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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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『 四畳半神話大系(DVD) 』 -原作小説の秀逸な分解・再構成-

Posted on 2022年7月9日 by cool-jupiter

四畳半神話大系 80点

2022年7月4日~7月5日に視聴

出演:浅沼晋太郎 坂本真綾 吉野裕行

監督:湯浅政明

 

本業の大学関連業務で忙殺されているので簡易レビューを。


あらすじ

薔薇色のキャンパスライフを夢見る「私」(浅沼晋太郎)は、大学の様々なサークルから勧誘を受ける。だが、どのサークルに所属しても小津(吉野裕行)という悪友に出会い、黒髪の乙女との交際は遠のいてしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

原作小説のテンポの良さはそのままに、浅沼晋太郎が「私」に見事に生命を吹き込んでいる。坂本真綾も、どこか冷笑的だが人間味のある明石さん役を好演。悪童・小津を演じた吉野裕行の愛の込められただみ声も印象深い。

 

小説中の様々なエピソードを見事に膨らませ、様々なサークルに所属しながら無為で無意義な大学生活を繰り返してしまうという原作ストーリーの根幹部分をうまく補強している。

 

オープニングの下鴨幽水荘のループ的な映像演出が素晴らしい出来映えで、各話の冒頭からエンディングまでの流れが一種の様式美にまで昇華している。各キャラクターの動きを最小限に抑えていることが、逆に小説の静的なイメージとも共通していて良い感じ。

 

最終11話の出来が特に秀逸。確かに英訳が The Tatami Galaxy になるのもうなずける。

 

小津の「藪用」が野暮用になっていた。Nice correction.

 

ネガティブ・サイド

天の采配はそのままだった・・・

 

総評

小説『 四畳半神話大系 』のアニメ化で、『 犬王 』の湯浅政明が監督。『 四畳半タイムマシンブルース 』の予習にと再鑑賞したが、全4章の原作を11エピソードのアニメに巧みに分解・再構成している。一つひとつはぶつ切りかつ独自のエピソードだが、順番通りに見ることが大きな意味を持つようになっている。小説を読んだ人は、ぜひ映像でも楽しもうではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

maze

「迷宮」の意。『 キラー・メイズ 』でもメイズという言葉が使われているように、入り組んだ構造のことを指す。対照的に、labyrinth = ラビリンスは『 迷宮物語 』のラビリンス*ラビリントスのように、入る(そして出る)箇所が一つに絞られるような迷路を指す。もう一つよく言われるのは、メイズもラビリンスも迷路だが、屋根がないものがメイズ、屋根があればラビリンスだというもの。昔、同僚ネイティブに maze と labyrinth の違いを尋ねたが、彼は呻吟するばかりであった。その後、「癇に障る」と「癪に障る」の違いは何だ?「桁外れ」と「桁違い」の違いは何だ?と反撃された。英語マニアだけが知っていればいい違いと言えるだろう。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, A Rank, アニメ, ファンタジー, 吉野裕行, 坂本真綾, 日本, 浅沼晋太郎, 監督:湯浅政明, 青春Leave a Comment on 『 四畳半神話大系(DVD) 』 -原作小説の秀逸な分解・再構成-

『 ベイビー・ブローカー 』 -家族像を模索する-

Posted on 2022年6月30日 by cool-jupiter

ベイビー・ブローカー 80点
2022年6月26日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ソン・ガンホ カン・ドンウォン イ・ジウン ペ・ドゥナ イ・ジュヨン
監督:是枝裕和

 

是枝裕和監督が単身韓国に向かい、韓国人スタッフと作り上げた異色のロードムービー。家族とは何なのかを模索する是枝色が色濃く出た逸品。

あらすじ

サンヒョン(ソン・ガンホ)とドンス(カン・ドンウォン)教会のベイビーボックスに預けられた赤ん坊を養子として売るブローカー業に従事していた。ソヨン(イ・ジウン)は自分の預けた赤ん坊がいないと知り、警察に通報しようとする。サンヒョンとドンスは赤ん坊を高く買ってくれる里親を探しに行くのだと白状する。ソヨンもその旅に同行することになるが、そこには人身売買を捜査する刑事スジン(ペ・ドゥナ)らも迫っており・・・

ポジティブ・サイド

日本は昭和半ばの年間中絶数100万から順調(?)に減らして、令和の今は年間10~20万件。韓国は今は5万件を切っているようで、人口比で考えれば日本とどっこいどっこいのようである。では、中絶できず、望まれないままに生まれてしまった命はどうなるのか。赤ちゃんポスト、ベイビーボックス。どう呼んでも、その本質は同じ。育てられないにもかかわらず、産み落とされた赤ちゃんを託す場所、あるいは制度だ。このベイビーボックスを巧みに利用して裏の養子縁組仲介業を営む者たちの人間ドラマが本作の見どころである。

 

まずソン・ガンホの控えめにして重厚な存在感が素晴らしい。『 パラサイト 半地下の家族 』でも市井の人を演じたが、ソン・ガンホのどこにでもいそうな韓国のおっちゃん的な顔には安心感がある。同時に、平々凡々な顔であるからこそ、シリアスになった時のギャップに驚かされる。基本的にはクリーニング屋のオヤジなのだが、そこかしこで見せるおかしみや優しさ、その逆の悲哀や怒りが、観ている我々に痛切に伝わってくる。ダンディな中年俳優ではこうはいかない。試しに西島秀俊や竹野内豊が本作でベイビー・ブローカーをやっているところを想像してみてほしい。まったく似合わない、むしろそうした絵が浮かんでこないだろう、

 

対するペ・ドゥナによる刑事も非常に人間味に溢れている。それは慈愛や思いやりを前面に押し出しているというわけではない。詳述は避けるが、彼女の夫が張り込み中の妻に差し入れを持ってくるシーンには唸らされた。一筋縄ではいかないキャラで、夫婦関係のあれやこれやを否応なく想像させられる。その想像を下敷きに、彼女の目線でサンヒョンやドンス、ソヨンの里親探しの旅を見つめると、子を持つこと、あるいは親になることについて深く考えさせられるだろう。

 

彼女の仕掛けるおとり捜査を、ドンスが機転を利かせて回避する演出もいい。海千山千のしたたかなブローカーで、彼自身の出自、そしてそれまでの人生経験をどんな言葉よりも雄弁に語っていた。彼の手練れたブローカーっぷりと腕っぷしの強さが相棒サンヒョンと奇妙な凸凹コンビになっており、物語に上手く起伏をもたらしていた。

 

旅路の中で出会っていく里親候補たちと、彼らとの物別れを超えて形成されていくサンヒョンらの疑似家族的な関係の行きつく先は、決して温かいものでも優しいものでもない。しかし、人は人を救うことができるという確信が得られることは間違いない。『 ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 』が強く示唆した子どもの行方不明事件とは別の角度から韓国社会の居間に迫った秀作。それでいて『 デイアンドナイト 』で描かれたような、人間の表の顔と裏の顔をシリアスかつコメディ色も交えて描いている。新しい家族観を呈示しているという意味で、『 万引き家族 』や『 朝が来る 』に並ぶ傑作である。

ネガティブ・サイド

序盤でヤクザ者が血まみれのシャツをクリーニングするように言ってくるシーンでは、もう少しサンヒョンに蘊蓄を語らせても良かったのではないかと思う。そうすることでサンヒョンは血抜きに通じている=流血沙汰に巻き込まれる顧客がいる=裏社会とつながりがある、ということを示唆できた。その方が終盤の展開に説得力を与えられたはず。また『 ただ悪より救いたまえ 』が真正面から描いた小児の人身売買の闇の部分を強調できただろうと思うのである。

 

総評

日韓の才能が見事に融合した作品。隣国は、社会のダークな面を描くのが本当にうまいと思う。そのことが、社会の理不尽に抗う個の強かさを描くことに定評のある是枝の強みと結びついたのだろう。最近、トランプ前アメリカ大統領の置き土産のせいで、アメリカでは人工妊娠中絶の実施が難しくなった。アメリカでも本作のような物語がこれから生み出されていくのだろうか。そのようなことを予感させてくれる、社会派映画の良作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

complainer

クレーマーの意。日本語で言うところのクレーマーをそのままアルファベットにすると claimer となるが、この表現はあまり使われることはない。complainer というのは実際によく使うので、こちらは脳にインプットしておきたい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, イ・ジウン, イ・ジュヨン, カン・ドンウォン, ソン・ガンホ, ヒューマンドラマ, ペ・ドゥナ, 監督:是枝裕和, 配給会社:ギャガ, 韓国Leave a Comment on 『 ベイビー・ブローカー 』 -家族像を模索する-

『 犬王 』 -異色の時代劇ミュージカル-

Posted on 2022年6月26日2022年6月26日 by cool-jupiter

犬王 80点
2022年6月24日 梅田ブルク7にて鑑賞
出演:アヴちゃん 森山未來
監督:湯浅政明

 

会社の同僚が激しく心揺さぶられたと評した作品。振休を使って、梅田ブルク7に向かう。平日の昼間で公開から3週間経過しているにも関わらず、半分近くの入りで驚いた。

あらすじ

南北朝の統一前夜、奇形児として生まれた犬王(アヴちゃん)は、独自に猿楽を学ぶ。ある日、犬王は草なぎの剣の呪いによって盲目となってしまった琵琶法師の少年・友魚(森山未來)と出会う。犬王の異形の姿が見えない友魚は、すぐに犬王と意気投合。二人は独自の楽曲と舞踊で、たちまち都の話題を呼び・・・

 

ポジティブ・サイド

三種の神器によって呪われてしまった友魚と、とある人物からの呪いをその身に受けて異形の身体に生まれてしまった犬王。社会や家族から cast out された二人が織りなす楽曲の斬新さが目を引く。鎌倉時代には絶対にありえない演出がふんだんに施されていて、二人のライブが類まれなるスペクタクルになっている。猿楽を現代のロック調に再解釈し、歌詞は当時のものさながらに、新たなエモーションを乗せることに成功している。また光による演出も映画館で鑑賞するにふさわしく、eye-candy である。個人的にはクジラの歌と演出が最も心に残っている。

 

同時に、二人の楽曲が平家の亡霊の鎮魂歌になっているという設定がユニーク。忘れがちであるが、平安以降の日本はほとんど常に乱世で、それだけ人の死が身近にあった時代。なおかつ、娯楽もなく、さりとて一般庶民が文字として記録されたり、あるいは何かを記録する時代でもない。そこから『 図書館戦争 』や『 罪の声 』の脚本を務めた野木亜紀子の主張が垣間見える。いつの世であっても、最も救済が求められるのは名もなき無辜の民や、歴史の闇に葬り去られる運命の敗者たちなのである。

 

パフォーマンスが成功するたびに犬王の異形の身体が少しずつ普通になっていく。また友魚も名を友有と変え、自分の一座を持つ。時の将軍、足利義満の御前での仮面なしのパフォーマンスも成功に導き、順風満帆な二人だったが、好事魔多し。その将軍の意向により、二人は窮地に追いやられてしまう。この展開の辛さよ。虐げられてきた自分たちのパフォーマンスが虐げられてきた者たちを救ってきたにもかかわらず、為政者は事故の権力の正当化に汲々とするばかり。600年前も今も、権力者と庶民の関係は変わらないのか。

 

ちょうど大河ドラマで源氏が平氏を滅ぼし、鎌倉政権内のゴタゴタに焦点が移っているところである。これが上手い具合に劇中の平家の滅亡と南北朝統一を推進する足利幕府内部のゴタゴタとシンクロしている。同時に、多様性や包摂を謳いながらも、それが出来ない現代日本社会、さらに政権にとって都合の良い歴史の主張など、時代劇でありながら現代風刺になっている。アニメとしてもミュージカルとしても、近年では出色かつ異色の出来の邦画である。多くの人に鑑賞いただきたいと思う。

 

ネガティブ・サイド

犬王に関しては想像力を自由に働かせる余地があるものの、ストーリーにオリジナル要素が足りなかった。手塚治虫の漫画『 火の鳥 太陽編 』にそっくりだと感じた。

 

明らかに『 ボヘミアン・ラプソディ 』にインスパイア・・・というかパクったシーンが終盤にある。いや、中盤にもあるのだが、そこはオマージュと受け取れた。が、最終盤のステージ入りのシーンはオマージュとは言えないような気がする(楽曲の方も厳密にはアウトかもしれない)。

総評

Jovianは洋画のサントラは結構たくさん持っているが、邦画は久石譲以外持っていなかったりする(ミーハーの誹りは甘んじて受ける)。そんなJovianが「これはサントラを買わねば!」と強く感じたのが本作である。虐げられ歴史に抹殺された者たちが、時を超えて訴えかけてくるメッセージには確かに心揺さぶられずにはおれない。

そうそう、予告編で『 四畳半タイムマシンブルース 』が9月に公開されると知り、非常に興奮した。めちゃくちゃ楽しみである。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Once upon a time

「今は昔」の意。スター・ウォーズの始まりもこれである。他にも『 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 』など、割と使用頻度は高いように思う。B’zも『 once upon a time in 横浜 〜B’z LIVE GYM’99 “Brotherhood”〜 』 というDVDを昔、出していた。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, アヴちゃん, ファンタジー, ミュージカル, 日本, 森山未來, 歴史, 監督:湯浅政明, 配給会社:アスミック・エース, 配給会社:アニプレックスLeave a Comment on 『 犬王 』 -異色の時代劇ミュージカル-

『 i 』 -この世界にアイは存在するのか-

Posted on 2022年6月19日2022年6月19日 by cool-jupiter

i 80点
2022年6月13日~6月15日にかけて読了
著者:西加奈子
発行元:ポプラ社

最近、大学の授業への移動時間が長くなってきており、コロナ前に積ん読状態だったこちらの小説を pick up した。

 

あらすじ

シリア難民ながらアメリカ人と日本人の夫婦に養子として引き取られたワイルド曽田アイは、ある日、数学教師が虚数を指して言った「この世界にアイは存在しません。」という言葉が胸に深く刻み込まれた。アイは世界に数多く存在する悲劇をよそに、自分は幸せになっていいのかという疑問に憑りつかれ・・・

 

ポジティブ・サイド

Jovianにとっては『 炎上する君 』に続いて二冊目の西加奈子作品。いやはや、何とも圧倒された。『 マイスモールランド 』のサーリャのビジュアルを主人公のアイに当てはめながら読んだ。シリア(それが別にアフガニスタンでもチベットでもレバノンでもいい)という戦乱の国から、日本という世界有数の安全な国で、生きづらさを覚えるアイの心情が細やかに描写される。幸福や満足は個々人によって異なるが、そのことをあらためて知らされる。

 

本書はアイがまだほんの幼い子供の頃から、成熟した一人の女性に育つまでを丹念に綴っていく。その過程で、アイが日本においていかに異邦人であるか、あるいは異邦人として扱われるかの描写が際立つ。日本という安全安心な国、アメリカ人の父と日本人の母の裕福な家で暮らしながら、アイは常に疎外感を感じている。何から?自分そのものだ。養子として引き取られたアイは常に「なぜ選ばれたのは、他の誰でもない自分だったのか?」という問いに答えられずにいる。

 

アイは常に日本社会においては異邦人である。そんなアイにも親友のミナができる。二人の高校生活は瑞々しい青春物語でありながら、一掬のよそよそしさがある。その秘密は中盤に明かされるが、それも現代風といえば現代風だ。二人の友情の清々しさと、その奥に隠れるアイとミナの懊悩のコントラストが読む側をグイグイと引き込んでいく。特に、世界で起きる事件や事故の死者の数をノートに記入していくというアイの姿には、名状できない気持ちにさせられる。生きている理由が見当たらないことが、人が死んでいくことに理由を求めてしまう気持ちに、そもそも読む側は共感できない。共感できないからこそ、アイの内面をどんどん想像させられる。この作者、なかなかの手練れである。

 

数学の美しさに魅入られ、それに没頭する一方で(あるいは没頭するあまりに)どんどん肥満になっていくアイの姿は衝撃的だ。一種のセルフネグレクトだろう。数学という沼にどっぷりとハマることで、存在しないと思い込んできた虚数 i が存在することを知る。大学院に進み、さらには写真家ユウと運命的な出会いを果たす。生きる理由、ファミリー・ツリーの構築を発見したアイだが、ここで二重の悲劇がアイを襲う。読者はここに至るまでに嫌と言うほどアイの内面を想像させられ、感情移入させられているので、ここでアイの身に起きる悲劇には(たとえ男性であっても)我が身が引き裂かれるような思いを味わわされる。

 

アイとミナ、二人の数奇な友情がたどり着く先は『 Daughters(ドーターズ) 』のそれを想起させる。何の理由も意味も与えられず、我々は知らぬ間にこの世界に放り出されて生きているが、よくよく考えればこれはすごいことである。そんな世界で生きる理由を追求するアイの物語は、又吉の言葉を借りるまでもなく、どんな時代であっても読まれるべき意味を持っている。

 

ネガティブ・サイド

序中盤のアイの生活と内面の苦しみのギャップが、ミナ以外のキャラクターにあまり伝わっていないことが惜しい。父のダニエルなどは『 ルース・エドガー 』のルースの父のように、アイ自身の抱える心の闇に気付いている、それでも寄り添っていこうとする父親像を描出する方が、逆説的だが、アイの懊悩がもっと強く読む側に刻み込まれたのではないだろうか。

 

ラストがまんま『 新世紀エヴァンゲリオン 』である。ここでのアイの悟りにもっと独自性が欲しかった。

 

総評

ロシアによるウクライナ侵攻が今も現在進行形で続いていることに誰もが心を痛めているが、アイならばこの戦争、そしてこの戦争による死者や難民をどう見るだろうか。そうした想像力を喚起させる力が本作にはある。帯の中央に静かに、しかし確実に佇立する i に、アイというキャラを見る人もいれば、I = 私を見出す人もいるだろうし、もちろん i = 愛を見る人もいるに違いない。他にも「相」や「合」、「哀」など、読むほど i の意味が深まってくる。自分が自分であることを恥じる必要も悔やむ必要も恐れる必要もない。そう悟るのは簡単ではない。神学者パウル・ティリッヒの『 生きる勇気 』を読んだ大学生の時以上に、生きる(それはティリッヒ流に言えば「存在する」こと)ことに勇気をもらうことができる作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

adoption

「養子縁組」の意。元々は「選択」や「採択」の意味で、子どもを選ぶ文脈では養子縁組という意味になる。時々 adapt と adopt を混同する人がいるが、option = オプション = 選ぶこと、adapt → adapter = ACアダプター = 電源からの電気を機器に合わせて調節するもの、と日本語を絡めて理解すべし。 

 

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2010年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 発行元:ポプラ社, 著者:西加奈子『 i 』 -この世界にアイは存在するのか- への1件のコメント

『 マイスモールランド 』 -未来に光を灯せるか-

Posted on 2022年5月9日 by cool-jupiter

マイスモールランド 85点
2022年5月7日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:嵐莉菜 奥平大兼
監督:川和田恵真

これはまた凄い作品が送り出されてきた。個人的には『 存在のない子供たち 』に近い衝撃を受けた。年間ベスト候補の一つである。

 

あらすじ

難民として日本にやってきたクルド人家族たち。幼い頃から日本で暮らしてきた高校生のサーリャ(嵐莉菜)はアルバイト先で聡太(奥平大兼)と出会い、親しくなっていく。しかし一家の難民申請は却下され、サーリャたちは在留資格を喪失してしまう・・・

ポジティブ・サイド

クルド人と聞いてピンとくる人はどれくらいいるだろうか。Jovianもせいぜい第二次湾岸戦争時のアメリカがイラク攻撃の口実として「イラクは過去にクルド人を虐殺するために化学兵器を使った、だから今も大量破壊兵器を持っているはずだ」という無茶苦茶な論理を振りかざしていた時に初めて耳にした。少し調べてみると、まさに現在のウクライナと似通っていて、ある土地に住まう民族は何も変わっていないのに、周辺国の論理で国境線が書き換えられ、その結果、根無し草になってしまった。つまりは、パレスチナ人と同じくディアスポラなのだ。その意味で移民・難民とは無縁だった日本人には『 テルアビブ・オン・ファイア 』のようなブラック・コメディはウケなかったが、今後はもう違う。ロヒンギャやウクライナの現実を目の当たりにして、無知・無関心ではいられないだろう。

 

Jovianは語学教育業界に10年いるが、たまにネイティブ非常勤講師が警察のお世話になる。事件や事故を起こしたとかではなく、たまたま職質された時に在留カードを不携帯だった、あるいは財布やカバンと一緒に在留カードを紛失したので、警察に遺失物届を出しに行ったら、何故かそのまま拘留された、などのトラブルが年に1~2回程度の頻度で起こる。その度に会社の講師人事担当者は上を下への大騒ぎとなる。大阪や京都在住のアメリカ人やカナダ人といった白人でもこうなのだ。非白人、非欧米人が日本でどういう扱いを受けるかは推して知るべしだろう。

 

クルド式の結婚式に戸惑いながらも、日本の学校、日本のアルバイト先、日本の地域に溶け込んでいるサーリャとその家族は、無情にも難民認定申請が却下される。それによって就労禁止になったり、埼玉県外への移動が原則不可となる。入管は入管としての仕事をしているだけなのだろうが、ここで考えざるを得ないのは日本人が移民・難民にならざるを得なくなった時のこと。外国で日本人が同じ対応をされても、これでは文句を言えないと思う。ウクライナ戦争が泥沼化、台湾情勢も緊迫とは言わないまでも楽観視できない。そして先軍政治に邁進する北朝鮮と、日本の平和と安全もいつまで保てるやら。肝心なのは「やられる前にやる」の精神ではなく、そうしたことをさせない外交努力、そして万一戦禍を被ったとしても助けてくれる友邦を持つことだ。

 

閑話休題。働くな、県外に出るなと言われても、生活があるのだからそうは行かない。サーリャも自身の夢を叶えるために、大学進学のために、バイト代を貯めねばならない。そこで出会う同世代の聡太との出会いが、何ともドラマチックさに欠けるボーイ・ミーツ・ガールだ。しかし、ドラマチックであるということは非現実的でもあるということ。本当に何気ない言葉の掛け合いから始まるサーリャと聡太の関係にこそ迫真性がある。超えてはならない荒川をしばしば超える二人は、織姫と彦星のようではないか。サーリャから聡太に贈る「こんにちは」と「さようなら」のスキンシップは、この上なくロマンチックで、しかしこの上なく物悲しくもある。

 

押し付けられていると感じるクルドの宗教、文化、風俗習慣、さらに父親から「聡太にはもう会うな」と言われてしまうサーリャの心情はいかばかりか。一方で、その父が逮捕拘留されるという悲劇。クルドに帰属感を得られず、日本にも帰属できず。これは本当につらい。引き裂かれるような気持ちで観た。しかし、父の秘めたる愛情、そして聡太の不器用な想いに何とか救われたような気持になる。ラストシーンをどう解釈するかは我々次第である。日本というのは国籍と民族がほとんどの場合一致する世界的に珍しい国である。しかし、日本に住んでいることと日本人であることが一致しなくなりつつある現在、日本は排外的になるのか、それとも包摂的になるのか。それを決めるのは我々である。

 

ネガティブ・サイド

平泉成演じる弁護士が無能すぎる。これも国選弁護人か?とんでもない田舎でもない限り、在留外国人をサポートする非営利・非政府系の団体は結構ある。そういうところと連携しなさいよ。そうした団体が実際に力になるかどうかは別にして、サーリャ一家の危機を全てこの弁護士に任せっきりにしてしまう物語は少しリアリティに欠けると感じた。綿密な取材の上、支援団体は当てにならないと判断したのかもしれないが、希望の光を少しは見せてくれないと、ラストのサーリャの祈りの言葉の解釈が難しくなる。

 

総評

派手なBGMや、奇をてらったカメラワークを一切排除した、セミ・ドキュメンタリー風の作品である。観る人を選ぶかもしれないが、中学生、高校生、大学生にこそ観てほしいと心から思う。同時に、その親世代にも観てほしい。新時代の日本がどうあるべきかを示唆する2022年の最重要作品の一つである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

take refuge

避難する、の意。危険や危機から逃れるための行動を指す。take refuge from Ukraine to Poland のように使う。似たような表現に take shelter があるが、これは核爆発があったら核シェルターに逃げ込む、のような安全な場所そのものへ逃げ込むことを指す。

 

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Posted in 国内, 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 奥平大兼, 嵐莉菜, 日本, 監督:川和田恵真, 配給会社:バンダイナムコアーツLeave a Comment on 『 マイスモールランド 』 -未来に光を灯せるか-

『 死刑にいたる病 』 -サイコ・サスペンスの秀作-

Posted on 2022年5月7日2022年12月31日 by cool-jupiter

死刑にいたる病 80点
2022年5月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:阿部サダヲ 岡田健史 宮崎優
監督:白石和彌

大袈裟な言い方をすると『 羊たちの沈黙 』や『 殺人の追憶 』に近い衝撃を受けた。邦画もアメリカ映画や韓国映画に負けないダークな世界を追求できるのだと証明した逸品だと言える。

 

あらすじ

大学生の雅也(岡田健史)は、24人を殺したとされる榛村(阿部サダヲ)から1通の手紙を受け取る。雅也は中学生の頃、榛村の営むパン屋の常連客だった。死刑判決を受けた榛村だったが、起訴された9件のうち、最後の9件目だけは自分の犯行ではないと言う。雅也は独自に事件の調査を始めるが・・・

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

これは原作小説の勝利なのだが、まず設定が素晴らしい。24人を殺したとされるが、そのうちの1件は自分ではないと訴える死刑囚。これだけで興味を惹き起こされずにはいられない。また、演じる阿部サダヲが素晴らしい。人好きのする好青年から無表情に人を痛めつける殺人鬼、そしてカリスマ性すら感じさせるサイコパスを具体化している。『 彼女がその名を知らない鳥たち 』から更にレベルアップしたと感じる。瞬きしないのは役者の基本だが、その絶妙に黒目がちになるうっすらとした目の開け方が底知れない不気味さを更に引き立てる。サイコパスの演技の到達点だと言っていいかもしれない。日本のハンニバル・レクターとは褒めすぎかもしれないが、それほどの凄みを感じた。

 

対する岡田健史は『 弥生、三月 君を愛した30年 』や『 望み 』での、どこか弱々しい息子役という印象しかなかったが、本作で一皮むけたと言える。いや、弱々しい息子という点では本作でも同じなのだが、まるで『 殺人の追憶 』のソ刑事のように、序盤と終盤で別人であるかのように変貌する。元々の家族関係の悪さから内に相当なフラストレーションが堆積していたのが、調査を進めていく中でとある可能性に遭遇することで、一気に爆発する。その描き方がリアルだった。特に雅也が大学に行くたびに、背景の時間と雅也の時間がずれているのが秀逸。まさに「異なる世界に住んでいる」あるいは「この世界には属していない」という描写だった。

 

最もサスペンスフルなのは、何度か行われる榛村と雅也の面会シーン。BGMを一切廃し、役者の台詞とカメラワークと照明、音響だけで勝負していた。そして勝利を収めていたと評してよいだろう。今やお馴染みとなったアクリル板のこちらと向こうで、微妙に声の響かせ方・聞こえ方を変えて臨場感を生み出していた。また、しばしば雅也と榛村の顔の反射がアクリル板上で重なり合う。これにより二人の心理的・心情的な同化が視覚化されていた。面会シーンはどれもその場の空気が伝わって来るかのような緊迫感と臨場感があり、一つの謎が明かされると、更なる謎が生まれるという、ミステリーがサスペンスを生み、サスペンスがミステリーを生み出すというエンタメの極致だった。

 

雅也の重要な変化を示すものとして、雅也と二人の女性との距離が挙げられる。一人目は中山美穂演じる母親。最初は地方の旧家にありがちな極めて封建的・保守的な中年女性に見えたが、そこには別の被抑圧的な因子があったことが判明する。もう一人は雅也が大学で再会する同級生、灯里。大学に一切なじめない、つまり実家と榛村以外に現実と接点のない雅也の貴重な友人、そして恋人(というか情婦?)となる。この灯里との距離感がそのまま榛村との距離感と反比例する、という構成は非常に巧みであると感じた・・・その次の瞬間にすべてをぶち壊された。良い意味でも悪い意味でも。これは例えて言うなら、小説『 イニシエーション・ラブ 』の最後の2行に匹敵するインパクトとでも言おうか。これ以上書くと興ざめになるので止めておく。とにかく劇場でも配信でもレンタルでも良いので、出来るだけ多くの人に本作を鑑賞してほしいと思う次第である。

ネガティブ・サイド

榛村の弁護士(国選弁護人か?)が無能という印象を受ける。いや、別に無能でもよいのだが、リアリティがない。雅也の調査について中盤以降にあれこれと言ってくるが、だったら最初から色々と説明しておけと思う。また、そうした説明があったほうが雅也が矩を踰えるようになっていく展開が、雅也の内面の変化をより如実に表わせたのではないだろか。

 

総評

間違いなく阿部サダヲの代表作である。阿部定事件並み、いやそれ以上に猟奇的なシーンもあるので、鑑賞には注意を要する。いずれにせよ白石和彌監督が『 孤狼の血 LEVEL2 』を上回る衝撃作を世に送り出してきたのは間違いない。ちょっとジャンルは違うが、野崎まどの小説『 舞面真面とお面の女 』や『 死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~ 』を読んで楽しかったという人は、本作も堪能できると思う。この二冊を読了の上で本作を鑑賞してみようという酔狂な方は、是非とも本作冒頭と最後のシーンの意味のつながりを考察されたし。または本作鑑賞後に、上記の二冊を読むというのもありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

look into ~

~を調べる、の意。その殺人事件を調べる = look into the murder case のように使う。事実を掘り下げたりする意味での「調べる」ということで、辞書などで語句の意味を「調べる」時には look up を使う。Jovianも大学の授業で時々 “You have 30 seconds to look up this word in your dictionary app.” と言っている。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, サスペンス, 宮崎優, 岡田健史, 日本, 監督:白石和彌, 配給会社:クロックワークス, 阿部サダヲLeave a Comment on 『 死刑にいたる病 』 -サイコ・サスペンスの秀作-

『 銀河鉄道の夜 』 -ファンタジーの傑作-

Posted on 2022年4月30日 by cool-jupiter

銀河鉄道の夜 85点
2022年4月26日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:田中真弓 坂本千夏
監督:杉井ギサブロー

『 銀河鉄道999 』シリーズで野沢雅子の声に久々に触れたが、やっぱりイメージとしては孫悟空。ならばクリリン=田中真弓が主人公であり、『 銀河鉄道999 』の元ネタでもある本作も観てみたいと感じ、近所のTSUTAYAでレンタル。

 

あらすじ

病弱な母と共に北の海の漁から帰らない父を待つジョバンニ(田中真弓)は、星祭りの夜も同級生たちになじめず、町はずれで空を眺めていた。すると空から汽車が現れた。乗りこむと、そこには友人のカムパネルラ(坂本千夏)がいた。二人は不思議な銀河の旅に出るが・・・

 

ポジティブ・サイド

宮沢賢治といえば子ども向け作品のイメージが強かったが、それは非常に表面的な見方だった。何年か前の『 コズミックフロント☆NEXT‏ 』で『 銀河鉄道の夜 』は賢治の時代の最先端の天文学の知識が反映されていたと知って大いに驚いたことを思い出した。

 

『 風の谷のナウシカ 』は小学校の体育館で観たが、本作も確か小3か小4の頃にやはり体育館で観た覚えがある。その後、高校2年生の頃に講談社のバイリンガル文庫の『 銀河鉄道の夜 』を岡山の紀伊国屋で買って読んだ。そうした懐かしい記憶が蘇ってきた。

 

本作は「文部省特選」と銘打たれているが、子ども向けの作りとは言い難い。冒頭から木の葉落としのように学校に迫っていくカメラワークや、薄暗い教室、クラスメイトに影口をたたかれる少年、活版印刷所で大人に混じって働くも、その大人たちにも揶揄される。父は家に帰って来ず、母親も病身。ジョバンニは幸せとは言い難い。しかし、それこそが賢治が伝えたかったことなのだろう。

 

銀河鉄道に乗ったジョバンニがカムパネルラと共に訪れ、目にする光景はどれも美しく、そして悲劇的である。120万年の時を駆けた証のくるみも、あっという間にボロボロになってしまう。せっかく知り合えた大人や同年代の他者を疎ましく思ってしまう。ジョバンニは自分の小さな幸せを奪われる、あるいは壊されると感じてしまうが、幸せの形とはそのようなものではない。幸せは与えられるものではなく、与えるものである。自己犠牲の先に幸せがある。そう受け取るのは簡単だが、それだけがメッセージではないようにも思う。カール・ブッセの『 山のあなた 』のように、幸せとは常にそれを追い求めていく対象であって、手に入れる対象ではないのだとも言える。ハッピーエンド=父親が帰ってくるかどうかはっきりしないという本作の結末そのものが、それを示唆しているように感じる。

 

キャラクターを猫にしてしまうことで物語の幻想度が増している。これはこれでありだと思う。また絵そのものの美しさも際立っている。ジョバンニたちの住む町の欧風かつオリエンタルなデザインも非常に味わい深い。2010年代後半以降のアニメは光の力が強すぎたり、あるいはキャラが不気味にゆらゆらと動くところが個人的にはしんどい。この時代のアニメーションの方がオッサンにはありがたい。細野晴臣の珠玉のBGMも本作を傑作タラ占めている。ジョバンニの心象風景をそのまま音楽にのせて、観る側にダイレクトに伝えてくる。何でもかんでもナレーションや説明的なセリフにしてしまう今のクリエイターたちに、もう一度基本に立ち返ってほしいと、本作を鑑賞してあらためて感じた。

 

観終わった直後に repeat viewing したが、数々の伏線の妙に驚かされた。特に最後のナレーションで「命は青い照明の明滅」だと語られるが、それがオープニングのクレジット・シーンに反映されていることに衝撃を受けた。他にもジョバンニがカムパネルラ家でアルコールで走る汽車の模型を見たという話は、『 オズの魔法使 』を思い起こさせた。ドロシーはオズへ行ったのか、それとも竜巻の衝撃で頭を打って、一時的な夢を見たのか。それと同じで、ジョバンニは本当に銀河鉄道に乗ったのか、それとも丘の上で一時的にまどろんだだけなのか。いかようにも解釈できるところが本作の素晴らしいところである。

 

ネガティブ・サイド

タイタニック号沈没のシーンは、東日本大震災と津波の被害をリアルタイムで経験した人にとっては相当に苦しい時間になりそう。もちろん賢治がそんなことを予見できるはずもないのだが。

 

無線技士の受け取る謎のメッセージをもう少しだけ鮮明にしてくれれば良かった。ここを海の事故を暗示するものではなく、北の海の漁船が帰ってくるという暗示のようなものにすれば、全体的に重苦しい雰囲気が少しは和らいだものになったと思う。

 

総評

文字通り時を超えた名作。少年の友情物語として鑑賞することもできるし、壮大なファンタジーとしてもアドベンチャーとしても解釈できる。正義・友情・勝利という、少年ジャンプ的な世界観や、2000年代以降のだらだらとした日常系とも一線を画している。親としても自分の子どもに安心して見せられる作品である。もちろん、大人も一緒に鑑賞して、子どもたちが抱くであろう様々な疑問に自分なりに答えてやってほしい。自分でも今度甥っ子たちに買ってやろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

speak ill of ~

~の悪口を言う、の意。ザネリのような子どもはいつの時代もいる。それはしょうがない。Ill weeds grow fast. 憎まれっ子世に憚る、である。ただ、ザネリたちのジョバンニへの態度は make fun of ~ = ~をからかう、笑いものにする、馬鹿にする、がより適切な訳かとも感じる。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 1980年代, A Rank, アニメ, ファンタジー, 坂本千夏, 日本, 田中真弓, 監督:杉井ギサブロー, 配給会社:日本ヘラルド映画Leave a Comment on 『 銀河鉄道の夜 』 -ファンタジーの傑作-

『 前科者 』 -年間最優秀映画候補の最右翼-

Posted on 2022年2月9日 by cool-jupiter

前科者 85点
2022年2月6日 TOHOシネマズ伊丹にて鑑賞
出演:有村架純 森田剛 磯村勇人
監督:岸義幸

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220209233632j:plain

『 二重生活 』や『 あゝ、荒野 』の岸義幸監督作品で、2021年期待の一作。この御仁は自分で脚本も書いて監督もする、それゆえに寡作(しかし良作率が高い)という意味で韓国の映画監督のよう。『 大怪獣のあとしまつ 』のせいで the lowest of the low point にまで盛り下がっていた気持ちを『 前科者 』は大きく押し上げてくれた。

 

あらすじ

保護司の阿川佳代(有村架純)は、殺人の前科を持つ工藤誠(森田剛)の構成と社会復帰に献身的に協力していた。しかし、保護観察期間が終わろうとする直前に工藤は姿を消してしまう。同じ頃、警察官が何者かに銃を奪われ、撃たれるという事件が発生。そして、奪われた銃によって殺人事件が繰り返され・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220209233645j:plain

ポジティブ・サイド

保護司という仕事については原作をLINE漫画で読んで初めて知った。凄い仕事だと驚かされたが、同時にそこに描かれる人間模様、ひいては社会の在り方について深く考えさせられた。WOWOWドラマは未視聴だが『 太陽は動かない 』と同じで、映画単体で観ても全く問題はない。

 

まずは有村架純。『 るろうに剣心 最終章 The Beginning 』の巴役はまあまあだったが、今作では阿川佳代のシンクロ率が非常に高かった。漫画原作のビジュアルや体形、表情まで、相当に研究してドラマ、そして映画に臨んだと思われる。これまでは如何にもヒロイン然とした役柄ばかりを演じてきた(あるいは演じさせられてきた)せいか、役者としての力量が見えてこないことが多かった。しかし、本作の一見すると冴えない女性だが、その芯に強さと弱さの両方を内包したキャラクターを見事に血肉化したと思う。

 

対する森田剛はJovianのまさに同世代なのだが、いつの間にか立派なおっさんになっているではないか。こちらも物静かだが、しかし内に秘めた人間らしさ(それは社交性とは限らない)が垣間見える瞬間がとてもチャーミングで好ましく映った。森田演じる工藤誠の更生への道が本作のメイン・プロット。仕事先で真面目に働き、社員登用も視野に入った工藤が、まさに保護観察期間の終了直前に突如姿を消す。同時に、街では殺人事件が発生する。これが警察もの、探偵ものであればサスペンスも何も感じないが、無力な保護司が主人公となると話が変わってくる。

 

もちろん警察も動くわけで、事件を捜査する刑事の一人が佳代の元同級生(磯村勇人)にして、因縁のある初恋の相手というのがサブ・プロットになっている。焼け木杭に火がつく展開と見せかけて、そうはならないので安心してほしい。同時に、磯村演じる若い刑事の過去に、佳代が保護司になるきっかけとなった出来事があったのだ。このあたりの過去と現在の関わりが明らかになっていく過程は見応えがあった。ベッドイン直前のシーンで途中でやめてしまう磯村を不審に思うだろうが、それにもちゃんと理由があるのだ。

 

一見するとなぜ殺されるのか分からない市井の人々が殺されていくが、それを行う犯人、そしてその犯人に協力する工藤の生い立ち、そして社会との関係。そうしたことが明らかになっていくにつれ、犯罪とは何か?という疑問が生まれる。罪を犯す原因は元々の人間性なのか、それとも環境によるものなのか。それはとりもなおさず、更生とは本人の努力次第なのか、それとも環境次第なのかという問いに転化する。我々はついつい「一人暮らしの若い女性が前科者を部屋に入れて大丈夫なのか?」と訝ってしまうが、そう思わせるのが本作の眼目なのだ。佳代の保護下にある前科者のみどりが言う「お前らが普通の人間面していられるのは、私らみたいな前科者がいるおかげだ」というセリフが何とも痛烈だ。

 

Jovianは工藤誠および彼が協力した殺人犯の姿に『 ジョーカー 』のアーサー・フレックを思い起こした。環境こそが人間を悪に走らせるのだろう。事実、劇中で明かされる工藤の生い立ちには一掬の涙を禁じ得ない。我々は往々にして犯罪者を人間扱いしないが、何が人を犯罪に走らせるのかといえば、それは我々の非人間性なのではないかと思う。工藤と彼の協力者が受けた過酷な仕打ちは、普通の人間のちょっとした弱さやミス、あるいはその時代の常識に従ったことが積み重なった結果である。そのことに慄かずにはいられない。

 

工藤に切々と語りかける佳代、それをうけて大粒の涙(と鼻水)を垂らす工藤の姿は、『 17歳の瞳に映る世界 』のカウンセリングのシーンに匹敵する。救いようのない物語の結末に用意された、一筋の救いの光、あるいは蜘蛛の糸。保護司と前科者ではなく、人が人に関わろうとする姿に胸を打たれずにいられようか。そうした意味で本作はまさしく『 すばらしき世界 』の後継作品である。同作のレビューで述べた感想を引いて、ポジティブ・サイドを終わる。

 

ほんのわずかでも自分を理解してくれる人がいたら・・・ほんのわずかでも自分を支援してくれる人がいたら・・・ほんのわずかでも自分のために涙を流してくれる人がいたら・・・そんな世界を見出すことができれば、それは充分に「すばらしき世界」ではないのだろうか。

 

ネガティブ・サイド

拳銃が劇中の事件の大きなパートを占めるのだが、それの扱いなどが相当に現実離れしている。ホルスターに収められた拳銃を奪おうとして警察官と揉み合いになっている最中に複数ある安全装置を外して撃つなどできるものか。

 

また一度でも銃を撃ったことがある人なら分かるだろうが、動いている標的相手に片手で構えて撃って命中させることなどできない。動かない的に5メートルの距離から40発撃って、ほとんど全部外したJovianが断言する。

 

後は磯村勇人とマキタスポーツのコンビか。演技が悪いというわけでは決してない。しかし警察OBのJovian義父が見たら間違いなく憤るであろうシーンには閉口させられた。それとも警察の息のかかった病院だとでもいうのだろうか。

 

総評

伊丹市出身の有村架純に敬意を表してTOHOシネマズ伊丹に赴いたわけではないが、混雑もしておらず、マナーの良い客層ばかりで結果的に良かった。本作は間違いなく、兵庫県民・有村架純の代表作である。期間限定で人気の女優とばかりに思っていたが、本格派として飛躍し始めたようである。とんでもない駄作を直前に観たせいか、評価がインフレしている気がしないでもないが、それを割り引いて考えても、本作にはチケット代の価値は十分に認められるものと思う。単なるお涙頂戴物語ではなく、人が人に関わることの意味をあらためて世に問う野心作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a volunteer probation officer

保護司の英語訳。probationという語を知っていれば英検準1級レベルはあるのかな。『 セント・オブ・ウーマン/夢の香り 』で、Misters Havemeyer, Potter, and Jameson are placed on probation for suspicion of ungentlemanly conduct. というセリフがあるので、興味がある人は鑑賞されたし。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 有村架純, 森田剛, 監督:岸義幸, 磯村勇人, 配給会社:WOWOW, 配給会社:日活Leave a Comment on 『 前科者 』 -年間最優秀映画候補の最右翼-

tick, tick…BOOM! チック、チック…ブーン!

Posted on 2022年2月3日2022年2月3日 by cool-jupiter

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tick, tick…BOOM! チック、チック…ブーン! 80点
2022年1月30日 塚口サン投稿を表示サン劇場にて鑑賞
出演:アンドリュー・ガーフィールド アレクサンドラ・シップ ロビン・デヘスス 
監督:リン=マニュエル・ミランダ 

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2021年にシネ・リーブル梅田で見逃してしまった作品。塚口サンサン劇場でリバイバル上映。地元のミニシアターに感謝である。

 

あらすじ

ダイナーで働きながらミュージカル作曲家として世に出ようともがくジョナサン(アンドリュー・ガーフィールド)。役者志望だった友人も広告会社に就職し、まもなく30歳になるというのに何者にもなれていない自分に焦りを覚える。長年取り組んできたミュージカルのワークショップに全力で取り組むジョナサンだが・・・

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ポジティブ・サイド

アンドリュー・ガーフィールドは今まさに円熟期にあるのだろう。夭折したジョナサン・ラーソンを演じるだけではなく、故人の心の奥底にあったであろう感性や衝動を音楽やダンスの形で見事に吐き出した。意外と言っては失礼だが、素晴らしい歌唱力を披露してくれた。『 マリッジ・ストーリー 』のアダム・ドライバーよりも上手い。ダンスも『 メインストリーム 』の最終盤に見せてくれた見事なパフォーマンスで、そのダンス能力の高さは証明済み。今回もダイナーなどで見事な踊りを見せた。

 

見た目もジョナサン・ラーソン本人に似ているのがプラスだったのか。まさにハマり役。日本でもアメリカでも、おそらく世界のどこでも30歳というのは一つの区切りだろう。何者にでもなれるというポテンシャルが認められる、一種のモラトリアムとしての20代が終わっていくという焦燥感は、味わった者にしか分からない。今でこそ転職を2度3度行うことが一般的になってきたが、一昔前の日本では就職=就社で、自分=会社だった。自分のアイデンティティーを会社に預けることの是非はともかく、30歳にして売れない役者、売れない音楽家、売れない絵描きでいることのいたたまれなさが痛切なまでに伝わってきた。

 

『 ジェクシー! スマホを変えただけなのに 』のアレクサンドラ・シップ演じるガールフレンドのスーザンが、現実を否応なく突き付けてくる。医大生からダンサーに転身、ダンス講師としての職を得たスーザンが、自分と一緒にニューヨークから出て、田舎で素朴に暮らしてほしいと願ってくることを、いったい誰に責められようか。このあたり、『 ラ・ラ・ランド 』と似ているようで少し違う。夢を取るのか、自分を取るのか。日本風に言えば、「仕事と私とどっちが大事?」に近いだろうか。「あなたの夢を尊重するから、私の夢も尊重して」という、ややファンタジックな『 ラ・ラ・ランド 』とは違って、本作は非常にリアルである。現実的である。伝記物語なのだから当然と言えば当然なのだが、ジョナサンやスーザンの苦悩が、我がことのように感じられた。様々な楽曲もシーンとキャラの心情にマッチしていて、ミュージカル好きのJovianも十分に満足できた。

 

サブプロットとして、役者志望だった親友マイケル(ロビン・デヘスス)が、マイノリティとしての属性を見事に体現していた。マイケルとジョナサンの関係の変化、そして関係の維持が、ミュージカル『 RENT / レント 』の骨子になっていることが伝わってきた。もちろん、『 RENT / レント 』を観たことがない人でも、二人の友情と現実への向き合い方のスタンスの違いは、重厚かつ感動的なドラマとして堪能できることは間違いないので、ご安心を。

 

ジョナサンの生き様、そして現実のある意味での非情さに、打ちのめされる人もいるかもしれない。しかし、ジョナサンたちが自分なりの生を生きようとする姿に胸を打たれない人はいないだろう。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220203214458j:plain

ネガティブ・サイド

文句なしの傑作だが、映画と舞台の住み分けというか、ステージ・パフォーマンスをそのまま映画化したような構成が気になった。予備知識なしで鑑賞したが、途中まで「これは、スパービア後の作品が Tick tick … boom で、その劇を劇中劇化したのだな」と勘違いしていた。それぐらい、映画ではなく舞台に見えた。映画には映画の技法があって、舞台には舞台の技法がある。マイケルの新居で踊るシーンなどは、映画ではなく舞台である。

 

ソンドハイムとそれっぽい批評家のコメント合戦も、ギャグだと思えば面白いのかもしれないが、少し上滑りしているように聞こえた。

 

総評

日本でミュージカル『 RENT 』を観たという人は、だいたい宇都宮隆バージョンを観たことだろう。宇都宮隆はJovianと同じく、ロッド・スチュワート信者である。それはさておき、1990年代はまだまだエイズやゲイに対する社会の理解は深くなかった。今は違う。そういう意味では、ジョナサン・ラーソンは類まれなるアーティストにしてビジョナリーであったとも言える。アンドリュー・ガーフィールドは役者・表現者としてますます脂がのってきた。彼のファンも、彼のファンでなくとも、ミュージカル好き、または映画好きなら、本作を是非ともウォッチ・リストに加えてほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Break a leg

『 グランドピアノ 狙われた黒鍵 』で少し触れた表現。意味は「幸運を祈る」である。これは theater language で、ネイティブ相手でも通じないことがある。実際にJovianの同僚でも、theater や film studies のバックグラウンドを持つ者は知っていても、business management や history のバックグラウンドを持つ者は知らなかったりする。基本的には、音楽や芝居の前に使う表現である。日常会話ではあまり使わないが、映画好きかつ英語好きなら知っておいて良いだろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アメリカ, アレクサンドラ・シップ, アンドリュー・ガーフィールド, ミュージカル, ロビン・デヘスス, 伝記, 監督:リン=マニュエル・ミランダ, 配給会社:NetflixLeave a Comment on tick, tick…BOOM! チック、チック…ブーン!

『 スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム 』 -The Dawn of SpiderVerse-

Posted on 2022年1月11日 by cool-jupiter

スパイダーマン 80点
2021年1月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:トム・ホランド ゼンデイヤ ベネディクト・カンバーバッチ ジェイコブ・バタロン
監督:ジョン・ワッツ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220111222405j:plain

『 スパイダーマン ファー・フロム・ホーム 』の続編にして完結作。よくこれだけ壮大なストーリーを構想して、それを一本の映画に落とし込んだなと感心させられた。過去の『 スパイダーマン 』シリーズを鑑賞していることが望ましい・・・というか必須である。

 

あらすじ

自分がスパイダーマンであることが白日の下にさらされてしまったP・パーカー(トム・ホランド)は、助けを求めてドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)を訪れる。ドクター・ストレンジは、全世界にP・パーカー=スパイダーマンであることを忘れさせる魔法を実行するが、そのせいで他の世界のヴィランを呼び寄せてしまうことになり・・・

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以下、ネタバレあり

ポジティブ・サイド

見事なまでにスパイダーマン世界の文法に従い、スパイダーマンというキャラクターの特徴を描き出している。スパイダーマンの特徴とは、マン=男になろうとするボーイ=少年の物語であるということである。『 スパイダーマン:ホームカミング 』でT・スタークに”This is where you zip it. The adult is talking!”=「黙れ、大人が喋っているんだぞ」というシーンが象徴的だったが、本作でも子どもらしさが全開。大人(ひねくれてはいるが)のドクター・ストレンジが魔術を使おうと集中しているところに何度も何度も割り込むさまは、まさに子ども。Jovianも大学で教えている時に、たまにP・パーカーのようにマシンガンのようにまくし立てて、こちらを遮ってくる学生に遭遇する。スパイダーマンとは、このピーターという少年の成長物語なのである。

 

トレイラーで明らかにされていたドック・オックの出現、もっと言えば前作『 スパイダーマン ファー・フロム・ホーム 』のラストにJ・K・シモンズ演じる例の編集長が登場していたことに、もっと敏感になる必要があった。うーむ、悔しい。あそこに本作の胆の部分が大いに示唆されていたのだなあ。Jovianは『 スパイダーマン スパイダーバース 』が劇場公開された際にスルーしてしまった。

 

スパイダーマンが新しいスーツでドック・オックと激闘を繰り広げるシーンとそのオチはなかなか面白かったし、その他のお馴染みヴィランが次から次へと登場して、しかもそれらを演じるのもウィレム・デフォーやジェイミー・フォックスといったお馴染みの面々。「こいつら全員をまとめて相手するのは無理ちゃう?」と感じたが、ここまで来て鈍いJovianはやっとのことトビー・マグワイアやアンドリュー・ガーフィールドが登場する可能性に思い至った。そしてアンドリュー・ガーフィールド、そしてトビー・マグワイアが登場した際には、『 スター・ウォーズ/フォースの覚醒 』のトレイラーで、ジェダイの帰還ならぬハン・ソロとチューバッカの帰還を知った時と同じような感覚を味わうことができた。

 

アクションも見せる。トムホのスパイダーマンがドクター・ストレンジとの一騎打ちで、まさかの大金星。MagicよりもMathだ、という発言には説得力があったし、P・パーカーがボストンの大学を志望するほどの優等生であるという背景ともちゃんと連動している。ドック・オックとの対決でも、ナノテク・スーツが文字通りに勝敗を分けた。観る側をひやひやさせつつ、しっかり笑わせてもくれた。

 

スパイダーマンは親愛なる隣人である一方、若さゆえの過ちや純粋な不運から、周囲の人を不幸にしたり、あるいはヴィランに変えてしまう。グリーン・ゴブリンなどが好例だが、そうした歴代でお馴染みのヴィランを本作は fix =治療しようとする。これには驚いた。同時に、やはりスパイダーマンは大事な人を喪失してしまう。これには胸が痛んだ。同じく、アメイジング・スパイダーマンが落下していくMJを見事に救い出したシーンには、彼自身が果たせなかったグウェンの救出を重ね合わせて観ることができた。まさにジョン・ワッツのスパイダーマンだけではなく、サム・ライミやマーク・ウェブのスパイダーマン世界をも包括した大団円には、目頭が熱くなった。

 

MCUはちょっと食傷気味のJovianも、本作はほとんどすべての瞬間を純粋に楽しむことができた。シリーズのファンなら、本作を鑑賞しないという選択肢は絶対にありえない。

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ネガティブ・サイド

マルチバースからやって来たヴィランたちやP・パーカーたちがあっさりと異世界に順応するのには、少々違和感を覚えた。彼らの世界には魔術師は存在しなかったはずだ。

 

ポストクレジットシーンが長い、というか informercial のようになっている。『 ゴジラ キング・オブ・モンスターズ 』のように、壁画だけを数秒間映し出してパッと暗転、クレジットへ・・・というので充分だと思う。

 

これは映画の出来とは関係ないが、明らかな誤訳はどうかと思う。林完治は売れっ子翻訳家だが、vigilanteを悪党と訳すのは、さすがにダメだろう。まさか villan と混同したわけはないだろうが、これはちゃんと「自警団」あるいは「自警団員」、もしくは「警官気取り」とでも訳すべきだ。もちろん映画字幕の字数制限については承知しているが、スパイダーマンを悪党呼ばわりはあんまりだと思った次第である。

 

総評

2022年最高の一本とまでは言わないが、間違いなくトップ10には入るだろう出来映え。トップ5もありえるかもしれない。過去の『 スパイダーマン 』映画の鑑賞がマストであるが、その労力は報われるはず。というよりも、本作を観る層の90%は過去作品を鑑賞済みだろう。スパイダーマン世界をきれいに終わらせつつ、新たな世界の幕開けにつなげるという離れ業を演じたジョン・ワッツに満腔の敬意を表したいと思う。政府がまん防や緊急事態宣言を出す前に鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a people person

字面だけ見ると何のことやら分からないかもしれないが、

He’s a dog person.
彼は犬好き人間だ。

She is a cat person. 
彼女は猫派だ。

I am a rabbit person. 
俺はウサギ大好き人間なんだ。

と来ると、a people person = 人間が好きな人、人付き合いが好きな人という意味が見えてくるだろう。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アクション, アメリカ, ジェイコブ・バタロン, ゼンデイヤ, トム・ホランド, ベネディクト・カンバーバッチ, 監督:ジョン・ワッツ, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム 』 -The Dawn of SpiderVerse-

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