DUNE デューン 砂の惑星 50点
2021年10月15日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ティモシー・シャラメ レベッカ・ファーガソン オスカー・アイザック
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
『 デューン / 砂の惑星 』の現代リメイク、いやリブートと言うべきか。事前情報をとことん断って劇場に向かったが、これは前編であった。良い意味でも悪い意味でもドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の美意識が炸裂した作品。続編=完結編はおそらく製作されると思うが、やはり元々映画化に不向きな作品なのかもしれない。
あらすじ
スパイスが産出される砂の惑星アラキス。宇宙皇帝の命によって、そのと統治権が大領ハルコネン家から同じく大領アトレイデス家に移ることになった。レト公爵(オスカー・アイザック)は妻ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)、息子ポール(ティモシー・シャラメ)らと共に兵団を率いてアラキスへと赴くが、それは宇宙皇帝およびハルコネン家による大いなる陰謀の始まりで・・・
ポジティブ・サイド
紛れもなく古典小説『 デューン 』の映像化になっている。荒涼とした砂漠に潜むゲリラ的な民族。皇帝から派遣された統治者。その統治者の交代。それに伴う様々な陰謀。これはまさしくローマによるイスラエル統治と、その後の政治的擾乱をモチーフにしている。そこに『 アバター 』ならぬ『 ポカホンタス 』の要素を混ぜ込んだ、壮大な叙事詩である。
映像の雄大さと美麗さにおいて素晴らしい。特に砂漠とそこに住まう民というイメージは間違いなく『 スター・ウォーズ 』に影響を与えているし、『 モンスターハンター 』のディアブロスは巨大なサンドワームにインスパイアされたものだとしか考えられない。古典SF小説家の想像力を見事に映像に翻訳したと言えるだろう。
砂漠のサンドワームが1984年の『 デューン / 砂の惑星 』よりも大迫力で再現されていて、それだけでも満足。加えてハルコネン家によるアトレイデス家への襲撃も1984年版とは比較にならない規模で展開される。CGの乱用にはJovianは常に懐疑的であるが、これぐらい派手にやるのなら、CGもありだろう。
ティモシー・シャラメ演じるポールは正に悲劇のプリンス。元々貴族的なルックスのシャラメなので、今作のような役は大いにハマる。英才教育を受けた悲劇の王子にして、野望を秘めた瞳に宿る芯の強さは他の役者には出せないと思わせるだけの迫力と説得力がある。できれば次作で完結と言わず、小説世界以上に宇宙帝国の転覆および新たな宇宙秩序構築の物語にまで発展させていってほしい。
ネガティブ・サイド
これは小説の映像化なのか、それとも映画化なのか。映像化であれば満点だが、映画化としては疑問が残る。一つにはスパイスの存在意義。1960年代であれば恒星間宇宙旅行は、それこそ超高速プラス超長時間の旅だった。だからこそスパイスの存在意義があった。しかし、SF作品においてワープが当たり前になった現代では、スパイスに新たな意味付けが必要である。そこを避けてしまったのは頂けない。
アトレイデスやハルコネンについても、予備知識があるならまだしも、まっさらで鑑賞する人には厳しいだろう。実際、Jovian嫁は「最初から最後まで意味わからん」という感想を述べた。今にして思えば、デビッド・リンチ版の冒頭のナレーションは非常に親切なものであったと再評価できる。
全体的に長い。『 デューン / 砂の惑星 』のレビューで、ポールの成長過程および妹の誕生過程を丹念に描いてしまうと、3時間になってしまうと指摘した。が、本作は2時間35分でポールがやっとフレメンたちに受け入れらるところまでしか進んでいない。はっきり言って遅すぎる。サンドワームを乗りこなして、アラキスを掌握。フレメンの協力を得て、一気にハルコネンを駆逐し、銀河皇帝に戦いを挑む・・・という展開2時間30分~3時間にまとめるなら分かる。だが、物語のほとんどが儀礼と政治的な駆け引きで、アクションと呼べるシーンはハルコネン家の急襲とポールの決闘ぐらい。これでカジュアルな映画ファンに続編を期待してもらおうというのは虫が良すぎる。多分、ライトな鑑賞者は結構な割合で寝てしまったものと思われる。
ポールの見る予知夢がしばしば挿入されるが、これが前編の終わりの引きにつながっていない。謎ばかりが深まる中、最後の最後にゼンデイヤとポールがサンドワームに騎乗し、大軍勢を率いているビジョンがあれば、後編のスペクタクルに否が応にも期待が高まるはずなのだが。
総評
映像を鑑賞することはできても、映画として楽しむのはなかなかキツイ作品になってしまった。後編の製作が決まっている、もう撮影もされているというのであれば、期待もできる。けれど、そうではないらしい。世界的にコケないことを祈る。ヴィルヌーヴは思弁的なSFは監督できても、アクション巨編はもう困難なのかもしれない。同じSF古典の『 火星のプリンセス 』を思いっきりエンタメ路線に染め上げた『 ジョン・カーター 』のアンドリュー・スタントン監督にメガホンを取ってほしいとさえ思ってしまう。そんな出来栄えである。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
unquenchable
quench = 水を飲んで渇きを癒やす、(炎などを水で)消す、の意。否定の接頭辞 un と可能の接尾辞 able がつくことで「癒やせない」、「消すことができない」の意味になる。しばしば unquenchable thirst や unquenchable desire, unquenchable passionのように使われる。『 ロッキー4 炎の友情 』の ”Burning Heart” でも
In the burning heart
Just about to burst
There’s a quest for answers
An unquenchable thirst
というサビの一節の印象が強烈だ。