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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: シャイリーン・ウッドリー

『 モーリタニアン 黒塗りの記録 』 -日本はアメリカを笑えない-

Posted on 2021年11月3日 by cool-jupiter

モーリタニアン 黒塗りの記録 70点
2021年10月30日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:ジョディ・フォスター タハール・ラヒム シャイリーン・ウッドリー ベネディクト・カンバーバッチ
監督:ケビン・マクドナルド

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また出てきたイラク戦争関連映画。黒塗りの記録という副題が付されているのは、配給会社の Good job だと言える。また本作の製作は英国。つまりは『 オフィシャル・シークレット 』と同じく、反省と将来同じ過ちを繰り返すまいという英国人の意識の表れと取ることができる。

 

あらすじ

9.11の実行者たちをリクルートしたとの容疑から米当局に逮捕されたモハメドゥ(タハール・ラヒム)だが、起訴されることなく数年間拘束され続けていた。人権派弁護士のナンシー(ジョディ・フォスター)はモハメドゥの弁護を無償で引き受ける。そして、モハメドゥ拘束の裏にある非人道的な行為の数々が明らかになり・・・

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ポジティブ・サイド

物語の視点がユニークだ。『 最後の決闘裁判 』のように、同一の事象を異なる人間が捉えたというのではなく、9.11という事件を背景に一人の人間の弁護側と検察側、両方の視点で迫っていく点に視野の広さを感じる。同時に、モハメドゥの語る言葉とモハメドゥの書く手記のギャップ、さらに米政府によって徐々に公開される資料、その黒塗りの記録の向こう側にあるMFR(Memorandoum For Record)によって明らかになる事実が、物語に更なる重層性を与えている。

 

忖度という言葉が人口に膾炙するようになって久しい日本社会であるが、それはつまり他者への迎合に他ならない。そこに自分というものはない。本作の弁護士ナンシーや検察官であるカウチ中佐は、自分の信念にどこまでも忠実だ。ナンシーはモハメドゥの弁護を手がけるものの、それは彼の無実の証明のためではなく、あくまでも米政府の手続きの瑕疵を責めるもの。モハメドゥの母親の肉声に触れながらも、女性として、あるいは母親として同情するのではなく、あくまでも推定無罪の原則にしたがって動く。カンバーバッチ演じるカウチ中佐も同じ。友人が9.11のハイジャック犯に殺害されたことから、アルカイダのリクルーターであると目されるモハメドゥを裁判で有罪にすべく奮闘するが、その過程で「これはおかしい」と気付いていく。個人の情ではなく、法律家としての哲学に忠実であり続ける。国家と個人を同一視する傾向が多くの国で見られる今、この二人の姿勢に学ぶべき点は多い。

 

モハメドゥを演じるはタハール・ラヒム。どこかで観たと思ったら『 ダゲレオタイプの女 』に出演していた。このキャラクターも一筋縄ではいかない。無実を訴えつつも、常にどこかに疑惑を感じさせる。Jovianも弁護士の先生に「弁護士を信用しているのなら、事実をありのままに語ってください。黒を白にするのは難しいが、黒を灰色にすることはできる」と教えてもらったことがある。すべてを語らないモハメドゥはすなわちナンシーを全面的に信用していなかったわけで、なにが彼をそれほど頑なにさせるのか。その秘密が情報公開請求で呈示される段ボール箱何個分になるか分からない資料の山として現われる。それが見事なまでに黒塗りだらけなのだ。ここに至って、我々日本のオーディエンスは、これは赤木ファイルやスリランカ人女性の死亡を思い出すことになる。黒塗りは、そのまま時の政治権力の闇の大きさ、闇の深さを表している。

 

黒塗り記録の向こう側にはモハメドゥを自白させた力、すなわち拷問があり、これ自体は『 ザ・レポート 』などで既に明らかにされていることだが、本作において真に恐るべきなのは、エンディングで明かされる数字だろう。「WMDを所有している」、「テロ組織を支援している」として散々イラクを攻撃しておきながら、自らの主張は嘘っぱちだった。その裏で、法律無視の非人道的な行為の数々を犯し、それを黒塗りにすることで真相を闇に葬ろうとしていたのだから、これはもうまともな国家運営とは言えない。しかし、忘れてはならない。我々はそんなアメリカのやることなすことに必ず追従する国家に生きているということを。

 

ネガティブ・サイド

シャイリーン・ウッドリー演じる弁護士がMFRを見て「モハメドゥは自白していた!」とパニックになるシーンは実話なのだろうか。普通に考えれば、そこは最初に開示された黒塗り文書の、黒塗りされていない部分に該当しそうだが。また、自白そのもの、特に不当に長期に拘留されたり、身体的精神的な拷問によって強制された自白に証拠能力などない。弁護士ならそれぐらい知っていて当たり前のはず。あるべき反応は「なぜ自白した?なぜ当局は罪状を定めて起訴しない?起訴できない?自白は強要されたもの?」のように、理路整然とした推理であるべきだったと感じる。

 

拷問シーンの苛烈さがもう一つ伝わってこなかった。もっと過激にモハメドゥを痛めつけるシーンを作っていれば、モハメドゥが見せる普通の振る舞いの意味がより強調され、さらにエンディングで明かされる数字のインパクトも更に増したに違いない。

 

総評

英国人がイラク戦争関連の事象を描くとこうなるのかというお手本のような作品。アメリカ人だと『 ボーイズ・オブ・アブグレイブ 』のような、一見反省しているように見せかけて、実は単なるアメリカの個人主義的英雄譚の焼き直し作品になってしまう恐れが常にある。日本も法治国家であり続けたいなら、そして法治国家の国民であり続けたいなら、本作を観て、推定無罪の原則や公文書管理の重要性などをあらためて学ぶべきだろう。120%不可能だろうが、邦画の世界で入管によるスリランカ人女性の殺人(と敢えて呼ぶ)を映画化したら、それだけで国内ムービー・オブ・ザ・イヤーだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

See you later, alligator.

受験英語ではまず触れられないが、キッズ英会話などでは割とお馴染みの表現。意味はそのまま「じゃあね、アリゲーター」で、later と alligator が韻を踏んでいる。劇中でも触れられるが、こう言われたら”After a while, crocodile.”と返すのがお約束になっている。これも while と crocodile が韻を踏んでいる。ただ、大人が使うことはまずない。大人の先生がキッズ英会話の受講生に言ったり、小児科医が患児に言ったりすることはあるが、ビジネスの文脈ではほぼ間違いなく使われない。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イギリス, サスペンス, シャイリーン・ウッドリー, ジョディ・フォスター, タハール・ラヒム, ベネディクト・カンバーバッチ, 監督:ケビン・マクドナルド, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 モーリタニアン 黒塗りの記録 』 -日本はアメリカを笑えない-

『 スノーデン 』 -裏切ったのは国家なのか、スノーデンなのか-

Posted on 2020年1月12日 by cool-jupiter

スノーデン 70点
2020年1月11日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジョゼフ・ゴードン=レヴィット シャイリーン・ウッドリー ニコラス・ケイジ
監督:オリバー・ストーン

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Jovianが高校3年生の頃、クリスマスの季節に関西学院大学と国際基督教大学から絵葉書が送られてきた。おそらく、模試の時にそれらの学校を第一志望と書いていたらからである。テストの業者がその情報を大学に売るか渡すかしていたのである。そして、高校卒業の直前、代ゼミやら駿台から「あなたの学力なら入学金無料!授業料は半額!」みたいな手紙も届いた。おそらく高校(もしくは一部の教師)が名簿を業者に売ったのであろう。それが1990年代のことである。今では個人情報やプライバシーは保護されている。建前上はそうなっているが・・・

 

あらすじ

エドワード・スノーデン(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)は愛国心から軍に入隊。しかし、負傷により除隊となる。だが彼は諦めることなく、NSA、そしてCIAに入局し、国家に奉仕していく。その中で、テロリストだけではなくアメリカ内外の一般人の情報まで監視するプログラムが存在することに彼は疑問を抱き始め・・・

 

ポジティブ・サイド

スノーデンの告発と亡命はリアルタイムでニュースになっていた。正直なところ、当時は「やっぱりね」ぐらいにしか思っていなかった。なので、本作が劇場公開された時も、スルーを決め込んでしまった。今回、はじめてこの映画を観たことで、エドワード・スノーデンの人物像に迫ることができた。伝記映画というのは対象をある程度美化するものだが、彼は紛れもない同時代人。多少の誇張はあっても美化はされていないだろう。彼の語る言葉は、充分に美しい。

 

決して肉体的に恵まれているわけでもないスノーデンが、なぜ軍に入隊することを志願したのか。アダム・ドライバーと同じである(彼はかなり大柄だが)。除隊の仕方までよく似ている。つまり、説得力がある。しかし、スノーデンの生き方に共感できるのは、彼が国家に忠誠を誓おうとするからではない。彼が国家に忠誠を誓い、国家に奉仕しようとする心が、彼自身の正義感や信条と一致しているからである。日本の右翼の言論が単なるネトウヨの妄言に埋め尽くされてしまって久しいが、個人の信念と国家の方針ならば、個人は自らの信念を優先すべきである。人類史の流れを大雑把にまとめれば

 

集団生活 → 共同体・国家の成立 → 個人の確立

 

となる。もしくは銀英伝のヤン・ウェンリーの言葉を借りれば

 

「人間は国家がなくても生きられますが、人間なくして国家は存立しえません」

 

となるだろうか。

 

本作はスノーデンの経歴を詳細に映し出す一方で、彼の私生活の描写にも時間を割いている。そこから分かるのは、彼は生身の人間であったということである。飯田譲治が小説『 アナザヘブン2 』で、殺人事件を捜査中の刑事が、妻に自分の追っている事件の詳細を話すことができず、ストレスを溜めて、暴発してしまうくだりがあった。日本でもそうだろう。自衛官の妻や夫、両親や子どもは、仕事で何をしているのか、どんなストレスを抱えているのかを聞こうにも聞けないだろう。そうしたスノーデンの苦しみを、彼の伴侶であるリンゼイを通じて我々は知る。そこにいるのはCIA職員だとかNSA職員ではなく、一人の小市民である。普通の人間である。人間の条件とは何か。思いやりがあることである。これは何も、他人に優しく接するということではない。他人も自分と同じ人間であると認められるということである。スノーデンの勤務するNSAやCIAは確かにテロ実行犯と思しき人物をマークしているのかもしれない。しかし、それらの人物を確証なく抹殺することにためらいを見せない。また自国民を監視することにも抵抗を感じていない。憲法修正第4条の精神など、どこ吹く風である。どうだろうか。スノーデンは国家を裏切ったのだろうか。それとも、国家がスノーデンを裏切ったのだろうか。

 

スノーデンが母国を捨ててまで語りたかったこと、それもやはりヤン・ウェンリーが語っている、「法にしたがうのは市民として当然のことだ。だが、国家が自らさだめた法に背いて個人の権利を侵そうとしたとき、それに盲従するのは市民としてはむしろ罪悪だ。なぜなら民主国家の市民には、国家の犯す罪や誤謬に対して異議を申したて、批判し、抵抗する権利と義務があるからだよ」と。弱い者いじめに精を出す政権が安定して続くどこかの島国に暮らす我々は、スノーデンの発したメッセージにもっと敏感にならなくてはならない。

 

ネガティブ・サイド

分かる人には分かるのだろうが、CIAやNSAのシステムやらプログラムに関する話は、ほとんど何も理解できなかった。とにかく超巨大な通信傍受システムが秘密裏に、しかし超大規模に運用されているのだということは伝わったが、話のスケールが大き過ぎ、なおかつ使われている jargon が晦渋過ぎて、ただの小市民にはリアリティが感じられなかった。もっと、スノーデンの私生活部分にスポットライトを当てても良かったのではないか。だが、それをすると彼が恐れたプライバシーの侵害になるのが痛し痒しか・・・

 

スノーデンの告発に協力するジャーナリストたちをもう少し掘り下げても良かったかもしれない。ネームタグやCIA副長官と一緒に映っている写真などからスノーデンの identification を行うというのは、記者にしてはあまりにも脇が甘いと感じた。

 

スノーデンの日本での生活もごく短時間描かれるが、相変わらず日本の家屋の何たるかを欧米の映画人は正しく理解できていないようである。『 GODZILLA ゴジラ 』ですら、間違った日本の住居を描写していたのだから、これも仕方がないのか。

 

総評

劇中でさらりと、日本がアメリカ様によって首根っこを押さえられていることが語られている。日本は戦後一貫してバイ・アメリカンであったが、ここまで主権を侵害されていると、もはや属国である。本作はエンターテインメントであるが、それは reader よりも watcher の方が多数派だからである。オリバー・ストーン監督は多くの人々に、スノーデンのメッセージを受け取って欲しいと思っている。ならば受けとろうではないか。そして、安全とは何か、安全の代償に事由を差し出してよいのかどうか、真剣に考えようではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

whistleblower

「内部告発者」の意である。直訳すれば「笛を吹く人」である。サッカーで反則が行われた時、審判は笛を吹く。そう考えれば、悪いことを見逃さず、それを周囲に知らしめる人であるというイメージも湧いてくる。blow the whistle = 笛を鳴らす、というのも「不正を通報・告発する」という意味の慣用表現として使われる。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, サスペンス, シャイリーン・ウッドリー, ジョゼフ・ゴードン=レヴィット, ドイツ, ニコラス・ケイジ, フランス, 伝記, 監督:オリバー・ストーン, 配給会社:ショウゲートLeave a Comment on 『 スノーデン 』 -裏切ったのは国家なのか、スノーデンなのか-

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