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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 配給会社:日本ヘラルド映画

『 バンパイアハンターD 』 -孤高の戦士像の頂点-

Posted on 2025年3月4日 by cool-jupiter

バンパイアハンターD 80点
2025年3月2日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:田中秀幸
監督:川尻善昭

 

念願の theatrical re-release ということでチケット購入。

あらすじ

遥かなる未来。科学文明は衰退し、人類は貴族と呼ばれるバンパイアの食料だった。しかし、バンパイアにも種としての寿命が来つつあり、人類はバンパイアを刈るハンターの存在を渇望した。そこにバンパイアと人間の混血児、ダンピールのD(田中秀幸)が現れ・・・

ポジティブ・サイド

たしか小学生ぐらいの頃に最初の映像化作品をテレビで観た記憶がある。Dが気絶していて、左手が地面をザクザク掘って、空中に向かってビームを発射してたかな。その場面の前後だけを見て、後で新聞のテレビ欄で『 吸血鬼ハンターD 』だと知った。ということで、実は本作は今回初めて観たが、素晴らしいクオリティだった。

 

まず天野喜孝のDのデザインのクオリティが高い。青白い顔に全身黒ずくめ、そして漆黒の馬を駆る姿はゴシック的ファッションの一つの極致だ。半人半妖または半人半魔という存在はゲゲゲの鬼太郎からデビルマンまで数多くいるが、そうしたキャラクターの中でもトップクラスに、というかダントツで一番のカッコよさである。また、謎の人面瘡に規制された左手は、寄生獣を想起させるし、悠久の時の中を孤独に彷徨し続けるという点で『 BLAME! 』の霧亥にも影響を与えていてもおかしくない。漫画『 CLAYORE 』の元ネタも本作(というか『 吸血鬼ハンターD 』)なのではないかと個人的に思っている。

 

アニメーションは美麗で、CGなどは当然なし。古いと言えば古いのだが、科学文明の退廃した世界と中世暗黒時代の社会を融合させた世界観は、CGというテクノロジーでは再現できないように思われる。

 

マイエル=リンクとシャーロットの関係も深い。食う側と食われる側で深い友情や愛情が成り立つのか、もっと言えば搾取する側の上級民と搾取される側の下級民が結ばれるのかというテーマを内包していて、今という時代に劇場再公開される意味がここにもある。

 

シャーロット奪還を目指す別のバンパイアハンターのマーカス兄弟も、咬ませ犬と見せかけて相当な実力者。マイエル=リンクやバルバロイの手練れたちの激闘は見応えがあった。Dと闘い、時にはDと共闘関係にもなる中で、レイラとDが絶妙の距離感に落ち着く展開も味わい深い。その伏線も馬を売ってくれる爺さんと言う存在によって巧妙に張られているなど芸が細かい。

 

マイエル=リンクとDの決着も実に興味深かった。ダンピールという半分人間、半分バンパイアが人間と駆け落ちしようとするバンパイアを討とうとする。そこには大きな矛盾があるが、その矛盾を超えた敵の存在と、その矛盾が矛盾ではなくなる筋立てには唸らされた。

 

エンディングも印象深い。死ぬべき人間と半不死のD、交わることはできなくとも、尊重し合う、理解し合うことはできるのだという終わり方は、現代日本社会の在りように対してのメッセージになっているのではないだろうか。

ネガティブ・サイド

Dと馬の関係を見てみたかった。どんな悪路も踏破し、どんな場所でも果敢に突っ込んでいく名驥に育っていくのかという描写がほしかった。

 

黒幕のカーミラがちょっと呆気なかった。もっと重々しいキャラでいてほしかった。

 

総評

ファンタジーとSFのマリアージュにして、ゴシックホラーの傑作。貴族と人間という階級差、そして混血児としてどちらの出自にも完全に属すことができない男という設定は、現代において更に深みを増している。日本語吹き替え版では数々の名優の演技も堪能できる。上映が延長になったというニュースも聞こえてくるほど好評なので、ぜひ多くの方に鑑賞いただきたいと思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

bounty hunter

賞金稼ぎの意。考えてみれば、仕事を通じて金を得ているという意味では我々はみな賞金稼ぎだと言えるかもしれない。特にITや教育といった分野は独立しやすく、かつ様々な案件を他の同業者たちと奪い合うという意味ではまさに賞金稼ぎと言えるかもしれない。そんな風に働いてみたいと思ったり思わなかったり・・・

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 プロジェクト・サイレンス 』
『 コメント部隊 』
『 ゆきてかへらぬ 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2000年代, A Rank, SF, アニメ, ファンタジー, ホラー, 日本, 田中秀幸, 監督:川尻義昭, 配給会社:日本ヘラルド映画Leave a Comment on 『 バンパイアハンターD 』 -孤高の戦士像の頂点-

『 南極物語 』 - 南極でサバイバルする犬を活写する-

Posted on 2022年6月2日 by cool-jupiter

南極物語 75点
2022年5月30日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:高倉健 渡瀬恒彦
監督:蔵原惟繕

NHKの『 歴史探偵 』で南極タロジロ物語を観て、「そういえばVHSで観たな」と思い出した。しかし覚えていたのはオーロラのシーンだけ。今回あらためて鑑賞して、なかなかのリキ作であると感じた。

 

あらすじ

国際地球観測年、日本は南極へ第一次観測隊を派遣する。その中には犬ぞりを引くための22頭の犬の姿もあった。第一次観測隊は、犬たちを南極基地に残したまま第二次観測隊と入れ替わろうとするも、天候が急激に悪化。隊は基地に入れず、犬たちは南極に取り残されてしまい・・・

 

ポジティブ・サイド

南極の過酷さがよく出ている。実際に多くのシーンは南極で撮影したらしい。荒ぶる海、どこまでも続く極寒の大地、凍てつく風。むき出しの自然の荒々しい力が画面越しにも伝わってくる。近年の邦画にはない、非常に角度の広い、そして奥行きの深い絵がこれでもかと映し出される。映画館の大画面なら、どれほどの迫力があっただろうか。

 

1980年代なら第一次観測隊のメンバーの多くが存命だろうから、製作者や役者隊も存分に隊員たちに取材ができたことだろう。日焼け具合に無精ひげ、伸びきった髪などが、極地までの旅路、そして極致での生活がどんなものであるのかを雄弁に物語る。説明的なセリフを挿入すりゃいいんだろ、と開き直り気味の現代の作り手は、このあたりを大いに意識すべきだろう。犬ぞりでの南極観測も自然の大スペクタクルを堪能させてくれる。凍てつく大地の乾いた空気に、ヴァンゲリスの音楽が非常にマッチしており、この絵と音楽だけで画面に文字通り釘付けになってしまう。

 

人間パートも熱い。救助に来てくれたアメリカ艦船の乗員に啖呵を切るのはどうかと思うが、当時の日本人あるいは映画の作り手には日本人としての誇りや矜持があったことがひしひしと伝わる。また高倉健が「それなら自分が犬を殺してくる」と宣言するシーンも史実なのだろう。普通なら「そこまで思うか?」と感じるだろうが、見渡す限り無人の氷原で、人と犬が昼夜を問わず行動を共にすれば、連帯感などという言葉では生温い紐帯が生まれても不思議ではないだろう。

 

その南極で生き抜く犬たちのドラマが渋い。ほとんど推測なのだろうが、アザラシを襲ったり、氷に閉じ込められた小魚を食べたりというのは実際に考えられそうだし、そうした絵を実際に撮ってしまう構想力に感服する。犬たちの関係性、協力、別離、再会、生存が人間の介在なしに濃密に描かれていく。オーロラのシーンは特に素晴らしい。過酷すぎる大地にほんの少しの福音を予感させている。氷の斜面を犬が滑落したり、氷海に落ちたりと、いったいどうやって撮影したのか分からないが、雪に人間の痕跡を一切残さずこれらのシーンを全て撮り切ったのには脱帽するしかない。ドッグトレーナーにも I take my hat off.

 

犬たちが雄々しく生き、そして死んでいく一方で、高倉健は大学を辞して、犬の飼い主たちへのお詫び行脚に出る。それがまた痛々しい。特にある姉妹にリキのことを詫びる高倉健が、すべてを飲み込んでただただ沈黙する場面は名シーンである(演じている姉が若き日の荻野目慶子なのだ)。また渡瀬恒彦も婚約者との仲睦まじさを見せつけるが、完全に心ここにあらず状態。魂を南極に置き忘れてきた男を好演した。南極の男たちが日本本土で世捨て人同然になってしまう。しかし、南極の大地に再び舞い戻ってタロとジロと再会することで生気を取り戻すというコントラストが最後の最後に鮮やかに際立つ。「生きる」ということの尊さに、人も犬もないということがよく分かるリキ作である。

 

ネガティブ・サイド

製作された年代が年代とはいえ、渡瀬恒彦が犬たちに本物の鞭をふるうシーンは観ていて本当に痛々しい。犬好きにはお勧めしづらい作品になってしまっている。

 

南極隊員と犬の関係者ばかりにフォーカスしすぎで、世間一般の反応についてもう少し描写があってもよかった。当時の報道によって、一般大衆からはボロクソに叩かれたらしいが、そうした世間からの容赦ないバッシングがあれば、高倉健や渡瀬恒彦らの打ちひしがれた姿がもっと印象的になったかもしれない。

 

南極の氷原を犬ぞりで駆けていくシーンのカメラの手ブレが酷い。酔いそうになった。当時の技術的限界かもしれないが、信じられないくらいブレまくるシーンがいくつかあるので、そこも鑑賞時は注意を要する。

 

総評

『 ハチ公物語 』や『 マリリンに逢いたい 』など、1980年代の邦画には犬をテーマにした良作映画があったのだなあと懐かしく感じた。またJovian世代は子どもの頃にちょうど『銀牙 -流れ星 銀-』を漫画またはテレビアニメで観ていた。なので、本作のタロやジロたちもある程度勝手に脳内で喋らせることができたりする。犬好きなら是非観よう。高倉健や渡瀬恒彦といった大御所も出ている中、こっそり佐藤浩市も出演している。今の時代には珍しくなってしまった飾らない人間の物語、そして犬たちのドラマが堪能できる。若い世代にも観てほしい。



Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

sled

「そり」の意。あまりなじみのない言葉かもしれないが、ボブスレー = bobsled だと分かれば理解・記憶しやすいだろう。ちなみにそりには sleigh もあるが、こちらは sled よりも乗る位置が高いものを指す。クリスマスの定番曲『 Jingle Bells 』の Jingle bells, jingle bells, jingle all the way. Oh what fun it is to ride in a one-horse open sleigh. という歌詞からサンタクロースの乗るそりを連想されたし。ボブスレーは直接雪と接するが、サンタの座っている部分は雪とは直接は接しない。   

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 1980年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 歴史, 渡瀬恒彦, 監督:蔵原惟繕, 配給会社:日本ヘラルド映画, 配給会社:東宝, 高倉健Leave a Comment on 『 南極物語 』 - 南極でサバイバルする犬を活写する-

『 銀河鉄道の夜 』 -ファンタジーの傑作-

Posted on 2022年4月30日 by cool-jupiter

銀河鉄道の夜 85点
2022年4月26日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:田中真弓 坂本千夏
監督:杉井ギサブロー

『 銀河鉄道999 』シリーズで野沢雅子の声に久々に触れたが、やっぱりイメージとしては孫悟空。ならばクリリン=田中真弓が主人公であり、『 銀河鉄道999 』の元ネタでもある本作も観てみたいと感じ、近所のTSUTAYAでレンタル。

 

あらすじ

病弱な母と共に北の海の漁から帰らない父を待つジョバンニ(田中真弓)は、星祭りの夜も同級生たちになじめず、町はずれで空を眺めていた。すると空から汽車が現れた。乗りこむと、そこには友人のカムパネルラ(坂本千夏)がいた。二人は不思議な銀河の旅に出るが・・・

 

ポジティブ・サイド

宮沢賢治といえば子ども向け作品のイメージが強かったが、それは非常に表面的な見方だった。何年か前の『 コズミックフロント☆NEXT‏ 』で『 銀河鉄道の夜 』は賢治の時代の最先端の天文学の知識が反映されていたと知って大いに驚いたことを思い出した。

 

『 風の谷のナウシカ 』は小学校の体育館で観たが、本作も確か小3か小4の頃にやはり体育館で観た覚えがある。その後、高校2年生の頃に講談社のバイリンガル文庫の『 銀河鉄道の夜 』を岡山の紀伊国屋で買って読んだ。そうした懐かしい記憶が蘇ってきた。

 

本作は「文部省特選」と銘打たれているが、子ども向けの作りとは言い難い。冒頭から木の葉落としのように学校に迫っていくカメラワークや、薄暗い教室、クラスメイトに影口をたたかれる少年、活版印刷所で大人に混じって働くも、その大人たちにも揶揄される。父は家に帰って来ず、母親も病身。ジョバンニは幸せとは言い難い。しかし、それこそが賢治が伝えたかったことなのだろう。

 

銀河鉄道に乗ったジョバンニがカムパネルラと共に訪れ、目にする光景はどれも美しく、そして悲劇的である。120万年の時を駆けた証のくるみも、あっという間にボロボロになってしまう。せっかく知り合えた大人や同年代の他者を疎ましく思ってしまう。ジョバンニは自分の小さな幸せを奪われる、あるいは壊されると感じてしまうが、幸せの形とはそのようなものではない。幸せは与えられるものではなく、与えるものである。自己犠牲の先に幸せがある。そう受け取るのは簡単だが、それだけがメッセージではないようにも思う。カール・ブッセの『 山のあなた 』のように、幸せとは常にそれを追い求めていく対象であって、手に入れる対象ではないのだとも言える。ハッピーエンド=父親が帰ってくるかどうかはっきりしないという本作の結末そのものが、それを示唆しているように感じる。

 

キャラクターを猫にしてしまうことで物語の幻想度が増している。これはこれでありだと思う。また絵そのものの美しさも際立っている。ジョバンニたちの住む町の欧風かつオリエンタルなデザインも非常に味わい深い。2010年代後半以降のアニメは光の力が強すぎたり、あるいはキャラが不気味にゆらゆらと動くところが個人的にはしんどい。この時代のアニメーションの方がオッサンにはありがたい。細野晴臣の珠玉のBGMも本作を傑作タラ占めている。ジョバンニの心象風景をそのまま音楽にのせて、観る側にダイレクトに伝えてくる。何でもかんでもナレーションや説明的なセリフにしてしまう今のクリエイターたちに、もう一度基本に立ち返ってほしいと、本作を鑑賞してあらためて感じた。

 

観終わった直後に repeat viewing したが、数々の伏線の妙に驚かされた。特に最後のナレーションで「命は青い照明の明滅」だと語られるが、それがオープニングのクレジット・シーンに反映されていることに衝撃を受けた。他にもジョバンニがカムパネルラ家でアルコールで走る汽車の模型を見たという話は、『 オズの魔法使 』を思い起こさせた。ドロシーはオズへ行ったのか、それとも竜巻の衝撃で頭を打って、一時的な夢を見たのか。それと同じで、ジョバンニは本当に銀河鉄道に乗ったのか、それとも丘の上で一時的にまどろんだだけなのか。いかようにも解釈できるところが本作の素晴らしいところである。

 

ネガティブ・サイド

タイタニック号沈没のシーンは、東日本大震災と津波の被害をリアルタイムで経験した人にとっては相当に苦しい時間になりそう。もちろん賢治がそんなことを予見できるはずもないのだが。

 

無線技士の受け取る謎のメッセージをもう少しだけ鮮明にしてくれれば良かった。ここを海の事故を暗示するものではなく、北の海の漁船が帰ってくるという暗示のようなものにすれば、全体的に重苦しい雰囲気が少しは和らいだものになったと思う。

 

総評

文字通り時を超えた名作。少年の友情物語として鑑賞することもできるし、壮大なファンタジーとしてもアドベンチャーとしても解釈できる。正義・友情・勝利という、少年ジャンプ的な世界観や、2000年代以降のだらだらとした日常系とも一線を画している。親としても自分の子どもに安心して見せられる作品である。もちろん、大人も一緒に鑑賞して、子どもたちが抱くであろう様々な疑問に自分なりに答えてやってほしい。自分でも今度甥っ子たちに買ってやろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

speak ill of ~

~の悪口を言う、の意。ザネリのような子どもはいつの時代もいる。それはしょうがない。Ill weeds grow fast. 憎まれっ子世に憚る、である。ただ、ザネリたちのジョバンニへの態度は make fun of ~ = ~をからかう、笑いものにする、馬鹿にする、がより適切な訳かとも感じる。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 1980年代, A Rank, アニメ, ファンタジー, 坂本千夏, 日本, 田中真弓, 監督:杉井ギサブロー, 配給会社:日本ヘラルド映画Leave a Comment on 『 銀河鉄道の夜 』 -ファンタジーの傑作-

『 愛人/ラマン 』 -セックスから始まる悲恋の物語-

Posted on 2020年5月16日 by cool-jupiter

愛人/ラマン 75点
2020年5月15日 レンタルBlu rayにて鑑賞
出演:ジェーン・マーチ レオン・カーフェイ
監督:ジャン=ジャック・アノー

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『 月極オトコトモダチ 』とは裏腹のテーマの作品を鑑賞してみたいと思い、本作があったなと思い出した。確か大学生3年生ぐらいの時に、当時急成長中だったTSUTAYAでVHSを借りて観た。当時、純情だったJovian青年は『 ロミオとジュリエット 』のオリビア・ハッセーを観た時と同じくらいの衝撃を味わったのだった。

 

あらすじ

20世紀初頭のフランス領インドシナ。少女(ジェーン・マーチ)は偶然にも裕福な華僑青年(レオン・カーフェイ)と知り合い、性的な関係を持つようになる。愛のないセックスに耽る二人だが、少女も青年も家族に問題を抱えており・・・

 

ポジティブ・サイド

主演の一人、レオン・カーフェイが、『 グリーンブック 』で言及した韓国系カナダ人にそっくりなのである。それが原因なのかもしれないが、異邦人の悲哀が確かに感じられた。YouTubeに行けばいくらでもinterracial relationshipにあるカップルたちの日常の動画や結婚生活、喧嘩の模様などが赤裸々に語られている時代である。それは取りも直さず、ようやく時代がinterracial relationshipを許容できるようになってきたことの表れでもある(移動や情報公開のテクノロジーが行き渡った面も無論あるが)。一方で20世紀前半のインドシナで、華僑の青年と宗主国フランスの少女という、互いにアウェーな状況は、どこか『 ロスト・イン・トランスレーション 』を彷彿させた。実際に、日本語に英訳がつかなかったように、本作でも中国語に字幕が存在しない。仕事をせずとも暮らしていける富裕なこの男は世界に居場所がない。その居場所として少女を見出していく様ははかなげで悲しい。スーパーリッチなアジア人青年キャラクターとして『 クレイジー・リッチ! 』のニックが思い出される。本作の華僑青年のキャラクター造形はニックに影響を与えていてもおかしくない。

 

もう一人の主演であるジェーン・マーチは、まさにこの限られた時期にしか発揮することのできない魅力や魔力を存分に発揮したように思う。『 ガール・イン・ザ・ミラー 』でも感じたことだが、邦画の世界には脱げる役者が少ない。男でも女でもである。その意味では本作は、30年前の映画でありながら邦画の30年先を行っている。つまりは stand the test of timeな作品である。脱ぐから偉いのではなく、その瞬間にしか作れない作品をしっかりと作り、世に送り出している。本邦では、脱ぐ=話題作り、落ち目女優の勝負、体当たりの演技ぐらいにしか捉えられない。まことに貧相で皮相的である。脱ぐからセクシーだとかエロティックになるわけではない。聴診器で心音を聞いたり、マンモグラフィー検査や乳房の触診で興奮する男性医師などいない。物質としての女体に男は興奮するのではない。それへの距離を詰めていく過程に最も興奮するのである。嘘だと思うなら本作を具に観よ。最も官能的なのは、車中で男が少女の指に自らの指を重ねていくシークエンスであり、前戯やセックスそのもののシーンではない。

 

監督のジャン=ジャック・アノーは『 薔薇の名前 』でもかなり唐突なセックスシーンを描いていた。確か隠れていたところを見つかった少女が、自分から少年の手を取り、自分の胸を触らせて篭絡していく過程が妙に艶めかしかった。自身の問題意識の中に人間関係とセックスがあったのだろう。セックス=愛情表現と考えがちな男のちっぽけな脳みそではなかなか消化しきれないが、セックス=自己表現の一つとしていたフランス人少女の姿は、色々な因習を突き破ったという意味で本土ではなく植民地における『 コレット 』だったと言えなくもない。

 

主演二人に名前がない設定も素晴らしい。『 母なる証明 』の母にも名前がなかったが、名前を持たないことでその人間の“属性”が一気に肥大化し、かつ“個性”が一気に矮小化される。COVID-19における報道を考えてもらいたい。志村けんや岡江久美子のように、“名前”のある人が死亡すると、我々は戦慄させられる。一方で名前が一切出てこない報道、たとえばイタリアやアメリカの死者数を伝えられても「あの国、ヤバいな」ぐらいにしか感じない。男と女、華僑と白人、青年と少女。様々な属性に縛られる二人の関係を、どうか堪能してほしい。そして、男というアホな生き物の生態に一掬の涙を流してほしい。

 

ネガティブ・サイド

寄宿舎でもう一人いる白人少女との語らいのシーンがもっとあっても良かった。どこの誰が売春をやっていてだとかいう話よりも、男に〇〇したら幼児返りしただとか、演技で男を喜ばせてやっただとか、そういう男を震え上がらせるようなトークが聞ければ、このラマンはファム・ファタール的な属性をも帯びたことだろう。

 

またお互いの家族とのシーンも少々物足りなかった。居場所となるべき家で地獄の責め苦を味わう、あるいは虚無的な気分にさせられる。だからこそ、市場の喧騒のただ中にある“部屋”でセックス三昧になってしまう。それはとてもよくわかる。ただ、「中国人と寝やがって!」と激昂する兄や不甲斐ない母の描写がもっと序盤にあれば、ジェーン・マーチを性に積極的な少女以上の存在に描けていたと思うのである。

 

総評

時を超えて観られるべき作品である。汚らしいメコン川が、なぜか美しく懐かしく感じられる映像世界も素晴らしい。世に悲恋は数多くあれど、たいていは結ばれないままに終わってしまう。本作はいきなり結ばれる。そこから先にどうしても進めないというジレンマが痛々しい。官能シーンも良いが、鑑賞すべきは人間ドラマの部分である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Repeat after me.

リピート・アフター・ミー、つまり「 続けて言ってみましょう 」の意である。セックスの前、最中、もしくは後に女性に何かを言わせたいという男性は多い、というか大多数だろう。それを実際にやったカーフェイに拍手。そして、その行為の余りの悲しさと虚しさに胸が押しつぶされそうになった。Jovianは商売柄、しょっちゅうこのフレーズを使うが、プライベートでこれを言う、もしくは言われるようになれば、あなたは英会話スクールを卒業する時期に来ていると言える。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1990年代, B Rank, イギリス, ジェーン・マーチ, フランス, ラブロマンス, レオン・カーフェイ, 監督:ジャン=ジャック・アノー, 配給会社:日本ヘラルド映画Leave a Comment on 『 愛人/ラマン 』 -セックスから始まる悲恋の物語-

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