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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 配給会社:イオンエンターテイメント

『 リゾートバイト 』 -宣伝文句は控えめに-

Posted on 2023年10月28日2023年10月28日 by cool-jupiter

リゾートバイト 60点
2023年10月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:井原六花 藤原大祐 秋田汐梨
監督:永江二朗

風邪で寝込んでいるため簡易レビュー。

あらすじ

大学生の内田桜(井原六花)と幼なじみの真中聡(藤原大祐)と華村希美(秋田汐梨)は、瀬戸内海のとある島の旅館に泊まり込みのバイトにやってきた。ある夜、桜は女将が深夜に密かに食事を運んでいる姿を目撃してしまう。その後、3人は旅館従業員の岩崎から旅館の中の秘密の扉を探る肝試しを提案されて・・・

ポジティブ・サイド

ロケに関しては『 忌怪島 きかいじま 』とよく似ているが、島という閉鎖環境の雰囲気は本作の方がはるかに上手く使えていた。同じく低予算ホラーながら一世を風靡した『 イット・フォローズ 』へのオマージュであるかのようなシーンもあり、個人的には楽しめた。

舞台が岡山というのも個人的には〇。岡山は最怖ホラー小説(というよりも怪談)である『 ぼっけえ、きょうてえ 』や津山30人殺し、『 八つ墓村 』などホラーと相性が良い土地なのだ。

主演の井原六花が見事な演技力を披露。梶原善とは老若男女の面で見事な対をなしていた。秋田汐里もどこかで見たことあるなあと思っていたら『 青夏 きみに恋した30日 』や『 惡の華 』に出演していたのか。本作を機にクソ映画の脇役キャラから脱出してほしい。

ネガティブ・サイド

正直なところ、ポスター類が盛大なネタバレになっていると思うのだが、どうだろうか。また『 きさらぎ駅 』のスタッフが再集結ということで同工異曲のホラーを予想していたが、その予想は半分当たった。宣伝文句=半分ネタバレというのは勘弁してほしい。また

冒頭から夏恒例の糞ホラーやんけ、と思いながらなんとなく雰囲気が『 ザ・スイッチ 』に似ているなと感じた。松浦祐也の絶妙なコミックリリーフっぷりが『 ゲット・アウト 』の面白黒人キャラを髣髴させた。すれっからしのJovianは坊主が真言を唱え始めたところで「なるほど」と一人ごちた。あんまり予測不可能とか銘打たんほうがええね。

総評

低予算ながら随所にアイデアが散りばめられた良作。コメディ要素も笑えたが、青春映画的な要素はもっと薄くて良かったかな。落ちのアイデアは秀逸だと思うが、だったら「絶対に先が読めない」などと謳わない方が良い。ホラーと言ってもスプラッターではないし、案外デートムービーに向いているかも。それよりファミリーで鑑賞するのもありかもしれない。世のお父さんお母さん、家族で本作についてあれこれ語り合うのも案外面白いかもしれないませんよ。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

test of courage

これは確か大学一年生の時にダニエルに教えてもらったんだったか。Jovianは母校のICUの寮に住んでいたが、これが森の中なのである。9月の新入生やら留学生の受け入れで、キャンパス内で肝試しやろうぜみたいな流れになり、そこで肝試しは云々かんぬんと説明したら、So, it’s a kind of a test of courage. と言われたと記憶している。肝試しというお化けやら呪いに関係してそうだが、test of courage は度胸試しに近いか。

次に劇場鑑賞したい映画

『 オクス駅お化け 』
『 月 』
『 トンソン荘事件の記録 』

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Posted in 国内, 映画, 未分類Tagged 2020年代, C Rank, ホラー, 井原六花, 日本, 監督:永江二朗, 秋田汐梨, 藤原大祐, 配給会社:イオンエンターテイメントLeave a Comment on 『 リゾートバイト 』 -宣伝文句は控えめに-

『 渇きと偽り 』 -乾いた大地の人間関係-

Posted on 2022年9月27日 by cool-jupiter

渇きと偽り 70点
2022年9月25日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:エリック・バナ
監督:ロバート・コノリー

 

サイモン・ベイカー主演・監督『 ブレス あの波の向こうへ 』以来のオーストラリア映画の劇場鑑賞。

 

あらすじ

連邦警察官アーロン・フォーク(エリック・バナ)は旧友ルークの葬儀に参列するため、20年ぶりに故郷の小さな町に帰ってきた。ルークは自身の妻子を射殺した後に自殺したとされていた。プライベートで捜査に乗り出したフォークは、自分たちの若い頃に起きたある事件と、今回の事件がつながっているのではないかと感じ始め・・・

 

ポジティブ・サイド

どこまでも無慈悲に広がる乾いた大地が、よそ者を拒むかのように画面を支配する。主人公のアーロンも全く歓迎されない。アメリカの警察映画などで、FBIが片田舎の地元警察や地元住民に相手にされないのと同じような展開で、それ自体は珍しくもなんともない。本作はそこに、アーロン達の身に起きた過去のある事件を効果的に織り交ぜてくる。これによって、中央と田舎の対立以上の火種が事件そして町に潜んでいることが浮き彫りになってくる。

 

アーロン自身の捜査によって少しずつルークの事件の情報の断片が手に入ってくるが、それと並行するようにアーロン自身の過去の回想シーンが挿入される。なぜアーロンはこれほど町で歓迎されないのか。逆になにがアーロン自身をこれほど捜査に駆り立てるのか。そのあたりの事情が徐々に明らかになるペースが絶妙である。「なるほど」と「それは何だ?」と感じさせる塩梅がちょうどよい。脚本および編集の妙味だなと感じる。

 

怪しげな人間やきな臭い人間関係が浮かび上がっては消えていく。まるで町そのものが大きな闇を抱え込んでいるかのように、アーロンの捜査はいいところまで行くたびに袋小路に入ってしまう。しかし終盤に思いがけない形で真相に迫るヒントが浮上、物語は一気に最終盤へ。コロナ大流行前の世界のニュースといえば、オーストラリアの超大規模森林火災だったことを覚えている人も多いだろう。そうした大災害の予感を感じさせるクライマックスは、それまで散々干ばつに悩まされてきた土地および住民の描写のおかげで、より迫力を増していると感じた。

 

ミステリ風味たっぷりのサスペンス、サスペンス風味たっぷりのミステリとも言える。こうしたジャンルを好む向きなら、本作を鑑賞しない手はない。

 

ネガティブ・サイド

序盤の展開にもう少しテンポの良さが欲しい。少し眠気を誘われてしまった。

 

ティーンエイジャーのアーロンと現在のアーロンがまったく似ていない。なんかもう顔も体も骨格レベルで別人である。もう少し顔かたちが似た若い俳優はいなかったのか。

 

ネタバレを避けるため詳しくは書けないが、過去の事件の真相と現在の事件の繋がり方(と言っていいのかどうか・・・)には拍子抜けである。現在の事件の真犯人が最後に自暴自棄になってやろうとしたことは「まじでそれはヤバい」感があったが、犯行の理由はあまりにもありきたり。もっと衝撃的な真相が欲しかった。

 

総評

サスペンスは最後まで持続するが、ミステリ部分のカタルシスが最後はとても弱い。ただし、ちょっぴり残念な真相に至るまでの展開は very mysterious and suspensful 。様々な人間関係や人間模様は徐々にあらわになる中盤の展開は間違いなく一級品。警察ジャンルが好きな人ならきっと楽しめるはず。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

second nature

「第二の性分・習性」の意。しばしば become second nature という形で使う。

Practice this move until it becomes second nature to you.
この動きが自然にできるようになるまで練習しなさい。

スポーツ、あるいは演奏や美術品・工芸品作成の指導時に使うことが多そうな表現である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, エリック・バナ, オーストラリア, サスペンス, ミステリ, 監督:ロバート・コノリー, 配給会社:イオンエンターテイメントLeave a Comment on 『 渇きと偽り 』 -乾いた大地の人間関係-

『 きさらぎ駅 』 -都市伝説を換骨奪胎した異色ホラー-

Posted on 2022年6月15日 by cool-jupiter

きさらぎ駅 55点
2022年6月12日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:恒松祐里 佐藤江梨子
監督:永江二朗

『 真・鮫島事件 』の永江二朗監督の最新ホラー。夏恒例の糞ホラーだと思い込んでいたが、それなりに面白いところもあった。

 

あらすじ

大学で民俗学を学ぶ堤春奈(恒松祐里)は、かつて2chに投稿された神隠し譚の「きさらぎ駅」についてリサーチしていた。投稿者である「はすみ」こと葉山純子(佐藤江梨子)への対面聞き取り調査で、ふとしたことから異世界への行き方のヒントをつかむ。春奈がその方法を実地に試したところ、電車は本当に「きさらぎ駅」に到着してしまい・・・

以下、ネタバレあり

 

ポジティブ・サイド

科学の進展が著しく、かつネットの普及によって知識が行き渡ったことによって、心霊現象や未知の生物、怪物といったものは段々と恐怖の対象になりにくくなった。そんな中、日本の文学界(と言っていいのかどうか難しいが)では、いわゆる「なろう系」≒異世界転生ものを発見した。そのジャンルが面白いかどうかは別にして、異世界に行って、そこから帰ってくるという本作の設定は受け入れられやすくなっている。その意味で『 真・鮫島事件 』とほぼ同時代の「きさらぎ駅」だが、映画化のタイミングは良かったのではないか。

 

本作がホラーとしてユニークなのは、怪異を攻略するところ。1周目の「はすみ」のターンはPOVで進み、まるでサウンドのベルゲームをプレーしているかのような感覚を覚えた。こういったゲーム的視点は『 悪女 AKUJO 』のようなバリバリの武器を使ったアクションだけではなく、ホラーというジャンルにも適用可能性があるというのは大きな発見だと感じた。

 

2周目の「春奈」のターンでは、春奈と視聴者が見事にシンクロする。これもループものではお馴染みだが、ホラーというジャンルにこれを適用するのも面白かった。同じ人間が何度もループすることで、絶望的な状況にもどんどん対応できるようになる映画では『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』が想起されるが、本作は短時間で『 オール・ユー・ニード・イズ・キル 』的な爽快感をもたらすことに成功している。混ぜるな危険と思わせて、混ぜてみると楽しい。そんな新しい発見がある。

 

順調に異世界を攻略していく春奈だが、最後の最後に結構なドンデン返しが待っている。怖いのは異世界の怪異と見せかけて・・・という展開である。さらにポストクレジットシーンもあるので要注意。帰ってしまう人を数人見かけたが、もったいない。予想通りのエンディングだが、これはこれで観る側の想像力を刺激する。『 牛首村 』や『 犬鳴村 』のエンディングに満足できなかった人は、本作で溜飲を下げようではないか。

 

ネガティブ・サイド

基本的には夏恒例の糞ホラーと同じく、効果音とカメラワークによるこけおどしの jump scare のオンパレードである。鑑賞しながら「はい、3、2、1」とビックリ演出まで心の中で余裕でカウントダウンできるシーンが少なくとも10個はあった。これで怖がれ、というのは無理な注文である。

 

謎の太鼓の音は日本的な心理的不快感を催させるのに効果的なはずだが、それがトンネルの中でまで聞こえてくるのはいかがなものか。いや、別に聞こえてもいいのだが、だったらトンネルの中らしい反響音を響かせて、純子らに「まずい、トンネル内に誰かいる!」と思わせなければならない。あるいは、トンネル外の太鼓の音がトンネル内で小さく、しかし不気味に反響しているように編集すべきだった。

 

佐藤江梨子の喋りがあまりにも平板で抑揚がなさ過ぎた。怪異が跋扈する異世界において、この暢気すぎる喋りは確実に恐怖感を削いだ。1周目は恐怖パート、2周目は「強くてニューゲーム」あるいは考察・検証パート。なので1周目の佐藤江恵理子は声だけで観る側(聞く側?)に不安感、焦燥感、不快感、恐怖感などの負の感情を惹起させる必要があった。監督の演出の弱さもあるのかな。

 

異世界エレベーターの原理が弱いと感じた。あの程度で異世界に行ってしまうのなら、一年に一人ぐらいはきさらぎ駅に行ってしまうのではないか。Jovianも過去に京都→尼崎と行くべきところを、京都→三宮→大阪→尼崎という寝過ごし2回乗車を2回やったことがある。きさらぎ駅行きの電車に乗るには、リアリティの面でもうひと手間あっても良かったのではないか。

 

総評

劇場公開から10日目の日曜日の夜だが、劇場は4割ほどの入り。ほとんどは10代、20代のカップルだった。ただし、女子が「キャッ!」と言って、男の腕に抱きついてくるようなシーンはなかったように思う。主人公が怪異をガンガン撃退するというホラーとしては異色の展開ながら、同工異曲の『 貞子3D 』のようなアホらしさはない。恐怖度は控え目なので、だからこそデートムービーにふさわしいのかもしれない。きさらぎを冠する作品としては佐藤祐市監督のワンシチュエーション・コメディの『 キサラギ 』が絶品の面白さなので、ぜひチェックされたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

urban legend

「都市伝説」の意。Urban legend has it that S + V. = 都市伝説によるとSがVする、のように使うことがある。本作で言うと Urban legend has it that there is a station called Kisaragi station. = きさらぎ駅と呼ばれる駅があるという都市伝説がある、と言えるだろう。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, D Rank, ホラー, 佐藤江梨子, 恒松祐里, 日本, 監督:永江二朗, 配給会社:イオンエンターテイメントLeave a Comment on 『 きさらぎ駅 』 -都市伝説を換骨奪胎した異色ホラー-

『 Ribbon 』 -メッセージのある青春映画-

Posted on 2022年3月3日2022年3月3日 by cool-jupiter

Ribbon 65点
2022年2月27日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:のん 能年玲奈 山下リオ 渡辺大知
監督:のん 能年玲奈

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のん(能年玲奈)による主演・脚本・監督作品。メジャーな舞台への復帰を模索するばかりでなく、今後はこういった方向の表現者であることを希求するのも良いのではないか。そう思える出来映えだった。

 

あらすじ

2020年、突如訪れた新型コロナ禍により、大学の卒業制作展が中止となった。制作意欲を失った美大生のいつか(のん)は、手持無沙汰のままステイホームする。ある時、運動不足解消のために散歩を始めたいつかは、近所の公園で不審な若い男性と遭遇するようになり・・・

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ポジティブ・サイド

『 ちょっと思い出しただけ 』や『 真・鮫島事件 』でもコロナ禍は描かれていたが、本作は物語の根幹にコロナ禍が据えられているという点で意義深いと思う。Jovianは一応、2020年春から大学での語学教育に携わっているので、いつかの物語をかなり自分の教え子の経験に重ねて観ることができた。

 

コロナ禍というタイムリーかつシリアスな問題を扱いながらも、のん演じるいつかのアンニュイな日常生活風景には、どこか牧歌的な感じも漂う。いつかの母、父、そして妹が次々といつかのアパートにやって来るが、これが非常に濃い面々。完全防御の汗だくの格好でやってきて手料理を振る舞ってくれる母に、不審者撃退用さすまたを持ち運んでいて職質されたという父に、これまた職質上等スタイルの妹。この上なく深刻なはずの世相が、とてもユーモラスなものになっている。受けて立つのんもなかなかの演技。『 私をくいとめて 』の充実したおひとり様ライフとは対照的に、グダグダの日常を送る姿にも説得力があった。

 

印象に残ったのは圧倒的に母親。いくらなんでも描きかけの絵を捨てるかと思うが、こういう母親は実際に結構な数が存在しているように思う。Jovianも大昔、一人暮らしをしているところに訪ねてきた母親によって、部屋の掃除をしてもらいつつも、大学時代のノートや思い出の品をゴミとして処分されそうになった経験がある。なので、いつかの怒りに共感するところ大だった。

 

コロナ禍によって顕著に変化したのは、人と人との距離だろう。ソーシャル・ディスタンスという物理的な距離も変化したし、ZoomやGoogle Meetなどのツールによって、リアルスペースで出会うことなく仕事をしていくことにも我々は慣れてきた。しかし、見逃してはならないのは、自分と自分との距離まで離れてしまったことだろう。離人症とまでは言わないが、コロナ禍という現実を受け入れられず、精神を病み、休学・退学になってしまった学生もたくさん出たのである。本来あるべき自分になろうとしていたのに、それを阻まれてしまった。その苦悩は若者ほど大きいだろう。「私ってこんなに承認欲求強かったんだあ」といつかと平井は自覚する。その欲求の根源、いつかにとっては中学時代の忘れてしまっていた青春の一コマをやがて回想するようになるという脚本はなかなかの手練れだと感じた。

 

マスクで顔の半分が見えず、誰が誰だか確信が持てない、あるいは素顔を知らないというのは現代人あるあるで、のんが渡辺大知演じる公園の男と絶妙な距離を保つ一連の流れは非常に上質なコント。いや、笑ってはいけないのだが、これはのんがこうした距離感を呵々として笑い飛ばしたいという願望をストレートに表現したのだと受け取ろうではないか。

 

最後にささやかに開かれる卒展に、芸術は人の心を動かす力を持っているのだというメッセージを受け取った。新人監督かつ新人脚本家・のんのまっすぐな心意気は確かに伝わった。

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ネガティブ・サイド

タイトルのリボンがいちかの心情を表していたのだろうが、いかにもCGといった演出には感心しない。美大生の心をリボンの色と動きで表現しようと試みたのだろうが、それならいつかを絵描きではなく、ダイレクトにファインアート作家の卵に設定すればよかった。その方がより自然である。または、いつかが色とりどりのペンキを心象風景のキャンバスにぶちまける様をリボンで表しても良かった。それならリボンの意味もあろうというものだ。いつかの美術のバックグラウンドとリボンがあまり結びついていないのは残念である。

 

親友の平井との諍いは不要。物語を大きく動かしたかったのだろうが、もっと静かに動かしつつ、なおかつ迫真性のあるドラマは生み出せたはず。たとえば、卒展が中止になり、涙ながらに自らの作品を破壊する学生たちの姿が冒頭で映し出されたが、そこから急遽、大学側がオンラインでバーチャル展覧会を開催すると決定、学生たちには歓喜と混乱が広がり・・・という筋立てであれば、多くの大学の2020年および2021年の大学祭と重なるところが多く、リアルな人間ドラマにつなげられただろうと思う。

 

終盤のシーンでも、大声やら大きな音を出してはいけないシチュエーションで思いっきり大声や騒音を出すのはどうかと思った。それが青春の一つの形だとは思うが、リアリティは感じなかった。同じく、BGMを多用しすぎだと感じた。色々と凝りたくなるのだろうが、思い切ってそぎ落とす方が効果的な場合もある。

 

総評

多くの娯楽や芸術に「不要不急」というレッテルが貼られた2020年。確かに不急かもしれないが、不要ではないだろうと思う。そうした憤りや不満を、文書や動画ではなく、映画作品として発表してしまうのだから、大したものだと思う。多くの映画人が記者会見やホームページ、SNSなどで意見を発してきたが、作品という形で「芸術は人間にとって必要なものなのだ」と静かに、しかし高らかに宣言したのは邦画では本作が初めてではないか。ぜひ多くの映画ファンに鑑賞いただきたいと思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a job offer

「就職内定」の意。an offer of employment もよく使われる。「内定をもらう」という動詞には、get や receive が使われることもセットで覚えておきたい。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, のん, 山下リオ, 日本, 渡辺大知, 監督:のん, 能年玲奈, 配給会社:イオンエンターテイメント, 青春Leave a Comment on 『 Ribbon 』 -メッセージのある青春映画-

『 砕け散るところを見せてあげる 』 -青春映画を期待するべからず-

Posted on 2021年4月11日 by cool-jupiter

砕け散るところを見せてあげる 65点
2021年4月10日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:中川大志 石井杏奈 井之脇海 清原果耶
監督:SABU

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怪作『 蟹工船 』監督のSABUが竹宮ゆゆこの同名小説を映画化。タイトルからして不穏であるが、割と血生臭い系の映画にばかり出演している石井杏奈がヒロインであることから色々とお察しされたい。

 

あらすじ

高校三年生の濱田清澄(中川大志)は、いじめの対象にされている一年生の蔵本玻璃(石井杏奈)を助ける。初めは拒絶していた玻璃だが、徐々に清澄に心を開き、二人は打ち解けていく。しかし、玻璃は「UFOを撃ち落とさなければならない」という謎の告白をして・・・

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ポジティブ・サイド

石井杏奈の代表作が生まれた。『 ホムンクルス 』のレビューでキャピキャピ映画に出るべしと提案したが、撤回したい。等身大ではなく、一筋縄ではいかない、どこかに闇を抱えた少女路線をしばらく続けるべし。久しぶりに若い女優の「演技」を観たと感じた。体育館での奇声、女子トイレでの吃音交じりのしゃべりに『 志乃ちゃんは自分の名前が言えない 』の南沙良を思い起こさせてくれる演技だった。特にトイレのシーンは圧巻。寒さからくる震えと極度の緊張感と不安感から、自然とどもってしまう感じが演技には思えなかった。そして中盤に華麗なる(外見上の)変身を果たしても、口数の多さから対人的な距離の取り方の下手さがうかがい知れる。つまり、他人との距離が極めて近いか、極めて遠いかという不器用な人間の顔が見えてくる。佳人薄命と言うが、こういう人間に救いの手を差し伸べられるかどうかでその人間の価値が上下するようにすら思えてしまう。それほど周囲から孤立し、それゆえに多くの人を遠ざけ、ほんのわずかな人間だけを引き寄せるという不思議なキャラクターに仕上がった。SABU監督の演出もあるのだろうが、石井杏奈本人のcharacter studyの努力も見逃せない。

 

それを助ける中川大志も今までのキャリアの中ではベストアクトだろう。『 坂道のアポロン 』的な役で1年のいじめっ子たちをぶっ飛ばしてほしいと一瞬だけ感じたが、すぐにそういう役ではないと分かった。どちらかというと『 覚悟はいいかそこの女子。 』に近かった。といっても、甘酸っぱい、青臭いラブストーリーではなく、かといって社会的な貧困問題などを取り上げているわけでもない。極めて個人的な背景と関係を描いた物語である。ヒーローになるという、ともすれば青臭い正義感に駆られた少年という漫画的なキャラクターをリアリティをもって描き出せていた。そう感じさせてくれたのは、いじめられている玻璃にひたすらに寄り添う姿勢からだ。確かにいじめっ子に対して先輩という立場や体格の違いにものを言わせることはたやすい。担任や学年主任にいじめを報告することもできる。しかし、清澄はそうした行動を選択しない。それは彼自身の信念から来ていることで、だからこそ少々不可解に思える行動にもある程度納得することができる。

 

青春邦画には少々珍しく、かなり直截的なメイクアップが使われている。そこは評価したい。美しく見せるだけがメイクではない。痛みを伝えることも、メイクの重要な役割であることが本作を通じてあらためて感じられた。

 

若い二人の関係性の発展にフォーカスした中盤までは必見。終盤でも、一発で撮影できなければやり直しが困難あるいは多大な時間を要するシークエンスが多数あり、それを見事に乗り切った中川と石井、そして多くのスタッフの労力に敬意を表したい。

 

愛とは何か。それは消えないもの、続いていくもの、目に見えなくても実感できるもの。そうした極限的に青臭いメッセージを最終的に送ってくる本作であるが、それを好ましく受け止められるだけの重みが本作にはあった。

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ネガティブ・サイド

冒頭の勉強部屋のシーンはもっとうまく作れたはず。それこそ窓の外から撮るとか、または母親目線で、つまり背後から撮るとか、もっと工夫のしようがあった。多分このシーンと直後の全力ダッシュシーンのつながり方で、多くの人が「ん?」となったはず。Jovian嫁はそうだった。ここは「ん?」と思わせてはいけないシーンだろう。

 

清澄と田丸の友情は非常に好ましく、微笑ましくも思えたが、終盤で田丸が清澄に「この線の向こう側に行くな!あの女ではなく俺を選べ!」といったようなセリフを吐いたのには正直ドン引きした。BL要素は不要だし、何よりも普通の男は、男の友情よりも女を選ぼうとしている男の肩を持つものだ。原作がこうなのかな?ここには多大な違和感を覚えた。

 

『 パブリック 図書館の奇跡 』でもあったミスだが、真冬の長野だという設定にもかかわらず登場人物たちの吐く息がまったく白くない。夜でさえも。また清澄と玻璃の帰り道だか車から見えるシーンだったか、思い切り稲穂が首を垂れていた。つまり、撮影時期は10月頃だろう。だったら劇中をそういう時期に設定するか、あるいは夜だけでも白い息を吐くように工夫するか、CG処理でもしてほしかった。特に真冬で凍える時期という設定に一定の意味があるのだから、後者が必要だったのではと強く思う。

 

最後に、これは映画そのものへのfeedbackでもcomplaintでもないのだが、どうしても言わせてほしい。もうトレーラーで物語を全部ばらす愚行からはそろそろ卒業してはどうだろうか。これは邦画だけではなくハリウッドにも当てはまるが、インド映画や韓国映画のトレーラーはもっと巧みに作られている。本作もまったく悪いストーリーではないが、トレーラーがほとんど全部のストーリーを語ってしまっている。本編鑑賞後に観て「ああ、なるほど」と思える構成ではなく、観る前にストーリーの推測ができて、観た後に「トレーラーのまんまやんけ・・・」と頭を抱えてしまう。もう、そういうトレーラー作りや公式サイト作りはやめよう、本当に。

 

総評

冒頭の北村匠海→中川大志のチェンジに違和感を抱いてはならない。それが第一の関門(いや、原作小説ではどうだかわからないが、これは10人中8人ぐらいが素直に飲み込めるはず)。終盤でガラリとトーンが変わるが、それを受け入れられるかどうかが二つ目の関門。そこさえクリアできれば、非常に小さな、それでいて大きなスケールの感動を味わうことができるに違いない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

UFO

ユーフォーではなく、ユー・エフ・オーと読む。unidentified flying objectの頭文字を取ったもの。意味は未確認飛行物体=正体が確認されていない飛んでいる物体、である。Jovianが分詞の形容詞的用法を説明する際に必ず使う語である。過去分詞でも現在分詞でも、それを形容詞的にサッと名詞にくっつけて発話できるようになれば、英語の中級者であると言える。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, 中川大志, 井之脇海, 日本, 清原果耶, 監督:SABU, 石井杏奈, 配給会社:イオンエンターテイメント, 青春Leave a Comment on 『 砕け散るところを見せてあげる 』 -青春映画を期待するべからず-

『 スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち 』 -究極の裏方たち-

Posted on 2021年1月11日 by cool-jupiter

スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち 70点
2021年1月10日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:ミシェル・ロドリゲス
監督:エイプリル・ライト

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CG全盛、モーション・キャプチャー全盛の時代とはいえ、誰かがそのアクションを行っているのは間違いない。そのアクション担当のスタントパフォーマー、特にスタントウーマンに着目するという、ありそうでなかったドキュメンタリー作品。なかなかの見ごたえであった。

 

あらすじ

20世紀初頭から現代に至るまでのハリウッド映画におけるスタントウーマンたちの知られざる活躍や苦労、犠牲、そして歴史を、加須多くのスタントウーマンたちのインタビューを通じて、明らかにしていく。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20210111165519j:plain
 

ポジティブ・サイド

スカーレット・ジョハンソンが妊娠していたため『 キャプテン・アメリカ/ザ・ウィンター・ソルジャー 』のブラック・ウィドウのアクションは全てスタントウーマンによって行われたということが一時期話題になっていたが、ちょっと待て。妊娠していようと妊娠していまいと、アクションはやっぱりスタントウーマンが行っているのだ。今まで当たり前すぎて気が付かなかったことに、本作を通じてやっと思い至った。スタント・パフォーマーというのは究極の裏方で、『 スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス 』で元々はスタント・ダブルだったレイ・パークがそのままダース・モールを演じたのは例外中の例外だったのだ。

 

蒙を啓かされたと感じたのは、1900年代や1910年代から、女性がかなり危険なアクションシーンを演じていたということ。当時は当然、フィルム撮影なわけで、テープに限りもあれば、編集作業も現代とは比較にならない大仕事。そんな中で男女を問わず役者本人が危険のあるアクションもこなしていたという歴史的事実は驚き以外の何物でもない。そして、そうした活躍がカネになると知った者たちが、女性からその仕事を奪っていった経緯、そして1970年代のウーマン・リブから今日に至るまで、女性スタント・パフォーマーたちはあらゆる意味で戦い続けているという描写には、畏敬の念を抱かずにはいられなかった。数多くのスタントウーマンたちの中でもジーニー・エッパー(『 ワンダーウーマン1984 』のラストで一瞬だけ出てきたリンダ・カーターのスタント・ダブル!)が、スタントウーマン組合を設立して、その長に就任したところ、5年も業界から干されたというのは余りにも生々しく、痛々しい。そうした声が30年あまり経って、ようやく聞かれるようになったところに、ハリウッドの闇を感じる。一方で、数々の映画の裏に絶対に存在していたと認識できているはずのスタント・パフォーマーたちの立ち位置について、やはり我々は意識が十分ではなかったのではないかとの思いも強くなる。自分はいったい、画面の向こうに誰を観ていたのか、と。

 

スタントウーマンたちのトレーニング風景は、ハードワークの一語に尽きる。柔道やボクシングなどの格闘技だけではなく、トランポリンや高所からの落下など、デカスロン選手もかくやというトレーニングメニューの数々。さらにはクルマのドライビング・テクニックや武器の扱いまで。これだけのトレーニングを普段から積み続けていることにも素直に驚かされた。『 ベイビー・ドライバー 』のアンセル・エルゴートがひたすら運転の練習をしているというボーナス映像があったが、逆に言うと役者がそれだけアクションを実際に行うのは稀なことだということだろう。

 

スタント時の悲劇についても触れているのは、辛いことではあるものの、この業界のこの仕事のリスクを赤裸々に公開しているという点で評価する。この職に就こうと思う人々の大半は、やはり映画を観てインスパイアされた人が最も多いだろうから。『 バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2 』で時計台に突っ込むはずが柱に激突するシーンは、自宅のレーザーディスクの解説か何かに「事故だった」と書かれていたのを覚えている。そうした危険な仕事であるという負の部分を隠すことなく映し、そして語った本作は、スタント・パフォーマーを志す人々にとってのmust-watch な作品になったと言える。

 

単にスタントをこなすだけではない。その経験を活かして、業界内で更なる地位を得た者の活躍にも触れている。ハリウッドという特異な生態系で、しっかりとサバイバルする女性たちの姿からは多大な勇気を与えられることだろう。

 

ネガティブ・サイド

色々と権利関係がうるさいのかもしれないが、『 チャーリーズ・エンジェル 』や『 ワイルド・スピード 』の実際の劇中のクリップを見せてくれても良いのではないか。彼女たちの活躍がどれくらいカッコいいアクションシーンを作り上げているのかを見せないのであれば、劇場公開する意義は半減する。アクションは大画面、大音響で堪能するべきだからだ。

 

スタントウーマンたちの声を十分に聴くことはできたが、では女優さんたちの声は?たとえばスカーレット・ジョハンソンやハル・ベリー、ブリー・ラーソンなどの彼女らのスタントの直接の恩恵を受けた役者たちの声も聴いてみたいと思うのは当然だ。そうした声が聴けない点は大いに不満である。

 

ドキュメンタリーはインタビュー形式で進むのが常だが、あまりにも取り留めのない構成であると感じた。作品ごとに論じるのは不可能にしても、たとえば1980年代、1990年代、2000年代などと時代ごとに区切るか、あるいは車のスタントなのか、格闘のスタントなのかのように、何らかの形でスタントウーマンたちをカテゴライズした構成にすれば、より分かりやすかったと思われる。

 

総評 

良作である。『 ようこそ映画音響の世界へ 』のように、裏方さんの仕事に光が当たるのは喜ばしいことだ。映画の世界の奥行きがさらに増して見えるようになると思う。今度の対象は、ヘアスタイリストか、それともメイクアップアーティストか。カズ・ヒロのドキュメンタリー作品とか、誰か作ってくれないかな。または『 すばらしき映画音楽たち 』の第2弾。絶対に需要はあると思うのだが。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

wrap one’s head around ~

『 ゴーストランドの惨劇 』でも紹介した表現。「~を理解する」の意味。

I finally wrapped my head around the risk of being a stunt performer.
スタント俳優であることをリスクをようやく理解することが出来た。

のように使う。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2020年代, B Rank, アメリカ, ドキュメンタリー, ミシェル・ロドリゲス, 歴史, 監督:エイプリル・ライト, 配給会社:イオンエンターテイメントLeave a Comment on 『 スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち 』 -究極の裏方たち-

『 真・鮫島事件 』 -ジャパネスク・ホラーの夜明けは遠い-

Posted on 2020年11月28日 by cool-jupiter
『 真・鮫島事件 』 -ジャパネスク・ホラーの夜明けは遠い-

真・鮫島事件 15点
2020年11月28日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:武田玲奈 小西桜子 しゅはまはるみ
監督:永江二朗

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201128212421j:plain
 

Jovianは1998年大学入学、2002年卒業なので、携帯電話やパソコンが一般に普及していく過程を体がよく覚えている。同時に、2ちゃんねるのようなインターネット世界(梅田望夫が言うところの「あちら側」)にも結構ハマっていた。なので、鮫島事件や電車男のことはよく覚えている。なので、本作にはそれほど期待せずに、淡い郷愁の念のようなものだけを持って劇場へ向かった。甘かった。やはり単なるゴミ、低クオリティのホラー映画だった。

 

あらすじ

菜奈(武田玲奈)はコロナ禍のため、高校時代の同級生たちとオンライン飲み会を開催するが、メンバーが一人足りない。その仲間のボーイフレンドが代わりにウェブ上に現れ、仲間の死を告げる。そして自分自身も謎の死を遂げてしまう。この超常的な現象には「2ちゃんねる」で決して語られることのなかった「鮫島事件」が関わっていて・・・

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ポジティブ・サイド

ない。

 

というのはダメか。ごみ溜めにも美点を見出さねば。

 

街行く人々が皆マスクを着けており、菜奈も帰るや否や手洗いとうがい。今後の映画ではこうした「ニューノーマル」なシーンが当たり前のようにインサートされてくるのだろう。現実のパンデミックの風景を虚構の鮫島事件につなげていく役割は十分に果たせていた。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201128212522j:plain
 

ネガティブ・サイド

鮫島事件を超常的な呪い現象に持って行ってしまったことがまず気に入らない。百歩譲ってそこは認めたとしても、なぜ鮫島事件の呪いが発動するよりも前、菜奈の帰り道の時点で怪異が起きているのか。しかもその怪異はどれもこれも手垢のついたクリシェとも呼べなくなったジャンプ・スケアばかり。『 リング 』、『 オーディション 』、『 呪怨 』などのある意味クラッシックな作品から、近年の『 来る 』や『 貞子 』、『 犬鳴村 』、『 事故物件 怖い間取り 』まですべてに共通するようなもの。つまりはジャパネスク・ホラーはこの20年以上、進化していないとも言える。事前の情報をほとんど入れずに鑑賞に臨んだが、開始5分で「ああ、こういう物語か・・・」といきなり慨嘆させられた。だいたい登場人物の死にっぷりが怖くない。というか、殺しっぷりが怖くないと言うべきか。いつまで邦画は貞子の幻影に縛られなければならないのか。

 

鮫島事件の呪いを変に分析しようとする姿勢も気に食わない。どうせやるなら『 シライサン 』のようなスケールで分析および対処してほしかった。せっかく“呪い”をコロナウィルスのアナロジーで説明しようとしているのだから、その呪いを「変異」させようというアイデアは思いつけなかったか。まあ、それも小説の『 リング 』、『 らせん 』、『 ループ 』三部作でネタとしてはある意味では先取りされているのだが。警察に電話もつながらずネットでコンタクトできないのに、まとめサイトには接続可能というのは拍子抜けである。だったら、そこにこそアプローチすべきだろう。呪いをネット中継してしまう、鮫島事件を現代に一挙にインターネット・ミームとして増殖拡大させてしまう。それぐらいのスケールの大きなホラーを構想する力は邦画の世界にはないのか。

 

ストーリー以外の部分でもツッコミどころ満載である。やたらとデカい音を出すエレベーターが、5階で扉が閉まる時にだけ音を出さないのはどういうわけか。重要なアイテムと見せかけたフルートはいったい何だったのか。事件の核心とされる出来事を〇〇したというが、当時の技術レベルではそれは不可能。というか、それが真相なら「語ることができない」事件にはならない。武田玲奈の兄もバイクに乗るならヘルメットをかぶりなさい。その廃墟も到着したのは夜中であるにも関わらず、窓の外が明るいシーンと真っ暗のシーンが混在。勘弁してくれ。撮っている最中、または編集の最中に誰も何も気づかなかったというのか。柏が出てきてEOMに触れられないというのは、いったいどういう了見なのか。

 

Jovianが脚本家なら、超常現象は一切採用しない。「鮫島事件」がインターネット・ミームと化す過程に介在したであろう「不特定多数」の人間が、実はごく少数の人間だけで構成されていた、または高度に発達したAIの仕業だった。その目的は鮫島事件の真相を求めて近づいてきたもののIDまたは情報を全て奪い取り、別人に成り代わる、あるいは人工知能搭載ロボットが人間社会に溶け込んでいいく・・・という筋立てにするだろう。まあ、これも『 アナイアレイション 全滅領域 』や『 エクス・マキナ 』の焼き直しやなと自分でも思うんやけどね。

 

総評

はっきり言って見どころは何一つない。これをわざわざ劇場鑑賞するのは熱心な武田玲奈ファンぐらいだろうが、そうしたファンに対して何らのサービスもない(しゅはまはるみが谷間を拝ませてくれるが)。レンタルまたは配信を待つのが吉である。武田のファンでなければ観る価値なし。これに時間とカネを使うなら、オンラインリアル脱出ゲーム×お化け屋敷「呪い鏡の家からの脱出」の方が投資効率は遥かに高そうだ。ちなみにJovianはポイント鑑賞。製作者側の懐に一銭も与えることがなく満足している。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

get a job

 

「就職する」の意。ただし日本語で就職というと正社員になったということとほぼ同義だが、これはどんな形であれ仕事を手に入れれば使える表現。

 

get a job in 業界・土地

get a job in IT=IT業界に就職する

get a job in Kobe=神戸で就職する

 

get a job with 会社・組織

get a job with NTT=NTTに就職する

get a job with a small restaurant=小さなレストランで仕事を得る

 

と前置詞以降までをセットで覚えよう。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, F Rank, しゅはまはるみ, ホラー, 小西桜子, 日本, 武田玲奈, 監督:永江二朗, 配給会社:イオンエンターテイメントLeave a Comment on 『 真・鮫島事件 』 -ジャパネスク・ホラーの夜明けは遠い-

『 ジオラマボーイ・パノラマガール 』 -主題にフォーカスを-

Posted on 2020年11月11日2022年9月19日 by cool-jupiter

ジオラマボーイ・パノラマガール 40点
2020年11月7日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山田杏奈 鈴木仁 森田望智
監督:瀬田なつき

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『 リバーズ・エッジ 』の原作者・岡崎京子の作品を瀬田なつきが脚本および監督として映画化。岡崎京子の作品にそれほど親しんできたわけではないが、それでも本作は原作の読み込み不足あるいは瀬田監督自身の自分のカラーの出し過ぎであることは分かる。主題が読み取れないのだ。

 

あらすじ

渋谷ハルコ(山田杏奈)はある夜、倒れている神奈川ケンイチ(鈴木仁)に一目惚れしてしまう。これは世界の運命をも変えてしまう恋に違いないと舞い上がるハルコ。しかし、ケンイチはマユミ(森田望智)というオトナの女性に強く惹かれており・・・

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ポジティブ・サイド

『 わたしに××しなさい! 』や『 小さな恋のうた 』で確かな存在感を示してきた山田杏奈が主演だと、テアトル梅田のパンフレットで知った。ならば、あらすじも不要だし、トレイラーも劇場で目に入ってきたもの以外はシャットアウト。その上で鑑賞した。山田杏奈のありふれた女子高生としての存在感には説得力があるし、恋に恋をするという乙女チックな顔も上手く描出できていた。

 

ラストの手前、早朝の街をトボトボと歩く際の「つまらない男とつまらないセックスをしてしまった」という顔の演技は素晴らしかった。10代でこれだけ細やかな顔面の演技ができる役者は珍しいと思われる。瀬田監督が山田からこの顔を引き出すことができたのなら、それは自身の体験談をよくよく彼女に言い聞かせたのだろう(と下世話な邪推をしてみる)。10代俳優の中ではフロントランナーであることは間違いない。

 

謎めいた女性ナオミを演じた森田望智も独特の存在感を発揮した。最初はチョイ役なのかと思ったが、物語が進むにつれて「ああ、こういう話なのか」とすんなりと納得できた。それはナオミの放つ妖艶な雰囲気によるところが大で、童顔かつ幼児体形なハルコ(あくまで比較の上である)とのコントラストが大いに際立っていた。それは容姿だけではなく、異性との向き合い方、恋愛観やセックス観にも当てはまり、10代同士のピュアな恋物語の予感を良い意味でも悪い意味でも叩き壊している。『 影踏み 』の中村ゆりのような30代に成長していってほしいものである。

 

無秩序な東京の街の片隅で秘かに繰り広げられる人間模様だけは、それなりにしっかり描けていたのではないか。

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ネガティブ・サイド

なんでこんなにキャラクターがどいつこいつも、文字通りにクルクルと回るのか。舞台劇のノリなのか。特定キャラクターだけの動きであれば、そのキャラの特徴なのかなとも感じられるが、誰もかれもがクルクル回るのは不自然以外のなにものでもない。

 

一体全体、いつの時代にフォーカスしているのか。全体的に初期平成臭が漂う。小沢健二の“ラブリー”とは古すぎる。おそらく「いつか誰かと完全な恋に落ちる」ということを強調したいのだろうが、今どきの女子高生が小沢健二を歌うだろうか?やっているゲームも最新作であるが、ストⅡ。それもコンソール型。一方で、インスタグラムやタピオカも同時に存在している。様々な点で時代とガジェットにずれを感じてしまうのである。

 

神奈川ケンイチというキャラクターの思考や行動の原理も謎だ。いきなり高校を辞めるのは、まあ、そういう衝動に駆られることもあるだろうと一応の納得はできるが、男性教師にキスをすることに何らかの意味があるのか?「だって17歳なんですから」というケンイチの台詞は何も説明していない。ここからゲイへの道を歩んでいく、あるいは『 サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所 』のようにクィアの世界に旅立っていくというのなら、全く違和感はない。しかし、まず最初にやることがスケボー、そしてナンパ。ここでもノリが平成である。90年代&スケボーなら『 mid90s ミッドナインティーズ 』で十分に満たされた。

 

ハルコというキャラの見せ方も古い。一目惚れを表現するのに、雷鳴の効果音というのはどうなのだろうか。しかも音だけ。そうした演出が全編で満遍なく使われているというのならそれも構わない。それが本作のテーマにマッチする作劇術だと監督が判断したのだろうから。しかし、その後にそんな演出は皆無。どうせ一か所だけ馬鹿馬鹿しいのなら『 岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇 』のような落雷演出でもすればよかったのではないか。それに友達2人と一緒に常に3人組というのも冗長だ。実際に一人はクラブの後にフェードアウト。だったら最初から親友は一人でいい。Jovian嫁も「親友2人おって、片方は誕生日パーティーに呼んで、もう片方は呼ばへんなんかありえへん」と全く納得していなかった。

 

もっとも意味が分からないのは「知的生命体がいるとされる小惑星の接近」である。成海璃子のキャラが自分たち家族の写真を眺めるハルコに「それね、今となっては貴重でしょ」という思わせぶりな台詞や、ケンイチが学校を辞めたのと同じノリで自殺してしまう学生のニュースなど、何か一筋縄ではいかない世界観が暗示されるが、それがすべて無秩序に拡大する東京のスプロール現象にかき消されている。この世界観も90年代まんまだが、オリジナルを尊重するにせよ自身の解釈を盛り込むにせよ、やるならもっと上手にやるべきだろう。ケンイチの部屋のポスターが『 2001年宇宙の旅 』とはこれいかに。だったら『 E.T. 』、『 未知との遭遇 』、『 遊星からの物体X 』、『 妖星ゴラス 』、『 ブロブ/宇宙からの不明物体 』、『 アルマゲドン 』など、宇宙から何かが地球に接近しつつあることを暗示する映画のポスターを貼るべきではないのか。

 

最初から最後まで、一貫して世界観についていけないし、一部のキャラクターの行動原理が理解できない。端的に言って映画化失敗であろう。

 

総評

映像もストーリーもキャラクターも中途半端である。おそらく瀬田監督自身、原作を十分に消化しきれていないのではないか。しかし、発展途上の才能たちの演技に魅力を感じたり、あるいは岡崎ワールドの造詣が深い人であれば、本作を十二分に堪能することができるかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Are you having fun?

成海璃子がクラブで山田杏奈に言う「楽しんでる?」という台詞。Have fun. = じゃあね、楽しんできてね、という使い方も併せてマスターしておきたい。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, ラブロマンス, 山田杏奈, 日本, 森田望智, 監督:瀬田なつき, 配給会社:イオンエンターテイメント, 鈴木仁, 青春Leave a Comment on 『 ジオラマボーイ・パノラマガール 』 -主題にフォーカスを-

『 Daughters(ドーターズ) 』 -アート系映像+日常系ドラマ-

Posted on 2020年9月25日2021年1月22日 by cool-jupiter
『 Daughters(ドーターズ) 』 -アート系映像+日常系ドラマ-

Daughters(ドーターズ) 65点
2020年9月22日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:三吉彩花 阿部純子
監督:津田肇

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予告編を2~3度観ただけで観賞。『 孤狼の血 』で魔性の女とも純な乙女とも判断つかない不思議な美女を演じた阿部純子が出演している。シネ・リーブル梅田で『 ソローキンの見た桜 』を見逃してしまったが、本作は劇場に観に行くことができた。

 

あらすじ

小春(三吉彩花)と彩乃(阿部純子)は仕事もプライベートも充実したルームシェア生活を送っていた。しかし、彩乃が突然の妊娠を告白。二人の生活や関係が少しずつ変化し始めて・・・

 

ポジティブ・サイド

オープニングからなかなか奮っている。薄暗い室内で三吉演じる小春と阿部演じる彩乃が取り留めのない会話を繰り広げる。この映画は二人だけの閉じた世界がテーマなのだと伝わるEstablishing Shotになっていた。これにより、物語がどう展開しようとも、主軸は二人の関係性であるということを見失わずに済む。

 

仕事にプライベートにと充実した生活を送る二人。『 チワワちゃん 』のようなぶっ飛んだ青春ではないが、充実した20代、充実した社会人生活の一つの在り方を映し出していた。だが、ある日、彩乃の妊娠が判明。そのことを綾乃に告げられた小春は狼狽する。それはそうだ。相手の男も不明。実家が近いわけでもない。仕事も辞めない。これでどうやって赤ん坊を育てるというのか。

 

本作は時代の空気をよく反映していると言える。日本社会の離婚率は今や3割。10組に3組は離婚するのだ。結婚観および離婚観は大いに変化したと言えるだろう。一方で、婚外嫡出子の割合は2%前後。良い意味でも悪い意味でも、日本では子育ては夫婦で(あるいは親や親族、地域の助けを借りて)行わなければ難しいということも分かる。綾乃と小春の関係性にも当然のごとく、変化が訪れる。その変化を特に小春がどのように受容していくかが本作の見せ場である。

 

上手いなと思わされるのは、小春や綾乃の様々な人間関係を決して完全には見せない、あるいは説明しないことである。たとえば小春の親の存在が言及されるが、どこに住んでいるのかは分からない。また綾乃が実家を訪れるシーンがあるが、父親と祖母は出てきても祖父や母親は出てこない。母親に何があったのかも決して語られない。子どもが出来たということは父親が確実に存在するわけで、その父親が誰であるのかは画面上にはっきりと映し出される(だからといって濃厚なラブシーンが描写されるわけではないので、スケベ映画ファンは期待しないように)。だが、男女の関係が発展することもないし、小春が負けじと男を作るわけでもない。これにサブプロットとして発展していきそうな要素がそぎ落とされ、あくまでも小春と彩乃の関係性が物語の主軸であり続ける。

 

そうした二人の女性の関係性が色鮮やかに、時にdruggyとも言える色彩豊かな映像で描写される。そして季節が進んでいくごとに自然豊かな情景を挟んで、新たな局面を迎えていく。この一連の様式美が心地よい。津田肇は映像作家らしい画作りで、光と影のコントラストや、赤や青といった原色を大胆に画面いっぱいに繰り広げる。それが若さの発露であり、また人間の情念の暗さを表している。そうしたいかにも“東京”らしい色彩が、沖縄の海と空と土地で中和される終盤の展開もなかなかに味わい深い。

 

小春と彩乃の同居生活の変化、その行き先。それがどうなるのかは誰にも分からない。しかし、彼女らの選択を尊重したい、ひとまずは見守ってやりたい。そのように感じる人は多いのではないのだろうか。

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ネガティブ・サイド

中目黒に住んで、夜な夜な酒を飲んで、ファッションにも力を入れて、よくカネが続くものだなと悪い意味で感心する。試しに「中目黒 家賃 2LDK」でググってみたが、20万円を切る賃貸物件はほとんど見当たらない。つまり、小春も彩乃も月に12~13万円を家賃に使っていて、なおかつガス水道光熱費にスマホ代、洋服代に食費、それに遊興費まで出している?いったい、彼女らの年収はいくらなのだ?ちょっと現実味が薄すぎる。

 

女性の自立を見守る。女性が選択する権利を持つ。そうした主張が感じられるが、一方で女性に関する固定観念を助長するようなシーンもあった。特に気になったのが、大塚寧々演じる産婦人科医と赤ちゃん教室の講師役の看護師?だか助産師?である。赤ちゃんはお母さんに抱かれるのが好き?諸説あるが、いわゆる抱き癖のある赤ちゃんというのは、体の小さな母親から生まれてくるというデータがある。つまり、相対的に小さな子宮内にいるために体を丸めてしまう、そしてその姿勢を心地よいものと認識する。結果、生まれてからも体を縮める=抱っこされた時の体の形や姿勢が落ち着くということになる。これは科学的エビデンスのある説である。女性の自立や生き方の多様化を描きながら、ところどころに旧態依然とした女性観が出てくるのは頂けない。

 

産休を取った彩乃が職場から自宅に帰って来るシーンの歩き方がお腹がかなり膨らんだ妊婦としては不自然。もっと背中を反らせてガニ股で歩かないと迫真性が出せない。歩き方にこだわる妊婦もいるにはいるが、少なくともお腹に布を詰めただけの演技にしか見えなかった。阿部純子も津田肇も、もっと勉強が必要である。

 

総評

少々ご都合主義が目立つし、映画全体が伝えたいメッセージと映画の場面ごとに伝えようとするメッセージに齟齬があることもある。彩乃の上司による説教臭い説明的なセリフもノイズであるように感じた。だが、歪な家族の形を真正面から描き切ったというのは非常に現代的であるし、『 万引き家族 』以来、邦画は少しずつ変わっていったように思う。その新しい潮流の邦画作品として、本作には一見の価値がある。気分が向けば劇場で鑑賞されたし。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

child rearing

「子育て」の意。Parentingとも言うが、子育ては必ずしも親によってなされる必要はない。したがって、子育ての訳語には「子」が含まれていればよい、という意見もある。Jovianもこの説に賛成である。育メンなどという訳の分からない言葉が一時期だけもてはやされた日本社会であるが、この調子では出生率の増はまだまだ望めそうにないか。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, C Rank, ヒューマンドラマ, 三吉彩花, 日本, 監督:津田肇, 配給会社:Atemo, 配給会社:イオンエンターテイメント, 阿部純子Leave a Comment on 『 Daughters(ドーターズ) 』 -アート系映像+日常系ドラマ-

『 幸せへのまわり道 』 -壊れた人間の再生物語-

Posted on 2020年9月9日2021年1月22日 by cool-jupiter

幸せへのまわり道 70点
2020年9月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:トム・ハンクス マシュー・リス
監督:マリエル・ヘラー

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タイトルだけ目にしてチケットを買った。あらすじは英語で少し読んだだけ。予備知識を一切持たずに鑑賞したが、存外に楽しむことができた。

 

あらすじ

ロイド・ボーゲル(マシュー・リス)は辛辣で知られる記者。ある時、子ども向け番組のホスト、フレッド・ロジャース(トム・ハンクス)を取材することになったロイドは、フレッドに逆にインタビューをされてしまう。そして、向き合ってこなかった父への負の感情を露わにされてしまう。だが、そこからロイドとフレッドの奇妙な縁が始まり・・・

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ポジティブ・サイド

冒頭の番組開始のシーンから圧巻のパフォーマンスである。スタジオのセットで踊って歌うトム・ハンクスがゆっくりと腰掛け、視聴者=映画の鑑賞者にゆっくりと語りかける。そして、厚紙細工の家の扉を開けてロイドを紹介する一連のシークエンスはインパクト絶大。あらすじをほとんど知らない状態で観たこともあって、一気に映画世界に引きずり込まれた。

 

ロイドとその妻アンドレア、そして最近になって生まれた赤ん坊と、ロイドは家庭もキャリアも順調だったが、気鋭のジャーナリストがどういうわけか子ども番組のホストを取材するようになるまでの流れもスピーディーだが、荒っぽくはない。順調に見えるロイドも、辛辣な人物評が芳しくない評価を生んでいる。人にきつくあたる人間は往々にして何らかの心の闇を抱えている。そのことを観る側に予感させつつ、フレッドとロイドの邂逅をある意味でとてもまわりくどく、なおかつ直截的に描くヘラー監督。これはなかなかの手練れである。

 

トム・ハンクスの卓越した演技力というか、ソフトな物腰にソフトな語り口で、しかし透徹した視力と言おうか、一気に目の前の人間の本質を鋭く見抜く眼光炯々たる様には圧倒される。インタビューするロイドを遮り、一気に核心を突く質問を発するところには、ヒューマンドラマとは思えないサスペンスがあった。ここから思いがけない友情めいた関係がスタートするのだが、この最悪の出会いから何がどう芽生えるのか。袖振り合うも多生の縁というが、その絶妙な仕掛け、人との出会いを特別に大事にするフレッドの秘密を知りたい人はぜひ観よう。

 

本作のテーマの一つは、怒りの感情のコントロール、それとの付き合い方である。息子が父を憎むというのはよくある話で、男は誰でも程度の差こそあれ、エディプス・コンプレックスの罹患者であり、(文学的な意味での)父殺しを企図しているものだ(父親と腕相撲して勝ったり、父親のクルマを「代わりに運転してくれ」と頼まれたりetc)。父親を許すとができないロイドに、フレッドがレストランで提案するルーティンのシーンは圧倒的な臨場感である。スクリーンのこちら側の我々にも参加しろと言っているのだ。そしてこれこそがヘラー監督の発したいメッセージでもあったのだろう。

 

聖人のごときフレッド・ロジャースが最後に見せる人間味(いや、音と言うべきか)も味わい深い。一人に備わらんことを求むるなかれ。怒りを遷さず、過ちを弐びせず。アメリカ人の物語であるが、東洋人の我々の心にも十分に響く名作である。

 

ネガティブ・サイド 

ロイドと父の和解がやや唐突過ぎるように感じた。姉の結婚式(毎夏の恒例行事らしいが)で息子が父をぶん殴るという事件を起こす割には、父を許すのが早すぎる。もちろん、ミスター・ロジャースのカリスマ性もあるのだろうが、ロイドは小市民の代表選手なのだ。『 母が亡くなった時、僕は遺骨を食べたいと思った。 』で松下奈緒が安田顕を一喝したようなシーンがもう一つ二つ欲しかった。

 

ミスター・ロジャースはアメリカでは知名度抜群とのことだが、ロイド自身の幼少~青年期を振り返るシーン、あるいはレストラン以外でロイドが自身の過去を回想し、そこでのロジャースの言葉に思いを致すようなシーンは撮らなかったのだろうか。撮ったものの編集でカットされたのだろうか。フレッドとロイドの私的な交流に重きを置いている割には深みがなかったのは、上述のようなシーンが欠けていたからだろう。

 

本作はシーンとシーンのつなぎ目にジオラマの街並みが挿入される。ユニークな試みだと思うが、なにか前後のシーンまでが作り物のように感じられた。これは映画媒体のformを評価ではなく個人的な好き嫌いか。

 

総評

予備知識なしで観るのが正解だろう。というか、日本で事前のリサーチなしにミスター・ロジャースを知っているというのは相当のアメリカ通か、帰国子女あるいは現地赴任帰りだろう。けれど心配無用。事前の知識は一切不要。あまりにも典型的な父と息子の確執と和解の物語であるが、そこには思いのほか豊かな奥行きがある。そして彼らの物語がいつしか我が事のように感じられてくる。家族や友人と鑑賞してもよいが、おそらくこれは一人で観るべき映画である。その方がきっとより真価を味わえるから。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン 

a four-letter word

 

劇中では“Fame is a four-letter word.”というように使われていた。「有名(ゆうめい)というのは4文字言葉に過ぎない」という意味だが、この表現はしばしばsh*tやda*nやcr*pやh*llなどの卑罵語を指すことが多い。このあたりのスラングとされる表現を社会的に正しい文脈で使えることができれば、英会話スクールは卒業である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, トム・ハンクス, ヒューマンドラマ, マシュー・リス, 伝記, 監督:マリエル・ヘラー, 配給会社:イオンエンターテイメントLeave a Comment on 『 幸せへのまわり道 』 -壊れた人間の再生物語-

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