ジェミニマン 40点
2019年11月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ウィル・スミス メアリー・エリザベス・ウィンステッド クライブ・オーウェン ベネディクト・ウォン
監督:アン・リー
個人的にはウィル・スミスはB級SF作品で光を放つ俳優である。『 インデペンデンス・デイ 』しかり、『 メン・イン・ブラック 』シリーズしかり。『 アラジン 』はスルーさせてもらったが、B級SFの臭いをプンプンと漂わせる本作をスルーする理由は見当たらなかった。
あらすじ
ヘンリー(ウィル・スミス)は世界最高のスナイパー。高速列車に乗るバイオ・テロリストを射殺した時、引退を決意した。しかし翌日からDIAに命を狙われる。自身の監視役のDIAエージェントのダニー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)と共に逃亡を図るが。そこに立ちはだかったのは若き日の自分、クローン人間だった・・・
ポジティブ・サイド
『 ライオン・キング(2019) 』のCGにも度肝を抜かれたが、あれは人間ではなく、動物たちだった。それでもCG技術の極致を見た思いがした。また『 ブレードランナー2049 』は2017年に公開され、その製作には1年半を要したというが、ポスプロの大部分はレイチェルをCGIで蘇られることに費やされたと言われている。それほど生きた人間のCGIを造ることは難しいとされてきた。にもかかわらず、本作は信じられないほどのハイクオリティで、若いウィル・スミスを生み出し、動かしている。テクノロジーの進歩もここまで来たかと唸らされた。美空ひばり復活プロジェクトが先日テレビで放映されていたが、故人をCGの形でスクリーンに蘇らせることが(技術的に)可能な時代が到来するのは時間の問題なのかもしれない。『 キャプテン・マーベル 』でサミュエル・L・ジャクソンの顔にデジタル・ディエイジングを施したのとは違い、ゼロからキャラクターを作れることの意義は大きい(問題は、モデルになった人間のギャラが発生するのか否かだろう)。
アクションは豪快で爽快である。コロンビアの建物内外での銃撃戦ではプロのスナイパーの機転と技を堪能できたし、バイクのチェイスシーンは『 ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション 』よりもハラハラドキドキさせられた。
クライブ・オーウェンといえば悪役にして黒幕、黒幕で悪役といえばクライブ・オーウェンというぐらいに、この男はワル役が似合っている。顔がナチュラルに悪人で、纏っているオーラも普通に邪悪さを感じさせるところは只者ではない。この男の出演作には傑作はないが、ハズレもない。作品の面白さを事前に測るバロメーターとして、個人的には重宝している。
ネガティブ・サイド
CGは一流である。しかし超一流とまでは評せない。なぜなら、最終盤の昼間のシーンで、明らかに若スミスがその場面に“溶け込んでいなかった”からだ。言葉で説明するのは難しいが、CGはどこまで行ってもCGに過ぎないのか。しかし、『 ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー 』でタルキン提督が振り返った瞬間、Jovianは度肝を抜かれた。ということはCGのCGらしさが今作の最後の最後で目立ってしまったのは、本人(ウィル・スミス)がそこにいたからなのか。夜、あるいは照明の弱い場所では若スミスのリアリティも保たれていたが、最後の最後にそれが壊れてしまったのは興醒めだった。
バイクの追跡アクションは痛快だったが、若スミスがバイクを使って今スミスをボコっていくのはもはやギャグにしか見えない。いったいぜんたいどこの誰が、こんな技をクローン兵士に仕込むというのか。バイクの曲乗り技術を叩きこむぐらいなら、もっと他に有用な知識や技術を教え込めるだろう。せっかくのスリリングなバイク・チェイスが着地で失敗してしまっている。また、同シーンでは若スミスが最後に文字通りに消える。目を疑うかもしれないが本当に消える。
CGも佇んでいたり、歩いていたりするぐらいなら良いが、近接格闘となると途端に粗が目立つ。カタコンベでのド突き合いはリーアム・ニーソンの『 トレイン・ミッション 』のような非現実的なものだった。あるいは、『 ターミネーター 』のT-800のアニマトロニクスがカイル・リースをぶん殴っていくシーンのクオリティを極限にまで高めたとでも言おうか。つまり、どこまで行ってもリアルさに欠けるということである。
本作の最大の欠点はストーリーが非常につまらないことにある。大前提として、クローンの物語は小説、映画ともに星の数ほど生産されてきた。それらから引き出せる分類として
1.同一人物のクローンを多数作る
2.異なる人物のクローンを多数作る
3.オリジナルも実はクローンである
の三つが挙げられる。本作はクローンものとしてジャンルを壊す、あるいはジャンルを新たに生み出すものではなかった。
また、ヘンリーの戦友であるベネディクト・ワンのキャラクターがただのアッシー君でしかないところも大いに不満である。それにブダペストで出会うロシア側のエージェントも非常に思わせぶりな台詞を吐きながら、そのままフェードアウト。DIA内部の人間関係も描写されるが、それも至って中途半端。
最も納得が行かないのは、良心の呵責を持たない兵士を生み出したいという点だ。だったら、何故にクローンをオリジナルと対面させたりするのか。そうすることでクローン人間の内面にどういう変化が生まれるのか、シミュレーションができないのか。一つの可能性は、クローンがオリジナルを抹殺し、冷酷非情なアサシンに成長を遂げる。もう一つの可能性は、自らの出自や人生そのものに疑問を抱き、予想も出来ない行動に走ること。この点については『 ジュラシック・ワールド 炎の王国 』でも証明されている。家でも船でも飛行機でもミサイルを撃ち込んでヘンリーを殺す。その上で若スミスを着任させればシャンシャンではないか。“ジェミニ”を巡るDIAのお歴々のやっていることが全くもって意味不明であることが本作の致命的な欠陥になっている。
総評
ウィル・スミスのファン、あるいはB級SFをこよなく愛する人であれば劇場へGoである。しかし、ストーリーの整合性やリアリズムを重視する映画ファンに自信を持って勧められる作品ではない。安易なロマンス展開もないので、デートムービー向きでもないだろう。姉さん女房的な女性と付き合っているという幸運な若者男性なら、彼女同伴で鑑賞もありかもしれないが。
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直訳すれば「お前はそれよりも良い」だが、実際は「お前はそんなダメな奴じゃない」ぐらいだろうか。家族の一員や友人、親しい同僚などが期待に応えられずにやらかしてしまった時に使われる台詞である。最も印象的なところでは『 ロッキー・ザ・ファイナル 』のロッキーの息子への叱咤だろう。このフレーズの使い方については、こちらの動画
を参照されたい。