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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 歴史

『 RRR 』 -劇場再鑑賞-

Posted on 2025年4月29日2025年4月29日 by cool-jupiter

RRR 85点
2025年4月27日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:N・T・ラーマ・ラオ・Jr. ラーム・チャラン
監督:S・S・ラージャマウリ

 

『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』に触発されて再鑑賞。

あらすじ

1920年、英国植民地下のインド。英国人に買われていったマッリを救おうとするビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr.)と、英国政府に仕え、インド人暴徒を鎮圧する警察官ラーマ(ラーム・チャラン)。二人は事故に巻き込まれた少年を協力して救ったことから無二の親友となる。しかし、お互いが自分の使命を果たさんとする時、遂に二人は激突することになり・・・

ポジティブ・サイド

自分の過去の鑑賞記事を読んで、「インドの映画人は自らのビジョンを具体化するのに一切躊躇がない。これはS・S・ラージャマウリ監督だけかな」という記述に出くわす。ビジョンは『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』のキーワード。それを読み取れていた自分を褒めてやりたい。

 

面白いシーンは何度見ても面白い。メイキングのドキュメンタリーを鑑賞したことで、BGMや美術の仕事にも注目できたし、CGかと思わせて、実はオーガニックな手法で生み出されていたシーンには改めて目を奪われた。特に火と水が文字通りにぶつかり合う庭園での激突シーンは鳥肌ものだった。

 

その一方で再鑑賞することで見えてきたものも多数あった。ちょっとした台詞が伏線になっていたり、とある構図がその後に少し形を変えて再現されたり。特に感じ入ったのはシータとラームのやりとり。彼女がとっさに機転を利かして英兵を追い払ったことが「お前の勇気が私の勝利につながる」という台詞の実現だったと気付いて唸った。

 

友情と使命のせめぎ合いと、互いの協力による超絶アクション。Blu-rayの購入は待ったなしである。あともう一回くらい劇場鑑賞したい。

ネガティブ・サイド

ジェニーとスコット夫妻の関係が何であるのかを明示してほしかったと思う。

 

総評

塚口サンサン劇場では終映後に拍手が自然発生していたし、劇場の外でもすべての観客の顔に笑顔が見られたし、なんやかんやと映画の感想を語り合うナードたちの姿も見られた。異例のロングランは固定客も新規ファンもどちらも喜ばせているようである。日本は近代への移行の最終盤が無血だったり、植民地支配も免れてきたが、世界の多くの国はそうではないと知るべきだ。本作は超絶エンターテイメントでありながら、歴史の教科書にもなりうる大傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Don’t call me Madam.

「私をマダムと呼ばないで」の意。callはしばしば call A B の形でAをBと呼ぶという意味になる。ニックネームがある人は Call me ニックネーム と言って、そのニックネームで呼んでもらうと良い。Don’t call me junior! がどの映画の誰のセリフか分かれば、あなたはハリソン・フォードのファンである。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, N・T・ラーマ・ラオ・Jr., アクション, インド, ラーム・チャラン, 歴史, 監督:S・S・ラージャマウリ, 配給会社:ツインLeave a Comment on 『 RRR 』 -劇場再鑑賞-

『 雪の花 ―ともに在りて― 』 -ワクチン接種のはじまりを描く-

Posted on 2025年2月5日 by cool-jupiter

雪の花 ―ともに在りて― 70点
2025年2月1日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:松坂桃李 芳根京子 役所広司
監督:小泉堯史

 

『 散り椿 』など、時代劇を世に問い続ける小泉監督の最新作。どう考えてもコロナ禍とそのワクチン接種にインスパイアされて出来た作品である。

あらすじ

江戸時代末期、越前の町医者、笠原良策(松坂桃李)はある村に診療に訪れる。しかし、患者たちは痘瘡を患っていた。患者を隔離するしか為す術がない良策は、漢方でなく蘭方に治療法を見出す。そして蘭方医の日野鼎哉(役所広司)に教えを乞うため京の都に向かうが・・・

ポジティブ・サイド

冒頭から、病を患う村人に対して何もできないという無力感。疱瘡の患者は山あげして、後は運よく生き残る者が出るのを待つのみという絶望感。中世ヨーロッパで何度も流行したペストや、100年前のスペイン風邪もこのようなものだったのだろうか。ある意味で当然だが、最初期のコロナ禍を思い起こさせる。

 

松坂桃李が笠原良策を好演。名を求めず、利を求めず、ただただ人を救いたい、自分に救うことができる人を何としても増やしたいという医者の鑑のような人物をきっちりと描き出した。蘭方への唐突な宗旨替えも、無力感の強さが使命感の強さに転化したものということで説明がついた。

 

種痘の原理は理解できても、それを実施するために越えなければならない政治的な関門がいくつもあるのもコロナ禍との共通点だった。特に種苗を海外から輸入するというのは、そのまんまワクチンの輸入に重なっていた。

 

また工場で生産できるワクチンとは異なり、当時は子どもから子どもへ抗原を受け継いでいく必要があり、かつその期間も限定されていたため、吹雪の峠越えをも敢行したようだ。これは映画化に際しての脚色だろうと思っていたシーンが、調べてみると日記に基づく史実だということに度肝を抜かれた。

 

なんとか種苗を入手して解説した種痘所も、流言飛語によって閑古鳥が鳴く始末。しかし、先輩医師の援助や藩への歎願、さらに良いのか悪いのか権力者への根回しなどもあり、ついに藩を挙げての種痘の体制が整う。いつの時代も真偽不明の風説が流布される。そしてその発信元が往々にして既得権益側であるというのも本邦の伝統なのか。そうした旧弊は打破されるべきであるし、実際に過去にも打破されてきたのだという力強いメッセージを受け取ったように思う。

 

少し前に仕事の一環として、このようなレクチャー動画を作ったことがある。センメルヴェイスとナイチンゲール、さらにパスツールについてリサーチしている中でジェンナーも調べた。しかし笠原良策については勉強が及ばなかった。我が目の不明を恥じるとともに、蒙を啓いてくれた小泉監督、原作者の吉村昭氏に感謝したい。

 

ネガティブ・サイド

時々、左から右へワイプで画面が切り替わるのが目障りと言うか、不自然に感じた。

 

四季折々の印象的なショットの数々とは対照的に、良作が旅するシーンでは画角がかなり小さく、旅をしているという感覚があまり共有されなかった。特に最後のシーンは全画面に広がるほどの〇〇を見せるべきではなかったか。それこそが流れの先というものだろう。

 

良策の大立ち回りが非現実的。悪党2~3人を懲らしめる程度なら日ごろの鍛錬の賜物だと納得はできるが、それ以上の大人数となると医者ではなく相当な腕利きの武士になってしまう。

 

芳根京子の男之介っぷりも映画の絵作り以外の意味がなかった。

 

総評

知識を更新することの大切さはいつの時代でも同じ。現代人でもRNAワクチンが何たるかを理解できない、というか免疫機構の概要を理解できない者が多くいるが、100年以上前の人間ならなおさらだろう。そんな中でEBM=Evidence Based Medicineに宗旨替えし、利を求めず名を求めずを貫いた医師がいたことには素直に感動させられた。ぜひ多くの人に観てもらいたいと思える秀作。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

vaccinate

ワクチン接種させる、の意味。自身が注射する側でなければ、be vaccinated または get vaccinated という形で使う。政府や自治体が主語なら、The government vaccinated 20 million people last year. のように能動態でも使える。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 Welcome Back 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, B Rank, 伝記, 役所広司, 日本, 松坂桃李, 歴史, 監督:小泉堯史, 芳根京子, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 雪の花 ―ともに在りて― 』 -ワクチン接種のはじまりを描く-

『 拳と祈り -袴田巖の生涯- 』 -対岸の火事と思うなかれ-

Posted on 2024年10月29日 by cool-jupiter

拳と祈り -袴田巖の生涯- 75点
2024年10月26日 第七藝術劇場にて鑑賞
出演:袴田巌 袴田秀子
監督:笠井千晶

 

ボクシングファンの端くれとして、ずっと応援していた袴田巌さんが先月、遂に無罪確定。そこで本作の公開ということでチケットを購入。

あらすじ

1966年6月、強盗、殺人、放火事件の犯人として袴田巌氏は死刑判決を受ける。しかし、証拠や警察の取り調べ方法に疑義が残ることから、姉の秀子さんや支援者は再審を訴える。だが、司法が動くのに約50年の歳月を要して・・・

ポジティブ・サイド

袴田事件に関する予備知識ゼロ、あるいは2024年9月の袴田さん無罪確定のニュースを一切知らずに本作を鑑賞する向きはない。そうした読みから、袴田事件の概要や、いかに証拠として提出された衣料品が馬鹿げたものであるかを殊更に主張はしない。笠井監督のこの演出は、特に秀子さんが静岡県警本部長に掛けた言葉を考えると、正解だったと思う。

 

また笠井監督自身が冤罪に関して何らかの言葉を述べることはなく、袴田秀子さん、巌氏の二人を中心に、事実だけを淡々と映し出していくスタイルを選択したことも賢明だった。たとえば作中で医師が袴田氏の血糖値が高すぎることを注意するシーンがあるが、秀子さん自身はその日の夕食をスキップさせるぐらいで、基本は袴田さんの行動にはノータッチである。それは、医師であろうと肉親であろうと、無理やり言うことを聞かせてしまうと、警察や検察と同じ愚を犯すことになるからだ。

 

ニュースに触れている人なら袴田さんが重篤な拘禁反応を呈していることは知っているはず。本作はそこを包み隠さず映し出してしまう。普通の刑務所なら、規則正しい生活、規則正しい食事、規則正しい労働・運動、規則正しい睡眠に加えて、囚人仲間との交流が得られる。ただし死刑囚は独房生活。つまり孤独。畢竟、ストレスがたまり、精神的に追い詰められる。冤罪被害者なら尚更である。

 

袴田さんはカトリックに救いを見出した。作中での袴田さんの言動全てを理解するのは難しいが、その行動原理の大きな部分をキリスト教が占めているのは間違いない。彼の脳内ではAgnus Dei, qui tollis peccata mundi = この世の過ちを取り除きたもう神の仔羊よ、と常に讃美歌が流れているのである。つまり、自分が死ぬことで、その他の衆生(これは仏教用語だが)が救われるという理屈で、自分をイエスと同一視しているわけだ。自分は死ななくなったというのは、死んでも復活すると言っているのである。

 

そうした袴田さんの姿に現実逃避を見出しても、あるいは不屈の闘志を見出してもいい。宗教の持つ力を見出してもいいだろう。しかし、決して忘れてはならないのは姉の秀子さんと多くの支援者たちの存在だ。袴田さんは元ボクサーだ。アマチュアの強豪で、プロでも年間19試合をしたというタフガイだ。日本のボクシング界の関係者が陰に日向に袴田さんを支援しようとする姿に一菊の涙を禁じ得なかった。またカナダのルービン・❝ハリケーン❝・カーターの映像まで見られるとは正直思っていなかった。笠井監督の行動力の視野の広さには脱帽である。

 

意味不明の言葉を発することが多い袴田さんだが、ボクシングに関してはきわめてまっとうな発言が多かった。印象に残ったのは「ボクシングに魂をかけているかどうかは見れば分かる」、「結局はいかにナックルパートを当てるか」、「前に出てくる相手を止めるにはジャブとワン・ツー」など(ちなみに現代だと、ジャブ、ワン・ツー、カウンターで止めるとされている)。本人は現役時代に近距離ファイターだったようだが、指導者を志しただけあって、当時としてはかなりしっかりした理論を持っていたのだ。最初は拒否していたグローブをはめて、スクリューの入った左フックを見せる袴田さんが微笑みを浮かべているところは決して見逃さないようにしたい。

 

それにしても国家、特に検察の硬直した姿勢には辟易する。元裁判官は涙ながらに謝罪し、静岡県警本部長も極めて儀礼的ながら謝罪した。しかし検事総長は袴田氏を犯人扱いする談話を発表し、名誉棄損にあたるのではないかと物議をかもしている。検事総長と言えば賭けマージャンの黒川検事長が思い出される。検察は身内や政治家、上級国民は過剰に保護するが、一般庶民にだけは厳しいという現実をわずか数年前に見せつけられていたので、今回の談話にも驚きは少ない。

 

袴田巌氏88歳、姉の秀子さんは91歳。二人の今後の人生に幸多かれと願う次第である。Dona eis requiem. 

ネガティブ・サイド

警察の取り調べの録音は、あんなものだったのだろうか。殴る蹴る水をぶっかけるなどがあったはず。あるいは、そこだけ録音を止めていたかも。いずれにせよ、昭和中ごろの警察とは思えないマイルドな取り調べだった。他にもっと警察の横暴を感じさせる箇所はあったのではないか。あるいは、存命者は少ないかもしれないが、当時の捜査員などを取材できなかったか。別に袴田事件そのものについて尋ねなくてもいい。当時はとにかく怪しい奴を見つけたら無理やり引っ張ってきて、自白するまで追い込むことは珍しくなかったという実態を語ってもらえれば、後は観る側が判断する。

 

もう一つ、刑務官OBへインタビューもできなかったのだろうか。顔や声は当然隠してOK。刑務所の中の囚人の実態をより客観的に知るには、こうした人々へのアプローチも必要であるように思う。熊本裁判官が顔出しで判決の舞台裏を暴露したのは法曹としてはアウトなのだろうが人間としてはセーフ。そうした意味で粘り強く取材すれば、袴田氏のことではなく囚人一般について語ってくれれれば、反省する人間、しない人間のことが少しわかり、また反省しない人間というのは極悪人なのか、それとも反省すべきことがない人間なのではないかということまで考えるきっかけになっただろう。

 

総評

まさに今、出るべくして出たドキュメンタリー。作中でルービン・カーターがいみじくも指摘した通り、袴田さんの身にこのようなことが起きたのなら、自分の身にも起こるかもしれない。そうなってしまった時、自分は闘えるだろうか。自分には支持者がいるだろうか。鑑賞中も鑑賞後も、ずっと自問自答している。国家権力と闘い続けたという点で、袴田巌氏は日本のモハメド・アリであると評したい。ボクシングファンのみならず、広く一般市民に観てもらいたい作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

free

日本語にもなっているフリーという語だが、品詞も意味も多岐にわたる。本作では Free Hakamada! のスローガンで使われていた。これは動詞で「~を自由にする、解放する」の意味。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ぼくのお日さま 』
『 破墓 パミョ 』
『 トラップ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ドキュメンタリー, 伝記, 日本, 歴史, 監督:笠井千晶, 袴田巌, 袴田秀子, 配給会社:太秦Leave a Comment on 『 拳と祈り -袴田巖の生涯- 』 -対岸の火事と思うなかれ-

『 工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 』 -国家の対立と個人の友情-

Posted on 2024年10月22日 by cool-jupiter

工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 85点
2024年10月20日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:ファン・ジョンミン イ・ソンミン
監督:ユン・ジョンビン

シネマート心斎橋に別れを告げるための一本として本作をチョイス。当日券もガンガン売れていて、劇場は満員だった

あらすじ

軍の情報部に所属するパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)は北朝鮮の核開発の実態を探るべく、黒金星というコードネームの工作員として北朝鮮に潜入する。ビジネスマンとして北で活動するパクは、遂に北の外貨獲得の責任者であるリ所長(イ・ソンミン)からコンタクトされ・・・

ポジティブ・サイド

上映開始直前、『 ソウルの春 』の感想を述べあうオッサン二人が後ろの席にいたが、『 殺人女優 』と同じく韓国映画は合う人には合う。その中でも本作は一級品。上映終了直後の劇場内やロビーでも「圧倒された」、「すごい」、「韓国の現代史を勉強せな」という感想が漏れ聞こえてきた。自分の感想も「まるでブライアン・フリーマントルの『 消されかけた男 』の韓国版だな」というものだった。

まず、スパイ映画にありがちな変装や秘密裏の侵入などがほとんどない。『 ミッション:インポッシブル 』シリーズのような派手さは一切ない。しかし、本作が全編にわたって産み出す緊迫感はM:Iシリーズのどれよりも上だと感じた。

まず第一に北の核施設に近づくために、まずは外貨獲得に血眼になっている北朝鮮にビジネスマンとして近づくというアプローチが秀逸。その下準備として、中国産の野菜が北朝鮮産と偽って売られていることをパク自身が当局にリーク。中国にある北朝鮮拠点をまんまと一つ潰してしまう。そして在日の朝鮮総連系のあやしげな男(このキヨハラ・ヒサシにもモデルはいるのだろうか?)とのビジネスもシャットアウト。あくまでも狙いは北朝鮮の中枢。

そして遂に有力者のリ所長に接触することになるが、明らかにその筋の人、早い話がインテリヤクザの雰囲気を漂わせるイ・ソンミン演じるリ所長と、番犬的存在のチョン課長が、当時の(そしておそらく今も)北朝鮮がならず者国家 = rogue nation であることをひしひしと感じさせる。一歩間違えれば命が危うい。のみならず、国家間の緊張がそれ以上の状態に発展してしまう恐れなしとはしない。

そんな中でもパクはビジネスマン然として振る舞い続ける。しかし、テープレコーダーその他の小道具も駆使して諜報活動も行う。この陽気で少し短気なビジネスマンの顔と敏腕のスパイとしての顔を劇中でファン・ジョンミンは見事に使い分けた。北朝鮮側に見せる顔と韓国側(上司)に見せる顔が明らかに違う。つまり北朝鮮側に向けては演技している演技をしていた。ファン・ジョンミンの卓越した演技力なくして、この二重性・二面性は出せなかった。

徐々にリ所長の信頼を得て、奇妙な友情すら育んでいくパク。国は異なれど民族は同じだし、話す言語も同じ。しかし都市部を離れれば北朝鮮の人民はなすすべもなく餓死していくという惨状がある。このシーンは下手なホラー映画よりも遥かに怖かった。リ所長が北の惨状に挙げていた子どもが10ドルで売られるという現実は、奇しくもチェ・ミンシクが『 シュリ 』で涙ながらに訴えたもの。まさに1990年代にニュース23で見ていた北の農村が思い起こされた。

映し出されるのは北のどす黒い現実ばかりではない。南の腐敗した政治にも焦点が当てられる。国政選挙のたびに北が武力挑発し、南の人民の不安をあおることで与党の後押しになるのだという。まるでどこかの島国が北のミサイル発射を支持率アップの道具にしているようではないか。北は北で金王朝を維持したいし、南は南で現体制を維持したい。そのためには仮想敵国、いや現実の敵国が存在し続けることが望ましいという、もはや政治とは何なのか分からなくなってくる現実が、パクにもリ所長にも、そして当然我々にも突きつけられてしまう。

しかし、そんな現実に屈せず危険を冒して最後の冒険に出る二人が奇跡を起こす様は胸が張り裂けんばかりになる。国と国は分断されていても、個人と個人は分かり合える。それは南北朝鮮だけの問題ではなく、あらゆる国と個人が直面しているテーマではないだろうか。

ネガティブ・サイド

リ所長のガッツポーズは、そこら中に間諜がいる北京のホテルでは軽率ではなかっただろうか。辺境の死体置き場にまで監視役がおる国やで。

韓国側のもう一人の工作員のコード・ワンが迂闊というか間抜けすぎではないか。どうやって北に潜伏し続けられていたのか。このコード・ワンはさすがに架空の存在だと思うが、このシーンは滑稽に過ぎた。

総評

なぜ劇場公開当時にリアルタイムで観なかったのかが悔やまれる。同時に、なぜこれほど多くの人がシネマートを訪れていたのかも理解できた。本当は『 サニー 永遠の仲間たち 』が観たかったのだが、こちらも負けず劣らずの大傑作。韓国映画のサスペンスのレベルの高さをあらためて思い知らされた。ファン・ジョンミンはソン・ガンホやソル・ギョングに並んだ、いや超えたと評してもいいのかもしれない。

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

チャングン

将軍のこと。本作では将軍・金正日との対面が一つの山場となっている。また物語の冒頭のニュース映像では、日本でもお馴染みの女性アナウンサーが一瞬だけ映るが、彼女がしばしばチャングンニムと言っていたのを一定以上の世代なら覚えていることだろう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 ぼくのお日さま 』
『 破墓 パミョ 』
『 拳と祈り -袴田巖の生涯- 』

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, イ・ソンミン, サスペンス, ファン・ジョンミン, 歴史, 監督:ユン・ジョンビン, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 』 -国家の対立と個人の友情-

『 ソウルの春 』 -勝てば官軍負ければ賊軍-

Posted on 2024年9月1日 by cool-jupiter

ソウルの春 75点
2024年8月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:チョン・ウソン ファン・ジョンミン
監督:キム・ソンス

 

Jovianの生年に実際に韓国で起こった歴史的事件をモチーフにした作品ということでチケット購入。

あらすじ

朴正煕大統領が暗殺された。実行犯を取り調べの責任者に任命されたのは、韓国陸軍内で隠然たる勢力を誇るハナ会のチョン・ドゥグァン(ファン・ジョンミン)。しかし彼は自身の権勢拡大のために陸軍参謀総長を拉致し、クーデターを画策する。首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)はチョンの野望を阻止するために立ち上がるが・・・

 

ポジティブ・サイド

140分超ながら、体感では90分ほど。ひと息つける場面が一切ないままに物語は進行していく。登場人物は多いものの、クーデターを起こして権力を握りたいチョン・ドゥグァン、それを阻止したいイ・テシンの二人の名前だけ押さえておけばよい。

 

クーデターの計画、参謀総長の拉致、大統領からの裁可、指揮下の精兵部隊のソウルへの召喚とそれを阻止するための別の精鋭部隊の召喚と、わずか一夜の中で状況が刻一刻と変化していく。

 

ファン・ジョンミン演じるクーデター首謀者のチョン・ドゥグァンは人間味に溢れており、豪放磊落な一面と繊細な一面を併せ持っている。大人物のようでもあり、小者のようにも映るのだが、かかる魅力が彼をハナ会のトップに、ひいてはクーデター勢力のトップに君臨させている。一度決めたら最後までとことん行く男で、情勢の変化に一喜一憂する仲間や先輩を時に脅迫し、時に一喝し、時に弱みを見せることで取り込んでいく。韓国版の木下藤吉郎とも言うべき人たらしである。

 

対するイ・テシンは職務に忠実で群れることを潔しとしない孤高の軍人。韓国軍の上層部が情勢の変化に一喜一憂し、時に日和見を決め込もうとする中でも、首都防衛に専心する。その高潔さ故に従う者、従えない者があぶり出され、当時の韓国軍の体質や、一枚岩になれない体制がよくよく見て取れる。

 

クライマックスチョン・ドゥグァンとイ・テシンの対峙の迫力には息を呑んだ。そして対決の結末には鳥肌が立った。というか、途中で気付かなかった俺はアホだ。冒頭ではっきり史実を脚色しているという注意書きがあったではないか。クーデター側の首謀者二人の名前をちょっと変えれば・・・ 本作は軍事政権時代を反省・批判している一方で、「この国をなんとかしたい」という強烈な野望を抱く政治家の不在を嘆いているようにも受け取れる。おこぼれに与ろうと権力に群がる小物は不要だという韓国映画界から韓国政治へのメッセージに思える。単なる善悪の対立にとどまらない深みを生み出すのは、キム・ソンス監督の面目躍如といったところか。

 

クーデターというと1991年のソ連崩壊を覚えているが、韓国もよく似た歴史をたどっていたのか。民主主義を自力で得た国と、民主主義を与えられた国。どちらが幸せなのだろうと考えさせられる。

 

ネガティブ・サイド

漢江にかかる橋を封鎖するためにテシンが「市民の力も借りねば」と言うが、そのシーンこそカットせずに盛り込むべきではなかったか。また、警察は何をしていたのだろう。ハナ会の人脈で警察も抑えていたという描写があれば、さらに説得力や緊迫感は増したはず。

 

最後のバリケードを挟んでの対峙シーン前に市民の存在に言及するシーンがあったが、これは不要だったか。もしここで市民に言及するなら、橋の封鎖のシーンで市民の協力を描くべきだし、それを描かなかったのなら、最後の対決シーンでも市民の描写は不要だった。

 

総評

やはり韓国映画の本領は歴史の闇、社会の闇に迫るスリラー作品だなとつくづく感じる。次にTSUTAYAでレンタルするのは『 KCIA 南山の部長たち 』、その次は『 光州5・18 』かな。この後味の悪さは『 トガニ 幼き瞳の告発 』のそれに比肩する。とことんはじけたアホな映画か、とことん出来の悪い映画を観て気分をリセットしたくなる。そんな韓国映画の怪作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

アンジャ

これも韓国映画やドラマでお馴染みの表現。意味は「座って」で、インフォーマルな表現。しばしばアンジャアンジャのように使われている。日本語でも「座って座って」と二回言うのと同じ感じ。階級や軍人歴の違いはあれど、腹を割って話をしようとする姿勢を常に打ち出すチョン・ドゥグァンが多用していた。そういう意味では政治家向きの軍人だったのかもしれない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 #スージー・サーチ 』
『 ポライト・ソサエティ 』
『 エイリアン:ロムルス 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, チョン・ウソン, ファン・ジョンミン, 歴史, 監督:キム・ソンス, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 ソウルの春 』 -勝てば官軍負ければ賊軍-

『 エベレスト 』 -下りてくるまでが登山-

Posted on 2024年8月10日 by cool-jupiter

エベレスト 40点
2024年8月7日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジェイソン・クラーク ジョシュ・ブローリン
監督:バルタザール・コルマウクル

 

涼を求めて近所のTSUTAYAからレンタル。

あらすじ

エベレスト登頂を目指してカトマンズに多くの人間が集まった。その中には腕利きガイドのロブ・ホール(ジェイソン・クラーク)や自信にあふれるベック・ウェザーズ(ジョシュ・ブローリン)の姿もあった。彼ら彼女らはそれぞれの決意を胸にエベレストの征服を目指して歩み出すが・・・

 

ポジティブ・サイド

「なぜエベレストに登る?」「そこにあるからだ」という序盤の登山家たちのやりとりで、「ああ、登山バカの物語だな」と感じられた。ここで聞かれる日本人登山家の難波康子の言葉は大いなる〇〇フラグだったのか、と鑑賞後に感じられた。

 

エベレストという過酷すぎる環境を映像で描くことには成功していた。山は見上げる、人は見降ろすというカメラアングル多数で、常に山が上位という視点が一貫していた。特にクレバスを梯子でわたるシーンは、絶対に落ちないと分かっていてもヒヤッとするシーンだった。

 

ロブ・ホールには不本意ながらも共感した。「金を払っているんだぞ!」という顧客の要望に応えようとする思いと、これ以上の登山は不可能だと判断する理性の葛藤は、たいていのサラリーマンなら経験済みだろう。この遭難事故が彼のプロフェッショナリズムを強化したことは間違いない。

 

ネガティブ・サイド

序盤にガイドやシェルパについてベックが文句を言うシーンが多くあるが、これは事実なのだろうか。登山家よりも、はるかにエベレストのプロであるはずの彼らの言うことを軽視するような輩が主人公一人というのは受け入れがたかった。

 

『 神々の山嶺 』でも感じられたが、様々な装備や設備が登場するが、それらがどのような役割を果たしてくれるのかを少しで良いので説明してほしかった。トルコの五輪射撃代表銀メダリストの無課金おじさんが話題だが、普通は装備に投資する。何故それらに投資するのかについては、少しで良いので説明が欲しかった。

 

家族や恋人のやりとりのパートが、あまりにもこれ見よがしというか、くどかった。山のパートにもう少し比重を置くべきではなかったか。

 

白人男性だらけの中、日本人の難波康子にほとんど焦点が当たらない。2010年代前半のハリウッドは良い意味でも悪い意味でも politically correct ではなかったということがうかがい知れる。

 

総評

大自然に挑むといえば聞こえはいいが、本作の残す教訓は「専門家の言うことは聞け」、「自然は乗り越える対象ではなく畏怖する対象」ということだろうか。死に瀕する中で顧みてこなかった家族の姿が浮かんでくることを、感動的と捉えられるかどうかは人による。個人的には「うーむ・・・」だった。乗り越えるべきハードルは無数にあるが、『 神々の山嶺 』の製作スタッフで難波康子物語を作ってほしいと、本作を通じて強く感じた。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Why do you climb?
Because it’s there.

「なぜ山に登るのか?」「そこに山があるからだ」という、よく知られた問答。もともとはジョージ・マロリーの言葉で、おそらく世界中で知られている。こうしたやり取りを実際の会話ですることはないだろうが、知っておくこと自体は損にはならないはず。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ツイスターズ 』
『 先生の白い嘘 』
『 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる! 』

 

エベレスト [Blu-ray]

エベレスト [Blu-ray]

  • ジェイソン・クラーク
Amazon

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, イギリス, ジェイソン・クラーク, ジョシュ・ブローリン, ヒューマンドラマ, 歴史, 監督:バルタザール・コルマウクル, 配給会社:東宝東和Leave a Comment on 『 エベレスト 』 -下りてくるまでが登山-

『 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 』 -陰謀論を呵々と笑う-

Posted on 2024年7月29日 by cool-jupiter

フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 65点
2024年7月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:スカーレット・ジョハンソン チャニング・テイタム ウッディ・ハレルソン
監督:グレッグ・バーランティ

『 THE MOON 』のエンディングで流れた “Fly Me To The Moon” と原題を同じくする映画。アポロの月面着陸はなかったという陰謀論を笑い飛ばす一作になっている。 

 

あらすじ

敏腕マーケターのケリー(スカーレット・ジョハンソン)は、政府筋で働いているという謎の男モー(ウッディ・ハレルソン)にスカウトされ、NASAで働くことになる。NASA職員のインタビューや宇宙飛行士の企業タイアップなどでNASAのイメージ改善に邁進するケリーだが、ロケット発射のディレクターであるコール(チャニング・テイタム)は彼女の手法を快く思わず・・・

ポジティブ・サイド

アポロ11号の月面着陸は真実かフェイクかというのは、Jovianが子どもの頃からあった。というか、おそらくリアルタイムであった話なのだろう。本作はそこを主眼にしつつも、それ以外の面でストーリーを作り上げていく。

 

最初に面白いと感じたのは、主役の一人ケリー・ジョーンズ。NASAと言えば『 ドリーム 』や『 アポロ13 』のような技術部門の職員の奮闘を描く作品が多いが、本作はそこにビジネス要素を盛り込んできたところが極めて新鮮。すなわち、NASAのポスターボーイたちを商品のコマーシャルに起用したり、NASA職員(のふりをした役者)に美辞麗句溢れるインタビューへの受け答えをさせたりという、非常に現代的なマーケティングが1960年代にすでに行われていた、そしてそれを仕切っていたのが才気煥発の女性マーケターだという点がユニーク。しかもケリー・ジョーンズには実際のモデル(当然ながら女性)がいたというのだから、さらに驚く。

 

そのケリーのやり方を苦々しく思いながらも、着実に成果を上げる彼女に対して徐々に素直になっていく発射ディレクターのコールの描き方も独特。往々にしてこうしたキャラは『 ドリーム 』のケビン・コスナーよろしく堅物でありながら徐々に人間性を滲ませてくるものだが、彼はケリーとの初対面でいきなり愛のポエムを献上してしまうようなキャラクター。この描写があることで、彼の奥底にあるプロフェッショナリズムが引き立ち、さらにケリーに対するアンビバレントな感情が観客にも共有されやすくなっている。

 

月面着陸がフェイクだったのかどうか、そのフェイクをどのように撮影したのか。そこについて本作はかなりコミカルに描いている。フィクサー然として振る舞うウッディ・ハレルソン演じるモーの胡散臭さが、そのまま陰謀論に対する胡散臭さに見える。映画はこの点に触れないが、NASAの敷地内で立ち入り禁止の棟が突如現れ、正体不明の人員(フェイク映像の撮影部隊)と正体不明の小道具大道具が常に出入りしているという状況を当時のメディアや他のNASA職員が見逃す、あるいは黙認するかどうか。

 

少しネタバレになるが、ケリーの助手の ”This is what happens when you vote for Nixon” という台詞が本作の政治的な主張であると思われる。ニクソン=ウォーターゲート=盗聴、ということはやはり月面着陸もでっち上げ?と早まるなかれ。今年(2024年)は米大統領選挙イヤー。スカーレット・ヨハンソンが主演だけではなくプロデューサーも努めたということは、これは彼女なりの選挙キャンペーンなのだろう。そういう見方も本作はできるのだ。ぜひ鑑賞して、自分なりの真実を見つけようではないか。

 

ネガティブ・サイド

ケリーとコールのロマンスの部分は不要だったと感じた。互いが互いのプロフェッショナリズムを一定の距離を置きつつ尊重するような関係の方がこの二人には似合っていたのでは?コールが不幸にも亡くなってしまった宇宙飛行士たちへの追慕を忘れない男でありながら、女に現を抜かすキャラクターというのは、やや不自然に見えた。

 

本作では発射直前にトンデモ行動が取られる。そして実際の月面映像とスタジオのフェイク映像の見分けがつかなくなるシーンがあるが、果たしてそんなことがありうるだろうか。アポロ11号は常に地球と電波でつながっているわけで、音声は宇宙船から受信しているが、映像は別のところから受信していて、それをNASAや関係基地局の誰も気が付かないなどということはありうるのだろうか。ここらへんの説明を(フェイクでいいので)入れておいてほしかった。

 

総評

NASA、メディア、そして米政府に関するお仕事ムービーでありながら、シリアスさとコミカルさを併せ持った良作。フェイク映像やフェイク投稿が横行する現代だからこそインパクトが大きい。本作の持つ政治的なメッセージに思いを馳せながら観るのもいいだろうし、単純に科学と歴史を題材にしたロマンティック・コメディとして鑑賞するのもいいだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a feast for the eyes

feast とは「ごちそう」の意。目にとってのごちそう=目の保養となる。劇中ではテイタム演じるコールがハンサムだということで He is feast for the eyes. と言われていたが、人間だけではなく景色や絵画についても使うことができる表現である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 デッドプール&ウルヴァリン 』
『 大いなる不在 』
『 ツイスターズ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, スカーレット・ジョハンソン, チャニング・テイタム, ラブコメディ, 歴史, 監督:グレッグ・バーランティ, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 』 -陰謀論を呵々と笑う-

『 キングダム 大将軍の帰還 』 -大沢たかおの独擅場-

Posted on 2024年7月24日 by cool-jupiter

キングダム 大将軍の帰還 65点
2024年7月20日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山崎賢人 大沢たかお
監督:佐藤信介

 

『 キングダム 運命の炎 』の続編。ますますキャラ映画になってきたが、大沢たかおはついに代表作と言えるものを手にしたようである。

あらすじ

突如、自陣に現れた龐煖によって窮地に陥る飛信隊。退却するしかなくなった飛信隊だが、尾到と尾平は気絶した信(山崎賢人)を安全に逃がすために、他の部隊の面々とは異なる方向に逃げていくが・・・

ポジティブ・サイド

本作で賞賛すべきポイントはほぼ一点に絞られる。それは王騎将軍。

 

副題の「大将軍」とは大沢たかお演じる王騎将軍のこと。『 キングダム 』の初登場時からコスプレ&なりきり演技だったが、今作で大沢たかおは王騎将軍と完全にシンクロした。原作の数々の名場面と名台詞をこれでもかと繰り出してくるが、まるで第一作目や前作はあえて抑制した演技をしていたのだろうか。まるでリアルタイムで読んでいた連載漫画の王騎将軍の声がそのまま劇場内で聞こえた。こんな体験はめったにない。とにかく本作は大沢たかお=王騎将軍の大沢たかお=王騎将軍による大沢たかお=王騎将軍のための作品になっていると感じた。

 

原作に忠実ながらも「全軍、前進」を上手くアレンジするなど、ここで本シリーズが完結となってもいいようにきれいにまとめてもいる。興行成績次第だろうが、続編があっても驚きはない。

ネガティブ・サイド

BGMを使いすぎ。尾到と信の夜の語らいのシーンは原作でもかなり上位に来る名シーン。あそこはBGMなしで、ふたりの台詞だけを静謐な夜の山の中でじっくりと聞かせるべきだった。

 

あとは少し長すぎか。2時間10分に編集できなかっただろうか。

 

総評

コスプレ大会であることに変わりはないが、とにかく原作屈指の人気キャラ王騎将軍の完成度が高すぎて、それだけでチケット代の元は充分に取れていると感じる。できれば続編も観てみたいので、できるだけ多くの人に劇場鑑賞してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

This is your turf.

劇中の「これが貴様の土俵だ」の私訳。turfはゴルファーにはお馴染みの言葉。芝、あるいは芝地の意。転じて、比喩的に「専門領域」や「有利な地形」のような意味で用いられることもある。英検1級を目指すのなら知っておいても良い。そうでなければ覚える必要は特にない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 』
『 デッドプール&ウルヴァリン 』
『 大いなる不在 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, アクション, 大沢たかお, 山崎賢人, 日本, 歴史, 監督:佐藤信介, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 キングダム 大将軍の帰還 』 -大沢たかおの独擅場-

『 密輸 1970 』 -虚々実々の密輸ドラマ-

Posted on 2024年7月15日 by cool-jupiter

密輸 1970 70点
2024年7月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヨム・ジョンア キム・ヘス
監督:リュ・スンワン

 

『 モガディシュ 脱出までの14日間 』のリュ・スンワン監督作品ということでチケット購入。

 

あらすじ

港町クンチョンは工場排水により漁が成り立たなくなりつつあった。そんな中、海女のリーダーのジンスク(ヨム・ジョンア)は生活のために密輸に協力することを決断する。ある時、税関によってジンスクは現行犯逮捕され、親友チュンジャ(キム・ヘス)だけがその場から逃亡するが・・・

ポジティブ・サイド

1970年代の韓国と言えば民主化前=軍事政権下ということぐらいしか知らないが、工業化による公害が問題になるところは日本と同じか。海女たちが自発的にではなく、生活の糧を売るためにやむなく密輸に協力するというプロットには説得力があった。

 

その海女たちが一度は摘発され、刑務所で過ごし、娑婆に戻ってからも汚れた海で生きるしかないという描き方が痛切。腐った海藻でスープを作って幼い子どもに与えざるを得ないシーンには胸が痛んだ。こうした背景があるため、密輸という犯罪に従事する海女たちを一方的に断罪することができない。

 

その海女の中心人物ジンスクを演じたヨム・ジョンアと、裏切り疑惑のチュンジャの再会。そこから動き出すヒューマンドラマとクライムドラマの両方が、非常にテンポよく展開される。随所で挿入される韓国版懐メロも映像とストーリーにマッチしていて、それもストーリーテリングに一役買っている。

 

ソウルの密輸王、クォン軍曹と彼の片腕がアメリカのグリーンベレーかと思うほど強すぎるが、ベトナム戦争帰りだという設定によって、荒唐無稽なアクションシーンにもリアリティが感じられた。終盤の水中での大立ち回りは非常に新鮮に映った。水連達者の海女が男たちを一人また一人と始末していくのは痛快だった。

 

最後はすべての悪を華麗に打ち倒して、ハツラツとしている海女たち。密輸や殺人に関わっておきながらそれはないだろうとも思うが、「まあ、そんなことはええか」と思わせるだけのデタラメなパワーを持った作品でもある。韓国映画は邦画が絶対に作れない作品を時々軽々と作ってくれるが、本作は間違いなくそうした一品である。

 

ネガティブ・サイド

海女たちの集合写真がまんま『 セックス・アンド・ザ・シティ 』なのは時代が合わないし、オリジナリティにも欠けると感じた。

 

チュンジャがクォン軍曹の信用を得る過程の描き方が弱かった。軍人上がりでソウルの地下社会・密輸業の実力者たるクォン軍曹の片腕的なポジションに成り上がるまでに、クンチョン以外の舞台でのチュンジャの活躍を2~3分挿入しても良かったのではないかと思う。

 

韓国(映画)では警察=無能、役人=悪人という等式が成立するが、本作でもそれは例外ではない。そういう意味では本作の真相にはあまりサプライズを感じられなかった。

 

総評

50年前の韓国でこんなに生き生きと女性が活躍していたとは思えないが、それでも「ひょっとしたらこんな人たちがいたのかも・・・」と思わせるだけの妙なパワーが本作にはある。実話ベースということだが、おそらく海女さんが密輸に協力していたことがあっただけで、ヤクザや税関相手に大立ち回りをしていたはずはない。ただ、そうした荒唐無稽な想像を実際に映画に仕立て上げてしまうリュ・スンワン監督の手腕は見事。子供向けとは言えないが、40代以上なら男女を問わずに楽しめるはずの作品だ。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

セグァン

税関の意。言わずと知れた輸出入に関わるレギュレーションを担当するお役所。本作で最も多く聞こえてくる語彙の一つ。今学期、Jovianは薬学部で英語を教えていたが、受講者の中には「将来は麻薬取締官になりたい」という者も毎年ちらほらいる。彼ら彼女らは将来、税関と連携して、水際で禁輸や密輸を食い止めてくれることだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 朽ちないサクラ 』
『 キングダム 大将軍の帰還 』
『 YOLO 百元の恋 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アクション, キム・ヘス, ヨム・ジョンア, 歴史, 監督:リュ・スンワン, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:KADOKAWA Kプラス, 韓国Leave a Comment on 『 密輸 1970 』 -虚々実々の密輸ドラマ-

『 関心領域 』 -歴史は繰り返すのか-

Posted on 2024年6月9日 by cool-jupiter

関心領域 75点
2024年6月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:クリスティアン・フリーデル サンドラ・ヒュラー
監督:ジョナサン・グレイザー

 

興味のあった作品なので、チケット購入。

あらすじ

ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とヘートヴィヒ・ヘス(サンドラ・ヒュラー)の夫妻は、多くの子どもたち、そして召使いとともに郊外で幸せに暮らしていた。しかし、家のすぐ隣にあるのはアウシュビッツ収容所だった・・・

 

ポジティブ・サイド

まるで『 2001年宇宙の旅 』を思わせるオープニング。真っ黒の画面に音だけがあり、そこからしばらくして幸せいっぱいの家族の場面へ。状況説明してくれるようなナレーションや説明のスーパーインポーズも一切なし。ただ淡々とヘス一家の暮らしぶりを描いていく。

 

ドイツ軍の将校であるヘスは中間管理職を務めるサラリーマンさながらに職務に精勤し、家族サービスも忘れない。一方で男として共感できない(あるいは非常に共感できる)一面も持っており、否応なしに血肉の通った人間として描かれている。それゆえに一切映されることのない塀の向こうの収容所およびそこにいる人々への想像を掻き立てられる。序中盤では特に背景にうっすらと煙が立ち上っていることが多く、生理的な嫌悪感を催さずにはおれない。

 

本作にはBGMがほとんどないが、たまに聞こえてくる音楽それ自体がホラーである。特にエンド・クレジットのBGMは『 GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 』の「謡」、または『 ウィッチ 』のエンド・クレジットのBGMをもっと不気味にしたものと言えば伝わるだろうか。新しいホラー映画の形態と言えるのかもしれない。

 

最後の最後に左フックをチンにきれいにもらったかのような衝撃を受けた。この作品を観ているあなたも、結局はこの歴史を「鑑賞」または「消費」しているんでしょ?と言われたかのように感じられた。そして、そのことを否定できる現代人もほとんどいないのではないだろうか。

ネガティブ・サイド

あの白黒でところどころ出てきた女の子は誰だったのだろうか。『 ジョジョ・ラビット 』におけるエルサのようなものだろうか。何かもう少し明示してくれるような映像が欲しかった。

 

あのおばあちゃんが出て行った真相は?これももう少し何かヒントが欲しかった。

 

総評

一言、怪作である。ヘス一家の何気ない(ことはないシーンもあるが)数々の日常を映し出しながら、観る側に不安や嫌悪、恐怖を催させる手法にはお見逸れしましたと言うしかない。『 落下の解剖学 』のサンドラ・ヒュラーも印象に残ったが、それ以上に本作での犬(ラブラドール・レトリーバー?)の演技が光っていた。年末には犬に Supporting Role of the Year を贈るかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント独語レッスン

アウフヴィーダーゼーエン

ドイツ語で「さようなら」の意。劇中ではほとんど「ヴィーダーゼーエン」という形で発話されていた。英語でも Good bye はフォーマルかつ、ちょっとシリアスに聞こえかねない時があるので、しばしば Bye とか Bye now とうちの同僚たちは言っている。ドイツも語もおそらく同じような理由でアウフを省いていると思われる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 バジーノイズ 』
『 あんのこと 』
『 かくしごと 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, イギリス, クリスティアン・フリーデル, サンドラ・ヒュラー, ポーランド, ホラー, 伝記, 歴史, 監督:ジョナサン・グレイザー, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 関心領域 』 -歴史は繰り返すのか-

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