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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 配給会社:ギャガ・プラス

『 ビューティー・インサイド 』 -韓流ファンタジーの秀作-

Posted on 2021年5月18日 by cool-jupiter

ビューティー・インサイド 80点
2021年5月15日 Amazon Prime Videoにて鑑賞
出演:ハン・ヒョジュ イ・ドンフィ
監督:ペク

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210518003548j:plain
 

ファンタジーといっても剣と魔法と竜の世界ではない。実験的なラブロマンスと言った方が正しいかもしれない。ハン・ヒョジュの魅力が存分に堪能できるが、それ以上に恋愛や人間関係の本質についての深い考察がある。

 

あらすじ

キム・ウジンは18歳の頃から、寝て起きるたびに顔かたちが変わってしまうようになった。以来、人と会うことができず、交流があるのは母親と親友のサンベク(イ・ドンフィ)だけ。家具のデザイナーとして、ネットを使ってビジネスで生計を立てていた。ある時、家具屋で働くイス(ハン・ヒョジュ)に一目惚れしたウジンは、彼女にふさわしい顔になるのを待って、イスをディナーに誘うが・・・

 

ポジティブ・サイド

ハン・ヒョジュがひたすらに魅力的である。ドラマ『 トンイ 』は全話リアルタイムで観たが、ドラマよりも映画の方が映えるように思う。びっくりするような美人ではないが、いつまでも眺めていたくなる美しさがある。どこか上流階級の匂いを放っているが、嫌味なところが一切ない。Jovianも大昔のガールフレンドに「女の子はいつも不安でいっぱいなんだぞ」と説教されたことがあるが、そうした不安を表す表情も素晴らしいと思う。ハン・ヒョジュを指して清純派女優と評する日本の映画レビューサイトやライターが多いが、何か思い違いをしているように思う。濡れ場を演じないのが清純派ではない。濡れ場を演じても、色気よりも美しさや気高さを感じさせる。清純派とは、そういう女優を指す。その意味では、ハン・ヒョジュは『 ただ君だけ 』でも本作でも証明したように、間違いなく清純派であろう。まあ、濡れ場といっても肝心なところは何も見えない非常にソフトな描写なんだけれどもね。

 

他の主要キャラとしては、ウジンの親友のサンベクがクッソ面白い。邦画のロマンスでは、主人公の男の親友は往々にして物分かりの良い理解者で、非常に清い友情を保っている。だが、このサンベク。中年おばちゃんになってしまったウジンとの会話で、「俺の好きな日本の女優は?」と問い、しかもその答えが「蒼井そら」。笑うしかない。さらに、ウジンとイスのALX事務所でのお寿司デートの現場で、ラブチェアを揺らしながら「やめて、やめて」と日本語で言う。こんなん笑うしかないやん。しかし、この男、バカではない。親友をイスに取られたことの悔しさを隠そうとしない男らしさがある。本物の友情がある。そして、イスに対して本当自分が感じていることを告げるだけの度胸と、イスにどう思われても構わないというだけの度量がある。なぜ邦画はこういう脇役を生み出せないのか。

 

順調に見えたウジンとイスの関係だが、ちょっとしたことをきっかけに綻びが生まれてしまう。だが、ウジンは男というアホな生き物なので、不安な女子であるイスの気持ちが分からない。このあたりのすれ違いには純粋に胸が痛くなる。『 ただ君だけ 』でも、終盤にハン・ヒョジュが主人公に気づかずに行ってしまうという、胸が潰れそうになるシーンがあるが、本作はそれをなぞっている。いや、ある意味では『 ただ君だけ 』以上に辛く悲しい。なぜなら、ウジンには顔がなく、イスもウジンの顔を思い出せないから。触ったり、声を聴いたりしたら認識できるわけではないということがウジンの悲劇性を高めている。

 

しかし、よくよく考えてみれば、我々の顔だって年月とともに変わる。20歳と40歳で全然違う顔になっている者もいれば、40歳と70歳で別人になる者だって珍しくない。人を愛するとは、人を愛することであって顔を愛することではない。『 君の名は。 』で少し述べたが、夫婦とはお互いにしか通じないジェスチャーやパロールを作り上げる過程と言えなくもない。そういう意味で、ウジンとイスの関係は、恋人同士よりも夫婦になってこそ輝くものであるように思う。これは素晴らしい恋愛ファンタジーだ。

 

ネガティブ・サイド

素朴な疑問として、ウジンはどうやって運転免許を取ったのだろうか。18歳で寝るたびに顔が変わってしまうようになったというが、その時は制服を着ていた。つまり高校生だったわけで、車の免許はいつ取ったのだろう。何かそのあたりの描写が欲しかった。

 

終盤でウジンは韓国の外に行ってしまうわけだが、パスポートはどうやって取得したのか。日本ではどんなに早くても申請から受け取りまでは1週間はかかるはず。韓国は1~2日で発行されるのだろうか。仮に同じ顔で受け取れたとしても、渡航先のチェックをどうやって潜り抜けたのだろうか。国内のどこか別の都市で良かったのではないかと思う。

 

総評

韓国映画の極端さが良い方向に出た秀作。超極端な設定ながら、人間関係・男女関係の普遍的な芯は外していないという丁寧なつくり。主役を100人以上が演じながら、違和感を抱かせない演出力。日本ネタや日本語セリフもあるので、韓国映画ファンのみならず、邦画ファンにも堪能してほしい。若いカップルの巣ごもり鑑賞にも適しているし、ベテラン夫婦も大いに楽しめるはずだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

There’s no one here by that name.

「ここにそのような名前の者はおりません」の意。電話での応答にも使える。ついつい with that name と言いたくなってしまうが、こういう場合の前置詞は by である。 go by the name of  ~ =「~という名前で通っている」または go by the nickname of ~ =「~というニックネームで通っている」というような時にも by を使う。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, イ・ドンフィ, ハン・ヒョジュ, ファンタジー, ラブロマンス, 監督:ペク, 配給会社:ギャガ・プラス, 韓国Leave a Comment on 『 ビューティー・インサイド 』 -韓流ファンタジーの秀作-

『 海底47m 』 -二兎を追うべからず-

Posted on 2020年8月3日 by cool-jupiter

海底47m 50点
2020年8月1日 Amazon Prime Videoにて鑑賞 
出演:マンディ・ムーア クレア・ホルト
監督:ヨハネス・ロバーツ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200803000349j:plain
 

夏と言えば海、海と言えばサメ。映画ファンにとってはサメ、そしてゾンビの季節が到来した。アメリカでの評判がイマイチ、というか賛否両論あって劇場公開時にスルーしてしまった作品。続編からC級パニックスリラーの臭いしか漂ってこないので、これは見るしかないと思い、本作を予習鑑賞。

 

あらすじ

リサ(マンディ・ムーア)とケイト(クレア・ホルト)は仲の良い姉妹。メキシコでリサのボーイフレンドであるステュを交えて楽しいバカンスを過ごすはずが、リサはすでにフラれてしまったことを言い出せずにいたのだった。傷心のリサを「つまらない女じゃない」と分からせてやろう、と励ますケイト。二人は遊びに出かけたクラブで会った男たちから勧められたシャーク・ケイジ・ダイビングに挑戦することになったのだが・・・

 

ポジティブ・サイド

パニックものは大きく二つに分けられる。未知の生物あるいは現象によって人々がパニックになるもの、そして状況そのものによって人々がパニックになるもの。COVID-19は未知のウィルスであるが、コロナウィルスに属する、または類するという点では既知とも言える。だからこそ人々はそこまでパニックに陥ってはいないし、どこか現実感も薄い。相手が目に見えないからだ。もう一つの状況型だが、これの良いところは、その怖さをたいてい体験したことがある、あるいはありありと想像できるところにある。その意味では本作の「海の底に沈められる」というのは、とてつもなく怖いシチュエーションである。窒息および溺死の恐怖が常にそこにあるからだ。

 

そこにサメ、しかも狂暴なホオジロザメを放り込んでくるのだから豪勢だ。サメ映画とはすなわち、人間がホオジロザメに襲われる、または喰われる。これである。サメなんか見たことないよ、という人も古典的名作『 ジョーズ 』のタイトルは聞いたことぐらいはあるだろうし、ジョーズのテーマ曲は絶対に聞いたことがあるはずだ。殺されるよりも怖いことの一つに、生きたまま喰われるというものが挙げられるだろう。ホオジロザメはその恐怖を味わわせてくれる数少ない生き物である。

 

海中および海底で酸素が徐々に尽きていくという恐怖。そしてどこにいるか分からない、いつ襲ってくるか分からないホオジロザメの恐怖。これらが二重に組み合わさった本作は、夏の風物詩であるB級サメ映画として、近年ではなかなかの掘り出し物である。オチも適度にひねりが効いている。#StayHomeしてレンタルやストリーミングで楽しむには充分だろう。

 

ネガティブ・サイド 

まずシャーク・ケイジ・ダイビングをやろうとする動機が不純である。というか、つまらない。男にフラれた。その男に振り向いてもらいたい、自分は退屈な女じゃないと証明したい・・・って、リサ、お前はアホかーーーー!!!何故そこでサメが出てくるのか?元カレを振り向かせたいのなら、色々な男と遊びまくって、それでもステディは誰にも決めていないということをアピールせえよ!姉妹で遊ぶのもいいけど、普通の男友達数人と普通に遊べよ。その方がよっぽどアピールになるはず。まず、シャーク・ケイジ・ダイビングをするまでのプロットに無理があり過ぎる。おそらく元カレ役の俳優を出すと、それだけギャラが生じて、映画全体の budget を圧迫したのだろう。

 

海中でも、サメは思ったほどは出てこない。これも低予算ゆえか。観る側はサメ映画だと期待しているわけだが、サメの登場頻度が高くなく、なおかつこのサメ、目は見えているにも関わらず、次から次へと目標を外す。サメの登場シーンを作るためだけのシーンで、真に迫ったスリルと恐怖が生み出せていない。観る側にハラハラドキドキを起こさせたいのなら、その対象を一つに明確に絞るべきだった。サメを優先するなら、救助に来たダイバーたちを次々に食い殺すといった展開が考えられるし、酸素ボンベの残量を優先するなら、起死回生の頭脳プレー、例えば海中に不法投棄されたゴミやら何やらを使って酸素を作る、あるいは海上と連絡をつけるなどの展開も考えられる。本作は贅沢にも両方の展開を盛り込もうとして、サメの方が疎かになってしまった。本末転倒である。

 

Jovianはダイビングをしたことがないが、本作にはツッコミどころが山ほどある。テイラーやハビエルはシャーク・ケイジ・ダイビングでビジネスをする許可を当局から得ているのか?また、ケイジの底が板や網ではなく、目の大きい格子になっているのもおかしい。あれだと足がハマって動けなくなったり、もしくは飛び出た足をサメに食いつかれたりするかもしれないではないか。体長1メートルぐらいのサイズのサメなら、飛び出た足や腕をガブリとやることも十分に考えられる。

 

また、リサとケイトは顔の前面だけをマスクで覆っているが、あれで耳は聞こえるのか?いくら水の方が空気よりも音の伝導効率が高いとはいえ、マスクの中の空気の振動は水にまでは伝わらないだろう。本作の水中での会話シーンは何から何まで不可解だ。海上の船とも無線で交信するが、骨伝導型の無線でも使っているというのか。監修にプロのダイバーを起用しなかったのは、これも低予算ゆえか。

 

最大のツッコミどころは、ストーリーのオチだろうか。これはこれでアリだとは思うが、『 ゴーストランドの惨劇 』のように、そこからもう一波乱を生み出せれば、“ちょっと面白いサメ映画”から“かなり面白いサメ映画”になれただろうにと感じる。

 

総評

ちょっと面白いサメ映画であり、ツッコミどころ満載のシチュエーション・スリラーである。細かいストーリーや様々なガジェットのディテールを気にしては負けである。ハラハラドキドキを期待して、そしてハラハラドキドキできる場面を最大限に味わうのが本作の正しい鑑賞法である。90分とコンパクトにまとまっているので、#StayHomeに最適だろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

break up with ~

~と別れる、の意である。しばしば romantic relationships の文脈で使われる。同じような表現に、split up with ~やpart ways with ~があるが、恋愛のパートナーと別れるという時の最も一般的な表現といえば、break up with ~で決まりである。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, イギリス, クレア・ホルト, シチュエーション・スリラー, パニック, マンディ・ムーア, 監督:ヨハネス・ロバーツ, 配給会社:ギャガ・プラスLeave a Comment on 『 海底47m 』 -二兎を追うべからず-

『 イット・カムズ・アット・ナイト 』 -“イット”・ムービーの拍子抜け作品-

Posted on 2019年7月16日 by cool-jupiter

イット・カムズ・アット・ナイト 40点
2019年7月15日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジョエル・エドガートン
監督:トレイ・エドワード・シュルツ

スティーブン・キング原作の『 IT イット 』、『 IT イット “それ”が見えたら、終わり。 』に代表されるように、Itは元々、正体不明の存在を意味する。身近なところでは、It is a beautiful day today. や It’s really cold in this room.、It’s not that far from here to the station. などのような英文の主語It は、それ単独では意味が決定できない。必ずそれに続く何かがないと、天気なのか、気温なのか、距離なのか、正体は分からない。『 イット・フォローズ 』でもそうだったが、怪異の正体が不明であること、それが恐怖の源泉というわけで、ホラー映画のタイトルに It を持つ作品が多いのは必然なのである。それでは本作はどうか。はっきり言って微妙である。

 

あらすじ

ポール(ジョエル・エドガートン)は、老人を射殺し、遺体を焼いて、埋めた。彼は森の奥深くで家族を守りながら暮らしていたのだ。ガスマスクと手袋、そして銃火器で彼らは“何か”から身を守っていた。そこへウィルという男性が現れる。彼は自分にも家族がいるのだと言い・・・

 

ポジティブ・サイド

冒頭からミステリアスな雰囲気が漂う。同時に、観る者に考えるヒントを与えている。ガスマスクや手袋に注目すれば、細菌またはウィルスの空気感染もしくは飛沫感染が疑われる。ならば保菌者は?これは銃が有効な相手。となると小動物や虫ではなく大型の動物。普通に考えれば人間ということになる。そしてそれは十中八九、ゾンビであろう。It comes at nightというタイトルから、太陽光線の下では活動できないゾンビであることが容易に推測される。そうした設定のゾンビは、リチャード・マシスンの小説『 地球最後の男 』から現在に至るまで、数千回は使われてきた。低予算映画とは、つまりアイデア型の映画なわけで、陳腐な設定にどのような新しいアイデアがぶち込まれてきているのかが焦点になる。そうした意味で、本作の導入部はパーフェクトに近い。

 

またジョエル・エドガートンの顔芸も必見である。『 ある少年の告白 』でも、恐ろしいほど支離滅裂ながら、なぜかカリスマ的なリーダーシップを発揮する役を演じていたが、本作でもその存在感は健在。恐怖心と勇気、愛情と非情、相反する二つの心情を同居させながらサバイバルしようとする男が上手く描出できていた。

 

ネガティブ・サイド

意味深な導入部を終えると、ストーリーは一転、停滞する。It comes at night. というタイトルにも関わらず、何もやってこない。いや、色々なものが夜には出現してくる。それは思春期の少年と年上女性とのロマンスの予感であったり、夜な夜な見てしまう悪夢であったり、開けてはいけないとされる扉を開けてしまいたくなる誘惑であったりする。問題は、それらが怖くないこと、これである。恐怖の感情は、恐怖を感じる対象の正体が不明であることから生まれる。しかし、本作のキャラ、なかんずくポールの息子のトラヴィスは、恐怖の感情そのものに恐怖している。つまり、彼の恐怖の感情と見る側のこちらの恐怖の感情がシンクロしにくいのである。彼らは恐怖の対象が何であるのかある程度理解しており、その対策のための防護マスクや手袋を持っている。こちらは、恐怖の正体についてある程度の推測はできているため、いつそれが姿を現すのかを待っている。つまり、恐怖を感じるのではなく、やきもきするのである。じれったく感じるし、イライラとした気持ちにすらさせられるのである。

 

設定がよく似た作品に『 クワイエット・プレイス 』があるが、ホラー作品としてはこちらの方が王道的展開で安心できる。本作は、「(ゴジラより)怖いのは、私たち人間ね」と喝破した『 シン・ゴジラ 』の尾頭ヒロミよろしく、人間関係そのものが恐怖であることを描く、陳腐な作品である。似たようなテーマを持つ作品としては『 孤独なふりした世界で 』の方が優れているし、正体不明の何かが迫ってくる映画としては『 イット・フォローズ 』に軍配が上がる。

 

総評

真夏日に家の外に出たくない。そんな時に気軽に暇つぶしする感覚でしか観られないのではないか。人間関係の微妙な機微の描写や、ポスト・アポカリプティックでディストピアンな世界観の構築をそもそも追求していない作品だからである。ホラーというよりはシチュエーション・スリラーで、そちらのジャンルを好む向きならば鑑賞してもよいかもしれない。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, シチュエーション・スリラー, ジョエル・エドガートン, ホラー, 監督:トレイ・エドワード・シュルツ, 配給会社:ギャガ・プラスLeave a Comment on 『 イット・カムズ・アット・ナイト 』 -“イット”・ムービーの拍子抜け作品-

『 テルマ 』 -光るところがある文学的な北欧スリラー-

Posted on 2019年7月15日 by cool-jupiter

テルマ 65点
2019年7月11日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:エイリ・ハーボー
監督:ヨアキム・トリアー

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190715211713j:plain

シネ・リーブル梅田での鑑賞機会を逸してしまった作品。近所のTSUTAYAでクーポンを使って借りる。北欧映画はやはり白を基調にすることが多く、極彩色のフルコースを立て続けに食した後に、観てみたくなることが多いと自己分析。実際に『 獣は月夜に夢を見る 』を鑑賞したのも『 SANJU サンジュ 』というインド映画、『 青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない 』というアニメ映画の直後だった。目の疲れに敏感な年齢になったのかな・・・

 

あらすじ

厳格なカトリックの家庭で育ったテルマ(エイリ・ハーボー)は、大学生として一人暮らしを始めた。しかし、彼女は謎のけいれん発作に苦しめられる。そんな時に、水泳中にたまたま知り合ったアンニャと恋に落ちるテルマ。自らの宗教観や倫理s観と同性愛の間でテルマは悩み苦しむ。そして、アンニャが消えてしまう。テルマの不可思議な力によって・・・

 

ポジティブ・サイド

 

* 以下、マイナーなネタばれに類する記述あり

 

北欧の映画のビジュアルにはやはり雪が欠かせない。つまり、スクリーンを彩る基調色は白になることが多い。これは何も北欧だけに限ったことではなく、寒い地域を舞台にした場合の必然なのかもしれない。アメリカのワイオミング州を舞台にした『 ウィンド・リバー 』では、白=雪は冷徹性、暴力性、無慈悲さの象徴だった。それでは本作における白とは何の象徴であるのか。それはおそらく、テルマの処女性・無垢・純潔ではないか。テルマが恋に落ちる相手のアンニャが黒人であることにも意味が込められているし、冒頭で窓に激突して死んでしまう鳥がカラスであることにもおそらく意味が込められている。テルマは厳格なカトリックの家庭で抑圧されながら育ったことで、自身の内に芽生えだ同性への恋心を神への祈りによって抑え込もうとした。カラスは創世記で描かれる大洪水後に、ノアに斥候を命じられる優秀な生き物である。「様子を見てこい」と言われる鳥が殺されることには、自分を見ないでほしいというテルマの潜在的な願望が見出せる。アンニャへの募る思いを押さえ込もうと祈りを捧げる姿は、自慰行為に罪悪感を感じながらも止められなかったアウグスティヌス(「神様、お許しください。でも、もう少しだけ・・・」)に共通するものがある。テルマが体内に蛇を取りこむビジョンは、年老いた蛇、サタンを象徴するものと考えて間違いないだろう。事実、アンニャとテルマは「イエスはサタンだ!」とふざけ合いながらも、本心を吐き出している。信仰は彼女らにとって悪徳なのである。鹿についても同様で、『 ウィッチ 』においても重要な役割を演ずる動物であるが、鹿はしばしば悪魔の化身とされる。ジョーダン・ピール監督の『 ゲット・アウト 』のトレイラーでも、鹿の骨の化け物が襲ってくるシーンがある(何故か本編にはこのシーンは無い)が、キリスト教文化圏においては鹿は必ずしも聖なる生き物ではないのである。その鹿に向ける銃口を冒頭でいきなり娘に向ける父親は、当然、神の代理、化身、象徴であり、この男をいかに文学的な意味でも、なおかつ文字通りの意味でも殺すのかが、今作のテーマである。つまりは古代ギリシャのソフォクレスの『 オイディプス王 』から連綿と続く父親殺しがテーマなのである。父を見事に“殺した”テルマの浮かべる笑みのなんと神々しく邪悪なことか。この笑みの持つ両義性をどのように解釈するかによって、鑑賞後の印象はがらりと変わるのだろう。Jovianは悪魔的な笑みと理解した。しかし、それが唯一の解というわけでもないし、製作者の意図するところでもないだろう。『 ゴールド/金塊の行方 』のマシュー・マコノヒーの笑みのように、素晴らしい作品は時にえもいわれぬ余韻を残してくれる。この映画の余韻は、しばらく残りそうである。

 

ネガティブ・サイド

病院の検査のシーンのストロボの激しい明滅。これが過剰であるように感じた。もちろん、意図しての演出だろうが、明るい部屋で見ても目がかなり疲れた。真っ暗な劇場だと、もっと目に負担がかかっただろうと推測される。

 

弟のシーンがやや不可解だ。もちろん、わずか数秒ではあるが、風呂場で乳児から目を離しては絶対に駄目だ。赤ん坊は水深3cmで数秒で溺れることができるからだ。父親も母親も、保護者であれば乳児から目を離してはいけない。テルマの力が発現する重要なシーンであるが、やや無理やり作り上げたような不自然さがあった。またこのシーンのカメラワークは『 シックス・センス 』の冒頭の台所のシーンと構図的に全く同じで、新鮮味に欠けた。ホラー映画で誰かが冷蔵庫の扉を開けて、それを閉めると、背後に誰かが立っているのと同じように、次に何が起こるか分かってしまう。このようなクリシェな作りは歓迎できない。

 

アホな男子学生も不要だった。『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』のパーティーで酔って独演会を開く男のようだった。宗教的な観念の深さと皮相性の両方を丁寧に説明しようとしてくれたのだろうが、この男はノイズだった。

 

総評

ホラーやスリラーというよりも、少女版ビルドゥングスロマンと言うべきだろう。文学的な意味での父親殺しが、そのまま神殺しと通底するものを持つのである。爽やかとは言えないが、恋に苦悩する少女の物語は日本だけでも毎年十本以上は劇場公開されている。本作のようなちょっとした変化球も、もっと紹介されていい。配給会社に期待したい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, エイリ・ハーボー, スウェーデン, スリラー, デンマーク, ノルウェー, ヒューマンドラマ, フランス, 監督:ヨアキム・トリアー, 配給会社:ギャガ・プラスLeave a Comment on 『 テルマ 』 -光るところがある文学的な北欧スリラー-

『 クリミナル・タウン 』 -凡百のクライム・サスペンス-

Posted on 2019年6月11日2020年4月11日 by cool-jupiter

クリミナル・タウン 30点
2019年6月10日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:アンセル・エルゴート クロエ・グレース・モレッツ
監督:サーシャ・ガバシ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190611091646j:plain

アンセル・エルゴートとクロエ・グレース・モレッツの共演ということで、劇場公開時に何度かなんばまで観に行こうと思っていたが、どうにもタイミングが合わなかった。そして当時の評判も芳しいものではなかった。だが、評価は自分の目で鑑賞してから下すべきであろう。

 

あらすじ

ワシントンDCの一角で、男子高校生が射殺された。警察が捜査するも、その方向性がアディソン(アンセル・エルゴート)には的外れに見える。業を煮やしたアディソンは独自に事件の捜査を進めていくが・・・

 

ポジティブ・サイド

Jovianは2015年に、大阪市内でワシントンDCからやってきたアメリカ人ファミリーと半日を過ごしたことがある(詳細は後日、【自己紹介/ABOUT ME】にて公開予定)。その時に、「DCの一角では毎日のように殺人事件が起きている」と聞いた。そうしたことから、本作には妙なリアリティを感じた。さっきまで普通に会話をしていた同級生が殺されたことに対する周囲の反応の薄さ、それに対するアディソンの苛立ち、若気の無分別による暴走を、アンセル・エルゴートはそれなりに上手く表現していた。

 

ネガティブ・サイド 

クロエ・グレース・モレッツ演じるフィービーというキャラは不要である。彼女の存在は完全にノイズである。86分という、かなり短い run time であるが、フィービーのパートを全カットすれば60分ちょうどに収まるだろう。はっきり言って脚本家が一捻りを加えることができずに、苦肉の策でアディソンとフィービーの初体験エピソードをねじ込んだのではないかと思えるほどに、ストーリーは薄っぺらい。

 

薄っぺらいのはアディソンの母親に関するエピソードもである。『 ベイビー・ドライバー 』とそっくりなのだが、母親の幻影をいつまでも追い求めているような心情描写も無いし、フィービーにセックスを求める一方で、母性を求めたりはしない。矛盾しているのだ。父親役のデビッド・ストラザーンも米版ゴジラ映画に連続で出演したりと、決して悪い俳優ではないが、高校生の父親役として説得力を持たせるにはかなり無理がある。年齢差があり過ぎる。

 

肝心の同級生ケビンの殺害の真相も拍子抜けである。というよりも、アディソンも気付け。友人の死と周囲の無関心に苛立つのは分かるが、死者を想い、死者を悼むために必要なのは、真相の追究ではなく、まずはその死を受け入れることだ。校長に突っ込みを入れるタイミングもワンテンポ遅れている。トロンボーンではなくトランペットであるならば、即座にそのことを指摘すべきだ。生者が死者を鎮魂するには、記憶を、思い出を持ち続けることが第一なのだから。

 

総評

ミステリとしてもサスペンスとしてもジュヴナイルものとしても非常に貧弱な作品である。何故こんな杜撰な脚本が通り、それなりに知名度も人気もあるキャストを集めてしまえるのか。そこにこそ本作最大のミステリが存在する。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, E Rank, アメリカ, アンセル・エルゴート, クロエ・グレース・モレッツ, サスペンス, ミステリ, 監督:サーシャ・ガバシ, 配給会社:ギャガ・プラスLeave a Comment on 『 クリミナル・タウン 』 -凡百のクライム・サスペンス-

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