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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 国内

『 アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 』 -内野聖陽のベストアクト-

Posted on 2024年12月12日 by cool-jupiter

アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 70点
2024年12月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:内野聖陽 岡田将生 小澤征悦
監督:上田慎一郎

 

『 カメラを止めるな! 』の上田慎一郎監督作品ということでチケット購入。

あらすじ

税務署員の熊沢(内野聖陽)は詐欺師の氷室(岡田将生)に大金をだまし取られてしまう。親友の刑事の手を借りて氷室を追っているところ、氷室の方から返金と協力の申し出が。熊沢の追っている巨額の脱税犯、橘(岡田征悦)からカネを詐取してやると言って・・・

ポジティブ・サイド

これは内野聖陽のキャリアの中でもベストの演技である。人情味を持った税務署員であり、若手の良き先輩・上席であり、良き夫、良き父であり、友情にも篤い男である。様々な顔を見せつつも、その奥底に秘めた芯の強さが感じられた。すまじきものは宮仕えとは言うが、公務員ながらも上司にくらいつく気概にはサラリーマンとしてしびれた。

 

地面師が世間をにぎわせたのはかなり前だが、そのニュースのインパクトは巨大だった。なので、本作を鑑賞する多くの層も積水ハウスの事件を念頭に置いて鑑賞したはず。つまり、詐欺師側を応援・・・とは言わないまでも、どのような手口で大企業=金持ちを騙すのか、興味津々だったことは間違いない。

 

実際にあの手この手で橘に近づき、旨そうな土地をちらつかせ、その取引の場をでっちあげる。その過程も真剣に、かつ面白おかしく描かれる。特に〇〇〇〇業者の男がポイントで、この男が無邪気に・・・おっと、これ以上はやめておこう。

 

多士済々の詐欺師軍団はさながら『 オーシャンズ11 』のようだが、上田慎一郎監督はここに自身の大好きな芝居の要素をふんだんに盛り込んだ。詐欺師軍団全員で役を演じるのだ。小道具大道具に衣装にエキストラ(友情出演)まで使って、ていねいに相手をはめていく。そのプロセスが小気味よくて楽しい。途中で冷や汗ものの展開もあるが、そこはお約束である。

 

公務員でもサラリーマンでもなんでもいい。組織の中でがんじがらめの人間が、アウトローと組んで勧善懲悪を果たす。そんな物語も時には一服の清涼剤である。

 

ネガティブ・サイド

ある程度、ミステリやクライム・ドラマを観ているなら、トリックもオチも早い段階ですべて読めるだろう。好意的に表現すればフェアだが、ニュートラルに表現させてもらえればチープである。今回のトリックはかなりチープだった。

 

岡田将生は『 ゴールド・ボーイ 』と演技がまったく一緒。特に笑い方。これはもうどうしようもないのか。ある意味、トム・クルーズが常にトム・クルーズを演じるように、岡田将生も常に岡田将生を演じることを目指すべきなのかもしれない。

 

とある秘密の遊興クラブにアングリースクワッドの面々が続々と入りこむが、ここはあまりに非現実的だった。客の素性はまだしも、こういう場所はスタッフの身元こそ何よりも重要なのではないか。あまりにも簡単に入り込めていたのが解せない。または詐欺的なトリックでなんとかしてしまうシーンを挿入しても良かったのではないか。



総評

『 スペシャルアクターズ 』とある意味で同工異曲の作品ながら、主人公の内野聖陽が多面性のあるキャラクターを好演して物語全体を力強く牽引した。ドンデン返しにきれいに騙されるも良し、ドンデン返しの伏線を見破るために目を凝らして鑑賞するも良し。デートムービーにもなるし、ファミリーでの鑑賞も可。しかし実は本作が一番刺さるデモグラフィックは『 トップガン マーヴェリック 』と同じく、仕事に疲れを感じることの多い中年男性なのかもしれない。内野聖陽に自己を投影する男性はきっと多いはず。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

evade

回避する、の意。日常生活ではあまり使わない。戦争ゲームだと “Incoming missile, evade!” =「ミサイル接近、回避せよ!」みたいに使われている。自民党のお歴々はパーティー券の売り上げを申告せず、収入を過少申告し、結果として evade taxes = 脱税をしていた。Many LDP lawmakers are accused of tax evasion connected to political fundraising events. =多くの自民党議員が政治資金パーティー関連の脱税で非難されている、のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 他人は地獄だ 』
『 対外秘 』
『 地獄でも大丈夫 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, クライムドラマ, 内野聖陽, 小澤征悦, 岡田将生, 日本, 監督:上田慎一郎, 配給会社:JR西日本コミュニケーションズ, 配給会社:ナカチカピクチャーズLeave a Comment on 『 アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 』 -内野聖陽のベストアクト-

『 ごはん 』 -米作りと親子の再生-

Posted on 2024年12月4日 by cool-jupiter

ごはん 75点
2024年12月1日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:沙倉ゆうの 源八 福本清三
監督:安田淳一

 

『 侍タイムスリッパ- 』の安田淳一監督が同作の沙倉ゆうのを主演に製作した2017年の作品。近所でトークイベント付きで上映されるということでチケット購入。

あらすじ

東京で派遣社員として働くヒカリ(沙倉ゆうの)は京都の叔母から父の訃報を受ける。葬儀のために故郷へ戻ったヒカリは父が30軒分の水田を引き受けていたことを知る。父の弟子、ゲンちゃん(源八)は足を骨折しており、他の面倒を見られる者は誰もおらず・・・

ポジティブ・サイド

米作りの苦労がリアルに伝わってくる作品。同時にその苦労がゲンちゃんというシリアスなコミックリリーフによって笑いに還元され、あるいは西山老人(演じるのは福本清三!)によって労わられることでドラマとしても深みを増している。特にゲンちゃんの気取った発言はどれもこれも笑える。対照的に西山老人の語る言葉はどれも深い。特に彼が開陳する歴史観は、しばしば列伝体で歴史が語られる本邦においては非常に貴重なものである。また「○○の扱いなら任せとけ」という台詞は一種のメタ発言にもなっていたのも面白かった。

 

一方で米作りを通して見えてくる景色も確かにある。特に日本の原風景は山、森、川、海だが、そこに田園を加えてもいいかもしれない。そう思わせるほど本作は田んぼの見せる美しさを活写していた。苗代に始まり、田んぼの稲、そして稲穂と姿を変えていく中で、力強い緑から黄金の輝きまで、季節とともに変わる稲の美しさをとことん追求していた。また音にも注目(注耳?)されたい。緑の稲が風にそよぐ音、出穂した稲が風にそよぐ音も非常に心地よい。その音を聞くだけで稲の色までが目にありありと浮かぶようである。まさにサウンドスケープである。

 

コメを作るには八十八の手間をかける必要があることからコメは米と書くと小学校で習ったが、本作はそうした手間についても一つひとつ丁寧に、しかし決して説明的にならずに解説してくれる。水の出し入れのタイミングやその量、狙いなどはまさに目からうろこだった。

 

故人の仕事を通じて亡き父の想いを知るというプロットはありふれている。しかし、その仕事が農作業だというのはユニーク。そしてヒカリ自身が稲穂を見つめる目線が、そのまま父が自分に注いでいた眼差しだったと知るという筋立ても、ベタベタではあるが美しい。

以下、上映後のトークイベントや今後の展開について

 

米作りは監督自身の経験が反映されているとのこと。そして、80代の農家の後を60代がなんとか継いでいるというのが日本の現状のようで、国が何とかしないと日本の米作りは滅びる恐れがあるとのこと。NHKの『 歴史探偵 』でも米作りの回があったが、農業、就中、米作りについて真剣に考える必要があるようだ。

 

『 侍タイムスリッパ- 』や本作は、まずは年明けから配信、その後に円盤化される方向で話が進んでいるとのこと。Blu rayになったら購入しようかな。

 

実は福本清三の奥様は、旦那の出演作が観たことがないらしく、本作の剛毅朴訥な農民の姿を観て「あれが本物の福本です」と語ったとのこと。『 ラスト サムライ 』のあれが実像に近いわけではなかったのね・・・

 

劇中でヒカリが絶妙なタイミングで吹き出すシーンがあるが、沙倉さん本人に「演技ですか、アドリブですか?」と尋ねたところ、演技だったとのこと。

 

安田監督に今後の展望を尋ねてみたところ「僕はいつか『 男はつらいよ 』(実際は『  フーテンの寅さん 』と言っていた)をリブートしたい」と語ってくれた。令和の時代にあんなキャラを復活させても大丈夫か?と思ったが、寅さんは昭和の時代でも(愛すべき)迷惑キャラだったわけで、キャラの芯さえしっかりしていてスポンサーもつけば、案外うまく行くアイデアかもしれない。

ネガティブ・サイド

稲作以外にも農業といえば重労働のイメージがある。サラリーマンのように一日8時間労働で年間休日124日などと決まっているわけではないからだ。というよりも農繁期と農閑期の差が激しいと考えるべきか。いずれにせよ世の大半のサラリーマンの労働とは大きく異なる。そのあたりのギャップに戸惑い、疲労するヒカリを描くという選択はなかったか。

 

もう一つ気になったのがBGMの多用。風にそよぐ稲の姿とその音だけで十分に映画なのに、なぜかそこにBGMがかぶせられていた。監督は色々と手直しをして、足すべきシーンは足して削るべきは削ったそうだが、絵だけではなく音を削ることも考慮してほしかった。Sometimes, less is more.

総評

Jovianが大昔に引っ越した先の岡山県備前市では三十数年前、小学校低学年が学校の行事として田植えをしていた(Jovianはしなかった)。今思えば、貴重な機会を逃したのかもしれない。米作りを通じて、日本の歴史、日本の原風景を体験できるし、本作を通じて親子の精神的な和解の物語を追体験できる。あちこちで散発的に上映しているようなので、機会があれば鑑賞してみてはどうだろうか。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

straw hat

麦わら帽子の意。strawとは藁のこと。某漫画のキャラクターだったり、あるいは某歌手のマリーゴールドを思い出す人もいるだろう。Jovianも備前の祖母を思い浮かべると、麦わら帽子がセットで思い出される。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 他人は地獄だ 』
『 アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 』
『 オン・ザ・ロード 〜不屈の男、金大中〜 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 沙倉ゆうの, 源八, 監督:安田淳一, 福本清三, 配給会社:未来映画社Leave a Comment on 『 ごはん 』 -米作りと親子の再生-

『 最後の乗客 』 -追憶と忘却-

Posted on 2024年12月2日 by cool-jupiter

最後の乗客 70点
2024年11月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:冨家ノリマサ 岩田華怜
監督:堀江貴

 

評判の良さにつられてチケット購入。

あらすじ

タクシードライバーの遠藤(冨家ノリマサ)は、深夜の街道で謎めいた女性客を拾う。その直後、路上に小さな女の子と母親の2人が飛び出してきた。事故にはならなかったものの、車が動かなくなってしまい・・・

ポジティブ・サイド

東日本大震災から10年後の設定。55分と短く、登場人物もわずか数人。劇中でもわずか一晩(回想シーン除く)しか経過しない。その限られた時間と空間で濃密なドラマが展開された。ストーリー自体はよくあるもので、Jovianは割と早い段階で「ああ、アン・ハサウェイ出演のあれと同じか」と感じ取れた。

 

ただ本作の価値はストーリーの秀逸さではなく、その陳腐さにある。親子のミスコミュニケーション、親子のすれ違い。そんなものはたいていの人間が経験する。問題は、そんな陳腐な日常が大災害で突然に崩されてしまった時、どうなるのかということ。

 

『 侍タイムスリッパ- 』の冨家ノリマサがタクシー運転手にして頑固一徹の中年オヤジを好演。謎の乗客の女性は岩田華怜は陰のある演技で印象を残した。東日本大震災は「忘れない」、「風化させない」という言葉と共に語られてきたが、阪神淡路大震災(Jovianは幸いにも直接の被災者ではないが)では、あまりそのような言葉は用いられなかったと記憶している。その違いの要因の一つに前者には津波があり、後者には津波がなかったということが挙げられる。言い換えれば、前者は行方不明者多数、後者は死体の確認がしっかりできた、ということである。『 あまろっく 』で阪神大震災の描写があったが、あれはJovianがその後に尼崎や神戸の親戚や友人知人から聞いた反応と同じ。すなわち「生き残ってしまった」、「あの人は死んでしまった」という後悔の念。それが転じて「もう忘れたい」と吐露する友人にJovianは当時かける言葉を持たなかった。

 

死んだかどうか不明だが死亡したものと見做すという世界では『 風の電話 』のような伝説が生まれる。それはそれで美しい。その一方で「忘れたい」という想いを吐き出すことが許されなかった空気も当時は存在したのではないか。そうした想いに寄り添う作品が発災後十年以上を経て作られたことには大きな意味がある。作られた大きな枠組みのドラマではなく、どこのだれか分からない、しかし確実に存在する個人のドラマは平凡で陳腐であるがゆえに荒唐無稽を超えたところでリアリティを有する。

 

ネガティブ・サイド

照明や音響は残念ながら低レベルだったと言わざるを得ない。映画の画的には仕方ないが、タクシー車内だったり、大通りから外れた深夜の小さな街道だったりの不自然な明るさはもう少し何とかならなかったか。『 ちょっと思い出しただけ 』のように、そこらへんをリアルに描出できた作品もあるだけに照明担当と監督にもう少し頑張ってほしかった。まあ、自主映画に求めすぎだとは思うが。

 

舞台というか世界というか、それが何であるかを間接的に説明する台詞が発せられるが、その台詞がかなり直接的。もう少し抽象的にできたのではなかったか。

 

総評

エンタメとして面白いではなく、ドラマとして面白い。商業映画が時たま見せるカッコつけたシーンや台詞が一切ない。大震災という悲劇を感動劇の材料にせず、しかし海は常世の国にもつながっているのだと実感させるエンディングにはえも言われぬ重みを感じた。エンドロールもある意味で衝撃的。Every picture tells a story, don’t it?

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

move on

いくつかの意味がある句動詞だが、ここでは Cambridge の to accept that a situation has changed and be ready to deal with new experiences = 状況が変わったことを受け入れ、新しい経験をすることに備える、という意味を紹介したい。She’s married now. It’s time to move on. = 彼女はもう結婚してるんだ。そのことを受け止めて次へ進むんだ、のように使う。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, ファンタジー, 冨家ノリマサ, 岩田華怜, 日本, 監督:堀江貴, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 最後の乗客 』 -追憶と忘却-

『 正体 』 -トレーラーは避けるべし-

Posted on 2024年12月1日 by cool-jupiter

正体 60点
2024年11月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:横浜流星
監督:藤井道人

 

藤井道人監督作品ということでチケット購入。

あらすじ

死刑囚の鏑木慶一(横浜流星)が脱走、警察の目をかいくぐり、仕事をしながら逃走を続けていた。逃亡先で出会う人々と交流を深めながらも正体がばれて逃げ続ける鏑木。彼にはある目的があり・・・

 

ポジティブ・サイド

そもそも逮捕・勾留されている犯罪者がそんなに簡単に逃げられるのかと思うが、Jovianは大阪の富田林署から脱出し、数十日の逃走後に山口県で捕まった男性を思い出した。なので鏑木の逃走劇およびその後の潜伏にもリアリティを感じることができた。

 

最初の潜伏先がなにわ万博の建設現場だというのも生々しい。『 BAD LANDS バッド・ランズ 』や『 さがす 』で描かれた西成区のような場所は、素性も経歴もどうでもいい日雇い労働者の供給先だからだ。我が町尼崎の南の方も昔はそうだった。

 

まるで韓国映画であるかのように警察が無能だが、その根源は松重豊演じる警視総監?または捜査一課長。推測することしかできないが、『 拳と祈り -袴田巖の生涯- 』の袴田さんもそんないい加減な采配で犯人扱いされたのではなかっただろうか。

 

追う刑事の山田孝之の芝居も抑制的でよかった。台詞ではなく表情や行動で内なる想いを表出させていたのが印象的。特に記者会見で、すぐ横にいる上司への不信感と国民に対する謝罪および協力の呼びかけをするためのプロフェッショナルの顔を両立させていたのは見ごたえあるシーンだった。

 

SNSから身バレし、しかしSNSを活用することで注目を集め世論を喚起する。まるで最近のどこぞの県知事選のようだが、終盤の立てこもりにもリアリティが認められた。

 

鏑木と交流するキャラの中では吉岡里穂演じる記者の父親役が印象に残った。以前の勤め先で京都弁護士会所属の大御所二人が痴漢に間違われた際の対応について、一人は「身元を明らかにして立ち去る」、もう一人は「その場にとどまって弁護士を呼ぶ」だった。なので弁護士が対応を誤ることもありえるし、実際にこうした描写を入れることで鏑木についた弁護士が無能だった、あるいは対応を誤ったと間接的に示す効果もあった。

 

ネガティブ・サイド

普通に考えて、逮捕から死刑の確定までが早すぎる。弁護士が超絶無能だったとしか考えられない。衣類に残る血痕の量や、実際の血液型鑑定などをすれば鏑木が犯人ではない可能性は相当に高いはず。警察および検察はどう証拠を捏造したというのか。警察は鏑木の育った施設をマークするよりも、担当弁護士の事務所および自宅をマークすべきと考えるべきではなかったか。

 

吉岡里帆と同居するようになってからの流れがやや雑だと感じられた。アラサーのバリキャリ女子が二十歳少々の若造を居候させていく中で、偶発的に、または意図的に背中のやけどの跡を見るとか、もう少し那須(で漢字は合っている?)の「正体」に関わるヒントを提示すべきだった。

 

鏑木が逃亡中に一重まぶたにするシーンがあったが、次の瞬間にはもう二重に戻っていた。いくらなんでも編集が乱暴すぎると感じた。

 

とある介護施設が重要拠点になるのだが、これも割とすぐにメディアあるいはフリーランサーが突き止めそうなものだが。実際に調査力に秀でた嫌な個人記者も出てきているのだから。

 

兎にも角にもトレーラーがほとんど全部ネタバレだった。物語上の重要なシーンや台詞の多くがすでにトレーラーにあり、重要なシーンの流れや台詞がすべて分かってしまい、正直なところかなり白けてしまうことが多かった。予告は宣伝会社・担当が作るのかな。『 六人の嘘つきな大学生 』のトレーラーも決して良くない出来栄えの上にネタバレが潜んでいた。トレーラーも藤井道人監督自身が手掛けてはどうか。

 

総評

予告編を一切観ることなく鑑賞すれば印象は全く違ったはず。決して直接的ではないが、それゆえに力強いメッセージを発するという藤井監督の演出は随所で光っている。それゆえにストーリー展開の意外性が損なわれたことが余計に残念に感じられる。トレーラーは正式には teaser trailer と言う。tease とは「焦らす」の意味。情報は小出しにしてナンボ。これから鑑賞する人は可能な限り事前情報をカットして鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

be on the run

逃走中である、の意。警察や敵兵から逃げている状態を指す。ちなみに潜伏中であるという場合はbe in hidingがよく使われる。英語の映画ではニュースのアナウンサーがよく使っている表現である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 他人は地獄だ 』
『 最後の乗客 』
『 アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, ヒューマンドラマ, ミステリ, 日本, 横浜流星, 監督:藤井道人, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 正体 』 -トレーラーは避けるべし-

『 六人の嘘つきな大学生 』 -ミステリ部分があまりにも弱い-

Posted on 2024年11月25日2024年12月30日 by cool-jupiter

六人の嘘つきな大学生 30点
2024年11月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:浜辺美波
監督:佐藤祐市

 

浜辺美波が主演ということでチケット購入。

あらすじ

人気企業スピラリンクスの新卒採用で最終選考に残った嶌衣織(浜辺美波)ら6人の大学生は最終課題であるグループディスカッションに向けて団結して協力していた。しかし課題は急遽変更となり、採用枠は1名に限定された。さらに、最終課題の当日、部屋では謎の封筒が見つかり・・・

ポジティブ・サイド

密室で次々に明かされる就活生のダークサイド。そして、崩れていく友情。その展開はサスペンスフルだった。

 

就活が一種の戦争であることはバブル崩壊以降、もはや常識。本作は『 何者 』同様に人間の裏側を描きながら、佐藤祐市監督の過去作『 キサラギ 』的な密室でのディスカッションの面白さもあった。

ネガティブ・サイド

まずスピラリンクスという会社が意味不明。新人でも年俸一千万円が可能って、どんな企業やねん。コンテンツクリエーション系の企業なら10,000千円/年は十分可能だが、一年目からは不可能やで。

 

10,000人から6人採用とすると、倍率1667倍となる。んなアホな。1,000人から6人なら166倍で、これなら超人気企業としてリアルな数字となる。

 

関東の錚々たる大学が実名で出てくるが、学生の描き方がステレオタイプすぎると感じた。これが『 あのこは貴族 』や『 愚行録 』のように、特定の大学だけにフォーカスするならまだしも、これだけたくさんの大学を色眼鏡を通じて描き出していいのか。特に早稲田と慶應はあまりに典型的過ぎて笑ってしまった(良い意味ではない)。

 

スピラリンクスも、採用の最終段階がトンデモな方向に行っているのに何の介入も行わないとはどういう料簡なのだ?警察や金融機関への就職ちゃうねんぞ・・・

 

一番の不満点としてミステリ部分の弱さが挙げられる。原作小説は未読だが、映画と同じトリック(?)なのか。JR中央線の武蔵境または東小金井を大学生時代に最寄り駅としていたJovianは劇中のとある矛盾に一発で気付いた。立教や明治の学生が気付かないわけがないだろう。

 

また複数の大学で実際に教えていた者として言わせてもらえば、学校から学校への移動というのは、校門から校門への移動を指すのではない。教室から教室への移動を指すのだ。劇中での学生たちが言う移動時間は、実質的には20分ぐらい足りない。

 

それにしてもこの犯人、行動力がありすぎて笑ってしまう。そこまで調べるとなると、全員とは言わないまでも一人、二人ぐらいの耳にはその活動が届くに違いない。特にとある重要書類には苦笑いするしかなかった。これを見せてもらえるぐらいに信頼を得るには、あまりにも時間が足りないはず。催眠術でも使ったのか。

 

終盤、パスワードロックされた媒体が出てくるが、これに対するヒントがアンフェアではなかったか。「犯人が好きなもの」ではなく「犯人が愛したもの」はmisleadingすぎる。そこで自分の好物を入力する衣織にも喝!それがお前の愛なんか・・・

総評

コロナ後(と言っていいかどうかは分からんが)の就活模様ということで、洋画『 エグザム 』が元ネタなのかも?原作小説の評価は高いので、映画化に際して色々と削ってしまったのだろう。浜辺美波ファン以外にお勧めするのは難しい。大学生がこれを観てリアルな就職活動だと思わないことを切に願う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

job-hunt

就職活動する、の意。I will start job-hunting as soon as I come back from France to Japan. =「フランスから日本に帰国次第、就活を始めるつもりだ」のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 他人は地獄だ 』
『 最後の乗客 』
『 正体 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ミステリ, 日本, 浜辺美波, 監督:佐藤祐市, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 六人の嘘つきな大学生 』 -ミステリ部分があまりにも弱い-

『 オアシス 』 -乾いた心を潤すものは-

Posted on 2024年11月21日 by cool-jupiter

オアシス 70点
2024年11月17日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:清水尋也 高杉真宙 伊藤万理華
監督:岩谷拓郎

 

兵庫県知事選の結果がショッキングだったので、簡易レビュー。

あらすじ

ヤクザのヒロト(清水尋也)がクスリの売人を締めたことで、半グレ集団と一触即発になってしまう。そこにはヒロトの幼馴染みの金森(高杉真宙)も属していた。しかし、二人の共通の幼馴染みの紅花(伊藤万理華)が戻ってきたことが事件につながってしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

『 さがす 』で鮮烈な印象を残した清水尋也がヤクザ者を好演。歩き方、目つき、タバコの吸い方など時代錯誤と思えるほどにステレオタイプなヤクザで、令和の今となっては逆に新鮮だった。また痩せ型の長身なのもプラス。無言の威圧感がある。『 クローズ 』でまったく怖くない不良を演じていた東出昌大とは対照的。高杉真宙も『 ギャングース 』同様の軽いチンピラ役が板についていた。

 

かなり血なまぐさいシーンが多いのも個人的にはプラス。『 終末の探偵 』ではギャグにしか見えなかったヤクザ者同士の果たし合いも、本作はドラマチックに見せることに成功していた。

 

ネガティブ・サイド

組長の息子が警察にとっ捕まっていないのが不思議でしょうがない。白昼堂々とあんな犯行を過去に行っていたら、いくらなんでも逃げ切れるものではないと思うが。それとも日本も『 チェイサー 』で描かれたように、場末の風俗嬢が消えてもほとんど誰も気づかない社会になりつつあるという意味なのだろうか。

 

総評

欲しいものなどない。今を生きていられればいい、という若者たちの刹那的なドラマが悲しくもあり、羨ましくもある。はっきり言って未来も何もない終わり方なのだが、中年Jovianは何故か清々しさを感じた。生きた証を残す、生きた実感を得るために必要なのは、生きた年数ではなく生きた密度なのかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

stab

刺すの意。刃物で刺す時はだいたい stab を使えば間違いない。stab someone in the back と言えば、「人の背中を刺す」と「背後から刺す=裏切る」の意味がある。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 他人は地獄だ 』
『 最後の乗客 』
『 ドリーム・シナリオ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, 伊藤万理華, 日本, 清水尋也, 監督:岩谷拓郎, 配給会社:SPOTTED PRODUCTIONS, 青春, 高杉真宙Leave a Comment on 『 オアシス 』 -乾いた心を潤すものは-

『 本心 』 -サブプロットを減らすべし-

Posted on 2024年11月16日 by cool-jupiter

本心 50点
2024年11月10日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:池松壮亮 田中裕子 三吉彩花 妻夫木聡
監督:石井裕也

 

AIとVRの組み合わせという、まさに今の仕事に近い領域のストーリーだと思い、チケット購入。

あらすじ

石川朔也(池松壮亮)は入水自殺しようとする母・秋子(田中裕子)を追って川に入ったことから昏睡状態に。一年後に目を覚ますも、母は自由死を選択していたことを知る。世界は様変わりしており、朔也はリアル・アバターとして働き始める。ある時、母のVirtual Figureを作れると知った朔也だが・・・



ポジティブ・サイド

人工知能やVR技術が徐々に一般に浸透してきている。企業がRAGを使って、顧客対応botを作ったり、あるいは自社マニュアル参照インターフェースをAIボットにすることも珍しくなくなった。すでに中国やアメリカでは、本作で描かれているようなサービスもあるという記事も目にした。原作小説は2021年に初版、ということは平野啓一郎は2018~2019年代にはかなり具体的な本作の構想を練っていたものと思われる。2018年はGPT元年と歴史家に認定されるだろうと予測されているが、平野の作家として炯眼を持っていると言わざるを得ない。

 

特にVF制作会社CEOの妻夫木の演技が際立って上手い。目線、ちょっとした表情、佇まいに底知れなさを感じさせ、まったく「本心」が見えない。『 ある男 』では抑制されていた内面が、本作では非常にうまく押し殺されているがゆえに、かえってそれに気づく。しかし、その中身までは見透かせないという絶妙なバランスの演技だったように感じた。

 

『 PLAN75 』と似たような世界観が構築されている点でも原作者の眼力が目立つ。先の衆議院選挙で国民民主党が大躍進したが、その当主の玉木雄一郎は増大する一方の医療費削減のために尊厳死を提唱していた。スキャンダルでどうなるのか分からないが、一定数の国民が自由死を望む未来はあってもおかしくない。

 

リアル・アバターという職業も、技術の過渡期には存在してもおかしくない。実際にUber Eats的なサービス供給網と、YouTubeやFacebookなどのリアル配信技術とVRさえあれば可能そう(セキュリティはひとまず考えないものとする)だし、Jovianもコロナ中に妻とZoomでタージ・マハルのツアーに参加したことがある。同時通訳の技術も上がってきた今、国内よりも海外に需要がありそうなサービスで、十分にリアリティを感じた。

ネガティブ・サイド

ストーリー周辺はリアルだったが、肝心のストーリーがリアルではなかった。というよりもリアルである必要はなかったのに、リアルにしようと詰め込んで失敗したという感じか。サブ・プロットが多すぎると感じた。

 

幼馴染みかつ工場でもリアルアバターでも同じ同僚の男はいらない。社会の格差が広がっていくにつれ、人間と人間の関係もギスギスしたものになることを訴えたいのだろうが、本物の人間以上に人間らしいVFを作る、そしてそのVFと交流することが話の本筋であるべきで、社会の変化、人間の変化はもっとさりげなく描写するだけでよかった。

 

イッフィーさんというキャラクターも不要というか蛇足だった。おそらくアバターを使って告白するという行為の不自然さを訴えたいのだろうが、それがいかに野暮であるかを朔也に直に語らせてどうするのか。そういうことは、それこそ観ている者の想像に訴えるべきだ。『 ゴジラ-1.0 』でも佐々木蔵之介が「これからの日本はお前らに任せたぜ」と言葉にしてしまっていたが、そういうことは表情で訴えるだけでいい。なんでもかんでも言葉で説明するのは文芸の手法。いくら原作が小説だからといって、映画にまで文芸の技法を持ち込む必要はない。

 

序盤の綾野剛役のVFや、それと交流する生身の人間をもう少し映し出してほしかった。特にVFが持つ死の意識は非常に示唆的で「受動意識仮説」を思わせるものだった。母が死を選んだ理由が知りたいのなら、VFが持つ死の観念を開陳してほしいと願うのは求めすぎではないだろう。

 

個人的に最も見たかったのは、VF同士が相手をVFだと認識しないままにコミュニケーションするシーンと、それを生身の人間が目撃した際に感じるだろうグロテスクさ、あるいはそれがVFだと気付けないことに対するグロテスクさを体験してみたかったが・・・

 

総評

結論、親の心子知らず。触れ合えない対象に答えを求めるのではなく、触れ合える相手を求めようという、ありきたりな教訓ドラマだった。ヒューマンドラマは畢竟、人間とは何か、人間とはどうあるべきかを追究する試みで、テーマ自体はどれも陳腐。すべては見せ方なのだ。本作はその意味で見せ方がとにかく稚拙だ。石井監督の「語りたい」欲求が強く出過ぎた作品と言える。まあ、それも結局は波長が合うかどうかだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

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今でこそアバターは普通の言葉になったが、映画『 アバター 』の頃は意味を知っている人はほとんどいなかったと記憶している。本来は「化身」という意味でヒンドゥー教や仏教の概念。劇中でVirtual Figure(架空人形)とされたものがAction Figure(可動人形)との対比になっていると思えば、リアル・アバターという用語にもリアリティが感じられる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ヴェノム:ザ・ラスト・ダンス 』
『 オアシス 』
『 シングル・イン・ソウル 』

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, D Rank, ヒューマンドラマ, 三吉彩花, 妻夫木聡, 日本, 池松壮亮, 田中裕子, 監督:石井裕也, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 本心 』 -サブプロットを減らすべし-

『 つぎとまります 』 -新人バス運転手の成長物語-

Posted on 2024年11月10日 by cool-jupiter

つぎとまります 50点
2024年11月9日 シアターセブンにて鑑賞
出演:秋田汐梨
監督:片岡れいこ

 

『 惡の華 』、『 リゾートバイト 』で準主役だった秋田汐梨が、京都を舞台にした映画の主役を張るということでチケット購入。

あらすじ

保津川美南(秋田汐梨)は、日本一のバス運転士になるという夢を実現させるため、かつての地元、京都・亀岡のバス会社に就職する。教習と失敗を通じて徐々に成長していく美南は、ある時、自分が運転士を目指すきっかけになった運転士と再会するが・・・

 

ポジティブ・サイド

パイロットが呼気検査に引っかかってフライトが延期というニュースは数年に一回あるように思う。一方でバス運転手の呼気検査というのは新鮮だった。えらい大事になるようで、公共交通機関で働くということのプロフェッショナリズムが垣間見られた。

 

路線沿線の過疎化、それに伴う赤字化などの問題も、軽くではあるが触れられていたところも良かった。亀岡という京都市のすぐ隣でもそうした事態が進行中であるということは、地方の中核都市のすぐ近隣も同様ということ。バス運転士の給料カット、バス路線廃止、さらに万博用のバス運行のためだけに交野市のバス路線を廃止した維新の会を勝たせた大阪府民は、本作を観て何かを感じ取ってほしい。

 

それは半分冗談として、ビルドゥングスロマンとしては標準的な出来に仕上がっている。教習担当、同僚、上司、友人、常連客と登場人物も多士済々。大型車両をセンチメートル単位で操るシーンもあり、匠の技を見せてくれる。大昔、東京の三鷹市や小金井市に住んでいた頃は小田急バスに時々乗っていたが、今にして思えば、よくあんな図体の車両をあんな細い道路だらけの住宅地で右折左折を軽々行っていたバスドライバーたちはプロだったのだなあと思い起こされた。『 パターソン 』をもう一度観てみようかな。

 

『 しあわせのマスカット 』でも重要なモチーフになった西日本豪雨は本作でも取り上げられた。鉄道網が充実しているところに住んでいると気が付かないが、ちょっと田舎に行けば電車は基本的に一路線だけ。そこが寸断されてしまえば高校生やサラリーマンはお手上げ。バスの運転士もエッセンシャル・ワーカーなのだと気付きを与えてくれるストーリーには、日本中のバス運転士が喝采を送るのではないか。

 

オカルト的な展開も、割とまっとうに着地する。変に恋愛要素を入れずにビルドゥングスロマンに徹したのも好判断。

 

ネガティブ・サイド

バス運転手のプロフェッショナリズムは感じられたが、具体的な技術論がほとんどなかった。唯一あったのが、ある信号から次の信号までゆっくり走ればちょうど青のタイミングになるというものぐらい。これとて、道路事情や信号の時間調整次第ですぐに覆ってしまう。たとえばミラーの角度の調整だとか、西日があたる時間帯の姿勢の取り方だとか、そういったものが欲しかった。「周りをよく見てしっかり判断」とか、実際には何も言っていないに等しい。

 

新人というか、若い世代、あるいは女性という面で美南が役に立つという場面も必要だった。たとえば現金ではなくキャッシュレスで運賃を支払おうとして手間取る高齢者にてきぱきと対応するとか、あるいはバス利用する高校生たちのちょっとした変化に気づいてあげられるとか、そうした適性や成長過程を見せていれば、上司に直訴するシーンにもう少し説得力や迫真性が生まれていたかもしれない。

 

越境バスを描くのもいいが、もっと域内交通の足としての側面を強調してほしかった。バスは基本的には近距離移動の足なのだから。たとえば京都パープルサンガの試合前、試合後の観客の移動は大部分はJRおよびマイカーが担うだろうが、地域の小中学校生やサッカー少年少女を招待する場合にはバスが使われることが多いだろう。そうした地域密着型バスとしての側面をもっと強調すれば、亀岡のご当地ムービーとしての完成度を高められたと思う。

 

総評

明智光秀ファンのJovianにとって亀岡と福知山は、ある意味で非常になじみのある場所。そこを舞台に、バス運転手という誰もがなじみのある職業でありながら、その実態があまり知られていない存在に光を当てようという企画は買い。惜しむらくはストーリーにリアリティがない、演技が大袈裟、地元アピール不足だったことか。京都、大阪の人間なら応援の意味も込めて鑑賞するのもありだろう。本当は40点だが、秋田汐梨が可愛かった&亀岡が舞台ということで10点おまけしておく。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Does this bus go to … ?

劇中で一瞬英語も使われていた。「このバスは・・・に行きますか?」の意味だが、こういう場合は未来形ではなく現在形を使う。英語の現在形は、現在の状態だけではなく、性質や習慣性を表す時にも使われる。Will this bus go to … ? だと「このバスは・・・に行く予定(予定は未定であって決定ではない)ですか?」のようなニュアンスとなり不自然。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ヴェノム:ザ・ラスト・ダンス 』
『 オアシス 』
『 本心 』

 

現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

I am now slowly phasing over to https://jovianreviews.com. This site will continue to be updated on a regular basis for the time being.

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 監督:片岡れいこ, 秋田汐梨, 配給会社:パンドラLeave a Comment on 『 つぎとまります 』 -新人バス運転手の成長物語-

『 スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム 』 -テロパート以外は見え見え-

Posted on 2024年11月6日 by cool-jupiter

スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム 40点
2024年11月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:成田亮 千葉雄大 クォン・ウンビ 大谷亮平
監督:中田秀夫

 

『 スマホを落としただけなのに 』、『 スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼 』の続編。

あらすじ

殺人鬼にして天才ブラックハッカーの浦野(成田亮)は、韓国の地下組織ムグンファからの依頼で日韓首脳会談の妨害工作に動いていた。一方、内閣官房サイバーセキュリティ室に出向中の刑事・加賀谷(千葉雄大)に内通者バタフライの存在も伝えて・・・

 

ポジティブ・サイド

日韓首脳会談を狙ってテロを起こすというのは、ありえなくもない話。そこで使われる手法(それが現実的かどうかはさておき)も、なかなか意表を突くものになっていた。浦野のそうした天才っぷりと同時に、今でも麻美に執着する変人っぷりも描き方のバランスも悪くなかった。

 

主人公が加賀谷ではなく浦野になっていたのも、これはこれでありだろう。『 ボーダーライン 』では主役はエミリー・ブラントだったが、『 ボーダーライン ソルジャーズ・デイ 』では主役はベニシオ・デル・トロに変わっていた。

 

日本人が韓国語を、韓国人が日本語をしゃべりまくる映画。個人的には大谷亮平と佐野史郎は頑張っていた。成田亮の韓国語は普通。つまり上手い。韓国人のクォン・ウンビの日本語は『 新聞記者 』、『 ブルーアワーにぶっ飛ばす 』のシム・ウンギョンより少し下手、という程度。つまり、まあまあ上手かった。

ネガティブ・サイド

バタフライの正体やら加賀谷の妻の思わせぶりな言動など、作り手が観る側をミスリードしたいのは分かるが、何もかもがバレバレで笑ってしまう。冒頭のシーンでも、普通に無名の俳優を使えなかったのか。

 

内閣官房サイバーセキュリティ室もお粗末。Jアラートが発令されながら、室長が「うち?外務省?」と出所を確認するのは二重の意味で滑稽。ひとつはアラートの内容>アラートの発令者という関係を取り違えているところ。もう一つは外務省がJアラートなど出すわけがないということ。

 

公安やら警察の面々が日韓首脳の警護を仰せつかりながら、その真っただ中、しかもフェイクテロに引っかかった直後に別の任務を帯びて韓国に飛ぶなどということがあるものか。元大阪府警のJovian義父が観れば憤慨するか、あるいは頭を抱えることだろう。

 

スミンというキャラとの関係を通じて浦野の人間性を追究しようとする試みは悪くないが、そこにソーシャルエンジニアリングの天才という一面が見られなかった。なぜそこまで早い段階でスミンは組織ではなく浦野に従ってしまったのか。逆にスミンが組織を裏切るような伏線が、実際に裏切った後に出てくるのもおかしい。

 

佐野史郎が出てきたあたりで、エンディングはだいたい予想できた。それは別にいい。問題は、肝心のブツのクオリティがさっぱりだったこと。道具係に時間と予算がなかったのか。それとも単に腕が今一つだったのか。

総評

もはや「スマホを落とす」とは関係のないストーリーだが、浦野と加賀谷の物語に一応の決着はつくので、それを見届けるのはありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント韓国レッスン

フェジャン

会長の意。ちなみに社長はサジャン。漢字と音がなんとなく結びつくのが感じられるはず。韓国語の面白いところは、フェジャンニム、サジャンニムのように役職の後にニム=様をつけるところ。Jovianも大学によっては Sir と呼ばれたり、ソンセンニム=先生様と呼ばれたりしていた。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 破墓 パミョ 』
『 ヴェノム:ザ・ラスト・ダンス 』
『 つぎとまります 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, クォン・ウンビ, サスペンス, 千葉雄大, 大谷亮平, 成田亮, 日本, 監督:中田秀夫, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム 』 -テロパート以外は見え見え-

『 拳と祈り -袴田巖の生涯- 』 -対岸の火事と思うなかれ-

Posted on 2024年10月29日 by cool-jupiter

拳と祈り -袴田巖の生涯- 75点
2024年10月26日 第七藝術劇場にて鑑賞
出演:袴田巌 袴田秀子
監督:笠井千晶

 

ボクシングファンの端くれとして、ずっと応援していた袴田巌さんが先月、遂に無罪確定。そこで本作の公開ということでチケットを購入。

あらすじ

1966年6月、強盗、殺人、放火事件の犯人として袴田巌氏は死刑判決を受ける。しかし、証拠や警察の取り調べ方法に疑義が残ることから、姉の秀子さんや支援者は再審を訴える。だが、司法が動くのに約50年の歳月を要して・・・

ポジティブ・サイド

袴田事件に関する予備知識ゼロ、あるいは2024年9月の袴田さん無罪確定のニュースを一切知らずに本作を鑑賞する向きはない。そうした読みから、袴田事件の概要や、いかに証拠として提出された衣料品が馬鹿げたものであるかを殊更に主張はしない。笠井監督のこの演出は、特に秀子さんが静岡県警本部長に掛けた言葉を考えると、正解だったと思う。

 

また笠井監督自身が冤罪に関して何らかの言葉を述べることはなく、袴田秀子さん、巌氏の二人を中心に、事実だけを淡々と映し出していくスタイルを選択したことも賢明だった。たとえば作中で医師が袴田氏の血糖値が高すぎることを注意するシーンがあるが、秀子さん自身はその日の夕食をスキップさせるぐらいで、基本は袴田さんの行動にはノータッチである。それは、医師であろうと肉親であろうと、無理やり言うことを聞かせてしまうと、警察や検察と同じ愚を犯すことになるからだ。

 

ニュースに触れている人なら袴田さんが重篤な拘禁反応を呈していることは知っているはず。本作はそこを包み隠さず映し出してしまう。普通の刑務所なら、規則正しい生活、規則正しい食事、規則正しい労働・運動、規則正しい睡眠に加えて、囚人仲間との交流が得られる。ただし死刑囚は独房生活。つまり孤独。畢竟、ストレスがたまり、精神的に追い詰められる。冤罪被害者なら尚更である。

 

袴田さんはカトリックに救いを見出した。作中での袴田さんの言動全てを理解するのは難しいが、その行動原理の大きな部分をキリスト教が占めているのは間違いない。彼の脳内ではAgnus Dei, qui tollis peccata mundi = この世の過ちを取り除きたもう神の仔羊よ、と常に讃美歌が流れているのである。つまり、自分が死ぬことで、その他の衆生(これは仏教用語だが)が救われるという理屈で、自分をイエスと同一視しているわけだ。自分は死ななくなったというのは、死んでも復活すると言っているのである。

 

そうした袴田さんの姿に現実逃避を見出しても、あるいは不屈の闘志を見出してもいい。宗教の持つ力を見出してもいいだろう。しかし、決して忘れてはならないのは姉の秀子さんと多くの支援者たちの存在だ。袴田さんは元ボクサーだ。アマチュアの強豪で、プロでも年間19試合をしたというタフガイだ。日本のボクシング界の関係者が陰に日向に袴田さんを支援しようとする姿に一菊の涙を禁じ得なかった。またカナダのルービン・❝ハリケーン❝・カーターの映像まで見られるとは正直思っていなかった。笠井監督の行動力の視野の広さには脱帽である。

 

意味不明の言葉を発することが多い袴田さんだが、ボクシングに関してはきわめてまっとうな発言が多かった。印象に残ったのは「ボクシングに魂をかけているかどうかは見れば分かる」、「結局はいかにナックルパートを当てるか」、「前に出てくる相手を止めるにはジャブとワン・ツー」など(ちなみに現代だと、ジャブ、ワン・ツー、カウンターで止めるとされている)。本人は現役時代に近距離ファイターだったようだが、指導者を志しただけあって、当時としてはかなりしっかりした理論を持っていたのだ。最初は拒否していたグローブをはめて、スクリューの入った左フックを見せる袴田さんが微笑みを浮かべているところは決して見逃さないようにしたい。

 

それにしても国家、特に検察の硬直した姿勢には辟易する。元裁判官は涙ながらに謝罪し、静岡県警本部長も極めて儀礼的ながら謝罪した。しかし検事総長は袴田氏を犯人扱いする談話を発表し、名誉棄損にあたるのではないかと物議をかもしている。検事総長と言えば賭けマージャンの黒川検事長が思い出される。検察は身内や政治家、上級国民は過剰に保護するが、一般庶民にだけは厳しいという現実をわずか数年前に見せつけられていたので、今回の談話にも驚きは少ない。

 

袴田巌氏88歳、姉の秀子さんは91歳。二人の今後の人生に幸多かれと願う次第である。Dona eis requiem. 

ネガティブ・サイド

警察の取り調べの録音は、あんなものだったのだろうか。殴る蹴る水をぶっかけるなどがあったはず。あるいは、そこだけ録音を止めていたかも。いずれにせよ、昭和中ごろの警察とは思えないマイルドな取り調べだった。他にもっと警察の横暴を感じさせる箇所はあったのではないか。あるいは、存命者は少ないかもしれないが、当時の捜査員などを取材できなかったか。別に袴田事件そのものについて尋ねなくてもいい。当時はとにかく怪しい奴を見つけたら無理やり引っ張ってきて、自白するまで追い込むことは珍しくなかったという実態を語ってもらえれば、後は観る側が判断する。

 

もう一つ、刑務官OBへインタビューもできなかったのだろうか。顔や声は当然隠してOK。刑務所の中の囚人の実態をより客観的に知るには、こうした人々へのアプローチも必要であるように思う。熊本裁判官が顔出しで判決の舞台裏を暴露したのは法曹としてはアウトなのだろうが人間としてはセーフ。そうした意味で粘り強く取材すれば、袴田氏のことではなく囚人一般について語ってくれれれば、反省する人間、しない人間のことが少しわかり、また反省しない人間というのは極悪人なのか、それとも反省すべきことがない人間なのではないかということまで考えるきっかけになっただろう。

 

総評

まさに今、出るべくして出たドキュメンタリー。作中でルービン・カーターがいみじくも指摘した通り、袴田さんの身にこのようなことが起きたのなら、自分の身にも起こるかもしれない。そうなってしまった時、自分は闘えるだろうか。自分には支持者がいるだろうか。鑑賞中も鑑賞後も、ずっと自問自答している。国家権力と闘い続けたという点で、袴田巌氏は日本のモハメド・アリであると評したい。ボクシングファンのみならず、広く一般市民に観てもらいたい作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

free

日本語にもなっているフリーという語だが、品詞も意味も多岐にわたる。本作では Free Hakamada! のスローガンで使われていた。これは動詞で「~を自由にする、解放する」の意味。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ぼくのお日さま 』
『 破墓 パミョ 』
『 トラップ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ドキュメンタリー, 伝記, 日本, 歴史, 監督:笠井千晶, 袴田巌, 袴田秀子, 配給会社:太秦Leave a Comment on 『 拳と祈り -袴田巖の生涯- 』 -対岸の火事と思うなかれ-

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