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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: C Rank

『 TALK TO ME トーク・トゥ・ミー 』 -ホラーというよりはオカルト-

Posted on 2023年12月29日2023年12月29日 by cool-jupiter

TALK TO ME トーク・トゥ・ミー 65点
2023年12月27日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ソフィー・ワイルド
監督:ダニー・フィリッポウ マイケル・フィリッポウ

今年の夏の時点で Impression Blend の Marianna が大絶賛していたのでチケットを購入。

 

あらすじ

ミア(ソフィー・ワイルド)は母を亡くしてふさぎこんでいた。しかし、友人たちが降霊を可能にする手を使って、霊にあえて憑りつかれるという遊びに興じる中、ミアもそれを体験し、その面白さにハマっていく。皆がエスカレートしていく中、そこにミアの母の霊が現れて・・・

ポジティブ・サイド

憑依現象というのは恐怖体験のはずだが、それをエンタメにしてしまっているところが現代風というか、Z世代らしいというか、とにかくそこは非常にユニークだと感じた。ちょっとしたきっかけで霊が見えるというのは『 さんかく窓の外側は夜 』のような作品があるように、それ自体は珍しくはない。しかし、クスリでトリップする代わりに霊でトリップするぜ!というのは斬新だ。

 

さらにそこに知っている人の霊、もっと言えば主人公の母親の霊が出てくるというのも、なかなか面白い。はっきり言ってミアの行動は幼稚すぎて周囲の理解を得られるものではないが、そのあたりのおかしな行動が母親への執着という点から説明されていて、説得力がある。

 

正体不明の霊というよりも、霊の言動が奇怪という意味では本作はどちらかと言うとホラーよりもオカルト寄りかな。また霊に憑りつかれたライリーという少年が見ていて文字通りの意味で痛々しい。個人的に最も恐怖を覚えたのはライリー少年の果てしない自傷行為のシーンか。フォーリー・アーティストは good job をしたと思う。

 

主人公ミアを演じたソフィー・ワイルドは、ひょっとすると『 ゲット・アウト 』でブレイク(その前からちょこちょこ色んな作品には出演していたが)したダニエル・カルーヤのように、大袈裟な演技をナチュラルだと感じさせる力で今後一気に売れてくるかもしれない。

 

本作はロングのワン・カットが多用されていて、演じる側としてはなかなかチャレンジングだったのではないか。また腕の良いメイクアップ・アーティストも手配できていたと思う。双子の監督はYouTube作家らしいが、ウォシャウスキー兄弟(現姉妹)のようになれるか。

 

ネガティブ・サイド

主人公以外のキャラが生煮えというか、もう少し深堀りしてほしかった。とくにダケットの兄貴。唐突に再登場して、唐突に消えていったように感じられた。

 

憑依でトリップしているところを撮影して social media にアップしていたりするが、これが親の目に触れないのは不自然では?ジェイドやライリーの母親は近隣からせっせと情報を仕入れているが、SNSはチェックしないのか。あるいはオーストラリアの親御さんはネットにはまったくもって疎いのか。あんな変なオブジェで遊んでいるティーンの動画など、あっという間に拡散されて、大人にも気付かれてしまいそうなものだが。

 

映画を見慣れた人なら途中で結末は読めるはず。途中で「これは『 ラザロ・エフェクト 』ルートでは?」と感じた人は多いはず。実際にそっくりだった。最近の映画だと『 リゾートバイト 』の結末ともそっくり。正直なところ、面白いのは面白いが、Impression Blend や Deepfocuslens が大絶賛するのは、なんらかの力が作用しているようにすら思える。

 

総評

アメリカの多くの reviewer が大絶賛しているが、そこまで傑作かなあ?恐怖を感じるというよりもオカルト的なおどろおどろしさを楽しむ映画であるように思う。『 呪怨 』よりも『 CURE 』の方が面白いと感じる向きなら、本作を堪能できると思われる。傑作ではないが佳作であることは間違いないので、オカルト好きはチケットを購入されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

put something away

~を片づける、の意味。冒頭のパーティーでダケットを連れ帰ろうとする兄が、スマホのカメラを向けてくる連中に Put your phones away! = ケータイをしまえ!と一喝するシーンが印象的だった。put ~ away は日常生活でバンバン使うのでぜひ知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 きっと、それは愛じゃない 』
『 ゴーストワールド 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, オーストラリア, オカルト, ソフィー・ワイルド, ホラー, 監督:ダニー・フィリッポウ, 監督:マイケル・フィリッポウ, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 TALK TO ME トーク・トゥ・ミー 』 -ホラーというよりはオカルト-

『 エクソシスト 信じる者 』 -ホラーというよりは人間ドラマ-

Posted on 2023年12月12日 by cool-jupiter

エクソシスト 信じる者 60点
2023年12月9日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:レスリー・オドム・Jr. リディア・ジュエット アン・ダウド エレン・バースティン
監督:デビッド・ゴードン・グリーン

 

傑作『 エクソシスト 』の続編ということでチケット購入。

あらすじ

娘のアンジェラ(リディア・ジュエット)が友達と二人で宿題をすると言ったが帰ってこない。調べたところ、二人は森に入っていた。父ビクター(レスリー・オドム・Jr)は懸命に娘を探すが見当たらない。二人は3日後にとある牧場の納屋で見つかるも、その間の記憶がない。それどころか、不可解な現象がビクターの身の回りで起こり始めて・・・

ポジティブ・サイド

母と娘の絆の戦いが、本作では父と娘の絆の戦いになっている。その父ビクターを演じるレスリー・オドム・Jr.が印象的。どこかで観たと思ったら『 ハリエット 』でウィリアム・スティルを演じていたのか。優しさと厳しさを同居させた、まさにアメリカ的な positive male figure で、男性というジェンダーの特徴をうまい具合に体現しているなと感じた。また、そのことが悪魔憑きの(間接的な)原因になっているのは上手いと感じた。

 

娘のアンジェラも純粋無垢な少女が悪魔に憑りつかれて変貌していく様は結構怖い。失禁から始まって、痙攣に至るまでがリアル。アンジェラが徐々に体のコントロールを失っていくという経過を巧みに描いている。

 

究極的には白人の母娘とカトリックの神父のストーリーだった前作とは違い、今作は各地のエクソシストの混合チームを結成。その過程で、意地悪に思えた隣人が加入してくる経緯がユニーク。また、前作の母親クリス・マクニールが同役で再登場。彼女のもとに車でビクターが向かうシーンで流れる Tubular Bells が個人的には本作のピークだった。

 

悪魔祓いの儀式前に「え?」という展開で唖然とさせられる。そして満を持して登場した神父が『 エクソシスト 』で最も有名なシーンを再現。このシーンが最もホラーらしかった。

 

ネガティブ・サイド

ジャンプ・スケアが多過ぎ。特に序盤。こけおどしの演出でびっくりさせるのではなく、観る側の恐怖心を刺激するような演出をしてほしい。夏恒例の糞ホラーではなく『 エクソシスト 』の続編なのに。

 

学校の授業で心霊云々のビデオを鑑賞するものだろうか。普通に子供たちが自宅のPCでそれっぽいYouTubeを観るのではダメだったのだろうか。PCにグリッチが走る場面が序盤にもあったことだし。

 

憑依された子供たちの演技は見事だったものの、結末は拍子抜けかな。というか前作を意識しすぎているよう思う。「どうせ上回るものが作れないなら、前作と似たような作りにしてしまえ」的な姿勢が監督から感じられた。それは創作活動の姿勢としては評価するのは難しい。

 

娘リーガンと母クリスの再会はちょっと蛇足だったかな。

 

総評

『 エクソシスト 』の続編。前作を観ていなくても鑑賞は可能。直接的なつながりは少しだけしかないが、色々とオマージュがあるので、できれば予習を推奨する。本作は一義的にはホラーではなくヒューマンドラマ。チケット購入に際しては、このことを承知しておきたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

seance 

『 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 』や『 ズーム/見えない参加者 』などでもおなじみの「交霊会」の意。TOEFL iBT110やIELTS8.5を目指すような人でも知っている意味はない。ただ、オカルトやホラーが好き、かつ英語にも興味がある(この語はもともとはフランス語だが)という向きなら、教養の一環として知っておいていいかもしれない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 市子 』
『 PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ 』
『 怪物の木こり 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, アン・ダウド, エレン・バースティン, ヒューマンドラマ, ホラー, リディア・ジュエット, レスリー・オドム・Jr., 監督:デビッド・ゴードン・グリーン, 配給会社:東宝東和Leave a Comment on 『 エクソシスト 信じる者 』 -ホラーというよりは人間ドラマ-

『 首 』 -北野武の自伝映画-

Posted on 2023年12月6日 by cool-jupiter

首 65点
2023年12月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ビートたけし 西島秀俊 加瀬亮
監督:北野武

 

Jovianはまあまあ歴史好きで、日本史だと八切止夫の悪影響のせいか、明智光秀が好きである。ちなみに本作を鑑賞するにあたって歴史的な考証や学説を背景にして考えてはいけない。あくまでも北野史観、もしくは北野武の自伝として観るべきである。

あらすじ

天正七年。荒木村重は主君・織田信長(加瀬亮)に反旗を翻した。謀反を平定した織田軍では、重臣の明智光秀(西島秀俊)と羽柴秀吉(ビートたけし)が乱の首謀者の村重を捕縛すれば、信長の跡目になれると伝えられて・・・

 

ポジティブ・サイド

観終わって一番の感想は「これはたけしの自伝だな」だった。やることがすべて石原軍団や東京キッズの猿真似だったピートたけしが、やることすべてが信長の猿真似と言われた秀吉を演じているところからも、そのことがうかがわれる。男しか軍団に入れない「たけし軍団」の思想が本作にも色濃く投影されている。一部でBL色が強いという声もあるようだが、衆道や男色は別に安土桃山時代の専売特許ではなく、それこそ足利将軍時代から現代まで連綿と存在してきたわけで、それを指してBLと呼ぶのは少し違う気がする。むしろ、戦国時代の男たちの関係を描くことで、北野武が自らの思想を開陳したと見るべきなのだろう。火事で死亡したたけしの師匠・深見千三郎が本作における織田信長であることは火を見るよりも明らかだ。

 

映像は北野武作品らしいバイオレンスとユーモアに満ちている。それが命があっさりと消えてしまう戦国時代を非常にリアルに映し出していた。個人的に最も笑わせてもらったのが徳川家康と影武者。三方ヶ原の戦いの頃から影武者が何人もいたのは有名な話で、これでもかと刺客に狙われて、そのたびにどんどん影武者が死んでいく。男しか出てこない本作の中で、数少ない例外が柴田理恵か。夜伽の相手に一番の年増を選ぶ家康に笑ってしまうし、鬼の形相で家康に襲い掛からんとする柴田理恵にも笑ってしまう。もう一つ女性が出てくる場面は備中高松城。退陣していく羽柴軍を見て「メシの種が逃げていく」と焦る遊女たちにも笑ってしまう。

 

本作を別の視点から見る重要キャラに曽呂利新左エ門がいる。芸人の祖にあたる人物でカムイさながらの抜け忍。東西冷戦さなかのダブルエージェントのごとく、あちらこちらへ飛び回り、情報を仕入れてくる。また侍大将を夢見る百姓の茂助のキャラもいい。お笑い界の頂点を目指さんと青雲の志を抱き、アホながら一直線に駆け抜けるも・・・という、まさに現代お笑い界の芸人そのままの生きざま。

 

生え抜きだろうが外様だろうが、有能であればどんどん取り立ててきた信長が晩年には自らの息子たちに甘々になっていたのは近代の歴史学が明らかにしたところ。加瀬亮のキレっぷりばかりがフォーカスされているが、魔王としての信長と人間としての信長の両面を描いた作品は他にはなかなか思いつかない。『 利休にたずねよ 』が近いぐらいか。芸人としての師匠と人間としての師匠を重ね合わせていたのだろう。

 

物語を通じてこれでもかというぐらいに人が死ぬが、首にこだわって死んだ茂助と首に執着せず、結果的に天下を取った秀吉。この残酷なコントラストの意味するところは、誰を殺したかではなく何人を殺したかということ。お笑いで天下を取りたければ、審査員を笑わせるのではなく一般大衆を笑わせろ。ビジネスで天下を取りたいなら、特定クライアントではなく世間を喜ばせろ、ということか。

ネガティブ・サイド

秀吉や家康は信長よりかなり若いのだが、本作ではそこがおかしい。秀吉はビートたけしがどうしても演じたかったのだろうが、家康には40歳ぐらいの俳優で適任を探せなかったのか。

 

一部の役者の演技がワンパターン。というか、西島秀俊は誰を演じても西島秀俊。ニコラス・ケイジやハリソン・フォードと同じタイプの俳優やな。案外、椎名桔平あたりが明智光秀に合っていたかも。

 

秀吉、秀永、官兵衛の三人が喋るシーンはかなりの割合でアドリブが入っていなかったか。明らかにおかしな「間」が散見された。これが北野武流の映画作りだと言われれば納得するしかないが、面白さを増していたかと言われれば大いに疑問である。

総評

歴史的・史料的な正確性を過度に求めなければ十分に楽しめるはず。北野作品ということでグロテスクなシーン、暴力的なシーンもあるので、そこは注意のこと。本能寺の変という日本史上の一大ミステリの真相についても一定の答えを提示している点も興味深い。デートムービーには向かないが、時代劇好き・歴史好きな父親を持っていれば、たまにはご尊父を映画館に誘って、親孝行してみるのもいいだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

successor

跡継ぎ、継承者の意味。知っての通り、織田信長の権力基盤を受け継いだのは形の上では織田信雄だが、実質的な権力を継承したのは羽柴秀吉だった。本作ではしきりに跡目という表現が使われるが、英語で最も一般的に使われる跡目、跡継ぎは successor である。successor to the throne =王位継承者、successor to the business =事業承継者のように、前置詞 to を使うことを覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 市子 』
『 エクソシスト 信じる者 』
『 PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ 』

 

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, C Rank, ビートたけし, 加瀬亮, 日本, 歴史, 監督:北野武, 西島秀俊, 配給会社:KADOKAWA, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 首 』 -北野武の自伝映画-

『 デシベル 』 -看板・ポスターはネタバレだらけ-

Posted on 2023年11月22日 by cool-jupiter

デシベル 65点
2023年11月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:キム・レウォン
監督:ファン・イノ

 

韓国映画お得意のサスペンスものということでチケット購入。

あらすじ

とある家に爆弾が届けられ爆発。そのニュースを知った潜水艦の元副長カン・ドヨン(キム・レウォン)のもとに犯人からの電話が入る。次のターゲットがサッカースタジアムだが、そこに仕掛けられた爆弾は一定以上の音量に反応すると起爆までの時間が半減するというもので・・・

 

ポジティブ・サイド

冒頭の潜水艦シーンは『 ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE 』そっくり。もちろん真似たわけではないだろうが、韓国映画はハリウッド映画的な文法を忠実に実行することがある。この時点で期待が盛り上がってきた。

 

一年後、謎の爆破事件が勃発。そこから元副長のカン・ドヨンの苦闘が始まる。途中でなし崩し的に仲間になる記者のオ・デオがめちゃくちゃ良い奴。韓国映画界には味のある三枚目がよく出てくるが、彼もそんな感じ。コミックリリーフが存在するおかげで、そのコントラストとしての爆弾テロリストの恐怖が倍増している。

 

一定以上のデシベルを感知すると爆弾のカウントダウンの残り時間が半減するというのはなかなか怖い。日常の街中の声や音がそのまま凶器と化すからだ。潜水艦の隠密性も音を出さないことから得られるので、潜水艦乗りのカン・ドヨンが音に苛まれるのは観ていて本当に痛々しかった。

 

謎の爆弾魔が犯行に及ぶ動機が明らかになるにつれ、サスペンスが盛り上がる。真相を知ったところから、さらにもう一歩踏み込んでその深層部分を非常に硬質なドラマとして見せつけてくる。ストーリーはカン・ドヨンの家族をも巻き込んで進む。奥さんと娘がとことん追いつめられる本作だが、逆に新しい家族観を提示したとも言える。記者オ・デオが最終盤に放つ質問に対するドヨンの答えは、その場では語られない。しかし、彼の思いが最後の最後に回想される。子曰く「過ちて改めざる、是を過ちと謂う」。人間、ドヨンのように強く生きねばならんなと思わされた。

 

ネガティブ・サイド

爆弾が絡むシークエンスはすべて緊張感がみなぎっているが、終盤の肉弾アクションになると急にクオリティが低下する。細かいカットの連発で、ここはもっと頑張れただろうと思う。軍人同士の格闘戦で、韓国の成人男性のほとんどが兵役経験者ということを考えれば、もっと攻めた演出を監督には施してほしかった。

 

明らかに無関係な一般人をも巻き込むような爆弾設置は、犯人の思想信条上どうだろうか。カン・ドヨンの関係者を徹底的に排除しようとする方が、彼の失ったものとのバランスがとれていると思うのだが。

 

最後に、これは映画の中身とは関係ないが、一言だけ。なんで日本の配給会社や宣伝会社は販促物で盛大なネタバレをかますの?パネルのビジュアルが全部ネタバレしているではないか。のみならず、某映画情報サイトもキャラクター紹介欄でネタバレをかます始末。いや、本作はミステリではないが、だからといってサイトや販促物でネタバレをしていい理由は一つもない。日本の宣伝・配給会社にはもう少し考えてほしいものだ。

 

総評

韓国映画らしいサスペンス。警察をとことんコケにすることに定評がある韓国映画界だが、本作では軍上層部の怠慢や無責任さも堂々と批判している。潜水艦ものだと本邦では『 沈黙の艦隊 』が上映中だが、自衛隊は映画製作にきょぅ力してくれるもので、映画によって批判される対象ではない。それが良いかどうかはさておき、政治や軍事、司法を容赦なくエンタメの形で批判する韓国映画と日本映画のコントラストがここにも見て取れる。単なるサスペンスとしてもなかなかの面白さ。『  白鯨との闘い 』的なサスペンスも楽しめる。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

ヨボ

配偶者への呼びかけに使われる。男女どちらが使っても良い。日本語にすると「あなた」や「ねえ」あたりになるだろうか。ドラマでもしょっちゅう聞こえるし、なんなら日本人・韓国人の夫婦YouTuberもよく使っている。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 月 』
『 花腐し 』
『 首 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, キム・レウォン, サスペンス, 監督:ファン・イノ, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 デシベル 』 -看板・ポスターはネタバレだらけ-

『 正欲 』 -少し語りに頼りすぎ-

Posted on 2023年11月16日 by cool-jupiter

正欲 65点
2023年11月12日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:稲垣吾郎 新垣結衣 磯村勇人
監督:岸義幸

 

傑作『 前科者 』の岸善幸の監督作ということでチケット購入。悪くはないのだが、期待値を上げすぎたか。

あらすじ

桐生夏月(新垣結衣)は、中学の時に転校していったクラスメイトの佐々木佳道(磯村勇人)と十数年ぶりに再会する。二人には奇妙な共通点があり、夏月は佳道に接近しようとする。一方で、検察官の寺井(稲垣吾郎)は不登校になった息子の教育方針を巡って、妻と徐々に折り合いが悪くなっていき・・・

ポジティブ・サイド

通常とは異なる性的志向を持つ人々に関する映画が近年特に増えてきたと感じる。2018年公開の『 カランコエの花 』、2021年公開の『 彼女が好きなものは 』、2023年公開の『 エゴイスト 』などLGBTに焦点を当てた作品は枚挙にいとまがない。アロマンティックに光を当てた『 そばかす 』も独自の面白さがあったが、本作はさらに突っ込んだ sexual orientation をテーマに持ってきた。

 

ストーリーの中心にいるのは新垣結衣と磯村勇人。中学校の同級生だが、佳道が引っ越して以来、二人の奇妙な縁は途切れていた。しかし、佳道の両親の交通事故死と佳道の帰郷から二人の奇縁が徐々に戻ってくる。その見せ方が非常に巧みだと感じた。田舎特有の人間関係の濃密さ、つまり悪気のないプライバシーの詮索や介入が爽やかに行われる。そんな中で二人が育む奇妙な関係が逆に好ましく、愛らしく思えてくる。

 

その裏側では検察官の稲垣吾郎が不登校の息子の教育方針や子育ての方針をめぐって妻と対立する。いや、対立というよりも拒絶の方が近いか。自分の理解の及ばないものは認めない。不登校YouTuberを詐欺師と切って捨てるが、あまりにも狭量だ。YouTuberの中に詐欺師がいるのは現実だが、普通に学校に行っている、普通に会社勤めをしている者の中にも詐欺師は存在する。けれども、この男の中では世の中は白と黒で割り切れて、自分が黒いと思ったものはすべて黒いのだ。この稲垣吾郎演じる検事が一種のリトマス試験紙になっていて、見る側がどれだけダイバーシティを許容できるか、あるいは許容できないのかを測る物差しになっている。

サイドストーリーとして大学生二人の不思議な関係性もフォーカスされるが、その片方の男性が突如としてメインのプロットに絡んでくるところが非常に現代的と言える。同好の士と出会うことのハードルが下がったことは、間違いなく個人を利している。しかし、そのことが社会を利すかどうかは別問題になるのが難しいところ。

 

多様な登場人物たちの群像劇となっているのは、原作者・朝井リョウの『 桐島、部活やめるってよ 』と同じ。学校という非常に狭いコミュニティから、社会という非常に広大なコミュニティにストーリーの舞台は移っているが、ある人間の言動が別の人間に思いがけず大きな影響を及ぼしていく、という点では共通している。新垣結衣と稲垣吾郎のほんのちょっとした、しかしやや奇妙な会話が、最終盤で非常に大きな意味を持ってくる。というか、稲垣吾郎が処理しきれない意味や情報となって圧し掛かってくる。彼がほんのわずかだけ見せる動揺を我々は見逃さない。それは我々も同じく動揺しているから。常識外の存在、理外の存在と思っていた相手にこそ優しや思いやりといった人間性が宿っていると気付いた時の心情はいかばかりか。それを映し出すためだけに本作は制作されたと言っても過言ではない。

 

それにしても、マジョリティの性的志向者と超マイノリティの性的志向者の違いをあっけらかんと映し出すシーンには恐れ入った。偶然なのだろうが、『 東京ラブストーリー 』かいなというセリフを新垣結衣が口にした瞬間に、最後列の誰かがポップコーンか何かをドサッと落とした音が聞こえた。セリフに動揺したのか?トレーニングみたいというセリフが聞こえたが、慣れないうちは行為の後に筋肉痛になったという男は多いはず。こういうリアルなセリフをサラッと言えるところに異質さを感じたし、だからこそ新垣結衣が検事に託す伝言の重みが増すのだろう。

 

ネガティブ・サイド

ちょっと全体的に説明セリフが多すぎると感じた。目立ってそう感じたのは2つのシーン。一つは稲垣吾郎が不登校YouTuberについて妻と言い争うシーン。もう一つは大学の空き教室のシーン。いずれも思いをストレートに言葉にしすぎ。もっと表情や身振り手振りや立ち居振る舞いで見せてほしい。小説の映画化なので言葉に頼りたくなるのは分かるが、それだと小説を読めばすんでしまう。映像にするにあたって、もっと観客に感じ取ってもらえるような演出をすべき。

 

登場人物の行動でひとつ腑に落ちなかったのは夏月が佳道の家に突撃するシーン。同好の士、あるいは同病相憐れむ仲だと思っていた相手に裏切られたと感じたのか?普通の恋愛感情や異性への性欲が理解できないにしては、部屋の明かりが消えたことの意味を悟ったのは何故なのか?たとえば回転寿司屋で、佳道の連れの女性がセルフサービスの水を持ってくる、そして、その水を美味しそうに飲む、のようなカットが一瞬でもあれば良かったのだが。編集でカットされたのだろうか。

 

あとは夏月と佳道の生活か。卵焼きをシェアするのも良いが、たとえば風呂場やトイレ、台所で二人が恍惚とするシーンが一切なかった。または公共料金の請求書に二人して唖然とする、あるいは大笑いするのようなシーンもなかった。これも編集でカットされたのだろうか。二人がいわゆる「普通」とは違うというシーンをもう少し見せるべきだったと思う。

 

総評

かなり野心的な作品。ストーリーは文句なしに面白いし、演技に関しても安定の磯村勇人や新鋭の東野絢香が堪能できる。ただ、映画的なカメラワークはまったく無いし、とある「物」をきれいに映し出してはいるが、艶めかしさまでは感じさせなかった。物語としては◎だが、映像作品としては△か。ただし、現代的なテーマを扱い、単純なハッピーエンドで終わらせないところは買い。エンドロールの際に胸に去来する想いの強さが、おそらくその人の想像力と共感力の強さだろう。それらを測る映画であると言える。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

-phile

ファイルと読む。これは接尾辞で「~が好き」「~に親しんでいる」という意味を作り出す。Jovianが高校生ぐらいだったかな。雑誌か何かで「Xファイルの熱烈ファンをX-Phileと呼ぶ」のような記事を読んで、それで -phile の意味を学んだことを覚えている。本作の場合だと、aquaphile となるだろうか。パッと見で意味が分かりそうだが、実際に調べるのは映画の鑑賞後にどうぞ。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 月 』
『 デシベル 』
『 花腐し 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, ヒューマンドラマ, 新垣結衣, 日本, 監督:岸義幸, 磯村勇人, 稲垣吾郎, 配給会社:ビターズ・エンドLeave a Comment on 『 正欲 』 -少し語りに頼りすぎ-

『 ドミノ 』 ーThe less you know, the betterー

Posted on 2023年11月6日2023年11月6日 by cool-jupiter

ドミノ 65点
2023年11月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ベン・アフレック ウィリアム・フィクナー アリシー・ブラガ
監督:ロバート・ロドリゲス

 

本作に関しては、極力何の事前情報も入れずに鑑賞するのが吉である。それにしても『 リゾートバイト 』でも感じたが、日本の配給会社、提供会社はもうちょっと宣伝文句を控えめにできないものか。

あらすじ

娘を誘拐された心の傷を持つ刑事ローク(ベン・アフレック)のもとに、銀行強盗のタレコミが入る。現場で犯人が狙う貸金庫の中からロークは娘の写真と謎のメッセージを発見する。犯人は警察官を操り、屋上から飛び降りて姿を消した。捜査を進めるロークは、謎の占い師ダイアナ(アリシー・ブラガ)から、人間を操るヒプノティックの存在を知らされ・・・

ポジティブ・サイド

本作はアクション映画の大家ロバート・ロドリゲスの新境地かもしれない。『 アリータ バトル・エンジェル 』などで驚きのアクション・シークエンスを演出してきた彼が、今作ではミステリー、サスペンス、スリラーの要素を前面に打ち出してきた。原題の Hypnotic とは「催眠にかかっている」の意。動詞の hypnotize は『 この子は邪悪 』で紹介しているので、興味のある向きは参照されたい。 

 

ベン・アフレックが傷心の刑事を好演しているが、やはりトレイラーから存在感抜群だったウィリアム・フィクナー演じる謎の術師が素晴らしい。キリアン・マーフィーもそうだが、見た目からしてただならぬ妖気というかオーラがあり、一筋縄ではいかないキャラであることが一目でわかる。

 

捜査中に知り合った謎の女ダイアナと共に、謎の催眠術師レヴ・デルレーンを追いかけ、また追いかけられるという中盤の展開はスリリング。しかし、相手は他人に「別の世界」を知覚させてしまう術師。襲い来る群衆に、味方でさえも信用できない状況。緊迫感を煽るBGMと共にサスペンスが盛り上がる。

 

中盤に「ほほう」という展開がやってくる。細かいネタバレはご法度だが、本作は一種の記憶喪失もの。タイムトラベルものと記憶喪失ものは序盤から中盤にかけては絶対に面白い・・・のだが、逆に終盤に尻すぼみになってしまうことがほとんど。本作は、そこにさらにもう一捻り二捻りを加えてきたところが秀逸。細かくは言えないが、1990年代の小説『 NIGHT HEAD 』の某敵キャラがヒントである。

 

94分とコンパクトながら、様々なアイデアを巧みに盛り込み、それでも消化不良を起こさせない脚本はお見事。後半の怒涛の伏線回収は作劇術のお手本と言えるかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

映像は確かに凄いが、街がグニャリと折れ曲がっていく光景は『 インセプション 』や『 ドクター・ストレンジ 』で見た。二番煎じは不要である。

 

また催眠術が効かない人間が一定数出るのは、感染パニックもので一定数最初から免疫を持つ者がいるのと同じ。それが特定のキャラクターとなると、どうしても「ははーん、つまりコイツはあれだな」と簡単に邪推できてしまう。もう少し捻りが必要だったろう。感染ものではないが『 トータル・リコール 』などともそっくりだ。

 

ダイアナという能力者が主人公に協力しつつも、敵であるデルレーンが自分よりも強力な能力者で尻込みしながらも何とか抵抗していくというのは『 ブレイン・ゲーム 』にそっくり。ということは「この先に何かあるよね?」と疑うのは理の当然。どんでん返しというのは、予想もしないところからひっくり返す、あるいは予想していた以上にひっくり返すことが求められるが、本作に関しては予想の範囲内だったという印象。

 

総評

どんでん返しがあると思って観てはいけない。本作を楽しむ最大のポイントは公式ホームページなども含めて、事前の情報を極力避けることにある。ということは、こんなレビューを読んでいる時点でアウトである。観るならサッサとチケットを買う。観ないのなら別の映画のチケットを買う。それだけのことである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

construct

ここで紹介したいのは「建築する」「構築する」という動詞ではなく「心理的構成物」という名詞の意味。『 マトリックス 』でエージェント・スミスがネオに向かって戦う意味を ”Is it freedom or truth?! Perhaps peace?! Could it be for love?! Illusions, Mr. Anderson, vagaries of perception! Temporary constructs of a feeble human intellect trying desperately to justify an existence that is without meaning or purpose!” のように問うシーンでも使われている。心理学や哲学を勉強している、あるいは英検1級やTOEFL iBT100、IELTS7.5を目指す人なら知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 月 』
『 トンソン荘事件の記録 』
『 火の鳥 エデンの花 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, アリシー・ブラガ, ウィリアム・フィクナー, スリラー, ベン・アフレック, 監督:ロバート・ロドリゲス, 配給会社:ギャガ, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 ドミノ 』 ーThe less you know, the betterー

『 リゾートバイト 』 -宣伝文句は控えめに-

Posted on 2023年10月28日2023年10月28日 by cool-jupiter

リゾートバイト 60点
2023年10月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:井原六花 藤原大祐 秋田汐梨
監督:永江二朗

風邪で寝込んでいるため簡易レビュー。

あらすじ

大学生の内田桜(井原六花)と幼なじみの真中聡(藤原大祐)と華村希美(秋田汐梨)は、瀬戸内海のとある島の旅館に泊まり込みのバイトにやってきた。ある夜、桜は女将が深夜に密かに食事を運んでいる姿を目撃してしまう。その後、3人は旅館従業員の岩崎から旅館の中の秘密の扉を探る肝試しを提案されて・・・

ポジティブ・サイド

ロケに関しては『 忌怪島 きかいじま 』とよく似ているが、島という閉鎖環境の雰囲気は本作の方がはるかに上手く使えていた。同じく低予算ホラーながら一世を風靡した『 イット・フォローズ 』へのオマージュであるかのようなシーンもあり、個人的には楽しめた。

舞台が岡山というのも個人的には〇。岡山は最怖ホラー小説(というよりも怪談)である『 ぼっけえ、きょうてえ 』や津山30人殺し、『 八つ墓村 』などホラーと相性が良い土地なのだ。

主演の井原六花が見事な演技力を披露。梶原善とは老若男女の面で見事な対をなしていた。秋田汐里もどこかで見たことあるなあと思っていたら『 青夏 きみに恋した30日 』や『 惡の華 』に出演していたのか。本作を機にクソ映画の脇役キャラから脱出してほしい。

ネガティブ・サイド

正直なところ、ポスター類が盛大なネタバレになっていると思うのだが、どうだろうか。また『 きさらぎ駅 』のスタッフが再集結ということで同工異曲のホラーを予想していたが、その予想は半分当たった。宣伝文句=半分ネタバレというのは勘弁してほしい。また

冒頭から夏恒例の糞ホラーやんけ、と思いながらなんとなく雰囲気が『 ザ・スイッチ 』に似ているなと感じた。松浦祐也の絶妙なコミックリリーフっぷりが『 ゲット・アウト 』の面白黒人キャラを髣髴させた。すれっからしのJovianは坊主が真言を唱え始めたところで「なるほど」と一人ごちた。あんまり予測不可能とか銘打たんほうがええね。

総評

低予算ながら随所にアイデアが散りばめられた良作。コメディ要素も笑えたが、青春映画的な要素はもっと薄くて良かったかな。落ちのアイデアは秀逸だと思うが、だったら「絶対に先が読めない」などと謳わない方が良い。ホラーと言ってもスプラッターではないし、案外デートムービーに向いているかも。それよりファミリーで鑑賞するのもありかもしれない。世のお父さんお母さん、家族で本作についてあれこれ語り合うのも案外面白いかもしれないませんよ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

test of courage

これは確か大学一年生の時にダニエルに教えてもらったんだったか。Jovianは母校のICUの寮に住んでいたが、これが森の中なのである。9月の新入生やら留学生の受け入れで、キャンパス内で肝試しやろうぜみたいな流れになり、そこで肝試しは云々かんぬんと説明したら、So, it’s a kind of a test of courage. と言われたと記憶している。肝試しというお化けやら呪いに関係してそうだが、test of courage は度胸試しに近いか。

次に劇場鑑賞したい映画

『 オクス駅お化け 』
『 月 』
『 トンソン荘事件の記録 』

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, C Rank, ホラー, 井原六花, 日本, 監督:永江二朗, 秋田汐梨, 藤原大祐, 配給会社:イオンエンターテイメントLeave a Comment on 『 リゾートバイト 』 -宣伝文句は控えめに-

『 まなみ100% 』 -単純一途な男の恋心-

Posted on 2023年10月10日2023年10月10日 by cool-jupiter

まなみ100% 65点
2023年10月8日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:青木柚 中村守里 
監督:川北ゆめき

 

世間は三連休でもJovianは仕事であった。ゆえに簡易レビュー。

あらすじ

バク転ができれば女の子にモテると思ったボク(青木柚)は、高校で器械体操部に入部する。そこで出会ったまなみ(中村守里)に恋をしたボクは、ことあるごとにまなみちゃんに求婚するのだが・・・

 

ポジティブ・サイド

アホな高校生がアホな浪人生になりアホな大学生になりアホな社会人になる。その間、ボクは様々な女性遍歴を重ねていく。もうこの時点で凡百の邦画とは一線を画している。まなみちゃんがずっと心にありながら、他の女を平気で口説き、抱いていく。実にリアルだ。事実、どれだけの人間が中学高校の頃のような純粋な恋心に忠実なままでいられようか。本作はそういう意味では『 僕の好きな女の子 』や『 神回 』とは真逆に見えて、実は同じ系列に連なる作品なのである。

 

青木柚は『 終末の探偵 』の時と同じく、どこにでもいそうな少年~青年を好演。特徴のない顔立ちのおかげで、純粋に演技力でキャラを立たせることができている。Jovianも小学生の頃だけ器械体操をやっていたが、バク転はできなかったな。飛び込み前転とかはやっていたけど。

 

ヒロインのまなみも、クラスで2番目ぐらいに可愛いと感じられるところがリアル。『 アルプススタンドのはしの方 』のメガネっ子が、器械体操選手に化けるのだから、まさに女優という感じ。ルックスだけで同じような役ばかり演じて、それでいて全然上達しない女優も多い中、中村守里は本物の女優の卵という印象を受ける。

 

大好きな女の子との距離感に悩む男性、あるいはその逆でもいい。大好きな男との距離感に悩む女性が観ても楽しめるはず。夢見る少年でいられるのは幸せなこと。けれど青春の終わりを自覚できるのは、もっと幸せなことだと思う。

 

ネガティブ・サイド

ボクの高校の時のガールフレンド(菊地姫奈)と大学の時の彼女?セフレ?(宮崎優)と社会人になってからの彼女?セフレ?(新谷姫加)の顔の系統が似すぎている。全員を同系統の顔にするなら、まなみ系の顔にできなかったのだろうか。『 町田くんの世界 』の日比美思とか、『 交換ウソ日記 』の茅島みずきとか、色々候補はいたはずだ。もしくは、全員違う系統の顔にするとか。俺が年とって、若い子の顔の区別ができないだけ?いや、そんなはずはない(一応、教え子の大学生たちの顔の見分けはつく)。

 

ボクが作る映画の中身をもっと知りたかった。どう見ても監督自身の体験を映画にした本作をさらに映画にするという入れ子構造なのだから、それによってあまり見えてこないボクの内面を逆に一気にそこに吐き出すという作りにはできなかったのだろうか。夜の校舎でホラーっぽい絵面も悪くはないが、ボクの内面に迫る映像世界を見たかった。

 

総評

劇場の入りはまあまあ。客層も10代後半ぐらいから結構な中年層まで幅広くいた。映画監督は自分の中の語りたいという衝動や欲求を美意識をもって作品に反映させるものだと思うが、本作は衝動や欲求を映画に吐き出したい、この想いを昇華させたいという川北ゆめき監督の思いが画面に溢れている。私小説を読むつもりでチケットを購入するとよい。壮大なドラマを期待するとガッカリするかもしれないので、ちょっとユニークな小市民の青春物語だと思って鑑賞のこと。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Will you marry me?

『 ちょっと思い出しただけ 』と『 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 』でも紹介した表現。普通は falling tone で言うのだが、今作でのボクの求婚はどれも rising tone であるように感じた。本気度が感じられないのだ。英語話者に本気でプロポーズするなら、下がり調子で言うこと!!!

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 オクス駅お化け 』
『 リゾート・バイト 』
『 沈黙の艦隊 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, ラブロマンス, 中村守里, 日本, 監督:川北ゆめき, 配給会社:SPOTTED PRODUCTIONS, 青木柚Leave a Comment on 『 まなみ100% 』 -単純一途な男の恋心-

『 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 』 -ホラー風味たっぷりのミステリ-

Posted on 2023年9月24日 by cool-jupiter

名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 65点
2023年9月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ケネス・ブラナー
監督:ケネス・ブラナー

 

簡易レビュー。

あらすじ

ベネチアで楽隠居をしていた名探偵ポアロ(ケネス・ブラナー)の元に旧知の小説家が訪ねてきた。彼女の誘いで交霊会に臨むことになったポアロは、子どもの霊に憑りつかれているという妖しい館へと赴く。見事に霊媒師のトリックを暴いたポアロだが、その霊媒師が何者かに殺害されてしまい・・・

ポジティブ・サイド

情緒あふれる古都ベネチアがいい。『 スパイダーマン ファー・フロム・ホーム 』や『 ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE 』のようにアクションの舞台になるよりも、ミステリの舞台となる方が断然映える。

 

原作をかなりいじくっているが、これは脚本家が良い仕事をした。どれだけオカルト色を強めても、原作はアガサ・クリスティー。つまり絶対にミステリ。なので、観ている側も「この作品のジャンルはホラーなのか、ミステリなのか」と迷うことがない。どんなにスーパーナチュラルな事象に見えても、絶対に合理的な説明がつくはずだ、という確信をもって鑑賞できる。これがカトリーヌ・アルレー原作だとこうはいかない。オカルトの可能性が少しあるからだ。

 

人間模様もかなりドロドロで、怖いのはやはり人間なのだと思わされる。恐怖が最高潮に達した瞬間に、快刀乱麻を断つがごとく炸裂するポアロの名推理。ケネス・ブラナー版ポアロの中では本作は一番面白い。

 

ネガティブ・サイド

霊媒師のトリックを暴く序盤は良かったが、声が変わる謎は放置。ここもスッキリさせてほしかった。

 

とある密室のトリックが少々お粗末。時代が時代だけにしゃーないのだが「物的な証拠は?」と開き直られたら終わり。推理は状況証拠だけではなくちゃんとした物証を基に行ってほしかった。

 

総評

アガサ・クリスティーものとしては『 ねじれた家 』に通じるテイストとミステリ、そしてホラー要素が上手く混ざり合っている。4作目がどうなるかは分からないが、次作も楽しみ。そして5作目に『 アクロイド殺し 』を実現してほしい。高校生だったJovian少年は『 アクロイド殺し 』に衝撃を受けて、そこから江戸川乱歩以外のミステリ作品も読むようになったのだ。ケネス・ブラナー版のポアロの今後に期待。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

fall victome to ~ 

~の犠牲・被害者になる、の意味。Many passengers fell victim to the water accident due to the captain’s lack of experience. =船長の経験不足のせいで多くの乗客が水難事故の犠牲になった、のように使う。英検準1級以上を目指すなら知っておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アステロイド・シティ 』
『 アリスとテレスのまぼろし工場 』
『 ほつれる 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, アメリカ, ケネス・ブラナー, ミステリ, 監督:ケネス・ブラナー, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 』 -ホラー風味たっぷりのミステリ-

『 兎たちの暴走 』 -やや竜頭蛇尾-

Posted on 2023年9月16日 by cool-jupiter

兎たちの暴走 60点
2023年9月9日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:リー・ゲンシー ワン・チエン
監督:シェン・ユー

簡易レビュー。

 

あらすじ

シュイ・チン(リー・ゲンシー)は父と継母、弟と暮らしているが、家に居場所がない。また学校でも本当の友達はいなかった。しかし、ある時、自分を生んですぐに行方をくらませた母チュー・ティン(ワン・チエン)が16年ぶりに帰ってきた。過去のわだかまりをなくしたシュイ・チンは、母に居場所を求めていく。しかし、母にはとある秘密があって・・・

ポジティブ・サイド

高校の校舎および雰囲気が中国映画『 少年の君 』や韓国映画『 不思議の国の数学者 』のそれとよく似ている。学校=一種の監獄という構図が見て取れる。家にも学校にも、本当の居場所がないというシュイ・チンの境遇が映像だけで伝わってきた。

 

元々存在しなかった母親と親子というよりも友情に近い関係性を求めてしまうのもむべなるかな。その過程がアメリカ映画『 レディ・バード 』と対照的で面白かった。

 

色々と荒い面はあるが、主要キャラクターの感情や思考が言葉ではなく振る舞いで表されている。たった一組の母と娘の関係性を描きながら、中国社会の暗い位相が浮き彫りにした手腕は見事。

ネガティブ・サイド

ぴょんぴょんと元気に跳ね回る兎たちが、最後の最後に大暴走・・・なのだが、結末がなんとも尻すぼみ。終わりよければ全て良しと言うが、逆に言えば終わり悪ければ全て悪しになる。邦画『 MOTHER マザー 』のエンディングにも個人的には不満だったが、母たるチュー・ティンがもっと自己犠牲の精神を見せるか、あるいはさらなる暴走をして・・・と、もう一つ先の段階まで踏み込んでエンディングに繋げられなかったか。

総評

中国版の逆『 レディ・バード 』になりきれなかった作品。それでも母と娘の歪な関係の描写に、地域社会や現代中国の閉鎖性が垣間見えてくる。それにしても主役のリー・ゲンシーは良い役者だ。『 少年の君 』のチョウ・ドンユィにも驚かされたが、中国はルックスではなく演技力や監督の演出をそのまま体現できる表現力で役者が選ばれているようだ。粗削りだが、キラリと光るところもある作品。シェン・ユー監督の名前は憶えておきたい。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

元

ユアンと発音する。言わずと知れた中国の通貨単位。劇中で何度か200万元が話題になるが、何と言っているのか聞き取れなかった。2は多分、アールのはず。元はユアンとはっきり聞こえた。リスニングは難しい。が、語学学習は兎にも角にもリスニングから。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アステロイド・シティ 』
『 さらば、わが愛 覇王別姫 』
『 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, C Rank, ヒューマンドラマ, リー・ゲンシー, ワン・チエン, 中国, 監督:シェン・ユー, 配給会社:アップリンクLeave a Comment on 『 兎たちの暴走 』 -やや竜頭蛇尾-

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