Skip to content

英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

  • Contact
  • Privacy Policy
  • 自己紹介 / About me

カテゴリー: 国内

『 Bird Woman 』 -異色のスーパーヒーロー- 

Posted on 2023年4月16日2023年4月16日 by cool-jupiter

Bird Woman 65点
2023年4月15日 シアターセブンにて観賞
出演:大原とき緒
監督:大原とき緒

大学時代の友人の勧めで鑑賞。なんと彼女は本作の一つ『 Bird Woman 』にエキストラとして出演している。劇中歌の終わり、車掌室(運転室)を背にしたマスクの女性がそうである。

 

あらすじ

コロナ禍の東京。マスクで顔を隠した男たちの痴漢行為に辟易していたトキ(大原とき緒)は、鳥のマスクを入手する。そしてその仮面を身に着けて電車内で痴漢を撃退していき・・・

 

ポジティブ・サイド

Bird Woman というのは一種のスーパーヒーローへのオマージュなのだろうが、それよりも個人的には中世の黒死病、いわゆるペスト患者の対応にあたった医者たちの防護服の方をより強く想起させる。痴漢は一種の病気やね。

 

この Bird Woman が一種のムーブメントとなっていくところが面白い。『 ワンダー・ウーマン 』の公開当時、世界中が湧きたっていたが、それと同じ熱量が小市民的に展開されるのが日本らしいと感じた。そしてそのムーブメントが公権力によって規制されていくところに日本社会の病根も見て取れた。

 

劇中歌の『 青空でなくてかまわない 』には不覚にも感動してしまった。英語字幕だと Who cares if the sky ain’t blue? だったか。女性かくあるべし、というのは思い込みなのだ。

 

ネガティブ・サイド

女の敵は女という面も映し出されてはいたが、現・東京都知事を悪の女帝として描いてしまえばよかったのに、それをしなかったのは何故なのか。

 

一つひとつのショットの意図があまりにも露骨であるとも感じた。ハイヒールのズームなどは特に。普通に見れば見逃してしまう、しかしよくよく見れば日常生活のあちこちに女性を抑圧するアイテムや構図が潜んでいるというカメラワークを追求できなかったか。

 

総評

映画にはエンタメ、芸術、物語の三領域があると(勝手に)思っているが、本作は物語性が非常に強い。なのである意味で観る人を選ぶ作品と言える。痴漢は犯罪だが、話の本質はそこではなく、個の女性に一度反撃されてしまえば、個の男性は太刀打ちできず、権力の行使に走るという滑稽さだろう。日本の個の男の弱さが見透かされてしまったか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

grope

手でまさぐる、の意。転じて groper = 手でまさぐる人 = 痴漢 という訳語に使われていた。grope はそうした意味で使われることもあるが、実際は grope about in the dark = 暗闇の中で手探りする、という形で使われることも多い。英語中級者以上なら知っておいていいだろう。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, ブラック・コメディ, 大原とき緒, 日本, 監督:大原とき緒, 配給会社:movies label willLeave a Comment on 『 Bird Woman 』 -異色のスーパーヒーロー- 

『 世界の終わりから 』 -2023年の邦画ベスト候補-

Posted on 2023年4月9日 by cool-jupiter

世界の終わりから 80点
2023年4月8日 梅田ブルク7にて観賞
出演:伊東蒼 毎熊克哉 朝比奈彩
監督:紀里谷和明

 

大学の開講週を迎えて残業と休日出勤がピークに達しているため、簡易レビュー。

あらすじ

祖母と二人暮らしのハナ(伊東蒼)だったが、祖母は亡くなってしまう。学校に居場所もなく、進学の資金もない。そんなハナに警察警備局の江崎(毎熊克哉)と佐伯(朝比奈彩)が現れ、ハナが見る夢について尋ねてくる。何の心当たりもないハナだが、その夜の入浴中に戦乱の世に巻き込まれる夢を見て・・・

ポジティブ・サイド

あらすじも何も見ず、タイトルだけでチケットを購入。これが大当たり。

 

単純に光量が足りないのではなく、意味と意図のあるダークな画作りは韓国映画的。主人公の置かれた境遇にも救いがない。『 さがす 』の伊東蒼が、同作よりもさらに深い世界の暗部、世界の終わりへと誘われていく様は見応え抜群。

 

夢を媒介に過去と現在を行き来するのは『 リング・ワンダリング 』的でJovian好み。白黒の映像も美しい。

 

『 レッドシューズ 』でイマイチだった朝比奈彩と、名バイプレーヤーの毎熊克哉も魅せてくれる。監督の演出がドンピシャだったのだろう。

 

ダメなのか?ダメなのか?で、やっぱりダメだったという『 日本沈没 』とは違い、本作は非常にユニークな運命論を展開する。こちらの世界観の方が『 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』のそれより、理解も納得もしやすい。

 

ネガティブ・サイド

湯婆婆かな?と思ったら湯婆婆だった。もっとオリジナリティを捻り出すべきだろう。

 

炎のCGがしょぼかったな。

 

総評

個人的にはめちゃくちゃ楽しめた。事前の情報ゼロで臨んだのも大きい。伊東蒼は、南咲良と並んで、出演しているだけでチケット購入決定の女優に認定したい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a kitkat bar

お菓子のキットカットがちょっとしたガジェットになっている。英語ではしばしば a kitkat bar のように bar がつく。チョコレートは不定形だが、お菓子になる時はだいたい板状あるいは棒状で、いずれも bar と呼ぶ。豆知識として知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ノック 終末の訪問者 』
『 search #サーチ2 』
『 ヴィレッジ 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, SF, ヒューマンドラマ, 伊東蒼, 日本, 朝比奈彩, 毎熊克哉, 監督:紀里谷和明, 配給会社:ナカチカLeave a Comment on 『 世界の終わりから 』 -2023年の邦画ベスト候補-

『 ロストケア 』 -題材は良かった-

Posted on 2023年4月2日 by cool-jupiter

ロストケア 60点
2023年4月1日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:松山ケンイチ 長澤まさみ
監督:前田哲

 

繁忙期のため簡易レビュー。

 

あらすじ

ある訪問介護詞節のセンター長がサービス利用者の自宅で死体で発見され、住人も死亡が確認された。容疑者として浮上したのは、同僚からも介護家族からも慕われる介護士の斯波(松山ケンイチ)だった。検事の大友(長澤まさみ)は取り調べの中で、斯波の務めるセンターの要介護者の死亡者数が多いことに疑問を抱き・・・

 

ポジティブ・サイド

松山ケンイチが素晴らしい。どこか『 DEATH NOTE デスノート 』のLっぽさを醸し出しつつも、人間性と残虐性を両立させている。感情を抑えた演技をすることで、うちに渦巻く多種多様な感情を逆説的に観る側に想起させる。役者、かくあるべし。

 

介護はきれいごとではない。Jovianも甥っ子たちのお締めを換えたりしたが、それは数年すれば終わること。介護のお締め好感はいつ終わるのか分からない。Jovian祖母が死んだ2年後ぐらいか、親父と二人でNHKの介護番組を観ていたら、親父がいきなり「まあ、おふくろは寝たきりになる前に死んでくれたからなあ」と呟いた。正直、なんちゅう親父やと感じたが、今なら首肯するしかない。

 

ネガティブ・サイド

もっと『 PLAN 75 』のように振り切った社会批判をしてもよいのに。国家を挙げて老人を始末せんとする『 PLAN 75 』とは対照的に、本作は介護は自己責任と切って捨てる日本社会を撃ってはいるものの、結局それが斯波と大友の個人的なやりとりに集約されてしまっている。『 人魚の眠る家 』でもそうだったが、政治批判や社会批判が難しい土壌が邦画の世界にはあるのだろうか。まあ、あるんだろうな・・・

 

長澤まさみは頑張ってはいるものの、acting という感じがする。松山ケンイチが acting と being 中間ぐらいに見えるため、どうしても見劣りしてしまう。

 

あとは八賀センター管轄の要介護者の死亡率か。事故・自殺以外は全員他殺はありえない。あの地区では自然死する老人はゼロだった?確率的、統計学的にそんなことがありうるのか?

 

総評

ある意味で『 グッド・ナース 』を日本流に再解釈したような作品で、これはこれで面白かった。しかし、力のある役者に骨太なストーリーを与えても、日本的な演出を盲目的に盛り込んでしまっては意味がない。映画というよりも役者の演技を観賞するつもりでチケットを購入されたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

carer

ケアラーと読む。意味は介護者。近年、ヤングケアラーが急増している。というよりも、高齢者が増えすぎて、介護士が不足し、結果として家族の中で子どもまでもが介護に駆り出されているようになっている、というのが実相だろう。看護師や保健師はエッセンシャル・ワーカーと認知されたが、介護士がそのように認知される日は果たして来るのか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 マッシブ・タレント 』
『 search #サーチ2 』
『 シンデレラ 3つの願い 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 日本, 松山ケンイチ, 監督:前田哲, 配給会社:日活, 配給会社:東京テアトル, 長澤まさみLeave a Comment on 『 ロストケア 』 -題材は良かった-

『 Winny 』 -日本の警察と司法の闇-

Posted on 2023年3月26日2023年3月26日 by cool-jupiter

Winny 65点
2023年3月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:東出昌大 三浦貴大
監督:松本優作

超絶繁忙期につき簡易レビュー。

 

あらすじ

ファイル共有ソフト「Winny」を開発した金子(東出昌大)は、違法コンテンツの蔓延を目論んでいたという名目で警察に逮捕されてしまう。弁護士・壇(三浦貴大)は金子の無罪を証明するべく精力的に働くが・・・

 

ポジティブ・サイド

東出は『 聖の青春 』で羽生を演じた時と同じく、自分の色を出すのではなく、他人の真似に徹した時の方が良い芝居をする。役者としてはどうなんだと思うが。三浦貴大は良い感じのオッサンになってきた。人権派の弁護士ではなく、信念派の弁護士とでも言おうか。著作権無視で違法コンテンツを扱う者たちをバッサリと断罪する姿勢は現実の弁護士っぽい(というか現実の弁護士がモデルやね)。法廷闘争が繰り広げられる中で、金子と壇の二人が一種の camaraderie を育んでいく様は時に微笑ましい。

 

『 電車男 』と同様に、名もなき2chの支援者たちの声が感動を呼ぶ。

 

1億パーセント冤罪である袴田事件が再フォーカスされている今、多くの人に観てほしい作品。

 

ネガティブ・サイド

ところどころで説明台詞が入るのが極めて不自然。弁護士仲間がWinnyの製造者責任の有無を論じるのもおかしい、弁護士事務所に勤めている女性が「幇助って何ですか?」と尋ねるのも極めて奇異に映った。

 

Winnyが未来を先取りした技術であるという描写が弱かった。梅田望夫風に言えば、金子勇は「ネットのこちら側」と「ネットのあちら側」を結び付けた人なのだが、そのあたりの描写が欲しかった。そうすれば、日本の警察や司法がいかにテクノロジーに疎く、また日本社会全般がいかに進歩に取り残されてきたかが浮き彫りになり、本作の持つ社会批判のメッセージもさらに際立ったことだろう。

 

総評

本件は大メディアよりも夕刊フジや日刊ゲンダイ、さらにネットで情報をインプットしていたと記憶している。当時の世相が見事に反映されていた。大阪府警を定年退職した義理の父親は最後は巡査長だったらしいが、全然出世しなかったということは汚職警官ではなかったのだろう。警察と司法の闇はなかなかに深い。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

file-sharing

ファイル共有の意味。heart-warmingは日本語にもなっているが、英語は名詞の後に現在分詞(~ing)をくっつけて新たな形容詞を作ることができる。

jaw-dropping = あごが落ちるような = びっくりするような
heart-stopping = 心臓が止まるような = ショッキングな
nail-biting = 爪を噛むような = ハラハラドキドキで不安になるような

などが会話などで使えるようになれば英語中級者である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 シャザム! 神々の怒り 』
『 ロストケア 』
『 search #サーチ2 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, 三浦貴大, 伝記, 日本, 東出昌大, 監督:松本優作, 配給会社:KDDI, 配給会社:ナカチカLeave a Comment on 『 Winny 』 -日本の警察と司法の闇-

『 シン・仮面ライダー 』 -庵野色が強すぎる-

Posted on 2023年3月20日2023年3月21日 by cool-jupiter

シン・仮面ライダー 40点
2023年3月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:池松壮亮 浜辺美波 柄本佑
監督:庵野秀明

 

簡易レビュー。

あらすじ

本郷猛(池松壮亮)は秘密結社SHOCKERの技術者・緑川によってバッタの能力を持つ強化人間に改造された。緑川は組織の在り方に疑問を呈し、正義の心を持つ本郷に娘・ルリ子(浜辺美波)を託そうとするが・・・

 

ポジティブ・サイド

幼いころに見た仮面ライダーで最も印象に残っているのはライダーキックときりもみ回転ジャンプ。それは庵野秀明も同じだったのだろう。昭和の仮面ライダーの雰囲気が冒頭から大画面からあふれ出ていた。

 

バイクのシーンも疾走感があふれていて、仮面ライダーのライダーたる由縁も堪能できた。

ネガティブ・サイド

昭和の仮面ライダーの知識が全くない人が観ると、何が何やら分からない可能性が大。うちの中学生、小学生の甥っ子たちは平成後期の仮面ライダーで育ったが、それでも本作品を観てもチンプンカンプンだろうなと思う。『 シン・ゴジラ 』や『 シン・ウルトラマン 』程度で良いので、仮面ライダーのオリジンを描いてほしかった。原作や、現在 Young Jumpに掲載中の『 真の安らぎはこの世になく 』をある程度読んでいないとストーリーが理解しづらければ、若い世代のファンは振り向いてくれない。

 

終盤のトンネルおよび玉座の間のシーンは暗すぎて、非常に見辛かった。またCGのクオリティが『 シン・ゴジラ 』や『 シン・ウルトラマン 』よりも低かった。

 

ショッカー、とくに蝶オーグの狙いがまんまゼーレの人類補完計画で、仮面ライダーよりも庵野の色が出すぎていた。

総評

Jovianはゴジラ大好き、ウルトラマンは普通、仮面ライダーは惰性でテレビで見ていた。なので、仮面ライダーのガチ勢や、逆に仮面ライダーを全く知らない層の反応が気になる。レイトショーで観たのも一因だろうが、劇場に来ていたのは全員がJovianと同世代か、下手をするとJovianの親世代のような方々だった。若い世代には勧め辛い作品か。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

augment

増強する、の意味。劇中のオーグはこれのこと。仮想現実=VRで、拡張現実=ARというのを聞いたことがある人も多いはず。これは augmented reality のこと。今後は augment がより多くの分野に波及していくと思われるので、この語は知っておこう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 Winny 』
『 シャザム! 神々の怒り 』
『 ロストケア 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, アクション, 日本, 柄本佑, 池松壮亮, 浜辺美波, 監督:庵野秀明, 配給会社:東映Leave a Comment on 『 シン・仮面ライダー 』 -庵野色が強すぎる-

『 湯道 』 -もっと銭湯そのものにフォーカスを-

Posted on 2023年3月15日 by cool-jupiter

湯道 55点
2023年3月12日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:生田斗真 濱田岳 橋本環奈
監督:鈴木雅之

 

温泉や銭湯の愛好家なら要チェックに見える本作。Jovianも風呂は大好きである。したがってチケット購入。

あらすじ

東京で建築家として働く三浦史朗(生田斗真)だが、仕事が来ない。そんな中、父の訃報が入るが、多忙を理由に帰郷もしなかった。しかし、いよいよ実家の銭湯「まるきん温泉」を畳むべきだと考えた史朗は、実家を訪れる。住み込みで働くいづみ(橋本環奈)と弟・悟朗(濱田岳)と出会った史朗は、なりゆきでしばらく銭湯で働くことになり、個性豊かな常連客たちと触れあっていき・・・

ポジティブ・サイド

生田斗真と濱田岳が兄弟に見える。雰囲気が、というよりも見た目が。ヘアドレッサーやメイクアップ・アーティストの方々が素晴らしい仕事をしたのだろう。トレイラーの時点では「この二人が兄弟?」と感じたが、実際に鑑賞して違和感はゼロだった。

 

昭和は昔になりにけりと思うことが多い令和の時代だが、確かに昔の銭湯は男湯と女湯の距離が近かった。Jovianも小さなころはたまに家族で銭湯に行っていたが、そういう時は親父に「もうそろそろ上がるって、お母さんに言うてきて」と言われて、番台前ののれんをくぐって、女湯に入って、伝言していたなあ。育った地域にもよるだろうが、40代以上の世代なら、子供の頃にそうした経験をしたことがある人が多いのではないだろうか。本作はそうしたノスタルジーも呼び起こしてくれる。

 

常連客も多士済済。寺島進や笹野高史はベテラン夫婦の味わい深いやりとりを披露してくれるし、天童よしみは意外な人物とのデュエットを披露、その美声が健在であることを教えてくれる。

 

こうした愉快で人情味あふれる地元の常連たちとの触れ合いと、銭湯をやめさせたい兄と銭湯を続けたい弟の確執のコントラストがドラマのひとつの軸になっている。そこにいづみが絡むことで、深刻なはずの対立が緩和される。いづみは番台に花を活けているが、いづみ自身がしっかりとまるきん温泉の花になっている。

 

本作の表のテーマをそのまま湯道とするなら、裏のテーマは時代に取り残された遺物をどうすべきか、ということになるのだろう。色々な撮影上の制約もあるのだろうが、本作では銭湯に入ろうとする子どもがいない。客はごく一部を除けば、すべて中高年である。つまり、若い世代は昔ながらの銭湯に魅力を感じていないのだ。そして、高齢者ばかりが銭湯で憩う。そうした現状は憂うべきなのか、それとも理の当然と受け入れるべきなのか。

 

ひとつ確かなのは、風呂は入る人間を幸せにするということだ。そして、幸せとは今まで気づくことがなかった小さなことを喜べることがその本質である。トレイラーに出てきた五右衛門風呂には、Jovianも二度ほど入ったことがある。友人の実家の広島の田舎に五右衛門風呂があったのでそこで入った。さらに、大学生時代に寮の裏庭で先輩や同級生たちとドラム缶を調達してきて、そこで入った。広島では貴重な体験をしたぐらいにしか思わなかったが、大学時代に寮の裏庭で五右衛門風呂に浸かった時は確かに気持ち良かった。ただ、次の瞬間に、まさに生田斗真がポツリと呟く台詞と同じことをJovianも感じた。その後の某キャラの教えも印象的。太陽ほど身近な存在はないが、その光に我々は実はどれほど多くを負っているのか。当たり前のことを当たり前と受け取るのではなく、蛇口をひねれば清潔で安全な水が出るということが、どれほど有難いことなのかを思い起こす必要がある。

ネガティブ・サイド

冒頭から刺青入りのヤクザが登場する。尼崎市民のJovian的には杭瀬あたりの銭湯でかつてよく見た光景だが、映画でやることか?ヤクザがかっこいいなどと思う若者が出てこなければいいが・・・

 

映画の根本を否定するように聞こえてしまうかもしれないが、湯道のパートは必要か?日米首脳会談の裏に湯道があったとか言われても、面白くもなんともないし、寒い親父ギャグの連発にも笑えない。風呂に入る時の所作が云々というのも、それを小日向文世が実際に自宅の風呂やまるきん温泉で実践するシーンを見せてくれないと意味がないのでは?撮影しなかった?それとも編集で削った?いずれにせよ『 湯道 』というタイトルながら湯道パートがまったくもって必要であるとは感じられなかった。

 

源泉かけ流し至上主義というのも意味不明。吉田鋼太郎のキャラ自体、必要か?各家庭に風呂がついていることと公衆浴場が存在することは全く矛盾しない。どの家にもキッチンがあるのだから外食産業は無意味だ、と言っているのに等しい。この温泉評論家の先生は完全なる蛇足に感じられたし、この先生抜きでもまるきん温泉の常連客たちと史朗、悟朗、いづみが一致団結できる展開は描けたはず。

 

全体的にもうちょっと銭湯らしさおよび銭湯愛好家の風情を出してほしかったとも思う。役者も忙しいのだろうが、風呂上りで頭をふきふきしているシーンがいくつかあったが、明らかに濡れていない。というか風呂上がりに見えない。もっと入浴後という心も体も温まっているというシーンを視覚的にアピールすべきだった。風呂場のケンカで二人ともずぶ濡れのはずなのに、次の瞬間には完全に乾いているのには苦笑した。

 

総評

鈴木雅之監督の作品としては『 プリンセス・トヨトミ 』に次いで面白い作品。ただし、風呂そのものへのフォーカスという点では『 テルマエ・ロマエ 』の方が優れている。Jovianは「古き良き」という形容があまり好きではないが、銭湯はスーパー銭湯よりも番台のある昭和型の銭湯の方が好きである。我が尼崎は一時期は150以上の銭湯が営業していたが、今では30と少しらしい。近所の昭和温泉には月一程度で通おうと思う。昭和にノスタルジーを感じる中年以上の世代にお勧めしたい映画。もちろん、若い世代の鑑賞も歓迎である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

retirement money

 

読んで字のごとく退職金の意。retireは定年退職するという動詞で、その名詞はretirement。それにmoneyをつければ、そのまま退職金となる。我々の世代は退職金はもらえるのか?もらえても、アホみたいに課税されるのだろうか?

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 Winny 』
『 シン・仮面ライダー 』
『 シャザム! 神々の怒り 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村   

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, コメディ, ヒューマンドラマ, 日本, 橋本環奈, 濱田岳, 生田斗真, 監督:鈴木雅之, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 湯道 』 -もっと銭湯そのものにフォーカスを-

『 少女は卒業しない 』 -鮮烈な青春の一瞬-

Posted on 2023年3月12日 by cool-jupiter

少女は卒業しない 70点
2023年3月11日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:河合優実 中井友望 小野莉奈 小宮山莉渚
監督:中川駿

簡易レビュー。

 

あらすじ

廃校と取り壊しが決まっている山梨の高校。山城まなみ(河合優実)、作田詩織(中井友望)神田杏子(小宮山莉渚)、後藤由貴(小野莉奈)は、卒業を目前に控えながら、それぞれに秘めた想いをなかなか形にすることができず・・・

ポジティブ・サイド

キャスト全員がアイドルではなく、ちゃんとした役者である。特に印象に残ったのは作田詩織を演じた中井友望。関西のいくつかの大学で教えることがあるが、こういう子は一定数存在する。ペアワークやグループワークを呼び掛けても無言または無反応。ただし、授業の終わりに講師にちょっとした質問だけをしに来る。藤原季節演じる教師が、また良い味を出している。

 

主役はまなみだろうか。『 佐々木、イン、マイマイン 』以来、彼女の出演作は定期的にチェックしているが、本作でも鮮烈なインパクトを残した。表情や声の使い分けが素晴らしい。ちなみに、まなみの想い人の登場シーンに「ん?」と感じたが、これは非常にフェアな演出。

 

最後は不覚にも森崎という男子生徒に二重の意味で泣かされた。二重というのは「その歌声の美しさ」と「その歌声が駿に届いていた」ことを指す。久々に邦画で well up した気がする。

 

ネガティブ・サイド

場面と場面のつなぎが、やや乱暴なところが見受けられた。4組の男女のオムニバス形式なのだから致し方ないとも言えるが、静寂のシーンから大音量シーンに転換するのはいただけない。もう少し各シーンの余韻を大事にしてほしいものである。

 

やや台詞に頼り過ぎかなと感じた。『 ここは退屈迎えに来て 』の成田凌が「ずっと高校生でいたい」というのと同じ独白を由貴がするのは、なんか違うなと感じた。開花する前の桜の木々を物憂げに見つめる。そんな演出は追求できなかったか。

 

総評

青春映画の秀作。タイトルの『 少女は卒業しない 』というのは、少女時代を忘れないということだろう。男は基本的に全員アホであるため、野郎同士が再会すればすぐに少年に戻ってしまう。『 くれなずめ 』が好例だ。本作は逆に、淡い想いに決着をつけて、前に進んでいく少女たちの物語。劇場で上映している間に、ぜひともチケット購入を!

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

commencement

卒業=graduation で覚えている人も多いと思う。ぜひもう一つ、commencementも押さえてほしい。graduationは卒業に至るまでの過程に重点を置くのに対し、commencementは修了そのもの、さらにそれが含意する「何か新しいことの始まり」も意味する。年配のテニスファンなら、松岡修造が引退会見で「これはコメンスメント、終わりであると同時に始まりである」という趣旨の発言をしたことを覚えておられると思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 湯道 』
『 Winny 』
『 シン・仮面ライダー 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, 中井友望, 小宮山莉渚, 小野莉奈, 日本, 河合優実, 監督:中川駿, 配給会社:クロックワークス, 青春Leave a Comment on 『 少女は卒業しない 』 -鮮烈な青春の一瞬-

『 シャイロックの子供たち 』 -カタルシスとディテールが弱い-

Posted on 2023年3月11日 by cool-jupiter

シャイロックの子供たち 50点
2023年3月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:阿部サダヲ
監督:本木克英

仕事が繁忙期なので簡易レビュー。

 

あらすじ

東京第一銀行・長原支店に務めるお客様係の西木(阿部サダヲ)は、同支店で発生した100万円の現金紛失事件を密かに調査していた。そこには支店の不可解な融資が絡んでいるらしいと気付いた西木は、やがて支店を超えた銀行の闇に迫っていく・・・

ポジティブ・サイド

銀行のブラック体質がよくよく描けている。Jovianの大学の先輩、同級生、後輩は銀行員だらけだが、だいたい皆ソッコーで辞めていく(まあ、ICU卒はだいたいどんな職場ですぐに辞める傾向が強いのだが)。とある先輩が銀行での業務を「毎日がクロイワとファイナル前だよ」とおっしゃっておられた、その空気が本作からありありと感じられる。

 

*クロイワというのは、まあ、大昔のICU第一男子寮のイニシエーションの一環。興味のある方はここにその一端が書かれているので、読んでみるのも乙かもしれません。

 

出演する俳優たちの多くに力があり、演じているのではなく、もともとそういう人なのだと感じられるぐらいにハマっていた。特に橋爪功と忍成修吾は最高だった。古典の名作と、そこに込められたメッセージを上手く融合させた佳作。

ネガティブ・サイド

銀行は15時ピッタリに窓口が閉まって、現金やら伝票の照合をして、それを本店に報告して、本店はさらにお上に報告する。何かが足りなければ、それこそシュレッダーの紙クズすら丹念に見ていくと聞いたことがある。そうした銀行の実態からすると、あるキャラのある行動はあまりにも軽率。というか、ご都合主義的。

 

担保もないのに億のカネを融資するというのもリアリティに欠ける。不動産会社の取引先となるデベロッパーについても、よくよく調べてこそ銀行。そのあたりを全部すっ飛ばすのは尺の関係で仕方がないのかもしれないが、結果として綿密に練られた悪事が最後にすべて白日の下に晒されるというカタルシスではなく、当事者だけがダメージを受ける展開に矮小化されてしまった。

 

総評

池井戸潤作品としてはカタルシスが弱い。『 七つの会議 』や『 空飛ぶタイヤ 』の方が個人的には波長が合った。ただ『 アキラとあきら 』が銀行と大企業の話だったのに対して、本作は銀行と市井の人々の話。その意味で、こちらの方が親しみやすいし共感しやすいという人も多くいるだろう。苦みのあるエンディングとはいえ、勧善懲悪ものとして見れば悪い作品ではない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Payback is a bitch!

たしか『 ローグ 』でも紹介した表現。「やられたら倍返し!」の私訳(というかWWEなどからのパクリ)。I’ll pay you back double! は字義的かつお上品に聞こえる。別に文字通りに2倍をお返しするというわけではなく、やられた以上にやり返すという意味なので、上の表現でいいと思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 湯道 』
『 少女は卒業しない 』
『 Winny 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 監督:本木克英, 配給会社:松竹, 阿部サダヲLeave a Comment on 『 シャイロックの子供たち 』 -カタルシスとディテールが弱い-

『 マジック・マイク 』 -自分探しの青春映画-

Posted on 2023年3月2日 by cool-jupiter

マジック・マイク 70点
2023年2月28日 WOWOW録画にて鑑賞
出演:チャニング・テイタム マシュー・マコノヒー アレックス・ペティファー コディ・ホーン
監督:スティーブン・ソダーバーグ

『 マジック・マイク ラストダンス 』の予習のために再鑑賞。

 

あらすじ

日雇いの現場仕事をしているマイク(チャニング・テイタム)は現場でアダム(アレックス・ペティファー)と知り合う。ストリッパーとして働くマイクは、クラブで偶然、アダムと出会い、自分のクラブに引き入れる。アダムはそこで思わぬ才能を見せ、頭角を現わしていく。一方、マイクはアダムの姉のブルック(コディ・ホーン)と知り合い、自分の夢について真剣に考えるようになっていき・・・

 

ポジティブ・サイド

ダンスシーンがどれもキレッキレ。チャニング・テイタムの athleticism はハリウッドでも随一だろう。『 トップガン マーヴェリック 』のBlu rayを無造作に再生していることが多いが、OneRepublic の ”I Ain’t Worried” をBGMに皆がビーチでフットボールするシーンになると、Jovian妻は「サービスシーン?」と言って、そこだけ観に来る。

 

マシュー・マコノヒーがクラブのオーナーとして圧倒的な存在感を放っている。脳内麻薬ドバドバ状態で、ジムでアダムにストリップのあれこれを指南する様は本作のハイライトの一つ。そのアダムが、何もせず、ただ夢物語にうつつを抜かす若造だったのが、ストリップによって自信をつけて、行動が変わっていく。これも一つの青春だろう。対照的に、アダムを引き入れたマイクは、徐々に自分の本当にやりたい仕事、家具の制作と販売を実現するために、銀行に融資を申し込む。しかし悲しいかな、現金収入しかないために銀行の信用が得られず、融資は得られず。夢を実現させたいのに、現実がそこに立ちはだかる。これも一つの青春の形か。

 

そう、本作は陽キャの男性ストリッパーたちがヒャッハーする青春映画であると同時に、「若く美しい時期は永遠には続かない」という現実と折り合いをつけようとするタイプの青春映画でもある。日本でもモラトリアム期間がどんどん長くなっているが、それはアメリカでも同じらしい。若さは無敵の武器になりうるが、失ってしまうと「ただの人」になってしまう。この事実を受け入れるのは結構難しい。いつまでも自分を「若い」と思い込んで、気が付けば会社の後輩たちから眉を顰められている、というオッサン連中はJovian含め日本に軽く数十万人はいるだろう。

 

それにしてもマイク、良い人すぎるなあ。アダムが若気の無分別で盛大にやらかした後も、兄貴分としてしっかりフォロー。そのことを知らないブルックに厳しいことを言われても、ぐっと飲み込んで反論しない。男やで。

 

マイアミに旅立つ直前に、マイクがブルックに吐露する”It’s what I do, but it’s not who I am.” =「あれは俺の仕事だが、俺の人格じゃない」というのは、『 トップガン マーヴェリック 』でマーヴェリックが”I’m a fighter pilot, a naval aviator. It’s not what I am. It’s who I am.” =「僕は戦闘機パイロットで海軍の飛行機乗りだ。それは職業じゃなくて、僕そのものだ」というセリフと対になっている。マーヴェリックは自己実現を果たしているが、マイクはまだなのだ。この自分になるということ、(英語ではしばしば Be you. と言う)その過程での成功や失敗を描く映画が青春ジャンルに入るのだろうが、本作はそれを男性ストリッパーの視点から描いたところがユニーク。女性はもちろん、男性にも勧められる。オッサンなら更に良し。何者かになろうともがく若者の姿は、それだけで尊く美しい。 

 

ネガティブ・サイド

マイク、アダム、ダラス以外のストリッパー連中の描写がアンバランスだった。ターザンは最初にアダムをからかうところだけ、ケンは自分の奥さんのおっぱいを触らせようとするところぐらいか。せっかくなら個性的な脇役連中にも、もう少しスポットライトを当ててほしかった(だからこそ続編があるのだろうが)。

 

ブルックが病院で働くシーンが少しあっても良かったのではないか。夜のクラブで浮世の憂さを晴らす女性たちがいる一方で、自分の仕事や人生、他者や社会にしっかり向き合っている女性がいる。ブルックは後者である、という描写があれば、マイクの生き方とのコントラストが際立ったものと思う。

 

総評

久しぶりに観たが面白い。一時期、『 ドン・ジョン 』とこれをBGM代わりに再生していた時期もあったが、不惑を過ぎて再鑑賞することで、マイクたちの刹那的な生き方の裏にある、確たる人生を掴めるのかどうか分からないという不安や苦悩により強く共感できるようになった。ジャニーズに忖度せず、とことん追い込んで指導・演出できる監督と良い脚本があれば、ジャニタレでリメイクしても良いのでは?無理か・・・

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

My hands are tied.

マイクが融資を頼んだ銀行員の台詞。直訳すれば「私の両手は縛られている」だが、実際の意味は「私には何もできない」、「私にできることはない」のような感じか。『 グレイテスト・ショーマン 』の “Rewrite The Stars” の歌詞の最後はこれである。 仕事などで自分にできることがなくなってしまった時、My hands are tied. と言ってみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 銀平町シネマブルース 』
『 シャイロックの子供たち 』
『 マジック・マイク ラストダンス 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, アレックス・ペティファー, コディ・ホーン, チャニング・テイタム, マシュー・マコノヒー, 監督:スティーブン・ソダーバーグ, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズ, 配給会社:ブロードメディア・スタジオ, 青春Leave a Comment on 『 マジック・マイク 』 -自分探しの青春映画-

『 エゴイスト 』 -身勝手な愛の行きつく先は-

Posted on 2023年2月28日2023年2月28日 by cool-jupiter

エゴイスト 80点
2023年2月26日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:鈴木亮平 宮沢氷魚 阿川佐和子
監督:松永大司

 

『 ハナレイ・ベイ 』の松永大司監督の作品。鈴木亮平が宮沢氷魚を役者として大きく成長させた一作。

あらすじ

浩輔(鈴木亮平)は東京でファッション誌編集者として働きながら、ゲイとして友人にも恵まれながら、自由に暮らしていた。ある日、浩輔はパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会う。二人は次第に距離を縮めていく。そして龍太は浩輔に不意にキスをして・・・

 

ポジティブ・サイド

ゲイの恋愛物語で始まるが、本作は一種の純愛を描いている。激しいセックスシーンがありながら、何が純愛かと思われるかもしれないが、プラトニック・ラブと純愛は別物。前者は一種の禁欲で、後者は純粋な愛情。愛とセックスを切り分けてしまう方がおかしいのではないか(10代前半の恋愛は除く)。

鈴木亮平演じる浩輔は、ゲイの演技が完璧。ゲイの友達と一緒にいる時の表情や立ち居振る舞い、ほんのちょっとした仕草と、職場でのそれらがほんの少しだけ違っている。しかし、その少しの違いが如実に表れ、観る側に彼と周囲の人間との関係性を語らずして理解させてくれる。対する宮沢氷魚の演技も素晴らしい。『 映画 賭けグルイ 』では存在感はほぼゼロだったが、今や本職はモデルではなく俳優と言えるのではないか。ICU卒の先輩として誇らしい。Jovian妻も「あの子、ええやん!」と称賛していた。テアトル梅田で見逃してしまった『 his 』もレンタルしてこようかな。

この二人が恋に落ち、激しいベッドシーンを演じるのが前半の山場。『 彼女が好きなものは 』は、バイのベテランとホモの童貞のセックスだったが、本作のラブシーンは文句なしにすごい。丁寧に愛撫し合い、それでいて貪り合う。ふつうの男女のセックスと何一つ変わらない。つまり愛し合う行為の美しさや尊さに、ゲイかストレートかというのはあまり関係ない。製作者が訴えたいことの一つに、まずこれが挙げられるのではないか。

順調に行っていた浩輔と龍太の関係が、あることをきっかけに途切れてしまう。そこから、浩輔の無償の愛が始まる。というか暴走する。我々はよく無償の愛という言葉を使う。しかし、一方的に「与える」関係は、下手をすればパパ活と紙一重。というか、たいていの恋愛関係は代償を求めるものだ。相手と付き合いたい、交わりたい、好きだと言ってもらいたい。そうした見返りを求めずに恋愛する人を見たことがない。だが、一方的に与えるばかりの浩輔が不自然に感じられない。そう思わせる背景を浩輔というキャラに仕込んでいる点が光る。

中盤以降、浩輔の無償の愛は異なる対象を見出す。その対象によって「愛」というものが再定義される。「愛が分からない」と途方に暮れる浩輔に、「受け取る側が愛と思えば、それは愛だ」という言葉が突き刺さる。『 愛がなんだ 』の岸井ゆきのは報われることはなかったし、『 愛なのに 』の河井優実も報われることはなかった。本作の鈴木亮平を通じて、エゴに満ちた愛もついに報われたと感じられた。

本作はカメラワークも独特である。主要キャラクター以外の人間の視点をことごとく拒絶している。ゲイである浩輔の友人たちや龍太を見つめる他者の視線が存在しない。最近、更迭された首相秘書官のいない世界だ。本作を通して見えてくるのは、愛しあう者たちは美しいし、彼らは誰も傷つけていないという世界。そして清々しいまでにエゴを貫く愛も成立するということ。近年まれに見る傑作である。

ネガティブ・サイド

浩輔の服=心理的な鎧に対するこだわりをもう少し見せてほしかったと思う。

主要キャラクターとの別離が、ややご都合主義に感じられた。

非常にどうでもいいことだが、「月に10万」なのか「月20万」なのか、そこが分からなかった。

 

総評

エゴイストと聞くと、ほぼセルフィッシュと同義語に感じるが、本作を通じてそうした考え自体がエゴイズムなのかもしれないと思えてきた。「他人は変えられない、自分が変わろう」とよく言われるが、Jovianは「いまさら身長は伸ばされへんやろ」と思ってしまう。エゴに満ちた行為も、相手が「愛だ」と感じれば、それは紛れもなく愛なのだろう。他人を思いやることはもちろん必要だが、自分の思いを貫き通すことも非常に尊い。本作は近年の邦画では出色の出来である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

ist

接尾辞のist。これは ism = 特定の思想に基づいて考えたり行動したりすることを指し、ist はそうした人を指す。racist というのはraceに基づいて考えたり行動したりする人だし、egoistというのはegoに基づいて考えたり行動したりする人を指す。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 銀平町シネマブルース 』
『 シャイロックの子供たち 』
『 マジック・マイク ラストダンス 』

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村    

 

Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ラブロマンス, 宮沢氷魚, 日本, 監督:松永大司, 配給会社:東京テアトル, 鈴木亮平, 阿川佐和子Leave a Comment on 『 エゴイスト 』 -身勝手な愛の行きつく先は-

投稿ナビゲーション

過去の投稿
新しい投稿

最近の投稿

  • 『 28日後… 』 -復習再鑑賞-
  • 『 異端者の家 』 -異色の宗教問答スリラー-
  • 『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-
  • 『 RRR 』 -劇場再鑑賞-
  • 『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』 -すべてはビジョンを持てるかどうか-

最近のコメント

  • 『 i 』 -この世界にアイは存在するのか- に 岡潔数学体験館見守りタイ(ヒフミヨ巡礼道) より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に cool-jupiter より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に 匿名 より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に cool-jupiter より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に イワイリツコ より

アーカイブ

  • 2025年5月
  • 2025年4月
  • 2025年3月
  • 2025年2月
  • 2025年1月
  • 2024年12月
  • 2024年11月
  • 2024年10月
  • 2024年9月
  • 2024年8月
  • 2024年7月
  • 2024年6月
  • 2024年5月
  • 2024年4月
  • 2024年3月
  • 2024年2月
  • 2024年1月
  • 2023年12月
  • 2023年11月
  • 2023年10月
  • 2023年9月
  • 2023年8月
  • 2023年7月
  • 2023年6月
  • 2023年5月
  • 2023年4月
  • 2023年3月
  • 2023年2月
  • 2023年1月
  • 2022年12月
  • 2022年11月
  • 2022年10月
  • 2022年9月
  • 2022年8月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
  • 2022年3月
  • 2022年2月
  • 2022年1月
  • 2021年12月
  • 2021年11月
  • 2021年10月
  • 2021年9月
  • 2021年8月
  • 2021年7月
  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月
  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月
  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月

カテゴリー

  • テレビ
  • 国内
  • 国内
  • 映画
  • 書籍
  • 未分類
  • 海外
  • 英語

メタ情報

  • ログイン
  • 投稿フィード
  • コメントフィード
  • WordPress.org
Powered by Headline WordPress Theme