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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: サスペンス

『 ブラインド 』 -韓流サスペンスの秀作-

Posted on 2019年9月30日 by cool-jupiter

ブラインド 75点
2019年9月25日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:キム・ハヌル
監督:アン・サンフン

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『 見えない目撃者 』は文句なしに逸品であった。リメイクとは原作が面白いから作られるわけで、ならば本作の面白さは観る前から保証されていたとも言える。事実、日本版とはかなり異なるが、どちらも面白さを保っている。

 

あらすじ

 

警察学校を卒業したミン・スア(キム・ハヌル)は、孤児院で育った弟的存在のドンチョルを交通事故で死なせてしまい、自身も失明してしまう。それから3年。ある時、乗り込んだタクシーが人身事故を起こしてしまうのに遭遇。だが運転手は犬をはねたと言うばかり。追及するスアを置いて、運転手は逃走する。スアは警察に事件を報告するも、警察はなかなかまともに取り合わず・・・

 

ポジティブ・サイド

日本版とは異なり、こちらは最初から犯人が分かっている。それによって生み出されるスリルとサスペンスも上質である。狂信者ではなくサイコパス。殺すことに外在的な理由は不要。そして暴力性も日本版の犯人よりも上。怖さもこちらが上である。一般論だが、バイオレンスにおいては韓国映画は邦画の上を行っている。

 

また主役のスアの描写も素晴らしい。聴覚だけではなく嗅覚や触覚もフルに使って周囲の情報を手に入れ、分析し、自分のものにする。その説明的な描写が説明的でありすぎず、かといって些細でもありすぎず、ちょうど良い塩梅である。そして触覚。盲導犬のスルギとの触れ合いがふんだんに描写され、彼女の第一のパートナーはスルギであるということがよくよく伝わってくる。日本版では母親と一緒に暮らしているなつめが、母親よりもパムを気にかけてしまうところに少し違和感を覚えてしまったが、オリジナルはそこのところをよく分かっている。

 

クライマックスの暗闇の中での逃走劇と反撃も素晴らしい。目が見えないというハンディキャップをアドバンテージに変えてしまった秀作に『 ドント・ブリーズ 』があるが、スアの嗅覚が冴え渡るシーンに息を飲みつつもニヤリ。日本版も生姜焼きを当てるくらいなら、なつめの五感を活かした演出をもっと設けるべきだった。最後の対決の舞台が孤児院であることに意味があるという点では、オリジナルの勝ち。スアが犯人を倒すシークエンスのサスペンスは日本版の勝ちか。全体的には甲乙つけがたい出来である。

 

ネガティブ・サイド

目撃者の少年ギソブが犯人に狙われ、襲われてしまったところから捜査とスアの警護に加わる流れがやや説得力に欠ける。未成年の少年の無鉄砲さと、警察官に対してうっすらと抱いていた信頼と正義への期待、そういったものがあまり見せられないままに、ギソブが巻き込まれていく描写が弱い。ギソブの友達の存在はむしろ不要で、一人さびしい少年の設定の方がよかった。

 

犯人の設定にも少し不満が残る。産婦人科医で堕胎手術の専門家ということだが、普通の外科医で良かったのでは?またこの犯人がギソブを殺さずにおく理由も見当たらない。刑事を刺した後には余裕綽々デ身だしなみをチェックしていたのに、ギソブに関してはそうはならなかった。これはご都合主義だろう。また言及する順番が前後したが、刑事の死に様にも不満が残る。この点では日本版リメイクの圧勝である。

 

総評

『 見えない目撃者 』のクオリティの高さから、本作にも再び注目が集まるだろう。どちらにも良さがあり、どちらにも弱点があるが、それは個人の好みによってポジティブにもネガティブにもなりうる。韓流映画のバイオレンスが苦手だという人を除けば、本作はカジュアルな映画ファンにもハードコアな映画ファンにもお勧めできる逸品である。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

アラッソ

 

色々と韓流を見ていると、同じフレーズが同じような場面で使われていることに気づく。それがこの「アラッソ」である。意味は「分かった」である。外国語学習をしていて、自分は初級の殻を破りつつある、あるいは破ったと言える人は、まず辞書を脇に置くべし。そして、読む、あるいは聞くことに集中して、何度も何度も現れてくる表現の意味を文脈から類推しよう。Jovianの指導経験から、すぐに辞書を引く人は伸びない、ということが言える。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, キム・ハヌル, サスペンス, 監督:アン・サンフン, 配給会社:ブラウニー, 韓国Leave a Comment on 『 ブラインド 』 -韓流サスペンスの秀作-

『 見えない目撃者 』 -韓国映画のリメイク成功例-

Posted on 2019年9月29日2020年4月11日 by cool-jupiter

見えない目撃者 75点
2019年9月23日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:吉岡里帆 高杉真宙 大倉孝二
監督:森淳一

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吉岡里帆主演の『 パラレルワールド・ラブストーリー  』は文句なしに駄作だった。なので『 音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!! 』はスルーさせてもらった。今回もスルー予定だったが、結果的にチケットを買ってよかった。

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あらすじ

浜中なつめ(吉岡里帆)は配属直前の警察官。しかし弟を補導した帰りに、事故を起こして、弟は死亡、自身も視力を失ってしまう。それから3年。とある車の接触事故の場に居合わせたなつめは、車内から助けを求める少女の声を聞く。だが警察は視覚障害者のなつめの言うことをまともに取り合わない。なつめは独自に接触被害にあったスケボー少年の春馬(高杉真宙)に会うが・・・

 

ポジティブ・サイド

これは近年の邦画(韓国映画のリメイクだが)サスペンスの中では出色の出来映えである。現代日本社会の闇を浮かび上がらせつつも、単なる社会派としてだけではなくミステリ要素あり、スリラー要素ありと、非常に野心的な作品に仕上がっている。

 

個人的には事件を追う刑事たちと夏目と春馬の民間人ペアのチームワークが見どころだった。暇があれば靴磨きに余念がない定年間近でやる気のないベテランと、メンドクセーという空気を醸し出す中年刑事が、徐々に吉岡演じる盲目女性とスケボー少年ペアと chemistry を起こしていく展開の見せ方が上手い。特に非行少年の春馬が成り行きから捜査に加わり、犯人に狙われ、これ以上は深入りするなと言われながらも警察となつめに協力していく様は、物語のサブプロットでありながらも、最終的には春馬自身のビルドゥングスロマンにつながっていく。この脚本は見事である。

 

このリメイクはオリジナルよりもミステリ要素が強めである。というよりも、オリジナルは完全なるサイコ・サスペンスだが、森淳一監督は松本清張的な社会派ミステリ要素を加えてきた。そして、それが奏功している。例えば『 チワワちゃん 』は本作のようなストーリーをたどって、本作のような犯人に殺されたとしても不思議はなかったのである。そして、そのことが単なるニュースとして消費されるような社会に我々は現に生きている。日本という国の近現代の歴史の大きな一面は都市化だった。綾辻行人がしばしば指摘することであるが、都市という空間では人間は基本的に他者に無関心である。より正確に言えば、社会の規範から外れた者に無関心である。それは時に家出少女であり、非行少年であり、障がい者であり、特殊な嗜好の持ち主である。本作が社会派たり得ている理由はこれだけでもお分かり頂けよう。

 

だがエンターテインメント性も忘れてはならない。本作はサスペンス要素がてんこ盛りである。過剰とも思えるほどに主人公およびそのパーティーメンバーに危機が訪れる。そして物語の中で、上手く小道具を使い、危機をくぐりぬけていく。特にクライマックスのシークエンスは見事の一語に尽きる。このアイテムを使って何かをするだろうな、ということは観ている時からすぐに分かるが、その使い方が素晴らしい。

 

本作で主演を張った吉岡里帆はJovianの中では redeem された。Shawshank Redemption and Rita HayworthならぬShawshank Redemption and Riho Yoshiokaである。光を失いながらも、その他の感覚研ぎ澄ませ、警察官ではなくともその身は軽く、頭脳も明晰。そして、一度は失ってしまった弟を再び失うことはすまいと、自らの信じる正義に愚直なまでにその身を投じていく様に、女優としての階段を着実に一歩上ったという印象を受けた。満腔の敬意を表したいと思う。

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ネガティブ・サイド

盲導犬パムとなつめの触れあいの描写が不足している。原作と違い、失明後も母親と暮らしているにもかかわらず、犯人に襲われ、病院で目覚めた後に真っ先にパムを気遣うのがやや腑に落ちなかった。もちろん、失明している人間には盲導犬が最高のパートナーであることは分かるが、その間に培われてきた絆の描写がもう少し欲しかった。

 

そして、上の流れにつながる流れ、トレイラーにもあった電車のシークエンスはサスペンスフルではあるが、論理的に考えればご都合主義以外の何物でもない。なつめがどこの駅で降りるかなど、分かりようがないのだから。サスペンスが途切れないのが本作の最大の長所であるが、この点だけは劇場鑑賞中に???となってしまった。

 

クライマックスのとある豪邸でのシークエンスでも、オリジナルではライターが小道具として有効に機能していたが、今作ではスマホのライト機能を使っていた。これも時代に合わせた変更であろうが、それにしても本来光で照らされているべき箇所が、とてもそのようには見えなかった。また、実際に強烈な光を対象に浴びせてしまうと、ある小道具の存在がばれてしまうということもあったのだろう。だが、このような盲目のキャラクターが登場する作品こそ、光の扱いに注意してもらいたい。文字通りの意味での光と闇のコントラストが本作最大のクライマックスで、そこに至る過程は座頭市の決闘さながらのサスペンスを生み出したが、実際とは異なる演出のせいで、またもご都合主義を感じさせてしまった。

 

ポスターについても一言。『 マスカレードホテル 』でも指摘したが、ハードコアな映画ファンやミステリファンの中には、あらゆる角度から情報を収集・分析して、鑑賞に臨む者もいるのである。販促物で犯人を暗示することはご法度である。劇中でも不自然なさりげなさを醸し出すシーンがあるが、一部の販促物と合わせて考えれば、物語の中盤前に犯人にピンと来てしまう。実際にJovianはピンと来た。うーむ・・・

 

総評

弱点・欠陥を抱えた作品であることは間違いないが、劇場の大画面、大音響で鑑賞すれば、そんなものは一瞬で吹っ飛ぶほどの緊迫感溢れるシーンの連続である。『 SUNNY 強い気持ち・強い愛 』が原作韓国映画の換骨奪胎に失敗した轍を、本作は踏まなかった。『 クリーピー 偽りの隣人 』や『 ミュージアム 』よりも面白いと勝手に断言させてもらう。ただ、グロいシーンもいくつかあるので、それに耐性のない人だけは注意を。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Whatever you do, don’t cause me trouble.

 

「何をしようと勝手だが、俺に迷惑だけはかけるな」とは、スケボー少年の春馬の教師の面談の場での発言である。異物排除の論理が日本社会、特に大人の価値観を支配していることを端的に表す言葉である。「何をしてもかまわんが、~~~だけはするな」と言う場合には “Whatever you do, don’t V.”というのが公式のようなものである。

 

Whatever you do, don’t borrow money from him.

Whatever you do, don’t touch my computer.

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, サスペンス, スリラー, ミステリ, 吉岡里帆, 大倉孝二, 日本, 監督:森淳一, 配給会社:東映, 高杉真宙Leave a Comment on 『 見えない目撃者 』 -韓国映画のリメイク成功例-

『 スラムドッグ$ミリオネア 』 -典型的かつ爽快サクセス・ストーリー-

Posted on 2019年9月20日 by cool-jupiter

スラムドッグ$ミリオネア 80点
2019年9月17日 レンタルBlu-rayにて鑑賞
出演:デブ・パテル フリーダ・ピント イルファン・カーン
監督:ダニー・ボイル

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インド映画と見せかけてイギリス映画である。『 ヒンディー・ミディアム 』でイルファン・カーンを見て、「そういえば『 ジュラシック・ワールド 』以来だったな」と感じ、再会を求めて近所のTSUTAYAへ。やはり面白い。

 

あらすじ

ジャマール(デブ・パテル)は人気テレビ番組の「クイズ$ミリオネア」で順調に正解を続け、賞金を積み上げて行っていた。しかし、番組司会者に不正を疑われ、警部(イルファン・カーン)に取り調べを受けることに。ジャマールは訥々と自身の過去を回想していくが・・・

 

ポジティブ・サイド

みのもんたを思い出してしまったが、やはり「クイズ$ミリオネア」はサスペンスフルであった。1ルピーは約1.6円で、1000万ルピーはおよそ1600万円となる。しかし、映画公開時の通貨価値の違いを考えれば、おそらくその価値は1億6千万円ぐらいであってもおかしくない。スラム街出身のジャマールからすれば、想像を絶する大金であろう。Jovianも1億円欲しい。

 

本作はクイズ番組の映画ではなく、クイズ番組を通じてインド社会の矛盾をさらけ出し、さらにそこで雄々しく生きる個人にスポットライトを当てた物語なのだ。『 存在のない子供たち 』のゼインのように、スラムで生まれ育ち、『 判決、ふたつの希望 』のように、宗教や民族の違いで謂われのない暴力にさらされてしまう。そして child predator の存在。こうした社会の理不尽が赤裸々に、しかし、エンターテイメント色豊かに描かれるところがインド映画(これはイギリス映画だが)の強みなのだろう。

 

これはサスペンス映画であると同時にラブロマンスでもある。幼少の頃からの初恋の相手、ラティカを狂おしいまでに追い求めるジャマールの一途さは観る者の心を打つ。男と女の心情の違いが露わになる中盤の展開には胸が締め付けられる。小学校高学年ぐらいで手塚治虫の『 火の鳥 乱世編 』の弁太とおふうを思い出した。両作品のその後の展開は異なるが、当時の自分にはおふうの心変わりというか、気持ちが理解できなかった。今なら分かる。だからこそ、ラティカのジャマールへの冷たい対応にも説得力がある。国が違っても、男女の心の在り様には一定の普遍性が認められる。

 

クイズの正答の根拠がジャマールの過去の様々なエピソードに潜んでいるというのは面白いし、オープニングが取り調べシーンというのもショッキングで良い。否が応でもそれまでに何があったのかと物語に引き込まれるからだ。犯罪まがい、というか窃盗や詐欺でサバイバルするジャマールが、苦難を乗り越えてミリオネアになっていくのは、そのままムンバイという土地の成長の勢い、ひいてはインドという国そのものの成長の勢いのメタファーだろう。ちなみに日本はもう間もなくあらゆる意味でインドに追い抜かれてしまう。映画だけではなく、あらゆる面で。何故だ?という向きには、『 沸騰インド:超大国をめざす巨象と日本 』をお勧めする。Jovianの大学の先輩が著者なのである。先輩と言えば『 運び屋 』で紹介した『 運び屋 一之瀬英二の事件簿 』もよろしく。

 

ネガティブ・サイド

 

冒頭の肥え溜めにドボンのシーンはもう少し控え目にしてもらえたらと思う。

 

ジャマールの兄、サリムのクズっぷりももう少し抑えることができたはずだ。彼なりに弟を想う心はあったのだろうが、それを押し殺して悪事に手を染めているという描写や演出があれば、もっとキャラクターが立っただろうに。

 

総評

普通に面白い。当時にブログをやっていたら、年間最優秀外国映画の候補に挙げていたはずだ。ダンスがねーぞ!と思うなかれ。エンディングのクレジットシーンは、クライマックスに次ぐカタルシスが待っている。インド映画ファンなら(イギリス映画だが)、必見の傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

That’s for sure.

 

劇中では、You’re not a liar, Mr. Malik. That’s for sure. という具合に使われていた。for sureで「確かに」という意味合いだが、用法の過半数は ~~~~. That’s for sure. だろう。Itは基本的に単数形の名詞、もしくは正体不明の何かを指して、Thatは直前に触れられた事柄(≠事物)を指すと理解しよう。

 

He is a great tennis player. That’s for sure.

You will pass the exam with ease. That’s for sure.

 

洋画でしょっちゅう聞こえてくるので、映画館で耳をすませてみよう。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2000年代, A Rank, イギリス, イルファン・カーン, サスペンス, デブ・パテル, ヒューマンドラマ, フリーダ・ピント, ラブロマンス, 監督:ダニー・ボイル, 配給会社:ギャガ・コミュニケーションズLeave a Comment on 『 スラムドッグ$ミリオネア 』 -典型的かつ爽快サクセス・ストーリー-

『 存在のない子供たち 』 -大人たる者、傍観者になることなかれ-

Posted on 2019年8月16日2020年4月11日 by cool-jupiter

存在のない子供たち 90点
2019年8月13日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ゼイン・アル・ラフィーア
監督:ナディーン・ラバキー

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レバノン『 判決、ふたつの希望 』は紛れもない大傑作であった。事実、Jovianは2018年の最優秀外国映画に選ばせてもらった。では、同じくレバノン発の本作はどうか。こちらも年間最優秀映画級の超良作であった。

あらすじ

ゼイン(ゼイン・アル・ラフィーア)は身分証明のない推定12歳の男の子。当然、学校に行くこともできず、スラムで日銭を稼がされる日々を送っている。ある日、まだ年端もいかない妹が結婚させられてしまう。それに反発したゼインは街を飛び出し、ふとしたことから知り合ったエチオピア移民の女性ラヒルとその乳飲み児ヨナスと共に暮らすことになるが・・・

 

ポジティブ・サイド

まず、本作を観ている2時間超の時間のほとんど全てがリアルなドキュメンタリーに感じられた。いや、ドキュメンタリー映画でもスクリーンの外側には、音響や照明、カメラ・オペレーター、監督その他が存在する。本作は、まさにレバノンのスラム街をリアルに切り取ったドキュメンタリーにしか見えなかった。ゼインというキャラクターが本当に存在し、脚本通りの演技をしているのではなく、彼自身の日常を表現しているようにしか思えなかったのだ。不自然な、つまり演出上の光や音響を極力排し、レバノンという国の暗部を隠すことなく映し出しているのである。

 

原題はCapharnaum、英語ではChaosの意、日本語ならば“混沌”とでも訳せようか。随所にスラムを俯瞰するショットを挟み、いかにスラム街が入り組んでおり、混沌とした空間であるのかを観る者に想起させる。本作が世に問うテーマは至ってシンプルである。子供を不当に苦しめるなということである。我々は自分で選択してこの世に生まれてきたわけではない。知らないうちに世界に投げ出されている。近代ドイツ哲学者のハイデガーの言葉を借りれば、「被投性」である。ゼインは知らぬ間にレバノンのスラム街に生まれ、知らぬ間に労働に従事させられている。ゼインはそこで必死に生きている。彼は自分自身を常に「投企」している。彼は12歳とは思えない度胸と知恵、行動力を持っている。しかし、悲しいかな、身体も頭脳も子どもであり、致命的なことに身分証明を持っていない。この物語はゼインの存在証明を求める闘争でもある。

 

物語前半のゼインは、自らが生き抜くために奮闘する。だが、物語後半でラヒルが不法移民として拘束されてしまうと、物語は一転、『 火垂るの墓 』となる。つまり、子どもが子どもを育てようとする物語に変貌する。かの作品のキャッチコピーは「4歳と14歳で生きようと思った。」であった。だが、ゼインは推定12歳、ヨナスは推定12~13カ月の乳幼児。これでどうやって生きて行けと言うのか。ゼインがあらゆる手段でヨナスを世話し、食べさせていこうとすることに胸が潰れた。息を飲まずにはいられなかった。物語冒頭で初潮を迎えた妹に、それを隠すようにてきぱきと指示を出すゼインは、生活力という言葉だけでは説明がつかないほどのサバイバル能力を有している。そして、密造酒ならぬ密造ドラッグでカネを稼ぐ様には、喝采さえ送ってやりたくなってしまう。『 火垂るの墓 』の清太は火事場泥棒を働いたが、生活力に関してはゼインの方が一枚上手と認めざるを得ない。

 

子どもが生きていく。子どもが子どもの世話をする。子どもに関わらず結婚させられ、適齢期でもないのに妊娠させられる。そうした現実が存在することの重さに、無力感を覚える。しかし、無力感を覚えてはならないのだ。我々にできること、すべきこと、してはならないことが諸々あるのだ。物語は最後に大きなどんでん返しを用意する。ゼインのマグショットを撮影するシーンと思わせて、それは身分証明書用の写真を撮影するシーンなのだ。この時にゼインが初めて見せる子どもらしい表情、すなわち曇りのない笑顔に、心臓を握りつぶされるほどのショックを受けた。大人が大人であることの証明、それは「子どもが屈託のない笑顔を見せることができる」、そんな世界を用意することだ。傍観者になっていて、どうするのだ。それがJovianがラバキー監督から得たメッセージである。ジアド・ドゥエイリ監督といい、ラバキー監督といい、何という作り手であることか。

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ネガティブ・サイド

人身売買男アスプロはお縄を頂戴しないのか。法廷で自らの罪状を告白し、刑に服さないのか。ゼインの両親やアサードだけではなく、この男もしょっぴかなければこの物語は閉じないと思われる。

 

両親が検事に言い返すシーンも不要だったのではないか。新しい子どもに何らかの希望を託したいという、その一瞬の想いまで否定するには、ゼインの両親の叫びは悲痛に過ぎた。『 焼肉ドラゴン 』にもあったシーンだが、子どもを授かった瞬間の気持ちまで否定するのは、観る側の精神に相当以上のダメージを与える。子どもの名前を否定するぐらいで良かったと個人的には思う。

 

総評

これは年間ベスト作品である。ベスト級ではなくベストである。まだ2019年は4ヶ月半を残しているが、それでもそのように断言させていただく。レバノンに手を差し伸べなくてはならないわけではない。しかし、保育園や幼稚園がうるさい。公園で遊ぶ子どもが邪魔だ。そんな気持ちを抱いてしまった時に、まず“子供たちの存在”に思いを馳せようではないか。大人にとって子供たちの笑顔以上に優先されるべきものなどないのだから。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, S Rank, サスペンス, ゼイン・アル・ラフィーア, ヒューマンドラマ, レバノン, 監督:ナディーン・ラバキー, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 存在のない子供たち 』 -大人たる者、傍観者になることなかれ-

『 アルキメデスの大戦 』 -戦争前夜に起こり得たリアルなフィクション-

Posted on 2019年8月8日2020年4月11日 by cool-jupiter

アルキメデスの大戦 80点
2019年8月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:菅田将暉 柄本佑 浜辺美波
監督:山崎貴

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戦艦大和を知らない日本人は皆無だろう。仮に第二次大戦で沈没した大和のことを知らなくとも、漫画および映画にもなった『 宇宙戦艦ヤマト 』やかわぐちかいじの漫画『 沈黙の艦隊 』の独立戦闘国家やまとなど、戦艦大和はシンボル=象徴として日本人の心に今も根付いている。それは何故か。やまとという名前が日本人の大和魂を震わせるからか。本作は、戦艦大和の建造の裏に大胆なドラマを見出した傑作フィクションである。

 

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あらすじ

時は第二次世界大戦前夜。日本は世界の中で孤立を深め、欧米列強との対立は不可避となりつつあった。そこで海軍は新たな艦船の建造を計画、超巨大戦艦と航空母艦の二案が対立する。戦艦の建造予算のあまりの低さに疑念を抱いた山本五十六は、数学の天才の櫂直(菅田将暉)を旗下に招き入れ、その不正を暴こうとするが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 風立ちぬ 』と共通点が多い。戦争前夜を描いていること、主人公がややコミュ障気味であること、その主人公が数学者・エンジニア気質であることなど、本当にそっくりである。菅田将暉演じるこの数学の天才児は、どことなく機本伸司の小説『 僕たちの終末 』の岡崎のような雰囲気も纏っている。「それは理屈に合わない」という台詞を吐きながらも、滅亡のビジョンを眼前に想像してしまうと、間尺に合わない選択をしてしまうところなど瓜二つである。つまり、男性にとって非常に感情移入しやすいキャラクターなのだ。男という生き物は、だれしも自分の頭脳にそれなりの自信を持っているものなのだ。俺が経営幹部ならこんな判断はしない。俺が政治家ならこういう施策を実施する。そういった脳内シミュレーションを行ったことのない男性は皆無だろう。同時に、男はある意味で女性以上に感情に振り回される生き物でもある。面子、プライド、沽券。こういった理屈で考えれば切り捨てるべき要素に囚われるのも男の性である。櫂という漫画的なキャラクターにして非情にリアリスティックでもあるキャラクターを十全に演じ切った菅田将暉は、20代の俳優陣の中ではトップランナーであることをあらためて証明した。

 

本作は冒頭からいきなり大迫力の戦闘シーンが繰り広げられる。『 シン・ゴジラ 』を手掛けた白組だが、They did an amazing job again! プレステ6かプレステ7ぐらいのCGに思える。思えば『 空母いぶき 』のF-22もどきはプレステ4ぐらいのグラフィックだった。戦闘シーンの凄惨さは写実性や迫真性においては『 ハクソー・リッジ 』には及ばないが、それでも近年の邦画の中では出色の完成度である。特に20mmまたは30mm砲の機銃掃射を生身の人間が浴びればどうなるかを真正面から描いたことは称賛に値する。何故なら、それがリアリティの確保につながるからだ。漫画『 エリア88 』でグエン・ヴァン・チョムがベイルアウトした敵パイロットに機関砲を浴びせるコマがあるが、あの描写は子供騙しである。もしくは編集部からストップがかかり、修正要請が出されたものである。70年以上前の第二次大戦時の戦闘機であっても、その機銃を浴びれば人間などあっという間に肉塊に変身する。そこを逃げずに描いた山崎監督には敬意を表する。

 

本作は今という時代に見事に即している。戦争前夜に、戦争を止めようと奔走した人物が存在したというフィクションがこの時代に送り出される意味とは何か。それは今日が戦争前夜の様相を呈しているからである。前夜という言葉には語弊があるかもしれない。本作は実際には日本の真珠湾奇襲の8年前を描いているからだ。戦争とは、ある日突然に勃発するものではない。その何年も前から萌芽が観察されているものなのだ。現代日本のpolitical climateは異常ではないにしても異様である。圧力をかけるにしろ対話による融和を志向するにせよ、その相手は北朝鮮であるべきで韓国ではない。自民党幹部および安倍首相はアホなのか?そうかもしれない。しかし、我々は第4代アメリカ合衆国大統領のジェームズ・マディソンの言葉、“The means of defense against foreign danger, have been always the instruments of tyranny at home.”=「 外敵への防衛の意味するものは、常に国内における暴政の方便である 」を思い出すべきだろう。自民党がやっていることは庶民を苛めつつも、庶民の溜飲を下げるような低俗なナショナリズムの煽りでしかない。株価は上がっていると強調しながら賃金は下がっている。雇用は改善していると言いながら、正社員は激減している。身を切る改革を謳いながら、議員定数を増やしている。国益を守り抜くと言いながら、韓国相手の巨大な貿易黒字を捨ててしまっている。そんな馬鹿なと書いている自分でも思うが、これがすべて事実なのだ。国外脱出をしたくなってくる。『 風立ちぬ 』でも二郎が、国の貧しさと飛行機パーツの価格の高さの矛盾を嘆いていたが、櫂も新戦艦の建造費用を「貧しい国民が必死に払った税金」だと喝破する。戦艦大和に込められた思想的な部分を抜きにこのシーンを見れば、クソ性能で超高価格のF-35なるゴミ戦闘機がどうしても思い浮かぶ。身銭を切って幻想を買う。この大いなる矛盾が戦争前夜の特徴でなければ、一体全体何であるのか。『 主戦場 』でミキ・デザキは日本がアメリカの尖兵として戦争に送り込まれることを危惧していたが、そうした問題意識を高めようとする映画を製作しようとしう機運が映画界にあり、そうした映画を製作してやろうという気概を持つ映画人が存在することは誇らしいことである。

 

本作の見せ場である新型戦艦造船会議は、コメディックでありサスペンスフルである。『 清州会議 』的な雰囲気を帯びていながらも、本作の会議の方が緊迫感があるのは、それが現代に生きる我々の感覚と地続きになっているからだろう。一つには税金の正しい使い道の問題があるからであり、もう一つには大本営発表の正しさの検証妥当性の問題があるからである。この会議で日本映画界の大御所たちが繰り広げる丁丁発止のやり取りを、その静かな迫力で一気に飲み込んだ田中泯演じる平山忠道の異様さ、不気味さが、その余りの正々堂々たる姿勢と相俟って、場の全員を沈黙に追いやる様は圧巻である。彼の言う「国家なくして国民なし」という倒錯した哲学は、『 銀河英雄伝説 』のヤン・ウェンリーがとっくの昔に論破してくれているが、それでも国家は国民に先立つ考える人間の数がどこかの島国で増加傾向にあるようだ。憂うべきことである。

 

登場する役者全員の演技が素晴らしく、CGも高水準である。脚本も捻りが効いており、原作者および監督のメッセージも伝わってくる。『 空母いぶき 』に落胆させられた映画ファンは、本作を観よう。

 

ネガティブ・サイド

一部のBGMが『 ドリーム 』や『 ギフテッド 』とそっくりだと感じられた。数式をどんどんと計算・展開していく様を音楽的に置き換えると、どれもこれも似たようなものになるのかもしれないが、そこに和のテイストを加えて欲しかった。『 ゴジラ キング・オブ・モンスターズ 』ではオリジナルの伊福部サウンドを再解釈し、大胆なアレンジを施してきた。もう少しサウンド面で冒険をしても良かった。

 

Jovianは数学方面にはまったく疎いが、物語序盤で櫂が鮮やかに扇子の軌道計算を行っていた場面は疑問が残る。1930年代にカオス理論があっただろうか。扇子のような複雑な形状の物体は、いくら比較的狭い室内で無風状態であるとはいえ、カオス理論なしには計算不可能なような気がする。それ以前に、櫂は巻尺は常に携行しているが、重さを測るためのツールは持っていないだろう。扇子の重量を計算に入れずに、いったいどうやって軌道計算したというのか。大いに疑問が残った。

 

また数学者が主役で、戦時に活躍するとなると、どうしても『 イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 』を想起する。櫂の計算能力は天才的ではあるものの、発想力という意味ではアラン・チューリングには及ばなかったように思う。船の建造費を導き出す方程式にたどり着いたのは見事だったが、悪魔の暗号機エニグマに対抗するには、計算ではなく計算機械が必要なのだという非凡な発想を最初から持っていたチューリングの方が、どうしても一枚上手に思えてしまう。事実は小説よりも奇なりと言うが、櫂というfictionalなキャラクターにもっとfictitiousな数学的才能や手腕をいくつか付与しても良かったのではなかろうか。

 

総評

娯楽作品としても芸術作品としても一線級の作品である。日本人の心に今も残る戦艦大和の裏に、驚くべきドラマを想像し、構想し、漫画にし、それを大スクリーンに映し出してくれた全てのスタッフに感謝したい。いくつか腑に落ちない点があるが、それらを差し引いても映画全体として見れば大幅なプラスである。今夏、いや今年最も観るべき映画の一つだろう。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, A Rank, サスペンス, ヒューマンドラマ, 日本, 柄本佑, 歴史, 浜辺美波, 監督:山崎貴, 菅田将暉, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 アルキメデスの大戦 』 -戦争前夜に起こり得たリアルなフィクション-

『 The Witch 魔女 』 -韓流サイキック・バトル・アクション-

Posted on 2019年7月28日2020年8月26日 by cool-jupiter

The Witch 魔女 70点
2019年7月24日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:キム・ダミ チョ・ミンス チェ・ウシク パク・ヒスン
監督:パク・フンジョン

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シネマート心斎橋で観たいと思っていて、タイミングが合わせられなかった作品。ようやくDVDにて鑑賞。韓国映画はインド映画と同じく、でたらめなパワーを感じさせるものが多い。本作の出来具合も相当でたらめである。しかし、パワーもすごい。

 

あらすじ

血まみれの少女ク・ジャユン(キム・ダミ)は森を駆け抜け、追手から逃れた。子のいない酪農家夫婦に育てられたジャユンは、親友の誘いでソウルのテレビ番組に出演し、ちょっとしたマジックを披露する。しかし、次の瞬間から謎の男たちに追われることになり・・・

 

ポジティブ・サイド

タイトルロールを演じるキム・ダミの純朴さと不気味さ。『 テルマエ・ロマエ 』でルシウスは日本人を指して「平たい顔族」と呼称するが、彼女の顔も相当平たい。しかし、この顔が中盤から後半にかけて、魔女のそれに一変する。素朴な少女が凶悪な殺人者に変貌する瞬間の表情とアクションは必見である。

 

R15+指定であるのは、セクシーなシーンが含まれるからではく、バイオレンスシーンが存在するからだ。Jovianは暴力シーンをそれほど好まない。ただ、時々「さて、血しぶきでも見るか」という気分になることがある。そうした時に北野武の過去の映画を観返したりすることはある。年に一回ぐらいだろうか。近年だと『 ディストラクション・ベイビーズ 』が暴力を主軸にした邦画だったろうか。邦画は顔面の痣などをメイクアップで作り出すことには結構熱心だという印象がある。『 岸和田少年愚連隊 』シリーズのサダやチュンバが思い出される。本作は自身が受けたダメージよりも、返り血(という言葉では生ぬるい)で自身が敵に与えたダメージを表現する。その血の量は余りにも過剰である。ジャユンが魔女として覚醒するシーンで、とある男を掌底でぶちのめすが、このシーンでは思わず『 ターミネーター2 』でT-800がT-1000に顔面を鉄器具で少しずつ破壊されていくシークエンスを思い出した。1分足らずのシーンであるが、一回ごとに顔面に特殊メイクを施すので撮影に5~6時間かかったとレーザーディスクの付録小冊子に書かれていたと記憶している。ジャユンが男をボコるシーンはさすがに5時間はかかっていないだろうが、男を殴るたびに新たに血反吐を浴びるため、メイクアップアーティストはさぞかし大変であっただろうと推察する。容赦の無い流血描写および遠慮の全くない返り血描写こそ本作の肝である。

 

本作のもう一つの醍醐味はアクションである。『 ジョン・ウィック 』ばりのガン・アクション、『 LUCY / ルーシー 』を彷彿させるサイキック・アクション、往年のブルース・リーばりの格闘アクション、こうしたバトルを盛り上げてくれる要素のほんの少しでもいいから、超絶駄作『 ストレイヤーズ・クロニクル 』に分けて欲しいものである。いくつかコマ送りを使っているところもあるだろうが、スタントマンやダブルは使わず、全てのアクションはキム・ダミが行っているようである。日本の女優でこれだけ動けるのは、土屋太鳳にどれだけいるか。杉咲花もいけるか。決してセクハラだとかエロいだと捉えないで頂きたいのだが、彼女たちとキム・ダミの体型を比較することは、それはそのまま浅田真央とキム・ヨナの比較をすることになろう。彼女らに技術的な差はなかったように思うし、あったしても決定的な差ではなかったはず。単純にキム・ヨナの方が背が高く、手足がスラリと長かったので、見映えが良かったのだろうと思う。

 

Back on topic. 本作の最大の特徴は脚本の緻密さにある。冒頭のモノクロのオープニング映像こそ刺激的だが、前半の30分はかなり退屈というか、起伏に乏しい。しかし、それも全て計算された作りになっていることに驚かされた。映画の面白さの大本は演技、撮影、監督術にあるが、映画の面白さの根本は脚本にあると言ってよいだろう。本作は文句なしに面白い。

 

ネガティブ・サイド

Infinity世界のライプリヒ製薬のような会社が諸悪の根源であるらしいが、その全貌がほとんど見えない。本社がおそらくアメリカにあること、子どもを使った人体実験を屁とも思っていないこと、しかし、サイキッカーたちの軍事兵器化などには乗り気ではないということぐらいしか分からない。巨悪の存在の大きさや異様さを、出てくる情報の少なさで語るというのは常とう手段である。ただ、今作における会社、本社の情報は余りにも少なすぎる。架空の社名で良いので、一言だけでも言及して欲しかった。

 

漫画『 AKIRA 』や、前述した『 LUCY / ルーシー 』と同じく、一定の間隔でクスリを摂取しなければならないという設定も陳腐だ。もっと別の設定は考えられなかったのだろうか。例えば、凶暴性を開発された子どもとは逆に、治癒の超能力を持った者がおり、その者を味方につけなければならない、といったような。何から何までバトルにするのは爽快ではあるが、そこにほんの少しでも癒しや救いのある展開があっても良かったのに、と個人的には感じる。

 

これは製作者というよりも、日本の提供会社、配給会社への注文。開始早々から「第一部」とは明言されているが、ジャケットにもそのことを強調しておいてもらいたい。

総評

傑作である。どこかで見たシーンのパッチワーク作品であるとも言えるが、そこは韓流のでたらめなパワーで押し切ってしまっている。続編の存在の匂わせ方に稚拙さがあるが、続編そのものは非常に楽しみである。『 ラプラスの魔女 』など比較にはならない、本物の魔女が解き放たれるのだろう。さあ、この魔女のもたらす破壊と暴力と殺人の妙技を皆で堪能しようではないか。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アクション, キム・ダミ, サスペンス, チェ・ウシク, チョ・ミンス, ミステリ, 監督:パク・フンジョン, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズ, 韓国Leave a Comment on 『 The Witch 魔女 』 -韓流サイキック・バトル・アクション-

『 真実の行方 』 -若き日のエドワード・ノートンに刮目せよ-

Posted on 2019年7月5日 by cool-jupiter

真実の行方 70点
2019年7月2日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:リチャード・ギア エドワード・ノートン フランシス・マクドーマンド
監督:グレゴリー・ホブリット

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映画でも小説でも、多重人格ものは定期的に生産される。一人の人間が複数のパーソナリティを持つというのだから、そこから生まれるドラマの可能性が無限大である。しかし、多重人格ものは同時に、それが詐術である可能性を常に孕む。多重人格が本当なのか演技なのかの境目を行き来する作品といえばカトリーヌ・アルレーの小説『 呪われた女 』や邦画『 39 刑法第三十九条 』などがある。本作はと言えば・・・

 

あらすじ

カトリック教会で大司教が殺害された。容疑者としてアーロン(エドワード・ノートン)が逮捕され、マーティン(リチャード・ギア)が弁護を請け負うことになる。その過程でマーティンは徐々にアーロンとは別に真犯人が存在するのではないかと考え始め・・・

 

ポジティブ・サイド

『 アメリア 永遠の翼 』や『 プリティ・ウーマン 』ではやり手のビジネスマンを、『 ジャッカル 』では元IRAの闘士を演じ、今作ではBlood Sucking Lawyerを演じるリチャード・ギアは、日本で言えば世代的には大杉漣か。そのリチャード・ギアが嫌な弁護士からプロフェッショナリズム溢れる弁護士に変わっていく瞬間、そこが本作の見所である。

 

しかし、それ以上に観るべきは若きエドワード・ノートンであろう。栴檀は双葉より芳し。演技派俳優は若い頃から演技派なのである。そしてこの演技という言葉の深みを本作は教えてくれる。

 

題材としては『 フロム・イーブル 〜バチカンを震撼させた悪魔の神父〜 』、『 スポットライト 世紀のスクープ 』などを先取りしたものである。多重人格というものを本格的に世に知らしめたのは、おそらくデイヴ・ペルザーの『 “It”と呼ばれた子 』なのだろうが、本作はこの書籍の出版社にも先立っている。Jovianは確か親父が借りてきたVHSを一緒に観たと記憶しているが、教会の暗部というものに触れて、当時宗教学を専攻していた学生として、何とも言えない気分になったことをうっすらと覚えている。

 

本作の肝は事件の真相であるが、これには本当に驚かされた。2000年代から世界中が多重人格をコンテンツとして消費し始めるが、本作の残したインパクトは実に大きい。カトリーヌ・アルレーの『 わらの女 』やアガサ・クリスティーの『 アクロイド殺し 』、江戸川乱歩の『 陰獣 』が読者に与えたインパクト、そして脳裏に残していく微妙な余韻に通じるものがある。古い映画と侮るなかれ、名優エドワード・ノートンの原点にして傑作である。

 

ネガティブ・サイド

少しペーシングに難がある。なぜこのようないたいけな少年があのような凶行に走ったのかについての背景調査にもう少し踏み込んでもよかった。

 

ローラ・リニーのキャラクターがあまりに多くの属性を付与されたことで、かえって浮いてしまっていたように見えた。検事というのは人を有罪にしてナンボの商売で、法廷ものドラマでもイライラさせられるキャラクターが量産されてきているし、日本でも『 検察側の罪人 』などで見せつけられたように、人間を有罪にすることに血道を上げている。それはそういう生き物だからとギリギリで納得できる。だが、マーティンの元恋人という属性は今作では邪魔だった。『 シン・ゴジラ 』でも長谷川博己と石原さとみを元恋人関係にする案があったらしいが、没になったと聞いている。それで良いのである。余計なぜい肉はいらない。

 

よくよく見聞きすれば、アーロンの発言には矛盾があるという指摘も各所のユーザーレビューにある。なるほどと思わされた。本当に鵜の目鷹の目で映画を観る人は、本作の結末にしらけてしまう可能性は大いにある。

 

総評

これは非常に頭脳的な映画である。多重人格ものに新たな地平を切り開いた作品と言っても過言ではない。もちろん、その後に陸続と生み出されてきた作品群を消化した者の目から見れば不足もあるだろう。しかし、多重人格もののツイストとして、本作は忘れられてはならない一本である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1990年代, B Rank, アメリカ, エドワード・ノートン, サスペンス, スリラー, フランシス・マクドーマンド, リチャード・ギア, 監督:グレゴリー・ホブリット, 配給会社:UIPLeave a Comment on 『 真実の行方 』 -若き日のエドワード・ノートンに刮目せよ-

『 新聞記者 』 -硬骨のジャーナリズムを描く異色作-

Posted on 2019年7月4日2020年8月29日 by cool-jupiter

新聞記者 75点
2019年6月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:シム・ウンギョン 松坂桃李
監督:藤井道人

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映画大国のアメリカでは『 JFK 』を始め、政治の腐敗を鋭く抉る作品が数多く生産されてきた。近年でも『 バイス 』、『 記者たち衝撃と畏怖の真実 』、『 華氏119 』、『 ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 』などが製作、公開されてきた。翻って日本はどうか。『 主戦場 』が話題を呼び、そして本作である。日本の映画界も、遂に物申すことができるうようになってきた。

 

あらすじ

新聞記者の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は、不気味な羊の絵をカバーページにした、大学新設計画に関する膨大な資料を受け取った。その周辺を取材する吉岡は、やがて国家的な陰謀の構図に迫っていき・・・

 

ポジティブ・サイド

日本の政治は危機的な状況にある。何を以って危機的と言うかは各人によってことなるだろうが、市民を権力者側の都合で逮捕拘束できるような共謀罪なる法案が成立し、特定秘密保護法などどいう権力者の保身のための法律が存在し、にも関わらず公文書の改竄が行われ、その省庁の監督者である大臣が辞職すらしない国家とその政治状況を指して、危機的という認識を持たない人がいれば、お目にかかりたいものである。そういえば、この大臣、『 主戦場 』で十数年前の国会中継が映し出された時も、堂々と居眠りをしていた。これが我々の選良なのか。暗澹たる気分になってくる。

 

本作は東京新聞の望月記者や元文部科学次官の前川氏などを冒頭の討論番組に出演させることで、スクリーンの向こうとこちら側が同一の世界であるとの認識をより強固にしてくれる。いや、既に各所で指摘されていることだが、大学の新設が総理のお友達事業者ありきで進むこと、レイプ事件のもみ消し、公文書の改竄をさせられた財務省の役人の自殺など、すでに民主国家の腐敗のあり様を極めた感がある日本だが、それを支える組織としての内閣情報調査室にスポットライトをあてた作品はこれまでにあっただろうか。漫画『 エリア88 』の最終盤に内調がちょろっと出てくるぐらいしか思い出せない。この内調なる組織のやっていることのせこさには、新鮮な驚きと落胆、そして呆れがある。詳しくは本作を観てもらうとして、日本の言論空間の大きな一角を占めるようになったインターネットおよび既存メディアへの政治の介入具合には、言いようのない不安を掻き立てられる。そうした仕事のお先棒を担がされる杉原(松坂桃李)は、官僚でありながらも、信頼を寄せる元上司がおり、妻がおり、子どもが生まれる直前であるという極めて私人性の高いキャラクターを上手く表出した。官僚も一皮むけば人間であるということは『 響 -HIBIKI-   』でも指摘した。内調の上司からの「お前、子どもが生まれるそうだな」という言葉を杉原はどう受け取るのか。観客たる我々にその言葉がどう響くのか。思いやりの言葉であると同時に、聞く者の心胆を寒からしめるこの言葉が発されるシーンは、国家の側に属する人間の人間性と非人間性の両方を同時に描き切った名場面である。

 

シム・ウンギョン演じる記者には硬骨の精神を見出すことができる。彼女のバックグラウンドに仕込まれたサブプロットは些か行き過ぎではないかと感じるが、中盤の回想シーンで取り乱す演技、最終盤の電話を受け取るシーンでの恐怖と気概の両方を宿す演技には圧倒された。様々な事情があってシム・ウンギョンがこの役を引き受けたのだろうが、政治への忖度以上に、この役を演じられる俳優が日本の映画界に存在しなかったというのが最大の理由なのかもしれない。それほど圧巻のパフォーマンスである。シム・ウンギョンと大谷亮平の共演がいつか観たい。

 

Back on track. 『 主戦場 』でも感じられたことであるが、日本の政治状況は危機的水準にある。それは、国民が権力の監視を怠ってきた結果に他ならない。税金を公的資金と言い換えていた頃よりも、さらに表面を糊塗するだけの言葉遊び政治と、権力者とそれに追従する者だけへの便益を図る密室政治がより発達してしまった。それは違うと声高に叫ぶ人が現れた。本作は娯楽作品であり、秀逸なサスペンスであるが、同時にノンフィクションとして観られるべき作品でもある。多くの人が本作を鑑賞することを願う。

 

ネガティブ・サイド

やはり、シム・ウンギョンではなく日本人の俳優がキャスティングされなければならなかった。韓国人のシムが駄目だと言っているのではなく、日本の政治の腐敗を撃つのなら、日本人がそれをするべきだ。それも愛国心の一つの形だろう。そうした気骨、気概のある役者または事務所がいなかったということに慨嘆させられる。

 

また、シムの英語は石原さとみよりも立派であったが、agreeの発音のアクセントだけは頂けなかった。まあ、『 L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。 』の横浜流星などに比べれば月とすっぽんではあるが。

 

また巨悪の存在が示唆されるばかりで、ここに弱さを感じた。宣伝段階で「官房長官の天敵」というキャッチコピーを使っていたのだから、誰がどう見ても令和おじさんのパロディであると思わせることができる人物を仕立て上げられたはずだ。それぐらいのサービス精神はあってもよかった。『 シン・ゴジラ 』でも中村育二を甘利明そっくりに化けさせたのだから、菅義偉のそっくりさんキャラを生み出すのもお茶の子さいさいだろう。

 

総評

ラストの杉原の台詞を何と聞くか。いや、見るか。それによって鑑賞後に残る余韻が変わる。これは意図した演出だろう。気になる人は是非とも劇場へ。Jovianは本作鑑賞後、すぐさま『 銀河英雄伝説 』のヤン・ウェンリーの言葉、「 人間の行為のなかで、何がもっとも卑劣で恥知らずか。それは、権力を持った人間、権力に媚を売る人間が、安全な場所に隠れて戦争を賛美し、他人には愛国心や犠牲精神を強制して戦場へ送り出すことです。宇宙を平和にするためには、帝国と無益な戦いをつづけるより、まずその種の悪質な寄生虫を駆除することから始めるべきではありませんか 」を想起させられた。命よりも大切なものがあるというキャッチコピーで始まるのが戦争で、命より大切なものはないというキャッチコピーで戦争は終わると言われる。個人を自殺に追い込んでおきながら何の自浄作用も働かない今の政治権力の構造には空恐ろしさを感じざるを得ない。願わくば、本作が描くプロットが単なる杞憂、絵空事であらんことを。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, サスペンス, シム・ウンギョン, 日本, 松坂桃李, 監督:藤井道人, 配給会社:イオンエンターテイメント, 配給会社:スターサンズ『 新聞記者 』 -硬骨のジャーナリズムを描く異色作- への2件のコメント

『 ジョナサン -ふたつの顔の男- 』 -多重人格ものの実験的作品-

Posted on 2019年6月27日2020年4月11日 by cool-jupiter

ジョナサン -ふたつの顔の男- 60点
2019年6月25日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:アンセル・エルゴート スキ・ウォーターハウス パトリシア・クラークソン
監督:ビル・オリバー

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多重人格ものには豊かな歴史がある。小説そして映画にもなった『 ジキル博士とハイド氏 』から、M・ナイト・シャマランの『 スプリット 』、日本の小説ではJovianだけが面白い面白いと評価している月森聖巳の『 願い事 』などが挙げられる。本作もありきたりのDIDものかと思わせておいて、ちょっとした趣向が凝らされていた。

 

あらすじ

建築事務所にパートタイマーとして務めるジョナサン(アンセル・エルゴート)には、もう一つの人格、ジョンが宿っていた。彼らは午前7時~午後7時、午後7時~午前7時をそれぞれ分け合って生活していた。互いの時間に経験した事柄をビデオ録画することで周囲にDID(Dissociative Identity Disorder)であることを知られずに生活していた二人だったが、いつしかジョナサンはジョンの行動にちょっとした疑問を抱くようになり・・・

 

ポジティブ・サイド

多重人格ものの歴史は長い。異なる人格同士は対立または協力関係にあるのが定石である。本作はどうか。35歳以上の世代なら漫画原作でテレビドラマ化もされた『 銀狼怪奇ファイル〜二つの頭脳を持つ少年〜 』を覚えておられるだろう。本作はそういう物語である。しかし、本作が最もユニークなのは、ジョナサンのもう一つの人格であるジョンの視点を観客と決して共有しないところである。それにより、観る側は否応なくジョンのビデオメッセージの裏読みをしてしまう。いや、それだけではなく、いつしか我々はビデオメッセージそのものがジョンという存在の全てであるかのような錯覚にまで陥る。これは怖いことだ。何故なら、自分という存在の半分が消えてしまったかのように感じるからだ。我々はネット上のフォーラムなど文字や画像だけでやりとりする人間にも親しみを感じる。ハンドルネームだけしか知らない人間が、ある日、突然投稿を止めただけでも不安になる。お気に入りのブログが更新されなくなっても不安になる。ジョナサンとジョンは一心同体・・・ではなく異心同体なので、片方が無事であればもう片方も無事であることが分かる。しかし、自分の身に何が起こったのか分からない。酒にしこたま酔って、道端や終点駅で目覚めた経験のある人なら、分かる感覚だろう。ジョナサンの不安を、アンセル・エルゴートは巧みに表出していた。

 

異なる人格が同じ女性と恋に落ちるというストーリーは、Jovianは映画や本で体験したことは残念ながらない。だが、これはかなりバナールなプロットではないだろうか。陳腐でありながら、しかし、その後の展開が切ない。観る者の想像力を掻き立てる見せ方、映し方は、低予算映画の常套手段である。それを室内の鏡やテーブルなど、光を反射する素材を効果的に使い、インターミッションとして暗転を用いることで、一人にして二人、一人にして不連続の存在を、映画的演出で以って描写できていた。静謐にして激しい、非常に示唆に富むエンディングには賛否両論あるかもしれないが、あれはジョンを主人格、ジョナサンを副人格とした、新たな一個人の誕生であると受け止めたい。

 

ネガティブ・サイド

残念ながら、すでに『 シンプル・フェイバー 』で既に使われたネタが本作にも仕込まれている。まあ、それも飛浩隆の『 象られた力 』所収の短編『 デュオ 』が先行して使っているトリックであるのだが。

 

また、ジョナサンの抱えるDIDは、医学的に存在しうるケースなのだろうか。別人格は生まれてくるものであって、生まれながらにDIDであるという点に疑問が残った。同時に、『 ミスター・ガラス 』でも感じたことだが、人格の交代をコントロールしうる装置が存在することにどうしても納得ができない。外部環境の改善やコミュニケーション、カウンセリングにより複数の人格も統合しうることを小説『 十三番目の人格 ISOLA 』およびその映画化作品『 ISOLA 多重人格少女 』は示した(小説は面白いが、映画はスルー推奨である)。パトリシア・クラークソンなら、『 スプリット 』におけるベティ・バックリーに匹敵するようなカウンセラーを演じられたはずなのに、どうしてこうなった・・・

 

総評

サスペンスフルであり、スリラーテイストもあり、SF的でありながら、ヒューマンドラマでもある。ジャンルとしては、ボーイズ・ラブが一番近いのかもしれない。『 銀狼怪奇ファイル〜二つの頭脳を持つ少年〜 』を楽しめたという人なら、本作もおそらく楽しめるはずだ。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アメリカ, アンセル・エルゴート, サスペンス, スキ・ウォーターハウス, スリラー, パトリシア・クラークソン, ラブロマンス, 監督:ビル・オリバー, 配給会社:プレシディオLeave a Comment on 『 ジョナサン -ふたつの顔の男- 』 -多重人格ものの実験的作品-

『 クリミナル・タウン 』 -凡百のクライム・サスペンス-

Posted on 2019年6月11日2020年4月11日 by cool-jupiter

クリミナル・タウン 30点
2019年6月10日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:アンセル・エルゴート クロエ・グレース・モレッツ
監督:サーシャ・ガバシ

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アンセル・エルゴートとクロエ・グレース・モレッツの共演ということで、劇場公開時に何度かなんばまで観に行こうと思っていたが、どうにもタイミングが合わなかった。そして当時の評判も芳しいものではなかった。だが、評価は自分の目で鑑賞してから下すべきであろう。

 

あらすじ

ワシントンDCの一角で、男子高校生が射殺された。警察が捜査するも、その方向性がアディソン(アンセル・エルゴート)には的外れに見える。業を煮やしたアディソンは独自に事件の捜査を進めていくが・・・

 

ポジティブ・サイド

Jovianは2015年に、大阪市内でワシントンDCからやってきたアメリカ人ファミリーと半日を過ごしたことがある(詳細は後日、【自己紹介/ABOUT ME】にて公開予定)。その時に、「DCの一角では毎日のように殺人事件が起きている」と聞いた。そうしたことから、本作には妙なリアリティを感じた。さっきまで普通に会話をしていた同級生が殺されたことに対する周囲の反応の薄さ、それに対するアディソンの苛立ち、若気の無分別による暴走を、アンセル・エルゴートはそれなりに上手く表現していた。

 

ネガティブ・サイド 

クロエ・グレース・モレッツ演じるフィービーというキャラは不要である。彼女の存在は完全にノイズである。86分という、かなり短い run time であるが、フィービーのパートを全カットすれば60分ちょうどに収まるだろう。はっきり言って脚本家が一捻りを加えることができずに、苦肉の策でアディソンとフィービーの初体験エピソードをねじ込んだのではないかと思えるほどに、ストーリーは薄っぺらい。

 

薄っぺらいのはアディソンの母親に関するエピソードもである。『 ベイビー・ドライバー 』とそっくりなのだが、母親の幻影をいつまでも追い求めているような心情描写も無いし、フィービーにセックスを求める一方で、母性を求めたりはしない。矛盾しているのだ。父親役のデビッド・ストラザーンも米版ゴジラ映画に連続で出演したりと、決して悪い俳優ではないが、高校生の父親役として説得力を持たせるにはかなり無理がある。年齢差があり過ぎる。

 

肝心の同級生ケビンの殺害の真相も拍子抜けである。というよりも、アディソンも気付け。友人の死と周囲の無関心に苛立つのは分かるが、死者を想い、死者を悼むために必要なのは、真相の追究ではなく、まずはその死を受け入れることだ。校長に突っ込みを入れるタイミングもワンテンポ遅れている。トロンボーンではなくトランペットであるならば、即座にそのことを指摘すべきだ。生者が死者を鎮魂するには、記憶を、思い出を持ち続けることが第一なのだから。

 

総評

ミステリとしてもサスペンスとしてもジュヴナイルものとしても非常に貧弱な作品である。何故こんな杜撰な脚本が通り、それなりに知名度も人気もあるキャストを集めてしまえるのか。そこにこそ本作最大のミステリが存在する。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, E Rank, アメリカ, アンセル・エルゴート, クロエ・グレース・モレッツ, サスペンス, ミステリ, 監督:サーシャ・ガバシ, 配給会社:ギャガ・プラスLeave a Comment on 『 クリミナル・タウン 』 -凡百のクライム・サスペンス-

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