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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 監督:城定秀夫

『 嗤う蟲 』 -村八分の恐怖-

Posted on 2025年2月1日 by cool-jupiter

嗤う蟲 60点
2025年1月31日 T・ジョイ梅田にて鑑賞
出演:深川麻衣 若葉竜也 田口トモロヲ
監督:城定秀夫

 

『 アルプススタンドのはしの方 』、『 愛なのに 』の城定秀夫が監督ということでチケット購入。

あらすじ

杏奈(深川麻衣)と輝道(若葉竜也)の夫婦は都会から田舎に移住。杏奈はイラストレーターとして、輝道は農家として働いていた。地域の顔役の田久保(田口トモロヲ)をはじめ、村人たちは二人を歓迎するが・・・

ポジティブ・サイド

移住者に対する村の歓待がエスカレートしていく前半、そして村の闇が垣間見える中盤、そしてタイトルの意味がはっきりとする終盤と、非常にテンポよく進んでいく。しかし、細部の描写はかなりねっとりしている。人間関係の力学が都会のそれとはかなり違い、ここまで大袈裟ではないにしろ、ド田舎で似たような状況を目撃してきたJovianは結構なリアリティを感じた。

 

徐々に村のシステムに取り込まれていく夫と、リモートで働く妻のコントラストも際立っていた。そして妻の妊娠と、村を挙げての不穏なまでの歓迎ムードが否が応にも観る側の不安を掻き立てる。そしてその不安は現実として襲い掛かってくる。鑑賞後にJovian妻は開口一番、「田口トモロヲはいつも顔と名前が一致せんわ」と言っていたが、本人が聞けばガッツポーズをするだろう賛辞である。それぐらいキレッキレの演技だったし、杉田かおるの行き過ぎた近所のおばさん感や、片岡礼子の壊れた中年女性感、そして松浦祐也の絶望で暴走した中年男性像など、役者の演技が本作を引き締めていた。

 

タイトルにある蟲の意味は終盤ではっきりする。我々は虫を農薬で殺したり、手でつぶしたり踏みつぶしたりするが、それが中央と地方の構図に非常に似通っていることに慄然とする。特に能登半島の復旧の遅さなどは、地理的な難しさもあるが、それ以上に政治的な力学が要因になっているように思えてならない。エンドクレジット後にも短い映像があるので見逃すことなかれ。それが何のメタファーなのか、というよりも何のメタファーだと解釈するのかで自身の感性や思考が見えてくるはずだ。

 

ネガティブ・サイド

杏奈と輝道がなぜ田舎移住を決断したのかがよく見えなかった。無農薬に対するこだわりの背景などが描かれていれば、輝道が田久保に屈していくという過程に観る側がもっと杏奈に同調して切歯扼腕できたのにと思う。

 

また移住して2~3年は経過したと思われるが、そのあたりの描写がもう少しあっても良かった。たとえば畑や田んぼの様子だったり、あるいはどんな虫がどんな植物についていたり、あるいは虫がまったく姿を消してしまったりといった描写を要所で入れていれば、それだけで季節の移り変わりを明示できたはず。

 

総評

『 ヴィレッジ 』には及ばないが、『 変な家 』や『 みなに幸あれ 』といった珍品よりは遥かに面白い。今後ますます人口減少が進んで、地方はさらに衰退していく。本作で描かれたような村が生まれてきても驚きはない。同時に都市部でも経済格差や人種・国籍などで「こちら側」と「あちら側」に住民が分断されていく。行き着くところは日本という国家が世界から村八分にされること。製作者の意図ではないだろうが、そんなことまで考えさせられた作品。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

rural migration

田舎移住の私訳。というか、田舎移住はしばしば rural migration と表現される。あるいは urban-to-rural migration のように、都市から田舎への移住と明確にすることもある。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 雪の花 ―ともに在りて― 』

 

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Posted in 未分類Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 日本, 深川麻衣, 田口トモロヲ, 監督:城定秀夫, 若葉竜也, 配給会社:ショウゲートLeave a Comment on 『 嗤う蟲 』 -村八分の恐怖-

『 愛なのに 』 -不思議な愛の物語-

Posted on 2022年5月13日 by cool-jupiter

愛なのに 75点
2022年5月8日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:瀬戸康史 さとうほなみ 河合優実 中島歩
監督:城定秀夫

テアトル梅田で見逃してしまった作品。塚口サンサン劇場にて上映中。R15作品だからなのかどうか知らないが、観客の中高年男性率が非常に高かった。

 

あらすじ

古本屋を営む多田(瀬戸康史)は女子高生の岬(河合優実)に突如プロポーズされる。「自分には好きな人がいるから」と丁重に断る多田だが、岬はあきらめない。一方、ただの想い人である一花(さとうほなみ)は婚約者の亮介の浮気を知ってしまい・・・

ポジティブ・サイド

事実は小説より奇なりと言うが、この脚本は実際にはなかなか現実にはならないだろう。アラサー男が女子高生に求婚される。丁重にお断りする。またまた求婚される。丁重にお断りする。その理由は他に好きな人がいるから。しかし、その好きな人は婚約者に浮気をされていた。しかも浮気相手が自分たちの結婚式のプランナー・・・。よくこんな人間模様を構想できるなと感心する。この設定だけで面白いと感じられる。

 

女子高生を演じる河合優実が本作でも鮮やかな存在感を放つ。恋に恋する女子高生で、多田にストレートに「結婚してください」と伝える。「そんなこと(=淫行)したら俺、逮捕されちゃう」という多田に、「あ、そういうのは無しで」とぬけぬけと言ってのける。もうこれだけで笑えてしまう。微笑ましい気分になる。その後も同級生男子と多田の間を行きかい、さらには親まで出張らせる始末。まさにおぼこさと小悪魔さの両方を遺憾なく発揮している。

 

極めて対照的なのがさとうほなみ演じる一花。こちらはトップレスを披露し、妖艶な濡れ場も熱演。『 RED 』の夏帆を上回る色気を存分に堪能させてもらった。多分、劇場に来ていた中高年たちも、さとうほなみを見に来ていたのだと思われる。いや、それにしても河合優実が小悪魔なら、こちらは悪魔というか魔女、いや魔性の女?婚約者に浮気されたからと、自分も同じことをしてやろうという発想もなかなかユニークだし、その相手に自分を一途に想い続ける男を選ぶというのも、ナチュラルに鬼畜だ。元々ミュージシャンということだが、表現方法が独特。無表情なようで表情がある。感情の起伏に乏しそうで、しかし感情が時に爆発する。自然体と言おうか、演技が上手いなあと感じない。等身大の悩めるアラサー女子を act しているのではなく、等身大の悩めるアラサー女子に be しているからだろう。素晴らしいとしか言いようのない performance である。

 

本作のテーマはタイトル通りに「愛」なのだが、『 愛なのに 』という逆接の通りに、きれいに成就することがない。愛する相手から愛のない求められ方をされることがどれほど酷なことか。それでいて、その求めに応じざるを得ないというジレンマ。瀬戸康史の渾身の演技に我あらず感情移入してしまった。男性の99%は恋を引きずった経験があるはずだが、そうした気持ちがわずかでもあれば、きっとこの多田という男とシンクロできはずだ。

 

本作の撮影はおそらく三鷹市だろう。Jovianの母校は三鷹市の国際基督教大学で、見覚えのある街並みがいくつかあった。おそらくゲーセン(芸術文化センター)あたりなのではないかと思う。上連鳥というバス停にも思わず笑ってしまった。上連雀など、まさにかつての庭である。さらに物語終盤の神父様の説教が笑える。Jovianは霊肉一致の神学論を打ち出した関根正雄の弟子の並木浩一門下だったので、この神父の説教が何であるのかよく理解できた。なので一花が盛大な勘違いをしているのをニヤニヤしながら映画を鑑賞していた。おそらく濃厚なベッドシーン目的にチケットを購入していたどのオッサン連中よりも、Jovianの方がキモイ表情をしていたはずだ。まあ、それだけ刺さる人には刺さる作品になっているということである。

ネガティブ・サイド

現代風のLINEと古風な手紙。昔からの想い人である一花とのやりとりがスマホで、Z世代の女子校生の岬とのやりとりが手紙というコントラストが十全に追究されていたとは言い難かった。このあたりを愛のないセックスとセックスのない結婚との対比にまでつなげられていれば、年間ベスト級に仕上がったのではないだろうか。

 

終盤近くの多田のある台詞があまりにも陳腐である。ここはそれこそタイトル通りの「愛なのに!」でよかった。

 

総評

R15ということは、場合によっては高校生や大学生のカップルでも鑑賞できるわけだが、子どものデート向きではない。むしろ30代以上の夫婦で余裕をもって鑑賞するべき作品であると思う。愛の形はそれぞれで、何が正解というものでもない(不正解はありうるが)。男女のあれやこれやを赤裸々に語り、男にとっては非常にショッキングなセリフも聞こえてくるが、世の男性諸賢に提案したい。逆にそうしたシーンこそ呵々と笑ってしまおうではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

To err is human, to forgive divine. 

「過つは人の常、許すは神の業」の意。確か高校生の時に学校で配られた『 WORD BANK 4000 』という単語帳で初めて見たと記憶している。大学の寮生活でネイティブ連中が何度か ”To err is human” と言って自己弁護しているのを聞いて「ああ、ホンマに使うんやなあ」と感動したのも覚えている。今度、仕事でミスった時に同僚ネイティブ相手に使ってみようと思う。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, さとうほなみ, ラブロマンス, 中島歩, 日本, 河合優実, 瀬戸康史, 監督:城定秀夫, 配給会社:SPOTTED PRODUCTIONSLeave a Comment on 『 愛なのに 』 -不思議な愛の物語-

『 女子高生に殺されたい 』 - もっと設定を研ぎ澄ませれば更に良し-

Posted on 2022年5月7日 by cool-jupiter

女子高生に殺されたい 65点
2022年5月5日 梅田ブルク7にて鑑賞

出演:田中圭 南沙良 河合優実 細田佳央太
監督:城定秀夫

タイトルだけでスルーしようとしていたが、『 志乃ちゃんは自分の名前が言えない 』の南沙良が出演していると気付いて、ギリギリでチケット購入。上映最終日であっても、劇場の入りは4割程度となかなかだった。

 

あらすじ

教師の欠員が出た二鷹高校に赴任してきた東山春人(田中圭)は、そのルックスと人当たりの良さでたちまち人気教師となる。しかし、彼には秘密があった。目をつけていた女子高生、佐々木真帆(南沙良)に殺されたいというオートアサシノフィリアの持ち主だった。春とは密かに練っていた計画を進めようとするが・・・

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

タイトルだけ読めば「どこのアホの妄想だ?」と思わされるが、中身はどうしてなかなか練られていた。シネフィル=映画好きな人、シネフィリア=映画好きということだが、オートアサシノフィリアというのは初めて聞いた。ありそうだと感じたし、実際に存在するようだ。この一見突飛な性癖(この語も、ここ10~20年で意味が変わってきたように思う)に説得力を持たせる背景にも現実味がある。田中圭は『 哀愁しんでれら 』あたりから少しずつ芸風を変え始めたようで、もう少し頑張れば中堅からもう一つ上の段階に進めるかもしれない。

 

女子校生役で目についたのは河合優実。『 サマーフィルムにのって 』や『 佐々木、イン、マイマイン 』など、作品ごとにガラリと異なる演技を見せる。今作のキャラにリアリティがあったかどうかはさておき、キャラの迫真性は十分に堪能できた。テレビドラマなどには極力出ずに、映画や舞台で腕を磨き続けてほしい役者だ。

 

南沙良の目の演技も見応えがあった。正統派の美少女キャラよりも、陰のある、あるいは闇を秘めた役を演じるのが似合う。こういう女子高生になら殺されたい。

 

最初は意味不明に思えた春人の行動の数々が中盤以降に一気に形を成していくプロセスは面白かった。高校生ものでゲップが出るくらい見飽きた学園祭をこういう風に使うのには恐れ入った。学園祭の変化球的な使い方の作品といえば恩田陸の小説『 六番目の小夜子 』と赤川次郎の小説『 死者の学園祭 』が印象に残っているが、本作も同様のインパクトを残した。

 

色鮮やかな序盤から陰影の濃くなる終盤の照明のコントラストがキャラクターたちの心情を反映している。またBGMも静謐ながら不穏な空気を醸し出すのに一役買っていた。タイトルで損をしていると思うが、普通に面白い作品。河合優実のファンなら要チェックである。

 

ネガティブ・サイド

本作の肝である「春人は一体誰に殺されたいのか?」という謎の部分がやや弱い。いじめっ子、柔道娘、予知娘、多重人格娘と取り揃えてはいるが、4択ではなく実質的には2択だった。というよりも1択か。最初から2択に絞り込むか、あるいは4択のまま観る側を惑わすような展開にもっと力を入れた方が中盤までのミステリーとサスペンスがもっと盛り上がっただろうと思う。

 

河合優実のキャラの地震予知能力は必要だったか?あの世界には緊急地震速報というものはないのだろうか。というか、予知能力と物語が何一つリンクしていなかった。この設定はそぎ落としてよかった。

 

南沙良のキャラのDIDも、もっとさり気ない演出を要所に仕込めたはず。『 39 刑法第三十九条 』などを参考にすべし。駄作だった『 プラチナデータ 』もそのあたりの伏線はしっかりと張ってあった。殺してほしい相手を南沙良の1択に絞って、ほんのちょっとした仕草や表情などを追い続けた方が物語の一貫性やフェアな伏線が生まれたはず。

 

総評

多重人格の扱いがちょっとアレだが、ストーリー自体はかなり面白い。南沙良、河合優美などの、いわゆるアイドルではなくオーディションを潜り抜けてきた若手女優たちの演技も光っているし、照明や音楽も良い仕事をしている。それらをまとめ上げる城定秀夫監督の手腕は称賛に値する。劇場で見逃してしまった人も、ぜひレンタルや配信で鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

auto

元々はギリシャ語の self に当たる語に由来している。意味は「自身」あるいは「自動」。automobile = 自分で動く = 自動車である。他にも FA = factory automation = 工場稼働の自動化だし、autobiography = 自分で書く伝記 = 自伝である。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, サスペンス, 南沙良, 日本, 河合優美, 田中圭, 監督:城定秀夫, 細田佳央太, 配給会社:日活Leave a Comment on 『 女子高生に殺されたい 』 - もっと設定を研ぎ澄ませれば更に良し-

『 アルプススタンドのはしの方 』 -異色の青春群像劇-

Posted on 2020年7月28日2021年1月21日 by cool-jupiter

アルプススタンドのはしの方 70点
2020年7月26日 梅田ブルク7にて鑑賞
出演:小野莉奈 平井亜門 西本まりん 中村守里
監督:城定秀夫

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200728232242j:plain
 

これは快作である。『 カメラを止めるな! 』のようなインパクトがある、というのはほめ過ぎだが、非常にユニークなフォームの映画である。『 セトウツミ 』の亜種にして、ついに現れた『 キサラギ 』の後継作品でもある。

 

あらすじ

夏の高校野球県大会のアルプススタンドのはしの方で、演劇部員のあすは(小野莉奈)とひかる(西本まりん)は野球のルールもよく分からないままに応援していた。そこに補習上がりの元野球部の藤野(平井亜門)と学校一の優等生、宮下(中村守里)も徐々に加わり・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200728232300j:plain
 

ポジティブ・サイド

正にタイトルの通り、アルプススタンドのはしの方だけで展開される会話劇である。『 キサラギ 』の密室での推理談義、そして『 セトウツミ 』の川辺の階段での他愛のない雑談に続く作品だと言えるだろう。高校や大学の映研が本作の模倣作品を作り始めるのは間違いない。アイデア次第で、演劇をそのまま映画にできるし、なおかつ面白さも保てるのだ。

 

本作をユニークにしているものはいくつかあるが、一つには野球を一切映すことなく野球を見せていることである。彼女たちのスタンドでの位置や立ち居振る舞いだけでも彼女たちがスクール・カーストの上位者でないことが分かるし、野球のことをよく知らない女子というだけで男子と“活発に交流する”タイプでないことも伝わってくる。娯楽やスポーツの多様化が進んで久しいが、それでも野球は日本ではまだまだメインストリームの球技である。

 

そんな彼女たち+男子一人+時々教師一名が繰り広げる会話劇がべらぼうに面白い。女子高生同士の他愛のない野球に関わるトークに男子が一人加わることで奥行きが生まれ、優等生が加わることで深みも生まれた。元は兵庫県の高校生の演劇脚本のようだが、資金も道具も人員もないからこそ生まれる面白さが本作にはある。Jovianがあっさりとプロットを見破った『 ソウ 』も、資金不足から大部分をスタジオ内=監禁部屋で撮影したことで、面白さが増したと言われている。同じように、会話劇から徐々に明らかになる様々な背景情報、そして目に見える形で変わっていく登場人物同士の距離。それが、すぐそこで行われている野球の試合展開と奇妙にシンクロしている。強豪に立ち向かう自校のチームと、人生の壁にぶつかっているあすはや藤野。決して青春群像劇の主人公的なキャラクターたちではないが、それゆえに我々一般人の共感を得やすい。少女漫画原作の青春映画の主役キャラに「ああ、俺にもこんな青春があったな」と感じられる人間はごく少数だろうし、そうした人間はそもそも青春映画など見ないだろう。普通の大人が普通に共感できる邦画が生まれたと評してもいいだろう。

 

本作は『 桐島、部活やめるってよ 』の亜種でもある。本作で桐島にあたるのは矢野である。といっても、矢野はスクール・カーストの上位者ではないし、野球部のレギュラーでもない。(オーディエンスに)姿は見えないが、その存在が他者に絶大な影響を及ぼしていくところが桐島と共通している。矢野とはどんな男か。「うおおおおお、矢野ーー!!!大好きだーーー!!!俺はお前を応援するぞおおおおおお!!」と叫びたい気持ちにさせてくれる男である。何がそうさせるのか。アルプススタンドのはしの方にいるキャラクターたちは、みな自己効力感が低い。けれど、彼女たちが徐々に自身を信じ、一歩を踏み出す勇気を得て、他者に声援を送るようになる過程が丹念に描かれることで、我々も知らず知らずのうちに物語世界に引き込まれていく。その過程は劇場で体験してほしい。

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ネガティブ・サイド

城定監督は真夏の炎天下、野球場で野球を見たことがないのだろうか。あんなピーカンだと、ステンレスの手すりに両手を乗せていた宮下のてのひらは軽度の火傷を負うぞ。あすはとひかるも同じ。座っていられない。尻の下にタオルを敷くのが定石である。妙な陽炎を後から映像に加えていたようだが、完全なる蛇足。「日焼け止め持ってたりする?」のようなセリフが一つあれば、暑さも伝えられたはず。会話劇なのだから、会話で堂々と気温や日差しに言及してもよかった。

 

藤野はいくら投手だとはいっても、バッティングフォームが窮屈すぎる。完全なる手打ちフォームで、とても野球経験者には見えない。ここはもっと演出や演技指導が必要だった。

 

また吹奏楽部やベンチ入りできなかった野球部連中が試合を観ている時の顔の向きとあすはたちが試合を観ている時の顔の向きが一致していない。いや、一致はしないのだが、どう考えてもそっちはピッチャーマウンドまたはホームベースの方向ではないだろうというシーンのつなぎが何度かあった。一塁側アルプススタンドの外野側のはしの方にいるあすはたちが左45度を剥いているのに、スタンドの野球部連中が真正面を向いていたりする。いったいどこのどんなプレーを見ているのか。

 

打球音からホームランの弾着までの時間が異様に短かったのは弾丸ライナーだったからと納得はできても、藤野がナイスキャッチしたファウルボールはおかしい。打球音と打球の軌道、さらに打球のスピードのどれ一つとして一致していない不思議なボールが飛んできた。監督もしくは助監督は、アルプススタンドで野球観戦することを、もう少し綿密に取材すべきだった、あるいは自身で体感してみるべきだった。

 

総評

こうしたユニークな映画が日本でもっと生みされてほしい。久しぶりに邦画を応援したくなった。本作はそういう気持ちにさせてくれる映画である。Jovianはやたら藤野にもひかるに宮下にも、やたら大声を張り上げる教師にも共感できた。もっとこの世界を見守りたいと感じた。2020年は映画にとって不幸な年だが、本作はその中でも異色の面白さを持った映画である。中年映画ファンも劇場へGoだ。高校生や大学生のデートムービーにも最適である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

make a catch

野球やアメフトでボールをキャッチすることをmake a catchと言う。do a catchとは言わない。~する=do ~と理解している人が多いが、実際にはmake ~もよく使われる。do homework, do laundry, do the dishes。make a mistake, make a speech, make a catch. do は手順や対象がすでに定まっていることを「する」、一方でmakeは自分で一から生み出すようなものを「する」。このように理解しよう。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, B Rank, 中村守里, 小野莉奈, 平井亜門, 日本, 監督:城定秀夫, 西本まりん, 配給会社:SPOTTED PRODUCTIONS, 青春Leave a Comment on 『 アルプススタンドのはしの方 』 -異色の青春群像劇-

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