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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 国内

『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

Posted on 2025年8月15日2025年8月15日 by cool-jupiter

桐島です 75点
2025年8月14日 シアターセブンにて鑑賞
出演:毎熊克哉
監督:高橋伴明

 

『 BOX 袴田事件 命とは 』の高橋伴明監督が逃亡犯・桐島聡を描いた作品ということで、やっとのことでチケット購入。

あらすじ

企業・政府による人民搾取に静かに業を煮やしていた桐島聡(毎熊克哉)は、やがて過激派に属し、爆弾闘争に身を投じていく。しかし、その過程で負傷者を出してしまったことを公開する。また、組織に官憲が迫ったことで逃亡していくが・・・

 

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

誰もが一度は目にしたことがあった桐島聡の指名手配写真。それが2024年1月、病院で見つかり、そのまま死んでいったというニュースはかなりセンセーショナルだった。そんな逃亡犯を毎熊克哉が好演した。

 

『 三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 』で描かれた1969年から数年後の1970年代。そこで桐島聡は労働者階級の待遇改善と諸外国民の搾取反対を表明するため、大資本への闘争を続けていた。同作でかつての三島親衛隊員が述べていた、全共闘は市井の中に拡散していったと、いわば負け惜しみ的に語っていたが、その数少ない拡散先に桐島がいたのかと思うと、なんとも複雑な気分になった。事実は小説よりも奇なりという意味でそう感じるということである。事実、『 正体 』は本作によってかなり陳腐化したと言える。

 

桐島は学生運動の延長線上に常に身を置くことで、いきなりガールフレンドから別れを告げられてしまう。デートに選んだ映画のチョイス(『 追憶 』)もまずかったようだ。とある時代の感性を保つことは、別の人間から見れば時代遅れとなる。時代という言葉が大仰かもしれないが、現代でも往々にしてこうした見方の対立は生じている。故・安倍晋三の桜の会疑惑その他は、しばしば支持者から「いつまで終わったニュースをやっているんだ」となるし、そうでない者からすれば「なんで勝手に先に進んでいるんだ」となる。

 

後者に属する桐島は労働者階級が資本家に搾取される構図を訴えようと過激派の爆弾闘争に身を投じていくが、そこで人を傷つけることには反対する。仲間は、企業にダメージを与えることを人を傷つけないことの矛盾をアウフヘーベンしていこうと言うが、自己主張の手段に言論ではなく武器を選んでいる時点で、その矛盾を止揚できるはずがない。しかし桐島はある時点から言葉に惹きつけられていく。これは事実なのか脚色なのかわからないが、桐島の人物像を深めつつも、桐島の思想については浅くもしていると感じた。

 

着の身着のままで逃亡した先で、運よく経験不問かつ寮付きの工務店で職を得た桐島は、内田洋を名乗って生活する。生真面目に生活のルーティンを守り、模範的に働き、たまにバーに顔を出しては酒や音楽という世俗の歓楽を享受する。要するに、大多数の小市民と何ら変わりのない生活を送っていく。その一方で、自身の関与した爆破事件について忘れることはできず、またいつでも逃亡できるように警戒を怠ることもないという、ある種の矛盾した生活も送っている。

 

行きつけのバーで知り合った若い歌手に恋心を寄せられても拒絶せざるを得なかったのは逃亡者だったからか。それとも時代遅れの自分がトラウマになっていたからか。奇妙な縁を深めることになった謎の隣人が、犯罪者・逃亡者としての桐島の人間関係にユーモアと緊張感の両方をもたらしていて、甲本雅裕は非常に強いインパクトを残した。

 

在日韓国人の同僚、不法滞在するクルド人就労者、集団的自衛権の容認を国会を経ず閣議で決定した安倍晋三など、国家の歪みを感じさせる事象に対して怒りと悲しみを感じる桐島聡だが、その一方で運転免許試験と教習所は結託していると語ったり、またメタボ検診を製薬会社と厚労省の癒着だと断じたりと、非常に危うい、あるいは偏った正義感の持ち主である点も描かれる。外側のアイデンティティを偽りつつも、内側のアイデンティティは偽れなかったのだろう。その思想が良いものなのか悪いものなのかは軽々に判断すべきでない。しかし、高橋監督は桐島に説教されたと思しき若い同僚に「内田さんが死ぬのはいやっすよ」と言わしめた。それが彼のメッセージなのだろう。

 

後年にかつての反日武装戦線の領袖が出版した詩集を読み耽る桐島は、

 

毎熊克哉が青年から高齢までの桐島を見事に演じきった。今年の主演男優賞は彼と『 国宝 』の吉沢亮の一騎打ちとなるだろう。

 

ネガティブ・サイド

かつての同志の宇賀神が語る「桐島は公安に勝利した」という宣言は、桐島の代弁とは言えないのではないか。桐島は一貫して日雇い労働者に代表される下級労働者の搾取の構造を変えたがっており、そこにいるのが日本人であれ外国人であれ、それは救済の対象だった。桐島の勝利とは労働者の勝利であり、最後まで逃げ切ったことを勝利というのは矛盾に感じた。それこそ遺書でも残しておき、死後に桐島聡という存在が内田洋に成り代わっていたことが明らかになったというのなら話は別だろうが。

 

最後の最後に登場する日本赤軍の生き残り女性の存在が滑稽に映った。というのも作中に登場する安倍晋三は2024年時点では既に暗殺されていたからだ。まさに事実は小説よりも奇なり。

 

総評

ハリソン・フォードの『 逃亡者 』的なアクションなど一切なし。非常に地味なドラマである。しかし、一人の人間の半生を通して、変わっていったものと変わらないものを同時に映し出すという試みは大いに成功している。爆弾テロは論外だが、反体制の闘士を生み出す土壌がかつての日本にはあったということは知るべきだろう。そしてその土壌から誤って芽吹いたのが参政党や日本保守党であることは憂慮していい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pseudonym

偽名の意。pseudoは疑似的な、を意味する接頭辞。nymは名前を意味する接尾辞。偽名と訳されるが、どちらかというとペンネームなどの仮の名前を指す語。一方で false name となると正に偽の名前で、これは犯罪や悪事の際に用いられる名前。これらをちゃんと区別できれば英検準1級以上だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 亀は意外と速く泳ぐ 』
『 渇愛 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 歴史, 毎熊克哉, 監督:高橋伴明, 配給会社:渋谷プロダクションLeave a Comment on 『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

『 近畿地方のある場所について 』 -見るも無残な映画化-

Posted on 2025年8月10日 by cool-jupiter

近畿地方のある場所について 20点
2025年8月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:赤楚衛二 菅野美穂
監督:白石晃士

 

小説『 近畿地方のある場所について 』の映画化ということでチケット購入・・・ではなく、ポイントで無料鑑賞。この判断は結果的に正解だった。

あらすじ

オカルト雑誌の編集長が特集記事の校了を前に失踪した。編集者の小沢(赤楚衛二)は旧知のライターの千紘(菅野美穂)と共に編集長の行方と彼の追っていた対象の謎を探ろうとするが・・・

 

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

首吊り屋敷の和室や子ども部屋は、活字だけでは出せないおどろおどろしさがあった。

 

団地の子供たちの遊びのシーンからは原作同様の不穏さが感じられたし、自分で想起していた真っ白様(小説では真っ白様なのである)のイメージにもマッチしていた。

 

ネガティブ・サイド

小説と異なる構成になるのは仕方がないが、再構成の仕方を派手に間違えている。

 

第一に、原作の有していた断片的なエピソードの数々が少しずつ重なり合っていく過程がすっとばされてしまったこと。第二に、雑誌の読者が編集部に送ってくる多数の気味の悪いエピソードが全カットされてしまったこと。第三に、原作が何度も繰り返す「近畿地方のとある場所についてはこれで終わりです」という不穏なフレーズに代わるシーンあるいはセリフが用意できなかったこと。

 

原作では行方不明なのは小沢だが、まあ、それはいいだろう。問題は編集長。私用PCに仕事の情報を全部詰め込んでいるなどというのは、普通なら懲戒ものだ。というか私用でも会社用でもいいからクラウド使わんかい。脚本家は二重の意味でアホなのだろうか。また編集長の残した膨大なデータのごく一部だけしかないと言いながら、そのどれもが核心に迫るものばかりだというのはご都合主義すぎないか。

 

原作ではじいさんが語るまさるのエピソードをばあさんが語る昔話にしてしまったが、それはもう昔話ではなく怪談。しかも別に怖くない。原作のエピソードを再現しようとすると『 犬鳴村 』の亜種になるので変更したのだろうが、そこは『 福田村事件 』を参考にすればいいだろう。

 

その後、どこかで見たようなシーンや演出のオンパレード。編集長の死に方に脚本家も監督も分かっていないと慨嘆させられた。そこは頭ではなく目を貫くところ。その描写から逃げている時点でホラーとして失格。ほかにも中途半端なシーンのオンパレード。最後も『 NOPE / ノープ 』と『 トゥルース・オア・デア 殺人ゲーム 』のパクリかな。

 

漫画家の芦原妃名子氏が亡くなる前の日テレかどこかのドラマ脚本家たちの座談会で、ひとりが「私は原作者ではなく原作さえあればいい」というような発言をしたとされている。今回の監督および脚本家も似たような意識を持っていたのでは?ヒットした小説がある。それを映画にできる。割のいいビジネスだ。ぐらいにしか感じていなかったのかな。原作者は本作を観て何を思うのだろうか。

 

最後の最後も脱力させられた。エンディング曲がなぜか東京を事細かく描写。近畿地方がテーマちゃうんかい・・・

 

総評

映画化ではなくドラマ化した方がよかったのでは?一話30~45分の全6~8話程度の深夜ドラマにすればよかったのでは?その方が原作の持つ、断片的な情報が徐々に輪郭を成していく過程をもっと上手く描き出せただろう。まあ、夏恒例の糞ホラーのひとつとして割り切ろうではないか。原作を読んだのなら本作の鑑賞は必要なし。本作を観て納得がいかなければ、竜頭蛇尾ではあるが原作を読んでみよう。途中のサスペンスは間違いなく小説の方が上である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

sacrifice

犠牲、身代わりの意味。旧約聖書の昔からあった概念で、最も古く、かつ有名なのはアブラム(後のアブラハム)のイサク献供だろう。本作の陳腐さの大部分はオリジナリティの無さに起因することを記録する意味で、この語を紹介しておきたい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 ジュラシック・ワールド/復活の大地 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, ホラー, 日本, 監督:白石晃士, 菅野美穂, 赤楚衛二, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 近畿地方のある場所について 』 -見るも無残な映画化-

『 この夏の星を見る 』 -新たな連帯の形を思い起こす-

Posted on 2025年7月24日2025年7月24日 by cool-jupiter

この夏の星を見る 75点
2025年7月20日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:桜田ひより
監督:山元環

 

簡易レビュー。

あらすじ

宇宙にあこがれを抱く亜紗(桜田ひより)は、高校で天文部に入部。頼れる顧問や先輩、そして志を同じくする同級生たちと出会う。しかし、新型コロナの流行により、彼女たちの活動のみならず、日本中の学校や社会全体が多大な影響を受けてしまい・・・

ポジティブ・サイド

茨城の高校の実話に基づくらしい。うーむ、すごい。天文部というのはユニークだし、手作りで望遠鏡を作ったり、それでスターキャッチコンテストをしたりするというのは本当にロマンがある。

 

茨城、東京、長崎でそれぞれにドラマが進行していく。一見して脈絡のないキャラクターたちの物語が徐々につながっていく構成は素晴らしかった。コロナがもたらした変革に、各種オンラインツールの発達と普及が挙げられる。人と人との物理的な接触が禁じられても、人は交流できるし、遠くにいる誰かは別の誰かを照らす光になれるのだ。そういう意味では2024年の私的邦画ベスト『 夜明けのすべて 』に近いクオリティである。

 

ネガティブ・サイド

黒川想矢はもう少しサッカーの練習をしてから撮影に臨むべきだった。

 

最後の最後に少し萎えた。ドラマチックとロマンチックは両立しうるが、ドラマチックとファンタジックは必ずしも両立しない。supernaturalな力が働いたかのような見せ方は演出過剰だった。

 

総評

天体観測の話だとチラッと耳にしてチケット購入。なかなかの力作だった。『 フロントライン 』と同じく、コロナ禍の記憶が新しい今こそ観るべき価値が高い。外国の映画(特に英語圏のもの)はかなり入念にリサーチした上でチケットを買うことが多いが、邦画は今後は直観にもっと従ってチケット購入してもいいかもしれない。もちろん監督や脚本家の名前ぐらいはチェックすべきだろうが。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

astronomer

天文学者の意。『 インターステラー 』や『 アド・アストラ 』で astra = star だと触れた。astronomyをやっている人だからastronomerというわけである。実はこの単語、アルファベットに分解して並べ替えると moon starer = 月を眺める人になる。スターキャッチは難しくても、お月様は見上げて宇宙に思いを馳せるのは難しいことではない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 入国審査 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, 日本, 桜田ひより, 監督:山元環, 配給会社:東映, 青春Leave a Comment on 『 この夏の星を見る 』 -新たな連帯の形を思い起こす-

『 愛されなくても別に 』 -家族愛という呪縛を断つ-

Posted on 2025年7月22日2025年7月22日 by cool-jupiter

愛されなくても別に 80点
2025年7月19日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:南沙良 馬場ふみか
監督:井樫彩

 

連日の残業につき簡易レビュー。

あらすじ

大学生の宮田(南沙良)は、実家暮らしながらバイトに明け暮れ、学費を自分で払いつつ、家にも金を入れていた。ある時、バイト先の疎遠な同僚の江永(馬場ふみか)の父親が殺人犯であるという噂を耳にした宮田は、江永と距離を縮めていき・・・

ポジティブ・サイド

親のわずかな愛にすがる宮田と、親からの愛を完全に諦めた江永、そして親からの過剰な愛に苦しめられるアクア(本田望結)が皆、非常にリアルだった。

 

我々はつい自分の不幸と他人の不幸を比べたがるが、そんな姿勢を一撃で喝破してくる江永というキャラの奥深さよ。

 

去年まであちこちの大学で非常勤講師をしていたJovianから見ても、宮田というキャラは非常に再現度が高かった。実際にこういう不幸な子はそこここにいるはずだ。

 

『 真っ赤な星 』と同じく寓意に満ちた画作りも冴えている。水槽や浴槽が、池や海との対比になっているのは見事だった。

 

ネガティブ・サイド

宙(コスモ)様のキャラにだけ一貫性を感じなかった。親あるいは家族との距離感に悩む人間をターゲットにしているようだが、宮田を落としかけた話術は江永には通じない。ということはアクアにも通じないのでは?

 

総評

Jovianの推しである南沙良が主演、そして監督は『 真っ赤な星 』の井樫彩ということでチケットを購入したが、これは大当たり。非常にダークな物語の中で人間のダークサイドを見せつけられるが、そんな中でも人は連帯できるという希望が確かに存在するのだという信念が伝わってくる。2025年の邦画のベスト候補の一作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

scholarship

奨学金の意。get a scholarship または receive a scholarship で「奨学金を得る」という意味になる。複数の奨学金を受け取る場合は、get / receive scholarships と複数形にもなる。成績優秀であれば奨学金を返済不要にするという制度を拡充してほしいと思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 桐島です 』
『 入国審査 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 南沙良, 日本, 監督:井樫彩, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズ, 青春, 馬場ふみかLeave a Comment on 『 愛されなくても別に 』 -家族愛という呪縛を断つ-

『 フロントライン 』 -見せ方に一考の余地あり-

Posted on 2025年7月8日2025年7月8日 by cool-jupiter

フロントライン 60点
2025年7月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:小栗旬 松坂桃李 窪塚洋介 池松壮亮
監督:関根光才

 

看護師の母が絶賛(一部酷評)していた作品ということでチケット購入。

あらすじ

豪華客船のダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナ患者が発生。横浜に停泊する同船内で治療にあたるため、本来は災害派遣されるDMATに白羽の矢が立つことに。リーダーの結城(小栗旬)はチームを招集し、厚労省の役人の立松(松坂桃李)と共に現地に赴くが・・・

ポジティブ・サイド

当時のニュースはよく覚えているし、マスコミの論調もよく覚えている。また岩田某がアホな動画をアップしたことも覚えているし、その動画に踊らされたアホなメディアや民衆のこともよく覚えている。そうした喧騒を背景に、静かに戦った医師や看護師を丁寧に描き出していた。

 

まず目についたのは窪塚洋介。野戦病院のリーダーとして、冷静沈着ながらも内に秘めた闘志と使命感を感じさせる医師を好演した。官僚を演じた松坂桃李も印象的だった。杓子定規な役人かと思いきや、意外に話せるし、見た目通りに有能。かなり柔軟な姿勢の持ち主で、必要とあらば法の規定も迂回する。2020年の春は大学関連業務の中でも教務パートを受け持っていたが、物流が滞っていて肝心の教科書が会社にも学校にも普通の書店にも届かなかった。そんな時に文化庁長官が各出版社に「著作権について格別の配慮」を求めた結果、教科書のデータを一時的に使わせてもらえたり、それを複製して配布したり、あるいはZoomなどで画面共有したりすることが可能になった。同じようなことがもっと大きなスケールで医療の現場で起きていたのだなと感慨深かった。

 

閑話休題。医師たちは、メディアやその背後の多くの国民の願い、すなわちコロナを国内に持ち込むなという思いとは別の思いで動いていたことが知れたのは非常に良かった。ここのすれ違いがメディアの暴走を生み、ひいては差別や国民間の分断を生んだことは記憶に新しいところだ。実際、トラックの運転手などはウィルスの運搬人扱いされていた。なんたること・・・

 

船内の状況や近隣(とは言えないところまで含めて)の医療機関との連携が形を成してきたところで、物語は暗転していく。例の動画だ。医療従事者たちが手指消毒を欠かさず、マスクや防護服も着用していたことは分かるし、船にクリーンルームやクリーンフロアが作れるはずがないことも、ちょっと頭を使えば分かる。あるいは取材すれば分かる。メディアはそれをしないし、大衆もそれを調べようとしない。それどころか(もう故人なので名前を出すが)小倉智昭などは「患者がいっぱいなので病院は儲かっている」だの、「ECMOは高額なので利益が出る」だの、めちゃくちゃ言っていたし、それに信じる人間も一定数この目で見た。こうした無責任なメディアを本作は遠回しに、しかし確実に批判している。

 

エッセンシャル・ワーカーたちの戦いに改めて敬意を表する機会を本作は提供してくれる。

 

ネガティブ・サイド

医療従事者のプロフェッショナリズムとプライベートの部分、すなわち彼ら彼女らの私生活、なかんずく家族についての描き方に不満がある。池松壮亮の家族がサブプロットとして描かれていたが、これは蛇足だった。なぜなら本作を鑑賞する多くの人々は、このことを覚えているはずだから。また、後年に見ることになる人々も周囲に話を聞いたり、あるいはネットで調べたりすることができるから。主要人物すべてが、時々メールをしたり、ひそひそ声で電話したりするシーンを映し出し、観客の想像力に訴えかければ事足りたはず。

 

同じく、小栗旬が桜井ユキからあることを尋ねられた際にも、言葉でていねいに答える必要はなかった。単に小栗旬に「具問だな」という表情をさせるだけでよかった。言葉でもって物語るということは、マスコミが言葉でもって一面的、皮相的にニュースを報じるのと構図の上では同じだ。相手の発する言葉を受け止めるのではなく、相手の働きぶりや立ち居振る舞いから読み取ることの重要性を逆説的に訴えかけてほしかった。

 

あとはメイクか。船の中でどんどん髪が乱れ、髭も伸び、頬もこけて、肌つやもなくしていく野戦病院の院長然としていた窪塚洋介とは対照的に、常に小ぎれいに身を整えていた野戦病院の理事長的な小栗旬の対比が痛々しかった。

 

総評

演出にやや問題あり。考えさせる映画ではなく、教える映画のように感じた。当時のニュースで〇〇〇と感じたが、この映画でやっぱり◎◎◎だと感じた、というのでは、既存メディアは信用ならん、SNSは信用できるという思考とパラレルである。このあたりがアメリカや韓国の社会派映画との違いか。とはいえ、エンタメだと割り切って観れば、それなりに楽しめるはず。最後の最後に映し出されるスーパーインポーズに何を思うのかで、本作の評価や印象がかなり変わると思うので、最後を注視してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

listen to one’s chest

胸を聴診するの意。聴診するという医学用語にはauscultateという語があるが、こんなのは英検1級ホルダーでもなかなか知らない(OET受験者は案外知っているが)。劇中でも小栗旬が breathe in, breathe out と呼び掛けていたが、息を吸って吐くところまでがセットである。ちなみに心臓の音は基本的には胸側からしか聴けない。呼吸音は両側から聴ける。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 この夏の星を見る 』
『 愛されなくても別に 』
『 ハルビン 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, 小栗旬, 日本, 松坂桃李, 歴史, 池松壮亮, 監督:関根光才, 窪塚洋介, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 フロントライン 』 -見せ方に一考の余地あり-

『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

Posted on 2025年6月23日 by cool-jupiter

JUNK WORLD 80点
2025年6月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:堀貴秀
監督:堀貴秀

 

『 JUNK HEAD 』の続編にして前日譚。良い意味で「ぼくのかんがえたさいきょうのエスエフ」的な仕上がりになっている。

あらすじ

地下世界の開拓のため、人類は人工生命マリガンを創造する。しかし、マリガンはクローンで自己増殖し、人類に反旗を翻した。停戦に合意した両者だが、地下世界に異変が生じる。調査のために人類はトリスを、マリガンはダンテを派遣し、両者が合同チームを組むが・・・

ポジティブ・サイド

マリガンだらけだった前作とは打って変わって、人間とマリガン、ロボット、そして異次元の存在と一気に世界が拡張され、カラフルになった。しかし、物語の根底にあるのは堀貴秀の数々の先行作品へのオマージュ。ここは前作と変わっていない。

 

有機的な頭脳を持つロボットのロビンと、その主人であるトリスの関係が面白い。堀貴秀はミューズを得たようである。まず『 バック・トゥ・ザ・フューチャー 』と『 バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2 』を下敷きにしつつ、『 ターミネーター 』と『 ターミネーター2 』の要素も盛り込んでいる。ロビンの壮大な旅路は、個人的にはうえお久光の小説『 紫色のクオリア 』にインスパイアされたのではないかと感じた。

 

ゴニョゴニョで鑑賞したが、韓国語っぽい発話、フランス語っぽい発話に加えて、日本語のコマーシャル的なキャッチフレーズやらハリウッド映画や俳優の名前がアホぐらい出てきた何度も笑ってしまった。個人的にはビートルジュースと聞こえてきたのは、Beetle Juiceだったのか、Betelgeuse(有名な恒星)だったのか気になる。

 

今回は三馬鹿トリオではなく、トリス、ダンテ、ロビンの凸凹コンビ+1となるだろうか。というよりもロビンの変身と、世界創生、そして時間への旅路とその使者の物語が幕ごとに明らかにされ、意味不明だった物語がひとつまたひとつと意味をなしていく過程が刺激的だった。

 

前作の『 BLAME! 』的な世界観から一転して、ハインラインの『 夏への扉 』(原作小説の方)やアシモフの『 最後の質問 』的な拡張的な世界が現出した。ここからどうやって地下世界に回帰して、そこから地上世界へ帰還するのか。楽しみで仕方がない。第三作が今から待ちきれない。

ネガティブ・サイド

シリーズの一貫したテーマの一つが生殖であるはず。それを茶化すようなシーンがあったのは残念。大使がアワビ(的なもの)を貪り食う、とかならまだ許容できたかも。

総評

期待していた作品とは違っていたが、これはこれで面白いし、鬼才が仕事を辞め経済的な支援を得ても、そのユニークなクリエイティビティが全く衰えていないことに安堵した。トリスはロビンのみならず、堀貴秀氏自身のミューズでもあるのだろう。では、次作でパートンは自身のミューズと出会い、愛を成就=生殖ができるのだろうか。もはや期待しかない。2028年ぐらいには観たい。クラファンはどこでしているのか?数万円ならすぐにでも投資したいところだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

worship

崇拝する、崇敬する、崇めるの意。宗教的な文脈で使われるが、冗談めかして使うこともできる。If you get this job done by Friday, I’ll worship you. のように、親しい同僚などに言ってみるといいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 脱走 』
『 28年後… 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, SF, アニメ, 堀貴秀, 日本, 監督:堀貴秀, 配給会社:アニプレックスLeave a Comment on 『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

『 リライト 』 -小説をまあまあ上手く改変-

Posted on 2025年6月21日2025年6月21日 by cool-jupiter

リライト 55点
2025年6月15日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:池田エライザ 阿達慶
監督:松居大悟

法条遥の同名小説の映画化ということでチケット購入。ラストを一捻りしているが、そこに至るまでは割と原作に忠実だった。

あらすじ

2310年の未来からタイムリープしてきた保彦(阿達慶)と偶然にも親密になった美雪(池田エライザ)は、やがて彼に惹かれていく。しかし、ある悲劇が康彦を襲う。彼を救う全てを求めて10年後の自分に出会いに行く美幸だが・・・

ポジティブ・サイド

原作の少しわちゃわちゃしていたところが視覚化されて、分かりやすくなっていた。原作もそうだったが、『 時をかける少女 』へのオマージュが随所にある。〇〇〇〇を読んだ康彦ではないが、尾道に行ってみたくなるような作品になっている。

本作は(原作もそうなのだが)一種のギャルゲーだと思えばいい。ある意味、『 Ever17 -the out of infinity- 』が近いだろうか。これがネタバレにならないことを祈る。

大人の美雪を掘り下げたところが原作との違いで、ここは面白かった。リライト=rewriteが意味するところは、自分の運命や人生の書き換えでもある。曲がりなりにも分泌のプロになったのなら、Verweile doch, du bist so schön! という精神を持ちたいもの。

ネガティブ・サイド

正直、原作のおどろおどろしい執念のようなものが消えてしまっていて残念。それが何であるか気になる人は原作を読んでほしい。康彦の口癖の「何という無駄!」は削る必要はあったのだろうか。

キャスティングも残念ながら減点材料。池田エライザや橋本愛が高校生を演じるのはさすがに無理があるし、その他の同級生たちもかなりしんどかった。

橋本愛の罪ではないが、販促物、とくにポスタービジュアルなどを手がける人はネタバレを避けてほしい。あるいは鑑賞後にそれと分かる作りにしてほしい。原作未読のうちの嫁さん(に限らず普通の感受性と観察力の持ち主)は、すぐに誰がキーパーソンなのか悟ってしまった。

総評

小説の映画化としてはまあまあ。同作家の作品で言えば『 バイロケーション 』よりはマシである。池田エライザのファンなら鑑賞すべし。そうでなければスルー推奨。本当ならアニメ作品にすべきなのだろう。というわけで、タイムリープものとしては本作よりも遥かに面白い高畑京一郎の小説『 タイム・リープ あしたはきのう 』を、誰か105分程度でアニメ化してくれませんかねえ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I wish time stopped now.

時間が止まってほしい、の意。さて、本作ではとあるキャラクターがこれを日本語で言う。どんな場面なのかしっかりと把握して、ここぞというロマンチックな場面でこれをささやいてみよう。それができれば英検1級を超えて英検0級である。

次に劇場鑑賞したい映画

『 JUNK WORLD 』
『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 脱走 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, SF, 日本, 池田エライザ, 監督:松居大悟, 配給会社:バンダイナムコフィルムワークス, 阿達慶Leave a Comment on 『 リライト 』 -小説をまあまあ上手く改変-

『 ぶぶ漬けどうどす 』 -クソ映画オブ・ザ・イヤー候補-

Posted on 2025年6月16日2025年6月16日 by cool-jupiter

ぶぶ漬けどうどす 20点
2025年6月14日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:深川麻衣
監督:冨永昌敬

 

かつて烏丸御池でスクール責任者を数年務めた身として鑑賞せねばと思いチケット購入。残念ながらクソ駄作だった。

あらすじ

まどか(深川麻衣)はライターとして京都を題材に取り上げようとしていた。夫の実家の老舗や洛中の女将たちを取り上げるために京都に移り住んだまどかは、取材と創作を本格化させていくが・・・

ポジティブ・サイド

京都人の奇妙な歴史感覚は確かに味わえる。100年程度では老舗とは呼べず、200年でやっと老舗。そうした矜持と、京都独特の伝統を維持するための有形無形の努力と圧力はそれなりに映し出されていた。

 

ネガティブ・サイド

まず大前提として知っておきたいことは「京都で茶漬けを勧められたら遠回しに帰れと言われている」というのはフィクションだということ。Jovianは生粋の京都人(それこそ江戸時代から同じ区域に先祖代々住んできた方々)複数名に尋ねたことがある。

 

そもそも本作はテーマは何なのだろうか。京都人の陰湿な一面をさらけ出すこと?それとも、京都人の本音と建前の使い分けをユーモラスに描くこと?それとも、そうした京都を前面に押し出しつつ、東京人のアホさ加減を陰で笑うこと?残念ながら、そのいずれにも失敗している。だいたい制作陣に京都出身者、あるいは京都研究者はいなかったのか?パッと調べた限り見当たらないのだが。

 

京都人に陰湿で排外的な一面があることは事実。そしてそれは洛中から洛外(洛外の人々はしばしば結界の外という言い方もする)に向けての姿勢であることがほとんど。ただ、これは京都に限った話ではない。旧浦和と旧大宮が旧与野を叩いたり、あるいは我が兵庫県で言えば神戸が播州を見下したり、あるいは神戸市中央区が神戸市西区を見下したりしている。関東でも、町田市を神奈川扱いしたり、あるいは北関東(茨城、栃木、群馬)を南東北と呼んだりと、どこの地域、どこの都道府県でも見られる現象である。では洛中と洛外で何が違うのかを本作は掘り下げられたか。そこは一切触れられていなかった。だったら京都を取り上げる意味も意義もない。

 

京都人の本音と建前の使い分けについても監督および脚本家は誤解している。あるいは理解を深めていない。本音と建て前の使い分けは京都人の専売特許ではなく、日本語ネイティブのコミュニケーション技術の一つである。つまり京都人以外も普通に使っている。関西弁では「考えときまっさ」というのはお断りの意味である。またビジネス文脈なら「前向きに検討する」は五分五分くらいに聞こえるが、政治家や役人が同じ表現を使ったら、かなりの見込み薄に聞こえる。タイムリーな例を挙げれば、我が兵庫県知事の言う「重く受け止める」も、本音は「うるさいわ、知らんがな」である。では京都人が使う建前は何がどう異なるのか。それは相手と自分の関係性、もっと言えば上下関係や距離が明確な時に使われるのである。このあたりの描写が、まどかと片岡礼子演じる女将連中の間でかなりちぐはぐだった。

 

そもそも、京都を題材にしようと脱サラして作家活動を始めようとするわりに、まどかは事前の京都調査がまったくといっていいほど出来ていない。これは作家として致命的である。しかも老舗の跡取りになる可能性のある京都出身の夫を持ちながらこの体たらく。つまり、アホなのだ。もうこの時点でこの主人公に共感することが困難になる。また夫や創作パートナー、そして京都に巣食う外来種が皆、東京人で、なおかつ裏の顔の持ち主。本作は京都をディスりたいのか、東京をディスりたいのか。テーマを極力絞るべきである。

 

京都の本質を語る学者先生は『 嗤う蟲 』では夫だった若葉竜也。しかし、彼が語る京都の本質に持ち出されるガジェットが琵琶湖?琵琶湖は滋賀県やで・・・ 『 リバー、流れないでよ 』のように、鴨川を使えばいいではないか。もしくは貴船まで上って貴船川でもいい。なぜ琵琶湖?

 

ストーリーもさして面白くなく、BGMも不快。カメラアングルにも光るものはなかった。そもそも京都人たちが皆、京都弁が下手過ぎる。もうちょっとまじめにやれと言いたい。京都人風に評するなら「伝統を尊重してもろて、はばかりさん」とでもなるだろうか。

 

総評

一言、駄作である。職場の同僚、就中、京都人たちには決して観るなかれと忠告したい。東京人が思いっきりアホに描かれているが、作劇上の演出を飛び越えてナチュラルなアホに見える。『 翔んで埼玉 』の含意するところに気付かないプロの東京の批評家が何名かいたが、そうしたお歴々は本作をどう評するのだろうか。そこには少し興味がある。いずれにせよ、観る必要はない。怖いもの見たさやゲテモノ好きは否定しないが。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a venerable shop

老舗の私訳。老舗は古い以外にも格式がある、伝統がある、趣きがあるなどの意味も含んでいるが、それに最も近いのが venerable = 由緒正しい、だろうか。老舗企業なら venerable firm で、老舗料亭なら venerable Japanese restaurant となる。英検準1級以上を目指すなら押さえておきたい語彙。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 JUNK WORLD 』
『 リライト 』
『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, ブラック・コメディ, 日本, 深川麻衣, 監督:富永昌敬, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 ぶぶ漬けどうどす 』 -クソ映画オブ・ザ・イヤー候補-

『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

Posted on 2025年6月15日2025年6月15日 by cool-jupiter

国宝 80点
2025年6月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:吉沢亮 横浜流星
監督:李相日

 

李相日監督作品ということでチケット購入。3時間が苦にならない重厚長大なドラマだった。長引く風邪と仕事の突発的な事案のため簡易レビュー。

あらすじ

極道の父親を失った喜久雄(吉沢亮)は、歌舞伎役者の家に引き取られ、そこで兄弟同然の仲となり習性のライバルとなる俊介(横浜流星)と出会う。歌舞伎の道に邁進する二人だったが、やがてある出来事が転機となり、袂を分かつようになり・・・

ポジティブ・サイド

喜久雄が任侠の跡取り息子から国宝に成り上がるまでの50年間は見応え抜群。歌舞伎の良し悪しは判断しかねたが、役者が役者を演じることの重みは十分に伝わってきた。

 

順調にキャリアを積み上げてきた喜久雄が、思いがけず転落していく最中で見せた屋上での踊りは『 ジョーカー 』を髣髴させた。

 

本作のテーマは、芸とは才か血かというもの。もちろん、この命題に絶対の答えなどない。ただ本作は、才の極みが血を残すのかどうかについて興味深い視点を提供したとは言える。

 

劇中劇の中でも特に『 曾根崎心中 』が良かった。Jovianの出身地の尼崎は近松門左衛門と縁が深く、近松公園は散歩コースかつ時々縁台将棋にも参加させてもらっている。また、死ぬことになる遊女のお初は、梅田近辺にオフィスを持つ企業のサラリーマンなら、露天神社で一度は目にしたことがあるはず。舞台も大阪だし、大阪人や大阪近辺の人間こそ鑑賞すべき作品である。

ネガティブ・サイド

時代のせいだと言えばそれまでだが、女性キャラがそろいもそろって物語上のガジェットのようだった。なぜそこでその男に惚れる?なぜそこでその男についていく?そんな疑問だらけ。

 

また糖尿病もある意味で大活躍。確かに1980年代、1990年代は40代以上の男性の10人に1人(100人に1人ではない)は糖尿病予備軍だと言われていたが、糖尿病悪化で吐血?会社員ではないが、お前ら年に一度の健康診断ぐらいは自腹で受けろ、と感じた。

総評

ある意味、顔で生きてきた吉沢亮が、遂に本物の代表作を手に入れた。歌舞伎という誰もが知りながら、誰も知らない世界をこれほど活写した作品はこれまでなかったし、これからも出てこないだろう。『 ハルカの陶 』の国宝はあまり国宝らしくなかったが、本作の描く人間国宝は国宝の輝きを放っている。ぜひとも大画面、大音響の劇場で鑑賞を。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Living National Treasure

ナショナル・トレジャーといえばニコラス・ケイジを思い出すが、これに living をつけることで、生きている国宝、すなわち人間国宝を意味する。Jovianが知っている人間国宝は中村吉右衛門以外では桂米朝、金重陶陽、藤原啓ぐらい。皆さんが思い浮かべる Living National Treasure は誰だろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』
『 JUNK WORLD 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 吉沢亮, 日本, 横浜流星, 監督:李相日, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』  -看板に偽りあり-

Posted on 2025年6月4日2025年6月4日 by cool-jupiter

『 か「」く「」し「」ご「」と「 』 50点
2025年5月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:奥平大兼 出口夏希
監督:中川駿

 

『 君の膵臓をたべたい 』の住野よる原作、『 カランコエの花 』の中川駿監督ということでチケット購入。期待はやや裏切られた感じ。

あらすじ

大塚京(奥平大兼)は三木直子(出口夏希)に恋心を抱いていた。しかし、一方で単なるクラスメイトの男子としてのポジションにも満足していた。しかし、不登校だったとあるクラスメイトが学校に帰ってきたことで、京の周囲の人間関係が少しずつ動き出し始めて・・・

ポジティブ・サイド

はっきりとは覚えていないが、Jovianは保育園の年長ぐらいまでは、自分の気持ちも他人の気持ちも目に見えていた。より正確に言うと、AがBに怒っていると、AからBに赤い光線が走る、CがDに感謝しているとCからDに白い光線が走る、のように見えていた。まあ、イマジナリーフレンドのようなもので、自分だけに見えて、自分だけにリアルに感じられるものだったのだろう。小学校に入学したとたんに一切見えなくなったが、特にそれでショックを受けたような記憶もない。けれど、そうした見方をする子どもがいて、その子がそのまま成長したら・・・という想像は容易。なので、本作のキャラクターたちの「他人の気持ちが視覚化されて見える」という隠し事には素直に共感できた。

 

単に主人公とヒロイン、じゃなかったヒーローの二人の関係だけを追求する物語ではなく、5人組がアンサンブルキャストになっている点が良かった。若さとは省みないことたが、逆に省みすぎてしまうことでもある。青春時代、好きになってしまった相手に猪突猛進した人もいれば、好きになってしまったがゆえにその相手に対して身動きが取れなくなってしまった、なぜなら自分は相手にまったくふさわしくないから、と信じ込んでしまった人もいるだろう。本作は後者の集まりで出来ている。それが心理的な駆け引きではなく、それぞれの隠し事によるものだという点が興味深かった。

 

好きという感情もあれば、その反対に嫌いという感情もある。いや、マザー・テレサ風に言えば好きの反対は無関心か。誰かを嫌いになれるのも、それだけ相手を気に掛けているから。あるキャラがやや屈折した考え方(考え方であり、決して感じ方ではない点に注意)から一歩引いたところにいるのだが、これは古典的でありながらも現代的。『 カランコエの花 』のような価値観は本当に遠くのものになってしまったのだとしみじみ実感する。

ネガティブ・サイド

京のしゃべりがボソボソ、モゴモゴで聞き取りにくかった。監督の演出なのだろうか。はっきりとボソボソしゃべってこそ演技と言える。

 

ヅカにはパラ相手の見せ場はあったものの、一人だけ掘り下げが圧倒的に少なかったのは、原作がそうだからなのか、それとも脚本でそうなってしまったのか、はたまた編集の都合なのか。

 

主人公二人の特殊能力が、特に何もドラマを生まないのが一番の不満。他人の心理がある程度わかってしまう。だからこそ自分を抑えてしまうというのは、個人的には若さよりも老いを感じさせる。

 

ミッキーと京の距離が縮まるのがあまりにも唐突過ぎ。なんなら、不登校だったエルと京の間のドラマこそ盛り上がるべきだった。というか、女子からしたら男子にシャンプーを変えたことに気付いてもらえるというのは、メチャクチャ嬉しいか、メチャクチャ気持ち悪いかの二択。だからこそ、そこを追求するサブプロットがあってしかるべきだった。

 

全体的に5人が非常に閉じた世界に敢えて引きこもっているという印象を受けた。何の変哲もないクラスメイトの女子または男子が「お前らの両想い、バレバレだぜ?」みたいに一瞬だけ割り込んでくれば、もっとリアルになったように思う。

 

総評

羊頭狗肉は言い過ぎかもしれないが、「君の秘密を知ったとき、純度100%の涙が溢れ出す。」という宣伝文句は、看板に偽りありとの誹りは免れない。原作小説はしっかりしているのだろうか。中川駿監督の得意とするウソが下手な若者の像は描き出せている。ただ住野よるのテイストが出ていたかというと疑問。鑑賞するなら期待しすぎず、普通の青春群像劇でも観るか、ぐらいのノリでいた方が良い。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

dry up

干上がるという意味以外にも「言葉が出なくなる」という意味もある。He suddenly dried up in the middle of the presentation. =彼はプレゼンの最中に突然黙ってしまった、のように使う。プレゼン中でも商談中でも授業中でも、dry up は怖いものである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 国宝 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』

 

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