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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: のん

『 天間荘の三姉妹 』 -スカイハイだと明示せよ-

Posted on 2022年11月6日 by cool-jupiter

天間荘の三姉妹 40点
2022年11月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:のん 大島優子 門脇麦 寺島しのぶ
監督:北村龍平

漫画『 スカイハイ 』は、絵柄は好きでも、ストーリーはそんなに好きではなかった。今作も予備知識ほぼゼロで臨んだが、柴咲コウがイズコだと分かってからは、この独特の世界観を楽しめなかった。

 

あらすじ

老舗の温泉宿「天間荘」を切り盛りする若女将の天間のぞみ(大島優子)は、イルカの調教師のかなえ(門脇麦)とともに腹違いの妹、たまえ(のん)を迎え入れる。たまえは行き先を決めるまでの間、天間荘で働くことになるが・・・

ポジティブ・サイド

『 女子高生に殺されたい 』でも感じたが、アイドルだった大島優子が女優になっている。和服の着こなしだけなく、所作も旅館の女将さんらしさが出ている。それを感じさせたのは歩き方。宿の廊下をしゃなりしゃなりと歩くことができていた。長女として、また若女将として、大女優・寺島しのぶに真っ向から挑むその姿勢や善し。脱アイドル完了まであと2作品ぐらいだろうか。

 

門脇麦も相変わらずの安定感。彼女の出演作はハズレが少なく、作品がハズレでも彼女の演技がハズレであることはほとんどない。日本のジェシカ・チャステインを目指してほしい。『 あのこは貴族 』と同じく高良健吾との共演がよく似合う。また、どことなく寺島しのぶと顔の作りが似ているように感じられ、母子の感じが強く出ていた。

 

ただ。今作では寺島しのぶすら食ってしまう三田佳子御大が出演。本作の色んな面に不満があるのだが、三田演じる財前からは偏屈さと、その根っこある他者を敢えて寄せ付けないという優しさ、そして気高さが感じられた。財前とたまえのサブプロットをメインのプロットに書き換えて、それを1時間30分のたまえのビルドゥングスロマン映画にしても良かった。それぐらい三田佳子の演技は鮮烈だった。

ネガティブ・サイド

残念ながら役者の演技以外に褒められるところがない。震災で亡くなってしまった人々は確かに痛ましいとは思う。けれど最も苦しめられるのは、亡くなった人の家族や友人ではなく、見つからない人、行方不明のままの人の家族や友人ではないか。言い方は悪いが、遺体があれば、その人は死んだと受け入れられる。受け入れざるを得ない。しかし遺体が見つからないままであれば、まだ生きているのではないかという絶望的な希望にすがるしかないではないか。『 風の電話 』が傑作だったのは、まさにここに焦点を絞ったからである。

 

そもそも漫画『 スカイハイ 』は、天国に行く、現世をさまよう、復讐するの三択から一つを選ぶのではなかったか。津波によって街ごと破壊された、なので三ツ瀬という街をそのまま天と地の間に再現しようというのは、原作の世界観を破壊してはいないか。何か腑に落ちない。

 

絵師の少女の物語が今一つ。正直なところ、こんな風に孤立してしまう子は残念ながらどこにでもいる。今の大学生がどれくらいメンタルの不調を抱えて、いわゆる「配慮願い」を学校に提出してくるか、本作の制作者たちは知っているのだろうか。Jovianはこの少女の因果にまったく同情も共感もできなかった。

 

本作はのんのキャラクターと合っていないようにも感じた。のんの持ち味として、たとえば『 私をくいとめて 』や『 さかなのこ 』、『 Ribbon 』のように、世間や時代に簡単に迎合しないキャラクターが挙げられる。これは彼女自身の生き様とも共通するところだろう。その一方で、本作ではいわゆるフリーターで、旅館の女中からイルカの調教師を目指すというサブプロット。偏屈な財前との絡みから、おもてなしを極めることを志すのではダメなのか?死者のメッセージを生者に届ける役目を引き受け、天地の間にたゆたう魂を昇天させるという筋立てではなダメなのか?ぶっちゃけイルカの調教師のシーンは必要か?しかも、ザバーンと水に飛び込んだ直後のシーンで、のんの髪が濡れていないという大失敗の画も・・・

 

本作は『 スカイハイ 』のスピンオフであることを明示するか、あるいは『 パッセンジャーズ 』のようなトリックを仕込むべきだった。天間荘でたまえが様々な客をもてなしていくが、実はもてなされていたのは・・・という感じである。ファンタジーを描きたいのか、ヒューマンドラマを描きたいのか。そこをはっきりさせない中途半端な作品である。

 

総評

一部はとても面白いのだが、全体を観ると凡庸というか、はっきりいって面白くない。製作者の死生観に文句をつけるわけではないが、死者側から生者側を観るという物語の必然性を感じない。『 スカイハイ 』は理不尽に命を奪われた個人が、死を受容したり、あるいは復讐するところが肝なのであって、記憶をもって蘇るというのはご都合主義が過ぎる。チケットを買うなら、役者の演技を堪能するためと割り切るべし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

near-death

ニアミスならぬニアデスで、これは臨死という意味。しばしば near-death experience = 臨死体験という使われ方をする。臨死体験は『 フラットライナーズ 』の昔から映画や小説のテーマになっているので、この表現を見聞きしたことがある人も多いのではないか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 王立宇宙軍 オネアミスの翼 』
『 警官の血 』

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, D Rank, のん, ファンタジー, 大島優子, 日本, 監督:北村龍平, 配給会社:東映, 門脇麦Leave a Comment on 『 天間荘の三姉妹 』 -スカイハイだと明示せよ-

『 さかなのこ 』 -Normal is overrated-

Posted on 2022年9月5日 by cool-jupiter

さかなのこ 60点
2022年9月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:のん 磯村勇人 柳楽優弥 井川遥 夏帆
監督:沖田修一

 

『 ダーウィンが来た! 』などに時々出てくるさかなクンの半生を、どういうわけかのんが演じる。

あらすじ

ミー坊(のん)は魚に夢中な女の子。長じてもそれは変わらず、高校では変人扱い。ある時、不良の総長(磯村勇人)に呼び出しを食らったミー坊だったが、何故かそこから学校でカブトガニを育てることにつながり・・・

 

ポジティブ・サイド

とにかく魚好きという気持ちが強く伝わってくる作品。かといって、無邪気に魚を愛でるだけではない。魚を食べまくるし、タコにいたっては基本に忠実に岩に打ち付けて身を柔らかくしたりする。この時点で映画はファンタジーではなく、自伝の様相を帯びてくる。普通はタコをバンバン岩に叩きつける描写など入れないだろう。ここで監督や製作者たちの気合が伝わってきた。

 

のん演じるミー坊が総長たちといつの間にか仲良くなったり、他校の不良とも打ち解けたりの流れがコミカルで楽しい。勉強はできないけれど、魚好きという気持ちは周囲に確実に伝わっていく。周りは大人になっていくし、状況は変化していく。それはとりもなおさず、生き方を変えていくことに他ならない。しかし、ミー坊は変わらない。小学校の同級生がシングルマザーとして転がり込んできても、ミー坊は魚好きであることをやめない。井川遥演じる母親がミー坊の気持ちを常に肯定する、一種の親の鑑になっている。

 

当たり前だが、好きを貫くだけで世の中を渡っていけるほど甘くはない。実際にミー坊の人生にも数々の試練が訪れる。ただ、それを跳ね返すだけの強さがミー坊にあり、またミー坊によって人生を変えられた人間たちの助力もあって、ミー坊はさかなクンになっていく。日本は突き抜けた天才が出てこない国だが、それに対する解答というか、解決策のひとつを本作は示しているかもしれない。

 

さかなクンと言えば、最初は「ご」が「ギョ」になる変なオッサンぐらいに思っていたが、知るにつれてすごい、いや、すギョい人だと認識するようになった。その男性のさかなクンを女性ののんが演じることで、ファンタジー性が生まれている。それによって、本作の持つファンタジックなメッセージ性に逆にリアリティが付与されているように感じた。魚好きが昂じて魚ばかり食べたり、図鑑を読みふけったり、水族館に入り浸ったりというのは、子どもにならよくあること。しかし、それが高校生ぐらいになっても継続するとなると、ちょっとおかしいと感じられるかもしれない。『 女神の見えざる手 』で、フォードがスローンに”Normal is overrated” = 普通がなんだ、と諭すように言うシーンがある。普通でないのなら、それもOK。逆に突き抜けるぐらい different であろうではないか。

ネガティブ・サイド

さかなクン本人が出演する必要はあったのだろうか。いや、別に出演してくれてもよいのだが、変質者もどきである必要性が認められない。また、トレードマークのハコフグの帽子に何らかの神秘性というか、妙な光を放って頭から取れないという描写も不要だった。というか、さかなクンの出演パート全てが不要だった。プロデューサーの職権乱用ではないだろうか。

 

ある時点からミー坊の人生が大きく開けていくことになるが、それが全て旧友たちの伝手によるものというのは少々いただけない。おそらくターゲットをかなり低年齢にも広げている作品だと思われるが、「がんばっていればともだちがたすけてくれる」(全て平仮名)という甘い観念を植えつけたりはしないだろうか。「好き」を貫くことの素晴らしさと難しさ、「普通」と「普通ではない」の境界。そういった社会の矛盾というか、ちょっとおかしなところを子どもたちと大人、両方に考えてもらえる塩梅にはなっていなかった。

総評

さかなクン出演パートをどう見るかで印象がガラリと変わりそう。さかなクンのファンの子どもたちが「たいほ」や「にんいどうこう」なる言葉を知っているとは思えない。本作はそうした子どもを対象にしていないと考えるには、ミー坊が大人になった後のドラマの数々があまりにも大人向けだ。ただ日本における教育、日本における子育てが、どこかせせこましいものになっていることをやんわりと指摘する作品としては悪くない。のんのファンならチケットを買って損をすることはないだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

normal

普通の意。日本語にもなっている語だが、この形容詞の基になっている norm という語となると、知っている人が激減する。norm = 規範、基準という意味である。normal とは規範通りである、基準に従っているという状態を指す。abnormal が異常と解釈されるのも、norm から離れているからなのだ。

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, C Rank, のん, ヒューマンドラマ, 井川遥, 伝記, 夏帆, 日本, 柳楽優弥, 監督:沖田修一, 磯村勇人, 配給会社:東京テアトルLeave a Comment on 『 さかなのこ 』 -Normal is overrated-

『 Ribbon 』 -メッセージのある青春映画-

Posted on 2022年3月3日2022年3月3日 by cool-jupiter

Ribbon 65点
2022年2月27日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:のん 能年玲奈 山下リオ 渡辺大知
監督:のん 能年玲奈

f:id:Jovian-Cinephile1002:20220303202706j:plain

のん(能年玲奈)による主演・脚本・監督作品。メジャーな舞台への復帰を模索するばかりでなく、今後はこういった方向の表現者であることを希求するのも良いのではないか。そう思える出来映えだった。

 

あらすじ

2020年、突如訪れた新型コロナ禍により、大学の卒業制作展が中止となった。制作意欲を失った美大生のいつか(のん)は、手持無沙汰のままステイホームする。ある時、運動不足解消のために散歩を始めたいつかは、近所の公園で不審な若い男性と遭遇するようになり・・・

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ポジティブ・サイド

『 ちょっと思い出しただけ 』や『 真・鮫島事件 』でもコロナ禍は描かれていたが、本作は物語の根幹にコロナ禍が据えられているという点で意義深いと思う。Jovianは一応、2020年春から大学での語学教育に携わっているので、いつかの物語をかなり自分の教え子の経験に重ねて観ることができた。

 

コロナ禍というタイムリーかつシリアスな問題を扱いながらも、のん演じるいつかのアンニュイな日常生活風景には、どこか牧歌的な感じも漂う。いつかの母、父、そして妹が次々といつかのアパートにやって来るが、これが非常に濃い面々。完全防御の汗だくの格好でやってきて手料理を振る舞ってくれる母に、不審者撃退用さすまたを持ち運んでいて職質されたという父に、これまた職質上等スタイルの妹。この上なく深刻なはずの世相が、とてもユーモラスなものになっている。受けて立つのんもなかなかの演技。『 私をくいとめて 』の充実したおひとり様ライフとは対照的に、グダグダの日常を送る姿にも説得力があった。

 

印象に残ったのは圧倒的に母親。いくらなんでも描きかけの絵を捨てるかと思うが、こういう母親は実際に結構な数が存在しているように思う。Jovianも大昔、一人暮らしをしているところに訪ねてきた母親によって、部屋の掃除をしてもらいつつも、大学時代のノートや思い出の品をゴミとして処分されそうになった経験がある。なので、いつかの怒りに共感するところ大だった。

 

コロナ禍によって顕著に変化したのは、人と人との距離だろう。ソーシャル・ディスタンスという物理的な距離も変化したし、ZoomやGoogle Meetなどのツールによって、リアルスペースで出会うことなく仕事をしていくことにも我々は慣れてきた。しかし、見逃してはならないのは、自分と自分との距離まで離れてしまったことだろう。離人症とまでは言わないが、コロナ禍という現実を受け入れられず、精神を病み、休学・退学になってしまった学生もたくさん出たのである。本来あるべき自分になろうとしていたのに、それを阻まれてしまった。その苦悩は若者ほど大きいだろう。「私ってこんなに承認欲求強かったんだあ」といつかと平井は自覚する。その欲求の根源、いつかにとっては中学時代の忘れてしまっていた青春の一コマをやがて回想するようになるという脚本はなかなかの手練れだと感じた。

 

マスクで顔の半分が見えず、誰が誰だか確信が持てない、あるいは素顔を知らないというのは現代人あるあるで、のんが渡辺大知演じる公園の男と絶妙な距離を保つ一連の流れは非常に上質なコント。いや、笑ってはいけないのだが、これはのんがこうした距離感を呵々として笑い飛ばしたいという願望をストレートに表現したのだと受け取ろうではないか。

 

最後にささやかに開かれる卒展に、芸術は人の心を動かす力を持っているのだというメッセージを受け取った。新人監督かつ新人脚本家・のんのまっすぐな心意気は確かに伝わった。

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ネガティブ・サイド

タイトルのリボンがいちかの心情を表していたのだろうが、いかにもCGといった演出には感心しない。美大生の心をリボンの色と動きで表現しようと試みたのだろうが、それならいつかを絵描きではなく、ダイレクトにファインアート作家の卵に設定すればよかった。その方がより自然である。または、いつかが色とりどりのペンキを心象風景のキャンバスにぶちまける様をリボンで表しても良かった。それならリボンの意味もあろうというものだ。いつかの美術のバックグラウンドとリボンがあまり結びついていないのは残念である。

 

親友の平井との諍いは不要。物語を大きく動かしたかったのだろうが、もっと静かに動かしつつ、なおかつ迫真性のあるドラマは生み出せたはず。たとえば、卒展が中止になり、涙ながらに自らの作品を破壊する学生たちの姿が冒頭で映し出されたが、そこから急遽、大学側がオンラインでバーチャル展覧会を開催すると決定、学生たちには歓喜と混乱が広がり・・・という筋立てであれば、多くの大学の2020年および2021年の大学祭と重なるところが多く、リアルな人間ドラマにつなげられただろうと思う。

 

終盤のシーンでも、大声やら大きな音を出してはいけないシチュエーションで思いっきり大声や騒音を出すのはどうかと思った。それが青春の一つの形だとは思うが、リアリティは感じなかった。同じく、BGMを多用しすぎだと感じた。色々と凝りたくなるのだろうが、思い切ってそぎ落とす方が効果的な場合もある。

 

総評

多くの娯楽や芸術に「不要不急」というレッテルが貼られた2020年。確かに不急かもしれないが、不要ではないだろうと思う。そうした憤りや不満を、文書や動画ではなく、映画作品として発表してしまうのだから、大したものだと思う。多くの映画人が記者会見やホームページ、SNSなどで意見を発してきたが、作品という形で「芸術は人間にとって必要なものなのだ」と静かに、しかし高らかに宣言したのは邦画では本作が初めてではないか。ぜひ多くの映画ファンに鑑賞いただきたいと思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a job offer

「就職内定」の意。an offer of employment もよく使われる。「内定をもらう」という動詞には、get や receive が使われることもセットで覚えておきたい。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, のん, 山下リオ, 日本, 渡辺大知, 監督:のん, 能年玲奈, 配給会社:イオンエンターテイメント, 青春Leave a Comment on 『 Ribbon 』 -メッセージのある青春映画-

『 星屑の町 』 -映画の形をした舞台劇-

Posted on 2020年12月30日 by cool-jupiter

星屑の町 60点
2020年12月28日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:のん(能年玲奈) 大平サブロー ラサール石井 小宮孝泰
監督:杉山泰一

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『 私をくいとめて 』は劇場鑑賞できたが、こちらはたしか春に緊急事態宣言で見逃した。能年玲奈に再会したいと願い、近所のTSUTAYAでレンタル。思いがけないヒューマンドラマであった。

 

あらすじ

売れない歌謡グループ「山田修とハローナイツ」は、リーダーの修(小宮孝泰)の故郷に巡業にやってきた。修の弟・英二は、自分の息子とその幼なじみ・愛(のん)に結ばれてほしいと思っていた。けれども愛には東京に出て歌手になりたいという夢があった。ひょんなことから自分の父親が「ハローナイツ」にいるのではないかと考えるようになった愛はハローナイツへ加入したいと言い出し・・・

 

ポジティブ・サイド

のん、普通に歌が上手い。もちろん口パクなのだが、それはほとんどすべての音楽映画に当てはまること。特に感心したのはギターを弾きながらオーディションを受けるシーン。のんの新たな魅力を本作は開拓したと言える。

 

愛が一度上京して悪徳プロダクションに騙されたという背景情報も説得力がある。まるで能年玲奈からのんに改名するという現実世界での経緯が、本作のプロットを重複するように感じる。売れようと必死になることは決して否定されてはならない。大切なのは、売れようとする手段であり、そのためにいかに努力できるか。のんと愛がその点で大きく重なって見えた。

 

同じように、ナイツのボーカル役を務めた大平サブローも意外な歌唱力を披露。ナイスガイと見せかけたその裏に色々な因果を含めた男で、これも吉本の闇営業問題でのサブロー自身のコメントを思い起こさせる。売れることと売れないこと。そこに至る手段の是非は別として、売れることそのものは決して否定されるべきではない。

 

全編を通じて歌われる楽曲が一部を除いてノスタルジーを呼び覚ます。本格的な昭和の歌謡曲をなんとなくしか知らないJovian世代だが、1975年よりも前の生まれの世代なら、歓喜の涙に濡れる選曲になっているだろう。

 

ドラマパートも大いに盛り上がる。特にハローナイツの面々が小学校内の控室内で繰り広げる暴露劇の連続から生まれる緊張感は『 キサラギ 』の会話劇に勝るとも劣らない。各シーンを別アングルから撮影したのではなく、各アングルから複数のワンカットを撮影してつなぎ合わせたのだろうか。それほどの臨場感が生まれている。

 

地方と東京、若者と高齢者、男と女、個と集団。様々な対立軸が描かれ、時に衝突し時に融和する。これはなかなかの秀作である。

 

ネガティブ・サイド

歌のパートとドラマパートのつなぎが非常にぎくしゃくしていると感じられた。ある歌の歌詞にある“テールランプ”や“窓ガラス”などは、作中で効果的にそのビジュアルをいくらでも示すことができたはずだ。オリジナル曲の“Miss You”にしても同じで、この旋律をBGMに愛の幼馴染の男が農作業に勤しむ姿、あるいは愛の母親がスナックで一人寂しく食器を洗うシーンなどを挿入することで、歌のメッセージをより際立たせることもできたのにと思う。全体的に舞台をそのまま映画にしたようなもので、映画の技法(特に撮影における)が効果的に使われているとは言い難い。

 

全体的なトーンも一貫しない。のんの本格的な登場までが長すぎるし、のんが登場してもストーリーに本格的に絡んでくるまでが、またも長い。ナイツの面々の職人芸の域に達した丁々発止のやり取りは痛快ではあるが、そこへの力の入れ具合が強すぎる。これなら「のん」抜きで物語を作れてしまうではないか。愛の父親は誰なのか?それはナイツの中にいるのか?というサブ・プロットについても消化不良のまま終わってしまうのは頂けない。

 

また、個人的にはこの結末は受け入れがたい。愛がナイツに新規加入後、とんとん拍子に売れていく過程のあれやこれやや、ナイツの面々とのチームワークを醸成するシーンを描かないことには、愛の最後の選択に説得力が生まれないだろう。

 

歌詞が画面にスーパーインポーズされるのはありがたいサービスだが、一か所にミスが「二人で書いたこの絵、燃やしましょう」は、正しくは「描いた」である。

 

総評

のんの魅力は遺憾なく発揮されているものの、その絶対量が少ない。また、ストーリーのつなぎや一部キャラクターの心情や行動がぎくしゃくしてしまっている。けれど、古き良き歌謡曲が全編を彩り、今や遠くになりにけりな昭和という時代の懐かしむという意味では、本作は成功している。若い映画ファンはのんを、中年以上の映画ファンは歌謡に注目して観るのが吉である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

look back

「後ろを見る」の意。劇中でのんが「わだず、もう後ろは振り返らね」という台詞。物理的に後ろを向く場合と過去に目を向ける場合の両方に使う。後者の意味で使う場合は、look back on ~という形になる。使用例としてはOasisの『 Don’t look back in anger 』を聴いてほしい。

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, C Rank, のん, ヒューマンドラマ, ラサール石井, 大平サブロー, 小宮孝泰, 日本, 監督:杉山泰一, 能年玲奈, 配給会社:東映ビデオLeave a Comment on 『 星屑の町 』 -映画の形をした舞台劇-

『 私をくいとめて 』 -能年玲奈の最高傑作-

Posted on 2020年12月27日 by cool-jupiter

私をくいとめて 80点
2020年12月20日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:のん 林遣都 中村倫也
監督:大九明子

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大九明子監督がまたしてもやってくれた。『 勝手にふるえてろ 』と同工異曲ながら、新たな傑作を世に送り出してきた。同時にこれはのん(能年玲奈)の最高傑作にも仕上がっている。

 

あらすじ

脳内の相談役「A」のおかげで、黒田みつ子(のん)はアラサーお一人様女子生活を満喫していた。ある日、みつ子は取引先の年下営業マンの多田(林遣都)と街中で偶然に出会い、ときめを感じる。お一人様を続けるのか、多田との関係に踏み出すべきなのか・・・

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ポジティブ・サイド

乱暴にまとめれば、これは『 脳内ポイズンベリー 』をのんを起用してリメイクしたものと言えるだろう。だが、詳細に見れば『 脳内ポイズンベリー 』よりも優る点が次々に見えてくる。第一に、「A」の声を演じた中村倫也の好演。Jovianは映画におけるナレーション(Voice acting)では『 ショーシャンクの空に 』のモーガン・フリーマン、『 私はあなたのニグロではない 』のサミュエル・L・ジャクソンが双璧だと思っている。中村の演技は、彼ら大御所と肩を並べるとは言わないまでも、これ以上なくハマっていたように感じた。終盤に登場するビジュアルのある「A」とのギャップもなかなかに笑わせてくれる。

 

のんは久しぶりに見たが、これはおそらく今後20年は彼女の代表作となるだろう。「おひとり様」という、まさにコロナ禍の今こそ最も求められるライフスタイルを体現するアラサー女子。最後の恋愛を「大昔のこと」と言い切る干物女子。部屋に洗濯物を干して、収納することなく乾きたての下着を身に着ける生活(そんなシーンは移されないけれど)。もうこれだけで恋愛ドラマが動き出す予感に満ち満ちている。これだけダメダメで、けれど自分というものをしっかり持った女子が、どのように右往左往していくのか、想像するだけで痛快だ。

 

実際に期待は裏切られない。のん演じるみつ子は、平日は仕事をしっかりこなし、職場の人間関係も悪くない。そして休日にはひとりで各地に繰り出し、催し物を楽しみ、あるいは自室の掃除で充実感を得ている。それが写実的でありながらコミカルなのは、やはり「A」との掛け合いが抜群に面白いからだ。そしてのんという役者の属性もあるのだろう。『 海月姫 』でも少し感じたが、オーソドックスな恋愛関係を演じて成長するような役者ではない。逆に、非典型的なキャラクターを演じ切るように監督に追い込まれることで能力が開花するタイプの役者だ。演技の上手い下手ではなく、どれだけ真に迫っているか。それはどれだけ自分を捨てられるかでもある。「A」と会話しているみつ子を客観的に見てみれば、完全なる統合失調症患者だ。しかし、そうした心の病を持った人間に典型的な暗さや無表情、無気力や不眠、食欲不振とはみつ子は一見して無縁である。それが落とし穴にある。あるシーンでみつ子は激しく心を揺さぶられる。それはネガティブな心の動きだ。そしてそれにより我々が聞かされるみつ子の独白(そこに「A」はいないことに留意されたし)の中身に、我々はみつ子の抱える闇を知る。そして、みつ子がお一人様生活を楽しんでいる理由を知る。

 

妙なもので、みつ子という“拒絶”のキャラと、のん(能年玲奈)という一時期業界から干された役者が、ここで妙にシンクロする。女性が、特に現代日本で抱える息苦しさやもどかしさが、ここから見て取れる。それはそのまま原作者の綿矢りさの肌感覚だろう。彼女のデビュー当時、ネット(主に2ちゃんねる)では「りさたん(*´Д`)ハァハァ」と書き込むようなキモイ連中がうじゃうじゃいたのである。

 

みつ子が旧友と親交を温めなおすイタリア旅行も、剣呑な雰囲気を孕んでいる。女子とはかくも生きづらい生き物なのか。常に一歩先を行っていた友人と、一歩が踏み出せないみつ子が、いつの間にか逆転していた、そして二人の想いが同化していく流れは良かった。帰国後に一歩を踏み出したみつ子は、片桐はいり演じるバリキャリ女性の意外な一面に触れたり、尊敬する先輩社員の恋路を見つめたりと、変化を受容できるようになっていく。多田との関係にも進展があるのだが、そこで『 ゴーストランドの惨劇 』ばりの超展開が待っている。観ている我々にはコメディでも、みつ子にとってはホラーなのである。声だけの相棒という点では『 アップグレード 』的だが、本作はそういう方向にはいかないので、そこは安心してほしい。

 

青春や運命や悲劇などといった陳腐な恋愛ではなく、本当に日常に根差したみつ子と多田の関係はどこまでも見守りたくなる。現代の邦画ラブコメの一つの到達点と言える作品かもしれない。

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ネガティブ・サイド

みつ子の飛行機嫌い属性がもう一つだった。『 喜劇 愛妻物語 』でも水川あさみが東京、夏帆が四国という設定だったが、それぐらいの距離感で良かったのではないか。橋本愛演じる親友が「一歩を踏み出せなくなった」理由から、自分が外国人であることを取り去ってしまえば、おそらくほとんど何も残らない。このあたりの描き方が皮相に感じられた。

 

序盤のみつ子のお一人様満喫ライフの描写があまりにも眩しかったせいか、中盤で多田との距離が一定のところで一時停止してしまう期間の作品自体のテンションがだだ下がりだった。物語には緩急が必要だが、中盤ではややブレーキが利きすぎたようである。

 

総評

これは文句なしに傑作である。お一人様という、本来なら2020年に日本政府が強力に推進すべきだったキャンペーンを疑似体験できる。というのは半分冗談にしても、一人が快適だという人がどんどん増えていることは事実だろう。重要なことは、人を孤立させないことだ。自立した人間、独立した人間を支援することだ。そうすれば、人と人は、みつ子と多田のように、いつか互いを支え合えるようになるだろう。このような世の中だからこそ、いっそう強くそう感じる。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a solo life

「お一人様生活」の私訳。live a solo lifeまたはlead a solo lifeと言えば、お一人様生活を送るという意味になる。みつ子の生活はaloneやlonely、singleではなくsoloだろうと思うのである。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, のん, ラブコメディ, 日本, 林遣都, 監督:大九明子, 能年玲奈, 配給会社:日活Leave a Comment on 『 私をくいとめて 』 -能年玲奈の最高傑作-

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