ラテン語でわかる英単語 50点
2025年10月1日 読書開始(読了時期未定)
著者:ラテン語さん
発行元:株式会社ジャパンタイムズ出版
折に触れて小説やら新書を紹介しているが、今回はかなり異色の書籍を紹介したい。
概要
「本書は、英検®1級レベルの高い語彙力をつけたい方が効率よく英単語を学習できるように作成したものです」(3ページより抜粋)
ポジティブ・サイド
Jovianは英検1級に合格しているが、特段、対策はしなかった。なぜなら(と言っていいかどうか分からないが)ラテン語のバックグラウンドがあったからだ。大学3年生のまるまる一年間、〈ラテン語Ⅰ〉、〈ラテン語Ⅱ〉、〈ラテン語購読〉(わが母校は3学期制なのだ)を受講して、平日には2~3時間、ラテン語を勉強していた。もちろん、20年以上経った今ではかなり忘れてしまっているが、X(旧Twitter)界隈で時々見かける「語源がうんぬんかんぬん」と宣う輩よりは、遥かにetymologyの知識はあると自負している。そのJovianの目から見ても、なかなか面白い語がたくさん取り上げられている。
たとえば jus = 権利(86ページ)という語がある(個人的には ius と書きたいが)。これが jurisdiction や prejudice、juror や jury の語源であると知れば、一気にそうした方面の語彙が増える、あるいは覚えやすくなるだろう。
136ページの via = 道も面白い。ある程度英語力があれば、via Tokyo = 東京経由で、という意味になるのをご存じだろう。あの via である。ここから convey や convoy、また deviate などの語が派生している。
140ページの labor も味わい深い。英語でも労働だが、ラテン語でも労働だ。ここから laboratory = 仕事するところ → 実験室 となったり、あるいは elaborate《形容詞》 で「手の込んだ」、中島誠之助風に言うなら「いい仕事をしている」、という意味にもなる。日本語にも定着したコラボ= collaboration にも、しっかりと labor が入っている。
179ページの cedere = 行く、もぜひ知っておきたい。これにより exceed = 外に出ていく=超える、precede =(時間的に)先に行く、proceed =(空間的に)先に行く、secede = 脱退・分離独立する、なども容易に把握できる。本書では seccession をアメリカの南部諸州の独立だと紹介しているが、この語は2014年のスコットランド独立住民投票前に英字新聞で盛んに使われていたし、おそらくスペインからのカタルーニャ独立運動などが英語圏で報じられる際にも使われているはず。シネフィル(映画好き)っぽく言わせてもらえば、『 スター・ウォーズ 』の prequel trilogy で戦争が勃発したのは、通商連合が分離主義勢力=secessionist と組んでからだった。
語源の知識が英語力を伸ばすかどうかは不明だが、語彙力を伸ばす手助けになるのは間違いない。英検1級を目指す人が、ちょっと目先を変えた単語帳を求めるなら、本書も選択肢に入れていいだろう。
ネガティブ・サイド
大きな弱点が2つ。1つは著者の問題で、もう1つは編集・校正の問題。
ラテン語由来の英単語の網羅性がやや甘い。gradi を語源とする語としてregress, digress, congress, egress まで挙げておきながら ingress がないのは解せない。
manus = 手についても、派生語ではなく語の説明のところに manual = 手引書だと書くだけで、普通の学習者の腹落ち具合はかなり異なってくると思うのだが。なんでもal = 手引書だと書くだけで、普通の学習者の腹落ち具合はかなり異なってくると思うのだが。なんでもかんでも英検1級を基準に考えるべきではないと思う。parare のところで repair を取り上げているのだから、取り上げる英単語の選択が首尾一貫しているとは言い難い。
次に編集のミス(それとも著者のミス?)について。255ページのferreについて、「英語のtransfer「輸送する」とtranslate「翻訳する」は、同じ動詞(の違う語幹)が元になっている。つまり、完了形「私は運んだ」はtuli、「運ばれた」という意味になる完了受動分詞はlatusで、どちらもferreと起源が異なる形が使われているのだ」とあるが、起源は両方ともferreで同一である。正しくは『どちらもferreの時制や態が変化してできた異なる語幹(tulやlat)が使われているのだ』となるだろうか。
hortusの説明に「226で紹介したcohorsの関連語」とあるが、226とナンバリングされた語のところにも、226ページにもcohorsは記述されていない。これは編集・校正段階のミスだろう。
Jacereのところで、Jacta alea est =「さいは投げられた」としているが、これはAlea iacta est. の間違いではないか。いや、ラテン語は語順には融通無碍だが、歴史的な格言はそのままの語順を保つべきだ。
ザーッと軽く流し読みしただけで、これだけ「ん?」という記述が見つかるのだから、熟読するとどうなることやら・・・
英語のインデックスはあるが、ラテン語のインデックスがない。何故?
総評
英検1級を目指す人には向くかもしれない。あるいは時々存在する英単語マニアには好適か。ラテン語あるいはフランス語学習をある程度済ませた人には向かない。本書がベストセラーあるいはロングセラーになれば、そのうち errata がつくかもしれない。それを期待する意味でも本書を紹介しておく。もっとライトな語源の本がいいという人は GENGOZO でググってみよう。これはかつてのJovianの上司が作った本。たまにメルカリやヤフオクで売られている。間違いがかなり含まれているが、語源と英単語そのものの網羅性は(一応)本書よりも上である。
次に劇場鑑賞したい映画
『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』
『 ブラックバッグ 』
『 RED ROOMS レッドルームズ 』
現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。
I am now slowly phasing over to https://jovianreviews.com. This site will continue to be updated on a regular basis for the time being.