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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 配給会社:キノフィルムズ

『ハクソー・リッジ』 ―戦争と殺人の拒否という大いなる矛盾の弁証法―

Posted on 2018年6月28日2020年2月13日 by cool-jupiter

ハクソー・リッジ 80点 

2017年7月2日 東宝シネマズ梅田 その他爆音上映など複数回観賞
出演:アンドリュー・ガーフィールド テリーサ・パーマー サム・ワーシントン ヒューゴ・ウィービング ビンス・ボーン
監督:メル・ギブソン

まずはメル・ギブソン監督に賛辞を送らねばならない。これは戦争映画の傑作であり、英雄譚の傑作であり、なおかつリアルな軍隊論、戦争論のドキュメンタリー映像でもある。小さな頃の兄弟喧嘩で弟を反射的にレンガで殴打してしまい、意識不明になるような重傷を負わせてしまったデズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)。それ以来、彼は「汝、殺すなかれ」の教えを胸に刻みつける。時は流れ、第二次世界大戦も佳境へ。同世代が次々と志願兵となって戦地に赴く中、デズモンドは将来の妻となる看護師のドロシー(テリーサ・パーマー)と出会い、恋に落ちる。そして彼自身も遂に戦場へと向かう決心をする日が来る。無事に入隊するものの、「銃には触らない」「人は決して殺さない」という軍と対極にあるその思想信条に、仲間や上官は困惑し、デズモンドを排除しようとするようになるが・・・

何がこの男をそこまでして戦地に向かわせるのか。そして、銃を持たず、ただただ衛生兵として戦場で傷ついた兵士たちだけを救出していくことにどのような意味があるというのか。自らの身を守る術を持たないまま、戦場に立つことの恐ろしさや危険性をどれほど自覚できているのか。デズモンドが子どもの頃は、ただの性質の悪い飲んだくれにしか見えなかった父親(ヒューゴ・ウィービング)が、息子が戦地に向かうと聞いた時に語る昔話は、これらの疑問に対する彼なりの答えであった。思いの丈をこのような形で見せるのは反則である。劇場でも、そして自宅でも泣いてしまったではないか。懐古趣味とすら映ったその行動は、過去の戦争によって植え付けられたトラウマのせいであったことを我々はここで初めて明確に知る。ウィービングのベスト・パフォーマンスはこれまでは『 Vフォー・ヴェンデッタ 』であったと思っていたが、今作にこそ彼の最高の演技があると評価を見直したい。

戦場シーンは凄惨の一語に尽きる。血みどろなどという表現では生ぬるい、泥と臓物と火薬と煙が入り混じった、命であったモノがそこかしこに散らばっている。もちろん、五体満足な遺体も、死んだふりをしている役者ではなく、本当に仮死状態にでも追い込んでいるのではないのかという迫真の演技。我々はよく「死んだ魚の目」などと言って生気の無さを表現したりするが、今作もひょっとして微妙に目や顔などにVFXを施しているのか。いや、ギブソン監督はCGを多用するスタイルは好まないから、これもやはり迫真の演技か。

戦場の悲惨さが際立つのは、命の火はあまりにも呆気なく消えるのだという、その無慈悲なまでの描写にある。これは日本のテレビ映画『 鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~ 』でも取り入れられていた手法である。まさかギブソン監督が香川照之を観たりはしていないと思うが、それでもアメリカ人である彼が日本人の水木しげると同じ問題意識にたどり着いたのは興味深い。水木は戦局苛烈と報じられた南部戦線で左腕を失うわけだが、同じく戦争で左腕を失ってしまった人物を我々はちょうど最近、『 焼肉ドラゴン 』の龍吉に見出したところである。つくづく戦争の理不尽さを思い知らされる。ギブソンと言えば『 マッドマックス 』、『 マッドマックス 』と言えばオーストラリア。大日本帝国軍がオーストラリア北部にまで侵攻していたことは、一般にはあまり知られていないのではないか。やってしまったことは取り消しようがないが、やってしまったことを無かったことにしようとしても仕方がない。論語に「過ちて改めざる、是を過ちという」とある。いつか来た道に舞い戻ってはならない。

Back on track. 戦争前の訓練シーンではお決まりとも言える愉快なキャラクター達が登場するが、最も笑えるのはおそらくハウエル軍曹(ヴィンス・ヴォーン)であろう。オーウェン・ウィルソンと組んだ『 ウェディング・クラッシャーズ 』や『 インターンシップ 』で残した印象が強烈で、それゆえに彼が『フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹並みに口汚く新兵を罵っていく様は痛快ですらある。しかし、この痛快さが上述した戦場および戦闘シーンの凄惨さを倍増させている。ギブソン監督の手腕である。

その戦場でデズモンドが取る行動、すなわち衛生兵として負傷者の救護にあたることの意味を、観る者はすぐには見出せない。なぜなら、あまりにも呆気なく命が消えていくから。デズモンドが徹宵で戦場を駆け巡り、一人また一人と兵士を救い出していく様には初めはその英雄的行動に感動を、次にはその早く逃げてほしいという祈りを我々にもたらす。なぜ逃げないのか。それがデズモンドの信念であり信仰であると言ってしまえばそれまでだが、これは彼なりの父殺し(あくまでも文学的意味での)になっているのだろう。戦場で共に戦い、ともに死ねなかった戦友たち。父は友の死を悼んでいるのではなく、共に死ねなかったことを悔やんでいる。まるで『 アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン 』冒頭でトニー・スタークがスカーレット・ウィッチに見せられたようなビジョンだ。父が戦争に行きたいが許可してもらえない息子の願いを叶えるために、かつての上官を頼るシーンには、このような背景が見えてくる。軍を強くするのは、訓練ではなく「お前を独りでは死なせない」という連帯意識を共有することであろう。父やかつての上官はそれを知っていた。デズモンドは現実にそれを証明した。もしかしたら彼こそが軍人の鑑とすら言えるのかもしれない。なんという逆説であることか。

対照的に、日本軍兵士の描写は極めて陰鬱的である。この点をどう評価するのが、ある意味での思想のバロメーターになるのかもしれない。映画的演出上の脚色と見るもよし、史実の忠実な描写と見るもよし、フィクションとして距離を置くのもよいだろう。ただこの作品を通じて感じた何らかのメッセージを受け取ったのであれば、それを大事にしてほしい。戦争とは往々にして美化されるものだし、逆に美化されなければ、とても戦争などに行けるものではない。平和日本の今に乾杯するためにも、多くの人に今作に触れてほしいと思う。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アメリカ, アンドリュー・ガーフィールド, オーストラリア, ヒューマンドラマ, 監督:メル・ギブソン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『ハクソー・リッジ』 ―戦争と殺人の拒否という大いなる矛盾の弁証法―

『ワンダー 君は太陽』 -人の見た目が変えられないなら、人を見る目を変えるべし-

Posted on 2018年6月17日2020年2月13日 by cool-jupiter

ワンダー 君は太陽 75点

2018年6月16日 MOVIXあまがさきにて観賞
出演:ジェイコブ・トレンブレイ ジュリア・ロバーツ オーウェン・ウィルソン
監督:スティーブン・チョボウスキー

*一部ネタバレあり

これは傑作である。何が本作を傑作たらしめるのか。それは主人公オギー(ジェイコブ・トレンブレイ)が自分自身の力で何かを成し遂げる様子を逐一カメラに収めているからではなく、むしろオギーの周囲の人間が知らず知らずのうちにオギーの影響を受けているということを観客に非常に分かりやすい形でプレゼンテーションしてくれているからだ。またオギー自身も、決して子どもに似つかわしくない明晰すぎる頭脳やタフすぎる精神力を備えているわけでもない。言わば、ちょっと特殊な顔を数々の手術で治してきただけの普通の男の子なのだ。オギーを見ることは、ある意味で自分自身の暗い心と向き合うことでもある。誰もが何かしらの罪悪感や劣等感に苛まされているものだが、もしもそれがほんのちょっとのきっかけで取り除かれるのであれば、人は人にもっと優しくなれるかもしれない。どうせ自分は背が低いから、どうせ自分は太っているから、どうせ自分は二重瞼じゃないから、どうせ自分は・・・ と自分にマイナスの符号ばかりつけるということを、我々はしがちである。しかし、ほんの少し見方を変えれば、ほんの少し接し方を変えれば、ほんの少し勇気を振り絞れば、何かが大きく変わるかもしれない。そんな気にさせてくれる作品である。

もちろん、オギーの学校生活は初めはとても辛いものだ。誰もがオギーを「疫病神」扱いする。しかし、そんな中でも手を差し伸べてくれる子どもはいるし、オギーにはその手を握り返すだけの勇気があった。またテストで困っているクラスメイトに、こっそり自分の答案用紙を見せてやるなどの優しさや茶目っ気もある。他校の年上の生徒に友達が殴られたのに対して敢然と立ち向かう姿勢すら見せる。しかし、考えてみれば、こうしたことは全て普通のことであると言える。これがドラマチックであるのは、オギーが特別な少年だからではなく、オギーを特別な少年であると思い込んでいる我々の側にその原因があることが明らかになってくる。そのことを本作はある種の群像劇の形で教えてくれる。

この映画は、オギーの父ネート(オーウェン・ウィルソン)、母イザベル(ジュリア・ロバーツ)、姉ヴィアや愛犬のデイジー、その他にも姉の友人やボーイフレンド、オギーのクラスメイトや友人、教師、校長先生らの目を通じて、オギーの周囲の人間ドラマを構成していく。特に姉ヴィアが経験する親友との突然の断絶と新しい出会いは、『 レディ・バード 』でも似たようなテーマが扱われていたように、普遍的な事象であると言える。それが特殊な色彩と帯びて見えるとするなら、やはりそれは観る側の目にフィルターが掛かっているからなのかもしれない。そのことを暗示するのがオギーが友達のジャック・ウィル(ノア・ジュプ)と組んで発表する理科研究プロジェクトであると思う。

その他、個人的にツボだったのは、スター・ウォーズからチューバッカとダース・シディアスが参戦していること。このぐらいの年齢の子になると、旧三部作と新三部作を分け隔てなく愛でられるということは『 ザ・ピープルVSジョージ・ルーカス 』でも触れられていたが、時代は確実に進んでいるようである。それでも学校のとあるイジメのシーンでオギーを指して悪ガキのジュリアンが”Darth Hideous”と呼ぶところなどは、前述のジャック・ウィルの子どもらしさとはまた別の子どもらしさを見せられ、ぞっとしてしまった。このクソガキを巡ってはさらに一悶着あり、彼の良心と両親にも見せ場が与えられる。そこで、この世は陽の光と虹だけで出来ているわけじゃないんだ、というロッキー・バルボアの言葉を言葉を思い出す人もいるだろう。また劇中で『オズの魔法使い』が一瞬出てくるのだが、この作品でも虹は重要なモチーフになっている。それをオギーとジャック・ウィルはあっさり観ないという選択をするのだが、ここからもオギーと皆の物語は、魔法ではなく皆の知恵や勇気によって紡がれているものだということが暗示されているようだった。

再度繰り返すが、本作の素晴らしさは、オギーその人ではなく、彼の生きる世界の明るさと暗さ、その両方に我々が魅せられるからだ。愛犬デイジーとの別れや、そのことに独り寂しく涙する父などの姿なくして、オギーの成長はなかったし、物語世界の豊饒さは生まれなかったのではないだろうか。人は変わることができる、それは『スリー・ビルボード』のテーマでもあったが、そのことは本作にも通低している。映画ファンであってもなくても、見て損は無い傑作である。

それにしても主演のジェイコブ・トレンブレイはアダム・ドライバーそっくりだし、親友役のノア・ジュプはトーマス・ブロディ=サングスターに良く似ている。将来に期待が持てそうな子役たちである。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, オーウェン・ウィルソン, ジェイコブ・トレンブレイ, ジュリア・ロバーツ, ヒューマンドラマ, 監督:スティーブン・チョボウスキー, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『ワンダー 君は太陽』 -人の見た目が変えられないなら、人を見る目を変えるべし-

女神の見えざる手

Posted on 2018年6月8日2020年2月13日 by cool-jupiter

女神の見えざる手 85点

2017年10月22日 大阪ステーションシネマおよびブルーレイにて観賞
出演:ジェシカ・チャステイン マーク・ストロング クリスティーン・バランスキー
監督:ジョン・マッデン

ロビイスト映画の、これは白眉である。『 シン・ゴジラ 』並みのポリティカル・サスペンスであり、『ア・フュー・グッドメン』のようなスリラーでもある。銃メーカーがロビイング活動を請け負う会社に、女性が銃に対しても抱くイメージを変えてほしいと依頼するところから物語は始まる。銃を持つことで手に入れられる安心、強い母親のイメージ、それらを前面に押し出してほしいという依頼をしかし、ジェシカ・チャステイン演じるエリザベス・スローンは一笑に付す。ここから彼女は所属する大手ロビー会社を退社。マーク・ストロング率いる小さなロビー会社に移籍し、銃規制法案に働きかけていく。

冒頭に、“Lobbying is about foresight. About anticipating your opponent’s moves and devising counter measures. The winner plots one step ahead of the opposition. And plays her trump card just after they play theirs. It’s about making sure you surprise them. And they don’t surprise you.”という独白がある(実際には聴聞会のリハーサルだが)。この台詞の意味をよくよく噛みしめて今後の物語展開を見守って欲しい。予想してほしいではなく、見守って欲しいと願うのは、エリザベスの孤高の強さと弱さをその目に焼き付けてほしいからだ。話の展開を予想して、当たった外れたと一喜一憂することにさほどの意味は無い。少なくともこの映画に関しては。なぜなら、このストーリーの先が読める人は、余程のすれっからしか、さもなければロビイストだからだ。

それにしても、このエリザベス・スローンというキャラクターは異色である。2016~2017年にかけては、特に女性の女性性を大きく覆すような映画が多数公開されてきた(最も分かりやすい例は『ワンダーウーマン』と『ドリーム』か)ように感じるが、その中でも最も輝いているのは、おそらくこの Miss Sloane であろう。敵も味方も欺き、睡眠時間も削り、ストレス解消と言えば男娼を買うことで、勝つためなら法律違反も厭わないその姿勢は、観る者に問いかける。「あなたはここまでやりますか?」と。同時に、「ここまでやって勝った先に、いったい何があるのか?」という問いも必然的に発生する。彼女が求めたのは勝利なのか、それとも自己満足だったのか、それとも安息だったのか。ラストシーンで、彼女の目線の先にある者/物はいったい誰/何であったのか。

それにしてもジェシカ・チャステインという稀代の女優はここに来て、一気に花開いた感がある。『 ゼロ・ダーク・サーティ 』や『 モリーズ・ゲーム 』でも同工異曲のキャラを演じきったが、『 ヘルプ 心がつなぐストーリー 』では少し抜けたようでいて芯に強さのあるキャラも演じた。『 スノーホワイト 氷の王国 』のような微妙な作品に出演したこともあるが、作品のそのものの完成度の低さが、彼女自身の演技力や存在感を棄損したことは一度もない。希有な女優であると言える。何でもかんでもアメリカ様の後追いをする島国の、政治に危機意識を持つ人、キャリアに対して妥協を許したくない人にはぜひ観てほしい逸品である。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, アメリカ, サスペンス, ジェシカ・チャステイン, フランス, 監督:ジョン・マッデン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 女神の見えざる手

『 モリーズ・ゲーム 』 -The fact is stranger than fiction-

Posted on 2018年5月23日2020年2月13日 by cool-jupiter

題名:モリーズ・ゲーム 75点
場所:2018年5月21日 東宝シネマズなんばにて観賞
主演:ジェシカ・チャステイン
監督:アーロン・ソーキン

今の日本で最も売れていて最もノッている40代女性の役者はおそらく吉田羊だろう。では今のアメリカで最も売れていて最もノッている40代女性の役者はおそらくジェシカ・チャステインだろう。『ツリー・オブ・ライフ』、『 ヘルプ 心がつなぐストーリー 』、『ゼロ・ダーク・サーティ』、『インターステラー』、『 女神の見えざる手 』などの傑作に貢献する一方で、『 スノーホワイト 氷の王国 』や『 オデッセイ 』といった駄作にも出演してしまった。だがしかし、映画が作品としてパッとしなくとも、チャステイン自身がパッとしなかったということはこれまで決してなかった。今後も無いであろう。

厳格な父の元、幼少の頃から勉強とモーグルに打ち込んできたが、背骨に故障。医師の助言もあり、ここでスキーをあきらめるかと思いきや、あっさり復帰。五輪代表にあと一歩というところに迫る中で不運なアクシデント。「スポーツで最悪なのは五輪で4位になること?マジで?ふざけんな!」で締めくくられる一連の怒涛のナレーションで、主人公モリーの前半生があっさりと描かれる。まさにモーグル的なアップダウンと疾走感で一気に観客を物語世界に引き込む。2017年の私的ベスト『 ベイビー・ドライバー 』の冒頭のカーチェイス・シークエンスに優るとも劣らない見事なイントロである。

モリーがいかにしてロースクール進学を先延ばしし、職を得、そして失い、自分でポーカールームをマネジメントするまでに至ったのか。彼女を突き動かす原動力が何であるのかは物語終盤に明らかになるが、これはある意味で予想されていたこと。しかしその見せ方とタイミングが絶妙だ。ケビン・コスナー演じるモリーの父親は、アメリカ的な父親、つまり家父長制度の長であることを体現する一方で、いわゆる幻想の良き父をも体現するという離れ業をやってのける。スーパーマンのリメイクや『 ドリーム 』などでもそうだったが、父親的なフィギュアで好演を見せ続ける今、まさに円熟期であると言えよう。ネタバレにならない程度に留めて書くならば、この物語はほとんど全て、モリーが父親的存在を殺し、父親的存在を許していく過程を描く話、つまりは父殺しだ。モリーが挑発的な服装と言動を見せつつも、決して性を売り物にしない理由もそこにある。

もう一人のモリーにとっての重要な父親的存在としてイドリス・エルバ演じる弁護士についても言及せねばならない。『 マイティ・ソー 』シリーズ、そして『 ダークタワー 』などで重要な役割を演じてきたが、彼のキャリアの中でもこれは Best Performance である。クライアントであるモリーを時に諭し、時に叱り、時に寄り添い、そして全力で守る。『 ダークタワー 』では我が子を千尋の谷に突き落とすような父親像を打ち出していたが、本作ではモリーの実父を演じたケビン・コスナー以上に、父親としての温かみ、厳しさ、生々しさを観る者に感じさせた。エルバが娘にどのように接しているのか、そしてモリーがそれをどのように受け取っているのか、エルバの登場シーンからはそこにも注目しながらストーリーを堪能してほしい。

モリーが掴み取っていく成功と遭遇する悪意や恐怖、それらが絡まり合い限界点に達する時、父親像の破壊と再創造の瞬間がやってくる。詳しくは述べられないが、ぜひこの父娘の反発と和解を味わってもらいたい。そしてクライマックスの裁判から感動のエンディングへ一気になだれ込んでほしい。そこで初めてモリーが言った「スポーツで最悪なのは五輪で4位になること?マジで?ふざけんな!」の言葉の意味を悟るからだ。そこで受け取るメッセージはきっと観る者を勇気づけるはずだ。2時間20分の長丁場の映画だが、体感では1時間50分ほどだったか。ぜひ多くの人に観てもらいたい作品である。

 

 

Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, ジェシカ・チャステイン, ドラマ, 監督:アーロン・ソーキン, 配給会社:キノフィルムズLeave a Comment on 『 モリーズ・ゲーム 』 -The fact is stranger than fiction-

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