ブラインド 75点
2019年9月25日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:キム・ハヌル
監督:アン・サンフン
『 見えない目撃者 』は文句なしに逸品であった。リメイクとは原作が面白いから作られるわけで、ならば本作の面白さは観る前から保証されていたとも言える。事実、日本版とはかなり異なるが、どちらも面白さを保っている。
あらすじ
警察学校を卒業したミン・スア(キム・ハヌル)は、孤児院で育った弟的存在のドンチョルを交通事故で死なせてしまい、自身も失明してしまう。それから3年。ある時、乗り込んだタクシーが人身事故を起こしてしまうのに遭遇。だが運転手は犬をはねたと言うばかり。追及するスアを置いて、運転手は逃走する。スアは警察に事件を報告するも、警察はなかなかまともに取り合わず・・・
ポジティブ・サイド
日本版とは異なり、こちらは最初から犯人が分かっている。それによって生み出されるスリルとサスペンスも上質である。狂信者ではなくサイコパス。殺すことに外在的な理由は不要。そして暴力性も日本版の犯人よりも上。怖さもこちらが上である。一般論だが、バイオレンスにおいては韓国映画は邦画の上を行っている。
また主役のスアの描写も素晴らしい。聴覚だけではなく嗅覚や触覚もフルに使って周囲の情報を手に入れ、分析し、自分のものにする。その説明的な描写が説明的でありすぎず、かといって些細でもありすぎず、ちょうど良い塩梅である。そして触覚。盲導犬のスルギとの触れ合いがふんだんに描写され、彼女の第一のパートナーはスルギであるということがよくよく伝わってくる。日本版では母親と一緒に暮らしているなつめが、母親よりもパムを気にかけてしまうところに少し違和感を覚えてしまったが、オリジナルはそこのところをよく分かっている。
クライマックスの暗闇の中での逃走劇と反撃も素晴らしい。目が見えないというハンディキャップをアドバンテージに変えてしまった秀作に『 ドント・ブリーズ 』があるが、スアの嗅覚が冴え渡るシーンに息を飲みつつもニヤリ。日本版も生姜焼きを当てるくらいなら、なつめの五感を活かした演出をもっと設けるべきだった。最後の対決の舞台が孤児院であることに意味があるという点では、オリジナルの勝ち。スアが犯人を倒すシークエンスのサスペンスは日本版の勝ちか。全体的には甲乙つけがたい出来である。
ネガティブ・サイド
目撃者の少年ギソブが犯人に狙われ、襲われてしまったところから捜査とスアの警護に加わる流れがやや説得力に欠ける。未成年の少年の無鉄砲さと、警察官に対してうっすらと抱いていた信頼と正義への期待、そういったものがあまり見せられないままに、ギソブが巻き込まれていく描写が弱い。ギソブの友達の存在はむしろ不要で、一人さびしい少年の設定の方がよかった。
犯人の設定にも少し不満が残る。産婦人科医で堕胎手術の専門家ということだが、普通の外科医で良かったのでは?またこの犯人がギソブを殺さずにおく理由も見当たらない。刑事を刺した後には余裕綽々デ身だしなみをチェックしていたのに、ギソブに関してはそうはならなかった。これはご都合主義だろう。また言及する順番が前後したが、刑事の死に様にも不満が残る。この点では日本版リメイクの圧勝である。
総評
『 見えない目撃者 』のクオリティの高さから、本作にも再び注目が集まるだろう。どちらにも良さがあり、どちらにも弱点があるが、それは個人の好みによってポジティブにもネガティブにもなりうる。韓流映画のバイオレンスが苦手だという人を除けば、本作はカジュアルな映画ファンにもハードコアな映画ファンにもお勧めできる逸品である。
Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン
アラッソ
色々と韓流を見ていると、同じフレーズが同じような場面で使われていることに気づく。それがこの「アラッソ」である。意味は「分かった」である。外国語学習をしていて、自分は初級の殻を破りつつある、あるいは破ったと言える人は、まず辞書を脇に置くべし。そして、読む、あるいは聞くことに集中して、何度も何度も現れてくる表現の意味を文脈から類推しよう。Jovianの指導経験から、すぐに辞書を引く人は伸びない、ということが言える。