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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 倍賞千恵子

『 TOKYOタクシー 』 -見え見えの結末とそれなりの感動-

Posted on 2025年12月12日2025年12月12日 by cool-jupiter

TOKYOタクシー 65点
2025年12月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:倍賞千恵子 木村拓哉 蒼井優
監督:山田洋次

 

『 こんにちは、母さん 』は吉永小百合だったのでスルーしたが、こちらは倍賞千恵子なのでチケット購入。

あらすじ

タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は高野すみれ(倍賞千恵子)を神奈川の施設まで送ることになった。すみれの頼みで道中、二人は東京の各地に寄り道をしていく。そんな中で、すみれは徐々に自らの過去を語り始めて・・・

 

ポジティブ・サイド

東京の柴又から出発するロードムービーというのがいい。『 男はつらいよ 』へのリスペクトになっているではないか。長逗留しては去っていき、また戻ってきては長逗留して、という風来坊の寅さんと、柴又から恒久的に去っていくさくら・・・じゃなかったすみれの姿に、それだけでウルっときてしまった。

 

タクシーの客と運転手が、いつしか人生を振り返り、語り合い、忘れえぬ時間を作っていく。陳腐ではあるが、その人生が激動の昭和そのものと重なったとき、多くの不幸が襲ってくる。Jovianが小学生の時に昭和は終わったが、それでも学校教師などの理不尽な暴力は中学生ぐらいまでは普通にあった。ということは、家庭内では言わずもがな。

 

すみれの若い頃を蒼井優が好演。男に頼って生きるのが既定路線だった時代、女性が自分というものを持てなかった時代に、それでも自分の生きざまを守ろう抗った姿には素直に胸を打たれた。反撃シーンでは観ているこちらの息が止まりそうになった。男性諸氏は、このシーンを息を止めて観られたし。

 

倍賞千恵子の矍鑠とした語り口とたたずまいが、木村拓哉のどこか疲れた中年男との対比を際立たせていて、それがゆえに見え見えの結末ではあるものの、そのインパクトがより強くなっている。終活なる言葉があるが、人生を終えようかという老境に差し掛かると、人はどうしても自分の人生を振り返りたくなるものらしい。自分の人生は、誰かに、あるいはこの世界に何かを残せるだろうか。そんなことを考えさせられた。

 

ネガティブ・サイド

すみれの男を見る目の無さが気になった。どう見ても地雷なのに・・・ 観客の方にも好青年然とした姿を見せておき、結婚後に本性を現す、という形にすべきだったのでは。

 

タクシーの中で若き日のすみれと老いたすみれが向き合うシーンは、正直蛇足に思えた。

 

キムタクが父親として、ちょっとだらしなさすぎ。夫としてだらしないのはいい。ただ、父親として、娘の学費その他もろもろに関してあまりに感度が低い。高校の入学金と授業料でたじろいでどうする?3年後には大学も待っているのに・・・ だからこそ結末が光ると言えば光るのだが。

 

総評

最初の10分でほとんど結末まで見えてしまうのだが、それでもそれなりに心動かされてしまう。脚本の力、もっと言えばオリジナルのフランス映画にそれだけの力があるのだろう。戦後80年というが、ちょっと前まで大学生相手に教えていた身からすると、大学生たちは2000年以降生まれということに衝撃を覚えたものだった。そんな若い世代にこそ観てほしい、時代の移り変わりを見事に切り取った作品だ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

liberation

劇中で語られるウーマン・リブとは Women’s Liberation のこと。1960年代のアメリカから全世界に伝わったとされる。解放の度合いが高いものから順に freedom, liberation, emancipation となる。これらの単語をパッと使って口頭英作ができれば、英検準1級以上である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ナイトフラワー 』
『 WEAPONS/ウェポンズ 』
『 シェルビー・オークス 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, ヒューマンドラマ, 倍賞千恵子, 日本, 木村拓哉, 蒼井優, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 TOKYOタクシー 』 -見え見えの結末とそれなりの感動-

『 PLAN 75 』 -姥捨て山は他山の石たりえるか-

Posted on 2022年6月25日 by cool-jupiter

PLAN 75 75点
2022年6月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:倍賞千恵子 磯村勇人 河合優実
監督:早川千絵

 

なんかこんな小説読んだなと思っていたが、小説『 七十歳死亡法案、可決 』と本作は全く別物だった。それでも10年前に提起された問題が、そのまま2022年に持ち越されているところが日本らしいと言えば日本らしい。

あらすじ

社会保障費増大の原因とされる高齢者が殺害される事件が頻発。満75歳から安楽死を選択できる法律、通称「プラン75」が施行された。客室清掃員の角谷ミチ(倍賞千恵子)は突然、ホテルを解雇されてしまう。仕事や、それまでの人間関係も失ってしまたミチはプラン75への申し込みを検討するが・・・

ポジティブ・サイド

冒頭でショッキングな事件が描かれる。高齢者施設に銃を持った男が侵入し、大量殺人を犯す。その後、速やかにプラン75成立までが描かれる。ここの描写に時間を使わなかったのは英断。『 図書館戦争 』で昭和から正化への移り変わりをダイジェスト的に描いていたのと同様の手法である。

 

ホテルの客室清掃員のミチを演じる倍賞千恵子が、どこまでも真に迫っている。70代後半でありながら年金暮らしではなく、日々あくせく仕事をしながら、同僚や友人を持ち、社会とつながりを保っている。しかし、同僚の一人が仕事中に倒れてしまったことから「高齢者を働かせるとは何事か」との投書があり、ミチらは解雇されてしまう。ここから日本社会の冷たさというか、早川千絵監督の描きたいものが見えてくる。社会参加の意思があり、その能力もあるにも関わらず、拒絶される。このあたり、Jovianは仕事柄、よく経験している。語学企業の教務トレーナーとして、学校・企業・官公庁でレッスンを担当する講師を採用・育成・オブザーブ・研修しているが、特に学校は65歳あるいは70歳以上の講師はNGというところが本当に多い。能力的にも体力的に、もちろん認知の面で問題ない講師でも、年齢だけで弾かれる。人間が人間ではなく数字で判断されてしまう世の中なのである。

 

そうして社会から孤立を深めていくミチとは対照的に、プラン75の受付業務に精勤するヒロム(磯村勇人)が描かれる。典型的な役人なのだが、そこに長く音信不通になっていた叔父が現れ、プラン75に申し込んでくる。ここで黙々と職務に励むヒロムと、叔父の死への旅路を自分が用意してしまうことに葛藤を覚える。このあたりの対照も非常に際立っている。なぜなら、叔父のプラン75を受け付けつつも、その一方で公園のベンチでホームレスが寝られないようにする仕切り金具をあれやこれやと試して、「ああ、これはもたれにくい」、「これなら寝られないな」と無邪気に感想を述べる。名前のない人間に対して、人はいともたやすく冷酷になれる。それは職務に忠実だからこそで、それこそまさにハンナ・アーレントが呼ぶところの「凡庸な悪」である。悪意のない悪と言ってもいい。

 

もう一人の重要人物として、フィリピンから来日したマリアの存在が挙げられる。祖国にいる病気の子どもを助けるための治療費捻出のために、教会から非常に shady な仕事を紹介される。それがプラン75で亡くなった人々の遺品処理。キリスト教の教会がそんな仕事の仲介をしているのにもビックリするが、では遺体の処理はどうなっている?という疑問が、ヒロムやミチの物語に絡んでくる。なるほどなと思わされた。脚本の妙である

 

切った爪をゴミ箱に捨てずに植木鉢=土に還すミチの姿に、命に対する彼女の考え方が静かに、しかし如実に表れている。人間だれしも年老いてしまえば「吾日暮れて途遠し」となる。しかし、そこで国家が「故に倒行して之を逆施す」となってはならない。残念ながら、日本は逆施倒行している。「年金は100年安心」と言いながら、「老後に自分で2000万円貯めろ」とも言っている。正直なところ、プラン75のような法案が日本で可決される可能性は2〜3%あるのではないかと疑ってしまう。社会派の硬質な映画が送り出されてきたなと思う。

ネガティブ・サイド

プラン75に対して「最初は反発していたけれど、孫のためならしょうがないかな」という女性の声があったが、こうした pro-Plan 75 の声をもっと紹介するべきだったと感じる。別にプラン75そのものが素晴らしいからという意味ではなく、プラン75へのニーズは潜在的に存在するという現実もあるからだ。Jovianの祖母が亡くなった数年後に、Jovian父はNHKの老老介護の番組を観ながら「おふくろは寝たきりになる前に死んでくれたなあ」と口にしたことがある。なんちゅうこと言うんや、と思いはしたものの、老老介護による共倒れという現実がそこにある以上、一個人の極めて健全な感想と受け取るしかない。そうした市井の声を劇中でもっと紹介してくれれば、個人の声も国家に届くということが逆説的に示されたのではないだろうか。

 

河合優実演じるコールセンター職員・成宮とミチが実際に出会う展開は興ざめ。必要なのはコールセンター側の人間の想像力であって、想像力を喚起するのは出会いではなく、声だけの触れ合いの方だろう。ミチとの電話のやり取りを通じて、成宮の社会を見る目、人を見る目が変化しつつある、ということを感じさせる演出こそがふさわしかったのでは?

 

総評

劇場はかなりの入りで、その多くが中年以上、あるいは高齢者だった。彼ら彼女らは本作が高齢者を虐げる物語ではないと直感的に感じ取ったのだろう。だからといって、高齢者を肯定する物語でもない。淡々と進行しながらも、物語の奥行きが広い。命についての深い考察がある。『 Arc アーク 』や『 いのちの停車場 』で慨嘆させられた映画ファンは、本作で大いに留飲を下げることができるだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

abort

「途中でやめる」の意。プラン75はいつでも止められるということだが、この場合の止めるに当てる訳語は abort がふさわしい。stop と言ってしまうと restart してしまう可能性があるが、abort は止めてしまって、もう元には戻らない。中絶を abortion という言うわけである。  

 

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Posted in 国内, 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, カタール, ヒューマンドラマ, フィリピン, フランス, 倍賞千恵子, 日本, 河合優実, 監督:早川千絵, 磯村勇人, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 PLAN 75 』 -姥捨て山は他山の石たりえるか-

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