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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: ジェレミー・レナー

『アメリカン・ハッスル』 -善人1人、残りは全員悪人かアホのゲテモノ面白映画-

Posted on 2018年9月7日2020年2月14日 by cool-jupiter

アメリカン・ハッスル 70点

2018年9月5日 レンタルDVD観賞
出演:クリスチャン・ベイル ブラッドリー・クーパー ジェレミー・レナー エイミー・アダムス ジェニファー・ローレンス ロバート・デ・ニーロ
監督:デビッド・O・ラッセル

f:id:Jovian-Cinephile1002:20180907090028j:plain

原題は”American Hustle”、その意味するところは「アメリカ的な詐欺行為」である。カタカナ表記してしまうと hustle なのか hassle なのか、判別が難しくなる。

アーヴィン(クリスチャン・ベイル)はクリーニング店を複数営みながら、客の引き取り忘れ品を堂々と頂戴して財を為す一方で、美術品の贋作取引や、愛人のシドニーと組んでの金融詐欺などの不正な詐欺行為でも利益を得ていた。しかし、連邦捜査官のリッチー(ブラッドリー・クーパー)にある時、あっさりと逮捕されてしまう。だが、アーヴィンの詐欺の知識と手腕を高く評価したリッチーは司法取引を持ちかけ、FBIの指示の元に動けとアーヴィンに迫る。かくして、政治家や裏社会の大物をしょっぴくためのおとり捜査(sting operation)が始まる・・・

本作品は、一人を除いて、登場人物が全員悪人もしくはアホである。まるで北野武の『アウトレイジ』のようだ。『アウトレイジ』でも、ヤクザがマル暴刑事にカネを渡して情報を得るという場面がたびたび挿入されていたが、本作には大物マフィア(ロバート・デ・二―ロ)を起用し、彼を使って非常にサスペンスを盛り上げる瞬間が用意されている。これだけでも本作を観る価値があろうというものだ。また、クリスチャン・ベイルもハズレが無い俳優である。『ターミネーター4』など、今一つパッとしない作品もあったが、彼自身が輝いていないわけではなかった。ブラッドリー・クーパーも魅せる。クレイジー一歩手前の執念で上司に食い下がる姿に、我々はサラリーマンの悲哀を見出す。その一方で彼の仕事への熱意を、どこか冷めた目でしか見られない自分にも気がつく。なぜなら、犯罪の証拠を得るために、詐欺師と組んでいるからだ。社会正義を実現するために犯罪者を有効活用する、巨悪を打倒するために小さな悪を使う。それは正しいことなのか。そのことに最も打ちのめされるのがニュージャージー州カムデン市長ポリート(ジェレミー・レナー)である。彼こそは公僕の鑑とも言うべき存在で、アーヴィンとリッチー、英国貴族に連なるシドニー(エイミー・アダムス)らに翻弄されるがままに、カジノ事業に邁進してしまう。彼の徹頭徹尾の全体の奉仕者としての姿勢に、我々は勧善懲悪という四字熟語の意味を思わず考えさせられてしまう。しかし、何と言ってもアーヴィンの妻であるロザリン(ジェニファー・ローレンス)の見せる演技が圧巻である。彼女が見せる感情と感傷、激情の発露の後に見せる一筋の涙に、百万言にも値する意味が込められている。映画でしか表現できない技法で、だからこそ映画には他の文化・芸術媒体とは異なる魅力がある。

日本はおとり捜査に消極的であるが、その理由を推測するに主に2つあるのだろう。1つには、善人(お人好しと言い換えても良い)が多すぎて、社会全体が得られる利益よりも市民が被る不利益の方が大きいと予想されること。もう1つには、社会=法共同体という意識の低さ故に、おとり捜査そのものが更なる犯罪を誘発させてしまう可能性が高いと考えられることだ。おとり捜査ではないが、このあたりを描いた邦画に『日本で一番悪い奴ら』が挙げられる。

内容が盛り沢山で、おとり捜査以外にもアーヴィンの人間関係(妻と愛人)やリッチーと上司の謎の問答(十中八九、即興の作り話であろう)もスキット的に挿入されているため2時間超の作品となっている。しかし、観賞中は中弛みを一切感じさせず、初めから終わりまで一気に見させる力を持っていた。特に、「ああ、結局のところ、こういう結末なんだろうなあ」という予想を外されたのは嬉しい誤算というか、それもまた納得ができるエンディングであった。久しぶりにニーチェに『善悪の彼岸』でも引っ張り出して、再読しようか。そんなえも言われぬ感覚をもたらしてくれる良作である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, エイミー・アダムス, クリスチャン・ベール, ジェニファー・ローレンス, ジェレミー・レナー, ブラック・コメディ, ブラッドリー・クーパー, ロバート・デ・ニーロ, 監督:デビッド・O・ラッセル, 配給会社:ファントム・フィルムLeave a Comment on 『アメリカン・ハッスル』 -善人1人、残りは全員悪人かアホのゲテモノ面白映画-

『ウインド・リバー』 -忘却と抑圧の歴史を現在進行形で提示する傑作- 

Posted on 2018年7月31日2020年2月12日 by cool-jupiter

ウィンド・リバー 80点

2018年7月29日 シネ・リーブル梅田にて観賞
主演:ジェレミー・レナー エリザベス・オルセン ジョン・バーンサル
監督:テイラー・シェリダン

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最初にキャスティングを観た時は、何かの冗談だろうと思った。ホークアイとスカーレット・ウィッチで何を作るつもりなのだと。しかし、テイラー・シェリダンは我々の持っていた固定観念をまたしてもいともたやすく打ち砕き、『羊たちの沈黙』、『セブン』の系譜に連なるサスペンス映画を世に送り出してきた。それが本作『ウインド・リバー』である。

アメリカ・ワイオミング州のウィンド・リバー地区で少女の死体が見つかる。場所は人家から遠く離れた雪深い森林近く。発見者はコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)、地元のハンターである。捜査のためにFBIから新米エージェントのジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)が送り込まれてくる。ジェーンは地元の地理や人間関係に精通し、何よりも雪を読む力を有するランバートに捜査の協力を依頼する。そして二人は事件の真相を追っていく・・・

あまりにも広大なワイオミング州に限られた人員、しかし捜査は拍子抜けするほどあっさりと進んでいく。なぜなら、この土地の人口密度の希薄さとは裏腹に、人間関係の濃密さは反比例しているからだ。さらにこの土地には『スリー・ビルボード』のような地方、田舎に特有な閉鎖的人間関係のみならず、ネイティブ・アメリカン居留地であるという歴史に由来する抑圧への憤りが静かに漂っている。それは主人公のランバートにしても同じで、彼の家族との関わり、殺された娘の両親との関わりから、我々は実に多くの背景を悟ることができる。何もかも分かりやすく会話劇やナレーションで説明してしまう映画が多い中、これほど画で語る映画に出会えたのは僥倖だった。ただし、ネイティブ・アメリカンと独立国家アメリカとの関わりの歴史を知らなければ、少し理解が難しいかもしれない面はあった。『焼肉ドラゴン』についても、日本が朝鮮半島を植民地化した歴史を知らなければ、理解が追いつかない部分があったのと同様である。ネイティブ・アメリカンの強制移住、就中、涙の道=The Trail of Tearsの話は、怒りと悲しみ無しに知ることはできないので、興味のある向きはぜひ調べてみてほしいと思う。

本作を特徴づけているのはその狭く濃密な世界観だけではなく、主人公ランバートの雪読みの能力。小説『スミラと雪の感覚』のスミラを彷彿とさせるキャラクターである。このスミラも、デンマーク自治領グリーンランドで生まれ育ったイヌイットの混血児で、デンマーク社会を複雑な視線で見つめるキャラクターで、ランバートとの共通点が多い。雪という自然現象が本作『ウインド・リバー』の大きなモチーフとなっており、観る者は雪の持つ美しさだけではなく、命を容赦なく奪う冷徹性、あらゆるものの痕跡を掻き消してしまう暴力性、なにもかもを一色に染めてしまう無慈悲さを見せつけられる。特に雪が一面を白に染めてしまうという無慈悲さは、そのままずばりアメリカの歴史の負の側面を象徴している。近代国家として成立したアメリカの歴史は端的に言えば、対立と融和の繰り返しだ。植民地と宗主国との対立と融和、弱小州と強大州の対立と融和、自然と文明の対立と融和、エリートとコモン・ピープルの対立と融和、男性と女性の対立と融和、白人種とその他人種の対立と融和、そしてネイティブ・アメリカンとアメリカンの対立と融和。しかし、これらの歴史がすべて今も現在進行形であるということに我々は慄然とさせられる。そうした差別と被差別の関係が今も残っていることにではなく、我々が普段、いかにそうした抑圧された側を慮ることが無いのかを突きつけられるからだ。雪が染め上げる大地は、白人に無理やり染め上げられるネイティブ・アメリカンの悲哀のシンボルであろう。

閉鎖社会の中でさらに抑圧された存在として描かれるネイティブ・アメリカンの女性は、我々に忘却することの残酷さを否応なく突き付けてくる。ジェレミー・レナーが被害者の娘の父親に語る彼自身の逸話は胸に突き刺さる。我々が初めてこの父親を目にする時、どこか無機質で非人間的とも思える印象を受けてしまうのだが、そうしたイメージをいかに容易く我々が形成してしまうのは何故なのか、そしてそうしたイメージを一瞬で粉々に打ち砕くようなシークエンスがすぐさま挿入されるところに、テイラー・シェリダンの問題意識が強く打ちだされている。人間とは何であるのか、人間らしさとは何であるのか。傑作SF『第9地区』でも全く同じテーマが問われているのだが、我々は人間であることを簡単に忘れ、獣に堕してしまう。そんな獣を撃ち抜くランバートとともに、本作を堪能してほしい。今年、絶対に観るべき一本である。

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Posted in 映画, 未分類, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アクション, アメリカ, エリザベス・オルセン, ジェレミー・レナー, ジョン・バーンサル, ヒューマンドラマ, 監督:テイラー・シェリダン, 西部劇, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『ウインド・リバー』 -忘却と抑圧の歴史を現在進行形で提示する傑作- 

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