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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: フランス

女神の見えざる手

Posted on 2018年6月8日2020年2月13日 by cool-jupiter

女神の見えざる手 85点

2017年10月22日 大阪ステーションシネマおよびブルーレイにて観賞
出演:ジェシカ・チャステイン マーク・ストロング クリスティーン・バランスキー
監督:ジョン・マッデン

ロビイスト映画の、これは白眉である。『 シン・ゴジラ 』並みのポリティカル・サスペンスであり、『ア・フュー・グッドメン』のようなスリラーでもある。銃メーカーがロビイング活動を請け負う会社に、女性が銃に対しても抱くイメージを変えてほしいと依頼するところから物語は始まる。銃を持つことで手に入れられる安心、強い母親のイメージ、それらを前面に押し出してほしいという依頼をしかし、ジェシカ・チャステイン演じるエリザベス・スローンは一笑に付す。ここから彼女は所属する大手ロビー会社を退社。マーク・ストロング率いる小さなロビー会社に移籍し、銃規制法案に働きかけていく。

冒頭に、“Lobbying is about foresight. About anticipating your opponent’s moves and devising counter measures. The winner plots one step ahead of the opposition. And plays her trump card just after they play theirs. It’s about making sure you surprise them. And they don’t surprise you.”という独白がある(実際には聴聞会のリハーサルだが)。この台詞の意味をよくよく噛みしめて今後の物語展開を見守って欲しい。予想してほしいではなく、見守って欲しいと願うのは、エリザベスの孤高の強さと弱さをその目に焼き付けてほしいからだ。話の展開を予想して、当たった外れたと一喜一憂することにさほどの意味は無い。少なくともこの映画に関しては。なぜなら、このストーリーの先が読める人は、余程のすれっからしか、さもなければロビイストだからだ。

それにしても、このエリザベス・スローンというキャラクターは異色である。2016~2017年にかけては、特に女性の女性性を大きく覆すような映画が多数公開されてきた(最も分かりやすい例は『ワンダーウーマン』と『ドリーム』か)ように感じるが、その中でも最も輝いているのは、おそらくこの Miss Sloane であろう。敵も味方も欺き、睡眠時間も削り、ストレス解消と言えば男娼を買うことで、勝つためなら法律違反も厭わないその姿勢は、観る者に問いかける。「あなたはここまでやりますか?」と。同時に、「ここまでやって勝った先に、いったい何があるのか?」という問いも必然的に発生する。彼女が求めたのは勝利なのか、それとも自己満足だったのか、それとも安息だったのか。ラストシーンで、彼女の目線の先にある者/物はいったい誰/何であったのか。

それにしてもジェシカ・チャステインという稀代の女優はここに来て、一気に花開いた感がある。『 ゼロ・ダーク・サーティ 』や『 モリーズ・ゲーム 』でも同工異曲のキャラを演じきったが、『 ヘルプ 心がつなぐストーリー 』では少し抜けたようでいて芯に強さのあるキャラも演じた。『 スノーホワイト 氷の王国 』のような微妙な作品に出演したこともあるが、作品のそのものの完成度の低さが、彼女自身の演技力や存在感を棄損したことは一度もない。希有な女優であると言える。何でもかんでもアメリカ様の後追いをする島国の、政治に危機意識を持つ人、キャリアに対して妥協を許したくない人にはぜひ観てほしい逸品である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アメリカ, サスペンス, ジェシカ・チャステイン, フランス, 監督:ジョン・マッデン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 女神の見えざる手

『 私はあなたのニグロではない 』 -差別の構造的問題を抉り出す問題作-

Posted on 2018年5月22日2020年1月10日 by cool-jupiter

題名:私はあなたの二グロではない 70点
場所:2018年5月20日 テアトル梅田にて観賞
主演:ジェームズ・ボールドウィン
監督:ラウル・ペック

自分の無知と無理解、想像力の欠如を思い知らされ、恥ずかしくさえ思ってしまう、そんなドキュメンタリー映画だった。メドガー・エバース、マーティン・ルーサー・キング・Jr、マルコムXらを軸に、アメリカという国でどのような差別が生まれ、行われ、助長され、継続され、そして解消されないのかを、ジェームズ・ボールドウィンの未完の原稿(タイトルは”Remember This House”)を元に紐解いていくのだ。

これまで映画における語りで最も印象に残っていたのは、ありきたりではあるが『 ショーシャンクの空に 』のモーガン・フリーマンだったが、本作のサミュエル・L・ジャクソンの静かで、怒りも憎しみも感じさせない語りの奥底にはしかし、強さと悲哀も確かにあった。哀切の念が胸に響いてくる、というものではなく、知って欲しいということを力強く、それでいて淡々と訴えかけてくるこの語り、ナレーションを持つことでこのドキュメンタリーは完成したとさえ言えるかもしれない。

人種差別の問題に肯定的に取り組んでいく話としてパッと思い浮かぶのは『 ヘルプ 心がつなぐストーリー 』、『 タイタンズを忘れない 』、『 ドリーム 』、『 それでも夜は明ける 』、差別の恐ろしさを前面に押し出した作品としては『 デトロイト 』、『 ジャンゴ 繋がれざる者 』あたりか。

本作はドキュメンタリーなので、ドラマ性を強調するのではなく、事実に対するJ・ボールドウィンの解釈、それに対する様々な人々の反応を追っていく形で展開していく。しかし、その方法が時にはクリシェ/clicheであり、時には非常に大胆に観客の不意を突いてくる。遊園地やスポーツの映像を交えながら、無邪気にレポーターがアメリカの娯楽を素晴らしさを称えながら、語りはそのままに突然、警官が民衆に暴力をふるうシーンに切り替わっていく。まるでこれもアメリカという国の娯楽なのですよ、と言わんばかりに。

また討論番組で、イェール大学の哲学教授が颯爽と現れ、ボールドウィンに「君の主張には重要な見落としがある。人と人が触れ合うのに、人種は関係ない。絆を結び方法も一つだけではない。私は無知な白人よりも教養ある黒人の方を身近に感じる」と述べるのだ。もっともらしい意見に聞こえるが、ボールドウィンは毅然と反論する。「私は警察官とすれ違うたびに、後ろから撃たれるのではないかという恐怖に苛まれてきた。そしてそれは私の思い込みではないく現実の脅威だった」と。

こうした場面が鮮やかなまでに対比して映し出すのは、差別者には恐怖心が無く、被差別者には恐怖心しかない・・・ということではない。ボールドウィンは言う、「私は二グロではない。私は人間だ。もしもあなたが私を二グロであると思うのなら、あなたの中にそう思いたい理由があるのだ」と。これこそが恐怖の核心であろう。よく差別者は「差別ではない。区別だ」と理屈を述べるが、その根底には被差別者に対する恐怖が存在する。これは黒人に限ったことではく、ネイティブ・アメリカンに対してもそうであるし、女性差別も構造的にそうであろう(そのことを端的に描き出した作品に『 未来を花束にして 』がある)。

アメリカという国に住む人間という意味で、皆は家族なのだ。家族でありながら、断絶があるのは何故か。ボールドウィンが書こうとして書き切れなかった “Remember This House” という本のタイトルの意味がここでようやく見えてくる。家族というのは、自分で選べない、気がつけばそこに存在しているという意味では、究極のファンタジーなのだ。アメリカという国に生まれ育ったものが、家族として一つ屋根の下に暮らせないことの欺瞞を嘆きつつも、融和への希望を捨てず、歴史を背負い、未来を見据えるボールドウィンの目に映るは、果たしてヒューマニズムかヒューマニティか。

アメリカ史をある程度知らなければ、チンプンカンプンとまでは言わないけれども、物語として咀嚼することが難しいだろう。しかし、このドキュメンタリーを観て、某かの意味を見出せないとすれば、それは余程の幸せ者か、さもなければドストエフスキー的ではない意味での白痴であろう。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, ジェームズ・ボールドウィン, スイス, ドキュメンタリ, フランス, ベルギー, 監督:ラウル・ペック, 配給会社:マジックアワーLeave a Comment on 『 私はあなたのニグロではない 』 -差別の構造的問題を抉り出す問題作-

『 君の名前で僕を呼んで 』 -映像美と音声美と一夏の恋-

Posted on 2018年5月17日2020年1月10日 by cool-jupiter

題名:君の名前で僕を呼んで 80点場
所:2018年5月6日 MOVIX尼崎にて観賞
主演:アーミー・ハマー ティモシー・シャラメ
監督:ルカ・グァダニーノ

*注意 本文中に本作および他作品のネタバレあり

部隊は1983年の北イタリア、大学教授が大学院生のオリヴァーを別荘に招くところから物語は始まる。知的かつマッチョな大学院生(アーミー・ハマー)は教授の息子のエリオ(ティモシー・シャラメ)と徐々に距離を縮めていく。公開前や公開当初はゲイ同士の恋愛と誤解する向きもあったようだが、主演の2人はストレートもしくはバイセクシュアルである。惹かれ合うきっかけなど何でもいい。男が女に最初に、かつ最も強力に惹かれるのは往々にしてフィジカル面の魅力だ。そのことを恐ろしいほど分かりやすく我々アホな男性映画ファンに突き付けてきたのは『ゴーストバスターズ』(2016)だった。ヘムズワース演じるアホなイケメン受付男を救うのに、なぜ彼女らはあれほど血道を上げたのか。

本作品は逆に、男同士が惹かれ合うのにどれほど重大な理由が必要なのかを大いに疑問視する。北イタリアでの一夏のアバンチュールだと言ってしまえばそれまでなのだが、それがあまりにも美しく描かれている。ここでいう美しさとは”自然な美しさ”ということ。開放的・解放的な気分になって、ついついベッドインしてしまいました、的なノリではなく、芸術論や歴史的な認識に纏わる知的な会話から、一緒に街までサイクリングするなど、観る者がゆっくりと彼らの交流に同調していけるように描かれているのだ。『無伴奏』はお互いが雄になって相手を激しく求め過ぎていたように見えたし『怒り』では一方の男が他方の男を乱暴に犯しているように見えた。もちろん、異なる物語の似たようなシーンを比較しても意味は無いのだが、相手のことを徐々に、しかし確実に好きになっていくというプロセスを邦画2作は欠いていた。この交流の美しさは是非多くの映画ファンに味わってほしいと思う。

テクニカルな面で注目すべき点は2つ。一つはBGM。多くは合成されたり編集されたものだと思われるが、実に多くの小川のせせらぎ、木々のそよめき、牛の鳴き声、蝿の飛ぶ音などが効果的に使われていた。ほんの少しのオーガニックな音で、観客はその場にいるような気持ちになれるものなのだ。『ラ・ラ・ランド』の冒頭の高速道路のダンスシーンに、ほんのちょっとした風の音やクルマの走行音やクラクション、遠くの空から聞こえてくる飛行機のジェットエンジン音などがあれば、「あなたがこれから体験する世界は全て作りものですよ」的ながっかり感を味わわなくても済んだのだが。ぜひ本作では、映像美だけではなく音声の美も堪能してほしいと思う。

もう一つの注目点は、やたらと画面に映りこむ蝿だ。ほんの少しネタばれになるが、エンディングのシークエンスでエリオの肩にずっと蝿が止まっているのだ。これが何を意味するのかは見る者それぞれの解釈に委ねられるべきなのだろう。

この映画の結末部分のカタルシスは『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い 』に並ぶものがある。息子が男相手に一夏の秘め事に耽るのを、親としてはどう見守るべきなのか。ロッド・スチュワートの代表曲の一に”Killing of Georgie”というものがある。Georgieというゲイの男を人生を歌ったものだ。我が子がストレートでないということに戸惑う親は、ぜひ本作に触れてほしい。何かしらのインスピレーションを必ず受け取ることができるはずだ。

日本では、同性婚を巡っては自治体レベルで認めるところが出てきてはいるものの、国民全体で考えるべきという機運の高まりはまだ見られない。「同性とも結婚できるようになる」ということを何故か「同性と結婚せねばならぬ」と感じる人が多いようだ。また夫婦は必ず同姓であるべしという、ある意味で完全に世界に取り残された日本という国に住まう人に、なにかしらのインパクトを与えうる傑作としてお勧めできる。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アーミー・ハマー, アメリカ, イタリア, ティモシー・シャラメ, ブラジル, フランス, ロマンス, 監督:ルカ・グァダニーノ, 配給会社:ファントム・フィルムLeave a Comment on 『 君の名前で僕を呼んで 』 -映像美と音声美と一夏の恋-

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