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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: シチュエーション・スリラー

『 仮面病棟(小説) 』 -映画化に期待が高まる-

Posted on 2020年1月20日 by cool-jupiter

仮面病棟 65点
2020年1月19日に読了
著者:知念実希人
発行元:実業之日本社

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200120131534j:plain
 

『 神のダイスを見上げて 』が結構読みやすかったので、本作(小説)も購入。現役医師が病棟を舞台に描くだけあって、臨場感もプロットの妙も、こちらの方がかなり上であると感じた。

 

あらすじ

外科医・速水秀悟は先輩の代打で当直バイトのため、田所病院に入った。その夜、ピエロの仮面をかぶった男が病院に押し入り、「この女を治せ」と腹部に銃創のある女性を連れてきた。ピエロは自らを金目当ての強盗だと言うが・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200120131605j:plain

 

ポジティブ・サイド

グイグイと引き込まれた。330ページ弱と、小説としては標準的な長さだが、2時間ちょうどで一気読みできた。帯の惹句の【 一気読み注意! 】という文言は本当である。

 

また医師が書いているだけあって、病棟の構造や患者の設定にリアリティがある。それも海堂尊の作品に共通して見られる、医師や医療従事者、官僚などが専門用語を使ったり、倫理観を戦わせたり、徹底した手洗いやオペの手技に悦に入っているような描写ではない。一般人にも十分に理解できるような語彙を使ったり、情景描写を行ったりしている。一方で、治療の場面などはスピード重視。専門的な語彙を存分に駆使しながらも、やはり海堂作品にやたらと見られる、ルー大柴的(日本語とカタカナ語のちゃんぽん)な言葉の使い方をしていないので、専門用語(数は多くない)も漢字から意味がスッと理解できたり、その後に続く動詞が平易であるので、何を行っているのかというイメージを脳内に描きやすい。なかなかの書き手である。

 

ジャンル分けすれば、ミステリ、サスペンス、シチュエーション・スリラーだろうか。この田所病院には「館」的な趣がある。そして、それは全く荒唐無稽ではない。おそらく本職の医師や看護師らコ・メディカルであれば、田所病院各階フロア図を見て何かに気づくことであろう。天狗になるわけではないが、Jovianも本文を読み始める前にピンときた。これは漫画『 おたんこナース 』のとあるエピソードから病院独特のシステムがあることを学んでいたからである。また同じく漫画『 スーパードクターK 』を読んだことがある人なら、とある闇のビジネスについてもピンとくるかもしれない。日本の社会構造が目に見える形で変わってきている今、こうした問題はいつか本当に起こるかもしれない。

 

数少ない登場人物、病院という閉鎖空間、時間にして一日足らず(実際は数日だが、事件そのものは一日足らず)という極めて短い時間でありながら、ミステリ要素も社会派要素も込められていた。小説の映画化ではないが、韓国映画『 ブラインド 』を日本式に換骨奪胎して成功させた『 見えない目撃者 』のような、ミステリとサスペンスの両方を貪欲に追求するような作品である。また、映画化に際して、永野芽郁の下着姿が拝めるかもしれない。これは知念実希人先生の隠れたグッジョブかもしれない。読むならば、次の日が休日の夜にすべきである。

 

ネガティブ・サイド

このピエロの犯人像には感心しない。詳しくは言及できないが、普通に考えれば速水よりも先に病院の構造上のある秘密に気がつくはずである(映画のトレイラーは盛大にネタバレを含んでいるので注意!)。また、ある程度大きな病院には地下に発電施設などがあることが多いが、この病院には地下室はない。うーむ。ストーリーが十分にアングラだからだろうか。

 

ひとつ不自然に感じたのは、あるキャラクターのある言動である。怪しいのはセリフそのものではなく、そのセリフを言う相手である。ヒントとしてあからさま過ぎる。

 

「もしかしたら・・・、いえ、先に確かめてきます」 

↓ 

死体として発見される 

 

のような現実世界では不自然極まりないがミステリ世界では全う至極な展開は構築できなかっただろうか。また、順番が前後するが、犯行の構造が『 神のダイスを見上げて 』とそっくりである。こちらを読んだ人なら、真相に一気に迫れるかもしれない。これは知念実希人の癖なのだろうか。

 

総評

あわよくばシリーズ化も狙えたかもしれないが、それをあっさりと放棄するエンディングは個人的に好感触であった。ダークヒーローというのは、マイノリティだからかっこいいのである。誰もかれもがダークヒーローになる必要はない。映画化に際しての不安材料は、トレイラーにある「国家の陰謀」なるナレーションである。そこまで話を大きくする必要はない。その点、小説版はコンパクトにまとまっている。映画はさらにもう一捻りを加えてくるのは間違いないと思われる。それが吉と出るか凶と出るかは分からない。吉3:凶7ぐらいの確率だろうか。非常にリーダビリティの高い作品なので、3月の映画公開前に一読をお勧めする。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

clown

ピエロというのはフランス語で、英語では clown と言う。『 ジョーカー 』を思い浮かべてもらうのがちょうどいい。日本ではあまり見ない存在であるが、clown aroundという熟語は覚えておいて損はないかもしれない。「道化師のごとく、ふざけた真似をする」の意である。ただし、必ずしも顔をペイントしたり派手な衣装を身にまとったりする必要はない。飲み会などで同僚たちのバカ騒ぎが過ぎるときに、心の中でつぶやくとよいだろう。

 

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2010年代, C Rank, サスペンス, シチュエーション・スリラー, ミステリ, 日本, 発行元:実業之日本社, 著者:知念実希人Leave a Comment on 『 仮面病棟(小説) 』 -映画化に期待が高まる-

『 キューブ:ホワイト 』 -見つけても借りるな、借りても観るな-

Posted on 2019年12月2日 by cool-jupiter

キューブ:ホワイト 15点
2019年12月1日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ショーナ・マクドナルド オデッド・フェール
監督:ポール・ラシッド

f:id:Jovian-Cinephile1002:20191202124650j:plain

 

『 パズル 』と同じく、TSUTAYAでタイトルとカバーボックスだけを観て借りる。I was in the mood for garbage. しかし、原題が White Chamber と知ったのは鑑賞後であった。

 

あらすじ

女(ショーナ・マクドナルド)は目が覚めると白い立方体の密室に閉じ込められていた。誰が、何のために?やがて彼女には拷問が加えられる。情報を知らせろと外部からの声は言うが、彼女はその答えに心当たりがなく・・・

 

ポジティブ・サイド

さらりと薬物と戦争の関係に触れているが、これは重要な指摘でもある。軍事や政治、さらには科学までも、密室で行ってはならないという批判が込められているのだろう。

 

後は、この手のシチュエーション・スリラーにしては珍しく、中の人間が結構入れ替わる。外部から内部の密室(的な空間)へ入っていくプロットで近年それなりに面白かったのは『 メイズ・ランナー 』だった。このプロットだけはちょっと斬新だと感じた。

 

また、何を意図しているのか不明だが、催淫剤を使ったり、カニバリズムに走らせる薬剤も登場する。そこらへんのオリジナリティだけは買いたい。

 

ネガティブ・サイド

まずオープニングからして『 Vフォー・ヴェンデッタ 』の二番煎じである。ディストピアを描くのは構わないが、そうした社会状況をもっと適切に描写すべきだし、密室内外の人間関係にもそのことを暗示的にせよ明示的にせよ反映させるべきだ。

 

そもそも重要人物であるザカリアンをクルド人だと言っているが、これはアルメニアの名前だろう。何故そんなことが分かるのか。それはJovianがヴィック・ダルチニヤンやアルツール・アブラハムなどのアルメニアン・ファイターをこよなく愛していた時期があり、アルメニアについてあれこれリサーチしたことがあるからだ。この一点だけを取り上げても、これを作ったブリティッシュの製作陣の意識の程度が分かろうというものだ。

 

総評

『 CUBE 』は文句なしに傑作だった。つられて観た『 CUBE2 』や『 CUBE ZERO 』は珍品だった。勢いで借りた『 キューブ■RED 』は、古畑任三郎のとある数学ネタと同工異曲で、存外に楽しめた。しかし本作は正真正銘の駄作である。見つけても借りない。借りても観ない。これを肝に命じられたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Answer me.

 

「(俺の質問に)答えろ」の意である。日本の学習者が共通して犯す間違いに“Answer to me.”というものがある。動詞の意味に対して、「何を?誰を?」と思えば他動詞、そうでなければ自動詞と解釈するのが自然だが、中には例外がいくつもある。Answerもその一つで、“Answer me.”という形ごと覚えてしまうべし。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, F Rank, イギリス, オデッド・フェール, シチュエーション・スリラー, ショーナ・マクドナルド, 監督:ポール・ラシッドLeave a Comment on 『 キューブ:ホワイト 』 -見つけても借りるな、借りても観るな-

『 エリザベス∞エクスペリメント 』 -ご都合主義が過ぎる凡作スリラー-

Posted on 2019年8月13日2019年8月13日 by cool-jupiter

エリザベス∞エクスペリメント 40点
2019年8月8日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:アビー・リー キアラン・ハインズ
監督:セバスチャン・グティエレス

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190813211539j:plain

確か、未体験ゾーンの映画たちでパンフか何かだけ手に取った記憶がある。地雷臭がプンプン漂っていたが、Again, I was in the mood for garbage. 夏と言えばサメがゾンビのクソ映画祭りなのだが、たまには違うジャンルをば。本作はSFというよりもシチュエーション・スリラーである。しかし、シチュエーション・スリラーと呼ぶには、話があまりにもとっ散らかっているという印象である。期待せずに観た。そして、それで正解であった。

 

あらすじ

エリザベス(アビー・リー)は年の離れた億万長者の夫ヘンリー(キアラン・ハインズ)の自宅へと帰ってくる。そこは山中の湖畔にある豪邸で、室内プールにワインセラー、ブティックかと見紛うほどのドレスに靴まであり、自然に囲まれた別天地だった。しかし、ヘンリーはとある部屋にだけ、エリザベスが入ってはならないと言う。ある時、エリザベスがその部屋で見たものとは、彼女のクローンだった・・・

 

ポジティブ・サイド

ある時点までは万人の予想通りに進む。しかし、そのある時点からはやや予想の斜め上を行く展開になる。屋敷の使用人たちが発する雰囲気が、どこか『 ゲット・アウト 』の屋敷の住人およびゲストたちのそれと似ているのだ。こういう映画は観る者の予想を裏切ってナンボなのである。

 

男女、そして夫婦の仲というのは難しい。『 ゴーン・ガール 』を観るまでもなく、男(夫)と女(妻)が、腹の中に何を抱えているのかは外部の人間からは窺い知れない。夫は妻に何を求めているのか。そのような問いを突き付けられた時、そして本作のヘンリーのような夫に自分がなってしまってはいないかとの不安に襲われる諸賢は多かろうと推測する。いくら天才的科学者であっても、男はその本質においてアホなのではないか。英雄色を好む。古人に言によれば「英雄、色を好む」ということだが、逆に言えば「色を好むから英雄である」とも考えられる。

 

ヘンリーも相当であるが、オリバーもかなり危ない男である。エリザベスが魔性の女だからだと勝手に思い込むことなかれ。この盲目の青年の情念は、正常だとか異常だとかの尺度で測ってはならない。やっていることが、まんま山本弘の小説に出てきそうな無邪気で、それでいて自己中心的な思春期真っ只中の子どもの妄想である。というか、山本弘の小説に、地球が自分の意思で世界を二つに割って、片方に生きていたい生物、もう片方に死にたがっている生物を選り分けるような短編があったが、そこに出てくるアホなガキンチョとオリバーは、本質的に同じ思考、同じ行動原理を持っている。キモイの一言に尽きる。

 

男というのは、どうしようもなくアホな生き物であるということをまざまざと見せつけてくる怪作である。

 

ネガティブ・サイド

いくらなんでもセキュリティが緩過ぎるだろう。本当に見られたくないのなら、厳重に施錠しろ。というか、出入り口を作っては駄目だろう。大富豪にしてノーベル賞受賞者なら、もうちょっと頭を使って欲しい。本作はほぼ全編、邸宅内でストーリーが進行する。つまり、舞台が一つだけなのであるが、このようなご都合主義的なドラマツルギーは創作、演出上の逃げである。こういった部分でサスペンスを生み出し、それを終盤のドンデン返しへの伏線とするような脚本が望まれているのだ。

 

その一方で、家の外に出るためのセキュリティが固すぎる。というか、屋敷の外に通じる道が巧妙にふさがれて、あるいは防弾使用になっていることで、ヘンリーの秘密のクローン保管室への扉がいとも簡単に開いてしまうことに納得ができなくなる。このマッドサイエンティストは頭が良いのか悪いのか、分からなくなってしまう。本作のテーマの大きな部分に、クローンという存在に対してどのような感情を以って接するべきかというものがある。理性と感情は別物である。それは分かっている。だが、それでもヘンリーの行動原理や思考には首を傾げざるを得ないところが多々ある。結婚を「誘拐」に例えるセンスには眉をひそめてしまうし、無数にクローンが存在するならばまだしも、6人しかいない貴重なクローンをいとも簡単に始末してしまうところなど、彼の言う愛は自己と他者の関係のことではなく、性欲のことではないのかとさえ感じられてしまう。底知れないキャラクターに見せかけて、非常に底浅く感じられるのである。

 

また、盲目のオリバーについても疑念が残る。というよりも不可解さが残る。盲目であっても、信じられない能力や技能というのは身につくものだ。フィクションの世界では座頭市しかり、実在の人物では石田検校しかり。だからオリバーが銃をぶっ放すぐらいは気にしない。しかし、注射器を巧みに操るというのは一体全体どういうことだ?どの瓶に入っているのがどの薬品で、その薬品の有効期限はいつまでで、なおかつその薬品の適切な投与量がどれくらいなのかを、盲目でありながらどのようにして把握したというのか。合理的な説明が見当たらないし、思いつかない。

 

総評

扱っているテーマは面白い。しかし、邦題がまずい。∞マークは完全なるミスリード材料だ。同じようなSFチックなシチュエーション・スリラーなら、『 トライアングル 』(2009年 クリストファー・スミス監督作)や『 月に囚われた男 』をお勧めしたい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SF, アビー・リー, アメリカ, キアラン・ハインズ, シチュエーション・スリラー, 監督:セバスチャン・グティエレス, 配給会社:アットエンタテインメントLeave a Comment on 『 エリザベス∞エクスペリメント 』 -ご都合主義が過ぎる凡作スリラー-

『 イット・カムズ・アット・ナイト 』 -“イット”・ムービーの拍子抜け作品-

Posted on 2019年7月16日 by cool-jupiter

イット・カムズ・アット・ナイト 40点
2019年7月15日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジョエル・エドガートン
監督:トレイ・エドワード・シュルツ

スティーブン・キング原作の『 IT イット 』、『 IT イット “それ”が見えたら、終わり。 』に代表されるように、Itは元々、正体不明の存在を意味する。身近なところでは、It is a beautiful day today. や It’s really cold in this room.、It’s not that far from here to the station. などのような英文の主語It は、それ単独では意味が決定できない。必ずそれに続く何かがないと、天気なのか、気温なのか、距離なのか、正体は分からない。『 イット・フォローズ 』でもそうだったが、怪異の正体が不明であること、それが恐怖の源泉というわけで、ホラー映画のタイトルに It を持つ作品が多いのは必然なのである。それでは本作はどうか。はっきり言って微妙である。

 

あらすじ

ポール(ジョエル・エドガートン)は、老人を射殺し、遺体を焼いて、埋めた。彼は森の奥深くで家族を守りながら暮らしていたのだ。ガスマスクと手袋、そして銃火器で彼らは“何か”から身を守っていた。そこへウィルという男性が現れる。彼は自分にも家族がいるのだと言い・・・

 

ポジティブ・サイド

冒頭からミステリアスな雰囲気が漂う。同時に、観る者に考えるヒントを与えている。ガスマスクや手袋に注目すれば、細菌またはウィルスの空気感染もしくは飛沫感染が疑われる。ならば保菌者は?これは銃が有効な相手。となると小動物や虫ではなく大型の動物。普通に考えれば人間ということになる。そしてそれは十中八九、ゾンビであろう。It comes at nightというタイトルから、太陽光線の下では活動できないゾンビであることが容易に推測される。そうした設定のゾンビは、リチャード・マシスンの小説『 地球最後の男 』から現在に至るまで、数千回は使われてきた。低予算映画とは、つまりアイデア型の映画なわけで、陳腐な設定にどのような新しいアイデアがぶち込まれてきているのかが焦点になる。そうした意味で、本作の導入部はパーフェクトに近い。

 

またジョエル・エドガートンの顔芸も必見である。『 ある少年の告白 』でも、恐ろしいほど支離滅裂ながら、なぜかカリスマ的なリーダーシップを発揮する役を演じていたが、本作でもその存在感は健在。恐怖心と勇気、愛情と非情、相反する二つの心情を同居させながらサバイバルしようとする男が上手く描出できていた。

 

ネガティブ・サイド

意味深な導入部を終えると、ストーリーは一転、停滞する。It comes at night. というタイトルにも関わらず、何もやってこない。いや、色々なものが夜には出現してくる。それは思春期の少年と年上女性とのロマンスの予感であったり、夜な夜な見てしまう悪夢であったり、開けてはいけないとされる扉を開けてしまいたくなる誘惑であったりする。問題は、それらが怖くないこと、これである。恐怖の感情は、恐怖を感じる対象の正体が不明であることから生まれる。しかし、本作のキャラ、なかんずくポールの息子のトラヴィスは、恐怖の感情そのものに恐怖している。つまり、彼の恐怖の感情と見る側のこちらの恐怖の感情がシンクロしにくいのである。彼らは恐怖の対象が何であるのかある程度理解しており、その対策のための防護マスクや手袋を持っている。こちらは、恐怖の正体についてある程度の推測はできているため、いつそれが姿を現すのかを待っている。つまり、恐怖を感じるのではなく、やきもきするのである。じれったく感じるし、イライラとした気持ちにすらさせられるのである。

 

設定がよく似た作品に『 クワイエット・プレイス 』があるが、ホラー作品としてはこちらの方が王道的展開で安心できる。本作は、「(ゴジラより)怖いのは、私たち人間ね」と喝破した『 シン・ゴジラ 』の尾頭ヒロミよろしく、人間関係そのものが恐怖であることを描く、陳腐な作品である。似たようなテーマを持つ作品としては『 孤独なふりした世界で 』の方が優れているし、正体不明の何かが迫ってくる映画としては『 イット・フォローズ 』に軍配が上がる。

 

総評

真夏日に家の外に出たくない。そんな時に気軽に暇つぶしする感覚でしか観られないのではないか。人間関係の微妙な機微の描写や、ポスト・アポカリプティックでディストピアンな世界観の構築をそもそも追求していない作品だからである。ホラーというよりはシチュエーション・スリラーで、そちらのジャンルを好む向きならば鑑賞してもよいかもしれない。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, シチュエーション・スリラー, ジョエル・エドガートン, ホラー, 監督:トレイ・エドワード・シュルツ, 配給会社:ギャガ・プラスLeave a Comment on 『 イット・カムズ・アット・ナイト 』 -“イット”・ムービーの拍子抜け作品-

『 グランドピアノ 狙われた黒鍵 』 -シチュエーション・スリラーの平均的作品-

Posted on 2019年6月28日2019年6月28日 by cool-jupiter

グランドピアノ 狙われた黒鍵 50点
2019年6月26日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:イライジャ・ウッド ジョン・キューザック
監督:エウヘニオ・ミラ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190628101011j:plain

ハリー・ポッターに会いたくなって『 スイス・アーミー・マン 』を鑑賞したように、フロド・バギンズに会いたくなって本作を手に取った。このようなリユニオン願望が、ふと訪れることがあるのである。

 

あらすじ

トム(イライジャ・ウッド)は世界的なピアニストだが、過去の失敗から舞台恐怖症となり、5年間コンサートから遠ざかっていたが、恩師の追悼コンサートの場についに復帰する。しかし、トムは演奏中に楽譜に「一音でも弾き間違えれば殺す」との文言を見つける。その脅迫が嘘ではないと知ったトムは、超絶技巧を要する難曲に挑むことになるが・・・

 

ポジティブ・サイド

ピアニストの演奏中というのは、空間的にも心理的にも密室に近い。そこを狙って脅迫を仕掛けるというのは優れたアイデアだ。密閉空間で生まれるサスペンスについては『 リミット 』(主演:ライアン・レイノルズ)が、衆人環視の中で閉じ込められる恐怖は『 フォーン・ブース 』(主演:コリン・ファレル)が追求した。本作は、ある意味でその二つの良いとこどりである。

 

主人公がピアニストであることが、しっかりとプロット上でワークしている。特に携帯電話でピンチを切り抜けようとする際の手指の動きがリアルである。いや、実際には普通の人間には無理な動きだが、プロのピアニストであれば可能かもしれないと思わせるだけの説得力がある。

 

狙撃手が絶え間なく語りかけてくるという点では『 ザ・ウォール 』とそっくりである。テーマ性、哲学的なメッセージという点ではそちらに譲るが、本作はトムが狙われる理由が不明であること、そして何故トムが脅迫されるのかという理由にそこそこ意外性がある。悪くはない作品である。

 

局所的に他作品へのオマージュが見られる。「ボックスの5番」と聞いてニヤリとできれば、あなたは『 オペラ座の怪人 』のファンであるに違いない。他にも色々とネタが仕込まれていそう。筋金入りのシネフィルなら、色々なeaster eggを発見できるかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

何故その曲を弾く必要があるのかについては一定の理解を示すことができるが、どうやってその曲を弾くのかについては突っ込みどころが満載である。劇中で犯人一味も言い争うように、もっと別の良い方法があるはずだし、衆人環視のコンサート会場を犯行の舞台に選び、そのために3年の準備期間を設けるというのは更におかしい。トムの恩師が死んでからトムが表舞台に帰ってくるまで辛抱強く待ったわけだが、そもそもトムが復帰しなかったらどうするつもりだったのか。時系列的に粗も見えてくる。自分なら『 羊と鋼の森 』に解決のヒントを求めると思うし、そちらの方が遥かに現実的であるはずだ。

 

コンサート中にピアニストがあれほど離籍するのもおかしい。将棋指しの対局じゃないんだ。何かただならぬことが起こっていることは誰にでも分かるはずだ。なんせトムはひっきりなしに独り言を呟いている(ように見える)のだ。また、携帯電話を使うのはトムであればギリギリOKだが、トムが友人に電話をしてそれが通じてしまうのは余りにもご都合主義ではないか。舞台の袖の人間に伝言を頼むなど、もう少し回りくどい=より説得力のある演出もあったのではなかろうか。

 

天井からデロ~ンというのは、さすがに『 オペラ座の怪人 』へのオマージュを通り越してオリジナリティの欠如に見えた。また、観る側、少なくともclassical musicにカジュアルにしか接しない人でも認識できるような曲が一つもなかったのは残念である。音楽を題材にした映画は、その音楽の力で観る者の心を掴む必要があるが、まったく初体験の曲でそれをするのは至難の技だろう。だからこそミュージカルは、そこにダンスという視覚的要素をプラスしてくるのである。なにかメジャーな曲の演奏が聴きたかったと切に願う。

 

総評

これも典型的な rainy day DVD であろう。期待に胸を躍らせて観るのではなく、純粋に暇つぶしのために観るべきだ。そうそう、本作のユーモアに theater language の面白い使い方がある。英語では “Good luck!”の意味で“Break a leg!”と言うことがある。『 ワンダー 君は太陽 』などでも聞ける、割とありふれた台詞であるが、最後の最後でクスッと笑わされてしまった。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, イライジャ・ウッド, シチュエーション・スリラー, ジョン・キューザック, スペイン, 監督:エウヘニオ・ミラ, 配給会社:ショウゲートLeave a Comment on 『 グランドピアノ 狙われた黒鍵 』 -シチュエーション・スリラーの平均的作品-

『 キラー・メイズ 』 -A typical rainy day DVD-

Posted on 2019年6月15日2020年4月11日 by cool-jupiter

キラー・メイズ 50点
2019年6月11日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ニック・スーン ミーラ・ロフィット・カンブハニ
監督:ビル・ワッターソン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190615022205j:plain

近所のTSUTAYAで準新作を108円で借りられるクーポンが定期的に使える。いつもなら劇場で見逃して、しかし新作料金を払うほどでないと思える作品を借りる時に使うのだが、『 パズル 』を借りてきた時のように、Sometimes, I like watching garbage. だが本作はゴミと呼ぶほどの駄作ではなかった。

 

あらすじ

30歳近くになろうというのに定職もないデイブ(ニック・スーン)は、ある時段ボール箱で迷宮を作った。しかし、それは本物の迷宮になってしまい、デイブは迷子になる。そんなデイブを救出する為、ガールフレンドのアニー(ミーラ・ロフィット・カンブハニ)はデイブの悪友たちと共に段ボール箱の迷宮に足を踏み入れるが・・・

 

ポジティブ・サイド

とてもオーガニックな作りである。誰しも小さな頃、段ボールで出来た迷路や迷宮で遊んだことがあるだろう。それを題材に映画を作ったと思えば良い。しかし、そこには監督や脚本家の識閾下に眠っていた、あるいは彼ら彼女らが常日頃から愛してやまない数々のガジェットが詰め込まれている。迷宮といえばミノタウロスというのはPSゲームの『 ファイナルファンタジーⅧ 』や、漫画『 ミキストリ -太陽の死神- 』でもお馴染みだろう。また、『 スター・ウォーズ エピソード4 / 新たなる希望 』のワンシーンのパロディ的なものや『 ナイト ミュージアム 』へのオマージュ、『 キューブ 』を思わせるトラップの数々に、『 スーパーマンⅢ 電子の要塞 』的なキャラクター変化もある。そして全体的なスラップスティック・コメディ的なノリとミノタウロスからの逃走劇は、『 グランド・ブダペスト・ホテル 』の同工異曲。こういう作品の作り手に作家性やメッセージを求めてはいけないのである。自分の心の赴くままに作ってみたら、こんな風になりました、というものを、受け手側としては素直に評価するのみである。

 

それにしてもヒロイン(それともヒーロー?)を演じたミーラ・ロフィット・カンブハニは、その名前と容貌からインド系であることが推察されるが、彼女は美女である。『 PK 』のアヌシュカ・シャルマは西欧的な美女であるが、カンブハニは『 パドマーワト 女神の誕生 』のディーピカー・パードゥコーンのようなインド系、アジア系、オリエント系の美女である。テレビへの出演経験が豊富なようだが、もっと銀幕に出てきてほしいもの。

 

デイブの悪友キャラもそれなりに立っている。特に撮影の男はほとんどしゃべらない代わりに、否、それゆえか、しゃべる時に残すインパクトは絶大である。また、その他の眼鏡キャラ二人にも、”Don’t wear glasses, or you’ll look like effin’ nerds.”という言葉を送ってやりたい。素晴らしく陳腐なキャラである。これは褒め言葉である。

 

そうそう、序盤のとあるキャラの怪我が、終盤に残された素朴な疑問への答えになる。なかなかに良く練られた構想、そして脚本である。

 

ネガティブ・サイド

映画そのものの罪ではないのだが、原題の“Dave made a maze”に『 キラー・メイズ 』なる珍妙な邦題を奉ってしまうのは何故なのだ。毎年夏頃になるとわんさか出てくる低級お馬鹿ホラー映画と見せかけて、シチュエーション・スリラーチックなコメディだったではないか。Dave made a maze. というのは、I like Ike for President.のような言葉遊びなのだ。「メイズ メイズ メイズ」のような悪ふざけタイトルか、「デイブが作った迷宮」、「メイズ・ランナー 段ボールの迷宮」のような、さらに悪乗りしたタイトルでも良かったのでは?

 

ストーリーもかなり単調である。スティーブン・キング原作のテレビ映画『 ランゴリアーズ 』並みに象徴的な lady parts が現れる。これがデイブの深層心理であるというなら、アニーともっとお互いをさらけ出すよう口喧嘩シーンがあってもよかった。デイブとアニーの恋人感がどうにも弱いのだ。デイブと悪友たちとの狎れ合いは上手い具合に描けている。こういう不器用な男、自己効力感の低そうな男が、愛する人からの叱咤激励を受けて一皮むけるシーンがないのが実に悔やまれるところである。

 

総評 

雨の日の暇つぶしに最適な一本である。それ以上でもそれ以下でもない。梅雨のこの時期に何もすることが無いと言う時に、近くのレンタルビデオ店、またはストリーミングでどうぞ。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, コメディ, シチュエーション・スリラー, ニック・スーン, ミーラ・ロフィット・カンブハニ, 監督:ビル・ワッターソン, 配給会社:ブラウニーLeave a Comment on 『 キラー・メイズ 』 -A typical rainy day DVD-

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