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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 海外

『 シビル・ウォー アメリカ最後の日 』 -ロードムービー&戦争ドキュメンタリー-

Posted on 2024年10月8日 by cool-jupiter

シビル・ウォー アメリカ最後の日 70点
2024年10月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:キルステン・ダンスト ケイリー・スピーニー
監督:アレックス・ガーランド

 

2023年から楽しみにしていた作品。事前情報は極力仕入れずにチケット購入。イメージとは違ったが、これはこれでありだと思えた。

あらすじ

内戦勃発から14か月、一度もメディアの取材を受けない大統領にインタビューを試みるため、戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)は仲間と共にワシントンDCを目指していた。ふとしたことから知り合ったカメラマン志望のジェシー(ケイリー・スピーニー)と旅路を共にするが、道中では分断されたアメリカの現実を目の当たりにすることになり・・・

 

ポジティブ・サイド

キルステン・ダンスト演じるリーと、彼女にあこがれるケイリー・スピーニー演じるジェシーのロード・トリップが前半、後半は戦闘の最前線を行く従軍カメラマンの師弟の物語だった。

 

ワシントンに向かう途上で出会うアメリカ人たちが、同胞であるはずのアメリカ人を虐待する、あるいは訳も分からず殺し合う風景に遭遇していく。ロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルのガザ地区やレバノンへの攻撃が思い起こされるが、これを同国人同士でやってしまうのが内戦の恐ろしいところであると慄然とさせられる。

 

トレーラーにもあった、”We are American.” に対するジェシー・プレモンス演じる不気味な兵士の ”What kind of American are you?” という問いが剣呑だ。これに対する一定の答えがあるのだが、それはまさに多くの近代国家の歴史そのもの。日本とて例外ではない。もう一度、アメリカ合衆国は United States of America であるということを思い起こそう。我が兵庫県も五か国連合(摂津、丹波、但馬、播磨、淡路)で、時にヒョーゴスラビア連邦などと言われるぐらいにバラバラである。もちろん内戦をジョークにはできないが、国家としての一体感よりも、個人の収入や生活の方が大事なのだ、という局面にアメリカ、そして先進国が至っていることは間違いない。そうした状況では、分断が分裂に至ることもありえるだろうと感じる。

 

後半から終盤はワシントンの市街戦、そしてホワイトハウス陥落を描く。詳細は観てもらうしかないが、米国はアブグレイブ刑務所から特に何も学んでいないことを感じさせるものだった。それがアレックス・ガーランド監督の抱える問題意識なのだろう。銃撃戦の迫力は文句なし。砲塔を戦車で吹っ飛ばすシーンの迫力も文句なし。容赦のない破壊の行き着く先はどこになるのか。やはりアメリカ人はウサーマ・ビン・ラーディンの暗殺と死体遺棄を反省していないようである。これもアレックス・ガーランド監督の問題意識の表れなのだろう。

 

civil war とは内戦を指すが、特に the Civil War と表記すると、アメリカの南北戦争を指す。『 アンテベラム 』でも描かれたように、南北戦争は奴隷制度の有無および保護貿易(北の合衆国= United States of America)と自由貿易(南の連合国= Confederate States of America)が主な対立軸だった。

 

本作では、カリフォルニア州とテキサス州を中心とするWF(Western Forces)が連邦政府軍を相手に戦っているという、東西戦争の様相を呈している。その原因は分からないし、明示もされない。ただ、D・トランプが大統領に就任した2017年、世間では盛んにアメリカは United States ではなく Divided States になったと言われていたのは多くの人の記憶に新しいはず。また彼の支持者が選挙不正の疑いを不満に思って連邦議事堂に大挙して乗り込んだ事案は、先進国の民衆が暴徒化したという意味で衝撃的でもあった。それこそ『 ジョーカー 』のように、何かきっかけがあれば民衆は一挙に暴徒化しうるのである。

 

そういった意味で本作は確かに現代アメリカ的である。そして現代アメリカ的ということは、数年もしくは数十年後の日本的でもあるということである。

ネガティブ・サイド

途中で合流してくるジャーナリスト仲間は、もう少しプロフェッショナルに描けなかったのか。それまで筋金入りのジャーナリストとして描かれてきたジョエルやリーが、急に薄っぺらく見えてしまった。

 

最後の最後にリーが見せた行動は、従軍記者としてのキャリアの長いリーらしからぬ動作。行動については旅路の中で経験した喪失と悲嘆で説明がつく。問題はその動作。ここに説得力がなかったので、最後の最後にやや白けてしまった。

 

総評

インタビュー記事などを読むに、キルステン・ダンスト自身もメリー・コルビンを意識していたようである。本作も面白いとは感じたが、残念ながら『 プライベート・ウォー 』ほどではなかった。随所に流れる能天気なオールディーズと波長が合うかどうか。案外、本作の評価はそこで決まるようにも感じる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

secede

分離する、の意。ラテン語では se = apart、cedere = to go である。つまり「離れて行く」ということ。Brexit の際のニュースで使われることが多かったので、BBCやCNNの視聴者なら耳にした、あるいは記事で見たことがあるだろう。secessionist secessionist = 分離独立運動のように使う。cede = 行くだと理解していれば、precede = 先行する、proceed = 前進する、exceed = 超過する、succeed = 成功する(どんどん行く)、concede = 譲歩する(共に行く)などもパッと整理して理解できるだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 犯罪都市 PUNISHMENT 』
『 ぼくのお日さま 』
『 花嫁はどこへ? 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, キルステン・ダンスト, ケイリー・スピーニー, スリラー, 監督:アレックス・ガーランド, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 シビル・ウォー アメリカ最後の日 』 -ロードムービー&戦争ドキュメンタリー-

『 熱烈 』 -Becoming One and Only-

Posted on 2024年9月30日 by cool-jupiter

熱烈 80点
2024年9月29日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:ワン・イーボー ホアン・ボー
監督:ダー・ポン

 

『 ボーン・トゥ・フライ 』主演のワン・イーボーが今度はブレイキンのダンサー役を演じる。またしても妻のリクエストでチケット購入。

あらすじ

ブレイキンのプロチーム「感嘆符!」は、中心メンバーのケビンが財力を武器に好き放題。ある時、ケビンの代役が必要になり。コーチのディン・レイ(ホアン・ボー)は、地元のイベントで細々と活躍している、かつてのオーディション参加者チェン・シュオ(ワン・イーボー)を加入させるが・・・

ポジティブ・サイド

我が母校には Smooth Steppers というストリートダンスのサークルが2000年には既に存在していて、寮の洗面所で踊っている後輩もいたりした。五輪の種目にもなるなど、本当にストリートダンスは一般に普及したのだなと個人的に感慨深かった。

 

肝心の映画の出来はというと、これが非常に良かった。発展目覚ましい浙江省の杭州の中心で練習する感嘆符!と、実家の手伝いと洗車アルバイトと地元のイベントの掛け持ちの中でダンスの練習を積んでいくチェン・シュオの対比が残酷にすら映る。

 

しかし、チェン・シュオが代役ながらも感嘆符!入りを果たしたことで、少しずつ彼の人生も変わっていく。そこで良い味を出すのがコーチのディン・レイ。『 ボーン・トゥ・フライ 』のチャン・ティン隊長的のようなゴリゴリの軍人ながら、良き家庭人でもあるというおっさんではなく、ダンスに生き、ダンスでしか生きられないという、ある意味で永遠の少年 = puer aeternas だ。しかし、このおっさんが少年のままで居続けるのか、それとも色々と物事を割り切って大人になってしまうのかというサブプロットが、若年でありながらも母や叔父を支え続けてきたチェン・シュオの生き方との対比になっていて魅せる。

 

悪役であるケビンも単なる悪ではなく、チェン・シュオとは対照的な意味での子ども。レーシングカーコースのあるだだっ広い部屋で無言でクルマを走らせる姿は、いくら爆走しても決められたコースから外れられない自身の境遇と重なっていた。

 

アップダウンを経ながら、最終的にケビン率いるチームとのバトルに挑む感嘆符!。ここでのダンスシーンは圧巻の一語に尽きる。孤独のままに踊るケビンとチームで踊る感嘆符!という構図が、個々の力で踊るケビンのチームと観客を味方につける感嘆符!という構図に変わっていく。この過程が非常にドラマチックだ。そして最後の最後、一歩間違えれば『 少林サッカー 』的になりかねない大技が決まった瞬間のカタルシスは筆舌に尽くしがたいものがあった。

 

『 ガリーボーイ 』的なサクセス・ストーリーを、『 ピッチ・パーフェクト 』のような仲間とのビルドゥングスロマンとして、そしてダンス・パフォーマンスは『 マジック・マイク 』並みのセクシーさとパッションで見せてくれる作品。総じて『 スウィング・キッズ 』と同レベルの傑作と評してよいと思う。

 

ネガティブ・サイド

カメラワークに少々注文を付けたい。ケビンのチームの外国人助っ人たちの実力を観客および感嘆符!に見せつける、かつ五輪競技でもあるブレイキンの魅力を観客に伝えるために、真正面からの定点カメラで撮影し、映し出してほしかった。理想はBTSのDynamiteの練習動画である。

 

チェン・シュオの父親の踊っているシーンや回想、もしくは写真が見てみたかった。ディン・レイが疑似的な父親になっているのは分かるが、やはりダンサーだったというチェン・シュオの父とチェン・シュオのつながりを体感してみたかった。

 

総評

TOHOシネマズ梅田も座席はほぼ完売で、驚きの女子率&マダム率。トイレ前で「3回目なのに、また泣いちゃった」と感想を言い合う女子、エレベータの中でこれから広島や愛知に帰ると言っていたマダムたちも見かけた。ワン・イーボーは確実に中国という枠を超えてアジアのスターになりつつある。公開している劇場も少なくなってきているので、観るのならばお早めに!

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

ガンベイ

乾杯の意。劇中でもやたらと一気飲みをするが、漢字を見れば納得である。Jovianの学生時代を振り返っても、確かに Chinese American や Chinese Australian は、一気に盃を空けていた。一気飲みは自己責任で!

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 シュリ 』
『 シビル・ウォー アメリカ最期の日 』
『 犯罪都市 PUNISHMENT 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, スポーツ, ヒューマンドラマ, ホアン・ボー, ワン・イーボー, 中国, 監督:ダー・ポン, 配給会社:彩プロ, 青春Leave a Comment on 『 熱烈 』 -Becoming One and Only-

『 ポライト・ソサエティ 』 -カンフー+姉妹愛-

Posted on 2024年9月10日 by cool-jupiter

 ポライト・ソサエティ 70点
2024年9月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:プリヤ・カンサラ 
監督:ニダ・マンズール

 

カンフーものということでチケット購入。

あらすじ

パキスタン系の家庭に生まれたリア(プリヤ・カンサラ)はスタントウーマンを目指して日々トレーニングを続けている。しかし教師には現実的ではないとたしなめられ、クラスメイトからは馬鹿にされる。ある時、母の知り合いからパーティーに招かれたリア一家。ホストファミリーの男性医師に見染められたリアの姉、リーナが結婚することを知った時、リアは何かを不審に感じて・・・

ポジティブ・サイド

主演のプリヤ・カンサラの芝居に、とにかくエネルギーが満ち溢れている。日々、スタントや空手のトレーニングに励み、その様子をホームページにアップ。憧れのスタントウーマンにもメールを送り続ける。一方で街中の中華屋でついつい鶏の丸焼きを買い食い。その姿を知り合いに見られそうになると、思わず隠れてしまう。冒頭の数分でリアというキャラクターのパーソナリティの大半が把握できる。それもプリヤ・カンサラの過剰一歩手前の演技があってこそ。

 

展開も分かりやすい。美大を休学中の姉が、あれよあれよと玉の輿に乗ってしまうが、この結婚、どうも怪しい。『 きっと、それは愛じゃない 』を反対側から見たようなストーリーなのだが、今作はかなりの捻りを加えてきている。これはなかなかの twist で、近いところでは『 この子は邪悪 』がちょっと近いか。ヴィラン役の女性もすごい迫力。日本だと余貴美子あたりがこのオーラを出せそう。

 

リアの友情物語も『 ザ・スイッチ 』的で結構面白い。異性との恋愛云々ではなく、とにかく家族愛で動くリアの姿に、時に協力し、時に飽きれてしまう友人たちとのドラマも見応えがある。インド映画と同様にダンスシーンもあり、そこでもリアが民族衣装をまとって華麗に踊ってくれるし、もちろんスタントウーマン志望らしい大立ち回りも見せてくれる。

 

踊りやアクションだけではなく音楽にも要注目。ある場面で浅川マキが流れてきてビックリした。Jovianはロッド・スチュワートをカバーする日本人アーティストということで少し知っていたが、まさかニダ・マンズール監督のプレイリストに浅川マキが入っているとは。

 

ベタベタのエンディングを迎えるわけだが、そこに至る過程はアップダウンがあって普通に面白い。ボクサーのアミール・カーンはキャリアの中で差別に苦しむこともあったが、英国もパキスタン系移民をしっかり受容できるようになってきたのだなということも感じさせる社会的な一作になっている。

 

ネガティブ・サイド

姉を守ろうとするあまり、婚約者のパソコンを盗み出してデータを抜いてやろうというのは普通に犯罪。『 ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ 』SNSなどでエロメッセージを送って反応を引き出そうとする、そして経験不足ゆえに思いがけない反応を引き出して・・・のようなプロットもありえなかったか。

 

ヴィランがどういうわけか強すぎる。彼女の強さの背景が一切描かれていない点は最後の最後まで気になってしまった。

 

総評

『 スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち 』のごとく、スタントウーマンを目指す女子高生の物語・・・と見せかけて、実はそれはサブプロットというか、メインは家族愛と10代のアイデンティティ・クライシスである。それもイングランドでパキスタン系のルーツを持つことに思い悩むという『 ジョイ・ラック・クラブ 』的な段階はとっくに通り越している、あるいは最初から存在しない。自分とは何か、自分はどのように夢を追うのかというテーマをたっぷりのアクションでもって追求する佳作である。ぜひ劇場鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Get this.

直訳すれば「これを手に入れろ」だが、実際は「これ大事だからよく聞いて」である。英検やTOEICで聞いたことはないが、TOEFL iBTではちらほら聞こえる。映画やドラマでもよく使われている。たしか『 エリン・ブロコビッチ 』でもジュリア・ロバーツが使っていたかな。英語でプレゼンしたりするときに使うと、ちょっとカッコイイかもしれない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 愛に乱暴 』
『 ナミビアの砂漠 』
『 スオミの話をしよう 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, イギリス, プリヤ・カンサラ, 監督:ニダ・マンズール, 配給会社:トランスフォーマーLeave a Comment on 『 ポライト・ソサエティ 』 -カンフー+姉妹愛-

『 エイリアン:ロムルス 』 -シリーズ作品全部乗せ-

Posted on 2024年9月7日 by cool-jupiter

エイリアン:ロムルス 75点
2024年9月6日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:ケイリー・スピーニー デビッド・ジョンソン
監督:フェデ・アルバレス

『 エイリアン 』後、かつ『 エイリアン2 』以前を描く『 エイリアン 』シリーズの最新作。オープニング・デーのレイトショーにて鑑賞。

 

あらすじ

ウェイランド・ユタニ社との契約で辺境の星で働くレイン(ケイリー・スピーニー)と、その弟的な存在のアンドロイド、アンディ(デビッド・ジョンソン)は、仲間が偶然に見つけた廃船で新天地を目指すことに。しかし、その船の研究棟ロムルスでは過去に「完璧な生命体」が研究をされていて・・・

ポジティブ・サイド

冒頭の巨大宇宙船からして第一作目のオマージュ(それ自体も『 2001年宇宙の旅 』へのオマージュだが)。そして映し出される一部が欠けたノストロモ号の表記。『 エイリアン 』の惨劇の舞台に帰ってきたなという感慨が得られる最高の導入部だった。

 

その後に映し出される、どこか『 ブレードランナー 』を髣髴させるジャクソン星は、リドリー・スコット御大への忖度か、それともオマージュか。いずれにせよ、こんな環境からは脱出したくなる。一瞬だけ映し出される炭鉱のカナリヤの姿がレインたちのその後を暗示しているようで、惨劇への期待が高まる。

 

乗り込んだ廃船のプロダクションデザインは完璧に近い。ノストロモ号の油臭さに黴臭さと埃っぽさを加え、2で強烈な印象を残した赤のストロボを本作ではオレンジに変更。似て非なる世界ではあるが、確かにエイリアン世界だった。今では古めかしい文字表示型のコンピューターのマザーも、テキスト生成AIのおかげでより現実感が増している。そしてアンドロイドという存在も、現在のボストン・ダイナミクス社製のロボットなどを見ていると100年後には実在しているように感じられる。色々な意味で本作はリリースのタイミングに恵まれた。

 

ストーリーはとにかく全部乗せ。フェイスハガーにチェストバスター、ゼノモーフに、暴走するアンドロイドに人間を守るアンドロイド。そして人間の果てなき欲望。エイリアンの1、2、3、4への数々のオマージュに加え、『 プロメテウス 』への直接的な言及や『 エイリアン:コヴェナント 』のプロット再現もあるなど、とにかく作り手のシリーズへの愛情愛着がひしひしと感じられるし、伝わってくる。『 エイリアン:コヴェナント 』で示されたエンジニア ⇒ 人類 ⇒ アンドロイド ⇒ エイリアン ⇒ エンジニアという奇妙な連関も、ある意味で本作の中で一気に凝縮されていて、小さな舞台ではあるが、世界観は確実に広かった。

 

クライマックスは凄惨の一語。『 エイリアン2 』や『 プロメテウス 』で特に顕著だったが、エイリアンというフランチャイズは母性の追求であるとも言える。一つには、言うまでもなく女性の生殖能力。もう一つは「女は弱し、されど母は強し」。ここで言う母とは必ずしも生物学的な母ではなく、強烈な母性の持ち主ということ。慈母と鬼子母神の両方を体現するレインは、『 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 』のデイジー・リドリーのようになアイコニックな役を手に入れた(そのせいで役者として伸び悩むかもしれないが・・・)。

 

あらゆるシーンがオマージュで、あらゆる展開が予想通り。しかし、その展開が期待を超える描写をもってなされるところに本作の価値がある。1、2、プロメテウス、コヴェナントだけをチラッと観たことがあるJovian妻は鑑賞中、常に恐怖と緊張感で細目になっていたとのこと。予備知識なしでも鑑賞可能だが、ぜひ予習を行って(最低でも1、できれば1と2を観て)劇場鑑賞されたい。

 

ネガティブ・サイド

途中で一瞬、『 ドント・ブリーズ 』が混ざったのは個人的にはイマイチだった。もしフェイスハガーが〇〇と■■を捉えているのなら、『 エイリアン2 』でリプリーあるいはニュートは犠牲になってしまっていたはず。

 

重力と無重力が重要なキーになるのだが、終盤のシーンはいくらなんでもご都合主義的過ぎる。また無重力状態でスイスイ動くレインにも違和感。慣れない状態で、ぎこちない動きの方がサスペンスは絶対に増したと思われる。

 

総評

こうした作品は往々にして「ぼくのかんがえたさいきょうのエイリアン」のようになってしまうが、そうならなかったというだけでも素晴らしい。シリーズ全作品へのオマージュを取り入れつつ、予想通りなのに期待以上の作品に仕上げるという職人芸をフェデ・アルバレスは成し遂げた。1と2には及ぶべくもないが、シリーズ中では間違いなく堂々の第3位。往年のファンも納得の出来栄えである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

get away from ~

~から離れる、の意。『 エイリアン2 』のあの台詞が意外なシチュエーションで使われるが、これはファンサービスとして素直に受け取っておこう。繰り返しになるが、本作そのものが大予算の公式同人作品なのである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ポライト・ソサエティ 』
『 愛に乱暴 』
『 ナミビアの砂漠 』

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, SF, アクション, アメリカ, ケイリー・スピーニー, デビッド・ジョンソン, 監督:フェデ・アルバレス, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 エイリアン:ロムルス 』 -シリーズ作品全部乗せ-

『 赤ずきん 』 -童話の再解釈に失敗-

Posted on 2024年9月7日 by cool-jupiter

赤ずきん 30点
2024年9月2日 レンタルBlu rayにて鑑賞
出演:アマンダ・セイフライド ゲイリー・オールドマン
監督:キャサリン・ハードウィック

 

近所のTSUTAYAでパッと目についたんのでレンタル。

あらすじ

ヴァレリー(アマンダ・セイフライド)は、幼馴染のピーターと密かに愛をはぐくんでいた。しかし、母親はヴァレリーのあずかり知らぬところで婚約者を決めてしまう。ピーターを駆け落ちしようとしていた矢先に、ヴァレリーの姉が変死を遂げる。それは、20年間生け贄を捧げることでおとなしくしていた狼によるもので・・・

 

ポジティブ・サイド

てっきりフェミニスト・セオリーによって再解釈された赤ずきんちゃんだと思っていたが、さにあらず。そういう視点で鑑賞すると、狼の正体には決してたどり着けない作りになっている点は良いと思う。

 

ゲイリー・オールドマンはクソ映画に出演することはあっても、彼自身がクソであることはめったにない俳優だなと再確認できた。

 

ネガティブ・サイド

赤ずきん世界の20年後はちょっと離れすぎ。その設定だと赤ずきんは30代前半にならないだろうか。10年後の20代前半で良かっただろうに。

 

赤ずきんというよりも人狼ゲーム(観たことはないが)で、ファンタジー世界と調和したプロットとは感じられなかった。そもそも20年前に狼の腹を裂いたことがあるのなら、なぜに生け贄を捧げるようになったのか。

 

中盤に出てくる狼も、2010年代とはいえ、あまりにもCGのクオリティが低い。これなら『 ネバーエンディング・ストーリー 』のグモルクの方が実在感があったし、恐怖感もあった。

 

ミステリーとしての見せ方も稚拙。「瞳」が重要なヒントになるのだが、だったら観る側にはそれ以前に伏線となるショットをそれなり提供してくれないと。観終わってから、別バージョンのエンディングを観る前に序中盤をザーッと見直したが、そんな前振りは無し。

 

別バージョンのエンディングも正直なところ、うーむ・・・ おとぎ話を伝統的に解釈するか、それとも古典的に解釈するか、というものでしかなかった。 

 

総評

『 アクアマン 』の脚本家とは思えない、かなり暗い話。かといって、ダークファンタジーとして成立しているというわけでもない。アマンダ・セイフライドの超ファンでもない限り、鑑賞する必要はない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

werewolf

ゲームなどでウェアウルフという言葉に接したことのある人もいるはず。狼男と訳されるが、別に狼人間でも問題はない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ポライト・ソサエティ 』
『 エイリアン:ロムルス 』
『 愛に乱暴 』

 

赤ずきん [Blu-ray]

赤ずきん [Blu-ray]

  • アマンダ・サイフリッド
Amazon

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, E Rank, アマンダ・セイフライド, アメリカ, ゲイリー・オールドマン, ファンタジー, 監督:キャサリン・ハードウィック, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 赤ずきん 』 -童話の再解釈に失敗-

『 デューン・サバイバー 砂の惑星 』 -羊頭狗肉の岩の惑星-

Posted on 2024年9月3日 by cool-jupiter

デューン・サバイバー 砂の惑星 10点
2024年9月1日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:フィービー・スパロウ
監督:マーク・プライス

 

超鈍足台風のおかげで劇場鑑賞の予定が立てられず、近所のTSUTAYAで目についた作品をいくつか借りてきた。本作はそのうちの一つ。

あらすじ

ジェミニ飛行隊の一員、グレイ6ことアドラー(フィービー・スパロウ)は戦闘宙域で撃墜され、砂の惑星エレボスに不時着する。腐食性の大気を持つエレボスで、生命維持装置のタイムアップも迫る中、アドラーは負傷した僚友のヤレンと共に生存の道を探るが・・・

 

ポジティブ・サイド

腐食性の空気を吸ってしまうとどうなるのかを、逃げずに真正面から描いたのは評価していい。低予算でもグロは撮れる。というか、低予算だからこそグロから逃げてはならない。

 

ネガティブ・サイド

最初のハイパースペースの飛行シーン後にいきなり撃墜されて、そこからいきなり 23 minutes earlier (その23分前)とか、そんな描写いるか?愚にもつかない会話ばかりの冒頭シーンをもう一回やる意味は?尺を稼ぎたかっただけ?

 

エレボスに着いてからも話が遅々として進まない。ヤレンの怪我が深刻なのはわかるが、テントの中でうだうだしていても事態はなにも好転しない。さっさと砂の惑星に出ていけ。

 

その砂の惑星もまったくデューンっぽさは感じられず。どこでロケをしたのか知らないが、アメリカのユタ州のモニュメント・バレー的な地形で、砂の惑星というよりも岩の惑星という感じ。

 

そこで戦うことになるドレックも、ただの人間やんけ。しかも意味不明に強いスペーススーツで、撃っても撃っても効かない。『 荒野の用心棒 』へのオマージュにしても、しつこすぎる。

 

アクションもまったく洗練されておらず、カメラワークも悪い。最悪だったのは、ドレックとの格闘シーンの流れの中で、アドラーが斜面を滑り降りるシーン。どう見てもそこだけ土が慣らされており、役者が事前に何度も滑り落ちたことがうかがえる。マーク・プライス監督は『 続・夕陽のガンマン 』の砂漠での数々のシーンを100回見直して欲しい。

 

カバーをよく見ず借りた自分にも責任があるが。デューンを名乗るのなら、サンドウォームを出すべきではないか。原題も Dune Drifiter なのだから、これは不当な要求とは言えないはずだ。羊頭狗肉とは本作を指す。

 

総評

あらゆるシーンが退屈極まりないという駄作。センスの良い美術系・芸術系あるいは映像系の大学の学生が生成系AIをぶん回せば、似たような作品は量産できそう。それぐらいの駄作。配信やレンタルで見かけても、手を出すべからず。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Sorry, no lessons. I want to forget about his awful work ASAP.

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ポライト・ソサエティ 』
『 エイリアン:ロムルス 』
『 愛に乱暴 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, F Rank, SF, イギリス, フィービー・スパロウ, 監督:マーク・プライスLeave a Comment on 『 デューン・サバイバー 砂の惑星 』 -羊頭狗肉の岩の惑星-

『 ソウルの春 』 -勝てば官軍負ければ賊軍-

Posted on 2024年9月1日 by cool-jupiter

ソウルの春 75点
2024年8月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:チョン・ウソン ファン・ジョンミン
監督:キム・ソンス

 

Jovianの生年に実際に韓国で起こった歴史的事件をモチーフにした作品ということでチケット購入。

あらすじ

朴正煕大統領が暗殺された。実行犯を取り調べの責任者に任命されたのは、韓国陸軍内で隠然たる勢力を誇るハナ会のチョン・ドゥグァン(ファン・ジョンミン)。しかし彼は自身の権勢拡大のために陸軍参謀総長を拉致し、クーデターを画策する。首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)はチョンの野望を阻止するために立ち上がるが・・・

 

ポジティブ・サイド

140分超ながら、体感では90分ほど。ひと息つける場面が一切ないままに物語は進行していく。登場人物は多いものの、クーデターを起こして権力を握りたいチョン・ドゥグァン、それを阻止したいイ・テシンの二人の名前だけ押さえておけばよい。

 

クーデターの計画、参謀総長の拉致、大統領からの裁可、指揮下の精兵部隊のソウルへの召喚とそれを阻止するための別の精鋭部隊の召喚と、わずか一夜の中で状況が刻一刻と変化していく。

 

ファン・ジョンミン演じるクーデター首謀者のチョン・ドゥグァンは人間味に溢れており、豪放磊落な一面と繊細な一面を併せ持っている。大人物のようでもあり、小者のようにも映るのだが、かかる魅力が彼をハナ会のトップに、ひいてはクーデター勢力のトップに君臨させている。一度決めたら最後までとことん行く男で、情勢の変化に一喜一憂する仲間や先輩を時に脅迫し、時に一喝し、時に弱みを見せることで取り込んでいく。韓国版の木下藤吉郎とも言うべき人たらしである。

 

対するイ・テシンは職務に忠実で群れることを潔しとしない孤高の軍人。韓国軍の上層部が情勢の変化に一喜一憂し、時に日和見を決め込もうとする中でも、首都防衛に専心する。その高潔さ故に従う者、従えない者があぶり出され、当時の韓国軍の体質や、一枚岩になれない体制がよくよく見て取れる。

 

クライマックスチョン・ドゥグァンとイ・テシンの対峙の迫力には息を呑んだ。そして対決の結末には鳥肌が立った。というか、途中で気付かなかった俺はアホだ。冒頭ではっきり史実を脚色しているという注意書きがあったではないか。クーデター側の首謀者二人の名前をちょっと変えれば・・・ 本作は軍事政権時代を反省・批判している一方で、「この国をなんとかしたい」という強烈な野望を抱く政治家の不在を嘆いているようにも受け取れる。おこぼれに与ろうと権力に群がる小物は不要だという韓国映画界から韓国政治へのメッセージに思える。単なる善悪の対立にとどまらない深みを生み出すのは、キム・ソンス監督の面目躍如といったところか。

 

クーデターというと1991年のソ連崩壊を覚えているが、韓国もよく似た歴史をたどっていたのか。民主主義を自力で得た国と、民主主義を与えられた国。どちらが幸せなのだろうと考えさせられる。

 

ネガティブ・サイド

漢江にかかる橋を封鎖するためにテシンが「市民の力も借りねば」と言うが、そのシーンこそカットせずに盛り込むべきではなかったか。また、警察は何をしていたのだろう。ハナ会の人脈で警察も抑えていたという描写があれば、さらに説得力や緊迫感は増したはず。

 

最後のバリケードを挟んでの対峙シーン前に市民の存在に言及するシーンがあったが、これは不要だったか。もしここで市民に言及するなら、橋の封鎖のシーンで市民の協力を描くべきだし、それを描かなかったのなら、最後の対決シーンでも市民の描写は不要だった。

 

総評

やはり韓国映画の本領は歴史の闇、社会の闇に迫るスリラー作品だなとつくづく感じる。次にTSUTAYAでレンタルするのは『 KCIA 南山の部長たち 』、その次は『 光州5・18 』かな。この後味の悪さは『 トガニ 幼き瞳の告発 』のそれに比肩する。とことんはじけたアホな映画か、とことん出来の悪い映画を観て気分をリセットしたくなる。そんな韓国映画の怪作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

アンジャ

これも韓国映画やドラマでお馴染みの表現。意味は「座って」で、インフォーマルな表現。しばしばアンジャアンジャのように使われている。日本語でも「座って座って」と二回言うのと同じ感じ。階級や軍人歴の違いはあれど、腹を割って話をしようとする姿勢を常に打ち出すチョン・ドゥグァンが多用していた。そういう意味では政治家向きの軍人だったのかもしれない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 エイリアン:ロムルス 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, チョン・ウソン, ファン・ジョンミン, 歴史, 監督:キム・ソンス, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 ソウルの春 』 -勝てば官軍負ければ賊軍-

『 壁越しの彼女 』 -Love is blind-

Posted on 2024年8月28日 by cool-jupiter

壁越しの彼女 60点
2024年8月25日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:イ・ジフン ハン・スンヨン
監督:イ・ウチョル

 

台湾ロマンスの次は韓国ラブコメ。

あらすじ

歌手を夢見るスンジン(イ・ジフン)は安アパートの最上階に引っ越しする。しかし、その隣には住人をあの手この手で追い出してきたラニ(ハン・スンヨン)が住んでいた。互いに譲らない二人は、やがて生活音を出しあう時間帯を取り決めるが・・・

ポジティブ・サイド

序盤のホラー調から一転してコメディ路線に突っ走り、その後は少しシリアスなお仕事ムービーに。最後はちゃんとしたロマンス路線に着地という具合に、短時間の中でかなり物語のトーンが変わる。しかし、そのことに違和感を覚えず、むしろどんどん物語世界に引き込まれるのは、主要キャラクターの魅力と壁を隔てた顔を知らない二人の奇妙なロマンスの行き着く先を見たいという好奇心ゆえ。

 

歌手を目指すと言いながら、どこか本腰を入れられないスンジンと、ユーモラスに、時にシリアスに向き合ってくれる竹馬の友たちが素晴らしい。男の友情かくあるべし。一人黙々と、しかし騒々しく創作に打ち込むラニの過去にあった悲しい裏切り。二人が急速に距離を縮めながらも、スンジンの善意からの行動がすべてをぶち壊してしまう、そのお下劣な方法と、それがもたらす深刻な結果の落差は、さすが韓国映画。邦画では絶対に描けない展開を軽々と描写してくれる。

 

『 her 世界でひとつの彼女 』にリアリティを感じなかった向きも、本作なら受け入れられるのではないか。恋愛に壁はつきものだが、本物の壁で隔てられたラブロマンスというのは、おそらく世界的にも希少価値が高いはず。観ればハラハラドキドキからホンワカまで味わえる、韓国ラブコメの佳作である。

ネガティブ・サイド

ラニの体調不良を匂わせるシーンが序盤から出てくるが、これがかなりの拍子抜け。少しネタバレ気味になるが、邦画の秀作『 夜明けのすべて 』のような描写がほしかったと思う。あるいは、薬を飲むシーンは全カットでも良かったかもしれない。

 

スンジンと竹馬の友たちとの交流は男の友情の極致と言えるものだが、なぜ彼らがそれほどプー太郎状態のスンジンを純粋に応援できるのかが不可解と言えば不可解。少年時代、あるいは大学生時代あたりでスンジンが思いがけない形で優しや、または逞しさを見せた、という短いエピソードがあっても良かった。

 

総評

おそらくコロナ禍の最中に構想された作品。オンライン飲み会ならぬ壁隔て食事会は、一歩間違えばギャグを通り越して意味不明な絵となるが、コロナを経験したことでこのようなシーンも可能になった。このあたりの作劇術が見え隠れするのも面白い。日本だと本作にかなり先行する『 おと・な・り 』がシチュエーション的に近い。が、感情の表出方法が日韓ではまったく異なるので、そのあたりの国民性の違いを微笑ましく思えるかどうかが評価の分かれ目になりそう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

platonic love

古代ギリシャの哲学者プラトン的な愛のこと。人間は元々アンドロギュヌス=両性具有だった。それが男と女に分かれてしまったので、両者は互いを求めあうようになったというもの。これがエロス。プラトニック・ラブはこの感性そのものを指す。すなわち実際に一つになるという行為ではなく、一つになりたいという願望、その心の在りようを「愛」と呼んでいるわけだ。イデアという理想世界を構想したプラトンらしいと言えばプラトンらしい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 ソウルの春 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, イ・ジフン, ハン・スンヨン, ラブコメディ, 監督:イ・ウチョル, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 壁越しの彼女 』 -Love is blind-

『 狼が羊に恋をするとき 』 -台湾ラブコメの佳作-

Posted on 2024年8月25日 by cool-jupiter

狼が羊に恋をするとき 60点
2024年8月24日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:クー・チェンドン ジエン・マンシュー
監督:ホウ・チーラン

 

『 ソウルの春 』や『 ポライト・ソサエティ 』の鑑賞を考えていたが、妻の「これ観たい」の一言でチケット購入。リクエストがあれば婦唱夫随である。

あらすじ

「予備校に行くね」というメモを残して消えた恋人を追い求めて、タン(クー・チェンドン)予備校が林立する南陽街にやってきた。ひょんなことからコピー店で職と住居を得た彼は、ある時、試験用紙に描かれた羊のイラストを見て・・・

ポジティブ・サイド

クー・チェンドンのダメ男っぷり、世間知らずっぷりがいい。なにより、どこまでも一緒に行きたがる恋人と、ただ一緒にいられれば満足という男の対比があまりにも真実だ。ウィリアム・アイリッシュの昔から、消えた女を追うというのはサスペンスの王道。しかし本作はそれを堂々たるロマコメに仕立て上げた。

 

高校生や大学生同士の恋愛ではなく、予備校スタッフと試験用紙のコピー業者という距離感が絶妙にもどかしい。その二人のコミュニケーションが、試験用紙に描かれる羊と狼の対話というのも、デジタル全盛の2020年代においては新鮮だし、そしてFacebookやTwitter(現X)などが興隆しはじめた2010年代においても新鮮だったはず。そこで real space かつ not real time 形式で行われるタンとシャオヤンのコミュニケーションは、『 交換ウソ日記 』でも感じたことだが、実に微笑ましい。

 

数々のサブプロットを交えながら、二人が最終的にたどることになるであろう道は美しい。その花道を彩る一種の紙吹雪も、非常に cinematic な映像になっている。 まさに台湾ラブコメの佳作である。

 

ネガティブ・サイド

ストーリーのサブプロットが多すぎる。あるいは十分に追求されないまま閉じられていると感じた。特にタンの一日一善と犬探し。そしてシャオヤンの新聞チェック。特にこれは最近でも『 ルックバック 』でも似たようなシーンがあり、漫画家もしくはイラストレーターという人種の習性を表す重要なシーンになったはずではないか。

 

また『 もしも君に恋したら。 』でも感じたことだが、シャオヤンもイラストレーターならペンだこ、あるいはそれに類した手をしていて然るべきではないだろうか。

 

総評

メインの二人の若さとチャーミングさが物語によくマッチしている。コピー屋の店主や牧師などの脇役のオッサン連中も良い感じ。王道ではなく変則的なラブロマンスだが、ありきたりの学園青春ものに飽きている向きには新鮮に映るはず。製作から10年越しでの本邦初公開なので、アジア映画ファンならチケットを購入してみてはどうだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

不是

ブシと発音する。意味は「いいえ」で、本作でも2回ぐらい聞こえた。外国語を学ぶにはまずは数字からというのはジョー小泉の言だが、その前に「はい」と「いいえ」から始めるのが最も基本的なアプローチであると思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 ソウルの春 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, クー・チェンドン, ジエン・マンシュー, ラブロマンス, 台湾, 監督:ホウ・チーラン, 配給会社:台湾映画同好会Leave a Comment on 『 狼が羊に恋をするとき 』 -台湾ラブコメの佳作-

『 ニューノーマル 』 -殺しのオムニバス-

Posted on 2024年8月18日 by cool-jupiter

ニューノーマル 60点
2024年8月17日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:チェ・ジウ
監督:チョン・ボムシク

 

コロナによって生まれた新しい生活習慣=New Normalという、このタイトルだけでチケット購入。

あらすじ

ヒョンジョン(チェ・ジウ)のもとに、突然、火災報知器の点検をしにきたという男がやって来る。男は点検の傍ら、不穏な空気を醸し出しながら、最近起きた未解決の殺人事件について語り始め・・・

ポジティブ・サイド

ニューノーマル=衛生習慣の徹底だと理解していたが、人と人の物理的・精神的な距離が日本よりもはるかに近い韓国では、マッチング・アプリやオンラインゲーム、匿名掲示板がさらに勢いを増しているということか。

 

本来ならば出会わない、あるいは関係のない人間と、ちょっとしたことから繋がりが生まれ、それが悲劇につながっていくというオムニバスかつアンソロジー形式のスリラー。

 

Chapter 1: 覚えられなかった・・・

チェ・ジウの住居に怪しげな男が訪ねてきて・・・ オチはすぐに分かるが、チェ・ジウの一種の恍惚とした表情が強く印象に残る。

 

Chapter 2: Do The Right Thing 

塾の仲間や講師にボランティアを呼びかけられた少年が、車椅子の老婆を助けたところ、お礼を上げると申し出られて・・・ 『 バニシング 未解決事件 』でも未解決だった問題は、コロナ禍を経ても、やはり未解決のまま。『 ユージュアル・サスペクツ 』や『 愚行録 』など、足が悪いところが印象的なキャラクターはやはり・・・

 

Chapter 3: Dressed To Kill

第一章の続き。マッチング・アプリで新たな出会いを求める男女を痛烈に皮肉っている。このチャプターで、アプリのアラーム=マッチ度の高い相手が周囲にいるという通知を見るたびに、コロナ禍における本邦のごみアプリCOCOA(これも誹謗中傷にあたる表現だろうか)の接触通知を思い出した人はちらほらいるのではなかろうか。ちなみにこのチャプターのタイトルの kill は「悩殺する」の意味に近い。

 

Chapter 4: Be With You

前章の続き。縁とは何かについての仮説は興味深かった。その縁を感じた男がたどる道筋の先の恐怖とは・・・ どこかで見たタイトルだが、当然 Rod Stewart の “To Be With You” ではなく、邦画の『 Be With You いま、会いにゆきます 』か。まさか竹内結子からインスピレーションを得たのではないと思いたいが。

 

Chapter 5: Peeping Tom

江戸川乱歩やアルフレッド・ヒッチコックの昔から、覗きは人間の習性であったようだ。ましてカメラが普及した現代、盗撮はいともたやすい。美しき隣人に恋焦がれるニート(?)の男性の気持ち悪さが爆発する。その一方で、美しいバラにはとげがあるとの格言通りに・・・

 

Chapter 6: My Life As A Dog

このチャプターが最も面白い。Chapter 2 を除く(?)他の章がほんの少しずつ絡んでくる。ミュージシャンを目指しつつコンビニ店員で糊口をしのぐヨンジンが迷惑客や苦情客に盛大に、ささやかにリベンジしていく。その一方で、彼女の内なるストレスはネット掲示板とオンラインゲームで発散され・・・ 自分も時々コンビニ店員さんに無愛想に接することがないとは言い切れない。そこを反省すると共に、ネットへの書き込み(映画のレビュー含む)について、大いに考えさせられるチャプターでもあった。

 

ネガティブ・サイド

各チャプターごとに時系列がバラバラで、それは製作者が意図してのことだろうが、このような構成にするのなら、素直に各章を時系列に並べても良かったのでは?

 

つながっている章とつながっていない章があるのは何故?それともこちらの見落としか?

 

Chapter 4: Be With You では、もっと写真をじっくりと見せてほしかった。そもそも、あのキャラはもしや〇〇〇〇?

 

総評

雰囲気としては邦画の『 クリーピー 偽りの隣人 』に少し似ている。スリラー/ホラーでありながら、どことなくコミカルな面が感じられる。それは、ニューノーマルという新たな社会規範を脚本家や監督が嗤っているからだろう。少しモタモタした印象を与える中盤のストレスについては最終チャプターのヨンジンが大爆発させてくれる。そこまではしっかりと鑑賞しよう。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

イーセッキ

韓国映画を観るたびに聞こえてくる。意味は「この野郎」。使用することが推奨されない韓国語の一つ。本作の Chapter 6 で頻繁に使われるFワードを人間相手に言いたくなったら、こちらを心の中で唱えるのもありかもしれない。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 エア・ロック 海底緊急避難所 』

 

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