最後まで行く(2023) 70点
2023年5月21日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:岡田准一 綾野剛
監督:藤井道人
同名韓国映画のリメイク。かなり見応えがあった。
あらすじ
年末の夜、刑事の工藤(岡田准一)は危篤の母のもとに駆けつける途中で、ひとりの男をはねてしまう。男の遺体をトランクに入れた工藤は、検問に引っかかってしまうが、偶然に居合わせた県警本部の監察官の矢崎(綾野剛)によって通過することができた。しかし、母の葬儀と死体の処理に頭を悩ます工藤のもとに、謎のメッセージが送られて・・・
ポジティブ・サイド
岡田准一は『 ヘルドッグス 』よりも、本作のようなちょっと間抜けな警察官がよく似合っていた。ヴィランたる綾野剛の演技は、その岡田を完全に喰ってしまうだけの迫力があった。スターが演じる悪役としては『 ミュージアム 』の妻夫木聡に次ぐものだと感じた。この二人のトップスターが、これでもかという泥臭く、そして血生臭いバトルを繰り広げる。
オリジナルの『 最後まで行く 』と異なり、優男風の綾野剛が突如として岡田准一をボコボコにするシーンから、一気にサスペンスとミステリが盛り上がっていく。同時に、監察官の矢崎のストーリーが展開され、オリジナルよりも遥かにダークな社会の裏面が現れてくる。日本の警察の腐敗っぷりは『 Winny 』がやや消化不良気味に描いてくれたが、本作の県警の腐りっぷりはいかにもザ・日本という感じ。クソ無能政治家のボンクラ息子が家系図をアピールして大炎上したが、日本の権力構造というのは、本作のような形でも維持・継承されているのか。こういうのは韓国ドラマでよく見る構図だが、藤井監督の抱く問題意識の表れとみる方が実情に近そう。
警官二人のバトルのスケールもオリジナルよりもアップしている。また原作ではほとんど存在感のない裏社会の勢力が、本作では地場のヤクザとして大きな役割を果たしている。『 デイアンドナイト 』や『 ヴィレッジ 』でも、地域に根差した闇が描かれていたように、これまた藤井監督の好物テーマなのだろう。
工藤と矢崎の息詰まる駆け引きとバトルが延々と続き、さすがにこれは決着がついただろうというところから、さらに粘り腰でバトルが続く。まるでナ・ホンジン監督の『 チェイサー 』や『 哀しき獣 』を観ているかのようだ。最後まで行く、というタイトル通りの展開、そしてその救いのないエンディングには逆説的な意味での爽快感がある。これはリメイク成功と言っていいだろう。こうした毒のある作品が邦画にはもっともっと必要だ。
ネガティブ・サイド
原作のゴンスが思いつく死体隠蔽工作は、本作ではまったく無効だろう。通夜の番を一人っきりでしたいというのは分からんでもないし、実際にそういう例もうちの親戚であった。ただ、日本は火葬してから土葬する国なので、原作で可能だったトリックが活かせない。ここを有耶無耶にするしかない展開にしたのはご都合主義的か。
最後の最後になんだかなあ、と思わされた。とあるキャラが仕込みだったということで、すべては壮大な茶番に。ヤクザは脇役で、チンピラ警察同士の救いのない対決がどうしようもなくエスカレートしてしまった、というプロットで最後まで行ってほしかった。
あと、これは映画そのものの出来とは関係ないことなのだが、トレーラーをもっと慎重に作れないのだろうか。観客をびっくりさせるはずのシーンのいくつかがトレーラーでバラされている。もっとさりげない、それでいてインパクトのあるトレーラーというのは作れるはずなのだが。
総評
『 ブラインド 』が『 見えない目撃者 』に良い感じでリメイクされたように、本作もリメイクとしては成功と言える。社会のダークな一隅を照らすことに手腕を発揮する藤井道人監督は、韓流ノワールや韓流サスペンスと相性が良さそうだ。ただし彼には彼で独自の路線を走ってもらわねば。本当は園子温みたいなテイスト(人格ではない)の監督が日本に3~4人いれば面白いのに。まあ、そんな愚痴を言いたくなるほど、本作は邦画がなかなか持てない物語の暗さとエンタメとしての面白さを両立させているのだ。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
a safe house
「隠れ家」の意。house という語を含んでいるが、必ずしも家である必要はない。廃工場でも山小屋でも洞窟でも、隠れ家になりそうなものなら何でも a safe house と呼ぶことができる。この表現はあくまでも犯罪者が逃げ込んだり、あるいは犯罪者から追われている者が逃げ込むような場所を指す。一般人が隠れ家として使うカフェやレストランのことは、a hideaway cafe や hideaway restaurant のように言う。
次に劇場鑑賞したい映画
『 The Witch 魔女 増殖 』
『 65 シックスティ・ファイブ 』
『 クリード 過去の逆襲 』