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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: B Rank

『 存在しない時間の中で 』 -本邦SFの佳作-

Posted on 2024年4月21日 by cool-jupiter

存在しない時間の中で 70点
2024年4月18日~2024年4月20日にかけて読了
著者:山田宗樹
発行元:角川春樹事務所

 

最寄り駅のエキナカの書店で購入。

あらすじ

天山大学のカピッツァ・クラブの発表会に闖入者が現れる。彼はホワイトボードに長大な数式を書き残し、忽然と姿を消した。その数式を解析したところ、この世界は別次元の世界の影であること、すなわち世界は上位の存在によって作られたものであるということが示唆されて・・・

 

ポジティブ・サイド

久々に論理の面白さを堪能できる作品に出会えた。物語の設定としては山本弘の『 神は沈黙せず 』に近いし、途中で起こる超常現象はどうしたってグレッグ・イーがんの『 宇宙消失 』を思い起こさせる。著者もある程度意識して書いたことだろう。

 

本作の本筋というかユニークな面はカピッツァクラブの面々よりも人間の精神世界、もっと言えば宗教観や死生観を色濃く反映する莉央のパートにあると感じた。政界宗教汚染なるコラムが注目を集める一年も前に本書が刊行されていたことが著者の炯眼を物語っている。人間は論理で割り切れるものを信じて、論理で割り切れないものは受け入れないという生き物ではない。マス=大衆が人生に意味を見出せなくなったときのシミュレーションとしてよくできている。

 

最後は映画『 インターステラー 』的に着地するのかなと予想していたが、きれいに外れた。なるほどなあ、広げた大風呂敷をうまく畳むにはこれが最善か。この世界も実は『 イエスタデイ 』みたいに出来ていて、「存在しない時間」を生きた人がいるのかな・・・と感じた。預言者とは実はこうして生まれてきたのかな?などとあらぬことも少し考えさせられた。

 

ネガティブ・サイド

序盤に第四の壁を超えて語り掛けてくるページがいくつかある(「以下の数理的な説明は難しければ読み飛ばしていいよ」的なもの)が、これは結構ノイズだと感じた。また、次元についての説明が不足しているとも感じた。次元とは方向のことで、たとえば虚数も実数とは別方向に伸びている数列だと明らかになっている。このあたりの次元の説明をもっとかみ砕いた形で提示してくれていれば、もっと readability が上がったはず。

 

総評

小川一水の短編『 幸せになる箱庭 』を思いっきり換骨奪胎すると本作になるのだろう。10次元だとか26次元だとか非可換幾何学だとかポアンカレ予想によると宇宙がドーナツ型だとか、宇宙は必然なのか偶然なのかますます分からなくなってきている。万が一、宇宙が被造物だと判明した時の心の準備のために本作を一読しておくのも一興だろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

nonexistent

科学もしくは形而上学の文献ではしばしば目にする表現。

Extra terrestrial intelligence seems to be nonexistent in the universe. 
地球外知性は存在しないようである

のように使う(実際は存在するだろうが、我々が観測可能な時間と空間にはいなさそう)。本書が英訳されるとすればタイトルは In Nonexistent Time となるだろうか。あまりに直訳すぎるかな。

 

次に読んでみたい書籍

『 6月31日の同窓会 』
『 百年法 』
『 代体 』

 
存在しない時間の中で (ハルキ文庫 や 18-2)

存在しない時間の中で (ハルキ文庫 や 18-2)

  • 作者:山田 宗樹
  • 角川春樹事務所
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Posted in 国内, 書籍Tagged 2020年代, B Rank, SF, 山田宗樹, 日本, 発行元:角川春樹事務所Leave a Comment on 『 存在しない時間の中で 』 -本邦SFの佳作-

『 あまろっく 』 -尼崎市民、観るべし-

Posted on 2024年4月16日 by cool-jupiter

あまろっく 70点
2024年4月13日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:江口のりこ 中条あやみ 笑福亭鶴瓶
監督:中村和宏

 

尼崎市民としては鑑賞すべきだろうということでチケット購入。

あらすじ

東京でコンサルタントとして働いていた優子(江口のりこ)だったが、理不尽なリストラにより尼崎の実家に戻ってくることになった。自堕落な生活を送っていたところ、父の竜太郎(笑福亭鶴瓶)が20歳の早希(中条あやみ)と再婚すると言う。遥かに年下の義理の母の出現に困惑する優子だったが・・・

 

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

映画の宣伝で江口のりこがあまりにも無気力だったが、実際は頑張って演技していた。中条あやみも標準語の時よりも良い演技を披露できていたように思う。

 

家族とは何か。『 焼肉ドラゴン 』(この舞台は隣町の伊丹。ちなみにこの作品での焼肉の焼き方監修をした人が尼崎で商売をしておられる。山里食品ではない、念のため)でも追究されたテーマで、家族とはそもそも壊れて、新しく生まれる、あるいは作るものだった。

 

本作は65歳の男性と20歳の女性の再婚を通じて、年下の義理の母親はありなのか?適齢期を過ぎても結婚しないパラサイトはありなのか?シングルマザーに支えは必要なのか否か?

こうした新たな問いに一定の答えを出そうというのが本作である。赤の他人の優子と早希の距離が徐々に縮まっていく過程はユーモラスであり現実的でもある。

 

尼崎市民は観ていて楽しめるだろう。Jovianの家の目と鼻の先のうどん屋だったり、散歩コースのすぐ脇の工場が近松鉄工所だったり、魚釣り公園や寺町など、まさにご当地ムービー、おらが町の映画だと感じられた(阪急沿線民には不評かもしれない)。

ネガティブ・サイド

冒頭からいきなり「尼ロックなんか誰も知らんわ!」という台詞が聞かれるが、ホンマかいな。今も昔も尼崎市内の結構な数の小学校が社会科見学で尼崎閘門に行っているはずなのだが。

 

工場でとあるアクシデントが起きるが、工都・尼崎の工場職人がこんな杜撰なことをするんかな?ちょっと無理のある脚本に思えた。

 

ブランクが何年もあるはずの優子がいきなり第一線のコンサルタント然として話し出すシーンには違和感ありあり。普段から経済ニュースや経済紙に目を通していたという描写があれば、少しは説得力も生まれるのだが。

 

2018年の台風を元ネタにしたと思しきシーンがあるが、地元民としては少し複雑。尼ロックが水害を防いだのは確かだろうが、あの時はとんでもない暴風被害が出て、杭瀬の工務店のおっちゃんが「2か月で3年分の仕事量や!」と特需を享受していた。フィクションだと思えばいいのだろうが、だったら阪神淡路大震災を持ち出すのもやめてほしかった。

 

『 ハルカの陶 』でも思ったが、地理がめちゃくちゃ。まあ、突っ込んでも意味がないんやけどね。ただJR沿線民と阪神沿線民は楽しいはず。

 

総評

実際は60点だが、地元民のよしみで10点おまけしておく。某映画サイトでやたらと高評価されているが、これは兵庫県民、特に尼崎市民が先行上映を観て星を与えていることに注意されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

complete strangers

「赤の他人」の英訳。他にも total strangers という表現もある。劇中では「あんたと私は赤の他人や!」というのがあったが、英語だと You and I are complete strangers! となるだろうか。間違っても red strangers とは言わないように。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 貴公子 』
『 ブルックリンでオペラを 』
『 ゴジラxコング 新たなる帝国 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ヒューマンドラマ, 中条あやみ, 日本, 江口のりこ, 監督:中村和宏, 笑福亭鶴瓶, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 あまろっく 』 -尼崎市民、観るべし-

『 マリの話 』 -Boys be romanticists-

Posted on 2024年3月11日 by cool-jupiter

マリの話 75点
2024年3月9日 シネ・ヌーヴォにて鑑賞
出演:成田結美 ピエール瀧 松田弘子
監督:高野徹

アソシエイト・プロデューサーの一人が大学の卒論ゼミの仲間という本作。その同級生は『 Bird Woman 』にもエキストラで出演していたりする。彼女から鑑賞を依頼されチケット購入。

 

あらすじ

映画監督の杉田(ピエール瀧)は夢の中で理想の女性に出会う。ある夜、自分の夢の中の女性が目の前に現れた。意を決した杉田はその女性マリ(成田結美)に自身の映画への出演を依頼するが・・・

以下、マイナーなネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

本作は上映時間60分という異色のオムニバス構成。そのエピソードの一つ一つが絶妙なバランスで結びついている。上映後の監督あいさつで最初に第4章を独立した一つの作品として仕上げたものの、それだけでは背景が不足するということから、残りの1~3章を作り上げたとのこと。

 

第1章「夢の中の人」ではスランプの映画監督が、夢に見た理想の女優が目の前に現れたところから始まる。監督と女優という距離感が徐々に男と女のそれへと縮まっていくペースが絶妙。高野監督自身「ホン・サンスはかなり意識した」と言っていた通りに、インテリ男が酒の席で美女を口説くシーンはまさにホン・サンス調。ピエール瀧が仕事に行き詰った中年男性のパトスを見事に表現していた。

 

第2章「女優を辞める日」では、女優として活動し始めたマリが監督と本格的な男女の仲になっていく過程が描かれる。といっても生々しいシーンなどはなく、ロマンチックなシーンは海辺のキスぐらい。この章で上手いなと感じたのは、夢か現か幻かを判然とさせない描き方。冴えない中年オヤジが妙齢の美女とベッドインできるか?これもまた夢なのでは?と観る側に思わせるところ。

 

第3章「猫のダンス」はかなり異色。フミコという老女がいなくなった猫を探しているところに、通りかかったマリが手助けをするというもの。そこからいつしか二人は互いの心情を赤裸々に語り始める。この章のラストで描かれるマリとフミコの触れ合いは、まさに二匹の猫のじゃれあい。言葉よりも雄弁に心情を物語る名シーンだった。

 

第4章「マリの映画」は、マリ自身が作成した短編映画。これがマリから杉田への一種のビデオレターになっている。フランスの森で詩を交えて語り合う恋人たち。即物的あるいは身体的にしか女性とつながれない男に比べて、想像力の翼をはためかせる女性という構図のコントラストが映える。

 

上映終了後に監督に「映画監督は、キャラクターを先に考えるのか、それともストーリーを先に考えるのか」と質問させてもらったところ、『今作は第4章から先に作って、そこから残りの章を作った。キャラクターから先に作るかどうかは作家による』という趣旨の答えだった。その後、高野監督のインタビュー記事を見つけたので読んでみると、しっかり「夢の中の人」から構想してるやんけ(笑)と思ってしまった。

 

ロングのワンカットが非常に多く、役者だけではなく録音や撮影のスタッフも相当に監督のわがままに振り回されただろうが、それでもこれだけのクオリティのものが出来上がったのなら納得するだろう。ヨーロッパ風のテイストを前面に出しながら、韓国風でもありつつ。しっかりと日本映画にもなっている。

ネガティブ・サイド

ぶっちゃけキスシーンがイマイチだった。Jovianは『 ロッキー 』で、ロッキーがエイドリアンを自宅に招き入れた時に玄関でするキスのシーンと、『 スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲 』で、ミレニアムファルコン修理時のハン・ソロとレイアのキスシーンが all time best だと思っている。そこまでのインパクトは求めないが、杉田とマリのキスも、もう少しロマンチックにできなかっただろうか。

 

総評

本作を鑑賞してつくづく感じたのは「映画とは自分の美意識」という『 カランコエの花 』の中川駿監督の言葉は本当なのだなということ。高野監督のロマンス観が見事に開陳されている。コンテンツとフォームの両面で非常に上質なので、関西周辺の方は是非シネ・ヌーヴォまでご足労を。TOHOシネマズのような大手はこういう映画こそ一日一回で良いので上映してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

imagination

英語とつづりは同じだが、フランス語の発音はイマジナスィオンに近い。想像力は創造の基本。映画を観て、脚本家や監督がどこからどのように inspiration = アンスピラスィオンを得たのか考察するのも面白いはず。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ソウルメイト 』
『 デューン 砂の惑星 PART2 』
『 梟ーフクロウー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, ピエール瀧, ラブロマンス, 成田結美, 日本, 松田弘子, 監督:高野徹, 配給会社:ドゥヴィネットLeave a Comment on 『 マリの話 』 -Boys be romanticists-

『 落下の解剖学 』 -真実を知るは犬のみ-

Posted on 2024年3月9日2024年3月9日 by cool-jupiter

落下の解剖学 70点
2024年3月3日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ザンドラ・ヒュラー ミロ・マシャド・グラネール スワン・アルロー
監督:ジュスティーヌ・トリエ

 

『 ある閉ざされた雪の山荘で 』は地雷臭がプンプンしていたが、こちらは面白そうだと思ったのでチケット購入。実際にかなり面白かった。

あらすじ

雪山の山荘で視覚障がいを持つダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)は転落死した父親を発見。当初は事故死かと思われたが、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻である作家サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)に疑いがかけられて・・・

 

ポジティブ・サイド

少ない登場人物でミステリーやサスペンスを生み出すのはカトリーヌ・アルレーやボワロー=ナルスジャックが得意としたところでフランス小説のお家芸。そうしたエッセンスは本作にも見られる。

 

注目すべきキャラは息子ダニエル、母サンドラ、弁護士のヴァンサン、検事、そして犬のスヌープ。これだけ。法廷以外のパートで夫の死の真相を暗示するようなシーンなどは見当たらなかったので、本作はミステリーではなくドラマとして見るべきだろう。それも上質な法廷ドラマで、その法廷の弁論の中で、夫婦の確執が次々に明らかになっていく。

 

この二人、元々は国際結婚。ドイツ人妻とフランス人の夫が英語でコミュニケーションを取っているが、そこで交わされる会話から、夫と妻のそれぞれが抱えていたストレスが露になっていく。Jovianは正直、夫にかなり感情移入したが、Jovian妻は終始妻サンドラ側に立って見ていたとのこと。何を言ってもネタバレになるのでこれ以上は書けないが、法廷で録音が再生されるシーンがめちゃくちゃ面白いということだけは強調しておきたい。

 

もう一つ本作で注目すべきは犬。犬にここまでの演技ができるとは驚異的の一語に尽きる。特にとあるシーンで臥せったスヌープがいわくありげな上目遣いをするシーンには震えた。『 落下の解剖学 』というタイトルの落下は、第一義的には夫の転落を指すのだろうが、上から下に落ちたものはそれだけなのか。今は上にあって、これから下に落ちることになるものは何であるのか。そうした視点で本作を鑑賞してみてほしい。

 

解剖学というタイトルの言葉通り、人間、就中、夫婦の内面に鋭くメスを入れる秀作である。それ以上に、事実は一つ、真実は複数。では、それらの真実の中から自分はどれを選ぶのか。ある意味で本作は究極のビルドゥングスロマンとも見なしうるのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

序盤が少々退屈。もちろん夫のDIYや妻のインタビューなど、どれも必要なシーンなのだが、ここをもう少し速いテンポで映し出してほしかった。

 

検事が妻の小説のプロットを持ち出して、殺意の証拠にしようとしたのにはさすがにドン引きした。検察を悪に描こうという意図でもあったのだろうか。悪ではなく暗愚というか

 

総評

法廷ものとファミリードラマのハイレベルの融合。日本社会は、特にネット空間で顕著だが、「疑わしきは罰せず」という原則を忘れているように思う。疑わしい=疑われる方が悪いという理屈で、誹謗中傷が行われるのはいかがなものか。本作はある意味で観る者の法感覚を測る格好の題材であると言えるかもしれない。ぜひ夫婦で鑑賞をどうぞ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

One for the road

劇中では One more for the road. という使われ方をしていた。松本孝弘の楽曲に ONE FOR THE ROADがある。意味は「場を離れる前の最後の一杯」の意。Jovianのオールタイムベストの小説『 星を継ぐもの 』に下のような描写がある。参考にされたし。

Hunt took a cigarette from his case and lit it. “You know,” he said at last, blowing a stream of smoke slowly toward the glass wall of the dome, “it’s going to be a long voyage to Jupiter. We could get a drink down below—one for the road, as it were.”

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ソウルメイト 』
『 マリの話 』
『 デューン 砂の惑星 PART2 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, ザンドラ・ヒュラー, スワン・アルロー, フランス, ミロ・マシャド・グラネール, 監督:ジュスティーヌ・トリエ, 配給会社:ギャガLeave a Comment on 『 落下の解剖学 』 -真実を知るは犬のみ-

『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』 -王朝没落前夜の宮廷悲喜劇-

Posted on 2024年2月29日 by cool-jupiter

ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 75点
2024年2月25日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:マイウェン ジョニー・デップ バンジャマン・ラベルネ
監督:マイウェン

ルイ15世の公妾ジャンヌ・デュ・バリーを描く。『 ナポレオン 』でも、ジョセフィーヌという女性との関係からナポレオンを描出したが、映画の世界にも文学に続いて本格的な feminist theory による再解釈の波が到来しているのだろうか。

 

あらすじ

ジャンヌ(マイウェン)は美貌と才覚で娼婦として台頭し、ついには国王ルイ15世の公妾としてヴェルサイユ宮殿に入っていく。しかし、国王の寵愛を受けるジャンヌを快く思わぬ宮廷の勢力もおり・・・

ポジティブ・サイド

まずはプロダクションデザインが素晴らしいの一語に尽きる。というか、本作の撮影のために本物のヴェルサイユ宮殿を使ったというのだから、それは素晴らしいに決まっている。

 

キャスティングも当たり。ローティーンの可憐なジャンヌが天使と見まがうハイティーンに成長、そこからベテラン娼婦のマイウェンになった時には一瞬「アレ?」と感じたが、その熟女ジャンヌが宮廷に召し出され、公妾として宮殿に現われた時には、まさに国王最後の愛人という輝きを放っていた。メイクアップアーティストやヘアドレッサーは本当に素晴らしい仕事をしたと思う。

 

ジョニー・デップもすべてフランス語で好演。このベテラン俳優は濃い化粧の時はヒット、素に近い顔だとハズレというイメージが強いが、今作は『 ギルバート・グレイプ 』以来の当たり役・・・は流石に言い過ぎだが、『 ナポレオン 』を演じたホアキン・フェニックスと同等かそれ以上のフランス為政者としてインパクトを残した。

 

ただ、何といっても本作はルイ15世の最側近、そしてジャンヌの戦友とも言うべき羅・ボルドに尽きる。ジャンヌの教育に余念なく、宮廷内の権力闘争や権謀術数からは距離を置き、ただひたむきに王に忠実であり続ける。『 銀河英雄伝説 』のローエングラムになる前のラインハルトをルイ15世とするなら、ラ・ボルドは間違いなくキルヒアイス。この感じ、分かる人には分かるはず。

 

絢爛豪華なヴェルサイユ宮殿を舞台に少人数での濃密なドラマが繰り広げられる、あっという間の2時間。フランス史に詳しければ歴史や伝記として楽しめるし、仮に詳しくなくともロマンスやヒューマンドラマを堪能できるだろう。ぜひ劇場にて鑑賞してほしい。

 

ネガティブ・サイド

閨房の様子がまったく描かれなかったのは何故だろう。別に行為を映せと言っているのではない。王がジャンヌにどのような類の癒しを求めたのかを純粋に知りたいと感じた次第である。たとえばルイ15世がジャンヌを自分から抱きしめるのか、それともジャンヌに膝枕(フランスでもやるのかね?)をしてもらうのかで、王の抱えているストレスや苦悩が見えてくる。そういうシーンをほんの少しでいいので見たかった。

 

総評

一言、良作。歴史・伝記ジャンルの作品であるが、背景知識がなくても充分に楽しめる作りになっている。全編フランス語(一瞬だけラテン語もあるが)なので、フランスらしさを味わうなら『 ナポレオン 』よりも本作だろう。とにかく多くの人に本作を観て、そしてラ・ボルドと彼を演じたバンジャマン・ラベルネのファンになってほしい。

 

Jovian先生のワンポイント仏語レッスン

N’ayez pas peur

発音としては ネ・エ・パ・プー のような感じ。英語にすれば Don’t be afraid = 怖がらないで、である。劇中で2~3回聞こえたかな。20年ぐらい前に熱心にWWEを観ていた頃、フランス人設定のレスラーがデビュー前にCMでしきりに “N’ayez pas peur.” と言っていて、そこに字幕で Don’t be afraid. と出ていたので、それで覚えていた。あの頃はなんでも、いくらでも頭に入ったのだが・・・

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 夜明けのすべて 』
『 ソウルメイト 』
『 落下の解剖学 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, ジョニー・デップ, フランス, マイウェン, ラブロマンス, 伝記, 歴史, 監督:マイウェン, 配給会社:ロングライドLeave a Comment on 『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』 -王朝没落前夜の宮廷悲喜劇-

『 哀れなるものたち』 -哀れなる者、汝の名は男-

Posted on 2024年2月7日 by cool-jupiter

哀れなるものたち 70点
2024年2月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:エマ・ストーン ウィレム・デフォー マーク・ラファロ ラミー・ユセフ
監督:ヨルゴス・ランティモス

 

簡易レビュー。

あらすじ

天才脳外科医ゴッドウィン・バクスター博士(ウィレム・デフォー)は、学生のマックス・マッキャンドルス(ラミー・ユセフ)を自宅に招く。マックスはそこで、体は成人女性なのに振る舞いは赤ん坊という不思議な女性、ベラ(エマ・ストーン)に出会う。ゴッドウィンは彼女の観察を手伝うようにマックスに言う。マックスは徐々にベラに惹かれていくが・・・

ポジティブ・サイド

ウィレム・デフォー=ヴィクター・フランケンシュタイン、ベラ=フランケンシュタインの怪物に見えるが、これを現代に置き換えて考えてみると、子育ての難しさを物語る寓話となるのだろうか。蝶よ花よと育てても、ビッチになる時はなる・・・ではなく、ちゃんと愛のあるセックスをしなさいよという教訓を垂れているのだ。

 

モノクロからカラーに変わる演出は『 オズの魔法使 』的で悪くない。あれも言ってみればドロシーのビルドゥングスロマンなわけで、本作も幼女ベラが成熟した女性ベラに成長していく物語だと思えばいい。快適な家に閉じ込める父から離れ、外の世界と性の世界を見せてくれる男、世界の残酷さを見せる男との旅路を経て、独立不羈の女性となっていくベラ。それはまるで一人の女性の生涯と同時に、人類史における女性の自立の歴史を目の当たりにするようでもある。

 

最後は「ははあ、これはアレをこうするんだろうな」と予想した内容とは違ったが、これはこれでブラックユーモアの炉火純青と言えるだろう。嗚呼、哀れなる者、汝の名は男。

 

ネガティブ・サイド

エマ・ストーンの非常に直接的なセックスシーンをどう評価するかは意見が分かれるところ。いや、評価しないという声もあるだろう。Jovianはさすがにちょっと見せすぎだと感じた。エマ・ストーンのトップレスは評価せざるを得ないが、好奇心からのセックスや商売としてのセックスの良し悪しを、事後の男たちの表情などで観る側に想像させることはできなかったか。ダンカンの余裕の表情がベッドの外ではなく、ベッドの上でだんだんと崩れていくのを観てみたかったと思う。

 

総評

日本なら手塚治虫あたりが思いつきそうなプロット。だが日本で映画化は無理そう。『 RED 』で中途半端だった夏帆に頑張ってもらうか、または二階堂ふみあたりに奮闘してもらうか。自分がプロデューサーになったつもりであれこれ考えてしまった。一種のウーマン・リブ奇譚なので、デートムービーにはならない。夫婦での鑑賞ならあり。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Poor thing

原題は Poor Things と複数形だが、通常会話では You poor thing. のような形で、ほぼ単数形で使う。以下は使用例。

X: I dropped my phone and broke it.
Y: You poor thing.

相手に何か不運があったりしたときは、You poor thing. と言おう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ザ・ガーディアン 守護者 』
『 熱のあとに 』
『 ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イギリス, ウィレム・デフォー, エマ・ストーン, ファンタジー, ブラック・コメディ, マーク・ラファロ, ラミー・ユセフ, 監督:ヨルゴス・ランティモス, 配給会社:ディズニーLeave a Comment on 『 哀れなるものたち』 -哀れなる者、汝の名は男-

『 コンクリート・ユートピア 』 -人間社会の汚穢を描く-

Posted on 2024年1月12日 by cool-jupiter

コンクリート・ユートピア 70点
2024年1月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:イ・ビョンホン パク・ソジュン パク・ボヨン
監督:オム・テファ

 

簡易レビュー。

あらすじ

突如発生した天変地異により、韓国社会は崩壊した。唯一崩落しなかった皇宮アパートには生存者が押し寄せるが、住民は団結し、彼らを排除することを決定。住民のリーダーとして、冴えない中年のヨンタク(イ・ビョンホン)が選ばれるが・・・

ポジティブ・サイド

韓国の苛烈な経済格差および移民問題を痛烈に皮肉った序盤、そして民主主義の正の面と負の面が露になる中盤、そして閉鎖・孤立したコミュニティが民主主義の負の面から自壊していく終盤と、非常にテンポよく物語が進んでいく。

 

韓国映画あるあるなのだが、まったくもって普通の一般人に見える人が、突如発狂するシーンが何度もあって、緊張感も持続する。男性のほとんどが兵役経験者ということで、住民とその他の争いにもリアリティがある。

 

能登半島地震の被災現場の本当の悲惨さは知るべくもないが、「人間社会はこうあってはならない」という韓国映画のメッセージは、ある意味でこれ以上ないタイミングで届けられたと思う。

 

ネガティブ・サイド

細かいところだが、男性陣の誰もひげが伸びないのは何故?韓国成人男性はもれなくひげの永久脱毛済み?そんなはずはないと思うが・・・

 

ラストは正直なところ、賛否両論あるだろう。自分はやや否かな。最後まで狂気で突っ走ってほしかった。

 

総評

韓国映画の佳作。災害ものでは人間の本性があらわになるが、韓国映画はそこで人間のダーティーな面を映し出すことを恐れないところが素晴らしい。イ・ビョンホン以外のキャストの演技力も申し分なく、いつも同じメンツで映画を作っている邦画界とは役者層の厚さが違うところが羨ましい。2010年代ほどではないにしろ、2024年も韓国映画には期待して良さそうである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

apartment

いわゆるマンション、集合住宅を指す。ちなみに英語の mansion は大邸宅を指す。apartmentは一室を指し、集合住宅全体は apartment house と言う。一応区別して覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 ゴーストワールド 』
『 ブルーバック あの海を見ていた 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イ・ビョンホン, サスペンス, パク・ソジュン, パク・ボヨン, パニック, 監督:オム・テファ, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 コンクリート・ユートピア 』 -人間社会の汚穢を描く-

『 きっと、それは愛じゃない 』 -結末以外はパーフェクト-

Posted on 2023年12月31日 by cool-jupiter

きっと、それは愛じゃない 75点
2023年12月29日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:リリー・ジェームズ シャザト・ラティフ
監督:シェカール・カプール

 

原題がティナ・ターナーの楽曲 “What’s Love Got To Do With It?” と同じ。主演が『 シンデレラ 』のリリー・ジェームズ、監督は『 エリザベス 』のシェカール・カプールということでチケット購入。

 

あらすじ

ドキュメンタリー作家のゾーイ(リリー・ジェームズ)は隣家の幼馴染カズ(シャザト・ラティフ)が見合い結婚すると聞き、その過程を映像に収めようと企画する。カズは両親や結婚相談所の仲介を経て、カズはトントン拍子に婚約者を見つけるが・・・

ポジティブ・サイド

これまたJovianの好物である「映画を作る映画」である。話のポイントはそこではないが、とにかく映像作品を作る過程を映像作品にするのは、単純に見ていて面白い。作り手の哲学や作劇に対する姿勢がそこによく表されると感じる。本作で言えば、白人の若い女性がドキュメンタリーを撮るというのは、老齢の有色人種の男性が娯楽作品を撮ることと対比される。宮崎駿がいつも少女をテーマにするようなもの。

 

パキスタンにルーツを持つイスラム教徒でありながら、生まれも育ちもイングランドで職業は腫瘍内科医という一種のエリートのカズが、両親の勧めに従ってパキスタンから嫁を取るというのはなんだか保守的に感じられるが、これは非常にリアルだと感じた。異人は異人であろうとすると喝破したのは赤坂憲雄だったっけか。日本でも(だいぶ薄まっているが)韓国人や中国人がコミュニティを作って独自の文化や伝統を保持しようとするのも同じ理屈。一方で、生粋のイングランド人のゾーイが自由恋愛をしたところ、引っかかるのはクズ男ばかりという対比も面白い。

 

スカイプで出会って、色々と話す中で婚約がまとまっていくが、いざ現地で花嫁とご対面となったときのギャップも現代的。異邦人として生きる者たちが伝統や文化の維持に尽力している一方で、本国の若者は西洋的な文化に触れまくったパリピになっているのは皮肉ではあるが、やっぱりリアル。普及したかに思えたテレワークが定着しなかったのは、こういうことが往々にして起こるからなのだろうなと感じた。実際、大学などで教えていても、オンライン授業よりも対面授業の方がはるかにやりやすい。

 

自由恋愛vsお見合い結婚、人種の違い、宗教の違いなどの描写を通じて、最終的には家族の再生の話につながっていく。家族には二通りある。自分がそこに生まれ落ちてくる家族。これは自分で選べない。もう一つは、自分で作り出す家族。これは自分で選ぶことができる。別に他人(親を含む)に選んでもらっても構わないわけだが、それも含めて家族は所与でも結婚は自分の選択だというのが本作の結論か。説教臭くならず、現代的なテーマをふんだんに盛り込んでいて、非常に見ごたえのある物語だった。

 

ネガティブ・サイド

ゾーイとカズの幼少期のシーンが欲しかった。二人が子供のころから仲良しで、しかし47番地と49番地には子どもには見えない壁があった、あるいはゾーイの目には見えない溝があったことを仄めかすシーンがあれば、終盤に生きたと思われる。

 

獣医のジェームズとゾーイの関係の終わらせ方が強引だった。ゾーイが子どもたちに語って聞かせる変調のおとぎ話をたまたま耳にするというのは都合が良すぎる。ゾーイの作品に映し出されるカズの姿から何かを感じ取って身を引く、というプロットを模索してほしかった。

 

総評

ティナ・ターナーの What’s Love Got To Do With It? の It は男と女が惹かれあうこと自体を指しているが、本作の It は arranged marriage または assisted marriage を指すのかな。キャリア志向の女性が本作を鑑賞するとビミョーに感じてしまう恐れはあるが、結婚なんてものは突きつければ赤の他人と一緒になること。つまりは最もベーシックな意味での異文化共生なのだ。それが本作のテーマなのだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

good enough

文脈にもよるが「充分に良い」という意味と「まあ、こんなもんだろ」という意味がある。劇中でゾーイがとある男性を評して good enough を使うが、結婚相手に perfect を求めるのはいかがなものか。実際は good enough で満足すべきなのではと思う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 ゴーストワールド 』
『 ブルーバック あの海を見ていた 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, イギリス, シャザト・ラティフ, ラブ・ロマンス, リリー・ジェームズ, 監督:シェカール・カプール, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 きっと、それは愛じゃない 』 -結末以外はパーフェクト-

『 ナポレオン 』 -人間ナポレオンに迫る-

Posted on 2023年12月27日2023年12月28日 by cool-jupiter

ナポレオン 70点
2023年12月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ホアキン・フェニックス ヴァネッサ・カービー
監督:リドリー・スコット

簡易レビュー。

 

あらすじ

砲兵長ナポレオン(ホアキン・フェニックス)は英国軍の撃退などで軍人として昇進していく。その中で未亡人のジョゼフィーヌ(ヴァネッサ・カービー)と出会い、結婚する。戦争の中で頭角を現し、出世を重ねるナポレオンだが、ジョゼフィーヌの浮気が判明して・・・

ポジティブ・サイド

大学時代にフランス人、ドイツ人と一緒に暮らしていた時、ドイツ人が冗談めかして「ヒトラーさえいなかったら、ヨーロッパの嫌われ者はナポレオンを生んだフランスだったのに」と言ったところ、フランス人が「だろうな」と応じたことがあった。本作を見れば、ナポレオンがいかにヨーロッパ中で戦争していたのかが分かる。

 

その一方で、本作が本当に描き出したかったのは、英雄や悪魔としてのナポレオンではなく、一人の男性としてのナポレオン。もっと言えば、女に弱いナポレオン。英雄色を好むと言われるが、ナポレオンも例外ではない。一方で、意外なほどにジョゼフィーヌ一筋で、ヨーロッパ史にまあまあ詳しいJovianも知らないエピソードがあって面白かった。

 

『 her 世界でひとつの彼女 』や『 ジョーカー 』で隙のある男というか、今風に言えば弱者男性を演じたホアキン・フェニックスが、稀代の快男児のナポレオンを演じるとともに、どこまでジョゼフィーヌに執着するキモ男も同時に好演。これは配役の勝利。個人的にはウェリントン卿がイメージそのままで、クライマックスのワーテルローの戦いは非常に楽しめた。もう一つの見どころは戴冠式。ルイ・ダヴィッドも一瞬だけ映る。

 

『 最後の決闘裁判 』には及ばないが、人間、就中、男と女の真実(≠事実)を明らかにせんとするリドリー・スコットの哲学が開陳された一作。

 

ネガティブ・サイド

トラファルガーの海戦がスルーされたのは何故?もちろん撮影はしたのだろうが、ここをバッサリと切ってしまうと「英国は海戦は知っていても陸戦は知らない」というナポレオンの言葉に説得力がなかったように思う。

 

今でこそロシアとウクライナが戦争していたり、イスラエルとパレスチナが戦争していたりして、為政者が戦争を起こす、あるいは国民が戦争を強く支持してしまうという構図があるので、本作の社会的意義も見出せるが、それがなければ単なるエンタメ作品では?というと、エンタメとしてはちょっと弱い気がする。戦争シーンに迫力はあるが、大砲で人がバタバタ倒れていくシーンには迫真性はなかった。『 プライベート・ライアン 』とは言わないが、『 エイリアン 』並みのグロ描写があっても良かったのでは?最初の馬のシーンで期待をさせておいて、えらく尻すぼみだなと感じられた。

 

総評

ヨーロッパ史にある程度の造詣がないと鑑賞はお勧めできない。逆に言えばナポレオンおよびその周辺の歴史をある程度知っているなら楽しめる。また人間としてのナポレオンに注目するのだと割り切って鑑賞するのもありだろう。そんな向きはいないと思うが、デートムービーにするのは禁物である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a close-run thing

「紙一重の出来事」の意。劇中では使われなかったが、ウェリントン卿がワーテルローの戦いの後に言ったとされる言葉。ただし、実際は a damn nice thing もしくは the nearest-run thing が正しい言葉だとも言われる。ナポレオンの「吾輩の辞書云々」と同じで、一種の伝説のようなもの。同僚ブリティッシュによると British Englishでは今日でも使われるとのこと。危機一髪の状況をなんとか生き残ったら、That was a close-run thing. と表現してみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 TALK TO ME トーク・トゥ・ミー 』
『 PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ 』
『 きっと、それは愛じゃない 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, ヴァネッサ・カービー, ホアキン・フェニックス, 伝記, 歴史, 監督:リドリー・スコット, 配給会社:ソニー・ピクチャーズエンタテインメントLeave a Comment on 『 ナポレオン 』 -人間ナポレオンに迫る-

『 市子 』 -それでも静かに生きていく-

Posted on 2023年12月19日 by cool-jupiter

市子 75点
2023年12月16日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:杉咲花 若葉竜也
監督:戸田彬弘

 

簡易レビュー。

あらすじ

市子(杉咲花)は同棲している恋人の長谷川(若葉竜也)からプロポーズを受けて快諾する。しかし、市子は翌日に姿を消してしまう。市子を探し求める長谷川は、市子がかつては月子と名乗っていたことを知り・・・

 

ポジティブ・サイド

本作の扱うテーマはレバノン映画の傑作『 存在のない子供たち 』と同じ。戸籍=身分証明=アイデンティティというのが現代社会だが、そこからこぼれ落ちてしまった者はどう生きていけばよいのか。本作はそれを追究しようとしている。

 

これまで少女役ばかりだった杉咲花がやっと一皮むけたかなという印象。弱さと強かさの両方を併せ持つ女性を演じきったのは見事。傾城の美女ではなくともファム・ファタールにはなれるのだ。

 

市子の過去をめぐって様々な人物の物語を移していく手法は『 正欲 』と同じ。また、エンドロールの際に流れる声で物語を想起させる手法は『 カランコエの花 』と同じ。content ではなく form が重なるのは個人的には全然OKである。

 

ネガティブ・サイド

いくらなんでも最初の事件は簡単に事の真相がばれてしまうと思うのだが。そうなると月子→市子というメタモルフォーゼも無理ということなってしまう・・・

 

また次の事件では死んだ人間の仕事がそちら関係なので、必然的に市子およびその周辺も捜査されてしまうと思われる。

 

総評

ウィリアム・アイリッシュの昔から「消えた女」を追うというプロットはハズレが少ない。本作もいくつかの点に目をつぶればOKだ。作劇の面ではいくつかの先行作品とそっくりだが、中身の点では『 さがす 』に似ていると感じた。邦画の世界でも陰影の深い作品が生み出されつつあるのは好ましいことだと思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

hug

ハグするというのは日本語にもなっている。意味は「抱きしめる」である。劇中の長谷川の印象的なセリフに「抱きしめたい」というものがあったが、あれは I want to hug her. となるはず。よりドラマチックかつロマンチックな言い方をするなら I want to wrap her in my arms. となる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ 』
『 怪物の木こり 』
『 きっと、それは愛じゃない 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, サスペンス, 日本, 杉咲花, 監督:戸田彬弘, 若葉竜也, 配給会社:ハピネットファントム・スタジオLeave a Comment on 『 市子 』 -それでも静かに生きていく-

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