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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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投稿者: cool-jupiter

『 片思い世界 』 -余計な設定は不要-

Posted on 2025年4月21日2025年4月21日 by cool-jupiter

片思い世界 40点
2025年4月18日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:広瀬すず 杉咲花 清原果耶
監督:土井裕泰

 

『 花束みたいな恋をした 』の土井裕康監督作品ということでチケット購入。事前情報はほとんど仕入れずに臨んだが、思っていた作品ではなかった。

あらすじ

美咲(広瀬すず)、優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)の3人は仕事、大学生活、アルバイトに勤しみながら、共同生活を送っていた。ある日、美咲が心寄せる幼馴染みの男性を見つけたことから、優花とさくらは美咲に告白を促すが・・・

 

以下、わずかなネタバレあり

ポジティブ・サイド

設定自体は割とありふれている。パッと思いつくだけでも



『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』

『 アザーズ 』

『 ザ・メッセージ 』

 

などが思い浮かぶ。本作のユニークなところは、それを3人娘の物語にしたところ。美咲、優花、さくらの三人が異なるパーソナリティを持っていて、それぞれに愛する人、会いたい人、憎むべき人を追っていくというサブプロットも悪くない。

 

魂魄この世にとどまりて怨み晴らさでおくべきかと言うが、生きていればどうしたって未練が残る。それは思慕の念であったり怨念であったりする。それを昇華して生きることの難しさや美しさが本作では存分に描き出される。

 

ストーリーに没入してもいいし、単純に目の保養のためにチケット購入するのもいいだろう。

ネガティブ・サイド

冒頭の回想シーンで「イマジナリーフレンドかな?」と思い、清原果耶の帰宅シーンで「ん、〇〇か?」と予感し、的中。もう少し導入部分を上手く組み立てられなかったか。

 

設定を必要以上に説明しようとするのは完全に蛇足であると感じた。おそらく『 TENET テネット 』にインスパイアされたのだと思われるが、脚本家は量子力学と素粒子物理学を弁別できていない。前者はミクロのレベルでは物理現象は量子化(離散的な値しか取れない)されるという前提に立つ学問で、後者は超ミクロの粒子は様々な力によって相互に作用することを研究する学問。両者は等価ではない。にもかかわらず、他世界解釈的な描写(それ自体が矛盾しているのだが)があったりと釈然としない。また素粒子物理の講義なのにシュレディンガー方程式を扱ったハンドアウトが配布されたりしている。何故だ?

 

また、3人が互いには触れ合えるのに他人に対してそうではないというのは、素粒子物理学で言うところの斥力のように感じられて興味深かったが、そうであれば3人は一定の距離以上には離れられないといった制約があればより説得力があった。

 

ラジオ放送も意味不明。ここのサブプロットは不要だった。もしくはここを追求するのであれば、合唱コンクールを録画あるいは録音した音声に子どもたち以外の声があった、という方がプロット上はより整合性が感じられるのではないだろうか。

 

優花の母の暴走を母の愛以上に描けたはずだが、そうしなかったのか、できなかったのか。「理由を知りたい」というのは実はエゴで、理由ではなく、理由を知ろうとすることそのものが自分の生きる理由になる。『 ゼロ・ダーク・サーティ 』でも、憎むべき敵をついに追い詰めた時、主人公の胸に去来したのは充実感ではなく喪失感だった。人間とは往々にしてそういうもの。もっと人間のドロドロの情念に踏み込んでほしかった。

 

美咲の書いたオペラは美しいのは美しいが、10代前半で可能な描写ではない。

 

総評

不条理な世界の設定を詩や戯曲を通じて語るのはよい。しかし、サイエンスを絡ませるのならそこも徹底すべきである。あるいはサイエンスはすべて排除すべきだった。物語世界の設定は悪くないのだから、そこに生きるキャラを徹底的に描写すべきで、世界がどうなっているのかを追究するのは不要だった。鑑賞する際は、キャラクター達だけに集中のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

relocate

引っ越しする、の意味。moveよりも少しフォーマル。I am scheduled to relocate to Tokyo due to my job transfer. のように使う。語彙力増強のためには類義語を覚えるのが早道だが、その際、レジスター(カジュアルな表現なのかフォーマルな表現なのか)を意識できれば中級者以上である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』
『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ラブロマンス, 広瀬すず, 日本, 杉咲花, 清原果耶, 監督:土井裕泰, 配給会社:リトルモア, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 片思い世界 』 -余計な設定は不要-

『 アマチュア 』 -知力で戦え-

Posted on 2025年4月16日2025年4月16日 by cool-jupiter

アマチュア 70点
2025年4月12日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ラミ・マレック ローレンス・フィッシュバーン
監督:ジェームズ・ホーズ

 

『 ボヘミアン・ラプソディ 』のラミ・マレック出演作ということでチケット購入。

あらすじ

CIAで暗号分析官を努めるチャーリー(ラミ・マレック)は、ロンドン出張中の妻がテロリストに殺されたことを知らされる。妻の復讐を自らの手で果たすため、CIAのトレーニングを受けようとするチャーリーは、教官のヘンダーソン(ローレンス・フィッシュバーン)と出会うが・・・



ポジティブ・サイド

見始めて少し経つまで、これが小説『 チャーリー・ヘラーの復讐 』だと気付かなかった。『 100冊の徹夜本 』の中で触れられていたので、高校生の時に岡山市内の古本屋で買ってもらって読んだことをうっすら覚えている。とにかく知力だけで戦う話だった。今作でも、舞台が現代で、テクノロジーも当然現代のものだが、チャーリーの戦い方は知力オンリー。そこが『 アメリカン・アサシン 』との違いで、本作のユニークなところ。

 

協力者のインクワラインと共に4人の標的を追っていくが、ド派手アクションに走る前のM:Iシリーズの趣きが感じられ、サスペンスフルだった。実際に女性(テロリストだが)相手にも組み負けてしまうチャーリーは非常にリアルで、だからこそナードやギークの星たりえる。ピッキング動画を視聴しながら、実際に解錠するシーンは笑った。Jovianの友人にも、パソコンの分解動画を見ながら、実際にパソコンを分解する男がいるので、このシーンは可笑しみがありつつも説得力があった。

 

原作小説では確かCIAから見捨てられるような展開だった気がするが、今作ではそのCIAを、ある意味ではテロリスト以上の悪に描いている。その背景も実際にあってもおかしくないような設定で、情報というものに信が置くことが難しい現代という舞台に、原作の設定を見事に着地させているという印象。

 

標的の最後の一人から思わぬ逆襲を食らうチャーリーが、見事な機転で危地を脱する展開には唸らされた。現代は技術全盛で、特にコンピュータ関連の知識とスキルはそのまま金になるし、使い方を変えれば武器にもなる。PCオタクでも愛する人の敵を討つヒーローになれるのだと新しく示してくれたのは一つの功績であると思う。

 

ネガティブ・サイド

偽造パスポートを作った当のCIAが、その偽造パスポートが使われた場所や日時を特定できないとはこれ如何に。

 

また、マスクやサングラスでいくらでも隠しようのある顔をシステムで追うのも疑問。邦画『 プラチナデータ 』はイマイチだったが、歩き方でターゲットを補足しようというアイデアには先見の明があった。実際にCIAは職員のそうしたデータを持っているはずなのに、なぜそれを活用しなかったのか。

 

協力者のインクワラインの出番がもう少し欲しかったと思う。

 

総評

普通に面白い作品。スパイやエージェントでありながら各地でドンパチ(本作にもちょっとそういうシーンはあるが)やる映画とは違い、知識と技術さえあれば圧倒的な暴力にも対抗できるのだ、という物語そのものに爽快感がある。『 ベテラン 』『 プロフェッショナル 』など強そうなタイトルと同時上映されているが、『 アマチュア 』にはアマチュアの良さがあるのだ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Keep your head on a swivel.

『 ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密 』でも紹介した表現。周囲への警戒を怠るな、の意味。PS2のゲームのAce Combat 04とAce Combat 5で使われている。AIに尋ねたところ、軍事や警察以外でも、文脈さえ正しければ As a sales rep, you really need to keep your head on a swivel to pick up on any business trends. のように使ってもいいそうである。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 悪い夏 』
『 片思い世界 』
『 シンシン/SING SING 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, アメリカ, サスペンス, ラミ・マレック, ローレンス・フィッシュバーン, 監督:ジェームズ・ホーズ, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 アマチュア 』 -知力で戦え-

『 ベテラン 凶悪犯罪捜査班 』 -続編にも期待大-

Posted on 2025年4月13日 by cool-jupiter

ベテラン 凶悪犯罪捜査班 75点
2024年4月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ファン・ジョンミン チョン・ヘイン
監督:リュ・スンワン

 

『 ベテラン 』の続編。前作のキャラや要素を引き継ぎつつ、ドチョルの「私」の部分が掘り下げられた秀作だった。

あらすじ

罪を犯しながら法で裁かれない悪人たちが次々に殺害された。ヘチと呼ばれる実行者に世論は沸騰。そんな中、かつてドチョル(ファン・ジョンミン)らが逮捕したチョン・ソグが殺人の刑期を終えて出所。世論はヘチによるチョン・ソグへの私刑を支持。ドチョルたちは新人警官パク・ソヌ(チョン・ヘイン)を交えてチョン・ソグの警護に当たるが・・・

ポジティブ・サイド

コメディ全開のオープニングのアクションから一転、韓国社会の世論を大いに喚起させる凶悪連続殺人犯の出現で、そうしたムードは一変。そしてまさかのチョン・ソグの再登場に観ている側の怒りのボルテージも上がっていく。そしてヘチの標的であるチョン・ソグの警護にあたるドチョルの怒りのボルテージも当然ながら上がっていく。キャラと観客の感情をシンクロさせる手法はシンプルだが効果は抜群。

 

ヘチの正体は一番最初の目のシーンだけでほとんど明示されているわけで、ある意味、それに気付かないドチョルたちチームのメンバーに「おい、早く気付け」と観ているこちらがやきもきしてしまう。これもサスペンスを盛り上げる手法としてシンプルながら効果は抜群だ。

 

YouTuberが派手に騒いで収益を狙うというのは日本も韓国も同じ。迷惑系配信者のジョニー・ソマリへの攻撃などを見ると、韓国のYouTuberは日本のYouTuberよりも狂暴で、民度としてはいかがなものか。まあ、日本の方はそういう輩が選挙に出てきたりするので迷惑度としては五分五分か。ただ、YouTubeやソーシャルメディアのおかげで、偏った形とはいえ世論がある程度見える化されたことをそのまま映画に持ち込んだのは非常に現代的。日本も『 白ゆき姫殺人事件 』をバージョンアップさせたような作品作りが求められる。

 

韓国では当たり前のように軍隊上がりがいるので、『 殺人鬼から逃げる夜 』のように一般人が腕っぷしの強さを見せることに違和感がない。本作はそれに加えて前作通りの「痛みが見る側にダイレクトに伝わる」アクションを徹底。事件を解決して「よっしゃー!」ではなく、「疲れた」となるところが面白く、かつリアルだった。

ネガティブ・サイド

ヴィランの魅力というか、悪が悪として躍動する様は前作の方が上だった。日本でもねずみ小僧のような義賊がもてはやされた時代があったが、今作のヘチは民衆に還元するのではなく、単なる自己満足に見えなかった。

 

チョン・ソグはどうやって誘い出された?仮にクローン携帯だとして、たとえばソグの母親の携帯はどうやってクローンしたというのだろうか。

 

総評

チームとしての活躍や一体感もさらにアップ。加えて、こちらの見たかったドチョルの「私」の部分、すなわち夫および父親としての部分が、物語に大きく関わっている。事件を解決した時にドチョルがチームに対して見せる顔、そして家族に対して見せる顔が、非常に対照的で印象的だった。続編は「ドチョル、最後の事件」的に5~6年後かと思ったが、割と早くに実現しそう。こちらも制作と公開が待ちきれない。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

パリパリ

早く早く、の意。日本語と同じで二回繰り返すことが多い。韓国の映画やドラマを観ていると、かなりの頻度で使われていることが分かる。大阪と同じで、いらち(せっかち)が多いのだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 悪い夏 』
『 アマチュア 』
『 片思い世界 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, チョン・ヘイン, ファン・ジョンミン, 監督:リュ・スンワン, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:KADOKAWA Kプラス, 韓国Leave a Comment on 『 ベテラン 凶悪犯罪捜査班 』 -続編にも期待大-

『 ベテラン 』 -再上映に感謝-

Posted on 2025年4月8日2025年4月8日 by cool-jupiter

ベテラン 75点
2025年4月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ファン・ジョンミン ユ・アイン
監督:リュ・スンワン

 

『 ベテラン 凶悪犯罪捜査班 』上映前に前作を劇場で再公開。ありがたい。こういうリバイバル上映はもっと行われてほしい。

あらすじ

広域捜査隊員のドチョル(ファン・ジョンミン)は、とあるパーティーで大企業幹部のテオ(ユ・アイン)と出会い、犯罪の臭いを嗅ぎつける。そのテオの関連会社勤務で、ドチョルとも旧知のトラック運転手が自殺した。事件の背後にテオの存在を確信するドチョルは捜査を始めるが・・・

ポジティブ・サイド

冒頭の警察らしからぬドチョルのおとり捜査に、直後のキレッキレのアクション、そして締めのユーモアと、冒頭から楽しませてくれる。

 

そんなドチョルが今作のヴィランのテオとパーティーで顔を合わせるシーンは、コメディ要素の強かった本作を一気にサスペンス風味に塗り替えた。骨の髄まで甘やかされた、腐った小悪党に見えたが、演じたユ・アイン自身が麻薬私用で起訴されているではないか。まあ、悪人が悪を演じるのもエンタメの一つの形かもしれない。

 

それにしても、あの手この手で捜査する警察側を、シンジン物産は先回りして潰してくる。メディアや警察の上層部まで押さえているから始末に負えない。財閥が圧倒的な強さを誇示する韓国らしい。労働者を労働者ではなく人権のない奴隷であるかのように扱う姿勢に、観る側は怒りを燃やし、被害者に共感し、主人公を応援したくなる。

 

本作ではドチョルの妻と、被害者の妻、二人の妻の見せ場が見どころになっている。これによってさらに主人公と被害者への共感が深まっていく。一歩で悪役のテオは、その悪魔的な所業をさらに加速させていく。しかし、チーム長や庁長は頼りにならない・・・と見せかけて、クライマックス前にお互いの絆と信頼の強さをコメディ全開で披露しあう展開には笑った。

 

最後は力で強行突破。逃げるテオと追うドチョル。拳と拳の勝負・・・に、ちょっとした変化球あり。それにしても、派手に殴り合うだけではなく、観る側に「痛い!」と思わせる絵作りの上手さよ。リーアム・ニーソンやジェイソン・ステイサムの映画のアクションとは質が全く異なっている。邦画もこうした格闘アクションは上手く咀嚼して取り入れてほしい。

 

出演陣もかなり豪華。この人が出ていればだいたい面白いこと確定のユ・ヘジンに、勝手に韓国の北村有起哉認定しているオ・ダルス、悪人から善人まで何でもござれのチョン・マンシク、その他、映画やドラマで見かける面々。それらをすべて包み込む、大らかで優しく、しかし悪は決して許さない一本気の刑事を演じたファン・ジョンミンはやっぱりかっこよかった。

 

ネガティブ・サイド

直接的に見せているわけではないが、動物虐待のシーンがあるのがしんどい。

 

『 犯罪都市 』より本作の方が先とはいえ、取り調べ中の暴力というのはいかがなものか。

 

最終盤にびっくりする人物が登場するが、「あっさり引き下がるんかーい」とズッコケてしまった。ファンサービスとしては嬉しいが、このシーンはカットで良かったのでは?

 

総評

いかにも韓国らしい、金持ち=悪をぶっとばすという勧善懲悪劇。ファン・ジョンミン演じるドチョルの刑事としての腕っぷし、義侠心、仲間意識、さらに夫として、父親としての心構えまで堪能できる。ベテランが何を指すのかはよくわからないが、『 終末の探偵 』的な面白さ、つまり主人公に魅力があり、シリーズ化してほしいと感じた。今週末の続編公開が待ち遠しい。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヒョン

兄の意。血のつながりがなくても使える表現。男→男で使われる。劇中ではドチョルがチーム長をヒョンニムと敬称付きで呼んでいたが、字幕は「先輩」となっていた。日本語で「兄貴」と呼んでしまうとヤクザっぽいからか。ちなみに女→男では「オッパ」となる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ケナは韓国が嫌いで 』
『 悪い夏 』
『 ベテラン 凶悪犯罪捜査班 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アクション, ファン・ジョンミン, ユ・アイン, 監督:リュ・スンワン, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:KADOKAWA Kプラス, 韓国Leave a Comment on 『 ベテラン 』 -再上映に感謝-

『 ミッキー17 』 -やや一貫性に欠ける-

Posted on 2025年4月1日 by cool-jupiter

ミッキー17 65点
2024年3月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ロバート・パティンソン ナオミ・アッキー マーク・ラファロ トニ・コレット
監督:ポン・ジュノ

 

ポン・ジュノ監督の作品ということでチケット購入。

あらすじ

借金取りから逃れるために、使い捨て人間として宇宙に出ることに決めたミッキー・バーンズ(ロバート・パティンソン)。しかし、それは過酷な環境での人体実験の被験者になることだった。死んでも死んでもリプリントされ、記憶もインストールされるミッキーだが、ある時、事故から生還すると、そこにもう一人のミッキーがいて・・・

ポジティブ・サイド

『 TENET テネット 』や『 THE BATMAN ザ・バットマン 』でクールな役を好演してきたロバート・パティンソンが、悲惨なお笑いキャラに大変身した。もうそれだけで笑える。『 エリジウム 』とはある意味で正反対の世界ながら、同作の治癒マシーンをはるかに超えた、人間プリンターには驚かされた。ただ、100年後ぐらいには中国が作りそうな装置ではある。ここから量産される人間を使って、普通の人間に対しては行えないアレやコレをやってやろうというのは『 火の鳥 生命篇 』。漫画好きのポン・ジュノらしい。

 

宇宙船の中でも格差社会が存在するのは、『 スノーピアサー 』の拡大版。子どもが搾取されるのではなく、大人のエクスペンダブルが搾取される。しかし、宇宙放射線対策やワクチン開発のための人体実験で死にまくっているミッキーは、英雄なのか奴隷なのか。

 

そのミッキーを虐げる悪役をマーク・ラファロとトニ・コレットが巧みに演じた。特にトニ・コレットは、時にユーモラス、時にホラーと、顔芸だけではなく確かな演技力を披露してくれた。

 

やっとたどりついた新天地のニフルヘイムの先住者は『 風の谷のナウシカ 』の王蟲そっくり。この時点である程度展開は読めるのだが、ちょっとしたひねりも加えられていて、それがしっかりエンターテインメントにもなっている。

 

死ぬとはどういうことか問うことを通じて、生きるとはどういうことなのかを逆に問い直そうとする作品。一人でじっくり鑑賞しても良し、家族や友人と連れだって鑑賞し、あれこれを感想をシェアするのもいいだろう。

ネガティブ・サイド

ティモやカイといったキャラクターはもう少し深掘りできたのではないか。もしくはバッサリと存在ごとカットしてもよかったかも。

 

重複存在となったミッキー17とミッキー18が、マイルドとハバネロぐらい異なる性格になったことに対して全く説明がなかったのが気になる。記憶を保存して、それをリプリントされた個体の頭脳にインストールする。ここまではSFでよくある設定。ただ、同じ肉体、同じ記憶であるにも関わらず、全く異なるパーソナリティになってしまう説明が欲しかった。たとえば、ミッキー5まではこうだったけど、ミッキー6はちょっと変な奴だった、のようなエピソードがあればもっと得心がいったのだが。

 

テーマは What’s it like to die? だったはずだが、そこに占める異星生命との遭遇の割合が大き過ぎたように思う。延々と人体実験に晒されつつも、ある時、死んでしまったミッキーに人工呼吸やら胸骨圧迫をして蘇生させる必要が生じた。しかし、蘇生はできずリプリントした。なぜ我々はリプリントされる彼を蘇生させようとしたのか・・・と問うような物語もありえたのかな、と思う。

 

総評

決して傑作ではない。しかし駄作でも凡作でもない。ブラック・コメディとして普通に面白い作品。保守化に邁進する第2次トランプ政権のアメリカ社会とその歴史を下敷きに本作を鑑賞すれば、ポン・ジュノ監督が何を笑いに変えようとしたかったのかが見えてくる。格差、階級、移民、異邦人。なかなか解決できない問題だが、笑い飛ばすことはできる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

work one’s ass off

直訳すると、働いて誰かの尻が離れてしまうだが、実際は「めちゃくちゃ頑張る」ということ。We all have to work our asses off. To hell with my company… のように言える。こういうことがサラッと言えれば英検0級である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 Flow 』
『 ケナは韓国が嫌いで 』
『 悪い夏 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, トニ・コレット, ナオミ・アッキー, ブラック・コメディ, マーク・ラファロ, ロバート・パティンソン, 監督:ポン・ジュノ, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 ミッキー17 』 -やや一貫性に欠ける-

『 教皇選挙 』 -2020年代を予見した作品-

Posted on 2025年3月25日2025年3月25日 by cool-jupiter

教皇選挙 80点
2025年3月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:レイフ・ファインズ
監督:エドワード・ベルガー

 

元・宗教学専攻として興味を惹かれ、チケット購入。

あらすじ

教皇が亡くなり、新たな教皇を選出するため世界各地から枢機卿がバチカンに集った。教皇選挙=コンクラーベを取り仕切るローレンス(レイフ・ファインズ)は旧知のベリーニを推そうとする。そんな中、カブールからベニテスという枢機卿がやって来て・・・

 

ポジティブ・サイド

礼服を身にまとった聖職者たちが一堂に会し、選挙という名の一種の派閥構築と権力闘争に勤しむ姿は、それだけで非常に cinematic だった。英語、ラテン語、イタリア語などが飛び交うのも楽しめた。

 

有力者が票を伸ばしながらも得票多数には至らず、逆にスキャンダルの発覚により失脚していく。『 スポットライト 世紀のスクープ 』を思い出す人も多いだろう。聖職者は性職者などと揶揄されても仕方がないスキャンダルだった。また権謀術数も駆使され、米大統領選でもここまでほじくり返すかと思われるような過去の詮索もあり、選挙=戦争であるというベリーニの叫びは真実であると実感させられる。

 

主人公のローレンスはコンクラーベを恙なく執り行うために奔走するが、その様子をつぶさに見るにつけ、結局は人種や地域の壁を人間が超えることは難しいのだと思わされる。序盤で「英語を話す者は英語を話す者と、イタリア語を話す者はイタリア語を話す者とくっつく」と言われるが、結局はカトリックもバベルの塔の崩壊後の姿のままということか。

 

ローレンスは「確信こそが最大の敵であり、確信してしまえば mystery が存在せず、すなわち信仰も存在しなくなる」と語る(mysteryの字幕は何だったのだろう)。これは多くの現代人が肝に銘じておくべき言葉だと感じた。「公職選挙法に違反していないと認識している」とアホの一つ覚えのように繰り返す兵庫県知事などはこの最たる例で、確信=思い込みは罪になりうるのだ。

 

終盤に大事件が起き、外部から遮断されるべきコンクラーベも中断を余儀なくされる。そこで枢機卿たちによって交わされる議論が本作の核心。ローマ・カトリックの繁栄はレコンキスタや十字軍、さらには大航海(という名の間接的侵略と武器の売買)によってもたらされたものだという歴史的事実を完全に無視した妄言、そしてそれを静かに打ち砕く言説には震えた。

 

最後にローレンスはとある秘密を知ってしまう。その秘密を彼はどう受け止めたのか。奇妙な舞台装置がここに投入されるが、劇中でのとある会話とローレンスが最後に取った行動を合わせて考えれば、その真意は推察できる。

 

10年前のテイラー・スウィフトの東京ドームでのコンサートに行ったが、そこでテイラーは “You are not your mistakes.” だと語ってくれた。今やっとその意味が分かったような気がする。劇中でとある人物が言う “I am *******” と、本質的に同じ意味だったのだ。 

ネガティブ・サイド

アジア系の枢機卿もいたが、ほんの一瞬映ることが2回あったぐらい。もう少しアジアもフォーカスしてくれ。

 

先代教皇は結局、何者だったのか。どこまで見通して死んでいったのか。何かヒントになるような情報がまったく呈示されなかったので、モヤモヤした気持ちだけが残った。

総評

聖職者としての建前と人間としての本音が交錯し合う非常にスリリングな会話劇。トランプ米大統領の二度目の就任の際に、アメリカの司教が慈悲を求めた説教が話題になった。おそらく米国の聖職者たちの中でも政治的にデリケートな話題について我々の目に見えないところで相当に深く議論がされていたのだろうと想像される。そうした言葉のやりとりを楽しめる人は楽しめるだろうし、楽しめない人は楽しめないだろう。Jovianは波長がピタリと合った。今年のイチ押しの作品である。

 

Jovian先生のワンポイントイタリア語レッスン

Come stai

英語でいうところの How are you? にあたる表現。おそらくイタリア語会話の本の最初の3ページ以内に必ず出てくる表現。これから鑑賞するという人は、どこでこの台詞が出てくるか注目してみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 Flow 』
『 ミッキー17 』
『 ケナは韓国が嫌いで 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アメリカ, イギリス, サスペンス, ミステリ, レイフ・ファインズ, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 教皇選挙 』 -2020年代を予見した作品-

『 ジブリの思い出がいっぱい オーケストラによるドリームコンサート 』

Posted on 2025年3月23日2025年3月23日 by cool-jupiter

ジブリの思い出がいっぱい オーケストラによるドリームコンサート
2025年3月22日 兵庫県立芸術文化センターにて鑑賞
演奏:ドリームチェンバーオーケストラ
歌唱:ザ ブリーズアドベンチャーズ

 

『 ジョン・ウィリアムズ フルオーケストラコンサート 』に触発されてチケット購入。

 

簡潔に感想をば。

 

良かったと感じたのは『 ハウルの動く城 』の「人生のメリーゴーランド」と『 仮ぐらしのアリエッティ 』の「 Arietty’s Song 」の二曲。特に「 人生のメリーゴーランド 」のピアノからはパトスがひしひしと感じられた。

 

対照的にビミョーだと感じたのは『 魔女の宅急便 』の「 やさしさに包まれたなら 」と『 風立ちぬ 』の「 ひこうき雲 」の二曲。奇しくもどちらも松任谷由実自身による作詞作曲かつ歌唱。松任谷由実の曲を松任谷由実以上に巧みに解釈して歌うのは難しいことが証明された感じ。

 

3歳以下は入場不可だったはずだが、どうみても2~3歳の子が散見された。2列前でぐずる子は3歳になるかどうかに見えたが、これを入場時にはじくのは難しそう。二部の序盤で父親が外に出て帰ってきた時には機嫌が治っていた。

 

こういうのには目くじらを立ててはいけないのだろう。そもそもジブリの音楽コンサートであるからには対象に小児が含まれるのは当然で、演奏や歌唱を大きく妨げるような大声を出すのでなければ、気にしてはいけない。

 

いつか久石譲のコンサートにも再び行ってみたい。確か1997年の秋ごろに神戸のコンサートに行って、それっきりだ。最近体調が思わしくない時期もあったようだが、レジェンドもいつかは本当のレジェンドになってしまう。そうしたレジェンドの語り部の一人になっておきたいと強く感じた。

 

ブリアド(ザ ブリーズアドベンチャーズの公式ニックネーム)は、声はいいけれど実は歌はそれほど上手だとは感じなかった。一方で演奏のドリームチェンバーオーケストラは、かなり楽団としてこなれているという印象。総じてステージパフォーマンスは子ども向けながら面白かった。とある楽曲ではオーディエンスの手拍子が始まるタイミングが早すぎて、ブリアドが「今から」と修正するシーンもあり、ライブならでは即応性やインタラクションもあった。

 

目視では、客層は子連れが3割(中学生ぐらいまで含む)、カップル(高校生~20代?)2割、残りの半分は中高年といった感じ。コロナ禍にジブリ映画が劇場再公開されていたが、こうした試みは毎夏、1本ぐらいはあってもいいのではないか。そこからサントラやコンサートにもつながり、さらにレンタルや配信にもつながり、それが次世代にレガシーと伝えることにもつながっていく。

 

このコンサートは兵庫県を初回として、月に1回ぐらいのペースで日本のあちこちを巡るようなので、興味のある向きはe+(イープラス)などでチケットを購入されたし。Jovianも近々TSUTAYAでジブリ作品をいくつか借りてみたいと思えた。

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Posted in 未分類Tagged 2020年代Leave a Comment on 『 ジブリの思い出がいっぱい オーケストラによるドリームコンサート 』

『 ロングレッグス 』 -誇大広告に騙されることなかれ-

Posted on 2025年3月18日 by cool-jupiter

ロングレッグズ 35点
2025年3月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:マイカ・モンロー ニコラス・ケイジ
監督:オズグッド・パーキンス

 

『 羊たちの沈黙 』以来の傑作なる評に惹かれてチケット購入。Don’t believe the hype…

あらすじ

FBI捜査官のリー・ハーカー(マイカ・モンロー)は連続殺人事件を捜査していた。すべての事件で、父親が家族を殺害した後に自殺しており、現場には謎の暗号文が残されていて・・・

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

『 イット・フォローズ 』で主役を張ったマイカ・モンローが主人公ではないか。気弱だが、芯の強さを感じさせる。しかし、どこか壊れてしまいそうな脆さを常に漂わせるキャラクターを好演した。

 

ニコラス・ケイジもB級映画への出演が相次いでいるが、これは役としては当たりではないか。ニコラス・ケイジは(ある意味トム・クルーズのように)常にニコラス・ケイジを演じているが、今回の車の中での絶叫シーンはニコケイっぽさがなく、新鮮に感じられた。

 

ラストの余韻もなかなか。自分の〇〇と△△を☆してしまったわけで、バッドエンドを選ぶのか、それともワーストエンドを選ぶのかは、ある意味で観る側の解釈次第というわけか。それもありだろう。

 

ネガティブ・サイド

ジャンプ・スケア多過ぎ。序盤からガンガン使われて、「あれ、これはそういう映画か?」と思ったあたりから、そろそろ来るなというところでギャン!・・・白けるで、ホンマ。

 

殺人犯が潜伏している可能性のある家に、単独で「FBIだ!」と叫んで訪問するアホがいるのか?

 

あの猫はどうやって生きていた?一月ほど飲まず食わずで放置されていたのではないのか。それとも捜査の直前に自分からケージに入ったとでもいうのか。

 

暗号の解き方も呆気ないというか、こちらはそこを知りたいのに特に深い考察もなく終わってしまう。まあ、ジャンルがサスペンスやミステリではなくホラーあるいはスーパーナチュラル・スリラーなので仕方ないのだが、だったら何故に『 羊たちの沈黙 』や『 セブン 』を引き合いに出して宣伝するのだ?こういうのは公正取引委員会に訴えられないのだろうか。

 

閑話休題。

 

一番の疑問が、呪いの人形の運搬および搬入。これまでの被害者家族のだれ一人として「教会の方から来ました」と言われて、こんな人、地元の教会にいたっけ?と感じなかったのか。そもそもある程度信心深い=定期的に教会に行く人でないと、教会側も誕生日や住所を把握できないだろう。コスプレだけで住民が信用してしまうという設定を当の脚本家は何も感じなかったのだろうか。

 

またアメリカには信教の自由があるから悪魔崇拝を止められないというのも笑った。いや、信教の自由は保護されてしかるべきだが、それと殺人教唆や殺人の共謀は完全に別の話。そこを混同するFBIの面々には笑わされると同時に頭を抱えざるを得なかった。

 

とにかく珍品というのは一番しっくりくる作品である。

 

総評

人間同士の頭脳戦と見せかけてスーパーナチュラル・スリラーで、ポップな感じのエンディングが『 アイム・ノット・シリアルキラー 』を髣髴させた。同作が好きだという向きは本作も口に合うかもしれない。ニコラス・ケイジのファンにもお勧めする(出番は少ないが)。そうでなければ、わざわざチケットを購入する必要はない。配信・レンタルを待つか、それもスルーして構わない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

So they say.

彼ら彼女はそのように言う、転じて「世間ではそう言われているね」、「そうらしいね」の意。

A: Baseball is a national pastime in Japan.
    野球は日本の国民的娯楽だって。

B: So they say. 
    らしいね。


A: It takes inspiration to be an artist.
    芸術家になるにはインスピレーションが必要だよ。

B: So they say.
   そうみたいですね。

のように使う。これがパッと言えれば、英会話中級者以上だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ゆきてかへらぬ 』
『 Flow 』
『 ミッキー17 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, E Rank, アメリカ, ニコラス・ケイジ, ホラー, マイカ・モンロー, 監督:オズグッド・パーキンス, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 ロングレッグス 』 -誇大広告に騙されることなかれ-

『 プロジェクト・サイレンス 』 -パニック映画の佳作-

Posted on 2025年3月16日 by cool-jupiter

プロジェクト・サイレンス 65点
2025年3月15日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:イ・ソンギュン チュ・ジフン
監督:キム・テゴン

 

『 PMC ザ・バンカー 』、『 パラサイト 半地下の家族 』、『 最後まで行く 』などで、爽やかながらもダークサイドを秘めた演技を見せてきたイ・ソンギュンの遺作ということでチケット購入。

あらすじ

国家安保室の行政官ジョンウォン(イ・ソンギュン)は、娘を空港に送る途中、濃霧による多重衝突事故に巻き込まれる。橋が孤立する中、政府が秘密裏に進める対テロ兵器である軍用犬も事故によって放たれてしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

序盤はハイペースで進む。主要なキャラクターたちの背景を簡潔に描き、しかもそれが後半から終盤にかけて効いてくる。この脚本家=監督はなかなかの手練れ。多重衝突事故やヘリの墜落、橋の部分的な崩落などもCGながら見応えは抜群。予告編で散々観ていても、本番となるとハラハラドキドキさせられた。

 

序盤であっさりと襲い来るモンスターの正体は犬であるとばらしてしまうのも潔い。犬といっても軍用犬なので強い。一般の成人男性がそこらの野良犬が本気で襲い掛かってきたのを撃退しようとしても、勝率は20%もないだろう。軍人さんが次々にやられていくのもお約束とはいえ納得しよう。

 

橋の上でいつの間にやら結成されるチームが多士済済。政府高官の父と反抗期の娘、踏み倒されたガソリン代を徴収しに来た不良店員とその愛犬、ゴルファーの妹とちょっと間抜けなその姉、認知症の妻を甲斐甲斐しく世話する夫、そしてプロジェクト・サイレンスの研究者の一員である博士。彼ら彼女らの、時にはエゴ丸出しの言動がいつの間にやらファミリードラマやヒューマンドラマとして成立してくるから不思議で面白かった。

 

『 工作 黒金星と呼ばれた男 』では小憎らしさ満開の北朝鮮軍人、『 暗数殺人 』で人を食ったような殺人犯を演じたチュ・ジフンがコミック・リリーフを演じていたのには笑った。完全なる役立たずかと思いきや、とある大技で犬を一時的に撃退したり、最終盤にはとあるアイテムで大活躍したりと、ユーモアある役も演じられる役者であることを証明した。

 

主役のイ・ソンギュンは医師や社長の役も似合うが、今回は次期大統領候補を陰から支える国家公務員役を好演。明晰な頭脳で誰を助け、誰を助けないのか、またどんな情報をどのような形で公開・共有するのかを瞬時に判断する狡猾な男を好演。娘に対しても冷淡に見える態度を取っていたが、それは早くに妻をなくしてしまって以後、娘との距離の取り方を学ぶことができなかった可哀そうなファミリーマンに見えてくるから不思議。よくこんな短い時間にあれもこれもとヒューマンドラマ的な要素を詰め込めるなと感心する。

 

犬との戦い、政府の救助、生存者の脱出劇が交錯して、サスペンスに満ちた90分が続く。韓国映画のパニックものの佳作。特に予定のない週末なら、映画館で本作を鑑賞しよう。

 

ネガティブ・サイド

対テロリストのために研究・開発してきたと言うが、攻撃のトリガーが声だというのはどうなのか。そもそも事前にテロリストの声など入手できるのか。できたとして、その声をいつ、どこで、どうやって聞かせるのか。音は当然、音速でこちらに迫ってくるが、たとえば1km先の目標テロリストが大声をあげたとして、犬が犬がそれをキャッチするのに3秒かかり、なおかつ現場に急行するのに平均時速60kmで走っても1分。役に立つのか?

 

老夫婦の扱い方があんまりではないか。韓国もアメリカのようなプラグマティックな社会になりつつあるのだろうか。

 

総評

頭を空っぽにして楽しめる作品。ホラー要素もないので、怖いのはちょっと・・・という向きも大丈夫。自己中心的な人間の集まりが、いつの間にか熱い連帯を構成するのは韓国映画のお約束で、本作もその例に漏れない。続編の予感も漂わせているが、本作一作だけで完結しているし、そうあるべき。配信やレンタルを待つのも手だが、韓国映画のファンならば劇場鑑賞をお勧めしたい。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ソンゴ

選挙の意。センキョとソンゴ。確かに音は近い。残念ながら今の韓国は漢字をまともに習った世代がどんどん高齢化しているので、若い世代は筆談で中国人や日本人と意思疎通できないと言われている。いくら右傾化が進んでも、漢字を捨てるなどという残念な決断をしないことを祈る。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ロングレッグズ 』
『 ゆきてかへらぬ 』
『 ミッキー17 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イ・ソンギュン, スリラー, チュ・ジフン, パニック, 監督:キム・テゴン, 配給会社:ショウゲート, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオ, 韓国Leave a Comment on 『 プロジェクト・サイレンス 』 -パニック映画の佳作-

『 名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN 』 -答えは風の中にある-

Posted on 2025年3月16日2025年3月16日 by cool-jupiter

名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN 70点
2025年3月14日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ティモシー・シャラメ エドワード・ノートン エル・ファニング モニカ・バルバロ
監督:ジェームズ・マンゴールド

妻が見たいというのでチケット購入。ボブ・ディランに関する知識はあまりなかったが、それでも興味深く鑑賞できた。

あらすじ

ウディ・ガスリーに傾倒する青年のボブ(ティモシー・シャラメ)は、彼が入院している病院を尋ねる。そこでガスリーとその親友、ピート・シーガー(エドワード・ノートン)に一曲を披露したボブはその才能を見込まれ、ピートの自宅に誘われて・・・

ポジティブ・サイド

ティモシー・シャラメ、意外に歌が上手い。かつ、しゃべり方も田舎から出てきた朴訥な青年が無理して背伸びして喋っています感ありあり。おそらく実際のボブ・ディランがそうだったのだろう。他にもエドワード・ノートンやモニカ・バルバロなど、以外と言っては失礼かもしれないが、歌唱力の高さに驚かされた。

今でこそ才能が誰かに発見される、あるいは才能自身が自らを発信するのは難しくないが、1960年代は話が別。カフェやバーでのライブや、教会のイベントなどでコツコツと地道に活動していくしかない。そうした時代を見つめるのも興味深かった。

ディランが成功を掴んでいく中、シルヴィと付き合いながらもジョーンと二股関係になっていくのは見ていて気持ちのいいものではなかったが、これは史実なのだろう。また、割と高尚なメッセージを直截的な歌詞に乗せて歌い上げるディランだが、同じミュージシャンのジョーンを抱いた直後にも曲作りに精を出す様は、仕事人としてはリスペクトするが、男としてはまったくもってダメダメ。

ところが、もう一人のボブとの偶然の出会いの際に漏らしたディランの本音によって、そうしたハチャメチャなディランの像が一変して見えてくる。ディランの出現と活躍によってフォークが完全に復権を果たそうとすることに多大な期待をかけるピート・シーガーや、JFK暗殺やキューバ危機の中にあっても自らの信念に忠実に勉学と行動に邁進するシルヴィ。そうした人々の期待に応えようとしない、いや敢えて応えない男の美学を見たような気がした。鬱屈とした時代はもう終わったんだと歌って喝采を浴びた男が、前時代の音楽に回帰せよと言われても、それは素直に従えないだろう。太宰治や坂口安吾がフォークを歌えば、日本のボブ・ディランと呼ばれたように思う(この二人の方がディランよりも前だが)。

余談だが、フォークソング=社会批判という構図は現代にも受け継がれていると感じた。第一次トランプ政権の際にバズったサイモンとガーファンクルのThe Sounds of Silence のパロディ、 Confounds the Science や、『 僕らの世界が交わるまで 』のジギーが理知的で政治活動にも熱心な女子とのうまく行かない距離の取り方を、政治的メッセージと共にフォークソングに乗せるというシーンもあった。フォークもジャズと同じで、死にそうで死なない音楽ジャンルなのだろう。

ネガティブ・サイド

1960年代の街並みをCGで作って合成するのはいいが、もう少し丁寧な仕事が求められる。道に立っている女性の髪が風にそよいでいるのに、その真横を歩くシルヴィの髪がまったく動いていないというシーンにはギョッとさせられた。

ディランの作詞作曲のシーンは興味深かったが、その背景にもう少し踏み込んでほしかった。現実世界のどういった事象に心を動かされ、それをどう言葉やメロディにしていくのか。たとえば食事シーンで何かひらめく、街中の看板やポスター、フライヤーなどに一瞬目を奪われる、のようなシーンが欲しかった(本人にそういった逸話がないのかもしれないが)。

シルヴィやピート・シーガー、ジョーン・バエズとは異なり、ジョニー・キャッシュとディランのつながりの描写が弱いと感じた。当時としては手紙は重要なコミュニケーション・ツールだったはずで、その手紙の文言をもっと観る側に刺さる形で呈示する方法はなかったか。

総評

コロナ前にノーベル文学賞を受賞したことが話題になったボブ・ディラン。授賞式を欠席したというのも、彼をよく知るファンからすれば当然なのかもしれない。Jovianは中学生ぐらいだったか、B’zのBlowin’を聴いている時に、親父に「ボブ・ディランの真似か?」みたいに言われて、ビルボード年鑑のようなものを読んで、ボブ・ディランの名前を知ったんだったっけ。ハマることはなかったけれど。時代の変わり目を象徴するような歌い手だったことは如実に伝わってきた。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

turn down ~

いくつかの意味があるが、劇中では「~の音量を下げる」という意味で使われていた。ただし、実際は結構何にでも使える表現。たとえば照明を弱めるなら、turn down the lightと言えるし、コンロの火を弱めるならturn down the fireもしくはturn down the flameとも言える。逆の表現はもちろんturn up ~である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, エドワード・ノートン, エル・ファニング, ティモシー・シャラメ, モニカ・バルバロ, 伝記, 監督:ジェームズ・マンゴールド, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN 』 -答えは風の中にある-

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