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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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カテゴリー: 国内

『 爆弾 』 -佐藤二朗のベストアクト-

Posted on 2025年11月2日 by cool-jupiter

爆弾 75点
2025年10月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:佐藤二朗 山田裕貴 渡部篤郎 染谷将太 
監督:永井聡

 

『 死刑にいたる病 』的な面白さを期待してチケット購入。その望みは叶えられた。

あらすじ

酔って暴れた酔っ払いの鈴木田吾作(佐藤二朗)を逮捕、取り調べしていく中で、刑事の等々力(染谷将太)は鈴木の言動に不穏な気配を感じとる。そんな中、鈴木が予言した爆発が実際に起こってしまい・・・

ポジティブ・サイド

東京各地にストーリーそのものは展開するも、大部分は取調室の内部で進行していく。その中で行われる刑事と被疑者の演技対決が心地よい。染谷将太、渡部篤郎、山田裕貴が佐藤二朗に対峙していき、全員が見事に立ち向かいつつ、巧みに佐藤二朗を引き立てた。といっても、佐藤自身も今回の役は『 さがす 』や『 あんのこと 』以上にダークで、自身の代表作になったと自負しているに違いない。

 

意味不明な問答の繰り返しに謎解きと心理戦を織り交ぜていく。それ自体はよくある手法だが、そこから導き出される「心の形」には唸らされた。警察官が家族や友人など、私=プライベートの部分を突かれると弱かったり、あるいは闇落ちしたりするのはハリウッドでは常套手段套手段だが、警察としての使命感や正義感の歪みをストレートに指摘してくる作品は珍しい。小説の映画化とはいえ、それが邦画で達成されたことは素直に喜びたいと思う。

 

いつも何かあれば怒鳴るだけの染谷将太が、非常に陰のあるキャラを演じていたのも好印象。何を考えているのかわからないが、職務上でリスペクトできる相手にはしっかりと向き合うという、一種のプロフェッショナリズムというか、ダンディズムを備えたキャラを演じきった。

 

対照的に、上司を立てつつも本当は自分の方が有能だという自負を隠さない類家というキャラも味わい深かった。「自分以外の人間が馬鹿に見える」という指摘を受けても、それを否定せずに飄々と受け流す。丸メガネをかけても、その炯々たる眼光はいっさい隠せていない。感情移入するには難しいキャラだが、だからこそ観る側は類家と鈴木の対決を文字通りに傍観者として見守るしかない。そこから生まれる謎とサスペンスは近年の邦画の中でも出色。

 

1回戦、2回戦、3回戦と対決を経るごとに謎が明かされ、そして謎が深まっていく。サスペンスがまったく途切れず、2時間超でもスイスイと鑑賞できた。類家と等々力の二人で続編というか、スピンオフを作ってほしい。そう思えるほど、ストーリーだけではなくキャラの魅力にもあふれた逸品だった。

 

ネガティブ・サイド

警察は事件の話を外でもしないし、家庭内でもしない。もちろん刑事も人の子で、家族には一般的な捜査の手法ぐらいは話すかもしれない。しかし警察という組織がどのような手順で動くのかなどを話すわけがない。

 

そもそも某キャラも家族を想っている描写を見せつつも、やってしまったことは家族を追い詰める行為。こんな警察官いるか?

 

爆弾についても同じで、かなり不自然。爆弾そのもののアイデアはなかなか洒落ているが、それらがあのタイミングであんな風に爆発するわけがない。

 

総評

よくよく考えればおかしい点はいくつもあるものの、謎とサスペンスが矢継ぎ早に提示されていくので、鑑賞中はとにかくストーリーに没頭できる。佐藤二朗は50代にしてキャリアの代表作が生まれたし、山田裕貴は次は経済ヤクザか殺人犯役かな。一部でグロいシーンがあるが、気になる向きはそのシーンだけ片目をつぶればよい。案外、デートムービーに良いかもしれない。恋人あるいは恋人未満の相手と一緒に見たら、間違いなく心拍数が上がるはずだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

go down in history

歴史に名を残す、の意。Jovianの元同僚の英検1級保持者(予備校講師上がり)が知らなかった表現。世間では早くもクリスマスケーキの予約が始まったが、とあるクリスマスソングを英語で歌えば、この表現が出てくる。街中のBGMに耳を澄ませてみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 羅小黒戦記2 』
『 代々木ジョニーの憂鬱な放課後 』
『 ミーツ・ザ・ワールド 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ミステリ, 佐藤二朗, 山田裕貴, 日本, 染谷将太, 渡部篤郎, 監督:永井聡, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 爆弾 』 -佐藤二朗のベストアクト-

『 恋に至る病 』-近年まれにみる駄作-

Posted on 2025年10月28日 by cool-jupiter

恋に至る病 15点
2025年10月25日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山田杏奈 長尾謙杜
監督:廣木隆一

 

『 ミスミソウ 』や『 屍人荘の殺人 』、もしくは『 死刑にいたる病 』のようなテイストを期待していたが、全然違う作品だった。端的に言って残念な出来である。

 

あらすじ

親の転勤のため転校を繰り返してきた望(長尾謙杜)は、隣家の住人で新しい学校のクラスメイトの景(山田杏奈)と出会う。二人の距離は近づいていくが、それを快く思わない人物もいて・・・

ポジティブ・サイド

序盤で景が万物流転やら諸行無常など、理解しているのか怪しい概念を口にするが、サルトルのアンガージュマンの考え方を述べたのにはびっくりした。対象は限られると思うが、哲学専攻の大学生は鑑賞時に耳を澄ましてみよう。

ネガティブ・サイド

キャラクター同士の関係の始まり、その変化や深化がまったくと言っていいほど描けていない。たとえば望がクラスの女子を下の名前で呼んだりする契機を景と絡めて描けば、それも景というキャラの深堀りにつながっただろうに。

 

ブルーモルフォの設定も意味不明。なるほど、ソシャゲでログインボーナスをもらい続けているうちにやめられなくなるということはある。しかし、デイリーミッションをこなしているうちにやめられなくなるというのは、何らかの reward なしには考えられない。そのリワードが何であるのかが暗示すらされないのでは、ブルーモルフォの恐怖が伝わってこない。

 

そのブルーモルフォ絡みの殺人事件でも、クラスメイトばっちりニュース映像に映し出されているのに「クラスターが云々」やら「何でも知ってるね!」やら、アホかな?いや、それが景の人心掌握術だというならいいが、だったらそういうシーンを事前に入れておいてくれ。たとえば額の傷の治りが不安になって、それを女子連中にLineか何かで打ち明けて、取り巻き女子たちも同じような傷を自分でつけて・・・のような描写があれば、クラスが狂っていくスタートとしては悪くなかっただろう。

 

いじめのシーンもえらい中途半端。せっかくのPG12なのだから、もっと陰湿かつ痛みを感じさせる描写が欲しかった。それよりも、根津原の頭が悪すぎて呆れるしかなかった。自分でいじめの証拠を写真にして、それを自分で拡散するとかアホかな。前田敦子演じる刑事も、望に色々尋ねる前に現場(防犯カメラの映像や結婚のような証拠が死ぬほど残っていると思われる)の周辺をくまなく洗え。とことん無能臭を放つ刑事だったな。

 

兎にも角にも望と景の関係の描写があまりにも薄く、足りない。その一方で無駄なシーンが多すぎ。先輩の話とかいらんやろ。その先輩も、あんな小さな凶器であんな凶行は無理。ペーパークラフトではなく、せめて彫刻でも作らせておくべきだった。

 

引きのカメラからのロングのワンカットを多用していて、なにか作劇的な意味があるのかと思ったが特になし。カメラワークには意図を込めるべし。また、イッてしまったキャラは皆、アップで顔を映していたが、そこで瞬きするキャラとしないキャラ、また瞬きしないキャラも耐え切れずに最後に瞬きしてしまうなど、演技・演出の両面で課題を残した。

 

総評

観ていて苦痛を感じるほどつまらなかった。山田杏奈は好きな役者だが、今回はミスキャスト。血なまぐさい役は似合うが、一種のカリスマ性というか、魔性の女としては弱い。望を演じた役者もアイドルか?セリフ回しが拙すぎる。童顔だけで起用されたのだろうか。中高生ならそれなりに楽しめるのかもしれないが、大人にはきつい。チケット購入の前に、よくよく検討のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

morpho

作中では蝶の名前として言及されるが、これはギリシャ語で「形」の意味。蝶といえば卵→幼虫→さなぎ→成虫と形を変える代表選手である。ちなみに英語学習界隈で時折見られる「語源から単語を覚えよう」で言われる語源とは、ほとんどの場合、実は語源ではない。それらはたいてい接頭辞、語幹、接尾辞で、これらは morpheme = 形態素の仲間である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 さよならはスローボールで 』
『 ハウス・オブ・ダイナマイト 』
『 羅小黒戦記2 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, F Rank, サスペンス, 山田杏奈, 日本, 監督:廣木隆一, 配給会社:アスミック・エース, 長尾謙杜Leave a Comment on 『 恋に至る病 』-近年まれにみる駄作-

聖地巡礼 『 港に灯がともる 』

Posted on 2025年10月26日2025年10月26日 by cool-jupiter

2025年10月26日 兵庫県神戸市長田区二葉町

 

『 港に灯がともる 』でフォーカスされた丸五市場を探訪してきた。実はお盆休みにも訪れたのだが、まさかの休み。今回はそのリベンジである。

 

JR新長田駅で下車して、まずは鉄人28号を見物。たまに車窓から眺めていたオブジェだが、実際に目の当たりにしてみるとその偉容に圧倒された。あいにくの天気で映えはしなかったが、兵庫の県南住みなら一度は訪れてもいいかもしれない。

その後、西神戸センター街を通って丸五市場を目指す。途中で司馬懿の像に遭遇。Jovianは三国志では、実は司馬懿が一番好きである。愚鈍にして「そうか、ここは横山光輝の出身地なのか」と思い当たる。が、実際は須磨の出身らしい。なんじゃそりゃ。

少し歩いてお目当ての丸五市場へ到着。暗い。地元尼崎の杭瀬商店街もなかなか寂れっぷりだが、これは最早、長洲の長栄市場(つぶれそう)や金楽寺の太平市場(つぶれた・・・)とそっくりだ。ある意味、つぶれる前に来ることができたのはラッキーなのだと考え、さっそく中へ。

入って割とすぐ右手にキムチ屋さん。在日っぽいおばちゃんが切り盛りしている店。セロリのキムチとナムルを購入。ご飯がおいしくなりそうだ。先に進むと右手にそばめし屋、左手にバー(飲み屋?)がある。そばめし屋の手前にはフリースペースもあり。数人だが客が入っている。

 

さらに少し先には劉備の像が鎮座しているが、俺はあんまり劉備が好きになれないんよなあ・・・ 右に曲がって左に曲がると惣菜屋と漬物屋が。惣菜屋で牛筋煮込みを購入。おばあちゃんに500円を渡すが、実はこの人、漬物屋さんだった。惣菜屋さんが少し外しているので代わりに店番をしていたとのこと。昭和的なほのぼのさを感じた。

その先はなんと崩落注意エリア。電気は通っているものの、天井の蛍光灯はほとんどすべて死に絶えていた。実際に崩れた天井もあり、なおかつ閉店した店のシャッターの中には上からの重みで変形したと思しきものも。あまり長いすべきエリアではないと判断し引き返す。

 

いくつかある入口のひとつのすぐ横にある青果店では南米系の若い兄ちゃんが店員をやっていた。アジアンな感じが強いエリアではあるが、良くも悪くも多国籍化が進んでいるようだ。

雨がひどくなったので。アーケードに避難。ユキヤ食品という店を発見したので、赤セン、ミノ、ハツ、テッチャン、バサの串焼きを購入。バサとは珍しい。これは牛の肺で、フワッフワの食感で、まさに珍味。東京の焼き肉屋で数回しか食べたことがなかったが、神戸で食べられるとは。そこから北上すると左手におにぎり竹ちゃんなる店が。15:00頃という中途半端な時間だったため、おかかと福神漬けの2個セットを妻と分ける。おかかを頂戴したが、普通の味。妻曰はく、福神漬けは美味しかったとのこと。

 

そこからは新長田から各駅停車に乗り三宮へ。歩いて20分弱で「おめざや」へ。雨がひどく、なかなかしんどかった。お目当ての黒豆きなこバタークリームと豆腐ケーキと各種マドレーヌを購入。帰りは阪神電車の春日野道から西宮へ。にしのみや市民祭りを横目にJR西宮まで歩く。そしてJR尼崎に帰ってきた。

 

そこから一休みしてレイトショーに向かうが、それは次の記事にて。


全体的に感じるのは時代の変化。丸五市場には「市場や商店街の姿がこのまま消えて行っていいのか」というポスターがあった。個人的には伝統芸能でもない限り、いつかは消えていくし、保存する力は働かないと思っている。そんな力があるなら、たとえば『 わたしは光をにぎっている 』の銭湯もつぶれなかったはずだし、『 港に灯がともる 』でリフォームされてハッピーエンドになっていたはず。大切なのは形を残すことではなく、思い出を残すことではないかと思う。なので長田の思い出をここにも残しておく。とはいっても、一番良いのは実際にそこを訪れて、ある程度のお金を落とすことであるのは間違いない。阪神間の住人、あるいは北摂の住人でたまに鶴橋に行くという人は、折を見て丸五市場やその周辺に足を延ばしてみてはどうだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

food stall

屋台の意。いわゆる市場は衰退が激しいが、屋台はまだまだ勝負できるのではないか。淀川花火しかり、天神祭りしかり。ユキヤ食品も屋台ではないが、屋台的に売り出すことで新規客をゲットできているように思う。韓国や中国といった東北アジア、および台湾、タイ、ベトナム、カンボジアなどは屋台文化が強い。日本も、屋台をもう少しプロモートしてもいいのかもしれない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 さよならはスローボールで 』
『 ハウス・オブ・ダイナマイト 』
『 恋に至る病 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代Leave a Comment on 聖地巡礼 『 港に灯がともる 』

『 秒速5センチメートル(2025) 』 -男の女々しさを描き出す-

Posted on 2025年10月21日2025年10月21日 by cool-jupiter

秒速5センチメートル 70点
2025年10月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:松村北斗 高畑充希 上田悠斗 白山乃愛
監督:奥山由之

 

妻の「これ観たい」の一言でチケット購入。

あらすじ

プログラマーとして働く遠野貴樹(松村北斗)は、常に過去にとらわれていた。それは東京の小学校に転校してきた篠原明里(白山乃愛)との記憶だった。同じく転校生だった貴樹(上田悠斗)は彼女と交流を深めていく。しかし、明里はまたも引っ越すことになり・・・

ポジティブ・サイド

よくあんな気持ち悪い(思春期男子的に)アニメを実写化しようとしたなと思うが、これがいい感じに仕上がっているのだから大したもの。脚本と監督が原作に必要以上に忠実にならなかったことが成功の要因であるように思う。

 

大人になった貴樹と明里の対称的な日常への向き合い方を淡々と描写していくのが良かった。基本的には貴樹の物語は『 僕の好きな女の子 』で、乃愛の物語は『 ちょっと思い出しただけ 』だと思えばいい。

 

ただし、そこに思春期特有の甘酸っぱさと、ちょっとしたファンタジー要素というか、セカイ系的な要素が混じっている。ひたすら内省的になりがちな貴樹を、上司が適度に現実につなぎとめている。このあたり、松村北斗出演の傑作『 夜明けのすべて 』の上司や彼女未満の同僚との関係性にそっくりで、大人になり切れない男の典型というか、普遍的な在り方の一つなのだろう。

 

では、大人とは何か?この問いが発せられる文脈によって答えは様々だが、思い出に執着することなく、感謝できるようになることではないだろうか。プラネタリウムで見せる貴樹の涙は彼の成長のひとつの証であり、『 君の膵臓をたべたい 』の春樹の涙に匹敵するシーンだったと感じた。

 

電車、ロケット、探査機など、常に境界を越えて移動していくギミックが、貴樹と明里の関係を象徴化している。一度は忘れかけていた存在を、時速5キロメートルで思い出すシーンは印象的だった。確実に前に進む女と一向に前に進めない男の対比。そんな貴樹が遅ればせながらも前に進んでいくことを決意するシーンは白眉。「好きだった」と伝えられるのは、好きではなくなったからではなく、好きだったという気持ちを客観視できるようになったから。切なくもさわやかなビルドゥングスロマンだった。

 

ネガティブ・サイド

ペーシングに難あり。種子島をもう少し圧縮(煙草のエピソードなんかあったか?)したり、本屋でのニアミスを削ったりして、全体を1時間50分にまとめられれば、間延びしているという印象は生まれなかったのでは?

 

上田悠斗→松村北斗は理解できるが、上田悠斗→青木柚と青木柚→松村北斗はつながらない。もっとビジュアル的に適した役者はいなかったのか。白山乃愛→高畑充希も、ちょっと無理があった。

 

総評

矛盾するように聞こえる、かつセクシストにも聞こえかねないが、男が本来的に持つ女々しさを原作アニメ以上に巧みに、しかし控えめに、かつ確実に描出していると感じた。男は「名前を付けて保存」、女は「上書き保存」とはよく言ったもので、そのコントラストをやや冗長ながらもロマンチックに、かつドラマチックに描いている。デートムービーに向くかはわからないが、おっさん世代には刺さるのではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

railroad crossing

踏切の意。物語の中で踏切をフィーチャーしたシーンが2つある。あちら側とこちら側をへだてる象徴で、非常に印象的なシーンである。都市部では高架化あるいは地下化が進んでいるとはいえ、鉄道大国日本にはまだまだたくさんの踏切がある。これを機に覚えておこう。ちなみに横断歩道は pedestrian crossing と言う。併せて覚えよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 さよならはスローボールで 』
『 ハウス・オブ・ダイナマイト 』
『 恋に至る病 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ラブロマンス, 上田悠斗, 日本, 松村北斗, 白山乃愛, 監督:奥山由之, 配給会社:東宝, 青春, 高畑充希Leave a Comment on 『 秒速5センチメートル(2025) 』 -男の女々しさを描き出す-

『 隠された爪跡 』 -日本人は外国人と共生不可能か-

Posted on 2025年10月13日2025年10月13日 by cool-jupiter

隠された爪痕 75点
2025年10月12日 スペースふうらにて鑑賞
出演:曹仁承
監督:呉充功

 

とある伝手から本作の上映会を知り、スペースふうらへ赴く。鑑賞者は十数名で20代は1名、30代も1名、後は60~70代のシニアだった。

あらすじ

1923年9月1日、関東大震災時の朝鮮人虐殺を、当事者や目撃者の証言によって再構成するドキュメンタリー。

 

ポジティブ・サイド

『 福田村事件 』では、日本人が日本人を惨殺する過程がつぶさに描かれた。それに先立って、捕縛されていた社会主義者(当然日本人)も警察署内で殺されていった。同国人を誤解あるいは偏見に基づいて殺してしまったことが大きな衝撃であるが、本当に問われるべきは大多数の日本人が極めて少数の朝鮮人を虐殺したこと。そして、それが偶発的に生じた事件ではなく、実は国家が主導した事件である可能性が高いことだ。

 

本作は1983年公開で、実際の撮影はそれよりも数年または十年さかのぼって行われた。仮に1975年だとすれば、関東大震災から53年後、当時20歳でも年齢は73歳。多少薄まったり、あるいは大げさになっているとして、十分に事件は記憶されていると考えられる。本作は在日一世のアボジや、同世代の日本人の証言を生々しく捉え続けている。

 

『 ハルビン 』で伊東博文が「我々は文明をもたらしたのに何故それに感謝せず、反抗するのだ」のように慨嘆していたが、まさにそうした国際的な緊張が背景にある。『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』で、

 

「天は日本人の上にアジア人を造らず欧米人の下に日本人を造らず」というのが福沢の本音

 

だと書いたが、震災によって苦境に立たされた際の国家および国民の不安と不満の矛先を、国家主導で朝鮮人、中国人などのマイノリティに向けたというのが真相だろう。戒厳令発令に至るまでの過程を記した公文書は存在しないが、これも消された可能性が高い。国家がいかに簡単に公文書を改竄・破棄するのかについては、安倍政権を思い起こすだけでいい。自警団は自発的に組織されたと思っていたが、当時の政府が各地に「朝鮮人の攻撃に備えるために自警団を組め」という指令を飛ばした文書はいくつか残っていることから、これは実は国家的なジェノサイドだった疑いも濃厚である。ちなみに虐殺行為に加担した人々のほとんどは不起訴、さらに起訴された人々も大正から昭和への代替わりの際の天皇即位に伴って恩赦されている。状況証拠でしかないが、国家的な犯罪だったことを示唆していると言えよう。

 

東日本大震災や熊本地震でも「井戸に毒」というデマが飛んだが、恐ろしいのはそうした情報を国家やメディアではなく一般人が発することが可能なこと。そして日本人はデマに実はかなり耐性が低いであろうということ(わが兵庫県民の政治およびメディアのリテラシーの低さを見よ!)。

 

当時の関東地方の人口は推計で800万人。在住の朝鮮人は15,000人。そのうちの6,500人が死亡している。比率としては0.18パーセント。しかし半数近くが死亡、これはジェノサイドとみなされても仕方がない。ここに中国人を加えても、せいぜい比率は0.2パーセントだろう。現代日本の人口における外国人比率は3パーセント弱。南海トラフ地震が起きた時、自警団が組まれ、根拠のない情報に基づいて外国人迫害が起きてもおかしくない。だから、あらかじめ排斥しろ、ではアホなカルトの参政党と同じ。他者を同行しようとする前に、まずは自身のリテラシーを上げること。正しい情報を発信しようとする前に、正しくない情報は発信しないという心構えを持つこと。

 

ちなみに・・・実は本作には字幕がついているが、これは初版にはなかったとのこと。在日アボジだったり、当時を証言する日本人だったりは、興奮しているのか混乱しているのか、口調や言葉が結構めちゃくちゃで、リスニングだけの理解では無理があった。もし、どこかで上映会がある場合、主催者に字幕の有無を尋ねるべきである。正直、字幕なしでは理解がおぼつかない。

 

ネガティブ・サイド

荒川河川敷の発掘作業については、エンドクレジット前あるいは後にでも、何らかの注釈は入れられないのだろうか。一種のネタバレになるが、主催者が必ずこの情報を補足してくれるとは限らないので書いてしまうが、当時の荒川河川敷に埋められた朝鮮人の死体は数日後に掘り起こされ燃やされたことが判明している。一種の歴史修正主義者が「遺骨が出ないのだから虐殺はなかった」という主張の材料に本作が使われることを懸念して、ここに書いておく。

 

総評

40年以上前にこんなドキュメンタリーがあったとは知らなかった。調べてみると第七藝術劇場で2023年に本作および続編の『 払い下げられた朝鮮人 』も上映されていた。梅田だけではなく、もっと十三方面にもアンテナを張っておくべきだった。スペースふうらのオーナーによると、また上映会をするかもしれないとのこと。興味のある方々は是非そちらにアンテナを向けられたし。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 さよならはスローボールで 』
『 シークレット・メロディ 』
『 恋に至る病 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 1980年代, B Rank, ドキュメンタリー, 日本, 曹仁承, 監督:呉充功Leave a Comment on 『 隠された爪跡 』 -日本人は外国人と共生不可能か-

『 宝島 』 -エンタメ性がやや不足-

Posted on 2025年9月28日2025年9月28日 by cool-jupiter

宝島 60点
2025年9月27日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:妻夫木聡 永山瑛太 窪田正孝 広瀬すず
監督:大友啓史

 

3時間超の作品と知って尻込みしていたが、ついにチケット購入。沖縄尚学の甲子園優勝の年に公開されるというのは、ある意味でとても縁起がいい。

あらすじ

1952年の沖縄で、米軍基地に侵入し、物資を奪う戦果アギヤーのオン(永山瑛太)、グスク(妻夫木聡)、レイ(窪田正孝)たちは、ある夜、ついに米軍兵に見つかってしまう。必死で逃げおおせたものの、オンは行方知れずとなる。時は流れ、グスクは刑事に、レイはヤクザに、オンの恋人のやまこ(広瀬すず)は教師になって・・・

ポジティブ・サイド

沖縄が飲み込まされてきた理不尽の数々が活写されている。本土に捨てられ、アメリカに踏みにじられる。それも弱い立場の女性や子どもほど。戦果アギヤーの面々が単なる愚連隊ではなかったのは、こうした人々への思いやりがあったから。グスクが刑事として情報源に孤児たちを使うのは非常にクレバーでシャーロック・ホームズ的。逆に言えば沖縄は産業革命後期のロンドンと同じく、貧富の差が拡大し、政治的に取りこぼされた人々を多く生んでいたのだ。沖縄の人々の大半はそうした構造的な苦境に立たされていたわけで、その責任は日本政府と米軍の両方にあったことを本作は余すことなく見せつける。

 

難しいのは、沖縄経済は米軍からのカネに支えられており、基地の存在および一定数存在する頭のおかしい米兵の存在を必要悪として許容できるかどうかという部分。これについて米兵狩りをする組織と、特飲街を仕切るヤクザの間に緊張が生じているという形で描写されており、非常に巧みだと感じた。一方で米兵の婦女暴行や交通事故、果ては飛行機の墜落や毒ガス漏洩など、治外法権状態の沖縄の人々の心情は察して余りある。これを必要経費だと割り切っていいのか。

 

人権や民主主義が絵空事でしかない中で、沖縄の人々が本土復帰を目指していく。グスク、レイ、やまこはそれぞれ異なる立場でその過程に身を投じていく。詳細は書けないが、一貫しているのは日本政府の主体性の無さ。アメリカを刺激するような動きは注視するが、沖縄の本土復帰を支援することはない。沖縄は「本土に復帰する」が、日本は「沖縄を回復する」というのが政治的には正しい表現。しかし、日本政府は「沖縄が本土に復帰」と表現する。香港の時もそうで、当時Jovianは高校生だったが、新聞の見出しはどれも「香港返還」だった。主語が欧米側=視点が欧米側なのだ。本作を鑑賞して米軍や米兵の横暴に対して憤りを覚えるのは正しい。しかし、それは実は我々の多くが無意識に沖縄に向けている意識と同じところから生じている事態だということには自覚的であるべきだろう。

 

クライマックスのコザ騒動と、その最中の嘉手納基地侵入は非常にサスペンスフルだった。こうした暴動を単なる歴史の一ページと思ってはならない。ある程度の年齢の人であれば2011年夏の英国の暴動を覚えているだろうし、2020年のジョージ・フロイド死亡事件に端を発した全米のデモと暴動は、その後のBlack Lives Matter運動につながったのは記憶にたらしいところだ。暴動を肯定するわけではないが、昔の沖縄は大変だったのだなという誤った感想は決して抱いてはならない。

 

ネガティブ・サイド

まず何よりもエンタメ性が足りない。というか、上映時間の長さによってエンタメ性が希釈されてしまっている。たとえばグスクが大柄な変態米兵を逮捕しようとするシーンで、塚本信也演じる相棒とコメディっぽいやりとりをしたり、その米兵に反撃されたりするシーンがあるが、そういうものは不要。ここだけで30秒はカットできると感じた。色々と間延びしていたシーンを引き締めれば30分はカットできたはず。

 

通訳はそれなりに頑張っていたが、決定的におかしなところも多かった。特に最初にアーヴィンがグスクに接触してきたシーンで、He’ll be properly interrgogated. I’ll see to it.のように発言していたのを「適切に立件されるようにする」と訳していたが、interrogateは取り調べするという意味で、立件するでは決してない。他にも Nothing more,

 nothing less. を「身分をわきまえろ」と訳したりするのも、二人の友情や信頼を破壊しかねない意訳。また、アーヴィンがまだ話していない部分も先に日本語に訳している箇所もあった。

 

宝が何であるのかが明らかになる過程はスリリングだったが、その宝が( ゚Д゚)ハァ?という形で消えていくのは原作通りなのだろうか。また、序盤にこれ見よがしに出てきた洞窟が伏線になるかと思いきや、あんな台風の多い地域であんな残り方はないわ・・・ 終わり方でとんでもなく損をしている作品だと感じた。

 

総評

映画として面白いかと言われればやや微妙。しかし本作には『 福田村事件 』と同じく、日本の映画界も韓国のような本格的な社会派映画を(再び)作れるようになってきた契機の一本として数えられるポテンシャルがある。沖縄の歴史ではなく、現在進行形の日本史および世界史だと思って鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

This is no fucking joke!

作中の某シーンでのグスクのセリフ。字幕では「嘘じゃないぞ」みたいな感じだったが、実際は「冗談で言ってるんちゃうぞゴラァ!」みたいな感じ。ただ実際にこれを言えるシチュエーションとこれを言えるような関係性の相手を両方持つことは難しい。ということで日常もしくは仕事ではだいたい同じ意味の “I am dead serious.” =「俺は大真面目だ」を使ってみよう。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 妻夫木聡, 広瀬すず, 歴史, 永山瑛太, 監督:大友啓史, 窪田正孝, 配給会社:ソニー・ピクチャーズ, 配給会社:東映Leave a Comment on 『 宝島 』 -エンタメ性がやや不足-

『 蔵のある街 』 -ご当地映画の佳作-

Posted on 2025年9月25日2025年9月25日 by cool-jupiter

蔵のある街 75点
2025年9月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中島瑠菜 山時聡真
監督:平松恵美子

 

岡山県倉敷市のご当地映画ということでチケット購入。『 しあわせのマスカット 』が見事に失敗した岡山のご当地ムービー制作が、本作で実現された。

あらすじ

自閉症の兄、きょん君と暮らす紅子(中島瑠菜)は美大へ進学したいという想いを封じ込めていた。ひょんなことから幼馴染の蒼(山時聡真)たちがきょん君と交わした「鶴形山から打ちあがる花火を見せてやる」という実現不可能な約束を、紅子は無責任だと非難する。蒼たちはきょん君との約束を果たすべく、動き出すが・・・

ポジティブ・サイド

冒頭で家族で見上げる打ち上げ花火のシーンから一転、キャンバスの前で微動だにしない紅子、そこからきょん君の登場と、テーマと主要キャラクターの導入のテンポが小気味いい。蒼と祈一のコンビも邦画の高校生的なお約束、いわゆる二枚目と三枚目のコンビではなく、それぞれに苦悩するキャラクターになっていた。花火大会開催の一因となるきょん君も『 レインマン 』のダスティン・ホフマン的な演技で、自閉症のリアリズムを遺憾なく表現した。

 

世の中には優しい嘘と残酷な嘘があるが、善意でついた嘘が結果的に相手を苦しめることもある。どう責任を取るのか。嘘を本当にするしかない。そこに助け舟を出すのは高橋大輔。関西大学卒なので関西人かと思っていたが、倉敷出身だったのか。正式な署名を100人分集めよ、という無茶な指令を出す。そのためにダメダメ男子高校生が奔走する様は滑稽だ。そこに紅子から思わぬアシスト。イラストには力が宿るのだ。

 

花火大会を開こうと蒼と祈一が奮闘していく中で、倉敷の歴史、そこに生きる人々の気質と仕事・産業、駅前と美観地区の街並みの対比、そして何よりもバラバラになってしまっている紅子の家族の絆の再生の端緒も描かれていく。それは家族が一つになることを必ずしも意味しない。『 焼肉ドラゴン 』のように、旅立ちや独立も家族のあるべき在り方であることを本作は静かに、しかし力強く提示している。

 

ネガティブ・サイド

蒼のサクソフォンの話はどこにいった?演奏で耳目を引き、署名活動につなげるなどの描写は編集でカットされたか。

 

演技力のギャップが色々とありすぎた。主要キャラたちの岡山弁は、まあ大目に見るが、一部の役者はダメダメ。駅前のチンピラやフルート奏者(そもそも役者ではない?)は、別の役者を使えなかったのだろうか(高橋大輔は地元出身なので許す)。

 

橋爪功の出演シーンも不要だったように思う。。

 

総評

倉敷の美観地区を誇張することなく、その特徴をよく映し出している。海側に水島コンビナートがありながら、どこか大正や昭和の趣を残した街並み、しかしそれなりに発展した駅前や洋風の瀟洒な建物もあり、旅情を喚起する。家族の結びつきや恋愛感情を至上としない現実的な人間ドラマだった。ご当地映画の白眉と言える。岡山県民のみならず、多くの人に鑑賞されるべき作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

signature

署名の意。数多く集めれば、効力を発揮することもある。劇中の高橋大輔の「署名を100通集めたら力を貸そう」は “If you get a hundred signatures, then you’ll have my support.” ぐらいだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ブロークン 復讐者の夜 』
『 宝島 』
『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 中島瑠菜, 山時聡真, 日本, 監督:平松恵美子, 配給会社:マジックアワー, 青春Leave a Comment on 『 蔵のある街 』 -ご当地映画の佳作-

『 8番出口 』 -平々凡々な脚本-

Posted on 2025年9月8日2025年9月8日 by cool-jupiter

8番出口 40点
2025年9月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:二宮和也 河内大和 浅沼成
監督:川村元気

 

鑑賞予定はなかったが、本作のモデル駅がJR大阪天満宮駅だという説に興味を惹かれた。なぜならJovianは毎日同駅の8番出口から会社に向かっているから。というわけでチケット購入。

あらすじ

地下鉄で派遣先へ向かっていた男(二宮和也)は、不思議な空間に迷い込み、出られなくなってしまう。異変がなければ進み、異変があれば引き返し、そして8番出口から出ることという謎のルールに従って、男は前へ進んでいくが・・・

ポジティブ・サイド

なんといっても謎のおじさんを演じた河内大和が抜群の存在感を放っている。あの歩き方、曲がり方、表情の作り方、止まり方、そのすべてがリアル。ここでいうリアルとは、こんなおじさんは絶対に存在しないはずなのに存在してしまっているという意味。

 

ゲームに忠実で、異変のあるべき場所もだいたい同じ(だった気がする)。通路の雰囲気も確かに大阪天満宮駅の8番出口脇から伸びて左に曲がっていくやや上りのスロープの場所とよく似ていた。9番出口を出てちょっと北に進むと某専門学校がある。KOTAKE CREATEはこの学校出身なのかもしれない。

ネガティブ・サイド

最初の5分でストーリーの展開と着地点が見えてしまった。ある程度映画を見慣れている人の多くがそう感じたのではないだろうか。そうしたキャラクターの背景を一切抜きにして、理不尽かつ意味不明なゲームの世界をまず最初に提示する。そして通路のポスターなどを、たとえば病院主催のパパママ教室にするなどして、主人公の葛藤を言葉ではなく主人公の表情やたたずまいから感じ取らせる。そういう演出は不可能だったか。

 

主人公のキャラクターがほとんどそのまま『 グーニーズ 』のマイキーだったり、異変とともに出てくるクリーチャーが古今東西でおなじみの姿だったり、異変の一つが『 シャイニング 』のパクリだったり、とにかくオリジナリティがない。

 

そもそも基のゲームに存在した理不尽なゲームオーバーがない。おじさんがいきなり目の前に迫ってくるという異変に対して背を向けることができずにゲームオーバー、そして → 0番出口 の掲示の前からリスタート・・・のような理不尽さがないと、異変の危険度というか、異変をどれくらい真剣に捉えなければならないかといった真剣度が高まらない。

 

異変を見逃さないということは、逆に言えば我々はそれだけ世の中の変化を見逃している、あるいは世の中の変化を拒んでいるとも言える。それを一つのテーマに挙げるのは結構だが、そのことを主人公が悟るのではなく、まったく別のキャラクターの口から語らせるのは、凡百の邦画がやってしまう安易な方法で、本作もその陥穽にはまってしまっている。やたらけばけばしい女子高生キャラクターは不要だった。もっと言えばおじさんのパートも不要だった。

 

本作は二宮やら小松やらの名のある俳優が出てくるが、それがノイズになっているように感じた。『 侍タイムスリッパー 』や『 最後の乗客 』のように、無名だが実力あるキャストをそろえて撮影してほしかった。そうすれば観ている側も感情移入できるし、代り映えのしない駅のコンコースにもより注意を向けられるようになると思うのだが。

総評

Jovianは原作は未プレイ。だが、Jovian妻がHIKAKINの配信動画を観ていたのを時々横から眺めてはいた。映画にするならゲームに忠実に作りつつ、オリジナルなアイデアを盛り込んでほしかった。本作は残念ながら原作の再現度もオリジナル要素もどちらも中途半端。駄作とまでは言わないが、面白いとも言えない。貯まっているポイントを消化して無料鑑賞するのはあり。配信やレンタルを待つのもありだ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

anomaly

異変や異常を指す単語。はじめて知ったのは小説『 星を継ぐもの 』の原著 “Inherit the Stars”でだった。解剖学的異常など、医学の分野で使うことが多いが、同小説では月のレゴリスの放射性同位元素の不均衡な分布を指してアノマリーという言葉を使っていた。調べてみたところ、『 8番出口 』の異変も anomaly と訳されている。英語学習者はこれを機に本単語も覚えてみよう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 蔵のある街 』
『 侵蝕 』
『 ブロークン 復讐者の夜 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, スーパーナチュラル・スリラー, ホラー, 二宮和也, 日本, 河内大和, 浅沼成, 監督:川村元気, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 8番出口 』 -平々凡々な脚本-

『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

Posted on 2025年8月15日2025年8月15日 by cool-jupiter

桐島です 75点
2025年8月14日 シアターセブンにて鑑賞
出演:毎熊克哉
監督:高橋伴明

 

『 BOX 袴田事件 命とは 』の高橋伴明監督が逃亡犯・桐島聡を描いた作品ということで、やっとのことでチケット購入。

あらすじ

企業・政府による人民搾取に静かに業を煮やしていた桐島聡(毎熊克哉)は、やがて過激派に属し、爆弾闘争に身を投じていく。しかし、その過程で負傷者を出してしまったことを公開する。また、組織に官憲が迫ったことで逃亡していくが・・・

 

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

誰もが一度は目にしたことがあった桐島聡の指名手配写真。それが2024年1月、病院で見つかり、そのまま死んでいったというニュースはかなりセンセーショナルだった。そんな逃亡犯を毎熊克哉が好演した。

 

『 三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 』で描かれた1969年から数年後の1970年代。そこで桐島聡は労働者階級の待遇改善と諸外国民の搾取反対を表明するため、大資本への闘争を続けていた。同作でかつての三島親衛隊員が述べていた、全共闘は市井の中に拡散していったと、いわば負け惜しみ的に語っていたが、その数少ない拡散先に桐島がいたのかと思うと、なんとも複雑な気分になった。事実は小説よりも奇なりという意味でそう感じるということである。事実、『 正体 』は本作によってかなり陳腐化したと言える。

 

桐島は学生運動の延長線上に常に身を置くことで、いきなりガールフレンドから別れを告げられてしまう。デートに選んだ映画のチョイス(『 追憶 』)もまずかったようだ。とある時代の感性を保つことは、別の人間から見れば時代遅れとなる。時代という言葉が大仰かもしれないが、現代でも往々にしてこうした見方の対立は生じている。故・安倍晋三の桜の会疑惑その他は、しばしば支持者から「いつまで終わったニュースをやっているんだ」となるし、そうでない者からすれば「なんで勝手に先に進んでいるんだ」となる。

 

後者に属する桐島は労働者階級が資本家に搾取される構図を訴えようと過激派の爆弾闘争に身を投じていくが、そこで人を傷つけることには反対する。仲間は、企業にダメージを与えることを人を傷つけないことの矛盾をアウフヘーベンしていこうと言うが、自己主張の手段に言論ではなく武器を選んでいる時点で、その矛盾を止揚できるはずがない。しかし桐島はある時点から言葉に惹きつけられていく。これは事実なのか脚色なのかわからないが、桐島の人物像を深めつつも、桐島の思想については浅くもしていると感じた。

 

着の身着のままで逃亡した先で、運よく経験不問かつ寮付きの工務店で職を得た桐島は、内田洋を名乗って生活する。生真面目に生活のルーティンを守り、模範的に働き、たまにバーに顔を出しては酒や音楽という世俗の歓楽を享受する。要するに、大多数の小市民と何ら変わりのない生活を送っていく。その一方で、自身の関与した爆破事件について忘れることはできず、またいつでも逃亡できるように警戒を怠ることもないという、ある種の矛盾した生活も送っている。

 

行きつけのバーで知り合った若い歌手に恋心を寄せられても拒絶せざるを得なかったのは逃亡者だったからか。それとも時代遅れの自分がトラウマになっていたからか。奇妙な縁を深めることになった謎の隣人が、犯罪者・逃亡者としての桐島の人間関係にユーモアと緊張感の両方をもたらしていて、甲本雅裕は非常に強いインパクトを残した。

 

在日韓国人の同僚、不法滞在するクルド人就労者、集団的自衛権の容認を国会を経ず閣議で決定した安倍晋三など、国家の歪みを感じさせる事象に対して怒りと悲しみを感じる桐島聡だが、その一方で運転免許試験と教習所は結託していると語ったり、またメタボ検診を製薬会社と厚労省の癒着だと断じたりと、非常に危うい、あるいは偏った正義感の持ち主である点も描かれる。外側のアイデンティティを偽りつつも、内側のアイデンティティは偽れなかったのだろう。その思想が良いものなのか悪いものなのかは軽々に判断すべきでない。しかし、高橋監督は桐島に説教されたと思しき若い同僚に「内田さんが死ぬのはいやっすよ」と言わしめた。それが彼のメッセージなのだろう。

 

後年にかつての反日武装戦線の領袖が出版した詩集を読み耽る桐島は、

 

毎熊克哉が青年から高齢までの桐島を見事に演じきった。今年の主演男優賞は彼と『 国宝 』の吉沢亮の一騎打ちとなるだろう。

 

ネガティブ・サイド

かつての同志の宇賀神が語る「桐島は公安に勝利した」という宣言は、桐島の代弁とは言えないのではないか。桐島は一貫して日雇い労働者に代表される下級労働者の搾取の構造を変えたがっており、そこにいるのが日本人であれ外国人であれ、それは救済の対象だった。桐島の勝利とは労働者の勝利であり、最後まで逃げ切ったことを勝利というのは矛盾に感じた。それこそ遺書でも残しておき、死後に桐島聡という存在が内田洋に成り代わっていたことが明らかになったというのなら話は別だろうが。

 

最後の最後に登場する日本赤軍の生き残り女性の存在が滑稽に映った。というのも作中に登場する安倍晋三は2024年時点では既に暗殺されていたからだ。まさに事実は小説よりも奇なり。

 

総評

ハリソン・フォードの『 逃亡者 』的なアクションなど一切なし。非常に地味なドラマである。しかし、一人の人間の半生を通して、変わっていったものと変わらないものを同時に映し出すという試みは大いに成功している。爆弾テロは論外だが、反体制の闘士を生み出す土壌がかつての日本にはあったということは知るべきだろう。そしてその土壌から誤って芽吹いたのが参政党や日本保守党であることは憂慮していい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

pseudonym

偽名の意。pseudoは疑似的な、を意味する接頭辞。nymは名前を意味する接尾辞。偽名と訳されるが、どちらかというとペンネームなどの仮の名前を指す語。一方で false name となると正に偽の名前で、これは犯罪や悪事の際に用いられる名前。これらをちゃんと区別できれば英検準1級以上だろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 亀は意外と速く泳ぐ 』
『 渇愛 』

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 歴史, 毎熊克哉, 監督:高橋伴明, 配給会社:渋谷プロダクションLeave a Comment on 『 桐島です 』 -時代遅れの逃亡者-

『 近畿地方のある場所について 』 -見るも無残な映画化-

Posted on 2025年8月10日 by cool-jupiter

近畿地方のある場所について 20点
2025年8月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:赤楚衛二 菅野美穂
監督:白石晃士

 

小説『 近畿地方のある場所について 』の映画化ということでチケット購入・・・ではなく、ポイントで無料鑑賞。この判断は結果的に正解だった。

あらすじ

オカルト雑誌の編集長が特集記事の校了を前に失踪した。編集者の小沢(赤楚衛二)は旧知のライターの千紘(菅野美穂)と共に編集長の行方と彼の追っていた対象の謎を探ろうとするが・・・

 

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

首吊り屋敷の和室や子ども部屋は、活字だけでは出せないおどろおどろしさがあった。

 

団地の子供たちの遊びのシーンからは原作同様の不穏さが感じられたし、自分で想起していた真っ白様(小説では真っ白様なのである)のイメージにもマッチしていた。

 

ネガティブ・サイド

小説と異なる構成になるのは仕方がないが、再構成の仕方を派手に間違えている。

 

第一に、原作の有していた断片的なエピソードの数々が少しずつ重なり合っていく過程がすっとばされてしまったこと。第二に、雑誌の読者が編集部に送ってくる多数の気味の悪いエピソードが全カットされてしまったこと。第三に、原作が何度も繰り返す「近畿地方のとある場所についてはこれで終わりです」という不穏なフレーズに代わるシーンあるいはセリフが用意できなかったこと。

 

原作では行方不明なのは小沢だが、まあ、それはいいだろう。問題は編集長。私用PCに仕事の情報を全部詰め込んでいるなどというのは、普通なら懲戒ものだ。というか私用でも会社用でもいいからクラウド使わんかい。脚本家は二重の意味でアホなのだろうか。また編集長の残した膨大なデータのごく一部だけしかないと言いながら、そのどれもが核心に迫るものばかりだというのはご都合主義すぎないか。

 

原作ではじいさんが語るまさるのエピソードをばあさんが語る昔話にしてしまったが、それはもう昔話ではなく怪談。しかも別に怖くない。原作のエピソードを再現しようとすると『 犬鳴村 』の亜種になるので変更したのだろうが、そこは『 福田村事件 』を参考にすればいいだろう。

 

その後、どこかで見たようなシーンや演出のオンパレード。編集長の死に方に脚本家も監督も分かっていないと慨嘆させられた。そこは頭ではなく目を貫くところ。その描写から逃げている時点でホラーとして失格。ほかにも中途半端なシーンのオンパレード。最後も『 NOPE / ノープ 』と『 トゥルース・オア・デア 殺人ゲーム 』のパクリかな。

 

漫画家の芦原妃名子氏が亡くなる前の日テレかどこかのドラマ脚本家たちの座談会で、ひとりが「私は原作者ではなく原作さえあればいい」というような発言をしたとされている。今回の監督および脚本家も似たような意識を持っていたのでは?ヒットした小説がある。それを映画にできる。割のいいビジネスだ。ぐらいにしか感じていなかったのかな。原作者は本作を観て何を思うのだろうか。

 

最後の最後も脱力させられた。エンディング曲がなぜか東京を事細かく描写。近畿地方がテーマちゃうんかい・・・

 

総評

映画化ではなくドラマ化した方がよかったのでは?一話30~45分の全6~8話程度の深夜ドラマにすればよかったのでは?その方が原作の持つ、断片的な情報が徐々に輪郭を成していく過程をもっと上手く描き出せただろう。まあ、夏恒例の糞ホラーのひとつとして割り切ろうではないか。原作を読んだのなら本作の鑑賞は必要なし。本作を観て納得がいかなければ、竜頭蛇尾ではあるが原作を読んでみよう。途中のサスペンスは間違いなく小説の方が上である。

 

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sacrifice

犠牲、身代わりの意味。旧約聖書の昔からあった概念で、最も古く、かつ有名なのはアブラム(後のアブラハム)のイサク献供だろう。本作の陳腐さの大部分はオリジナリティの無さに起因することを記録する意味で、この語を紹介しておきたい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 桐島です 』
『 エレベーション 絶滅ライン 』
『 ジュラシック・ワールド/復活の大地 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, ホラー, 日本, 監督:白石晃士, 菅野美穂, 赤楚衛二, 配給会社:ワーナー・ブラザーズ映画Leave a Comment on 『 近畿地方のある場所について 』 -見るも無残な映画化-

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