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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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月: 2022年8月

『 女神の継承 』 -古今東西のホラーミックスの怪作-

Posted on 2022年8月12日 by cool-jupiter

女神の継承 75点
2022年8月12日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ナリルヤ・グルモンコルペチ サワニー・ウトーンマ
監督:バンジョン・ピサンタナクーン

 

『 チェイサー 』、『 哭声 コクソン 』のナ・ホンジン監督が原案およびプロデュースを担当。それだけで一筋縄ではいかない映画だとわかる。実際に有名ホラー映画のインターテクスチャリティー満載の作品であった。

 

 

あらすじ

霊媒のニム(サワニー・ウトーンマ)は女神バヤンの依代として、地域住民の悩みや病気の解決の手助けをしていた。彼女の姪のミン(ナリルヤ・グルモンコルペチ)が謎の体調不良に見舞われたことから、ニムは女神バヤンがミンを新たな依代に選んだと考えていたが・・・

 

ポジティブ・サイド

Jovianは大学で宗教学を専攻していた。より詳しく言えば古代東北アジアの思想、特にアニミズムを勉強していた。なので東南アジアのシャーマニズムについては門外漢ではあるものの、感覚的に理解できることがかなりあった。ただし本作を堪能するために専門知識は必要ない。むしろアジア人=多神教やアニミズムを何となく受け入れている民族であれば、それだけで恐怖が倍増するだろうと感じた。

 

全編通じて『 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 』的なドキュメンタリー形式で撮影されており、随所に『 カメラを止めるな! 』的な要素もある。序盤のニムへのインタビューや、ニムの霊媒としての仕事ぶりは、ナショジオ的な趣すら感じられた。

 

姪のニムが女神バヤンの新たな継承者の兆候を見せ始めるところから、テレビ番組的な趣は消え、本格ホラーに移行していく。『 エクソシスト 』へのオマージュが散りばめられ、最後には各種ゾンビ映画のごった煮状態に昇華する。

 

その過程で観る側の神経をざわつかせるのは、ニムの変化。最初は体調不良だったのが、子どもに対する乱暴行為、それがエスカレートして大人にも暴言暴行、果てはニムの祈祷に対して緑色の吐しゃ物を出すなど、行為の変化が肉体の変化に起因することを示している。この見せ方は日本のホラーにはあまりないが、もっと取り入れても良いように思う。目が赤く光るとか、口角がありえないほど引きつるといった外見的な描写よりも、血液の色がおかしい、吐しゃ物が異常といった内部の描写に切り込む本作は、かなりの野心作である。

 

いよいよ悪霊祓いとなった時に「はあ?」という事件が発生する。これはなかなかの不意打ちだった。もはやグッドエンドは期待できない中、物語は突き進んでいく。このクライマックスの凄惨さは、映画なのか漫画なのか分からないレベル。一歩間違えればギャグにしか見えないシーンの数々を恐怖映像としてしっかりまとめ上げたピサンタナクーン監督の手腕は見事である。

 

また主演の二人の女優も印象的。ニムはいかにもタイの土着的なおばちゃんで、日本なら沖縄あたりでユタをやっていそうな感じ。ミンを演じたナリルヤ・グルモンコルペチは対照的に、西洋風な面持ちのスレンダー美女。あられもないセックスシーンから、狂乱状態のトップレス披露まで、日本のホラー映画に出てくる女優とは明らかに気合いが違う。各種の動物の形態模写から、血しぶきブシャーの殺戮シーンまで、何でもござれ。ルックスを売りにする日本の若手女優は、ナリルヤの爪の垢を煎じて飲むべきである。

ネガティブ・サイド

ドキュメンタリー風に撮るなら、もっとカメラマンが画面に映ってもいい。あちこちでカメラが切り替わるが、それはそこにカメラ・オペレータがいるから。終盤は撮影者も次々に死んでいくが、中盤あたりから「女神継承」あるいは「悪魔祓いの儀式」をカメラに収める人間たちの存在をもっとアピールしても良いと感じた。『 カメラを止めるな! 』の成功要因の一つに、これは映画を撮っている人たちを撮っている映画、と思い込ませた点がある。実際には、映画を撮っている人たちを撮っている人たちを、さらに撮っている映画だった。そこを強調する仕掛けが本作にあっても良かった。

 

犬が重要なキーワードの本作であるが、その犬の悪霊に憑かれた人間が襲う対象が少々不可解。えーと、その人は犬を〇〇している人だったっけ?むしろ、それを疑問に思っている人だったのでは?

総評

タイ映画といえば『 ホームステイ ボクと僕の100日間 』や『 バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』など、都市部の若者にフォーカスするイメージを持っていたが、それが見事に覆された。ホラーに耐性がない人はスルーのこと。ホラーに耐性がある人はぜひ鑑賞を。古今東西のホラー映画のエッセンスが詰め込まれた、まるで鍋料理のような融通無碍な味わいが得られることだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

medium

原題は The Medium = 霊媒 である。med から mid 、つまり真ん中がイメージできればOK。マスコミをメディアと呼ぶのは、情報伝達の面で政府や芸能界と一般大衆の中間を担っているから。霊媒も超自然的存在と人間をつなぐ中間的存在であることから英語では medium となる。こんな語彙を知っておくべきなのは好事家だけだろうが。

 

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サワニー・ウトーンマ, タイ, ナリルヤ・グルモンコルペチ, ホラー, 監督:バンジョン・ピサンタナクーン, 配給会社:シンカ, 韓国Leave a Comment on 『 女神の継承 』 -古今東西のホラーミックスの怪作-

『 海がきこえる 』 -転校生と青春の日々-

Posted on 2022年8月11日 by cool-jupiter

海がきこえる 70点
2022年8月10日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:飛田展男 坂本洋子 関俊彦
監督:望月智充

近所のTSUTAYAのアニメコーナーで『 マインド・ゲーム 』を探していたら、本作が目についた。転校生だった自分を思い出して、懐かしさもありレンタルしてきた。

 

あらすじ

東京で大学生をしている杜崎拓(飛田展男)は、吉祥寺駅の向かい側ホームに、高校の同級生・武藤里伽子(坂本洋子)の姿を見かける。親友の松野の片思いの相手だった里伽子の姿に、拓は高校時代の青春の日々を回想し・・・

 

ポジティブ・サイド

Jovian自身も兵庫県尼崎市から岡山県備前市へ転校した経験がある。都市部から田舎へ引っ越したという点では、東京から高知への引っ越しと大差ない。なので里伽子の感じる疎外感に大いに共感できた。別に土佐弁がどうのこうのではなく、方言というのは、それを解さない人間にとっては gibberish なのだ。しかしコミュニケーションのためには意味を取らねばならない。だから聞き返すわけだが、それが相手の気分を害する。良いとか悪いとかではなく、そういうものなのだ。

 

岡山人「やっちねもねえなあ」

Jovian「やっちねもねえって何?」

岡山人「何をやっちもねえこと言いよんなら?」

 

転校当初はこんなやりとりばかりで、ほとほと滅入った。里伽子に共感する気持ちが伝わっただろうか。

 

少々込み入った恋愛・青春ものであるが、この年頃の男子の性的な思考・志向をはずさず、正面から捉えていることに好感が持てる。ハワイで杜崎が金を無心されるところで、里伽子の私服から見える胸の谷間に目が行ってしまうシーンはその好例だろう。幼女・少女趣味あるいは戦闘美少女とは異なるテイストにもジブリが果敢に挑戦していた頃か。

 

この里伽子というキャラが引き起こす人間関係の不協和音を心地よいと感じる人はいないだろう。しかし、里伽子が引き起こす不協和音が青春の一つの在りようであるということに同意しない人もいないだろう。青春は甘酸っぱさよりもほろ苦さの方が遥かに強いはず。そうした苦みがあるからこそ、劇中で語られるように、高知城をひとり見上げるのではなく、誰かとともに見ることに大きな意味が生まれてくる。

 

Jovianは国際基督教大学に通っていたので、吉祥寺は庭同然だった。新しくなる前の総武線や中央線の電車、吉祥寺駅ホームから見えるTakaQやらLONLON直結出口やらには、とても懐かしい思いを抱いた。

 

金星堂が言及されてニヤリ。Jovianは職務上、多くの大学英語教科書を選定するが、金星堂や成美堂、Cengage Learning にはいくら儲けさせているか分からない。

 

ネガティブ・サイド

土佐弁が変。『 県庁おもてなし課 』でもそうだったが、日本の映画はアニメも実写も、もっと方言を忠実に再現することに力を入れるべきである。『 ハルカの陶 』の岡山弁の再現度がひとつの水準になる。

 

杜崎の心情をそのまま言葉にしてしまうのは野暮だろう。小説ならばそうせざるを得ないかもしれないが、これは映画。特に、東京のホテルで里伽子に呼び出された後、気分を害した杜崎が部屋で不貞寝するシーンでの心の中のセリフをそのまま再現してしまうのは親切なようでいて不親切。ここは怒りと落胆で千々に乱れる心情を表情や仕草で表すべきだった。

 

総評

保護者会が父兄会だったり、職員室で教師がタバコを吸っていたり、心療内科が精神科だったりと時代を感じさせる作品。けれど描かれている青春模様や人間関係は極めて普遍的である。10代で鑑賞して、30代以降に再鑑賞する。あるいは、盆や正月に帰省してきた大学生の子どもと一緒に鑑賞してみるのもありだろう。やや毛色は異なるが、これも一つのジブリ作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

slap

引っぱたくの意。give someone a slap in the face = 平手打ちをお見舞いする、という形でもよく使われる。Jovianが大学生当時、アメリカ人に聞いたジョークでは、

A: What do you do if the dishwasher stops?

B: Slap her. 

というものがあった。ダブルミーニングだが、そこまで難しくはないだろう。決してJovianが sexist だとは受け取らないでほしい。1990年代にはそういうジョークがあった、というのを本作の描写から思い出しただけである。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 1990年代, B Rank, 坂本洋子, 日本, 監督:望月智充, 配給会社:スタジオジブリ, 関俊彦, 青春, 飛田展男Leave a Comment on 『 海がきこえる 』 -転校生と青春の日々-

『 夜は短し歩けよ乙女 』 -Time flies when you’re having fun-

Posted on 2022年8月9日 by cool-jupiter

夜は短し歩けよ乙女 70点
2022年8月8日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:星野源 花澤香菜
監督:湯浅政明

 

『 四畳半神話大系 』同様に、原作が森見登美彦、監督は湯浅政明。青春の儚さと濃さを幻想的に描く異色のアニメである。

あらすじ

「黒髪の乙女」(花澤香菜)に恋する「先輩」大学生の私(星野源)は、可能な限り偶然を装って黒髪の乙女の目に留まろうと努力を重ねる。しかし、乙女は酒や本を求めて夜の木屋町を徘徊する。私はなんとか彼女の目に留まらんと奮励努力するが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 四畳半神話大系 』とも共通するが、京都の町、それもごくごく狭い範囲の空気をよく伝えている。Jovianはその昔、烏丸御池を勤務地としていたので、あのあたりの地理や空気をそれなりに理解していると自負するが、京都出身ではない湯浅政明監督がこれだけ京都(京都府でも京都市でもない、京都人の脳内地図の赤いエリア)をこれだけアニメで再現できるということに脱帽するしかない。

 

一夜の中で繰り広げられる先輩と乙女の経験する奇想天外なイベントの数々が極彩色で描かれる。はっきり言ってアホとしか言えない出来事のオンパレードなのだが、若さとはそもそも愚かさでもある。そして恋は愚かでないとできない。あるいは恋を人は愚かにする。ナカメ作戦(なるべく 彼女の 目に留まる の頭文字を取った作戦)など愚の骨頂であるが、それを我々が笑えるのは、自分がまさにそうだったからに他ならない。この対象と自分との距離感が森見登美彦作品の特徴である。ハマる人はドハマりするのだ。

 

一夜の出来事というのはもちろん若さのメタファーで、その若さをどのように過ごすのかが本作のテーマである。乙女の時計の進みが遅く、その他のキャラ、特に高齢者の時計が恐るべき速さで時を刻むのは、それだけ過ごしている時間の密度の差があることを意味している。高速で動くと時の進みが遅くなるというのは相対性理論だが、乙女は常に動き回っている。そしてそれを追いかける先輩も。あるいは文系もしくは文系上がりならアンリ・ベルクソンの純粋持続を思い出そう。夜は短しと言いながら、濃密な時間がそこにはある。

 

もちろん衒学的な理屈などこねずとも、本作の面白さは十分に堪能できる。火鍋のシーンの意味不明なまでのテンションや、古本市で聞かれる古本の神の長広舌など、理屈抜きで面白いシーンがたくさんある。原作ではそれぞれ独立していたエピソードを上手く一夜にまとめた脚本の勝利でもある。森見ファンはぜひ観よう。湯浅ファンもぜひ観よう。

 

ネガティブ・サイド

原作もそうなのだが、乙女に対するセクハラ描写は必要なのだろうか。

 

ミュージカルのシークエンスが少しダレていたと感じた。また歌唱のレベルもミュージカルのそれではない。もちろん素人が素人劇をやっているのだが、それでももう少しミュージカルであることそれ自体にエンタメ要素を持たせてほしい。

 

後は星野源の声の演技か。上手い下手ではなく、先輩のイメージに合わなかった。ジョニーの声が『 四畳半神話大系 』と同じなら、先輩の声も浅沼晋太郎で良かった。もしくはジョニーの声優を変えるべきだった。

 

総評

『 四畳半神話大系 』と同じく、森見登美彦の恋愛哲学と湯浅政明の世界観が華麗に融合している。『 四畳半タイムマシンブルース 』も湯浅政明に監督してもらいたかったが、異なるテイストで森見作品を料理してほしいという気持ちもある。何はともあれ、自意識過剰なアホ大学生(別に中学生でも高校生でも社会人でもいい)に感情移入できるなら、青春の濃さと儚さを本作を通じて体験してみよう。オッサンにもお勧めしたい。「ああ、俺もこうやったわ」と青春を振り返ってしまうこと請け合いである。

 

Jovian先生のワンポイントラテン語レッスン

Ars longa vita brevis.

正式には Ars longa est, vita brevis est.  be動詞に当たる est が省略されているが、古典ラテン語にはよくあること。元々は Art is long, life is short. = 技術は長く、人生は短い = 技術の習得には長い時間がかかるのに、人生は短いという意味だったが、英語では 美術・芸術は長く、人生は短いと解釈されるようになった。『 ゲティ家の身代金 』を観ると、確かにそうなのかもしれないと思わされる。

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2010年代, B Rank, アニメ, ファンタジー, 日本, 星野源, 監督:湯浅政明, 花澤香菜, 配給会社:東宝映像事業部Leave a Comment on 『 夜は短し歩けよ乙女 』 -Time flies when you’re having fun-

『 トップガン マーヴェリック 』 -IMAX with Laser 鑑賞-

Posted on 2022年8月8日 by cool-jupiter

トップガン マーヴェリック 90点
2022年8月7日 TOHOシネマズ西宮OSにて鑑賞
出演:トム・クルーズ マイルズ・テラー
監督:ジョセフ・コジンスキー

コロナ禍以降、初の実写映画での興行収入100億円超えとのこと。ご祝儀的な意味も込めて、4度目の鑑賞をIMAXレーザーで行うべく隣町へ出向く。

 

あらすじ

マーヴェリック(トム・クルーズ)は、予定されていたダークスターのテスト飛行がキャンセルされると聞いたが、クルーと共にフライトを強行し、マッハ10を達成する。処罰の対象になるかと思われたマーヴェリックだが、盟友であり提督となったアイスマンの取り計らいにより、トップガンにおいて難関ミッションに挑む若きパイロットたちの教官となる。しかし、そこにはかつての相棒グースの息子、ルースター(マイルズ・テラー)も加わっており・・・

ポジティブ・サイド

3度目の鑑賞はMX4Dで、4度目の鑑賞はIMAX with Laser。座席が動いて、本当に飛行機で飛んでいるように感じられる4Dも良いが、IMAXはスクリーン自体の大きさ、映像と音響のクリアさが印象に残った。

 

ウォーロックは見れば見るほど良いキャラ。司令官の片腕的存在で、問題児たるマーヴェリックとも目と目で通じ合う仲。各地を転戦した歴戦の勇者なのだろう。イメージ的には漫画『 沈黙の艦隊 』の山中副長、小説『 銀河英雄伝説 』のジークフリード・キルヒアイスのような組織のナンバー2キャラで、Jovianはこういう渋いキャラが大好きである。

 

本作はとことんオッサン泣かせだ。若い世代に立ちはだかり、若い世代を引っ張り、若い世代に疎まれ、若い世代と和解する。この2年間、Jovianの職場では50代がどんどんと消えていき、20代ばかりがどんどんと増えた。畢竟、自分の職場のオッサン度は相対的に上がっていく。色々と教えたり、教えられたりするが、それでも世代間闘争が生じることはある。そうした時に、オッサン(男に限定しているわけではない、念のため。年長者の意味である)にしか解決できない問題は確かにある。だからといって、若い世代のサポートなしにバリバリと働けるわけではない。老兵とまでは行かないが、確実にオッサン化しつつある自分の心の琴線に触れる物語であることは間違いない。

 

某大学の Academic Reading という授業の指定テキスト『 BBC 英語ものがたり 』の教案や試験を作ったが、その書籍内でアメリカ映画、さらには朝鮮戦争やベトナム戦争に関するニュースが英語を変化させ、さらにはグローバル化させたのが詳細に書かれている。本作の影響により、”Talk to me, 〇〇.” という台詞が『 フォレスト・ガンプ/一期一会 』の “Run, Forrest, run.” のように文化的な意味で口語表現に定着していくのではないかと感じた。それだけの影響力を本国アメリカにも、その他の国にも与えるだけのインパクトが本作にはあると感じる。

ネガティブ・サイド

観るほどに誤訳というか、不適切な訳が目につく。戸田奈津子御大の衰えには目を覆うばかりである。

 

マーヴェリックが空母艦内でチームメンバーを発表する前に言う “It’s been an honor flying with you.” = 一緒に飛べて光栄だ、は「飛べて」の時制が日本語では不明確。「これまでの訓練に感謝する」で良い。

 

また、今生の別れを予感させる出撃直前のマーヴェリックにホンドが言う ”It’s been an honor.” = 名誉に思います、も同様。「素晴らしい日々でした」とか、なにか過去から現在までを包括するような表現が求められる。特に、ホンドは3年前の不祥事による砂漠送りからの仲だったはずで。そうした過去にも思いを馳せられるような訳出がなされるべきだった。

 

総評

TOHOシネマズ西宮OSは、朝の9:00から恐ろしいほどの人出だった。そのうちのかなりの人数が本作の鑑賞に来ていた。それも、高校生同士や20~30代と思しきカップル、オッサン一人だけ、あるいは高齢夫婦など、実に多種多様な客が劇場に詰め掛けていた。もちろん、興収100億突破というニュースそれ自体が大いなる宣伝になっているのだろうが、それ以上に劇場に客を呼ぶ力を本作が持っていることが大きい。そしてその力がオッサン以外にも届いていることが嬉しい。コロナ禍は続いているが、マナーを守った劇場鑑賞で感染対策と経済活動を両立させようではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

learn a thing or two

直訳すれば「一つのこと、または二つのことを学ぶ」だが、実際はそれなりの知識・情報・経験などを学ぶことを意味する。劇中では下限高度の修正を文書で申し出たマーヴェリックに “You could learn a thing or two about timing.” = 「もうちょっとタイミングというものを学びたまえ」のように言っていた。tell someone a thing or two という形で使うこともあるが、この場合は「小言を言う」の意。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, S Rank, アクション, アメリカ, トム・クルーズ, マイルズ・テラー, 監督:ジョセフ・コジンスキー, 配給会社:東和ピクチャーズLeave a Comment on 『 トップガン マーヴェリック 』 -IMAX with Laser 鑑賞-

『 あなたがここにいてほしい 』 -中国映画界の本領発揮-

Posted on 2022年8月3日 by cool-jupiter

あなたがここにいてほしい 80点
2022年7月31日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:チュー・チューシアオ チャン・ジンイー
監督:シャー・モー

コロナを恐れるJovian妻が何故か心斎橋に行きたいと言う。その答えは本作を観るためであった。塚口サンサン劇場で『 クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち 』を観るつもりだったが、急遽こちらのチケットを購入。

 

あらすじ

リュー・チンヤン(チュー・チューシアオ)は、ふとしたきっかけで同じ高校のリン・イーヤオ(チャン・ジンイー)に恋心を抱く。チンヤンは専門学校に、イーヤオは大学に進むが、二人は愛し合い、幸せだった。しかし、大学院生となったイーヤオがチンヤンを母に紹介したが、母はイーヤオを将来成功する器ではないと気に入らず・・・

ポジティブ・サイド

本作は、元々は中国のネットに投稿された『 十年間一緒にいた彼女は、明日他人の嫁に行く 』というストーリーを映画化したものだと言う。これだけ聞けば、ラノベか何かのタイトルだと勘違いしてしまうが、描き出される物語の純粋さ、美しさ、苦しさ、辛さはまさに圧巻である。ネット投稿を元にした作品ということでは、『 猟奇的な彼女 』や『 ソウルメイト 七月と安生 』と並ぶ傑作だろう。

 

まず主演二人が抜群の存在感かつ演技力を見せる。17歳から27歳を全く違和感なく演じて見せる。これが邦画だと『 東京リベンジャーズ 』の北村匠海のように、17歳と27歳が全く一緒に見えたりする。この差は何故?というよりも中国映画界そのものが数多くの駄作の上に一握りの傑作を生み出すという、そうした構造をついに完成させたのか?

 

ともかく、爽やかではあるが、どこか垢抜けない高校生リュー・チンヤンが、職を持ち、兄貴と慕われ、時に怪我を追いながらも、男としてたくましく成長していく姿が分かりやすく描かれる。また、クライマックスの新疆では日焼けしまくりのむさくるしい作業員と何一つ変わらない風貌になっていた。どの年齢においても説得力ある見た目や立ち居振る舞いになっていて、10年という歳月の重みを感じることができた。

 

ヒロインのチャン・ジンイーも同様で、おさげの似合う素朴な女子高生から大学生、大学院生、銀行員と、人生の各段階での表情や話し方の演じ分けが素晴らしかった。特に印象に残ったのはチンヤンに「しばらく養って」と頼む時の表情。高校生の頃は自転車で自分が先に行き、それをチンヤンが追いかける構図がここで逆転する。ある意味で、幼さの抜けきらないチンヤンを男にした。その表情に潜む切なさと期待の眼差しが素晴らしかった。こんな目で見つめられて、真剣になれない男がいようか。どこかハン・ヒョジュを思わせる顔つきで、いつか邦画にも出演してほしい(無理やろなあ・・・)。

 

一途に愛し合う二人に、社会はこれでもかと問題を吹っ掛けてくる。収入、職業、遠距離恋愛、友人関係。特にリュー・チンヤンの親友がダメ男の極みで、こいつのせいでチンヤンとイーヤオの関係が難しくなってしまう。それでもチンヤンは悪友を見捨てられないし、その悪友が何をしたかをイーヤオに告げることもない。男の友情の複雑さを大いに見せつけてくれた。

 

イーヤオの母親が病気で倒れるシーンでは、男性のジレンマ、すなわち「私と仕事、どっちが大事なの?」的なチョイスを迫られるのか、と感じてしまった。会社の不正と現場監督としての倫理と責任の板挟み、そして恋人の母親のピンチ。ここではリアルに胃が痛くなった。また病院に着いたら着いたで「なんだそりゃ」という展開。この病院の階段で無言で並んで座るチンヤンとイーヤオの姿に、人生や社会の不条理が凝縮されていた。愛し合う二人が、普通に仕事をして、普通に生きていくことが何故これほど難しいのか。背景に中国の経済成長や、腐敗を許容する社会構造があるにはあるが、『 ロミオとジュリエット 』の昔からあるように、愛し合う二人に試練はつきものなのか。

 

チンヤンはしばしば「スニーカー」に言及するが、これは彼がイーヤオを好きになったきっかけにスニーカーがあるからだ。この仕掛けは上手いなと感じた。一目惚れは、普通は顔を見た瞬間に起きる。『 ロミオとジュリエット 』然り、『 ウエスト・サイド物語 』然り。しかし、これらはいずれも顔を見てのもの。チンヤンがイーヤオに惚れたのはカーテン越しに隠れるイーヤオのスニーカーを見てだった。このスニーカーが者がタイの随所でアクセントになっているので、これから鑑賞する方は是非そこに注意を払ってほしい。

 

幸せになりたいと願う二人にこれでもかと試練が降り注ぐ。であるがゆえに、観る側はなおのこと二人の幸せの成就を願う。ただ、あまりにも強く深く愛するがゆえに、愛する人を幸せにできないと悟ってしまったチンヤンの決断、それを受け入れるしかなかったイーヤオの心境。このドラマはあまりにも見る者の胸を締め付ける。最後の5分は涙が止まらなかった、というのは大袈裟だが、大粒の涙を何滴か落としたのは本当である。おっさんになって涙もろくなったのは確かだが、それでも本作が観る側の心を強く揺さぶる力を持っていることは疑いようもない。

ネガティブ・サイド

不満を述べさせてもらうなら、以下の一点。

 

チーヤオがダーチャオと対峙したシーン。ダーチャオがチェンチェンへの愛の深さ、その狂おしさを語る場面で、ダーチャオを目で刺すような演出が欲しかった。それによってダーチャオとの友情の大切さと、それ以上にイーヤオを愛してやまないという気持ちをダーチャオに悟らせる。そんなシーンがあれば完璧だったと思う。

総評

原作小説のタイトルは『 十年間一緒にいた彼女は、明日他人の嫁に行く 』。ここだけ見れば低レベルなラノベとしか思えないが、それを珠玉の逸品に仕立て上げてしまう中国映画界に素直に脱帽するしかない。小説や漫画の映像化(≠映画化)に血道を上げるばかりの邦画界の関係者は本作を研究して、ラブストーリーとは何かについて、もう一度よくよく考えられたし。劇場は中高年だらけだったが、若いカップルにこそ観てほしいラブロマンスの大傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

公司

会社の意。読みはゴンスゥ。Jovian妻は中国語学習にハマっていて、しょっちゅう「ウォー・ブー・シー・ファン・ゴンスゥ」(私は会社が好きではありません)などと音読している。中国映画の台詞や背景によく出てくる言葉である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, チャン・ジンイー, チュー・チューシアオ, ラブロマンス, 中国, 監督:シャー・モー, 配給会社:リスキットLeave a Comment on 『 あなたがここにいてほしい 』 -中国映画界の本領発揮-

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