ・アンダースンの小説『 証拠が問題 』を出版した東京創元社の Good job のパクリ見事な模倣、オマージュになっているではないか。借りる時にも気付けなかったのか。アニャ大好き、『 スプリット 』大好きな、このJovianが・・・

 

エンディングも味わい深い。『 ゴーストランドの惨劇 』はとてつもない悲劇だが、ある意味ではこの上なく幸せな状態でもあった。これもまた、一つの愛のカタチなのだろう。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200421165026j:plain
 

ネガティブ・サイド

日本の宣伝広報が言うような、5つの掟というのは、話の本筋でも何でもない。古くは『 ヘルハウス 』、近年では『 パラノーマル・アクティビティ 』や『 インシディアス 』といった屋敷や館に巣食う何かを呼び起こさないようにルールを守る。あるいは、その何かに立ち向かうというストーリーに見せかけているのは何故なのか。羊頭狗肉の誹りを恐れないのか。まあ、ちょっとでも下手な売り出し方をすると、本作の面白いところをスポイルしてしまうという懸念は理解できなくもないが、そこを巧みに宣伝するのが腕の見せ所というものだろう。安易なクソホラーに見せかけたPRは評価できない。

 

アニャ・テイラー=ジョイの出番が少ないし、見せ場もほとんどない。『 ウィッチ 』的な、人里離れた森でジャックら兄弟と不思議な出会い方をしたところでは、「ああ、ここからアニャがロマンスとミステリ/ホラー要素をバランスよく体現していくのだろうな」と予感させて、しかし実際はほとんど退場状態。スリラーやサスペンスの申し子のアニャをもっと効果的に使える脚本や演出があったはずだ。アリーはアリーで、母親から苛烈な仕打ちを受けていてだとか、あるいは以前に付き合った男がとんでもないDV野郎で、ジャックといい雰囲気になっても体が無意識に拒絶してしまうだとか、なにか不安感や緊張感を盛り上げる設定を盛り込めたのに、と感じる。

 

総評

一時期、高齢者の死亡を届け出ずに、年金を不正に受給し続ける世帯がたくさんあったと報じられたことがあった。まあ、今でも日本の津々浦々で起きていることだろう。それにプラスして、世界中の人間が“家に引きこもっている”という現状を下敷きに本作を観ると、なかなかに興味深い。ホラーというよりも、スリラーやサスペンスである。ホラーはちょっと・・・という向きも、ぜひ家に引きこもって観てみよう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I don’t have all day.

直訳すれば「一日全部を持っているわけではない」=「そんなに暇ではない」=「早くしてくれ」となる。取引先に電話してみたら「確認して、すぐに折り返しますね」と言われた。しかし、30分待っても1時間待っても連絡がない。そういった時に心の中で“C’mon, I don’t have all day.”=おいおい、早くしてくれよ、と呟いてみよう。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, アニャ・テイラー=ジョイ, アメリカ, ジョージ・マッケイ, スペイン, スリラー, 監督:セルヒオ・G・サンチェス, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 マローボーン家の掟 』 -精緻に作られた変則的スリラー-

『 サラブレッド 』 -一筋縄ではいかない女の友情-

Posted on 2019年10月7日2020年4月11日 by cool-jupiter

サラブレッド 65点
201910月3日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:オリビア・クック アニャ・テイラー=ジョイ
監督:コリー・フィンリー

f:id:Jovian-Cinephile1002:20191007015337j:plain

 

Jovianは『 ウィッチ 』以来、アニャ・テイラー=ジョイの大ファンである。映画ファンならば、○○が出演していたら観る、あの監督の作品は観る、あの脚本家の作品は絶対にチェックする、そういう習性があるものだろうが、アニャはJovianの一押しなのである。

 

あらすじ

感情のないアマンダ(オリビア・クック)と彼女の家庭教師を引き受けている旧友のリリー(アニャ・テイラー=ジョイ)。二人は奇妙な友情を育んでいた。そして、リリーは憎い継父の殺害計画をアマンダと共に練るようになるが・・・

 

ポジティブ・サイド

これまでも胸元を露わにする服装はちらほら着用してくれていたが、今回は遂に水着を解禁。アニャのファンは狂喜乱舞すべし。というのは冗談だが、それでもプールに潜るアニャは大画面に大いに映える。彼女はどこかファニー・フェイスなのだが、水中で目を閉じて黒髪がたゆたうに任せるアップのショットはひたすらに cinematic である。

 

オリビア・クックも魅せる。『 ラ・ラ・ランド 』でエマ・ワトソンが桁違いの演技力を見せつけたが、冒頭のリリーの住む屋敷を散策して回るシーンと、テレビを観ながら泣いて見せるシーンは、オリビアの演技力の高さを大いに物語っている。

 

監督のコリー・フィンリーは舞台の演出家で、映画の監督はこれが初めてのようだ。先に述べたアマンダの屋敷を見て回るシーンはロングのワンカットで撮影されており、カメラ・オペレーターが役者との絶妙な距離感を保ちつつ、どこか『 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 』を彷彿させるドラムを主旋律にした人間の不安を掻き立てるようなBGMが奏でられる。『 記憶にございません! 』の中井貴一と吉田羊の情事前のシーンは技術的に際立っていたが、映画的な技法としての完成度は本作のオープニングシーン(馬の後である、念のため)の方が上である。Establishing Shotの極致であり、迷走する人間関係と心理のメタファーになっている。

 

殺人を計画するにあたって、チンケなドラッグ・ディーラーを使うところもよい。やるかやらないか分からない、そんな根性がありそうでなさそうな pathetic な男と、獣性を秘めた女性たちのコントラストがサスペンスを盛り上げている。男という生き物は本質的には女の引き立て役なのかもしれない。Rest in peace, Anton Yelchin.

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ネガティブ・サイド

登場人物があまりにも少ないせいで、オリビアの感情の欠落が周囲の人間にどのように受けとめられてきたのか、あるいは受け入れられずにきたのかが分からなかった。ちょっとエキセントリックな奴、と思われるだけならいいが、「サラブレッドを殺した奴」というのはちょっと違うと思う。走れなくなった馬を安楽死させるのは、割とよく知られた事実であるし、レースに勝てず気性が穏やかな馬は、乗馬クラブに行き、レースに勝てず気性が荒い馬は動物園で肉食動物のエサにされている。これもよく知られた事実である。馬を殺したこと、その方法が残虐であったことを指してアマンダを「ヤバい奴」に認定するのはちょっと納得がいかなかった。これはJovianの実家がかつては焼肉屋で、Jovian自身も小学校6年生の時に牛の屠殺場に実際に親子で見学に行った経験を持つからかもしれない。

 

継父を殺したいほど憎く思っている背景の描写も弱い。登場シーンからして張りつめた空気が二人の間に漂っているが、そうした緊張感の漲るシーンをもう2,3か所、時間にして2~3分ほどでよいので、各所に挿入されていれば、劇中に二つ存在する真夜中のシーンのサスペンスがもっと盛り上がったのにと思う。

 

総評

女は怖い。つくづくそう感じさせてくれる。女性に対して満腔の敬意と言い知れぬ恐怖を抱くJovianのような小市民は、本作のような女の物語を非常に怖く、危うく感じる。これはネガティブにではなく、作品に対するポジティブな賛辞である。小市民男性は本作を観て、男と言う生き物のケツの穴の小ささを再確認しよう。亭主関白を自認する人は観ないことをお勧めする。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

outside the box

 

しばしば think outside the box という使い方をする。直訳すれば「箱の外で考える」だが、意訳すれば「固定観念にとらわれることなく考える」、「既存の枠組みを超えて思考する」ということ。これができるかどうかが、学生にとっても社会人にとっても、ますます重要になってくるだろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アニャ・テイラー=ジョイ, アメリカ, オリビア・クック, サスペンス, 監督:コリー・フィンリー, 配給会社:パルコLeave a Comment on 『 サラブレッド 』 -一筋縄ではいかない女の友情-

『 ミスター・ガラス 』 -内向きに爆発したシャマラノヴァース-

Posted on 2019年1月25日2019年12月21日 by cool-jupiter

ミスター・ガラス 55点
2019年1月20日 東宝シネマズ伊丹にて鑑賞
出演:サミュエル・L・ジャクソン ブルース・ウィリス ジェームズ・マカヴォイ アニャ・テイラー=ジョイ
監督:M・ナイト・シャマラン

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シネマティック・ユニヴァース=Cinematic Universeが花盛りである。アベンジャーズに代表されるMarvel Cinematic Universeに、ゴジラを中心に展開されていくであろうモンスター世界=Monsterverse、『 ザ・マミー/呪われた砂漠の王女 』の不発により始まる前に終わってしまったDark Universeなどなど。そこにシャマラン世界、すなわちShyamalan Universe、略してシャマラン・ヴァースもしくはシャマラノヴァースとも呼ばれている。今作は『 アンブレイカブル 』と『 スプリット 』の正統的続編なのである。期待に胸を膨らませずにいられようか。

 

あらすじ

フィラデルフィアには監視者と呼ばれる男がいた。警察が捉えられない悪を裁くのだ。彼の名はデイヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)。触れることで悪を感知する不死身の肉体を持つ男。その頃、ケヴィン・ウェンデル・クラム(ジェームズ・マカヴォイ)は4人の女子高生を誘拐、監禁していた。24の人格を宿す人ならざる人。この二人の出会いを待ち構えていた精神分析医のサラ。彼女の施設には狂人にして天才、極度に脆い身体を持つミスター・ガラスことイライジャ(サミュエル・L・ジャクソン)も収容されていた。彼女は彼らに、超人など存在しないということを証明しようとして・・・

 

ポジティブ・サイド

ジェームズ・マカヴォイの多重人格者の演技。これだけでチケット代の半分になる。特に9歳児のヘドウィグの演技は前作に引き続き、圧倒的である。少年の心の無邪気さと不安定さを一瞬で表現するところは圧巻。同僚のロンドナーも、「演技力では、ジェームズ・マカヴォイ >>> ベネディクト・カンバーバッチ、トム・ヒドゥルストン、マイケル・ファスベンダー」と認めている。一度演じた役とはいえ、こうも簡単にあれだけの役を再現できるのかと感心させられる。

 

そしてまさかのスペンサー・トリート・クラークの再登場。父親に銃まで向けたあの息子も、今ではすっかり父ダンのサポーター役が板に付いた。というか、子どもの頃と顔が全く変わっていない。ハーレイ・ジョエル・オスメントも面影をかなり残しているが、ジェイソン・トレンブレイも今の顔のまま大人になるのだろうか。

 

閑話休題。ビーストとダンの対決は、日本のキャラクターの対決に例えるとするなら、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 』の志々雄真実と『 魁!!男塾 』の江田島平八を闘わせるようなものだろうか?もしくは、ウルトラマンとゴジラの対決か?何が適切な例えになるのか分からないが、とにかくこの対決はシャマランファン垂涎のマッチアップなのである。一人自警団を実行していくであろうダンには強力なライバルが必要だった。しかし、普通の人間ではとうていダンには歯が立たない。であるならば、普通ではない人間が必要となる。バットマンがジョーカーを呼び寄せたように。またはスーパーマンにとってのレックス・ルーサーのように。それにしても、今作を観てやっと前作『 スプリット 』における駅と花束の意味が分かった。だからこそ本作のタイトルは『 ミスター・ガラス 』なのだ。誰よりも弱い身体を持つが故に、その頭脳は誰よりも冴える。何という男なのだろうか。演じ切ったサミュエル・L・ジャクソンにも脱帽だ。

 

ネガティブ・サイド

これはネタばれだが、特にメジャーなネタばれでもないので書いてしまう。一体全体、催眠ストロボとは何なのだ?いや、原理はどうでもいい。9歳児のヘドウィグならまだしも、デニスやバリーやパトリシアまでもが、「目をつぶる」という余りにも簡単な回避方法を思いつかないのは何故だ?

 

前作であれほどまでにベティ・バックリー演じるカウンセラーに自らの存在する意味、全ての人格は主人格のケヴィンを守るために存在するのだと、ビーストはケヴィンの究極の守護者なのだと確信していたにも関わらず、謎の研究者のほんの少しの言葉で、なぜあれほどまでにパトリシアたちは動揺するのか。同じことを描くにしても、前回のような本格的な、徹底的なカウンセリングシーンが欲しかった。これではフレッチャー博士も浮かばれない。

 

また本来の主人公であるミスター・ガラス、イライジャの天才性と狂人性の描写がもう一つ弱かった。いや、天才性は最後に爆発したが、『 アンブレイカブル 』で階段から落ちながらも、とある事柄を確認したことで浮かべた不気味極まりない笑顔。あれに優る狂気の表情が見られなかったのはマイナスだろう。イライジャの思考はそれが思い込みであれ、信念であれ、確信であれ、誰よりも強い。その想念の強さと大きさを宿したようなアクションまたは表情がどうしても見てみたかったが。

 

最後に個人的なネガティブを一つ。ケイシーを演じたアニャ・テイラー=ジョイの出番が少ない。Jovianは彼女とヘイリー・スタインフェルド推しなのである。

 

総評

色々と腑に落ちないこともあるが、『 アンブレイカブル 』がデイヴィッド・ダンがスーパーヒーローとして覚醒する物語で、『 スプリット 』はスーパーヴィランの誕生物語だった。狂人ミスター・ガラスはスーパーヒーローなのか、それともスーパー・ヴィランなのか。それは観る者が直接その目で確認すべきなのだろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アニャ・テイラー=ジョイ, アメリカ, サスペンス, サミュエル・L・ジャクソン, ジェームズ・マカヴォイ, ブルース・ウィリス, ミステリ, 監督:M・ナイト・シャマラン, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 ミスター・ガラス 』 -内向きに爆発したシャマラノヴァース-

『 スプリット 』 -多重人格ものの傑作にしてシャマラン復活の狼煙-

Posted on 2018年5月21日2020年1月10日 by cool-jupiter

題名:スプリット 75点
場所:2017年5月21日 東宝シネマズ梅田にて観賞
主演:ジェームズ・マカヴォイ アニャ・テイラー=ジョイ
監督:M・ナイト・シャマラン

*注意 本文中に本作のネタバレあり

M・ナイト・シャマランの映画は当たりと外れの落差が大きすぎる。しかし、本作は当たりなので安心して観賞してほしい・・・と言えないのが難しいところ。まず『スプリット』を本当の意味で理解し、咀嚼するためには『シックス・センス』、『アンブレイカブル』、『サイン』の全て、もしくはいずれかを観ておかなければならないからだ。

ストーリーは単純で、ジェームズ・マカヴォイ演じる正体不明の男がアニャ・テイラー・ジョイ演じるケイシーを含む女子高生3人を誘拐・監禁するところから始まる。そこで彼女らは自分たちを攫った男はDID(dissociative identity disorder)=解離性同一性障害、つまりは多重人格であることを知る。複数の人格の中には若い女性、9歳児、デザイナー、屈強な成人などがおり、中には話の通じる人格、上手く利用できそうな人格として現れるものもいるのだが、どういうわけケイシーはあまり動揺を見せず、淡々と状況に対処し、9歳児を上手く騙す手前までは行く。ここに至って観る者は「何故ケイシーはこの状況に対処できるのか」と不審に思うが、巧みに挿入されるケイシー自身の過去のフラッシュバックが徐々にその全体像を現わしてくることで、彼女の冷静さや強かさに納得できてしまう。

マカヴォイは定期的にカウンセラーと会いながらも、カウンセラーを欺こうとする。その一方で彼女の理解や協力を得ようとする動きも見せるなど、誘拐・監禁と同じく、観る者に疑念を植え付けていく。同時にビーストという人格の出現を予期させるも、カウンセラーは当初、「それはファンタジーである」として受け容れない。一体、このストーリーはどこに向かって進んでいくのか、観客が予測をつけられないままにビーストが出現し・・・

というのが大筋だが、詳しくは観て確かめてもらうしかない。賞賛すべきは、まず何と言っても複数人格を見事に演じ分けたジェームズ・マカヴォイに尽きる。圧巻なのは物語中盤のカウンセラーとの面談シーンで、数十秒、時には数秒間隔で人格を切り替えてみせるという離れ業を成し遂げた。また終盤にも人格が次々に入れ替わりながら心の声を叫んでいくというシーンは鳥肌もの。またこの時のカメラワークは恐ろしいほど完ぺきな角度とタイミングでマカヴォイの表情を捉えている。練りに練られて撮影されたシーンで、映画製作の時のお手本として取り上げたくなるような名シーンだった。

ケイシー役のアニャも負けていない。9歳児を巧みに操縦したかと思えば、その9歳児の迫力に圧倒されてしまうのだが、恐怖を飲み込む演技が非常に上手い。恐怖していることを9歳児には悟らせないように、しかし観る者に非常に分かりやすい形で伝えるという、矛盾する演技を堪能させてくれる。またそのシーンで9歳児バージョンのマカヴォイがダンスを披露してくれる。不気味さという点では、劇中随一だ。シャマラン監督に言わせると、死んでしまった人格がそのダンスを通じて蘇ってくることを表現しているとのことで、実に不安を掻き立てるワンシーンに仕上がっている。

物語の締めには何とデイビッド・ダンが登場し、ミスター・グラスに言及する。この瞬間、あるシャマラン信者は歓喜したであろうし、あるシャマラン信者は茫然自失したであろう。『スプリット』は『アンブレイカブル』の世界のスーパーヴィラン誕生の物語であり、この多重人格男は次回作でアンブレイカブルを体現するD・ダンことブルース・ウィリスとの対決が決定しているのだ。ダンがこの多重人格男に触れた時、一体何を読み取るのか、そして狂人ミスター・グラスは何をたくらみ、仕掛けてくるのか。今から2019年の新作『グラス(仮題)』公開が待ち遠しい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アニャ・テイラー=ジョイ, アメリカ, ジェームズ・マカヴォイ, スリラー, 監督:M・ナイト・シャマラン, 配給会社:東宝東和Leave a Comment on 『 スプリット 』 -多重人格ものの傑作にしてシャマラン復活の狼煙-

『 モーガン プロトタイプ L-9 』 -父親殺しの失敗作-

Posted on 2018年5月20日2020年1月10日 by cool-jupiter

題名:モーガン プロトタイプ L-9 40点
場所:2017年8月 レンタルDVDにて自宅観賞
出演:アニャ・テイラー=ジョイ ケイト・マーラ ミシェル・ヨー
監督:ルーク・スコット

巨匠リドリー・スコットの息子ルークの監督作品、となればある種の期待と一抹の不安を抱いて観賞に臨まざるを得ない。ましてテーマが人工生命。人工知能をいきなり通り越して人工生命ともなれば、そこで描かれる物語は、倫理、技術、文化、文明、政治、経済などを何かしらの形で反映させていなければならない。ちょうど『エイリアン』の世界では、超長距離貨物宇宙船が現代の貨物船ぐらいのノリで描かれていたように、人工生命の前段階にあるであろう、ロボットや人工知能についてもある種の説得力を以ってその存在を示唆してくるであろうと予想していた。そしてその予想は裏切られた。父を殺そうとして失敗する息子は大洋の向こうにもこちら側にもいるものである。

はっきり言って、出てくるキャラの行動が全て不可解すぎる。特に主役の人工生命モーガン(アニャ・テイラー=ジョイ)と面談セッションを持つ男性があまりにも非合理的で、モーガンが危険であるというよりも、モーガンというプログラムにバグを人為的に生じさせるのが狙いなのかと勘繰ってしまうほどだった。

SFサスペンス、もしくはSFスリラーの趣を漂わせながら進んで行くのが、ある時点からSFアクション映画になってしまうのも残念なところ。この手の失敗の最大級の見本としてはトム・クルーズ主演の『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』が挙げられる。元々はホラーであることが期待されていたはずが、開始2分でアドベンチャーを予感させ、その1分後にはアクション物になり、ようやくホラーの雰囲気が漂ってきたところでコメディ要素を放り込み、中盤から終盤にかけてははモンスター映画になるという、まさに軸が定まらない話だった。

本作はそこまで迷走はしていないものの、観る者が抱く予感を悪い意味で裏切ることが多い。また副題にもう少し細工を凝らしても良かったのではないか。普通に考えれば、プロトタイプL-1からL-8はどこに行った?となるだろう。

色々と酷評してしまったが、光る部分もある。それはやはりアニャ・テイラー=ジョイ。元々は『スプリット』を劇場観賞して、驚天動地のエンディングに打ち震えたのだが、結末と同じくらいアニャ・テイラー=ジョイの演技にも感銘を受けたし、将来性も感じた。無邪気でなおかつ残酷さも秘める少女から、弱さと強かさを同居させるキャラまで演じてきたが、なかなか二面性のある役というのは演じ切れるものではない。それをキャリアの若い段階でこれほど立て続けにオファーが来ているというのは、やはり業界でも注目の若手として高く評価されているのだろう。今後も応援をしていきたい女優である。というわけで、本作はアニャ・テイラー=ジョイのファンにだけお勧めできる映画である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SF, アニャ・テイラー=ジョイ, アメリカ, 監督:ルーク・スコット, 配給会社:20世紀フォックスLeave a Comment on 『 モーガン プロトタイプ L-9 』 -父親殺しの失敗作-

『 ウィッチ 』 -魔女映画の新境地-

Posted on 2018年5月20日2020年1月10日 by cool-jupiter

題名:ウィッチ 70点
場所:2017年7月 シネリーブル梅田にて観賞
主演:アニャ・テイラー=ジョイ
監督:ロバート・エガース

魔女映画の傑作(公開当時)と言えば『 ブレアウィッチ・プロジェクト 』が想起される。レンタルビデオで観た時はあらゆるシーンの意味が分からず、その場でもう一度見直したら、いくつか背筋が凍るような場面があった。ホラー映画は一部の傑作を除いてあまり楽しむことはそれ以来なかったが、本作は久しぶりの個人的ヒットであった。

冒頭、主人公一家が追放されるシーンの直後に森の遠景を映し出す、いわゆるEstablishing Shotがあまりにも暗く、家族の今後の生活に暗雲が立ち込めていることを明示していた。

しばらくは平穏に過ごす家族に、しかし災いが訪れる。赤ん坊がいきなり消えてしまうのだ。その場で子守りをしていたアニャ・テイラー=ジョイ演じるトマシンは家族の中で立場を失っていく。

この作品を観賞する上では、アメリカの家族文化やキリスト教に関する一定の理解があることが望ましい。それによって主導的な役割を果たそうとする父親を見る目が大きく変わってくるだろう。

本作では魔女が何度かその姿を見せる。時に不気味な老婆であったり、時に妖しい美女であったりと、観る者をも惑わせる。魔女は姿を変えるのか、と。姿かたちが特定できない魔物のような存在を描いたホラーの傑作と言えば『遊星からの物体X』が思い出される。一人また一人と隊員が死んでいく中で、誰が”The Thing”であるのかが分からないのが最大の恐怖。それと同じように、家族は次第に疑心暗鬼に駆られていく。中盤においては双子の妹が重要な役割を担うが、彼女らを見ていて不覚にもニコラス・ケイジ版の『ウィッカーマン』を思い浮かべてしまった。時に幼い少女の無邪気さほど邪悪なものは無いということを我々は思い知らされてしまう。

物語が進む中で、ついにはトマシンの弟も魔女の手にかかり死んでいくのだが、このシーンは筆舌に尽くしがたい恐ろしさを醸し出すことに成功している。観る者は魔女の呪いの恐ろしさと、家族の反応の異様さの両方に恐怖を感じるであろう。魔女がもたらす災いにより家族が崩壊していく様を目の当たりにすることで、人間が本質的に恐れるのは人間ならざる者ではなく、人間そのものであることが露わになる。そのことは実は、冒頭で共同体から追放される家族自身がすでに経験していることでもあったのだ。人間関係の崩壊、それこそが本作のテーマであると思わせておきながら、しかし思いもよらぬ結末が待っている。この結末をあるがままに受け取ることによって、劇中の魔女の不可解さが説明される。それと同時に、ある肝心なシーンが意図的に映し出されていないことが別の解釈の余地を観る者に与えている。この映画の視聴後の虚脱感はヘレン・マクロイの『暗い鏡の中に』を想わせる。こちらも同工異曲の小説で、かなり古い作品ではあるものの、現代にも通じる面白さを秘めている。

本作で他に注目すべきは、音楽の恐ろしさと英語の古さ。一瞬の不協和音でびっくりさせてくるようなこけおどしではなく、脳に響いてくる不協和音とでも言おうか。また英語の古さがリアリティを与え、非現実的な物語に逆に更なる深みを与えることに成功している。カジュアルな映画ファンにはキツイかもしれないが、スリラーやサスペンスが好きな向きにもお勧めしたい一本。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アニャ・テイラー=ジョイ, アメリカ, カナダ, ホラー, 監督:ロバート・エガース, 配給会社:インターフィルムLeave a Comment on 『 ウィッチ 』 -魔女映画の新境地-

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