2019年総括
2019年は劇場、レンタルで約250本の映画を観たのか。この時間とカネを自分磨きに使っていれば・・・などと思っては負けである。今年は『 ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス 』や『 主戦場 』、『 サッドヒルを掘り返せ 』など、力のあるドキュメンタリー作品が多かったという印象を抱いている。またCGと実写の境界線が揺らいだという印象も強い。『 アリータ バトル・エンジェル 』や『 ライオンキング(2019) 』、『 ジェミニマン 』は映像の新世紀の幕開けを告げる作品だろう。
一方で、『 アベンジャーズ 』と『 スター・ウォーズ 』という二大シリーズが完結した年でもある。それが悲しむべきことなのか、喜ぶべきことなのかは、今のところよく分からない。確かなことは、義務感によって劇場に足を運ぶ人の数は減るだろうということ。Jovianは『 スター・ウォーズ 』は何回観ても苦にならないが、『 アベンジャーズ 』は一回でお腹いっぱいである。
邦画の世界は、相も変わらず漫画と小説の映画化に血道を上げている。それ自体は悪いことではない。問題は、それがメインストリームになってしまっていることだ。『 イソップの思うツボ 』と『 スペシャルアクターズ 』はもう一つだったが、上田慎一郎のような実験的な監督あるいはアプローチをする者が、もっと出てきてほしい。
それでは個人的な各賞の発表を。
2019年最優秀海外映画
『 存在のない子どもたち 』
2018年の『 判決、ふたつの希望 』に続いて2年続けてレバノン映画を選出させてもらった。テーマの鮮烈さ、それを切り取るドキュメンタリー的な技法、最後にようやく映し出される希望の笑顔。メッセージ性の強さでは群を抜いていた。
次点
海外映画というよりもグローバル映画と呼びたい。ゴジラという怪獣は日本が生んだ偉大なキャラクターという枠にとどまらず、地球規模で愛され消費されるコンテンツになったのである。『 ホテル・ムンバイ 』や『 クリード 炎の宿敵 』よりもこちらが上回ったのは、ただただJovianがゴジラ好きであるからに他ならない。
次々点
『 ジョーカー 』
悪を新しく定義しなおしたことが本作の最大の貢献だろう。狂っているのは自分なのか、社会なのか。世界中が本作に熱狂している/していたことの意味を、我々はよくよく考察すべきだろう。
2019年最優秀国内映画
『 翔んで埼玉 』
近年の邦画では突出した面白さ。それはギャグが面白いからではなく、その奥に鋭く社会を批評する精神を内包しているからである。2020年東京オリンピックでは、マラソンを札幌開催となることが強権的にIOCによって決定された。その際のメディアの矛先は、IOCではなく札幌に向かった。これが本社を東京に置く日本のメディアの正体である。東京をユーモラスに、しかし確実に批判している本作は、娯楽要素と社会派要素を高い次元で融合させた傑作である。
次点
『 アルキメデスの大戦 』
戦争を知らない世代が政治権力の中枢に居座り、国民を貧困に追いやり、国際情勢にも混乱をもたらしている。今という時代が戦争前夜であるとは思わないが、戦争前夜の様相を呈しているということは、多くの識者や高齢世代が異口同音に語ることでもある。Jovianは戦争映画は好きであるが、戦争は嫌いである。戦争をフィクションとして楽しめる時代の継続を望みたい。
次々点
『 主戦場 』
Jovianの母校の恩師は、「歴史とは虚構である」、「現実は多層である」との教えを叩きこんでくださった。歴史とは現在との遠近法の中で何度でも捉え直されるべきものであるし、現実とは一色で塗りつぶされるものでもない。本作を右派と左派の対立にフォーカスしていると感じる視聴者は、もう一度、ミキ・デザキの主張がどこにあるのかを考え直されたし。
2019年最優秀海外俳優
ホアキン・フェニックス
『 ドント・ウォーリー 』と『 ジョーカー 』 の二作の主演で間違いなし。というか、アーサー・フレックを演じた『 ジョーカー 』一作だけでも文句なし。
次点
シム・ウンギョン
『 ブルーアワーにぶっ飛ばす 』と『 新聞記者 』で日本人役を、少々舌足らずではあったが、見事に演じ切った。日本人も、ハリウッドを目指すだけではなく韓国、中国、タイ、ベトナムなどに進出をするべきだ。
次々点
フィリップ・ラショー
『 シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション 』で残したインパクトは100トン級だった。
2019年最優秀国内俳優
成田凌
『 チワワちゃん 』、『 愛がなんだ 』、『 さよならくちびる 』、『 カツベン! 』の四作品出演で文句なし。『 カツベン! 』は映画として悪かっただけで、役者に責められるべきポイントは少なかった。
次点
吉沢亮
『 キングダム 』 の秦王政、『 空の青さを知る人よ 』の慎之介の voice acting で、その確かな演技力を強烈に印象付けた。これまでは出演作のクオリティに恵まれなかったが、2019年は吉沢亮の年になったと言ってよいだろう。
次々点
松岡茉優
『 バースデー・ワンダーランド 』、『 蜜蜂と遠雷 』、『 ひとよ 』 の三作品で選出に異論なし。
2019年最優秀海外監督
トッド・フィリップス
コメディ畑の監督が『 ジョーカー 』を成功に導いた。キャッチフレーズである”Put On A Happy Face” の真意は、コメディの何たるかを知る同監督ならではであろう。笑いの仮面をかぶるということは、心の中では泣いている、もしくは怒っているということである。そして、人を笑わせたいと願う男が、人に嘲笑われてしまう。病んでいるのは社会か、それとも己なのか。日本社会からいじめが減らない一つの背景に、「いじめ」と「いじり」が峻別されないという実情がある。職場や学校の人気者とされる人々は、本当に幸せ者か。彼ら彼女らは笑わせているのか、笑われているのか。そんなことを、ふと考えた。
次点
ノア・バームバック
『 マリッジ・ストーリー 』一作で文句なし。 芸術性と娯楽性の両方を同時に追求することができる稀有な手腕の持ち主である。
次々点
スティーブン・ケイプル・Jr.
『 クリード 炎の宿敵 』 で文句なし。シルベスター・スタローンの新人監督のポテンシャルを嗅ぎつける嗅覚の鋭さには敬服するしかない。
2019年最優秀国内監督
真利子哲也
『 宮本から君へ 』 で現代人向けに強烈なメッセージを送ってきた。お前たちは真に生きているのか、と。本作は暴力を称揚しているわけでも容認しているわけでもない。ただ、男という生き物が力を正しく揮うのだとすれば、それは生存を賭けた闘争か、あるいはつがいの女のためであろう。本作は「漫画を映画化するのなら、これぐらいしてみろ!」という真利子監督の邦画界への一喝である。
次点
白石和彌
『 ひとよ 』 で、家族という共同体の一面の真実を炙り出した。相手が憎いのは「好きでありたい」という気持ちの裏返しであり、相手をどうやって受け入れればいいのか分からないというのも「受け入れてやりたい」という気持ちが無ければ生まれてこない疑問である。家族という虚構の共同体の成り立ちに新たな光を当てたと言える。
次々点
石井裕也
『 町田くんの世界 』 で、主演二人に新人を起用。それでも映画を佳作に仕上げ、なおかつ非現実的な展開も序盤の伏線でクリア。『 宮本から君へ 』の宮本に次いでカッコイイ男、町田くんを世に送り出した功績を称えたい。
海外クソ映画オブ・ザ・イヤー
『 ブライトバーン 恐怖の拡散者 』
これほどオリジナリティに欠けるクリシェ満載のホラー映画は貴重である。企画やストーリーボードの段階で、「これ、作ってもつまらないんじゃ・・・」とは誰も感じなかったのか。類似のテーマでもっと面白い作品を観たいという向きには邦画『 いぬやしき 』をお勧めしておく。
次点
『 ジェミニマン 』
ウィル・スミスには悪いのだが、点数ゆえにこの位置に来ざるを得ない。というか、IMDbとかRotten Tomatoesを頼りにつまらなそうな映画を事前にスクリーニングしすぎたのかな。もっと自分の直感を頼りに来年はチケットを買おう。
次々点
『 X-MEN:ダーク・フェニックス 』
豪勢な題材を豪勢なキャストで料理しようとして大失敗。いくら素材が良くても、味を決めるのは料理人たる監督であり、それを味わうお客たる視聴者である。
国内クソ映画オブ・ザ・イヤー
『 ニセコイ 』
厳密には2018年の作品なのだろうが、ストーリーの面でも映像芸術としての質の面でも、役者の演技面でも、邦画の最底辺だろう。河合勇人監督には捲土重来を期待する。
次点
『 二ノ国 』
『 ニセコイ 』との壮絶な一騎打ちに僅差で敗れた。だが、本作もまた邦画、そしてジャパニメーションの最底辺レベルの作品であることは疑いようもない。
次々点
『 貞子 』
ジャパネスク・ホラーの夜明けを告げた『 リング 』シリーズは、本作をもって水平線の向こうに沈んでしまった。再び輝きを放てるのは果たしていつの日か。
2020年展望
『 ゴジラVSコング 』の公開が2020年3月から2020年11月へ延期されたというのはショッキングなニュースだった。『 スター・ウォーズ 』の完結によってぽっかりと空いた心の隙間を埋めてもらおうと期待していたのだが。
楽しみなのは『 ハリエット 』。女モーゼとも呼ばれたハリエット・タブマンの映画である。彼女は2020年に米20ドル札の表面に載る。それも1920年の第19回憲法修正で女性に参政権が付与された100周年記念の一環として。職業柄、アメリカ近代史に関心のあるJovianは、本作が楽しみでならない。
私事ではあるが、今年で今の会社を辞めて別の会社へ移ることになった。いわゆる転職である。語学業界内での転職だが、職務は少し変わる。外国語、特に英語学習の需要は高まるばかりだが、通訳機や翻訳機のレベルが指数関数的に向上した時、この業界全体がどのような変化を迫られるのだろうか。上司にメールで退職の意を報告したのは『 ジョーカー 』を鑑賞した直後。何ともcinephileらしいではないか。
新年の抱負としては、2020年は10~20記事にひとつぐらいは日英両語で書くようにしたい。また、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】への完全引っ越しも果たしたい。来年も良い年になりますように。