Skip to content

英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

  • Contact
  • Privacy Policy
  • 自己紹介 / About me

月: 2018年12月

『 くるみ割り人形と秘密の王国 』 -鑑賞時はCG酔いに注意のこと- 

Posted on 2018年12月12日2019年11月30日 by cool-jupiter

くるみ割り人形と秘密の王国 40点
2018年12月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:マッケンジー・フォイ キーラ・ナイトレイ モーガン・フリーマン
監督:ラッセ・ハルストレム ジョー・ジョンストン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181212024607j:plain

チャイコフスキーの“くるみ割り人形”と言えば、圧倒的に「行進曲」と「花のワルツ」のイメージが強いだろう。この軽快にして優雅な調べは、聴く者の心に沁み入るような印象をもたらす。この典雅な音楽に乗せて展開される映像世界はどのようなものになるのだろうかと期待に胸を躍らせていたが・・・

 

あらすじ

母を亡くして以来、内向的になってしまったクララ(マッケンジー・フォイ)は、あるクリスマス・イブに名付け親のドロッセルマイヤー(モーガン・フリーマン)の邸宅を訪れる。そこでは各人へのクリスマスプレゼントが用意されており、自分の名前が書かれた札のついた紐をたどっていく仕組みだ。そしてクララが紐をたどっていく先には、不思議な世界が広がっていた・・・

 

ポジティブ・サイド

インターステラーのマーフがここまで大きくなったかと、マシュー・マコノヒーならずとも父のような目で見てしまう。クロエ・グレース・モレッツ的な存在になるのか、それともジェニファー・ローレンスのような恐れ知らずの女優にまで変貌するか。今後が実に楽しみである。なんとなくルックスが杉咲花を思わせるのだが、出演作は本人およびハンドラーもしっかりと吟味をしてほしいと切に願う。

 

ゴッドファーザーのモーガン・フリーマンも、日本の国村準に負けず劣らずのハイペース出演。正直なところ、この偉大なる俳優のキャリア、というか寿命もそこまで長くは残されてはいないだろう。彼の今後の一作一作が、文字通りの遺作になる覚悟で臨んでいる。言えるうちに言っておこう。この不世出の名俳優に乾杯。

 

そしてキーラ・ナイトレイである。『 はじまりのうた 』や『 アラサー女子の恋愛事情 』では典型的なお姉さんキャラを演じていたが、本作ではハイテンションお姉さんキャラに変貌を遂げた。しかし、大人でありながら大人の余裕をそれほど感じさせないお姉さんキャラという点では、いつものキーラなので、彼女のファンであってもそうではなくても、安心して鑑賞できる。このことをポジティブに捉えるかネガティブに捉えるかは人による。Jovianは好意的に受け取った。キーラは何となく、蒼井優を思わせる。可愛らしさ、色気、儚さ、物憂げな様子、名状しがたい負の感情、倒錯。そうしたところが共通しているように思う。

 

ネガティブ・サイド

ストーリーそのものに真新しいところはない。というよりも、ディズニーらしい改変が加えられている。ディズニーがよく知られた物語を実写化すると、しばしばフェミニスト・セオリーなどの現代的な読み変えを行う。女性はどこまでも受け身で、物語を雨後がしていくのはもっぱら男性的なキャラクター達というのが古典的な物語の在り様だ。赤ずきんちゃんでも白雪姫でも何でもよい。そうしたおとぎ話の女性の受動性とディズニー映画の女性の積極性には見事なコントラストがあるのだが、それが常に成功するわけではない。なぜクララがいきなりガンガン闘えるのか。なぜクララに女王の威厳が備わっているのか。なぜクララが機械仕掛けに精通しているのか。こうした男性的な特徴を、特に説明もなくクララが持っていることが、物語にマイナスに作用しているように思う。近年の実写ディズニー映画で個人的に最も面白かったのはリリー・ジェイムズの『 シンデレラ 』だ。なぜなら、女性の女性性を損なうことなく、一貫した物語に仕上がっていたからだ。クララ本人とその母親、そして四つの王国の背景がほとんど語られないままにキャラが動き出すせいで、観客は置き去りにされたかのように感じてしまう。

 

また、CGの量は何とか抑えられなかったのだろうか。全ての王国の背景が、あまりにも作り物然としていた。CGが今後どれほどの進歩を見せるのかは分からないが、それでもCGはCGとして目に映るだろう。最近観た『 グリンチ(2000) 』でも感じたことだが、着ぐるみや特殊メイクは幼稚かもしれないが、存在感という点ではいかなるCGにも勝る。最近も『 GODZILLA 星を喰う者 』で、ほとんど動かないキングギドラを見せられたが、かつての昭和、平成のキングギドラは二十人ほどの操演によって動いていたという。しかし、ピアノ線による操演技術はロストテクノロジーとなって久しい。今ではエキストラの人間さえもCG作成して合成してしまう映画が多いが、ディズニーほどの予算を持っているのなら、オーガニックな素材をふんだんに使った映画を作り続けるべきだ。本作のCGヘビーな面は、技術の進歩というよりも技術の後退、継承の失敗という文脈で捉えるべきではないだろうか。

 

総評 

はっきり言って、本作にはストーリー上の面白さは無い。キャストにお気に入りがいないのであれば、素直にスルーするのが吉である。そうはいっても、チャイコフスキーの音楽の調べによって語られる物語の映像美は、雨の日の過ごし方やちょっとした時間つぶしのためには最適であるのかもしれない。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181212024758j:plain

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村 

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, キーラ・ナイトレイ, ファンタジー, マッケンジー・フォイ, モーガン・フリーマン, 監督:ジョー・ジョンストン, 監督:ラッセ・ハルストレム, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 くるみ割り人形と秘密の王国 』 -鑑賞時はCG酔いに注意のこと- 

『 ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生 』 -物語よりも、まずはキャラを立てるべし-

Posted on 2018年12月8日2019年11月30日 by cool-jupiter

ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生 50点
2018年12月1日 東宝シネマズ梅田にて鑑賞
出演:エディ・レッドメイン キャサリン・ウォーターストン ダン・フォグラー クアリソン・スドル エズラ・ミラー ゾーイ・クラヴィッツ ジョニー・デップ ジュード・ロウ
監督:デビッド・イェーツ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181208021105j:plain

原題は“Fantastic Beasts: The Crimes of Grindelwald”、『 ファンタスティック・ビースト:グリンデルバルドの罪 』というわけだが、ウィザーディング・ワールドでは罪の概念がマグル/ノーマジの世界とは異なるのだろうか。個人的には、グリンデルバルドはそこまでつの罪を犯しただろうか?と首をかしげてしまった。

 

あらすじ

悪の大魔法使い、グリンデルバルド(ジョニー・デップ)が移送中に逃亡に成功。ダンブルドア(ジュード・ロウ)と接触したニュート(エディ・レッドメイン)は、彼に代わってグリンデルバルドの追跡を依頼される。大魔法使いのダンブルドア自身がその任にあたらないことに訝しさを覚えつつも、ニュートはロンドンからパリへと向かう・・・

 

ポジティブ・サイド

シリーズと呼ばれる作品は映画界に数多く存在する。しかし、Saga / サーガ と見なされうるだけの力と奥深さを持つ作品は少ない。『 スター・ウォーズ 』や『 ロード・オブ・ザ・リング 』は間違いなくサーガだが、『 猿の惑星 』や『 ミッション・インポッシブル 』はサーガではないと感じている。サーガとは英雄譚であると同時に、魅力的なキャラクターと物語を生み出す世界観そのものだろう。「ルークやダース・ベイダー(≠アナキン)が出てこないから、新三部作はスター・ウォーズではない!」と怒るファンはいなかった。我々スター・ウォーズファンが怒り、嘆き悲しんだのは、フォースと言う銀河に満ちる神秘的な力を生物学的に解釈してしまったところだった。世界観を破壊されたからなのだ。そういった意味では、キャラクターではなく世界観こそが、シリーズとサーガを分ける一つの大きな指標だろう。『 ハリー・ポッター 』は紛れもないもサーガだった。本作もサーガの一端を担っていると言える。それはニュートやティナが登場していること以上に、魔法や魔法生物の存在によるところが大きい。前作でかなり唐突にアメリカに舞台を移したことには面食らったが、今作はパリ、さらには中国の妖怪も大暴れし、日本の妖怪も一瞬だけ登場する。世界の奥深さ、広大さを切り取った素晴らしい構成だと感じた。

 

ネガティブ・サイド

登場人物が一気に増えすぎた感は否めない。前作のニュート、ティナ、ジェイコブ、クイニーのリユニオンが期待されていたはずだが、そこへ持ってきてニュートの兄、その兄の婚約者、さらにクリーデンスの親など、メインのプロットであるグリンデルバルドの追跡とは直接に関連しないサブプロットが多すぎる。『 アントマン&ワスプ 』でもそうだったが、ストーリーは詰め込めば詰め込むだけ良いというものではない。過剰なサービス精神が必ずしもエンターテインメントになるわけではない。

 

冒頭でも述べたことだが、本作の最大の弱点は、グリンデルバルドが多くの魔法使いを扇動するばかりで、罪と呼べるのはオープニングの闘争および逃走シーンぐらい。だいたい、こんな危険な魔法使いが逃げ出したというのに、魔法省は数ヶ月間も動かず。ハリポタ世界でもヴォルデモートの復活を信じず、闇の軍団の成長に楔を打ち込もうとする動きは大きくならなかった。魔法使いは皆、基本的に能天気なのだろうか。闇祓いというのはアラスター・ムーディのような、好戦的・・・とは言わないまでも、闘うことに慎重になりすぎず、闘うとなれば手足や目玉ぐらいは犠牲に闘うものではないのか。ニュートが闇祓いを忌み嫌うのは、自分たちの知識や理解の範疇に収まらない生物を駆除しようとするからではなかったか。なぜグリンデルバルドにもっと立ち向かっていかないのか?映画的ご都合主義が見え隠れしていた。これは大きな減点材料だ。

 

総評

本シリーズは全5作で完結するとされている。であるならば、次作ではマクゴナガル先生の若い頃versionが登場してもおかしくない。個人的には、ハリポタ世界でスネイプ先生に次いで最も好きなキャラクターだ。ダンブルドアがストーリーに絡んできたからには、彼女の登場も期待される。作品としてはもう一つだが、Wizarding Worldの広大さを感じられるという意味では及第点。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181208021303j:plain

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村 

Posted in 映画Tagged 2010年代, D Rank, アメリカ, エディ・レッドメイン, キャサリン・ウォーターストン, ジョニー・デップ, ファンタジー, 監督:デビッド・イェーツ, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生 』 -物語よりも、まずはキャラを立てるべし-

『 ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 』 -The Wizarding Worldの復活-

Posted on 2018年12月6日2019年11月23日 by cool-jupiter

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 60点
2018年11月29日 レンタルDVD鑑賞
出演:エディ・レッドメイン キャサリン・ウォーターストン ダン・フォグラー クアリソン・スドル エズラ・ミラー ゾーイ・クラヴィッツ ジョニー・デップ
監督:デビッド・イェーツ

 

ハリー・ポッターは最初の1冊だけ小説を読んだ。映画は全部観た。原作の翻訳者が大学の大先輩で、2000年ごろの大学祭での講演も聞いたことがある(ただの自慢話だったと記憶しているが)。Universal Studios Japanにも何度か行ったが、ハリポタのアトラクション・ライドは必ず乗ってきた。大ファンというわけではないが、The Wizarding World of Harry Potterの世界にはそれなりに魅了されてきた。作品としては続編(sequel)だが、物語としては前日譚(prequel)である。

 

あらすじ

魔法動物学者のニュート(エディ・レッドメイン)は、様々な魔法動物の収集と保護のためにアメリカを訪れる。しかし、魔法のトランクから一部の動物が脱走。アメリカ魔法省からお咎めを受ける。逃げ出したファンタスティック・ビースト、さらには未知の魔法生物を探し求めて、ニュートの冒険が始まる・・・

 

ポジティブ・サイド

ハリー・ポッターの世界と地続きなので、非常に入りやすい。服装、街並み、呪文など、いかにも前シリーズを意識していて、すんなりと世界に入って行ける。

 

キャラクターも良い。ハリポタ世界のマグルは、はっきり言ってあの嫌味な一家の印象しかないが、ジェイコブ・コワルスキーに(ダン・フォグラー)は嫌味がない。彼は人間味に溢れ、なおかつ非常に好感を抱きやすい好漢だ。このノーマジ=人間とニュート、ティナ(キャサリン・ウォーターストン)、クイニー(アリソン・スドル)が織り成す関係こそが物語の軸になるということが即座に分かる。素晴らしいは褒めすぎだが、しっかりとした導入部分を作れている。

 

今作では、オブスキュラスという魔法生物?怪物?が猛威をふるう。ハリポタ世界のデスイーターをさらに凶悪かつ破壊的にした感じで、そのCGビジュアルは美麗にして禍々しい。ハリポタ世界では、純血と混血の対立と融和が裏テーマとして存在していたが、ファンタビ世界では、愛される者と愛されない者の対立と融和が、おそらく裏テーマとして設定されているようだ。これはこれで興味深いし、時代や社会の背景を如実に映し出していると言える。愛は種を超えるのか。世界を超えるのか。なかなかに深遠なテーマに挑んでいる。その意気やよし。

 

エディ・レッドメインは『 博士と彼女のセオリー 』では圧巻の演技を見せた。『 ホーキング 』では同役をベネディクト・カンバーバッチが演じたが、両者の30歳前後での純粋な演技力だけに注目すれば、レッドメイン > カンバーバッチとなろう。本作でもその演技力の高さは遺憾なく発揮されており、様々な魔法生物に相対した時の声の出し方、票の作り方、なで方や触り方、歩き方や忍び寄り方の随所に、現実世界の動物学者やレンジャーたちと共通するモーションが見られた。興味と暇のある方は、ぜひ本作のニュートの動き方、立ち居振る舞いを頭に刻みつけた上で、NHKの『 ダーウィンが来た! 〜生きもの新伝説〜 』を視聴してみよう。

 

ネガティブ・サイド

残念ながら、ハリー、ハーマイオニー、ロンの3人組のケミストリーには及ばない。というか、比べること自体が酷であろう。J・K・ローリング自身もそのことを自覚しているからこそ、メインキャラ達を大人に設定し、そこにノーマジを加えてきたのだろう。しかし、ハリポタ世界の sequel ならまだしも、prequel の世界では、それは最善手ではなかった。

 

また、これも比べるのは酷なのだが、ハリー・ポッターにおけるヘドウィグのテーマほどの象徴性のあるサウンドトラックが無かった。例えば、スター・ウォーズにおけるミレニアム・ファルコンのテーマ・・・までは望むべくもないが、これを聞くとニュートの顔が思い浮かぶ、という力のあるサントラが欲しかった。

 

シリーズが続いていくほどに、様々な謎やキャラクターの過去も明かされていくと思うが、グリンデルバルドの登場があまりにも唐突すぎたように感じた。このキャラの深堀りは次作以降に行われるのだろうが、ヴォルデモートの「名前を言ってはいけないあの人/He who must not be named」のような、そんなインパクトある二つ名が欲しかった。

 

最後に、やはりハリポタ世界におけるセブルス・スネイプのようなキャラクターが欲しかった。それがクリーデンス(エズラ・ミラー)なのか、それとも別キャラなのか、それともスネイプ先生は唯一無二の存在なのだろうか。抱える闇の深さが、実は愛の大きさを示していたという屈折したキャラの存在がやはり望まれる。

 

総評

前の打席で場外ホームランを打ってしまうと、次の打席で二塁打を打っても特に騒がれない。そんな不条理さが感じられてしまう。しかし、ニュートというキャラクターはとても魅力的で、今後どのような魔法生物と出会い、どのような魔法生物の知識を披露してくれるのかと思うと、それはそれで胸躍るものがある。期待しすぎないこと。それが今シリーズを鑑賞する時に最も大事なことなのかもしれない。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村 

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, アメリカ, エズラ・ミラー, エディ・レッドメイン, キャサリン・ウォーターストン, ジョニー・デップ, ゾーイ・クラヴィッツ, ファンタジー, 監督:デビッド・イェーツ, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 』 -The Wizarding Worldの復活-

『 リピーテッド 』 -フランスの映画・小説の技法を盛り込んだ作品-

Posted on 2018年12月4日2019年11月23日 by cool-jupiter

リピーテッド 50点
2018年11月28日 レンタルDVD鑑賞
出演:ニコール・キッドマン コリン・ファース マーク・ストロング
監督:ローワン・ジョフィ

 

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181204033832j:plain

少ない登場人物でサスペンスを生み出すのがフランス流だが、本作はイギリス・フランス・スウェーデンの合作とのこと。納得の仕上がりである。カトリーヌ・アルレーが現代によみがえったら、きっとこんな小説を書くのだろう。

あらすじ

クリスティーン(ニコール・キッドマン)が目を覚ますと、ベッドには見知らぬ男が。彼(コリン・ファース)はベンと名乗り、自分は夫であると言う。クリスティーンは事故により、一日しか記憶を保持できないのだ。一方、ナッシュ医師(マーク・ストロング)からの電話でビデオカメラの録画を観るように促された彼女は、過去の自分からの語りかけに次第に混乱させられていく。信じるべきはベンなのか、それともナッシュなのか・・・

 

ポジティブ・サイド

まずキャスティングだけで本作は一定の成功を収めている。早い話が、ベンとナッシュ、どちらが怪しいのだ、というのがクリスティーンの疑惑であり、観る者の関心である。英国の誇るコリン・ファースが果たして悪役なのか、それとも強面でありながら、結構良い人ばかりを演じるマーク・ストロングが悪役なのか。物語が始まって、すぐに我々は引き込まれる。

 

物語は二転三転し、ある日はナッシュを疑ったかと思えば、次の日にはベンを疑う。クリスティーンが一日の終わりに撮り溜めていくビデオはどんどんと積み重なっていく。それがある閾値に達しつつある時、クリスティーンの記憶の鍵も外れ始める。この演出は陳腐ながら見事である。記憶喪失ものは往々にして、完璧なタイミングで完璧な記憶を取り戻すからだ。ご都合主義の極みである。本作は安易なご都合主義は取らないし、人間の記憶の確かさと曖昧さの両方を、非常に説得力ある方法で描き出す。その点で凡百の記憶喪失ものとは一線を画している。

 

ネガティブ・サイド

いくつか不可解というか、設定が生かされない点もあった。クリスティーンは毎朝20代に戻るわけだが、そのことを強く示唆するようなシーンが必要だった。それが無いために、終盤で真実の一端が明かされるシーンの迫力が減じてしまっていた。また、二人の男性以外に出てくる重要人物のもたらす情報が、クリスティーンの記憶を刺激しないというのは、やや腑に落ちなかった。

 

記憶喪失とタイムトラベルもしくはタイム・パラドクスは、序盤の面白さを生み出すことにおいては数あるジャンルの中でもトップクラスであろう。それは間違いない。問題は着地なのだ。サスペンスフルな展開でせっかくここまで引っ張ったのだから、最後までそのトーンを維持して欲しかった。ファイトシーンなどは無用であった。

 

総評

名作かと言われれば否だが、駄作と言うほどでもない。雨の日のレンタルにちょうど良いだろうか。ニコール・キッドマン、コリン・ファース、マーク・ストロングのファンなら、押さえておいて損は無いだろう。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村 

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, D Rank, イギリス, コリン・ファース, サスペンス, スウェーデン, スリラー, ニコール・キッドマン, フランス, マーク・ストロング, ミステリ, 監督:ローワン・ジョフィ, 配給会社:クロックワークスLeave a Comment on 『 リピーテッド 』 -フランスの映画・小説の技法を盛り込んだ作品-

投稿ナビゲーション

新しい投稿

最近の投稿

  • 『 28日後… 』 -復習再鑑賞-
  • 『 異端者の家 』 -異色の宗教問答スリラー-
  • 『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-
  • 『 RRR 』 -劇場再鑑賞-
  • 『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』 -すべてはビジョンを持てるかどうか-

最近のコメント

  • 『 i 』 -この世界にアイは存在するのか- に 岡潔数学体験館見守りタイ(ヒフミヨ巡礼道) より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に cool-jupiter より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に 匿名 より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に cool-jupiter より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に イワイリツコ より

アーカイブ

  • 2025年5月
  • 2025年4月
  • 2025年3月
  • 2025年2月
  • 2025年1月
  • 2024年12月
  • 2024年11月
  • 2024年10月
  • 2024年9月
  • 2024年8月
  • 2024年7月
  • 2024年6月
  • 2024年5月
  • 2024年4月
  • 2024年3月
  • 2024年2月
  • 2024年1月
  • 2023年12月
  • 2023年11月
  • 2023年10月
  • 2023年9月
  • 2023年8月
  • 2023年7月
  • 2023年6月
  • 2023年5月
  • 2023年4月
  • 2023年3月
  • 2023年2月
  • 2023年1月
  • 2022年12月
  • 2022年11月
  • 2022年10月
  • 2022年9月
  • 2022年8月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
  • 2022年3月
  • 2022年2月
  • 2022年1月
  • 2021年12月
  • 2021年11月
  • 2021年10月
  • 2021年9月
  • 2021年8月
  • 2021年7月
  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月
  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月
  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月

カテゴリー

  • テレビ
  • 国内
  • 国内
  • 映画
  • 書籍
  • 未分類
  • 海外
  • 英語

メタ情報

  • ログイン
  • 投稿フィード
  • コメントフィード
  • WordPress.org
Powered by Headline WordPress Theme