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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: コリン・ファレル

『 イニシェリン島の精霊 』 -内戦の擬人化劇-

Posted on 2023年2月13日 by cool-jupiter

イニシェリン島の精霊 75点
2023年2月11日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:コリン・ファレル ブレンダン・グリーソン ケリー・コンドン バリー・コーガン
監督:マーティン・マクドナー

カナダ人元同僚が絶賛していたのでチケットを購入。『 スリー・ビルボード 』には及ばないが、佳作であると言える。

 

あらすじ

1923年、イニシェリン島。パードリック(コリン・ファレル)は親友コルム(ブレンダン・グリーソン)から一方的に絶交を宣言される。パードリックは自分に何か至らぬことがあっただろうと真摯にコルムに謝罪するが、コルムは「これ以上関わるなら自分の指を切り落とす」とまで宣言して・・・

ポジティブ・サイド

イギリス映画の特徴である乾いた空気感は本作でも健在。対照的に人間関係は非常にウェットである。田舎の特徴と言ってしまえばそれまでだが、この島に登場する人々は老いも若きも他人との距離が近い。というか距離がない。プライベートな領域に遠慮会釈なく踏み込んでくる。こうした島だからこそ、コルムの突然の絶交宣言にはパードリックのみならず周囲の人間も困惑させられる。

 

絶交とはいうものの、パードリックとコルムはそれなりに言葉を交わせる。絶交とは?と観ている側が疑問に思い始める頃に、コルムは有言実行、自らの指を切り落とす。まさに衝撃の展開となるわけだが、パードリックはそこで怯まない。それでもコルムとの友情を取り戻そうともがく。だがコルムは全く応えない。当てつけのように、島を訪れた音大生たちと夜な夜なパブで交流を持つ。このあたりからパードリックも変わり始めていく。コルムとの友情ではなく対立を選んでいく。その過程で、コルムが音大生と交流し始めたように、パードリックも横暴な経験の息子ドミニク(バリー・コーガン)と奇妙な交流を持っていたが、その関係も壊れていく。妹のシボーン(ケリー・コンドン)もやがて島から去っていく。

 

コルムとパードリックの対立は、最後には『 スリー・ビルボード 』並みの惨事につながっていく。おかしなもので、人間同士がどこまでも対立しても、それに巻き込まれる動物に対しては、コルムもパードリックもお互いに人間らしさというか優しさを見せる。人間らしさとは何なのかと考えさせられる。Homo homini lupus. 人は人に狼という言葉を思い出した。また、パブの男たちが「昔は敵と言えばイングランド人だったが、今ではIRAだか政府軍だかで、意味が分からない」と言っていた。何のことはない台詞かもしれないが、当事者ではない者だと、昔も今も洋の東西を問わず、人間の意識はこの程度であるということを痛烈に皮肉っていると感じた。たとえばタリバンと聞いて、2001年以前にどれだけの人が認識できただろうか。Bellum omnium contra omnes. 万人の万人に対する闘争と言うが、人間は常に争うものなのか。そしてその争いには周囲は無関心なのか。そして争っている者同士の関係はいったん変質してしまえば、元には戻らない。コルムが指をなくしても、コルムはコルムである。たとえパードリックの良き友であったコルムではなくなってもコルムはコルムなのだ。国民を多少戦争で死なせても、国家の政体は変わらないのか。昔のアイルランドではなく今日のロシアを見ているとそう思えてくる。

 

コリン・ファレルの演技が絶品。100年前のアイルランドの片田舎の退屈な男をまさに体現した。対峙するブレンダン・グリーソンも偏屈ジジイを怪演。憎悪とは異なる感情から絶交するという難しい役どころを見事に解釈したと感じる。他に演技面で光ったのはバリー・コーガン。ここ数年で急激に頭角を現しつつある。本作のちょっとおかしな青年という役は、『 母なる証明 』のウォンビンのそれに匹敵するほどに感じた。

 

『 スリー・ビルボード 』が個人の赦しの物語であったとするなら、本作はその反対、つまり国家の対立を擬人化したものと言えるかもしれない。ロシアとウクライナの戦争開始から一年になんなんとし、台湾有事やら防衛費倍増やらと日本を取り巻く環境も激変している。イニシェリン島の精霊は世界のどこにでもいるのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

ドミニクのたどる運命というか、彼の結末が物悲しい。事故なのか、それとも自分の意志なのか。そこをあいまいにしたところに不満を感じる。ドミニクは、とある自分の行動の結果にとことん絶望したというシーンを入れてほしかった。そうすればイニシェリン島という場所の閉塞感が更に強調されたものと思う。

 

イニシェリン島のバンシーを体現していたと思われる黒衣の老婆のキャラは不要だったように感じた。

 

総評

内戦と聞くと、職業柄か個人的な嗜好からか、どうしてもアメリカ南北戦争が思い浮かぶ。が、アメリカが The United States of America であるように、英国も The United Kingdom である。『 二人の女王 メアリーとエリザベス 』から歴史が分かるように、彼の国はバラバラの国が一つにまとまっているのだ。鑑賞時にはそうした背景を知っておく必要がある。『 ウルフウォーカー 』は、ローマやイングランドに攻め込まれるアイルランドの謂いになっていたが、本作のコルムとパードリックの関係は、単なる個人同士の諍いではなく、内戦や国家間の戦争の愚かしさを傍観するしかないという無力感を味わわせてくれる。なんとも疲れる映画である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

There goes ~

~がなくなる、~がダメになる、の意。劇中では There goes that theory. = その理論はダメだ、のように使われていた。

There goes my PC. = PCが壊れた
There goes my money. = カネがなくなった

のように、結構なんにでも使える表現。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エンドロールの続き 』
『 日本列島生きもの超伝説 劇場版ダーウィンが来た! 』
『 対峙 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イギリス, ケリー・コンドン, コリン・ファレル, バリー・コーガン, ヒューマンドラマ, ブレンダン・グリーソン, 監督:マーティン・マクドナー, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 イニシェリン島の精霊 』 -内戦の擬人化劇-

『 ブレイン・ゲーム 』 -色々な要素を詰め込みすぎ-

Posted on 2023年1月4日 by cool-jupiter

ブレイン・ゲーム 50点
2023年1月2日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジェフリー・ディーン・モーガン アンソニー・ホプキンス アビー・コーニッシュ コリン・ファレル
監督:アルフォンソ・ポヤート

2018年にシネ・リーブル梅田で公開していたのを覚えている。何故かこのタイミングで近所のTSUTAYAで準新作扱いだったので、クーポンを使って割引料金でレンタルしてきた。

 

あらすじ

謎の連続殺人事件を捜査するFBIのジョー(ジェフリー・ディーン・モーガン)とキャサリン(アビー・コーニッシュ)は、予知能力を持つ医師クランシー(アンソニー・ホプキンス)に助力を求める。しかし、捜査を進めるにつれて、クランシーは犯人が自分を上回る予知能力の持ち主であると気付き、捜査から降りると言い出す・・・

 

ポジティブ・サイド

序盤のいくつかの謎めいた殺人事件の現場はなかなかの迫力。異様な死に様を見せる被害者の数々に、『 セブン 』や、アンソニー・ホプキンスつながりで言えば『 羊たちの沈黙 』のような猟奇殺人事件映画の傑作の予感が漂う。カウルズ捜査官も、どことなくスターリング捜査官の雰囲気をたたえている。序盤の捜査開始シーンから真犯人のコリン・ファレル登場シーンまでは結構面白い。

 

コリン・ファレルの狂信的なまでのサイコパス殺人鬼の演技も堂に入っている。アンソニー・ホプキンスを鼻で笑うような演技はなかなかできない。『 AVA / エヴァ 』でも感じたが、この役者は老人とバトルを繰り広げるのが似合うのかもしれない。その超絶的な予知能力を物語る、とある録画映像の演出も地味ながら素晴らしい。

 

原題の Solace は慰めの意。本作のテーマに mercy killing =安楽死がある。ペインコントロールの上手く行かない末期癌患者は時に「殺してくれ」と叫ぶこともある。その瞬間の苦しみから解放するには死は最も確実かつ手っ取り早い手段だろう。『 いのちの停車場 』や『 ドクター・デスの遺産 BLACK FILE 』が扱ったトピックでもあるが、本作はさらに一歩踏み込んで、苦痛を感じ始める前に殺すという、屈折した思想を持った犯人像を作り上げた。この安楽死を単なる殺人と切って捨てるのか、それとも救いや慰めの一手段と見るのか。この部分について、ある意味で非常に剣呑な誘いをもって本作は閉じられる。この幕の閉じ方はなんとなく『 CURE キュア 』を思わせてくれた。

 

ネガティブ・サイド

ホプキンスやファレルの持つ超能力の正体がよく分からない。予知能力も物や人に手を触れて発動する場合と、不意に発動する場合がある。さらに、劇中でもたびたびフラッシュバックのように挿入されるビジョンには予知と過去視の両方があって、かなりややこしい。しかも、その能力の発動タイミングもかなり(製作者にとって)恣意的に思える。能力発動の条件があいまいなままストーリーが進むので、どうしてもご都合主義に見えてしまう。カーチェイスの最中および直後などはその最たる例だ。

 

真犯人=ファレルの存在は、あらすじどころかポスタービジュアルやDVDのカバーで明かされてしまっているが、この男の登場がとにかく遅い。1時間40分のストーリーのうち1時間ぐらい過ぎたあたりで登場してくるというのは、脚本のペース配分ミス、あるいは編集ミスだろう。あまりにバランスが悪すぎる。

 

キャスティングも、別にアンソニー・ホプキンスを起用する必要はなかったのでは?まあ、彼自身が製作総指揮に名を連ねているので、それはできない相談か。しかし、それでもクランシー博士とその娘がどうみてもお祖父ちゃんと孫にしか見えないし、妻とも相当な年齢の開きがあるように見えた。60歳ちょっとの別の役者を起用できなかったのか。役者としてのホプキンスは否定しないが『 羊たちの沈黙 』の二番煎じを狙うのは無理。ストーリーそのものは悪くないのだから、自分よりも若い役者を起用し、超知性かつ超能力の犯人を、友情と経験で追い詰めるような素直な物語にしてほしかった。

 

総評

序盤から中盤にかけての面白さは文句なし。ただし、いったんコリン・ファレルが現れてからは「なんじゃ、そりゃ・・・」という展開のオンパレード。超能力対決というのは『 スキャナーズ 』の昔から陸続と生み出されてきたが、本作はその中でも凡庸な部類に入る。ヒューマンドラマのパートにもっと力を入れるか、あるいは犯人と刑事&博士の対決にもっと尺を取れば、もう少し面白さも増したはず。アンソニー・ホプキンスのファンなら鑑賞もありだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

precognition

 

予知の意。『 マイノリティ・リポート 』好きならプリコグという言葉を覚えているはず。あれは precognition の派生語、precognitives の省略形だ。cognition というのは取っ付きにくい語だが、この元のラテン語の cognosco は、同じ意味のギリシャ語 gnosis に由来する。gnosis は知識という意味で、ニュースアプリの「グノシー」の社名はまず間違いなくここから来ている。また、診断=diagnosis というのも、gnosis を含んでいる。身体診察や問診を通じて(dia = through)病気を「知る」ということである。

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜、鳥たちが啼く 』
『 死を告げる女 』
『 ホイットニー・ヒューストン  I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, SF, アビー・コーニッシュ, アメリカ, アンソニー・ホプキンス, コリン・ファレル, サスペンス, ジェフリー・ディーン・モーガン, 監督:アルフォンソ・ポヤート, 配給会社:ポニーキャニオンLeave a Comment on 『 ブレイン・ゲーム 』 -色々な要素を詰め込みすぎ-

『 アフター・ヤン 』 -アンドロイドを悼むということ-

Posted on 2022年10月23日 by cool-jupiter

アフター・ヤン 75点
2022年10月22日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:コリン・ファレル ジョディ・ターナー=スミス ジャスティン・H・ミン マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ 
監督:コゴナダ

 

妻のリクエストで大阪ステーションシティシネマへ。客層はほぼ中高年といった感じ。

あらすじ

茶葉店を営むジェイク(コリン・ファレル)と妻カイラ(ジョディ・ターナー=スミス)、幼い養女ミカ(マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ)、アンドロイドのヤン(ジャスティン・H・ミン)は幸せに暮らしていた。しかし、ある日、突然、ヤンが故障してしまう。ヤンを修理する方法を探す過程で、ジェイクはヤンに毎日数秒だけの映像記録が残るメモリーが内臓されていることを知り・・・

ポジティブ・サイド

シンボリズムに溢れた作品。白人の父、黒人の母、アジア系の養子にアジア系のアンドロイドと、diversity を象徴するような家族が冒頭から映し出される。その家族がそろって踊る、しかし、皆が躍るのを止めてもヤンだけが踊り続ける。最初は戸惑ったが、後にこれが本作の Establishing Shot であると分かった。

 

ヤンの故障に最も過敏に反応するのがミカというのも、当たり前と言えば当たり前だが、その反応には注意を払う必要がある。I want him back! と叫ぶミカは、ヤンが死んだとは理解していない。あくまで故障であって、修理すれば元に戻ると信じている。ミカはほんの子どもであるが、死の概念が理解できないほど幼いわけではない。この世界にどれほど深くアンドロイドが根付いていて、しかしその歴史はまだそれほど古くはないことが示唆されている。本作は常に、説明することを拒否する。観る側に絶えず考察することを要求する。

 

ヤンの修理を試みる過程でジェイクはヤンに内蔵された数々の過去の映像を掘り起こすことになる。その中でクローンの存在についても観る側は知ることになる。人間同士の関係、人間とアンドロイドの関係、人間とクローンの関係の記憶の断片の数々から浮かび上がってくるのは、我々が生きるこの世界には未知の領域がいくらでもあるということ。たとえば自分の父と母の幼少期、自分の親友の家庭内での姿、自分の子どもの初恋など。これらの、本来であれば知り得ないような家族の秘密、さらに他人の秘密のようなものをわずかでも垣間見た時に明らかになるもの、それが歴史ではないだろうか。我々の知らないところで誰かが生きているし、我々が死んだ後も誰かが生きていく。

 

Every new beginning comes from some other beginning’s end. という歌詞がある。セミソニックの『 Closing Time 』という楽曲のそれで、結構ヒットした曲なので30代以上なら知っている人も多いだろう。本作のテーマはまさにこれで、何かが終わったとしても、それは別の何かの始まりなのかもしれない。芋虫にとっての終わりは、蝶にとっての始まり。ならばアンドロイドにとっての終わりも、何か別の事象の始まりなのではないか。本作は答えを語らない。答えは鑑賞者それぞれが想起するのだろう。

ネガティブ・サイド

個人的にはクローンに関する云々は不要であると感じた。おそらくだが、人間にとっては遠くの人間を愛するよりも、近くの動物やメカを愛する方が易しい。同様に、人間はクローンよりもロボットの方に愛着を感じやすいと考えられる。本作はロボットに焦点を集中させるべきだと感じた。

 

全編が非常に淡々と進んでいくが、もう少し何らかの起伏というか、分かりやすい起承転結があっても良かった。

 

総評

観終わって、しばらく席で沈思黙考する作品は多くない。しかし本作はそうさせてくれた一本。家族とは?生とは?死とは?文学や芸術、果ては哲学や宗教の領域にまで亘る問いが本作ひとつの中に収められている。近い将来(20~50年後ぐらいか?)に到来するであろうアンドロイドやクローンとの共生社会の一つありうべきシミュレーションとして、本作の価値は高い。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

wrap one’s head around ~

~を理解する、の意。『 ゴーストランドの惨劇 』や『 スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち 』でも紹介した表現。

I still can’t wrap my head around what this movie is all about.
この映画のテーマがなんなのか、今でも分からない。

のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 秘密の森の、その向こう 』
『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 アムステルダム 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, SF, アメリカ, コリン・ファレル, ジャスティン・H・ミン, ジョディ・ターナー=スミス, マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ, 監督:コゴナダ, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 アフター・ヤン 』 -アンドロイドを悼むということ-

『 AVA/エヴァ 』 -続編は難しいか-

Posted on 2021年4月18日2021年4月18日 by cool-jupiter

AVA/エヴァ 40点
2021年4月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ジェシカ・チャステイン ジョン・マルコヴィッチ コリン・ファレル ダイアナ・シルヴァース
監督:テイト・テイラー

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210418140402j:plain

『 女神の見えざる手 』のジェシカ・チャステイン主演作。定期的に制作される女性エージェントの物語だが、割と最近の『 ANNA アナ 』と比較すると、二枚は落ちるかなという印象。

 

あらすじ

暗殺者エヴァ(ジェシカ・チャステイン)は、標的を殺す前に「あなたはどんな悪いことをしたの?」と問いかけるようになっていた。ある任務で、事前に与えられた情報が誤っていたことからエヴァは組織への不信感を募らせる。そして標的に問いかけるという行動を問題視していた組織も、サイモン(コリン・ファレル)にエヴァを始末させようとして・・・

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ポジティブ・サイド

ジェシカ・チャステインというだけでチケットを購入を購入した人は多いだろう。Jovianもその一人。彼女の演技力は折り紙付きで、実際に鉄面皮の殺し屋から情緒不安定な女性的な面までを2時間足らずの間に幅広く披露した。大将という対象を暗殺した後に現場から逃走する際に、か弱い女性のふりをして兵士を騙す変わり身の早さ。ひらひらのドレスのままに格闘から銃撃戦までをこなすタフさ。複数言語を流暢に操る頭脳明晰さ。いずれにおいても説得力のある演技が堪能できる。

 

アメリカ映画でしばしば大きな柱として描かれる父親=positive male figureとの間に因縁があり、それが組織の上司であり、また父親代わりでもあるジョン・マルコビッチとの複雑な距離感につながっている。そのマルコヴィッチも年齢不相応のアクションで見せ場を作る。エヴァとサイモンの両方の師匠であることから、片方は父親の補完、もう片方は父親殺しを成し遂げるという因縁多きキャラクター。この好々爺を間に挟むことで、エヴァとサイモンの激突がよりドラマチックになっている。

 

ジェシカ・チャステインのファンならばチケットを買おう。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210418140432j:plain

ネガティブ・サイド

ジェシカ・チャステインの走りの不格好さはハリソン・フォードに通じるものがある。アクションの迫力はまあまあだが、それも細かいカットを巧みに編集したもの。ジェシカ・チャステイン本人の athleticism 自体はあまり高くなさそう。女優の運動能力という点では『 悪女 AKUJO 』や『 The Witch 魔女 』といった韓国映画に余裕で負けている。銃撃戦の方はまだしも、近接格闘戦になると、カットごとのつながりが妙にぎこちなく映る。fight choreographer の指導がイマイチというのもあるかもしれないが、ジェシカのパンチやキックのすべてに「何か違う」感がずっと付きまとっている。元軍人の現暗殺者というキャラ設定が、アクションのせいで弱くなってしまうのは本末転倒である。

 

暗殺者のプライベートな面を描くのは興味深い試みだが、そこでも『 ANNA アナ 』に負けている。あちらは一人の女性が二人の男を手玉に取ったが、こちらは一人の男を二人の女(それも姉妹!)で取り合うという修羅場展開。暗殺者のプライベートにまで闘争の種は要らんやろ・・・ しかも、その相手の男も職業がギャンブラーって何やねん。恋愛および結婚対象にしたらダメな属性ナンバーワン。8年も暗殺稼業をやっているエヴァが、この男に未練たらたらである理由がさっぱり分からなかった。

 

サイモンの最期が残念過ぎる。何故にわざわざ人気の少ない方向へと逃げるのか。組織に家族の護衛を要請するなら、同じその電話で自分に応援または足を寄こすようにと言えばいいではないか。エヴァ相手に「俺のほうが殺しのキャリアは上だ」みたいなことを言っていたが、とてもそうは思えなかった。終わり良ければ総て良しと言うが、終わりが悪ければ総て悪しとも言えてしまう。その典型例のような悪役だった。

 

『 マー サイコパスの狂気の地下室 』や『 ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー 』のダイアナ・シルヴァースの出番が足りない。というか、続編作る気満々の終わり方だが、それならサイモンの娘であるカミールの強さがほんの少しでもいいから伝わるシーンが必要だったが、そんなシーンも演出も無し。ダイアナ・シルヴァースの無駄使いだった。

 

総評

ジェシカ・チャステインのファンにはお勧めできるが、それ以外にはやや難しい。聞けば途中で監督が降板して、テイト・テイラーが引き継いだらしい。『 ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー 』などでも分かるが、監督が途中で代わるのはマイナスがあまりにも大きい。野球やサッカーは監督交代が奏功することがあるが、映画でそれはまずない(そういう意味では『 ボヘミアン・ラプソディ 』は例外的)。なので、物語や映像、キャラの深堀具合などではなく、ひたすらジェシカ・チャステインを鑑賞したい人のための作品であると了承してから李チケットを買うべし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

do ~ justice

~を正当に評価する、の意。作中では”Pictures don’t do you justice.” =「写真はあなたを正当に評価していない」=写真はあなたの魅力をしっかりと写し出していない、のように使われていた。昔、YouTubeでアメリカのボクシング試合を見あさっていた時に、”TV does this fight no justice!” = 「テレビではこの試合の迫力が伝わらない!」というアナウンサーの絶叫を聞いたことがある。こういう表現がさらっと使えれば英会話の上級者と言える。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, D Rank, アクション, アメリカ, コリン・ファレル, ジェシカ・チャステイン, ジョン・マルコヴィッチ, ダイアナ・シルヴァース, 監督:テイト・テイラー, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 AVA/エヴァ 』 -続編は難しいか-

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