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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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『 劇場版 再会長江 』 -中国社会の今に迫るドキュメンタリー-

Posted on 2024年5月10日 by cool-jupiter

劇場版 再会長江 80点
2024年5月6日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:竹内亮 小島瑠璃子
監督:竹内亮

 

簡易レビュー。

あらすじ

映像作家の竹内亮は、長江源流の最初の一滴に迫るために旅に出る。それは10年前に訪れた長江流域で出会った人々との再会の旅路であり、10年間の中国社会の変化に触れる旅路でもあった。

ポジティブ・サイド

長江の雄大さを伝える映像が多く、ドキュメンタリー作品ではあるが非常に cinematic な作品でもある。長江流域で出会う個性的な人々や少数民族との交流も純粋に興味深い。『 天空のサマン 』を鑑賞した後に本作を観ることで、失われつつある民族の文化への危機感と、逆にそれらを育んだ長江の豊かな恵みへの憧憬を同時に感じる。

 

世界的な大河である長江も、その源流は氷河から滴る雫、そして小さな名もなき川の集合体。現在の中国におけるマジョリティである漢民族の社会と歴史は、多くの少数民族たちの有形無形の財産・遺産から成り立っているのだと感じた。

ネガティブ・サイド

あらゆる民族がプートンファを話すことに対して、日本語ネイティブである竹内監督からその良し悪しについて語ってほしかったと思う。

 

総評

一言、傑作。変わらない文化と不断の変化を続ける社会という相反する2つの要素を、流れ続けながらも常にそこに存在する大河という存在を通じて描き出す手法には脱帽せざるをえない。語学学習を志す人にとってもお勧めしたい作品。

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

チュングォ

漢字では「中国」と書く。つまり中国のこと。作中で何度も聞こえてくる。ちなみに中国語で日本はリーベンだが、中世ではジッポン。これを聞いたマルコ・ポーロが「さらに東方にジパングがあるのか」と思い、それが英語ではさらに Japan に変化した。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 青春18×2 君へと続く道 』
『 不死身ラヴァーズ 』
『 関心領域 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, ドキュメンタリー, 中国, 小島瑠璃子, 監督:竹内亮, 竹内亮, 配給会社:KADOKAWALeave a Comment on 『 劇場版 再会長江 』 -中国社会の今に迫るドキュメンタリー-

『 オッペンハイマー 』 -伝記映画の傑作-

Posted on 2024年4月7日 by cool-jupiter

オッペンハイマー 80点
2024年4月6日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:キリアン・マーフィー
監督:クリストファー・ノーラン

 

『 ソウルメイト 』や『 続・夕陽のガンマン 地獄の決斗 』を立て続けに鑑賞して、やや面白不感症気味になっていたが、本作はめちゃくちゃ面白かった。

あらすじ

物理学者のロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、第二次世界大戦中のアメリカでマンハッタン計画の責任者に任命される。職務に邁進するオッペンハイマーだが、複雑な人間関係や敵対国ドイツ、同盟国ながら共産主義国家であるソ連との競争にもその身を投じていくことになり・・・

ポジティブ・サイド

なんとも重厚かつ長大な物語だった。オッペンハイマー目線での過去と現在が頻繁に行き来し、なおかつ科学者としてのオッペンハイマーだけではなく家族人(だが決して典型的なファミリー・マンではない)として実像や、一人の男として、あるいは軍事や政治におけるポスター・ボーイとして、あらゆる面が映し出されていた(ちなみに本作が鑑賞しづらかったという向きには『 インセプション 』を観てからの再鑑賞をお勧めする)。まさに伝記映画の超大作だった。

 

冒頭から原子の世界のイメージや恒星の活動や死滅のイメージがオッペンハイマーの頭の中でありありと生起されていくところが観客に共有される。これだけ想像力豊かな人物が広島や長崎で起きたことを想像できなかったということの重みは計り知れない。「原爆被害に対する描写がないのはけしからん」と気色ばむ方々は、まず第一に本作はオッペンハイマーの伝記であって、彼は戦時中、あるいは戦争直後に日本を訪れていないということを知るべきだ。また作中でも色濃く描かれているが、オッペンハイマーは非常に想像力豊かな人間で、外国に対して関心と敬意を抱き、自らのユダヤ系のルーツから差別に対しても寛容ではなかったと描かれている。そんな彼がヒロシマやナガサキの惨状を頭の中で思い描けなかったということは、繰り返しになるが、それだけ重いことなのだ。

 

実は国際基督教大学の第一男子寮の一つ上の先輩がロスアラモスで研究員をやっている(ちょっとググれば出てくるし、ご本人も全く隠していない)。2023年11月にその先輩たちとZoom飲み会をした際に、本作の出来(≠内容)やアメリカでの受け止められ方を少しだけ聞くことができた(が、それは興味のある人が自身で調べればいいだろう)。

 

Jovian自身は大学時代に多くの留学生たちと一緒に『 火垂るの墓 』を鑑賞した後、とあるアメリカ人から “Why did you not surrender earlier?” と言われたこと、そして前の職場の同僚アメリカ人に “If Japan had nuclear weapons, they would have used them.”(アメリカ人は仮定法を正しく使えないのだ)と言われたことは、今でもはっきり覚えている。 一部の日本人は自分たちが戦争の被害者として正しく扱われていないと感じたいようだが、自分たちに自分たちなりの歴史認識があるように、相手にも相手なりの歴史認識がある、ということは理解すべきだ。

 

あまり映画の感想になっていないが、ヒロシマ、ナガサキに続いて福島がフクシマになりかけた日本は、オッペンハイマーの想像した破滅のビジョンに対してもっと敏感であってしかるべきと思う。批判する前に鑑賞しよう。鑑賞してから批判しよう。

ネガティブ・サイド

当時のロスアラモスにも間違いなく「研究できればそれでいいや」というマッドサイエンティストがいたはず。そうした無邪気な(だからこそタチが悪い)科学者とオッペンハイマーの対比が欲しかった。そこの描写は不十分であったように感じた。

 

アカデミーが助演男優賞を送るとしたら、ダウニー・Jr よりマット・デイモンの方がふさわしかったのではないだろうか。

 

総評

180分という上映時間も2時間程度に感じられた。それだけ密度の濃い映画だった。オッペンハイマーの生涯を描いた本作からは様々な教訓が得られる。それは観る人の年齢、性別、職業、問題意識によって異なる。一つ言えるのは「想像力を持つこと」の重要性。より良い未来を想像するのか、より悪い未来を想像するのか。自分の仕事や人生について深く考えるきっかけをもたらしてくれる傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Your reputation precedes you

直訳すれば「あなたの評判はあなたに先行しています」で、あなたがここに来るより先にあなたの評判が届いていますよ、ということ。『 トップガン マーヴェリック 』でもサイクロンがマーヴェリックに全く同じセリフを言っていた。ちょうど異動の季節なので、噂の新戦力がやって来た時などに使ってみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 変な家 』
『 パスト ライブス/再会 』
『 あまろっく 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アメリカ, キリアン・マーフィー, サスペンス, 伝記, 歴史, 監督:クリストファー・ノーラン, 配給会社:ビターズ・エンドLeave a Comment on 『 オッペンハイマー 』 -伝記映画の傑作-

『 ソウルメイト 』 -リメイク大成功-

Posted on 2024年3月13日 by cool-jupiter

ソウルメイト 85点
2024年3月10日 Tジョイ梅田にて鑑賞
出演:キム・ダミ チョン・ソニ ピョン・ウソク
監督:ミン・ヨングン

 

中国映画『 ソウルメイト 七月と安生 』の韓国リメイク。なまなかにリメイクするだけになってしまうのでは・・・という懸念を吹っ飛ばす大傑作に仕上がっている。

あらすじ

少し内気なハウン(チョン・ソニ)は自由なミソ(キム・ダミ)と出会い、やがて二人は無二の親友になっていく。しかし、ハウンがジヌ(ピョン・ウソク)と付き合い始めたことで二人の関係に少しずつ変化が生じて・・・

ポジティブ・サイド

オリジナルが傑作だったので、リメイクしても質が低下するだけでは・・・。鑑賞前はそう感じていたが、とんでもない。残すべきところは残し、変えるべきところは変える。傑作が大傑作に生まれ変わった。

 

話の大筋は原作と同じ。ただし、大きな変更もある。原作では七月と安生の二人の友情がネット小説によって表現されていたが、本作では小説を絵画に置き換えた。これによって本作はいきなりミソの巨大な肖像画を見せられることになる。つまり二人の友情、その産物が一気に可視化される。原作では文字だったものが、その後の映像によって雄弁に語られたが、本作ではそれを一気にビジュアル化した。正直なところ「いきなりこんなもの見せて大丈夫か?壮絶なネタバレでは?」と怪訝にすら感じたが、これは完全に杞憂だった。というか、小説を絵画にすることで、終盤のドラマがこれほど泣けるものになるとは・・・

 

キム・ダミはチョウ・ドンユイに勝るとも劣らぬ演技でミソを好演。子役もどこで探し出してきたのか、キム・ダミにそっくり。それにしても高校生から20代後半ぐらいまでを全く違和感なく演じ分けるキム・ダミやチョン・ソニの演技力の高さよ。もちろんそれを演出するミン・ヨングン監督の手腕もあるのだろうが、日本で本作をリメイクできるだろうか。ミソが河合優実で、ハウンが南沙良?監督は今泉力哉または三宅唱とか?

 

閑話休題。オリジナルでは七月はいつもボーイフレンドの自転車に二人乗りしていたが、今作のハウンはいつもミソの原付の後ろに乗っている。この違いは大きいと感じた。特に中盤のとある大きな出来事の後、いつも二人一緒だったミソとハウンだったはずが、ミソはハウンとジヌをある意味置き去りにして先に帰ってしまう。これがその後の二人の関係性を何よりも雄弁に物語っていた。

 

その後、済州島を出ることになったミソと済州島に残ることになったハウン。オリジナルを忠実になぞりつつも、わずかな脚色を施している。印象的なのはミソという名前が漢字では微笑となるところ。常に明るく笑顔をたたえていたミソが、思わぬタトゥーを彫っていたり、あるいは一人暮らししていたアパートの壁にほんのちょっとした落書きをしていたり。本人が語らずとも、それらがミソの心情を見事に代弁していた。物語るオリジナルから、シネマティックなリメイクへ。この脚本家、相当な手練れ。

 

その後、再会を祝した二人だったが、離れて過ごした間に際立つようになってしまった考え方や行動様式から仲違いへ。このあたりも原作に忠実ながら、しかし巧みに換骨奪胎している。それでも離れられない二人。原作でも光と影の関係に言及されていたと記憶しているが、ある時から常に自分の先へと歩いていくミソに対し、ハウンはついに自分でも別世界へ飛び出していく。今まで影だった自分が、今度はミソを影にしてしまう。

 

ここで二人が小さな頃から対照的な絵を描いてきたことが大いなる伏線となって活きてくる。抽象的な絵を描くミソと極めて写実的な絵を描くハウン。この二人の絵が交わる瞬間のドラマに涙を流さずにはいられようか。絵を描くということが、これほどの深い愛情表現になるのか。絵を描くという行為が、これほど深い対象理解につながるのか。そして絵を描くということが、これほど自分の心の中を映し出すものなのか。冒頭で大写しされるミソの肖像画が、まったく違った意味を帯びて迫ってくる最終盤の展開に涙が止まらなかった。間違いなく2024年のベストである。

 

ネガティブ・サイド

あのケーキは一体どこから出てきたのだろうか。

 

原作では「ダサい下着」を思いっきりカメラに映し出していたが、本作はそこを回避。うーむ・・・

 

総評

ミン・ヨングン監督の情報がほとんど見当たらないのだが、いったい何者なのだろう。日本では漫画のドラマ化の問題点が浮き彫りになって久しいが、原作を脚色するなら原作を超えなければ意味がない。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

シバラマ

使ってはいけない韓国語の一つ。意味はクソ野郎。劇場の照明点灯後のJovian妻の第一声は「ジヌはクソ野郎やな」だった。クソ野郎=シバラマである。この言葉が実際にどのように使われるのかを知るには『 息もできない 』を鑑賞のこと。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 デューン 砂の惑星 PART2 』
『 梟ーフクロウー 』
『 12日の殺人 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, キム・ダミ, チョン・ソニ, ヒューマンドラマ, ピョン・ウソク, 監督:ミン・ヨングン, 配給会社:クロックワークス, 韓国Leave a Comment on 『 ソウルメイト 』 -リメイク大成功-

『 夜明けのすべて 』 -人は生きた星-

Posted on 2024年3月3日 by cool-jupiter

夜明けのすべて 80点
2024年3月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:上白石萌音 松村北斗 芋生悠
監督:三宅唱

 

『 ケイコ 目を澄ませて 』を三宅唱監督の作品ということでチケット購入。国内作品の年間ベスト候補と言ってよい出来栄えであった。

あらすじ

PMSのせいで感情が不安定になってしまう藤沢(上白石萌音)は、上司への反発や薬の副作用から来る居眠りのため会社を退職する。転職先の栗田科学でも同僚の山添(松村北斗)の無気力な勤務態度に怒りを爆発させてしまうが、彼もパニック障害のため生き辛さを抱えていて・・・

 

ポジティブ・サイド

大昔、看護学校でPMSについて習った記憶がある。なぜなら「私、PMSかも」と言い出す女子が大勢いたから。程度の差こそあれ、エストロゲンやらの各種ホルモンのストームが起きれば、それは肉体にも精神にも多大な影響を及ぼす。人類の半分は女性で、女性の10代から50代ぐらいは、誰でもPMS予備軍と言って差し支えない。これを単なる女性特有のイライラやヒステリーで片づけず、れっきとした病気であると真正面から描いた作品は今作が初めてではないだろうか。劇中のモノローグでもあった通り、診断名がつくことでホッとする人も多いはず。

 

同様のことはパニック障害にも当てはまる。Jovianの仕事の大部分は大学等で教える非常勤講師の指導で、間接的にではあるが、毎年のべ数万人(実数だと約12000人)の高校生や大学生に関わっている。近年圧倒的に多いのは、LD、ADHD、鬱病・双極性障害、パニック障害だと感じる。開講直前、あるいは開講直後から3週間ぐらいの間に学校から要配慮申請が届く。パニック障害は一位ではないが、おそらく心理・精神面での配慮だと3位か4位ぐらい。数にすると毎年10人ぐらいだろうか。なので合理的配慮を要すると学校が判断するレベルのパニック障害は10数人に一人。おそらく配慮は必要としないレベルのパニック障害は百数十人に一人ほどの割合で存在すると考えられる。つまり、それほど珍しい病気ではない。

 

主演の二人の自然体の演技は見事だった。同病相憐れむではないが、お互い病気持ちであることを知った藤沢さんのエールを即座に否定する山添君のナチュラルな無礼さ。そして藤沢さんに不用意に髪をバッサリ切られた時の邪気のない反応。このコントラストに、我々は知らず知らずのうちに山添君をパニック障害というフィルターで見ていたことに気付かされる。

 

本作は光と影の使い方が非常に巧みで印象的。栗田科学のオフィス内、街中で自転車に乗る山添君、そして移動式プラネタリウムの中など、人物の心理的な状態が視覚的に表現されている。といっても明るい=明るい精神状態、暗い=暗い精神状態では決してない。むしろ、タイトルの通りに夜明け前の暗さにこそ希望が宿っていることを示してくれていたように感じる。

 

本作に登場する人物は、誰もが目に見えない傷を抱えている、栗田科学の社長然り、山添君の元上司然り。彼らの傷が癒されることはないのだが、しかし彼らが救われることは可能なのだ。それは直接的な救済ではない。むしろ、自分以外の誰かが救われることで自分が救われる。そうしたことを教えてくれる。藤沢さんと山添君の奇妙な関係も、そうした視点から見つめることで理解することができる。

 

本作は観る側の想像力を喚起しようとする。藤沢さんのお母さんが毛糸の手袋を編むのにどれほどの時間がかかったのか。山添君の同僚の大島さんが何故最後に「外で話したい」と言ったのか。ドキュメンタリー制作を行う中学生のダンの母親は、シングルマザーなのか否か。明確な答えは何も提示されない。我々はただ想像するのみである。それこそが本作の発したいメッセージなのではないかと思う。

 

太陽が西の空に沈むことはない。なぜなら太陽は動かず、地球こそが太陽の周りをまわっているからだ。これは厳然たる科学的事実(ただし厳密には太陽も天の川銀河内を超高速で公転しているし、その天の川銀河も超高速で移動しているのだが)。それでも我々は夜空の星々に意味を見出す。信じられないほどの距離を隔てた星々が、信じられないほどの時間をかけて地球に届けた光を見て、我々は星座を見出し、物語を生み出す。それは、どんなに離れた人間同士でも、お互いを照らし、意味ある関係を生み出せるという希望に他ならない。夜だからこそ見える光があるのだ。

 

ネガティブ・サイド

物語冒頭のモノローグの多用はいただけない。藤沢さんというキャラクターの苦悩を、それこそ回想シーンを通じて想像させるべきで、これを真正面から語ってしまったのは何故なのか。

 

個人的には芋生悠の出番がもう少し欲しかったかな。

 

総評

人間の弱さや儚さを映し出すことで、逆説的に人間の強さや優しさを教えてくれる作品。演技・演出、撮影、照明、音楽・音響のすべてがハイレベル。原作小説をかなりアレンジしているそうだが、発しようとするメッセージは同じなはず。他者に向けるまなざしをほんの少し優しくしようと思えた。2024年度のベスト候補の最右翼。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Polaris

北極星の意。元々は stella polaris = 極の星だったが、stellaが省略されて polaris が定着した。ここでソラリスを思い浮かべた人はラテン語の知識またはセンスがある人。これも sol =太陽に、形容詞化の接尾辞 aris がくっついたもの。ただ日常会話では圧倒的に the North Star を使うことが多い。北極星を Polaris と呼ぶのは天文学的な文脈に限られる。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ソウルメイト 』
『 落下の解剖学 』
『 マリの話 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 上白石萌音, 日本, 松村北斗, 監督:三宅唱, 芋生悠, 配給会社:アスミック・エース, 配給会社:バンダイナムコフィルムワークスLeave a Comment on 『 夜明けのすべて 』 -人は生きた星-

『 ブルーバック あの海を見ていた 』 -母と娘と海を巡る珠玉のドラマ-

Posted on 2024年1月14日 by cool-jupiter

ブルーバック あの海を見ていた 80点
2024年1月7日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ミア・ワシコウスカ ラダ・ミッチェル
監督:ロバート・コノリー

簡易レビュー。

 

あらすじ

海洋生物学者のアビー(ミア・ワシコウスカ)は母ドラ(ラダ・ミッチェル)が脳卒中で倒れたとの連絡を受け、帰郷する。幸いドラは一命をとりとめたが、言葉を発することができなくなってしまった。母の介護のために実家に滞在することになったアビーは、母と過ごした海、そしてそこで友情をはぐくんだ魚、ブルーバックを思い起こして・・・

 

ポジティブ・サイド

オーストラリアの海の美しさが印象的。『 ブレス あの波の向こうへ 』は海の上だったが、本作は海の中をリアリズムたっぷりに映し出してくれる。映像的には少々薄暗いが、実際の海の中はあんな感じ。逆に『 アクアマン 』がいかにファンタジーなのかが分かる。

 

母と娘が海で育む奇妙な絆と、アビーがダイビングのたびに築いていくブルーグローパーとの奇妙な友情が心地よい。家族の物語が環境保護のメッセージと密接にリンクしている。ブルーバックと名付けられたグローパーが、グロテスクながら実はなかなかキュート。どうもCGではなく人形らしい。もちろんモーションキャプチャーは使っているのだろうが、やはりCGには出せない味があった。

 

石垣島やら、辺野古埋め立てやら、日本の状況もオーストラリアと似たり寄ったり。非常にローカルな物語が、実はグローバルな問題提起にもつながっているのだと実感させてくれる。

 

ネガティブ・サイド

物語の構成に難あり。最初の数日は病院に泊まり込み、あるいは近くのホテルに泊まりながら母親を看病する。そして退院できるとなった時に、はじめて実家を訪れて・・・という見せ方にしないと、アビーが回想する過去の出来事の結末が最初にすべて見えてしまっていた。

 

総評

驚きに欠けるドラマではあるが、そのぶん人間そして大自然との関係が濃密に描かれる。それも言葉ではなく映像と音楽で情感豊かに。同じオーストラリア産でも『 TALK TO ME トーク・トゥ・ミー 』は少し波長が合わなかったが、今作では至福の時間を味わえた。1月にして年間ベスト候補であると断言したくなる出来栄えである。できるだけ多くの人に鑑賞してほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

deepest

作中では The sea is deepest here. =「この海はここが一番深い」のような使われ方をしていた。通常、最上級には the がつくが、比較対象が自分自身の場合はその限りではない。

I’m the most energetic in the morning. 
(他にもそういう人はいるが)午前中に一番エネルギーが出せるのは僕だ。

I’m most energetic in the morning. 
僕は(他の時間帯の自分自身に比べて)午前中が一番エネルギーが出せる。

この二つのセンテンスの違いを把握しておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アクアマン/失われた王国 』
『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 ゴーストワールド 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, オーストラリア, ヒューマンドラマ, ミア・ワシコウスカ, ラダ・ミッチェル, 監督:ロバート・コノリー, 配給会社:エスパース・サロウLeave a Comment on 『 ブルーバック あの海を見ていた 』 -母と娘と海を巡る珠玉のドラマ-

『 エクソシスト 』 -信じる者は救われる-

Posted on 2024年1月8日 by cool-jupiter

エクソシスト 85点
2024年1月7日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:エレン・バースティン リンダ・ブレア ジェイソン・ミラー マックス・フォン・シドー
監督:ウィリアム・フリードキン

 

『 怪物の木こり 』の口直しが必要と思い、劇場からの帰り道にTSUTAYAで本作と『 Sダイアリー 』をレンタル。3回目の鑑賞。1回目は多分、小学生ぐらいで、ほとんど覚えていない。2回目は大学4年の頃に仲間数人で観た。なので2001年だったか。

あらすじ

女優クリス・マックニール(エレン・バースティン)の娘リーガン(リンダ・ブレア)は突然、暴力的かつ攻撃的な言動を呈し始める。精神科医に検査・診察させても原因がはっきりしない。途方に暮れるクリスに、医師は悪魔祓いの秘儀を提案して・・・

 

ポジティブ・サイド

『 レイダース 失われたアーク《聖櫃》 』的な発掘現場で見つかる、不思議な像。イラクの古代の遺物を邪教として描くのは時代が時代だからしゃーない。

 

場面変わってアメリカでは、ベトナム戦争末期。『 シカゴ7裁判 』や『 インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 』に近い時代。政治や科学に対する不信が広がっていた時期と言える。そこに信仰という宗教的な営為の是非を問おうとしたのは非常にタイムリーであったはずだし、科学がきわめて高度に発達した現代においても、一定のテーマとして在り続けている。そこらへんが本作が古典たる所以だろう。

 

ディレクターズ・カットを観たが、時代や社会をていねいに描いているという印象を受けた。キャラの台詞やナレーションなどは一切使わず、映像でていねいに見せるという手法に好感を抱く。

 

その後のホラー映画の多くが本作にインスパイアされたと言われているが、ホラー以外も本作に触発されたはず。『 ロッキー 』のトレーニング・シーンのモンタージュの一部はカラス神父のジョギングへのオマージュに見えるし、馬車に乗る老婆は『 スター・ウォーズ 』シリーズのパルパティーン皇帝のモデルになったのではないかとも感じる。ラテン語を話す悪魔という設定は『 エミリー・ローズ 』が借用した。クリス邸の前の階段は『 ジョーカー 』でホアキン・フェニックスが踊り狂った階段、こちら側とあちら側を隔てる境界のように見えた。

 

悪魔に憑りつかれたリーガンを丹念に科学・医学の面からアプローチしていくことで、これが単なる疾患ではなく超常現象なのだということが明らかになっていく。一方でクリスの友人でもあるバークが死亡してしまうこと、医学を超えた警察沙汰にもなる。このあたりのバランスの取り方も上手い。ホラーとサスペンスの間を巧みに行ったり来たりすることで、観る側も信仰と理性の間を行ったり来たりすることになる。バークの死の真相についても、カラス神父の壮絶な最後のシーンから、別の可能性が浮かび上がってくる。このあたりの何が真実なのか惑わせる作風、理性的に考えるのか、それとも超常現象を認めるのかというのが本作の一貫したテーゼになっている。

 

本作をホラーの金字塔たらしめる数々の印象的なシーン、たとえばリーガンが緑色の吐しゃ物を吐くシーンや首をぐるりと180度回転させるシーン、さらに空中浮遊するシーンや、劇場公開時にはカットされてしまったスパイダー・ウォークのシーンなどは今見ても十分に怖い。むしろ過剰な効果音やCGが一切使われていないことで不気味さが増しているとすら言える。

 

冒頭のメリン神父の再登場によって、ついにカラス神父も悪魔祓いに参加。二人でリーガンに対峙するも、精神疾患によって息子を認知できなくなった母親の幻影を見せられたカラスが退場、一人残ったメリン神父は死亡。カラス神父の母の旧姓を答えられなかったリーガンが、その母の幻影を見せてくるという精神攻撃、さらに元々持病で服薬が欠かせなかったメリン神父の死因な何かなど、観る側の理性をとことん揺さぶる展開には恐れ入った。

 

最後にカラス神父の同僚のダイアー神父が、例の階段を下りることなく振り返るシーンで物語は締めくくられる。ダイアーは信じたのだろうか?見上げるメリン神父、見下ろすダイアー神父という対比から考えれば信じなかったのだろう。しかし、カラス神父の最後の懺悔を聞いたのもダイアー神父だった。彼が振り返った先にいるのが我々鑑賞者だとすると、ベタな表現ではあるが、解釈は観る側に委ねられたのかもしれない。

 

ネガティブ・サイド 

ほとんど非の打ち所がない作品だが、リーガンが十字架で局所を思いっきり刺すシーンの後、医者を呼ばなかったのだろうか。精神科ではなく小児科あるいは外科をも巻き込むシーンがあっても良かったのにと思う。

 

総評

人間ドラマとしてもホラーとしても素晴らしい。続編の『 エクソシスト 信じる者 』がホラーよりも人間ドラマを重視したのは、オリジナルへのオマージュと、ホラーとしては勝てないという二つの理由からだったのか。また20年後に鑑賞してみたい。その頃には悪魔は宇宙開発ではなくゲノム編集などを呪っているのだろう。本作はそういう見方ができる、つまり時の経過にも充分に絶えうる作品で、だからこそ古典と呼んで差し支えないと思う。

 

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Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

I beg your pardon?

劇中で2~3回使われたかな。意味は「もう一度おっしゃっていただけますか?」という、丁寧なもの。しかし、相手に復唱をお願いする意味以外に、文脈によっては「今何て言ったコノヤロー」的なニュアンスにもなるので注意。使うならフォーマルな場に限定しよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 ゴーストワールド 』
『 ブルーバック あの海を見ていた 』

 

現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

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Posted in 映画, 海外Tagged 1970年代, A Rank, アメリカ, エレン・バースティン, ジェイソン・ミラー, ヒューマンドラマ, ホラー, マックス・フォン・シドー, リンダ・ブレア, 監督:ウィリアム・フリードキン, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 エクソシスト 』 -信じる者は救われる-

『 キリング・オブ・ケネス・チェンバレン 』 -サスペンスの極北-

Posted on 2023年9月25日2023年9月25日 by cool-jupiter

キリング・オブ・ケネス・チェンバレン 80点
2023年9月24日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:フランキー・フェイソン
監督:デビッド・ミデル

 

妻が「面白そう」というので、チケットを購入。ハズレが少ないシネ・リーブル梅田の上映作品だが、本作は年間ベスト級の面白さだった。

あらすじ

心臓病を抱えるケネス・チェンバレン(フランキー・フェイソン)は、誤って救命救急サービスのアラームを作動させてしまう。それによってケネスの自宅に警察官が急行し、ケネスの安否を確認しようとするが・・・

 

ポジティブ・サイド

舞台はケネスの自宅室内とアパートのホールウェイ。主な登場人物は、ケネスと最初に現場に急行する警察官3名、ライフ・ガード社の女性オペレーター1名、そしてケネスの姪っ子一人と、非常に小規模な作品。しかし、そこに流れる空気の濃密さはそんじょそこらの映画の比ではない。

 

最初は職務に忠実にケネスの安否を確認しようとする警察官たち。しかしケネスが黒人、元海軍兵、さらに精神障害の既往歴ありという属性を知るにつれて、どんどんと過激化していく。黒人ということは犯罪者予備軍ではないか。海軍ということは武器を所有しているのではないか。まるで『 福田村事件 』のように、疑心暗鬼がいつの間にか確認に変わり、法執行官の代表たる警察官がいとも簡単に法を破っていく。そこに至るまでの過程が『 デトロイト 』そっくりだが、『 デトロイト 』では銃声というトリガーがあった。しかし、本作では警察官の暴力性を引き出す契機は何もなし。そのことが観る側に恐怖感を呼び起こす。単に暴力的になっていくから怖いのではない。職務に忠実であろうとする姿勢が、いつの間にか他者を傷つけることを厭わない姿勢に変わっていくことが恐ろしい。そういう意味では本作は『 ヒトラーのための虐殺会議 』に近いものがある。これは極端な例かもしれないが、哲学者ハンナ・アーレントが見抜いたように、人は凡庸な悪にこそ支配されてしまう。その過程をわずか数十分で臨場感たっぷりに描いた点が本作の一番の貢献と言えるかもしれない。

 

ケネスを演じたフランキー・フェイソンの迫真の演技には息を呑むばかり。双極性障害の持ち主にして、軽いPTSD持ちにも見えた。彼の脳裏に去来したであろう様々な体験を一切映像化することなく、観る側にそれをありありと想起させる演技力と監督の手腕は見事の一語に尽きる。ライフ・ガード社のオペレーターの女性の声だけの迫真の演技も印象的。中学校教師上がりの警察官ロッシの個人としての信条が、警察という階級組織の中で簡単に押しつぶされていく様もリアルだった。

 

タイトルの通りに最後にケネスは殺害されてしまうわけだが、その結末には慄然とさせられる。法とは何か。人命とは何か。何が我々を狂わせるのか。何が我々を思考停止に陥らせるのか。本作が示唆する問題はアメリカだけに限定されたものでは決してない。

 

ネガティブ・サイド

エンドロール時に本物のケネスや警察官たちの声が聞こえるが、警察官たちは暴力的というよりも、ケネスをおちょくるような口調だったと感じた。であるならば、そのような口調を再現し、それをケネスが威圧的、高圧的、威嚇的と受け取ってしまう、のような演出を模索できなかったか。あるいは、エンドロールの実在の人物たちの声はすべてカットしてしまうのも一つの選択肢だっただろう。

 

総評

間違いなく年間ベスト候補の一つ。非常に限定的な時間と空間、そして人間関係だけで圧倒的なドラマを生んでいる。大量破壊兵器を持っていないのに、あたかも持っているかのように振る舞ったイラクは空爆されてしかるべきだった。ウクライナ戦争以降、このような言論が耳目に入ってくるが、どう考えてもアメリカの方が悪い。疑わしきは罰せずというのが人類のたどり着いたひとつの結論であるはずだが、個人レベルでも国家レベルでも疑惑を確信に変えて行動してしまうアメリカには決して倣ってはならない。やることなすこと全てアメリカの猿真似の本邦も、本作や『 福田村事件 』を直視しなければならない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

make sure

しばしば S1 make sure that S2 + V のような形で使う。意味は、S2がVするとS1が確認する。まあ、これは例文で覚えたほうが早い。

 

She made sure that the door was locked and the windows were closed.
彼女はドアが施錠されていて、窓も閉じられているということを確認した。

I want to make sure that this assignment is due next month.
この課題は来月が締め切りであると確認したい。

 

のように使う。初級者から上級者まで日常でバンバン使う表現なので、ぜひ覚えておこう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アリスとテレスのまぼろし工場 』
『 ほつれる 』
『 BAD LANDS バッド・ランズ 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アメリカ, サスペンス, スリラー, フランキー・フェイソン, 伝記, 監督:デビッド・ミデル, 配給会社:AMGエンタテインメントLeave a Comment on 『 キリング・オブ・ケネス・チェンバレン 』 -サスペンスの極北-

『 福田村事件 』 -100年前と思うなかれ-

Posted on 2023年9月9日 by cool-jupiter

福田村事件 80点
2023年9月2日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:井浦新 田中麗奈 永山瑛太
監督:森達也

大学後期の開講直前につき簡易レビュー。

 

あらすじ

1923年、智一(井浦新)は朝鮮半島から故郷の福田村に妻の静子(田中麗奈)とともに帰ってくる。一方、讃岐から来ていた沼部新助(永山瑛太)率いる行商団15名は、薬売りをしながら千葉へと向かっていた。やがて関東大震災が発生。一帯は混乱に陥り、朝鮮人が攻めてくるとの噂が飛び交い、人々は疑心暗鬼に陥り・・・

ポジティブ・サイド

本作について、なにかをクドクドと言う必要はない。2020年に自分のFacebookで以下のように投稿したことがある。

_______________________________________

米ウィスコンシン州の警察官による黒人銃撃事件を報じるYahoo Japanニュースのコメント欄が恐ろしいことになっている。「銃を取りに行っているように思われても仕方がない」「黒人は元々犯罪率が高い」「白人でも普通に撃たれる案件」「警察の制止を無視する方が悪い」等々。世論を何らかの方向に誘導したい勢力に雇われているのか、それとも本気でそう思っている人間が一定数存在しているのか。すべてがステレオタイプにまみれた意見で、ジェイコブ・ブレイクという個人がどんな人間だったかということに全く関心がないらしい。

いくら銃社会のアメリカでも、『無抵抗』で『丸腰の人間』を『後ろから』、『7発』撃つ理由は見当たらないだろう。相手を無力化させるのではなく殺すことが目的の行動としか解釈できない。

黒人が殺された、ではなく、無抵抗の人間が殺された、ということに恐怖を感じる人間が、日本ではマイノリティであるらしい。そのことに戦慄させられる。「なんでもかんでも人種差別に結び付けるな」というエクストリーム意見もあるようだが、そういう人間の頭をカチ割って中身を見てみたい。人種差別云々ではなく、人を人とも思ってない所業が繰り返されてることに何か感じひんのかなあ・・・ 人種差別ではなく人間差別になってるとは思わんのかな・・・ アメリカのこの手の問題の根っこはracismではなくdehumanizationになりつつあると感じる。

_______________________________________

 

これが本作の問題提起そのもの。なんでもかんでもアメリカに追従する日本だが、実は人間差別という点ではアメリカに先んじていたのかもしれない。そこから日本人は進歩したと言えるのか。本作が問うのはそこである。

 

ネガティブ・サイド

東出の間男っぷりが現実とリンクしているのは一種のブラックジョークなのだろうか。当時の風俗習慣を垣間見る上では興味深いのだが、虐殺とそこに至るまでの社会的な混乱を描く上では不必要な要素に思えた。東出絡みのシーンはすべてカットして、120分ちょうどに収めてほしかった。

 

総評

Jovianも〇万円をクラファンに投じた作品が満を持して公開。実はクレジットにも名前が出ている。なぜ今、100年前の話なのか?と問うなかれ。これは現代の物語である。現代日本が持つことができずにいる多様性、その原因の根っこが本作で明らかにされている。日本人とそれ以外の人間に分けて考えるという二項対立的な思考がそれだ。それを一気に打ち砕く新助の言葉と、そこから始まる虐殺シーンの凄惨さは近年の邦画の中でも出色の出来。『 主戦場 』に並ぶ傑作。今という時代に本作を製作・公開した森達也監督の炯眼に満腔の敬意を表したい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

vigilante

2017年にシネ・リーブル梅田にて『 ビジランテ 』というタイトルの映画が上映されていた。意味は「自警団」である。form a vigilante = 自警団を組む・組織する、のように使う。ただ、自警団は往々にして組むこと自体が違法もしくは非合法であることを忘れてはならない。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ヴァチカンのエクソシスト 』
『 アステロイド・シティ 』
『 さらば、わが愛 覇王別姫 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, スリラー, 井浦新, 日本, 歴史, 永山瑛太, 田中麗奈, 監督:森達也, 配給会社:太秦Leave a Comment on 『 福田村事件 』 -100年前と思うなかれ-

『 658km、陽子の旅 』 -年間ベスト候補-

Posted on 2023年8月9日 by cool-jupiter

658km、陽子の旅 80点
2023年8月6日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:菊地凛子
監督:熊切和嘉

簡易レビュー。

 

あらすじ

陽子(菊地凛子)は従兄弟から父親の死を知らされる。葬儀のために青森に向かうという従兄弟の一家のクルマに同乗させてもらうが、アクシデントにより陽子はSAに取り残されてしまう。なんとか青森に向かうために、陽子はヒッチハイクを試みるが・・・

ポジティブ・サイド

クルマの中という一種の密室で虚飾のない人間の思考や感情が表出される。自分の部屋の中ですべてを完結させてきた陽子にとって心理的にキツイ時間と空間だ。そうして苦しさに耐えかねていたのが、やがて受容できるようになり、最後には自分自身の嘘偽りのない心情を吐露できるようにまでなった。その過程で出会う人々、彼ら彼女らとの関わり方、描き方がとてもリアルだった。

 

本作の特徴は徹底的に傍観者の視点を観客に与え続けること。しかし、ある一つのシーンだけは陽子の視点となる。そこが物語、そして陽子の心理的な転換点。そのシーンを境に陽子を苦しめていた父の亡霊は姿を消す。これは上手い演出だと感じた。

 

終盤のとある車内で、自らの旅について訥々と語る陽子には感動した。

 

引きのショットと孤独感、孤立感を演出しつつ、BGMで陽子の心情を奏でる。2023年のベストの邦画のひとつだ。

 

ネガティブ・サイド

『 スリー・ビルボード 』と同じ。余韻を残す前にもう1分欲しかった。

 

総評

中年女性のロードムービーと侮るなかれ、近年の邦画の中でも出色の出来映え。菊地凛子の渾身の演技の完成度は『 TAR/ター 』のケイト・ブランシェットのそれに勝るとも劣らない。老若男女問わず、多くの映画ファンに観てもらいたい傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

journey

旅を意味する英単語には travel や trip があるが、本作の陽子の旅を意味する語としては journey がふさわしい。travelは移動そのものが強調され、tripはいつもと少し違うところに行く(だからドラッグ体験を指してトリップと言う)ことだが、journeyはその旅を経ることで成長できるような体験を指す。英検1級を目指す、あるいは英語を本格的に教える人は知っておきたい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 神回 』
『 セフレの 品格 プライド 』
『 リボルバー・リリー 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 日本, 監督:熊切和嘉, 菊地凛子, 配給会社:カルチュア・パブリッシャーズLeave a Comment on 『 658km、陽子の旅 』 -年間ベスト候補-

『 ミッション・インポッシブル フォールアウト 』 -シリーズの最高作-

Posted on 2023年7月29日 by cool-jupiter

ミッション・インポッシブル フォールアウト 80点
2023年7月19日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:トム・クルーズ 
監督:クリストファー・マッカリー

大学の前期が終了しつつあり、また繁忙期になってきたが、本作を復習鑑賞する時間は確保した。

 

あらすじ

プルトニウム回収のミッション達成間際、イーサン・ハント(トム・クルーズ)と仲間たち何者かにプルトニウムを奪われてしまう。「シンジケート」の残党によって構成される「アポストル」の関与が疑われ、ジョン・ラークという男が捜査線上に浮上する。ラークと接触するという謎の女、ホワイト・ウィドウに接近しようとするハントに、CIAのエージェントのウォーカーが監視目的で同行してきて・・・

 

ポジティブ・サイド

本作の売りは息を呑むようなアクション・シークエンスの数々。パリでのバイクチェイスは隠密を命とするスパイにあるまじき行動だが、最後にはスパイらしくちゃっかりと逃げ延びてしまう。ロンドンでの建物の屋上をひたすら全力疾走するシーンはトム・クルーズの真骨頂。パキスタンのヘリコプターアクションはマーヴェリック並みの操縦の腕前を発揮。最後の山肌での決闘では『 M:I-2 』の謎の冒頭シーンの伏線回収と、まさにシリーズの集大成とも言うべき作品だ。

 

とにかくアホかと言うぐらいにアクションがてんこ盛り。CGには極力頼らず、スタントマンもほとんど使わず、トム・クルーズがトム・クルーズ自身をプロデュースする作品なのだが、それでもべらぼうに面白い。理由は簡単でイーサン・ハントの人間性がこれまでよりもはるかに鮮明になったから。はからずも長官自身が語るように、世界の命運よりも一人の仲間の命を重んじてしまうがゆえに、エージェントとして、一人の人間として信頼できる。観ているこちらもIMFの一員になった気持ちにさせられる。これまでの作品もそうなのだが、本作は特にそうだ。


終盤のパキスタンでは人間イーサン・ハントを最も色濃く出してしまう人物が登場する。この瞬間に、イーサン・ハントの使命感ではなく生き様が爆発する。絶対不可能なミッションを達成したハントが満足するのは、数十億の命が救われたことよりも、自らに近しい数名が救われたことだった。冒頭のマッド・サイエンティストを騙すシーンとの対比になっている点も素晴らしい。修身斉家治国平天下という言葉がある。自分を律して自分の周囲を安全安心にしていけば、それが最終的に世界平和につながる。イーサンは確かに英雄的な人物だが、その生き様は実は多くの人間にとって、実は achievable なのではないか。

 

ネガティブ・サイド

CIAが間抜けすぎる。というか、何をシレっと美味しいとこどりをしているのか。普通に考えれば長官のクビが飛ぶ案件では?『 グレイマン 』でも感じたが、CIA長官はアメリカ大統領より偉いのか? 

 

総評

これまでも仲間想いだったイーサンというキャラクターが、明確に仲間 > 任務という姿勢を明確にする。その一方で、仲間というファミリーと本当のファミリーの対比も描かれ、スパイとしてのスーパーアクションと人間としての内面の葛藤の対比も浮き彫りになった。アクションとドラマという二つの異なる要素が互いを引き立て合うという素晴らしい脚本と演出。新作は本作を超えられるのだろうか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

crystal

結晶という意味だが、会話の中では crystal clear = 結晶のようにクリアである、という風に使うことがある。あるいは省略して crystal とだけ答えることもある。劇中では

ハント:Is that clear?
ウォーカー:Crystal.

と使われていた。そういえば『 ア・フュー・グッドメン 』でアンソニー・ホプキンスに “Are we clear?” と詰め寄られたトム・クルーズも “Crystal.” と返答していたなあ。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE 』
『 658km、陽子の旅 』
『 神回 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アクション, アメリカ, トム・クルーズ, 監督:クリストファー・マッカリー, 配給会社:東和ピクチャーズLeave a Comment on 『 ミッション・インポッシブル フォールアウト 』 -シリーズの最高作-

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