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『 パドマーワト 女神の誕生 』 -インド叙事詩の絢爛たる映像化作品-

Posted on 2019年6月10日2020年4月11日 by cool-jupiter

パドマーワト80点
2019年6月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ディーピカー・パードゥコーン ランビール・シン シャーヒド・カプール
監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー

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監督はインドの黒澤明と呼ばれているらしい。しかし、黒澤は音楽に一家言はあっても、自分で音楽を創り出すことはしなかった。そうした意味では、サンジャイ・リーラー・バンサーリーはスコット・スピア-やジェレミー・ジャスパーのようなマルチな才能の持ち主と言うべきなのかもしれない。世代的にも、ちょうど黒澤と彼らの間に属しているようだ。

 

あらすじ

傾城の美女パドマーワティ(ディーピカー・パードゥコーン)はメーワール国の王ラタン・シン(シャーヒド・カプール)と結ばれ王妃となる。しかし、デリーでスルタンとなったアラーウッディーン(ランビール・シン)はとあることからパドマーワティに執着するようになり、ついにはメーワール国へと出兵する・・・

 

ポジティブ・サイド

相変わらずの映像美である。ディズニーの実写版『 アラジン 』は、トレイラーの絵があまりにも綺麗過ぎて、つまり本物であるように感じられず、どうにも食指が動かないが、本作はこれまでのインド映画の文法から外れることなく、動物以外には極力CGを使わずに実物、または精巧なセット、大道具、小道具を駆使して映像美を生み出している。

 

そして音楽も良い。BGMや効果音にどこか techy なところを感じさせつつも、基本は非常にオーガニックな音なのである。50代の監督だが、音楽にしても最先端の機器や技術を貪欲に取り入れているのだろう。特にパドマーワティの舞う「グーマル」とアラーウッディーンの舞う「カリバリ」が強く印象に残った。前者は30kgにもなる衣装を身につけての舞踊と知ってびっくり。後者はアッラーウッディーンの悪逆無道さと純粋なまでの強欲さが鬼気迫る表情と力強い踊りで表現されており、ひとつのハイライトになっている。インド映画にハマって日は浅いが、このようなダークなトーンのダンスシーンは珍しいのではないだろうか。

 

戦闘シーンは『 バーフバリ 王の凱旋 』には及ばないものの、『 キングダム 』と同水準かそれ以上であると言える。とはいっても、映画『 キングダム 』では大兵力と大兵力のぶつかり合いが(まだ)描かれていないので、これはアンフェアな評価なのかもしれない。とある攻城兵器をCGで描いているのだが、これが全体の調和を崩さないのだから、インドのCG製作技術の高さを認めないわけにはいかない。というか、同じ予算で同じCGを作らせたら、全体的にはインドの方が日本より上かもしれない。一騎討ちもかなりロングのワンテイクを繋ぎ合わされており、作り手の意気込みがうかがえる。

 

しかし、何と言っても役者、演技者、表現者としての白眉はランビール・シンに尽きる。パドマーワティは戦を「正義と悪の戦い」という二項対立で捉えるが、アラーウッディーンは単なる悪には留まらない魅力がある。スルタンである伯父を弑逆しながらもその家臣団を変わらずに統率し、甥の毒矢に倒れながらも、家来たちに動揺は見られなかった。つまりはカリスマの持ち主なのだ。ラタン・シンとの会談時に、「歴史とは燃やせば消える紙のことではない」と喝破されながらも、「私の名前を記さない歴史書に意味は無い」という断言で応じる胆力。どこぞの歴史修正主義者たちも、これぐらいの神経の図太さを持ってみてはどうか。

 

現代的なメッセージも含まれている。殉死を奨励するわけではないことは冒頭でも明示されるが、死を以ってしかできない抗議というのは確かにある。ベトナムの仏僧ティック・クアン・ドックが燃えるプラカードになった事件を知っている人も多いはずだ。傾城の美女を巡って男どもドンパチとチャンバラを繰り返すだけのアクション映画ではなく、女性同士の連帯、女性の知略と勇気をもしっかりと描き出しているのが本作の特徴である。このような描写がしっかりしているからこそ、クライマックスのシーンがなおのこと際立つ。『 バーフバリ 王の凱旋 』とは一味もふた味も違うが、本作も確かに傑作である。

 

ネガティブ・サイド

アラーウッディーンの側近となる奴隷の活躍はどこだ?思わせぶりに登場して、暗殺者やスパイ、破壊工作員として大いにその腕を振るうのではと予感させておきながら、大した活躍は無かった。何という肩すかし。

 

叙事詩の内容と異なるのかもしれないが、デリー軍とメーワール国の二度目の戦争では、ぜひ周辺諸国の連合軍が結成されると思っていたが、これも無し。衣装やセットに予算をつぎ込み過ぎたのか。欲を言えば、単純明快なバトルシークエンスがもう少しだけ欲しかった。

 

パドマーワティと妃殿下の対立シーンも、ややノイズであるように感じられた。妃殿下はいっそのこと存在ごとばっさりカットして、上映時間を150分程度に抑える工夫をしても良かったのではないかと考える。

 

総評

スペクタクルである。ロマンである。インド映画に外れなしである。アクション映画ファンも、サスペンス映画ファンも、ミュージカル好きでさえも唸らせる作品が届けられた。ぜひ劇場で堪能して欲しいと思う。その場合は、事前のトイレはしっかりと。鑑賞中の水分摂取もほどほどに。Jovianの鑑賞回でも、少なくとも5人はトイレに立っていたので。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アクション, インド, シャーヒド・カプール, ディーピカー・パードゥコーン, ランビール・シン, 歴史, 監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー, 配給会社:SPACEBOX

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