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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 国内

『 宝島 』 -エンタメ性がやや不足-

Posted on 2025年9月28日2025年9月28日 by cool-jupiter

宝島 60点
2025年9月27日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:妻夫木聡 永山瑛太 窪田正孝 広瀬すず
監督:大友啓史

 

3時間超の作品と知って尻込みしていたが、ついにチケット購入。沖縄尚学の甲子園優勝の年に公開されるというのは、ある意味でとても縁起がいい。

あらすじ

1952年の沖縄で、米軍基地に侵入し、物資を奪う戦果アギヤーのオン(永山瑛太)、グスク(妻夫木聡)、レイ(窪田正孝)たちは、ある夜、ついに米軍兵に見つかってしまう。必死で逃げおおせたものの、オンは行方知れずとなる。時は流れ、グスクは刑事に、レイはヤクザに、オンの恋人のやまこ(広瀬すず)は教師になって・・・

ポジティブ・サイド

沖縄が飲み込まされてきた理不尽の数々が活写されている。本土に捨てられ、アメリカに踏みにじられる。それも弱い立場の女性や子どもほど。戦果アギヤーの面々が単なる愚連隊ではなかったのは、こうした人々への思いやりがあったから。グスクが刑事として情報源に孤児たちを使うのは非常にクレバーでシャーロック・ホームズ的。逆に言えば沖縄は産業革命後期のロンドンと同じく、貧富の差が拡大し、政治的に取りこぼされた人々を多く生んでいたのだ。沖縄の人々の大半はそうした構造的な苦境に立たされていたわけで、その責任は日本政府と米軍の両方にあったことを本作は余すことなく見せつける。

 

難しいのは、沖縄経済は米軍からのカネに支えられており、基地の存在および一定数存在する頭のおかしい米兵の存在を必要悪として許容できるかどうかという部分。これについて米兵狩りをする組織と、特飲街を仕切るヤクザの間に緊張が生じているという形で描写されており、非常に巧みだと感じた。一方で米兵の婦女暴行や交通事故、果ては飛行機の墜落や毒ガス漏洩など、治外法権状態の沖縄の人々の心情は察して余りある。これを必要経費だと割り切っていいのか。

 

人権や民主主義が絵空事でしかない中で、沖縄の人々が本土復帰を目指していく。グスク、レイ、やまこはそれぞれ異なる立場でその過程に身を投じていく。詳細は書けないが、一貫しているのは日本政府の主体性の無さ。アメリカを刺激するような動きは注視するが、沖縄の本土復帰を支援することはない。沖縄は「本土に復帰する」が、日本は「沖縄を回復する」というのが政治的には正しい表現。しかし、日本政府は「沖縄が本土に復帰」と表現する。香港の時もそうで、当時Jovianは高校生だったが、新聞の見出しはどれも「香港返還」だった。主語が欧米側=視点が欧米側なのだ。本作を鑑賞して米軍や米兵の横暴に対して憤りを覚えるのは正しい。しかし、それは実は我々の多くが無意識に沖縄に向けている意識と同じところから生じている事態だということには自覚的であるべきだろう。

 

クライマックスのコザ騒動と、その最中の嘉手納基地侵入は非常にサスペンスフルだった。こうした暴動を単なる歴史の一ページと思ってはならない。ある程度の年齢の人であれば2011年夏の英国の暴動を覚えているだろうし、2020年のジョージ・フロイド死亡事件に端を発した全米のデモと暴動は、その後のBlack Lives Matter運動につながったのは記憶にたらしいところだ。暴動を肯定するわけではないが、昔の沖縄は大変だったのだなという誤った感想は決して抱いてはならない。

 

ネガティブ・サイド

まず何よりもエンタメ性が足りない。というか、上映時間の長さによってエンタメ性が希釈されてしまっている。たとえばグスクが大柄な変態米兵を逮捕しようとするシーンで、塚本信也演じる相棒とコメディっぽいやりとりをしたり、その米兵に反撃されたりするシーンがあるが、そういうものは不要。ここだけで30秒はカットできると感じた。色々と間延びしていたシーンを引き締めれば30分はカットできたはず。

 

通訳はそれなりに頑張っていたが、決定的におかしなところも多かった。特に最初にアーヴィンがグスクに接触してきたシーンで、He’ll be properly interrgogated. I’ll see to it.のように発言していたのを「適切に立件されるようにする」と訳していたが、interrogateは取り調べするという意味で、立件するでは決してない。他にも Nothing more,

 nothing less. を「身分をわきまえろ」と訳したりするのも、二人の友情や信頼を破壊しかねない意訳。また、アーヴィンがまだ話していない部分も先に日本語に訳している箇所もあった。

 

宝が何であるのかが明らかになる過程はスリリングだったが、その宝が( ゚Д゚)ハァ?という形で消えていくのは原作通りなのだろうか。また、序盤にこれ見よがしに出てきた洞窟が伏線になるかと思いきや、あんな台風の多い地域であんな残り方はないわ・・・ 終わり方でとんでもなく損をしている作品だと感じた。

 

総評

映画として面白いかと言われればやや微妙。しかし本作には『 福田村事件 』と同じく、日本の映画界も韓国のような本格的な社会派映画を(再び)作れるようになってきた契機の一本として数えられるポテンシャルがある。沖縄の歴史ではなく、現在進行形の日本史および世界史だと思って鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

This is no fucking joke!

作中の某シーンでのグスクのセリフ。字幕では「嘘じゃないぞ」みたいな感じだったが、実際は「冗談で言ってるんちゃうぞゴラァ!」みたいな感じ。ただ実際にこれを言えるシチュエーションとこれを言えるような関係性の相手を両方持つことは難しい。ということで日常もしくは仕事ではだいたい同じ意味の “I am dead serious.” =「俺は大真面目だ」を使ってみよう。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 妻夫木聡, 広瀬すず, 歴史, 永山瑛太, 監督:大友啓史, 窪田正孝, 配給会社:ソニー・ピクチャーズ, 配給会社:東映Leave a Comment on 『 宝島 』 -エンタメ性がやや不足-

『 蔵のある街 』 -ご当地映画の佳作-

Posted on 2025年9月25日2025年9月25日 by cool-jupiter

蔵のある街 75点
2025年9月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中島瑠菜 山時聡真
監督:平松恵美子

 

岡山県倉敷市のご当地映画ということでチケット購入。『 しあわせのマスカット 』が見事に失敗した岡山のご当地ムービー制作が、本作で実現された。

あらすじ

自閉症の兄、きょん君と暮らす紅子(中島瑠菜)は美大へ進学したいという想いを封じ込めていた。ひょんなことから幼馴染の蒼(山時聡真)たちがきょん君と交わした「鶴形山から打ちあがる花火を見せてやる」という実現不可能な約束を、紅子は無責任だと非難する。蒼たちはきょん君との約束を果たすべく、動き出すが・・・

ポジティブ・サイド

冒頭で家族で見上げる打ち上げ花火のシーンから一転、キャンバスの前で微動だにしない紅子、そこからきょん君の登場と、テーマと主要キャラクターの導入のテンポが小気味いい。蒼と祈一のコンビも邦画の高校生的なお約束、いわゆる二枚目と三枚目のコンビではなく、それぞれに苦悩するキャラクターになっていた。花火大会開催の一因となるきょん君も『 レインマン 』のダスティン・ホフマン的な演技で、自閉症のリアリズムを遺憾なく表現した。

 

世の中には優しい嘘と残酷な嘘があるが、善意でついた嘘が結果的に相手を苦しめることもある。どう責任を取るのか。嘘を本当にするしかない。そこに助け舟を出すのは高橋大輔。関西大学卒なので関西人かと思っていたが、倉敷出身だったのか。正式な署名を100人分集めよ、という無茶な指令を出す。そのためにダメダメ男子高校生が奔走する様は滑稽だ。そこに紅子から思わぬアシスト。イラストには力が宿るのだ。

 

花火大会を開こうと蒼と祈一が奮闘していく中で、倉敷の歴史、そこに生きる人々の気質と仕事・産業、駅前と美観地区の街並みの対比、そして何よりもバラバラになってしまっている紅子の家族の絆の再生の端緒も描かれていく。それは家族が一つになることを必ずしも意味しない。『 焼肉ドラゴン 』のように、旅立ちや独立も家族のあるべき在り方であることを本作は静かに、しかし力強く提示している。

 

ネガティブ・サイド

蒼のサクソフォンの話はどこにいった?演奏で耳目を引き、署名活動につなげるなどの描写は編集でカットされたか。

 

演技力のギャップが色々とありすぎた。主要キャラたちの岡山弁は、まあ大目に見るが、一部の役者はダメダメ。駅前のチンピラやフルート奏者(そもそも役者ではない?)は、別の役者を使えなかったのだろうか(高橋大輔は地元出身なので許す)。

 

橋爪功の出演シーンも不要だったように思う。。

 

総評

倉敷の美観地区を誇張することなく、その特徴をよく映し出している。海側に水島コンビナートがありながら、どこか大正や昭和の趣を残した街並み、しかしそれなりに発展した駅前や洋風の瀟洒な建物もあり、旅情を喚起する。家族の結びつきや恋愛感情を至上としない現実的な人間ドラマだった。ご当地映画の白眉と言える。岡山県民のみならず、多くの人に鑑賞されるべき作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

signature

署名の意。数多く集めれば、効力を発揮することもある。劇中の高橋大輔の「署名を100通集めたら力を貸そう」は “If you get a hundred signatures, then you’ll have my support.” ぐらいだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ブロークン 復讐者の夜 』
『 宝島 』
『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 中島瑠菜, 山時聡真, 日本, 監督:平松恵美子, 配給会社:マジックアワー, 青春Leave a Comment on 『 蔵のある街 』 -ご当地映画の佳作-

『 8番出口 』 -平々凡々な脚本-

Posted on 2025年9月8日2025年9月8日 by cool-jupiter

8番出口 40点
2025年9月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:二宮和也 河内大和 浅沼成
監督:川村元気

 

鑑賞予定はなかったが、本作のモデル駅がJR大阪天満宮駅だという説に興味を惹かれた。なぜならJovianは毎日同駅の8番出口から会社に向かっているから。というわけでチケット購入。

あらすじ

地下鉄で派遣先へ向かっていた男(二宮和也)は、不思議な空間に迷い込み、出られなくなってしまう。異変がなければ進み、異変があれば引き返し、そして8番出口から出ることという謎のルールに従って、男は前へ進んでいくが・・・

ポジティブ・サイド

なんといっても謎のおじさんを演じた河内大和が抜群の存在感を放っている。あの歩き方、曲がり方、表情の作り方、止まり方、そのすべてがリアル。ここでいうリアルとは、こんなおじさんは絶対に存在しないはずなのに存在してしまっているという意味。

 

ゲームに忠実で、異変のあるべき場所もだいたい同じ(だった気がする)。通路の雰囲気も確かに大阪天満宮駅の8番出口脇から伸びて左に曲がっていくやや上りのスロープの場所とよく似ていた。9番出口を出てちょっと北に進むと某専門学校がある。KOTAKE CREATEはこの学校出身なのかもしれない。

ネガティブ・サイド

最初の5分でストーリーの展開と着地点が見えてしまった。ある程度映画を見慣れている人の多くがそう感じたのではないだろうか。そうしたキャラクターの背景を一切抜きにして、理不尽かつ意味不明なゲームの世界をまず最初に提示する。そして通路のポスターなどを、たとえば病院主催のパパママ教室にするなどして、主人公の葛藤を言葉ではなく主人公の表情やたたずまいから感じ取らせる。そういう演出は不可能だったか。

 

主人公のキャラクターがほとんどそのまま『 グーニーズ 』のマイキーだったり、異変とともに出てくるクリーチャーが古今東西でおなじみの姿だったり、異変の一つが『 シャイニング 』のパクリだったり、とにかくオリジナリティがない。

 

そもそも基のゲームに存在した理不尽なゲームオーバーがない。おじさんがいきなり目の前に迫ってくるという異変に対して背を向けることができずにゲームオーバー、そして → 0番出口 の掲示の前からリスタート・・・のような理不尽さがないと、異変の危険度というか、異変をどれくらい真剣に捉えなければならないかといった真剣度が高まらない。

 

異変を見逃さないということは、逆に言えば我々はそれだけ世の中の変化を見逃している、あるいは世の中の変化を拒んでいるとも言える。それを一つのテーマに挙げるのは結構だが、そのことを主人公が悟るのではなく、まったく別のキャラクターの口から語らせるのは、凡百の邦画がやってしまう安易な方法で、本作もその陥穽にはまってしまっている。やたらけばけばしい女子高生キャラクターは不要だった。もっと言えばおじさんのパートも不要だった。

 

本作は二宮やら小松やらの名のある俳優が出てくるが、それがノイズになっているように感じた。『 侍タイムスリッパー 』や『 最後の乗客 』のように、無名だが実力あるキャストをそろえて撮影してほしかった。そうすれば観ている側も感情移入できるし、代り映えのしない駅のコンコースにもより注意を向けられるようになると思うのだが。

総評

Jovianは原作は未プレイ。だが、Jovian妻がHIKAKINの配信動画を観ていたのを時々横から眺めてはいた。映画にするならゲームに忠実に作りつつ、オリジナルなアイデアを盛り込んでほしかった。本作は残念ながら原作の再現度もオリジナル要素もどちらも中途半端。駄作とまでは言わないが、面白いとも言えない。貯まっているポイントを消化して無料鑑賞するのはあり。配信やレンタルを待つのもありだ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

anomaly

異変や異常を指す単語。はじめて知ったのは小説『 星を継ぐもの 』の原著 “Inherit the Stars”でだった。解剖学的異常など、医学の分野で使うことが多いが、同小説では月のレゴリスの放射性同位元素の不均衡な分布を指してアノマリーという言葉を使っていた。調べてみたところ、『 8番出口 』の異変も anomaly と訳されている。英語学習者はこれを機に本単語も覚えてみよう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 蔵のある街 』
『 侵蝕 』
『 ブロークン 復讐者の夜 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, スーパーナチュラル・スリラー, ホラー, 二宮和也, 日本, 河内大和, 浅沼成, 監督:川村元気, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 8番出口 』 -平々凡々な脚本-

『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

Posted on 2025年8月15日2025年8月15日 by cool-jupiter

桐島です 75点
2025年8月14日 シアターセブンにて鑑賞
出演:毎熊克哉
監督:高橋伴明

 

『 BOX 袴田事件 命とは 』の高橋伴明監督が逃亡犯・桐島聡を描いた作品ということで、やっとのことでチケット購入。

あらすじ

企業・政府による人民搾取に静かに業を煮やしていた桐島聡(毎熊克哉)は、やがて過激派に属し、爆弾闘争に身を投じていく。しかし、その過程で負傷者を出してしまったことを公開する。また、組織に官憲が迫ったことで逃亡していくが・・・

 

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

誰もが一度は目にしたことがあった桐島聡の指名手配写真。それが2024年1月、病院で見つかり、そのまま死んでいったというニュースはかなりセンセーショナルだった。そんな逃亡犯を毎熊克哉が好演した。

 

『 三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 』で描かれた1969年から数年後の1970年代。そこで桐島聡は労働者階級の待遇改善と諸外国民の搾取反対を表明するため、大資本への闘争を続けていた。同作でかつての三島親衛隊員が述べていた、全共闘は市井の中に拡散していったと、いわば負け惜しみ的に語っていたが、その数少ない拡散先に桐島がいたのかと思うと、なんとも複雑な気分になった。事実は小説よりも奇なりという意味でそう感じるということである。事実、『 正体 』は本作によってかなり陳腐化したと言える。

 

桐島は学生運動の延長線上に常に身を置くことで、いきなりガールフレンドから別れを告げられてしまう。デートに選んだ映画のチョイス(『 追憶 』)もまずかったようだ。とある時代の感性を保つことは、別の人間から見れば時代遅れとなる。時代という言葉が大仰かもしれないが、現代でも往々にしてこうした見方の対立は生じている。故・安倍晋三の桜の会疑惑その他は、しばしば支持者から「いつまで終わったニュースをやっているんだ」となるし、そうでない者からすれば「なんで勝手に先に進んでいるんだ」となる。

 

後者に属する桐島は労働者階級が資本家に搾取される構図を訴えようと過激派の爆弾闘争に身を投じていくが、そこで人を傷つけることには反対する。仲間は、企業にダメージを与えることを人を傷つけないことの矛盾をアウフヘーベンしていこうと言うが、自己主張の手段に言論ではなく武器を選んでいる時点で、その矛盾を止揚できるはずがない。しかし桐島はある時点から言葉に惹きつけられていく。これは事実なのか脚色なのかわからないが、桐島の人物像を深めつつも、桐島の思想については浅くもしていると感じた。

 

着の身着のままで逃亡した先で、運よく経験不問かつ寮付きの工務店で職を得た桐島は、内田洋を名乗って生活する。生真面目に生活のルーティンを守り、模範的に働き、たまにバーに顔を出しては酒や音楽という世俗の歓楽を享受する。要するに、大多数の小市民と何ら変わりのない生活を送っていく。その一方で、自身の関与した爆破事件について忘れることはできず、またいつでも逃亡できるように警戒を怠ることもないという、ある種の矛盾した生活も送っている。

 

行きつけのバーで知り合った若い歌手に恋心を寄せられても拒絶せざるを得なかったのは逃亡者だったからか。それとも時代遅れの自分がトラウマになっていたからか。奇妙な縁を深めることになった謎の隣人が、犯罪者・逃亡者としての桐島の人間関係にユーモアと緊張感の両方をもたらしていて、甲本雅裕は非常に強いインパクトを残した。

 

在日韓国人の同僚、不法滞在するクルド人就労者、集団的自衛権の容認を国会を経ず閣議で決定した安倍晋三など、国家の歪みを感じさせる事象に対して怒りと悲しみを感じる桐島聡だが、その一方で運転免許試験と教習所は結託していると語ったり、またメタボ検診を製薬会社と厚労省の癒着だと断じたりと、非常に危うい、あるいは偏った正義感の持ち主である点も描かれる。外側のアイデンティティを偽りつつも、内側のアイデンティティは偽れなかったのだろう。その思想が良いものなのか悪いものなのかは軽々に判断すべきでない。しかし、高橋監督は桐島に説教されたと思しき若い同僚に「内田さんが死ぬのはいやっすよ」と言わしめた。それが彼のメッセージなのだろう。

 

後年にかつての反日武装戦線の領袖が出版した詩集を読み耽る桐島は、

 

毎熊克哉が青年から高齢までの桐島を見事に演じきった。今年の主演男優賞は彼と『 国宝 』の吉沢亮の一騎打ちとなるだろう。

 

ネガティブ・サイド

かつての同志の宇賀神が語る「桐島は公安に勝利した」という宣言は、桐島の代弁とは言えないのではないか。桐島は一貫して日雇い労働者に代表される下級労働者の搾取の構造を変えたがっており、そこにいるのが日本人であれ外国人であれ、それは救済の対象だった。桐島の勝利とは労働者の勝利であり、最後まで逃げ切ったことを勝利というのは矛盾に感じた。それこそ遺書でも残しておき、死後に桐島聡という存在が内田洋に成り代わっていたことが明らかになったというのなら話は別だろうが。

 

最後の最後に登場する日本赤軍の生き残り女性の存在が滑稽に映った。というのも作中に登場する安倍晋三は2024年時点では既に暗殺されていたからだ。まさに事実は小説よりも奇なり。

 

総評

ハリソン・フォードの『 逃亡者 』的なアクションなど一切なし。非常に地味なドラマである。しかし、一人の人間の半生を通して、変わっていったものと変わらないものを同時に映し出すという試みは大いに成功している。爆弾テロは論外だが、反体制の闘士を生み出す土壌がかつての日本にはあったということは知るべきだろう。そしてその土壌から誤って芽吹いたのが参政党や日本保守党であることは憂慮していい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pseudonym

偽名の意。pseudoは疑似的な、を意味する接頭辞。nymは名前を意味する接尾辞。偽名と訳されるが、どちらかというとペンネームなどの仮の名前を指す語。一方で false name となると正に偽の名前で、これは犯罪や悪事の際に用いられる名前。これらをちゃんと区別できれば英検準1級以上だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 亀は意外と速く泳ぐ 』
『 渇愛 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 歴史, 毎熊克哉, 監督:高橋伴明, 配給会社:渋谷プロダクションLeave a Comment on 『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

『 近畿地方のある場所について 』 -見るも無残な映画化-

Posted on 2025年8月10日 by cool-jupiter

近畿地方のある場所について 20点
2025年8月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:赤楚衛二 菅野美穂
監督:白石晃士

 

小説『 近畿地方のある場所について 』の映画化ということでチケット購入・・・ではなく、ポイントで無料鑑賞。この判断は結果的に正解だった。

あらすじ

オカルト雑誌の編集長が特集記事の校了を前に失踪した。編集者の小沢(赤楚衛二)は旧知のライターの千紘(菅野美穂)と共に編集長の行方と彼の追っていた対象の謎を探ろうとするが・・・

 

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

首吊り屋敷の和室や子ども部屋は、活字だけでは出せないおどろおどろしさがあった。

 

団地の子供たちの遊びのシーンからは原作同様の不穏さが感じられたし、自分で想起していた真っ白様(小説では真っ白様なのである)のイメージにもマッチしていた。

 

ネガティブ・サイド

小説と異なる構成になるのは仕方がないが、再構成の仕方を派手に間違えている。

 

第一に、原作の有していた断片的なエピソードの数々が少しずつ重なり合っていく過程がすっとばされてしまったこと。第二に、雑誌の読者が編集部に送ってくる多数の気味の悪いエピソードが全カットされてしまったこと。第三に、原作が何度も繰り返す「近畿地方のとある場所についてはこれで終わりです」という不穏なフレーズに代わるシーンあるいはセリフが用意できなかったこと。

 

原作では行方不明なのは小沢だが、まあ、それはいいだろう。問題は編集長。私用PCに仕事の情報を全部詰め込んでいるなどというのは、普通なら懲戒ものだ。というか私用でも会社用でもいいからクラウド使わんかい。脚本家は二重の意味でアホなのだろうか。また編集長の残した膨大なデータのごく一部だけしかないと言いながら、そのどれもが核心に迫るものばかりだというのはご都合主義すぎないか。

 

原作ではじいさんが語るまさるのエピソードをばあさんが語る昔話にしてしまったが、それはもう昔話ではなく怪談。しかも別に怖くない。原作のエピソードを再現しようとすると『 犬鳴村 』の亜種になるので変更したのだろうが、そこは『 福田村事件 』を参考にすればいいだろう。

 

その後、どこかで見たようなシーンや演出のオンパレード。編集長の死に方に脚本家も監督も分かっていないと慨嘆させられた。そこは頭ではなく目を貫くところ。その描写から逃げている時点でホラーとして失格。ほかにも中途半端なシーンのオンパレード。最後も『 NOPE / ノープ 』と『 トゥルース・オア・デア 殺人ゲーム 』のパクリかな。

 

漫画家の芦原妃名子氏が亡くなる前の日テレかどこかのドラマ脚本家たちの座談会で、ひとりが「私は原作者ではなく原作さえあればいい」というような発言をしたとされている。今回の監督および脚本家も似たような意識を持っていたのでは?ヒットした小説がある。それを映画にできる。割のいいビジネスだ。ぐらいにしか感じていなかったのかな。原作者は本作を観て何を思うのだろうか。

 

最後の最後も脱力させられた。エンディング曲がなぜか東京を事細かく描写。近畿地方がテーマちゃうんかい・・・

 

総評

映画化ではなくドラマ化した方がよかったのでは?一話30~45分の全6~8話程度の深夜ドラマにすればよかったのでは?その方が原作の持つ、断片的な情報が徐々に輪郭を成していく過程をもっと上手く描き出せただろう。まあ、夏恒例の糞ホラーのひとつとして割り切ろうではないか。原作を読んだのなら本作の鑑賞は必要なし。本作を観て納得がいかなければ、竜頭蛇尾ではあるが原作を読んでみよう。途中のサスペンスは間違いなく小説の方が上である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

sacrifice

犠牲、身代わりの意味。旧約聖書の昔からあった概念で、最も古く、かつ有名なのはアブラム(後のアブラハム)のイサク献供だろう。本作の陳腐さの大部分はオリジナリティの無さに起因することを記録する意味で、この語を紹介しておきたい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 ジュラシック・ワールド/復活の大地 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, ホラー, 日本, 監督:白石晃士, 菅野美穂, 赤楚衛二, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 近畿地方のある場所について 』 -見るも無残な映画化-

『 この夏の星を見る 』 -新たな連帯の形を思い起こす-

Posted on 2025年7月24日2025年7月24日 by cool-jupiter

この夏の星を見る 75点
2025年7月20日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:桜田ひより
監督:山元環

 

簡易レビュー。

あらすじ

宇宙にあこがれを抱く亜紗(桜田ひより)は、高校で天文部に入部。頼れる顧問や先輩、そして志を同じくする同級生たちと出会う。しかし、新型コロナの流行により、彼女たちの活動のみならず、日本中の学校や社会全体が多大な影響を受けてしまい・・・

ポジティブ・サイド

茨城の高校の実話に基づくらしい。うーむ、すごい。天文部というのはユニークだし、手作りで望遠鏡を作ったり、それでスターキャッチコンテストをしたりするというのは本当にロマンがある。

 

茨城、東京、長崎でそれぞれにドラマが進行していく。一見して脈絡のないキャラクターたちの物語が徐々につながっていく構成は素晴らしかった。コロナがもたらした変革に、各種オンラインツールの発達と普及が挙げられる。人と人との物理的な接触が禁じられても、人は交流できるし、遠くにいる誰かは別の誰かを照らす光になれるのだ。そういう意味では2024年の私的邦画ベスト『 夜明けのすべて 』に近いクオリティである。

 

ネガティブ・サイド

黒川想矢はもう少しサッカーの練習をしてから撮影に臨むべきだった。

 

最後の最後に少し萎えた。ドラマチックとロマンチックは両立しうるが、ドラマチックとファンタジックは必ずしも両立しない。supernaturalな力が働いたかのような見せ方は演出過剰だった。

 

総評

天体観測の話だとチラッと耳にしてチケット購入。なかなかの力作だった。『 フロントライン 』と同じく、コロナ禍の記憶が新しい今こそ観るべき価値が高い。外国の映画(特に英語圏のもの)はかなり入念にリサーチした上でチケットを買うことが多いが、邦画は今後は直観にもっと従ってチケット購入してもいいかもしれない。もちろん監督や脚本家の名前ぐらいはチェックすべきだろうが。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

astronomer

天文学者の意。『 インターステラー 』や『 アド・アストラ 』で astra = star だと触れた。astronomyをやっている人だからastronomerというわけである。実はこの単語、アルファベットに分解して並べ替えると moon starer = 月を眺める人になる。スターキャッチは難しくても、お月様は見上げて宇宙に思いを馳せるのは難しいことではない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 入国審査 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, 日本, 桜田ひより, 監督:山元環, 配給会社:東映, 青春Leave a Comment on 『 この夏の星を見る 』 -新たな連帯の形を思い起こす-

『 愛されなくても別に 』 -家族愛という呪縛を断つ-

Posted on 2025年7月22日2025年7月22日 by cool-jupiter

愛されなくても別に 80点
2025年7月19日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:南沙良 馬場ふみか
監督:井樫彩

 

連日の残業につき簡易レビュー。

あらすじ

大学生の宮田(南沙良)は、実家暮らしながらバイトに明け暮れ、学費を自分で払いつつ、家にも金を入れていた。ある時、バイト先の疎遠な同僚の江永(馬場ふみか)の父親が殺人犯であるという噂を耳にした宮田は、江永と距離を縮めていき・・・

ポジティブ・サイド

親のわずかな愛にすがる宮田と、親からの愛を完全に諦めた江永、そして親からの過剰な愛に苦しめられるアクア(本田望結)が皆、非常にリアルだった。

 

我々はつい自分の不幸と他人の不幸を比べたがるが、そんな姿勢を一撃で喝破してくる江永というキャラの奥深さよ。

 

去年まであちこちの大学で非常勤講師をしていたJovianから見ても、宮田というキャラは非常に再現度が高かった。実際にこういう不幸な子はそこここにいるはずだ。

 

『 真っ赤な星 』と同じく寓意に満ちた画作りも冴えている。水槽や浴槽が、池や海との対比になっているのは見事だった。

 

ネガティブ・サイド

宙(コスモ)様のキャラにだけ一貫性を感じなかった。親あるいは家族との距離感に悩む人間をターゲットにしているようだが、宮田を落としかけた話術は江永には通じない。ということはアクアにも通じないのでは?

 

総評

Jovianの推しである南沙良が主演、そして監督は『 真っ赤な星 』の井樫彩ということでチケットを購入したが、これは大当たり。非常にダークな物語の中で人間のダークサイドを見せつけられるが、そんな中でも人は連帯できるという希望が確かに存在するのだという信念が伝わってくる。2025年の邦画のベスト候補の一作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

scholarship

奨学金の意。get a scholarship または receive a scholarship で「奨学金を得る」という意味になる。複数の奨学金を受け取る場合は、get / receive scholarships と複数形にもなる。成績優秀であれば奨学金を返済不要にするという制度を拡充してほしいと思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 桐島です 』
『 入国審査 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 南沙良, 日本, 監督:井樫彩, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズ, 青春, 馬場ふみかLeave a Comment on 『 愛されなくても別に 』 -家族愛という呪縛を断つ-

『 フロントライン 』 -見せ方に一考の余地あり-

Posted on 2025年7月8日2025年7月8日 by cool-jupiter

フロントライン 60点
2025年7月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:小栗旬 松坂桃李 窪塚洋介 池松壮亮
監督:関根光才

 

看護師の母が絶賛(一部酷評)していた作品ということでチケット購入。

あらすじ

豪華客船のダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナ患者が発生。横浜に停泊する同船内で治療にあたるため、本来は災害派遣されるDMATに白羽の矢が立つことに。リーダーの結城(小栗旬)はチームを招集し、厚労省の役人の立松(松坂桃李)と共に現地に赴くが・・・

ポジティブ・サイド

当時のニュースはよく覚えているし、マスコミの論調もよく覚えている。また岩田某がアホな動画をアップしたことも覚えているし、その動画に踊らされたアホなメディアや民衆のこともよく覚えている。そうした喧騒を背景に、静かに戦った医師や看護師を丁寧に描き出していた。

 

まず目についたのは窪塚洋介。野戦病院のリーダーとして、冷静沈着ながらも内に秘めた闘志と使命感を感じさせる医師を好演した。官僚を演じた松坂桃李も印象的だった。杓子定規な役人かと思いきや、意外に話せるし、見た目通りに有能。かなり柔軟な姿勢の持ち主で、必要とあらば法の規定も迂回する。2020年の春は大学関連業務の中でも教務パートを受け持っていたが、物流が滞っていて肝心の教科書が会社にも学校にも普通の書店にも届かなかった。そんな時に文化庁長官が各出版社に「著作権について格別の配慮」を求めた結果、教科書のデータを一時的に使わせてもらえたり、それを複製して配布したり、あるいはZoomなどで画面共有したりすることが可能になった。同じようなことがもっと大きなスケールで医療の現場で起きていたのだなと感慨深かった。

 

閑話休題。医師たちは、メディアやその背後の多くの国民の願い、すなわちコロナを国内に持ち込むなという思いとは別の思いで動いていたことが知れたのは非常に良かった。ここのすれ違いがメディアの暴走を生み、ひいては差別や国民間の分断を生んだことは記憶に新しいところだ。実際、トラックの運転手などはウィルスの運搬人扱いされていた。なんたること・・・

 

船内の状況や近隣(とは言えないところまで含めて)の医療機関との連携が形を成してきたところで、物語は暗転していく。例の動画だ。医療従事者たちが手指消毒を欠かさず、マスクや防護服も着用していたことは分かるし、船にクリーンルームやクリーンフロアが作れるはずがないことも、ちょっと頭を使えば分かる。あるいは取材すれば分かる。メディアはそれをしないし、大衆もそれを調べようとしない。それどころか(もう故人なので名前を出すが)小倉智昭などは「患者がいっぱいなので病院は儲かっている」だの、「ECMOは高額なので利益が出る」だの、めちゃくちゃ言っていたし、それに信じる人間も一定数この目で見た。こうした無責任なメディアを本作は遠回しに、しかし確実に批判している。

 

エッセンシャル・ワーカーたちの戦いに改めて敬意を表する機会を本作は提供してくれる。

 

ネガティブ・サイド

医療従事者のプロフェッショナリズムとプライベートの部分、すなわち彼ら彼女らの私生活、なかんずく家族についての描き方に不満がある。池松壮亮の家族がサブプロットとして描かれていたが、これは蛇足だった。なぜなら本作を鑑賞する多くの人々は、このことを覚えているはずだから。また、後年に見ることになる人々も周囲に話を聞いたり、あるいはネットで調べたりすることができるから。主要人物すべてが、時々メールをしたり、ひそひそ声で電話したりするシーンを映し出し、観客の想像力に訴えかければ事足りたはず。

 

同じく、小栗旬が桜井ユキからあることを尋ねられた際にも、言葉でていねいに答える必要はなかった。単に小栗旬に「具問だな」という表情をさせるだけでよかった。言葉でもって物語るということは、マスコミが言葉でもって一面的、皮相的にニュースを報じるのと構図の上では同じだ。相手の発する言葉を受け止めるのではなく、相手の働きぶりや立ち居振る舞いから読み取ることの重要性を逆説的に訴えかけてほしかった。

 

あとはメイクか。船の中でどんどん髪が乱れ、髭も伸び、頬もこけて、肌つやもなくしていく野戦病院の院長然としていた窪塚洋介とは対照的に、常に小ぎれいに身を整えていた野戦病院の理事長的な小栗旬の対比が痛々しかった。

 

総評

演出にやや問題あり。考えさせる映画ではなく、教える映画のように感じた。当時のニュースで〇〇〇と感じたが、この映画でやっぱり◎◎◎だと感じた、というのでは、既存メディアは信用ならん、SNSは信用できるという思考とパラレルである。このあたりがアメリカや韓国の社会派映画との違いか。とはいえ、エンタメだと割り切って観れば、それなりに楽しめるはず。最後の最後に映し出されるスーパーインポーズに何を思うのかで、本作の評価や印象がかなり変わると思うので、最後を注視してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

listen to one’s chest

胸を聴診するの意。聴診するという医学用語にはauscultateという語があるが、こんなのは英検1級ホルダーでもなかなか知らない(OET受験者は案外知っているが)。劇中でも小栗旬が breathe in, breathe out と呼び掛けていたが、息を吸って吐くところまでがセットである。ちなみに心臓の音は基本的には胸側からしか聴けない。呼吸音は両側から聴ける。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』
『 ハルビン 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, 小栗旬, 日本, 松坂桃李, 歴史, 池松壮亮, 監督:関根光才, 窪塚洋介, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 フロントライン 』 -見せ方に一考の余地あり-

『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

Posted on 2025年6月23日 by cool-jupiter

JUNK WORLD 80点
2025年6月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:堀貴秀
監督:堀貴秀

 

『 JUNK HEAD 』の続編にして前日譚。良い意味で「ぼくのかんがえたさいきょうのエスエフ」的な仕上がりになっている。

あらすじ

地下世界の開拓のため、人類は人工生命マリガンを創造する。しかし、マリガンはクローンで自己増殖し、人類に反旗を翻した。停戦に合意した両者だが、地下世界に異変が生じる。調査のために人類はトリスを、マリガンはダンテを派遣し、両者が合同チームを組むが・・・

ポジティブ・サイド

マリガンだらけだった前作とは打って変わって、人間とマリガン、ロボット、そして異次元の存在と一気に世界が拡張され、カラフルになった。しかし、物語の根底にあるのは堀貴秀の数々の先行作品へのオマージュ。ここは前作と変わっていない。

 

有機的な頭脳を持つロボットのロビンと、その主人であるトリスの関係が面白い。堀貴秀はミューズを得たようである。まず『 バック・トゥ・ザ・フューチャー 』と『 バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2 』を下敷きにしつつ、『 ターミネーター 』と『 ターミネーター2 』の要素も盛り込んでいる。ロビンの壮大な旅路は、個人的にはうえお久光の小説『 紫色のクオリア 』にインスパイアされたのではないかと感じた。

 

ゴニョゴニョで鑑賞したが、韓国語っぽい発話、フランス語っぽい発話に加えて、日本語のコマーシャル的なキャッチフレーズやらハリウッド映画や俳優の名前がアホぐらい出てきた何度も笑ってしまった。個人的にはビートルジュースと聞こえてきたのは、Beetle Juiceだったのか、Betelgeuse(有名な恒星)だったのか気になる。

 

今回は三馬鹿トリオではなく、トリス、ダンテ、ロビンの凸凹コンビ+1となるだろうか。というよりもロビンの変身と、世界創生、そして時間への旅路とその使者の物語が幕ごとに明らかにされ、意味不明だった物語がひとつまたひとつと意味をなしていく過程が刺激的だった。

 

前作の『 BLAME! 』的な世界観から一転して、ハインラインの『 夏への扉 』(原作小説の方)やアシモフの『 最後の質問 』的な拡張的な世界が現出した。ここからどうやって地下世界に回帰して、そこから地上世界へ帰還するのか。楽しみで仕方がない。第三作が今から待ちきれない。

ネガティブ・サイド

シリーズの一貫したテーマの一つが生殖であるはず。それを茶化すようなシーンがあったのは残念。大使がアワビ(的なもの)を貪り食う、とかならまだ許容できたかも。

総評

期待していた作品とは違っていたが、これはこれで面白いし、鬼才が仕事を辞め経済的な支援を得ても、そのユニークなクリエイティビティが全く衰えていないことに安堵した。トリスはロビンのみならず、堀貴秀氏自身のミューズでもあるのだろう。では、次作でパートンは自身のミューズと出会い、愛を成就=生殖ができるのだろうか。もはや期待しかない。2028年ぐらいには観たい。クラファンはどこでしているのか?数万円ならすぐにでも投資したいところだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

worship

崇拝する、崇敬する、崇めるの意。宗教的な文脈で使われるが、冗談めかして使うこともできる。If you get this job done by Friday, I’ll worship you. のように、親しい同僚などに言ってみるといいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 脱走 』
『 28年後… 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, SF, アニメ, 堀貴秀, 日本, 監督:堀貴秀, 配給会社:アニプレックスLeave a Comment on 『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

『 リライト 』 -小説をまあまあ上手く改変-

Posted on 2025年6月21日2025年6月21日 by cool-jupiter

リライト 55点
2025年6月15日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:池田エライザ 阿達慶
監督:松居大悟

法条遥の同名小説の映画化ということでチケット購入。ラストを一捻りしているが、そこに至るまでは割と原作に忠実だった。

あらすじ

2310年の未来からタイムリープしてきた保彦(阿達慶)と偶然にも親密になった美雪(池田エライザ)は、やがて彼に惹かれていく。しかし、ある悲劇が康彦を襲う。彼を救う全てを求めて10年後の自分に出会いに行く美幸だが・・・

ポジティブ・サイド

原作の少しわちゃわちゃしていたところが視覚化されて、分かりやすくなっていた。原作もそうだったが、『 時をかける少女 』へのオマージュが随所にある。〇〇〇〇を読んだ康彦ではないが、尾道に行ってみたくなるような作品になっている。

本作は(原作もそうなのだが)一種のギャルゲーだと思えばいい。ある意味、『 Ever17 -the out of infinity- 』が近いだろうか。これがネタバレにならないことを祈る。

大人の美雪を掘り下げたところが原作との違いで、ここは面白かった。リライト=rewriteが意味するところは、自分の運命や人生の書き換えでもある。曲がりなりにも分泌のプロになったのなら、Verweile doch, du bist so schön! という精神を持ちたいもの。

ネガティブ・サイド

正直、原作のおどろおどろしい執念のようなものが消えてしまっていて残念。それが何であるか気になる人は原作を読んでほしい。康彦の口癖の「何という無駄!」は削る必要はあったのだろうか。

キャスティングも残念ながら減点材料。池田エライザや橋本愛が高校生を演じるのはさすがに無理があるし、その他の同級生たちもかなりしんどかった。

橋本愛の罪ではないが、販促物、とくにポスタービジュアルなどを手がける人はネタバレを避けてほしい。あるいは鑑賞後にそれと分かる作りにしてほしい。原作未読のうちの嫁さん(に限らず普通の感受性と観察力の持ち主)は、すぐに誰がキーパーソンなのか悟ってしまった。

総評

小説の映画化としてはまあまあ。同作家の作品で言えば『 バイロケーション 』よりはマシである。池田エライザのファンなら鑑賞すべし。そうでなければスルー推奨。本当ならアニメ作品にすべきなのだろう。というわけで、タイムリープものとしては本作よりも遥かに面白い高畑京一郎の小説『 タイム・リープ あしたはきのう 』を、誰か105分程度でアニメ化してくれませんかねえ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I wish time stopped now.

時間が止まってほしい、の意。さて、本作ではとあるキャラクターがこれを日本語で言う。どんな場面なのかしっかりと把握して、ここぞというロマンチックな場面でこれをささやいてみよう。それができれば英検1級を超えて英検0級である。

次に劇場鑑賞したい映画

『 JUNK WORLD 』
『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 脱走 』

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