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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』 -自分らしさを弱点と思う勿れ-

Posted on 2025年6月30日 by cool-jupiter

ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 80点
2025年6月28日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:キム・ゴウン ノ・サンヒョン
監督:イ・オニ

 

なぜか近所の松竹系劇場が土日は本作を上映しない。仕方がないのでTOHOシネマズへ向かう。

あらすじ

ゲイであることを隠しながら生きるフンス(ノ・サンヒョン)は、奔放に生きるジェヒ(キム・ゴウン)と友人になる。互いの恋愛事情には干渉することなく友情を深めていく二人。そして条件付きで同棲することなっていくが・・・

ポジティブ・サイド

男女の友情は成立するのかという問いは古今東西で常に論じられてきたように思う。本作はその命題に対して一定の解を示したと言える。

 

刹那的に生き、恋に恋するタイプのジェヒと、ゲイであることが劣等感になってしまっているフンスが、友人関係になっていく過程が面白い。互いが互いを気に掛けるべき存在であると認識していくが、そこを言葉ではなく表情や動作でじっくりと描いていく。特に、ライターを小道具としてうまく使っていて、あるクラブのシーンでは唸らされた。

 

同居のきっかけにも説得力がある。いや、事件自体は( ゚Д゚)ハァ?というものだが、だからこそジェヒの家にフンスが引っ越してくるのだという話の流れは十分に首肯できるものだった。

 

普通ではない二人が同居しながらも、互いの恋愛事情には決して踏み込んでいかない。その距離感が絶妙だ。そして、それぞれが語り、そして歩んでいくロマンスの道も甘く、しかしほろ苦い。

 

「執着することが愛だというのなら、自分はまだ愛したことがない」というフンスは、大学やクラブで刹那的な情事にかまけていく。一方で、その相手に徐々に依存し、執着していくようになっていくことに無自覚だ。その自分の心境の変化を数年かけてじっくり描き出していく。初恋は実らないというが、失って初めて「自分は執着していたんだな」と思える関係性は、対象が異性であれ同性であれ、美しいにちがいない。

 

「自分らしさがなぜ弱点なのか」というジェヒの恋模様もかなりビター寄りのビタースイートだ。クラブで夜な夜なヒャッハーしつつ、学内でしっかりステディも作る。しかし・・・、この展開は見るに堪えないというか、かなりしんどい。特にある事件で年配女性がジェヒがなじられるが、まさに自分らしさを弱点・欠点扱いされ、さらにそれはジェヒの罪ではないというシーンは本当に胸が痛んだ。

 

大学に馴染めない二人が一般社会でも馴染めるわけがなく、ジェヒは就職先の会社内で職制と序列に適応できず、フンスは就職自体できない。そんな中でも二人の同居生活は続いていく。大都市という人だらけであるがゆえに孤独が強調されてしまう環境で、同病相哀れみ、肝胆相照らす仲の人間がいることがどれだけ心強いことか。

 

母にカミングアウトできないフンスの物語では『 君の名前で僕を呼んで 』がガジェットとして登場する。韓国における映画の影響力と、韓国国民の感受性の高さを感じさせるサブプロットが非常に興味深かった。

 

ジェヒもジェヒでクズ男吸引体質とでも言おうか、まったく報われない関係にばかり身を投じてしまうのが痛々しい。しかし、それを救ってくれるのが、かつて同じようなシチュエーションに駆けつけてくれなかったフンス。このシーンでは正直ちょっとウルっと来てしまった。

 

映画のエンディングでは、劇場のあちこちでお一人様女子たちのすすり泣きが聞こえた。明るくなってから気付いたが、驚きの女子率だった。それも女子同士のペアかお一人様。男女で来ていたのはパッと見でJovian夫妻以外には3組程度だったか。本作が以下に女性に訴求力を持っているのかを垣間見たように思う。

 

ネガティブ・サイド

タバコが意味あるガジェットとして頻繁に用いられるが、フンスとジェヒが二人同時に吸うシーンがなかったのは意外。Jovianは学生時代、仲の良かったドイツ人女子やアルゼンチン人女子とよく一緒にタバコを吸っていたし、彼女たちが帰国する前日には、互いに火をつけたタバコを交換したりもした。間接キスなのだが、そんなことは全く気にならなかった。そんな友情のシーンを見てみたかった。まあ、これは個人的すぎる願望か。

 

総評

傑作である。ステレオタイプであることを承知で言うが、男であるJovianがこれほど感銘を受けるのなら、自分らしさというものに苦しめられる女性なら、もっと力強さや励ましや肯定感を与えられるだろう。観客の反応がそれを如実に物語っている。自分らしさを肯定してくれる人が一人でもいれば、そして誰か一人に執着するような人生の一時期があれば、それはきっと不幸な人生にはならないはず。そう思わせてくれる作品だった。

 

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

パリパリ

早く早く、の意。『 ベテラン 凶悪犯罪捜査班 』でも紹介した表現。韓国人のせわしない気質をよく表した、映画やドラマでおなじみの表現。関西人ならこの感覚が肌でわかることだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 28年後… 』
『 フロントライン 』
『 この夏の星を見る 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, キム・ゴウン, ノ・サンヒョン, ヒューマンドラマ, 監督:イ・オニ, 配給会社:KDDI, 配給会社:日活, 韓国Leave a Comment on 『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』 -自分らしさを弱点と思う勿れ-

『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

Posted on 2025年6月23日 by cool-jupiter

JUNK WORLD 80点
2025年6月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:堀貴秀
監督:堀貴秀

 

『 JUNK HEAD 』の続編にして前日譚。良い意味で「ぼくのかんがえたさいきょうのエスエフ」的な仕上がりになっている。

あらすじ

地下世界の開拓のため、人類は人工生命マリガンを創造する。しかし、マリガンはクローンで自己増殖し、人類に反旗を翻した。停戦に合意した両者だが、地下世界に異変が生じる。調査のために人類はトリスを、マリガンはダンテを派遣し、両者が合同チームを組むが・・・

ポジティブ・サイド

マリガンだらけだった前作とは打って変わって、人間とマリガン、ロボット、そして異次元の存在と一気に世界が拡張され、カラフルになった。しかし、物語の根底にあるのは堀貴秀の数々の先行作品へのオマージュ。ここは前作と変わっていない。

 

有機的な頭脳を持つロボットのロビンと、その主人であるトリスの関係が面白い。堀貴秀はミューズを得たようである。まず『 バック・トゥ・ザ・フューチャー 』と『 バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2 』を下敷きにしつつ、『 ターミネーター 』と『 ターミネーター2 』の要素も盛り込んでいる。ロビンの壮大な旅路は、個人的にはうえお久光の小説『 紫色のクオリア 』にインスパイアされたのではないかと感じた。

 

ゴニョゴニョで鑑賞したが、韓国語っぽい発話、フランス語っぽい発話に加えて、日本語のコマーシャル的なキャッチフレーズやらハリウッド映画や俳優の名前がアホぐらい出てきた何度も笑ってしまった。個人的にはビートルジュースと聞こえてきたのは、Beetle Juiceだったのか、Betelgeuse(有名な恒星)だったのか気になる。

 

今回は三馬鹿トリオではなく、トリス、ダンテ、ロビンの凸凹コンビ+1となるだろうか。というよりもロビンの変身と、世界創生、そして時間への旅路とその使者の物語が幕ごとに明らかにされ、意味不明だった物語がひとつまたひとつと意味をなしていく過程が刺激的だった。

 

前作の『 BLAME! 』的な世界観から一転して、ハインラインの『 夏への扉 』(原作小説の方)やアシモフの『 最後の質問 』的な拡張的な世界が現出した。ここからどうやって地下世界に回帰して、そこから地上世界へ帰還するのか。楽しみで仕方がない。第三作が今から待ちきれない。

ネガティブ・サイド

シリーズの一貫したテーマの一つが生殖であるはず。それを茶化すようなシーンがあったのは残念。大使がアワビ(的なもの)を貪り食う、とかならまだ許容できたかも。

総評

期待していた作品とは違っていたが、これはこれで面白いし、鬼才が仕事を辞め経済的な支援を得ても、そのユニークなクリエイティビティが全く衰えていないことに安堵した。トリスはロビンのみならず、堀貴秀氏自身のミューズでもあるのだろう。では、次作でパートンは自身のミューズと出会い、愛を成就=生殖ができるのだろうか。もはや期待しかない。2028年ぐらいには観たい。クラファンはどこでしているのか?数万円ならすぐにでも投資したいところだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

worship

崇拝する、崇敬する、崇めるの意。宗教的な文脈で使われるが、冗談めかして使うこともできる。If you get this job done by Friday, I’ll worship you. のように、親しい同僚などに言ってみるといいだろう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』
『 脱走 』
『 28年後… 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, SF, アニメ, 堀貴秀, 日本, 監督:堀貴秀, 配給会社:アニプレックスLeave a Comment on 『 JUNK WORLD 』 -鬼才は死なず-

『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

Posted on 2025年6月15日2025年6月15日 by cool-jupiter

国宝 80点
2025年6月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:吉沢亮 横浜流星
監督:李相日

 

李相日監督作品ということでチケット購入。3時間が苦にならない重厚長大なドラマだった。長引く風邪と仕事の突発的な事案のため簡易レビュー。

あらすじ

極道の父親を失った喜久雄(吉沢亮)は、歌舞伎役者の家に引き取られ、そこで兄弟同然の仲となり習性のライバルとなる俊介(横浜流星)と出会う。歌舞伎の道に邁進する二人だったが、やがてある出来事が転機となり、袂を分かつようになり・・・

ポジティブ・サイド

喜久雄が任侠の跡取り息子から国宝に成り上がるまでの50年間は見応え抜群。歌舞伎の良し悪しは判断しかねたが、役者が役者を演じることの重みは十分に伝わってきた。

 

順調にキャリアを積み上げてきた喜久雄が、思いがけず転落していく最中で見せた屋上での踊りは『 ジョーカー 』を髣髴させた。

 

本作のテーマは、芸とは才か血かというもの。もちろん、この命題に絶対の答えなどない。ただ本作は、才の極みが血を残すのかどうかについて興味深い視点を提供したとは言える。

 

劇中劇の中でも特に『 曾根崎心中 』が良かった。Jovianの出身地の尼崎は近松門左衛門と縁が深く、近松公園は散歩コースかつ時々縁台将棋にも参加させてもらっている。また、死ぬことになる遊女のお初は、梅田近辺にオフィスを持つ企業のサラリーマンなら、露天神社で一度は目にしたことがあるはず。舞台も大阪だし、大阪人や大阪近辺の人間こそ鑑賞すべき作品である。

ネガティブ・サイド

時代のせいだと言えばそれまでだが、女性キャラがそろいもそろって物語上のガジェットのようだった。なぜそこでその男に惚れる?なぜそこでその男についていく?そんな疑問だらけ。

 

また糖尿病もある意味で大活躍。確かに1980年代、1990年代は40代以上の男性の10人に1人(100人に1人ではない)は糖尿病予備軍だと言われていたが、糖尿病悪化で吐血?会社員ではないが、お前ら年に一度の健康診断ぐらいは自腹で受けろ、と感じた。

総評

ある意味、顔で生きてきた吉沢亮が、遂に本物の代表作を手に入れた。歌舞伎という誰もが知りながら、誰も知らない世界をこれほど活写した作品はこれまでなかったし、これからも出てこないだろう。『 ハルカの陶 』の国宝はあまり国宝らしくなかったが、本作の描く人間国宝は国宝の輝きを放っている。ぜひとも大画面、大音響の劇場で鑑賞を。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Living National Treasure

ナショナル・トレジャーといえばニコラス・ケイジを思い出すが、これに living をつけることで、生きている国宝、すなわち人間国宝を意味する。Jovianが知っている人間国宝は中村吉右衛門以外では桂米朝、金重陶陽、藤原啓ぐらい。皆さんが思い浮かべる Living National Treasure は誰だろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 金子差入店 』
『 ぶぶ漬けどうどす 』
『 JUNK WORLD 』

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 吉沢亮, 日本, 横浜流星, 監督:李相日, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 国宝 』 -歌舞伎役者の人生を活写する傑作-

『 RRR 』 -劇場再鑑賞-

Posted on 2025年4月29日2025年4月29日 by cool-jupiter

RRR 85点
2025年4月27日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:N・T・ラーマ・ラオ・Jr. ラーム・チャラン
監督:S・S・ラージャマウリ

 

『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』に触発されて再鑑賞。

あらすじ

1920年、英国植民地下のインド。英国人に買われていったマッリを救おうとするビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr.)と、英国政府に仕え、インド人暴徒を鎮圧する警察官ラーマ(ラーム・チャラン)。二人は事故に巻き込まれた少年を協力して救ったことから無二の親友となる。しかし、お互いが自分の使命を果たさんとする時、遂に二人は激突することになり・・・

ポジティブ・サイド

自分の過去の鑑賞記事を読んで、「インドの映画人は自らのビジョンを具体化するのに一切躊躇がない。これはS・S・ラージャマウリ監督だけかな」という記述に出くわす。ビジョンは『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』のキーワード。それを読み取れていた自分を褒めてやりたい。

 

面白いシーンは何度見ても面白い。メイキングのドキュメンタリーを鑑賞したことで、BGMや美術の仕事にも注目できたし、CGかと思わせて、実はオーガニックな手法で生み出されていたシーンには改めて目を奪われた。特に火と水が文字通りにぶつかり合う庭園での激突シーンは鳥肌ものだった。

 

その一方で再鑑賞することで見えてきたものも多数あった。ちょっとした台詞が伏線になっていたり、とある構図がその後に少し形を変えて再現されたり。特に感じ入ったのはシータとラームのやりとり。彼女がとっさに機転を利かして英兵を追い払ったことが「お前の勇気が私の勝利につながる」という台詞の実現だったと気付いて唸った。

 

友情と使命のせめぎ合いと、互いの協力による超絶アクション。Blu-rayの購入は待ったなしである。あともう一回くらい劇場鑑賞したい。

ネガティブ・サイド

ジェニーとスコット夫妻の関係が何であるのかを明示してほしかったと思う。

 

総評

塚口サンサン劇場では終映後に拍手が自然発生していたし、劇場の外でもすべての観客の顔に笑顔が見られたし、なんやかんやと映画の感想を語り合うナードたちの姿も見られた。異例のロングランは固定客も新規ファンもどちらも喜ばせているようである。日本は近代への移行の最終盤が無血だったり、植民地支配も免れてきたが、世界の多くの国はそうではないと知るべきだ。本作は超絶エンターテイメントでありながら、歴史の教科書にもなりうる大傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Don’t call me Madam.

「私をマダムと呼ばないで」の意。callはしばしば call A B の形でAをBと呼ぶという意味になる。ニックネームがある人は Call me ニックネーム と言って、そのニックネームで呼んでもらうと良い。Don’t call me junior! がどの映画の誰のセリフか分かれば、あなたはハリソン・フォードのファンである。 

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 異端者の家 』
『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』
『 ゴーストキラー 』

 

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, N・T・ラーマ・ラオ・Jr., アクション, インド, ラーム・チャラン, 歴史, 監督:S・S・ラージャマウリ, 配給会社:ツインLeave a Comment on 『 RRR 』 -劇場再鑑賞-

『 教皇選挙 』 -2020年代を予見した作品-

Posted on 2025年3月25日2025年3月25日 by cool-jupiter

教皇選挙 80点
2025年3月23日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:レイフ・ファインズ
監督:エドワード・ベルガー

 

元・宗教学専攻として興味を惹かれ、チケット購入。

あらすじ

教皇が亡くなり、新たな教皇を選出するため世界各地から枢機卿がバチカンに集った。教皇選挙=コンクラーベを取り仕切るローレンス(レイフ・ファインズ)は旧知のベリーニを推そうとする。そんな中、カブールからベニテスという枢機卿がやって来て・・・

 

ポジティブ・サイド

礼服を身にまとった聖職者たちが一堂に会し、選挙という名の一種の派閥構築と権力闘争に勤しむ姿は、それだけで非常に cinematic だった。英語、ラテン語、イタリア語などが飛び交うのも楽しめた。

 

有力者が票を伸ばしながらも得票多数には至らず、逆にスキャンダルの発覚により失脚していく。『 スポットライト 世紀のスクープ 』を思い出す人も多いだろう。聖職者は性職者などと揶揄されても仕方がないスキャンダルだった。また権謀術数も駆使され、米大統領選でもここまでほじくり返すかと思われるような過去の詮索もあり、選挙=戦争であるというベリーニの叫びは真実であると実感させられる。

 

主人公のローレンスはコンクラーベを恙なく執り行うために奔走するが、その様子をつぶさに見るにつけ、結局は人種や地域の壁を人間が超えることは難しいのだと思わされる。序盤で「英語を話す者は英語を話す者と、イタリア語を話す者はイタリア語を話す者とくっつく」と言われるが、結局はカトリックもバベルの塔の崩壊後の姿のままということか。

 

ローレンスは「確信こそが最大の敵であり、確信してしまえば mystery が存在せず、すなわち信仰も存在しなくなる」と語る(mysteryの字幕は何だったのだろう)。これは多くの現代人が肝に銘じておくべき言葉だと感じた。「公職選挙法に違反していないと認識している」とアホの一つ覚えのように繰り返す兵庫県知事などはこの最たる例で、確信=思い込みは罪になりうるのだ。

 

終盤に大事件が起き、外部から遮断されるべきコンクラーベも中断を余儀なくされる。そこで枢機卿たちによって交わされる議論が本作の核心。ローマ・カトリックの繁栄はレコンキスタや十字軍、さらには大航海(という名の間接的侵略と武器の売買)によってもたらされたものだという歴史的事実を完全に無視した妄言、そしてそれを静かに打ち砕く言説には震えた。

 

最後にローレンスはとある秘密を知ってしまう。その秘密を彼はどう受け止めたのか。奇妙な舞台装置がここに投入されるが、劇中でのとある会話とローレンスが最後に取った行動を合わせて考えれば、その真意は推察できる。

 

10年前のテイラー・スウィフトの東京ドームでのコンサートに行ったが、そこでテイラーは “You are not your mistakes.” だと語ってくれた。今やっとその意味が分かったような気がする。劇中でとある人物が言う “I am *******” と、本質的に同じ意味だったのだ。 

ネガティブ・サイド

アジア系の枢機卿もいたが、ほんの一瞬映ることが2回あったぐらい。もう少しアジアもフォーカスしてくれ。

 

先代教皇は結局、何者だったのか。どこまで見通して死んでいったのか。何かヒントになるような情報がまったく呈示されなかったので、モヤモヤした気持ちだけが残った。

総評

聖職者としての建前と人間としての本音が交錯し合う非常にスリリングな会話劇。トランプ米大統領の二度目の就任の際に、アメリカの司教が慈悲を求めた説教が話題になった。おそらく米国の聖職者たちの中でも政治的にデリケートな話題について我々の目に見えないところで相当に深く議論がされていたのだろうと想像される。そうした言葉のやりとりを楽しめる人は楽しめるだろうし、楽しめない人は楽しめないだろう。Jovianは波長がピタリと合った。今年のイチ押しの作品である。

 

Jovian先生のワンポイントイタリア語レッスン

Come stai

英語でいうところの How are you? にあたる表現。おそらくイタリア語会話の本の最初の3ページ以内に必ず出てくる表現。これから鑑賞するという人は、どこでこの台詞が出てくるか注目してみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 Flow 』
『 ミッキー17 』
『 ケナは韓国が嫌いで 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, アメリカ, イギリス, サスペンス, ミステリ, レイフ・ファインズ, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 教皇選挙 』 -2020年代を予見した作品-

『 バンパイアハンターD 』 -孤高の戦士像の頂点-

Posted on 2025年3月4日 by cool-jupiter

バンパイアハンターD 80点
2025年3月2日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:田中秀幸
監督:川尻善昭

 

念願の theatrical re-release ということでチケット購入。

あらすじ

遥かなる未来。科学文明は衰退し、人類は貴族と呼ばれるバンパイアの食料だった。しかし、バンパイアにも種としての寿命が来つつあり、人類はバンパイアを刈るハンターの存在を渇望した。そこにバンパイアと人間の混血児、ダンピールのD(田中秀幸)が現れ・・・

ポジティブ・サイド

たしか小学生ぐらいの頃に最初の映像化作品をテレビで観た記憶がある。Dが気絶していて、左手が地面をザクザク掘って、空中に向かってビームを発射してたかな。その場面の前後だけを見て、後で新聞のテレビ欄で『 吸血鬼ハンターD 』だと知った。ということで、実は本作は今回初めて観たが、素晴らしいクオリティだった。

 

まず天野喜孝のDのデザインのクオリティが高い。青白い顔に全身黒ずくめ、そして漆黒の馬を駆る姿はゴシック的ファッションの一つの極致だ。半人半妖または半人半魔という存在はゲゲゲの鬼太郎からデビルマンまで数多くいるが、そうしたキャラクターの中でもトップクラスに、というかダントツで一番のカッコよさである。また、謎の人面瘡に規制された左手は、寄生獣を想起させるし、悠久の時の中を孤独に彷徨し続けるという点で『 BLAME! 』の霧亥にも影響を与えていてもおかしくない。漫画『 CLAYORE 』の元ネタも本作(というか『 吸血鬼ハンターD 』)なのではないかと個人的に思っている。

 

アニメーションは美麗で、CGなどは当然なし。古いと言えば古いのだが、科学文明の退廃した世界と中世暗黒時代の社会を融合させた世界観は、CGというテクノロジーでは再現できないように思われる。

 

マイエル=リンクとシャーロットの関係も深い。食う側と食われる側で深い友情や愛情が成り立つのか、もっと言えば搾取する側の上級民と搾取される側の下級民が結ばれるのかというテーマを内包していて、今という時代に劇場再公開される意味がここにもある。

 

シャーロット奪還を目指す別のバンパイアハンターのマーカス兄弟も、咬ませ犬と見せかけて相当な実力者。マイエル=リンクやバルバロイの手練れたちの激闘は見応えがあった。Dと闘い、時にはDと共闘関係にもなる中で、レイラとDが絶妙の距離感に落ち着く展開も味わい深い。その伏線も馬を売ってくれる爺さんと言う存在によって巧妙に張られているなど芸が細かい。

 

マイエル=リンクとDの決着も実に興味深かった。ダンピールという半分人間、半分バンパイアが人間と駆け落ちしようとするバンパイアを討とうとする。そこには大きな矛盾があるが、その矛盾を超えた敵の存在と、その矛盾が矛盾ではなくなる筋立てには唸らされた。

 

エンディングも印象深い。死ぬべき人間と半不死のD、交わることはできなくとも、尊重し合う、理解し合うことはできるのだという終わり方は、現代日本社会の在りように対してのメッセージになっているのではないだろうか。

ネガティブ・サイド

Dと馬の関係を見てみたかった。どんな悪路も踏破し、どんな場所でも果敢に突っ込んでいく名驥に育っていくのかという描写がほしかった。

 

黒幕のカーミラがちょっと呆気なかった。もっと重々しいキャラでいてほしかった。

 

総評

ファンタジーとSFのマリアージュにして、ゴシックホラーの傑作。貴族と人間という階級差、そして混血児としてどちらの出自にも完全に属すことができない男という設定は、現代において更に深みを増している。日本語吹き替え版では数々の名優の演技も堪能できる。上映が延長になったというニュースも聞こえてくるほど好評なので、ぜひ多くの方に鑑賞いただきたいと思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

bounty hunter

賞金稼ぎの意。考えてみれば、仕事を通じて金を得ているという意味では我々はみな賞金稼ぎだと言えるかもしれない。特にITや教育といった分野は独立しやすく、かつ様々な案件を他の同業者たちと奪い合うという意味ではまさに賞金稼ぎと言えるかもしれない。そんな風に働いてみたいと思ったり思わなかったり・・・

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 プロジェクト・サイレンス 』
『 コメント部隊 』
『 ゆきてかへらぬ 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2000年代, A Rank, SF, アニメ, ファンタジー, ホラー, 日本, 田中秀幸, 監督:川尻義昭, 配給会社:日本ヘラルド映画Leave a Comment on 『 バンパイアハンターD 』 -孤高の戦士像の頂点-

『 港に灯がともる 』 -生きやすさを求めて-

Posted on 2025年1月21日 by cool-jupiter

港に灯がともる 80点
2025年1月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:富田望生
監督:安達もじり

 

先日、30年目を迎えた阪神淡路大震災と在日韓国人をテーマにした作品ということでチケット購入。

あらすじ

在日3世の金子灯(富田望生)は、震災と国籍に囚われ続ける父と、帰化に前向きな姉や母との間で苦悩した結果、心を病んでしまう。友人の紹介で訪れた診療所で様々な思いを吐露する人々に接することで、灯は少しずつ自分を客観視できるようになり・・・

以下、ややネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

主人公の灯は在日3世、Jovianは帰化した在日3.5世(母が2世、父が3世)なので、主人公の灯の苦悩はよくわかった。一方でJovian妻は劇場が明るくなってからの第一声が「意味わからん」だった。このコントラストよ。

 

Jovianの母方はコテコテの在日だったので、甲本雅裕演じる父の苦悩や、妻より母を優先してしまう気質がなんとなく理解できる。韓国の歴史ドラマを観る人なら、王の間に母親が来ると、王が上座を譲ったりするが、あれがまさに韓国人の気質である。その一方で、在日という”異人性”を捨てて、日本生まれ日本育ちなのだから帰化しようという父以外の家族の気持ちもよく理解できる。主人公の灯はその中間にあって、まさにアイデンティティ・クライシスを経験するところから物語は始まる。

 

父と母の別居の話や、姉の日本人との結婚、また弟は妙な動画に傾倒しつつあるなど、家族の離散の危機をもろに感じ取ってダメージを受けてしまう灯の描写が非常に具体的で切実だ。ただ『 焼肉ドラゴン 』でも描かれていたように、家族とはいずれ離散するもの。灯も最終的にはそのことを受け入れていく。そこに至るまでの数多くの事件が、彼女を弱らせ、また強くもしていく。

 

印象的だったのは診療所での別の在日の患者。彼が言い放つ「常に自分で自分に嘘をついている」という感覚は、在日でなくとも感じたことのある人はいるはず。たとえばJovianの中学時代の同級生は、両親が離婚して苗字が変わってしまったが、学校ではそのまま過ごしていた。しかし、彼が苗字を変えられない自分に対して苦悩していたことを今でもよく覚えている。

 

自身が経験することのなかった震災だが、東日本大震災やコロナ禍、そしてロシアによるウクライナ侵攻と、その結果としての難民問題など、社会問題に触れていくことで灯は成長していく。ロングのワンカットを多用し、灯の表情や立ち居振る舞いから彼女の心情を語らせたのは正解だった。というのも、本作のテーマは想像力とその欠如だからだ。少しずつ他者に思いを馳せられるようになった灯が、ついに父と対話するシーンは『 風の電話 』のクライマックスを思い起こさせた。

 

灯を演じたのは『 チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話 』で毒親に向かって「月に一万だけでいいから寄越せ」と啖呵を切った女子高生。甲本雅裕演じる父との対話シーンは、映画ではなく舞台演劇のような臨場感だった。また渡辺真起子の出演作にはハズレが少ないというジンクスは今作でも健在。ぜひ多くの人に観ていただき、困惑し、そして何かを考え始めるきっかけとしてほしい。

 

ネガティブ・サイド

帰化申請時の法務局の役人との面接をもっとリアルに作れなかったか。いや、お役人さんから「ここでの問答は絶対に秘密にしてください」と言われるのだが、そこは取材すれば語ってくれる人もそれなりにいるはず。ちなみに1990年代半ばだと、いじめ、あるいは本気度の確認なのか、平日の夕方に電話で「明日の朝に法務局に来てください」みたいな対応だったな。そして面談で尋ねられたことが「あなたは●●●を●●できますか」、「あなたは将来〇〇〇〇と◇◇◇しますか」だったな・・・ あほらし。

 

総評

兵庫県民、特に神戸の住人なら、よく知る景色がいっぱいなので、ぜひご当地映画として観てほしいと思う。Jovianも近いうちに『 リバー、流れないでよ 』以来の聖地巡礼として、丸五市場にも行ってみようと思う。街にも職場にも学校にも、なんか目に見えて外国人が増えてきたなと感じる人は本作を観て、想像しようとしてみてほしい。その想像が正しくある必要などない。求められるのは想像しようという姿勢だけである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

naturalize

「帰化する」の意。She is a naturalized citizen of the United States. = 彼女は合衆国への帰化人です、のように使う。今後十年、日本の各地で様々な『 マイスモールランド 』が現れ、その後の十年で日本への帰化者が増えることだろう。その先は・・・推して知るべし。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 Welcome Back 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, A Rank, ヒューマンドラマ, 富田望生, 日本, 監督:安達もじり, 配給会社:太秦Leave a Comment on 『 港に灯がともる 』 -生きやすさを求めて-

『 工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 』 -国家の対立と個人の友情-

Posted on 2024年10月22日 by cool-jupiter

工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 85点
2024年10月20日 シネマート心斎橋にて鑑賞
出演:ファン・ジョンミン イ・ソンミン
監督:ユン・ジョンビン

シネマート心斎橋に別れを告げるための一本として本作をチョイス。当日券もガンガン売れていて、劇場は満員だった

あらすじ

軍の情報部に所属するパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)は北朝鮮の核開発の実態を探るべく、黒金星というコードネームの工作員として北朝鮮に潜入する。ビジネスマンとして北で活動するパクは、遂に北の外貨獲得の責任者であるリ所長(イ・ソンミン)からコンタクトされ・・・

ポジティブ・サイド

上映開始直前、『 ソウルの春 』の感想を述べあうオッサン二人が後ろの席にいたが、『 殺人女優 』と同じく韓国映画は合う人には合う。その中でも本作は一級品。上映終了直後の劇場内やロビーでも「圧倒された」、「すごい」、「韓国の現代史を勉強せな」という感想が漏れ聞こえてきた。自分の感想も「まるでブライアン・フリーマントルの『 消されかけた男 』の韓国版だな」というものだった。

まず、スパイ映画にありがちな変装や秘密裏の侵入などがほとんどない。『 ミッション:インポッシブル 』シリーズのような派手さは一切ない。しかし、本作が全編にわたって産み出す緊迫感はM:Iシリーズのどれよりも上だと感じた。

まず第一に北の核施設に近づくために、まずは外貨獲得に血眼になっている北朝鮮にビジネスマンとして近づくというアプローチが秀逸。その下準備として、中国産の野菜が北朝鮮産と偽って売られていることをパク自身が当局にリーク。中国にある北朝鮮拠点をまんまと一つ潰してしまう。そして在日の朝鮮総連系のあやしげな男(このキヨハラ・ヒサシにもモデルはいるのだろうか?)とのビジネスもシャットアウト。あくまでも狙いは北朝鮮の中枢。

そして遂に有力者のリ所長に接触することになるが、明らかにその筋の人、早い話がインテリヤクザの雰囲気を漂わせるイ・ソンミン演じるリ所長と、番犬的存在のチョン課長が、当時の(そしておそらく今も)北朝鮮がならず者国家 = rogue nation であることをひしひしと感じさせる。一歩間違えれば命が危うい。のみならず、国家間の緊張がそれ以上の状態に発展してしまう恐れなしとはしない。

そんな中でもパクはビジネスマン然として振る舞い続ける。しかし、テープレコーダーその他の小道具も駆使して諜報活動も行う。この陽気で少し短気なビジネスマンの顔と敏腕のスパイとしての顔を劇中でファン・ジョンミンは見事に使い分けた。北朝鮮側に見せる顔と韓国側(上司)に見せる顔が明らかに違う。つまり北朝鮮側に向けては演技している演技をしていた。ファン・ジョンミンの卓越した演技力なくして、この二重性・二面性は出せなかった。

徐々にリ所長の信頼を得て、奇妙な友情すら育んでいくパク。国は異なれど民族は同じだし、話す言語も同じ。しかし都市部を離れれば北朝鮮の人民はなすすべもなく餓死していくという惨状がある。このシーンは下手なホラー映画よりも遥かに怖かった。リ所長が北の惨状に挙げていた子どもが10ドルで売られるという現実は、奇しくもチェ・ミンシクが『 シュリ 』で涙ながらに訴えたもの。まさに1990年代にニュース23で見ていた北の農村が思い起こされた。

映し出されるのは北のどす黒い現実ばかりではない。南の腐敗した政治にも焦点が当てられる。国政選挙のたびに北が武力挑発し、南の人民の不安をあおることで与党の後押しになるのだという。まるでどこかの島国が北のミサイル発射を支持率アップの道具にしているようではないか。北は北で金王朝を維持したいし、南は南で現体制を維持したい。そのためには仮想敵国、いや現実の敵国が存在し続けることが望ましいという、もはや政治とは何なのか分からなくなってくる現実が、パクにもリ所長にも、そして当然我々にも突きつけられてしまう。

しかし、そんな現実に屈せず危険を冒して最後の冒険に出る二人が奇跡を起こす様は胸が張り裂けんばかりになる。国と国は分断されていても、個人と個人は分かり合える。それは南北朝鮮だけの問題ではなく、あらゆる国と個人が直面しているテーマではないだろうか。

ネガティブ・サイド

リ所長のガッツポーズは、そこら中に間諜がいる北京のホテルでは軽率ではなかっただろうか。辺境の死体置き場にまで監視役がおる国やで。

韓国側のもう一人の工作員のコード・ワンが迂闊というか間抜けすぎではないか。どうやって北に潜伏し続けられていたのか。このコード・ワンはさすがに架空の存在だと思うが、このシーンは滑稽に過ぎた。

総評

なぜ劇場公開当時にリアルタイムで観なかったのかが悔やまれる。同時に、なぜこれほど多くの人がシネマートを訪れていたのかも理解できた。本当は『 サニー 永遠の仲間たち 』が観たかったのだが、こちらも負けず劣らずの大傑作。韓国映画のサスペンスのレベルの高さをあらためて思い知らされた。ファン・ジョンミンはソン・ガンホやソル・ギョングに並んだ、いや超えたと評してもいいのかもしれない。

Jovian先生のワンポイント韓国語レッスン

チャングン

将軍のこと。本作では将軍・金正日との対面が一つの山場となっている。また物語の冒頭のニュース映像では、日本でもお馴染みの女性アナウンサーが一瞬だけ映るが、彼女がしばしばチャングンニムと言っていたのを一定以上の世代なら覚えていることだろう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 ぼくのお日さま 』
『 破墓 パミョ 』
『 拳と祈り -袴田巖の生涯- 』

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, イ・ソンミン, サスペンス, ファン・ジョンミン, 歴史, 監督:ユン・ジョンビン, 配給会社:ツイン, 韓国Leave a Comment on 『 工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 』 -国家の対立と個人の友情-

『 花嫁はどこへ? 』 -新たなインドの女性像を模索する-

Posted on 2024年10月13日2024年10月13日 by cool-jupiter

花嫁はどこへ? 80点
2024年10月11日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:ニターンシー・ゴーエル プラティバー・ランター スパルシュ・シュリーワースタウ ラビ・キシャン
監督:キラン・ラオ

 

妻が「アーミル・カーンがプロデュースしていて面白そう」というのでチケット購入。確かに非常に面白かった。

あらすじ

新郎のディーパク(スパルシュ・シュリーワースタウ)は新婦のプール(ニターンシー・ゴーエル)を自分の村まで連れて帰る途中、似たようなサリーで顔をベールで覆った別の花嫁ジャヤ(プラティバー・ランター)を連れ帰ってしまう。一方、全く見知らぬ駅で降りたプールは変わった人々との出会いに戸惑いながらも、何とか自立を目指して・・・

ポジティブ・サイド

新郎が新婦を取り違えるか?と疑問に思うが、それが大いにありうるのがインド。事前にほとんど、あるいは一切会わず、似たような背格好の女性が同じような衣装、同じようなベールを身に着けていたら、確かに間違えても仕方がない。

 

そうして取り違えられた花嫁二人が正しい旦那のところに帰る・・・のではない。特にディーパクに着いてきてしまったジャヤは行動がとにかく不審。もしやロマンス詐欺?しかしインドでは女性の方が結婚に際して持参金を準備するという。それにしてもジャヤの行動は何なのだ?と観る側に強く疑念を抱かせる。そして警察でも身分を偽る。ますます怪しい。

 

その一方で、途方に暮れるばかりのもう一人の花嫁のプール。妙な出会いから宿と職場を得るが、花嫁修業はしていても世事には疎い。そんな彼女に温かく、しかし厳しく接するマンジュおばさんが、その仕事っぷりや人生哲学の面で味わい深い演技を見せる。生きる力を発揮しつつあるプールだが、夫の村の名前も言えず、実家に帰るのも恥にあたると、こちらも警察の助力を得るには至らず。ジャヤにも困ったものだが、プールもなかなかの箱入り娘。

 

正体不明なままのジャヤを捜査するマノハル警部補を演じるラビ・キシャンが怪演を見せる、いや魅せる。韓国映画の警察は無能だが、インド映画の警察は横暴である。まるで昭和中頃の腐った日本の警察か?と思わせて・・・おっと、これ以上は無粋というもの。

 

ディーパクがとにかく純粋無垢で、ジャヤの婚約者との対比で、そのピュアさが更に際立つ。花嫁を取り違えた時に、相手が人違いだと主張しなかったなどと一切非難せず、ただ自分の不注意を恥じ入り、プールの無事を祈る姿勢が美しかった。そんなディーパクの優しさの裏でコソコソと動いていたジャヤが、ディーパクの一家の家業である農業だったり、あるいは料理だったり、あるいは人間関係だったりに少しずつ変化をもたらしていく。

 

最後に訪れる大団円のカタルシスは『 バジュランギおじさんと、小さな迷子 』に匹敵する。女性の生き方のアップデートが叫ばれて久しいが、それを芸術作品ではなく、ここまで鮮やかなエンタメ作品として提示してくるのは驚き。『 RRR 』のラストでビームがラーマにお願いしたもの。それを女性がどう享受するのか。その課題は今も続いているのだろうが、しかし確実に改善されているのだろう。

 

ネガティブ・サイド

花嫁修業を修めただけのプールが、本当の意味で自活する道へ踏み出す大事なシーンで、「パコラを作ってくれ」と依頼されたシーンで、なぜかサモサを作り始めるのは何故だ?

 

ディーパクのじいさんはギャグ扱いだろうが、牛の方はもう少し面白く深掘りできなかっただろうか。たとえばばあちゃんと牛が会話らしきものを交わすとか(半分冗談だが)。

 

総評

大スターを前面に押し出さず、むしろ若手ばかりを主役級に据えて本作を製作したこと、それ自体が一つのメッセージなのだろう。既存の権威に頼らず、あるいはそれに囚われず、新しい映画製作の在り方を追求していこうというアーミル・カーンとキラン・ラオ監督の意気込みが、そのまま次代のインドを担う若者たちへのエールなのだ。ダンスシーンはないが、確かにこれも一級のインド映画である。

 

Jovian先生のワンポイントヒンディーレッスン

パコラ

アルファベットでは pakora と表記する。揚げ物の意。インド料理やカレーショップでは鶏の唐揚げであることがほとんどだが、実際は油で揚げる料理全般を指すようだ。Jovianも月に1~2度は梅田の某カレーショップに行くが、パコラを3ピース頼むのが定番になっている。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 ぼくのお日さま 』
『 ジョーカー:フォリ ア ドゥ 』
『 若き見知らぬ者たち 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, インド, スパルシュ・シュリーワースタウ, ニターンシー・ゴーエル, ヒューマンドラマ, プラティバー・ランター, ラビ・キシャン, 監督:キラン・ラオ, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 花嫁はどこへ? 』 -新たなインドの女性像を模索する-

『 熱烈 』 -Becoming One and Only-

Posted on 2024年9月30日 by cool-jupiter

熱烈 80点
2024年9月29日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:ワン・イーボー ホアン・ボー
監督:ダー・ポン

 

『 ボーン・トゥ・フライ 』主演のワン・イーボーが今度はブレイキンのダンサー役を演じる。またしても妻のリクエストでチケット購入。

あらすじ

ブレイキンのプロチーム「感嘆符!」は、中心メンバーのケビンが財力を武器に好き放題。ある時、ケビンの代役が必要になり。コーチのディン・レイ(ホアン・ボー)は、地元のイベントで細々と活躍している、かつてのオーディション参加者チェン・シュオ(ワン・イーボー)を加入させるが・・・

ポジティブ・サイド

我が母校には Smooth Steppers というストリートダンスのサークルが2000年には既に存在していて、寮の洗面所で踊っている後輩もいたりした。五輪の種目にもなるなど、本当にストリートダンスは一般に普及したのだなと個人的に感慨深かった。

 

肝心の映画の出来はというと、これが非常に良かった。発展目覚ましい浙江省の杭州の中心で練習する感嘆符!と、実家の手伝いと洗車アルバイトと地元のイベントの掛け持ちの中でダンスの練習を積んでいくチェン・シュオの対比が残酷にすら映る。

 

しかし、チェン・シュオが代役ながらも感嘆符!入りを果たしたことで、少しずつ彼の人生も変わっていく。そこで良い味を出すのがコーチのディン・レイ。『 ボーン・トゥ・フライ 』のチャン・ティン隊長的のようなゴリゴリの軍人ながら、良き家庭人でもあるというおっさんではなく、ダンスに生き、ダンスでしか生きられないという、ある意味で永遠の少年 = puer aeternas だ。しかし、このおっさんが少年のままで居続けるのか、それとも色々と物事を割り切って大人になってしまうのかというサブプロットが、若年でありながらも母や叔父を支え続けてきたチェン・シュオの生き方との対比になっていて魅せる。

 

悪役であるケビンも単なる悪ではなく、チェン・シュオとは対照的な意味での子ども。レーシングカーコースのあるだだっ広い部屋で無言でクルマを走らせる姿は、いくら爆走しても決められたコースから外れられない自身の境遇と重なっていた。

 

アップダウンを経ながら、最終的にケビン率いるチームとのバトルに挑む感嘆符!。ここでのダンスシーンは圧巻の一語に尽きる。孤独のままに踊るケビンとチームで踊る感嘆符!という構図が、個々の力で踊るケビンのチームと観客を味方につける感嘆符!という構図に変わっていく。この過程が非常にドラマチックだ。そして最後の最後、一歩間違えれば『 少林サッカー 』的になりかねない大技が決まった瞬間のカタルシスは筆舌に尽くしがたいものがあった。

 

『 ガリーボーイ 』的なサクセス・ストーリーを、『 ピッチ・パーフェクト 』のような仲間とのビルドゥングスロマンとして、そしてダンス・パフォーマンスは『 マジック・マイク 』並みのセクシーさとパッションで見せてくれる作品。総じて『 スウィング・キッズ 』と同レベルの傑作と評してよいと思う。

 

ネガティブ・サイド

カメラワークに少々注文を付けたい。ケビンのチームの外国人助っ人たちの実力を観客および感嘆符!に見せつける、かつ五輪競技でもあるブレイキンの魅力を観客に伝えるために、真正面からの定点カメラで撮影し、映し出してほしかった。理想はBTSのDynamiteの練習動画である。

 

チェン・シュオの父親の踊っているシーンや回想、もしくは写真が見てみたかった。ディン・レイが疑似的な父親になっているのは分かるが、やはりダンサーだったというチェン・シュオの父とチェン・シュオのつながりを体感してみたかった。

 

総評

TOHOシネマズ梅田も座席はほぼ完売で、驚きの女子率&マダム率。トイレ前で「3回目なのに、また泣いちゃった」と感想を言い合う女子、エレベータの中でこれから広島や愛知に帰ると言っていたマダムたちも見かけた。ワン・イーボーは確実に中国という枠を超えてアジアのスターになりつつある。公開している劇場も少なくなってきているので、観るのならばお早めに!

 

Jovian先生のワンポイント中国語レッスン

ガンベイ

乾杯の意。劇中でもやたらと一気飲みをするが、漢字を見れば納得である。Jovianの学生時代を振り返っても、確かに Chinese American や Chinese Australian は、一気に盃を空けていた。一気飲みは自己責任で!

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 シュリ 』
『 シビル・ウォー アメリカ最期の日 』
『 犯罪都市 PUNISHMENT 』

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, A Rank, スポーツ, ヒューマンドラマ, ホアン・ボー, ワン・イーボー, 中国, 監督:ダー・ポン, 配給会社:彩プロ, 青春Leave a Comment on 『 熱烈 』 -Becoming One and Only-

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