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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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『 マイ・ブックショップ 』 -書店を巡る人間関係の美醜を描く-

Posted on 2019年4月16日2020年2月2日 by cool-jupiter

マイ・ブックショップ 65点
2019年4月14日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:エミリー・モーティマー ビル・ナイ パトリシア・クラークソン
監督:イザベル・コイシェ

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190416021739j:plain

嫁さんが思い立ったように「観たい」と言ってきたのが本作である。『 続・夕陽のガンマン 』を観て以来、どうも面白不感症に罹患しているらしい。そういう時は、自分のレーダーではなく、誰か別の人間の感性に身を委ねてみるのも一案である。

 

あらすじ

戦争の傷跡からようやく立ち直りつつある英国の海沿いの町。フローレンス(エミリー・モーティマー)はそこに、戦死した夫と共に見た書店を開くという夢を実現すべく奔走する。なんとか開業にこぎつけたものの、有力者のガマート夫人(パトリシア・クラークソン)の妨害を受けてしまう。しかし、バイト少女のクリスティーンや素封家にして読書家のブランディッシュ(ビル・ナイ)の助力を得たフローレンスは、敢然と立ち向かうが・・・

 

ポジティブ・サイド

「毅然」という言葉を辞書で引けば、今作のエミリー・モーティマーを使った挿絵が出てくるのではないか。そう感じさせるほどの会心の演技であろう。彼女の書店開業への道は ”It’s been no bed of roses, no pleasure cruise” である。銀行が融資を渋るのだが、これは当時の世相を反映しただけのものではなく、現代の現実を鋭く批評する姿勢の現れである。現代日本には、紳士服を売る店が溢れている。しかし、女性が大きなコンベンションやパーティーに着て行って恥ずかしくないスーツが売られている店は本当に少ない。銀座英國屋ぐらいしかない。これは、とある大阪の女性経営者の声である。Jovianは冒頭のシーンで、この女性経営者の声を思い出さずにはいられなかった。モーティマー演じるフローレンスは数々の苦難に負けることなく、オールドハウスを手に入れ、書籍を仕入れ、書店を見事にオープンさせるのだが、そこにパトリシア・クラークソン演じるガマート夫人の横やりが、これでもかと入ってくる。海辺の小さな町ではあるが、彼女はいわゆる、『 きばいやんせ!私 』で描かれていたような地元のボスキャラである。この町には本屋はいらない。この町に本を読む人はいない。こうした姿勢は、反知性主義、反啓蒙主義である。これまた鋭い現実批評である。政府自らフェイクニュースを垂れ流すどこかの島国の愚行をスケールダウンして見ているかのようである。

 

フローレンスには、そこから先にも数々の苦難が襲い来るのだが、ガマート夫人の攻撃を防がんと立ち上がるビル・ナイが、ここで一世一代の演技を披露する。彼の演じるブランディッシュとガマート夫人の対話は、近年の映画の中でも出色のサスペンスを生み出している。そしてビル・ナイがここで振るう渾身の長広舌は、観る者の魂を揺さぶるかのような迫力に満ちている。

 

それでも、まるで『 おしん 』のように耐え忍ぶフローレンスに、ついに限界が訪れる。このシーンは悲痛である。正義の無力さを思い知らされるかのような虚無感に襲われる。しかし、最後の最後にカタルシスも待っている。それが何であるのかはネタばれになるので言えない。ただ、始まりのシークエンスがどのようなものであったのかを脳裏に刻みつけておいてほしい。また、劇中でたびたび挿入されるナレーションにも注意を払って欲しい。しかし、払い過ぎないで欲しい。ややネタばれめいたことを言わせてもらえるなら、ノンフィクション・エッセイ『 僕の妻はエイリアン―「高機能自閉症」との不思議な結婚生活 』を読んだ時のような衝撃が待っている(ちなみに、この本のレビューは決して読んではいけない)。

 

ネガティブ・サイド

『 マンチェスター・バイ・ザ・シー 』ような陰惨、陰鬱な絵ではない。むしろ映像はやや明るく綺麗でもある。スクリーンの明るさと物語の暗さの対比が、やや適切ではないのかなと感じた。

 

フローレンスというキャラクターにも、強かさが欲しかった。お人好しが過ぎる言うか、もう少し警戒心や猜疑心を持っていても良かった。実際には夫を戦争でなくした未亡人なわけで、世の中を綺麗ごとだけで渡って行けるわけではないだろう。このような性格や気質であるからこそブランディッシュが立ち上がったのだとも言えるが、逆に言えば、このようなキャラであっては、最終盤の行動が説明できない。このあたりは賛否両論が生まれるところだろう。Jovianは否と見る。

 

思わぬドンデン返しというか、新鮮な驚きがあるところはプラスだが、『 ショーシャンクの空に 』のように、最悪であるはずの刑務所を自分の才覚で変えていく、倒すべき悪をしっかりと倒すという筋書きの物語を体験したかった。最終盤に得られるカタルシスの大部分はストーリーテリングに関わるもので、ストーリーそのものに対するインパクトの面では弱かった。

 

総評

非常に静かな映画である。しかし、登場する人物たちの中にはドロドロとした情念が渦巻いている。牧歌的な物語でも堪能しようと鑑賞すれば裏切られるだろう。だが、人間模様をつぶさに観察できる、自身を取り巻く現実との対照で映画を観るような人ならば、本作は豊穣な時間を提供してくれることであろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, エミリー・モーティマー, ココロヲ・動かす・映画社○, スペイン, ヒューマンドラマ, ビル・ナイ, 監督:イザベル・コイシェ, 配給会社:Leave a Comment on 『 マイ・ブックショップ 』 -書店を巡る人間関係の美醜を描く-

『 九月の恋と出会うまで 』 -タイムリープ要素以外はまあまあ-

Posted on 2019年4月7日2020年2月2日 by cool-jupiter

九月の恋と出会うまで 50点
2019年3月31日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:高橋一生 川口春奈
監督:山本透

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190407135804j:plain

何ともミステリアスなタイトルである。『 わたしに××しなさい! 』の山本透監督が、タイムリープものを扱うということに、期待と不安の両方を抱えながら、結局は鑑賞してしまった。タイムトラベルものというのは何をどうやっても矛盾が生じるものだが、そこにさえ目をつぶれば、それなりに楽しめる作品になっている。

あらすじ                    

あるアパートに引っ越してきた志織(川口春奈)は、ある夜、エアコンのダクトから「あなたに危険が迫っている」という未来からの声を聞く。不審に思う志織だったが、次々に未来を言い当てるその声を信じることに。すると声は同じアパートに住む平野(高橋一生)を尾行するように依頼してきて・・・

ポジティブ・サイド

川口春奈がいつの間にやら美人になっている。ちょっと前まで美少女だった気がするが、今は美人になっている。川栄李奈の先輩という役どころも、大人の女性らしさの演出を後押ししている。

高橋一生も変わらぬ安定感である。どこかコミュ障気味のサラリーマンを、視線を合わせず、声に抑揚を持たせず、また病人である女性に配慮ある行動はできるものの、ロマンチックさのかけらもない言葉を浴びせるなど、まさに nerd である。映画『 サイコ 』へのオマージュと思しきシーンでも、高橋一生のちょっと浮世離れした人間特有の雰囲気が、物語序盤のサスペンスを見事に盛り上げる。

この二人がどのように恋に落ちるのか。恋に落ちていく過程はどのようなものであるのか。このあたりに説得力があった。特に二人が向きになって不毛な言い争いを繰り広げる様は、誠に微笑ましい限りである。いくらかご都合主義的な展開もあるが、不必要にドラマチックな展開も少なく、全体的には非常にリアリスティックな恋模様が描かれる。高校生の恋愛模様とは一味違う、落ち着いて鑑賞できるストーリーになっている。

ネガティブ・サイド

『 コーヒーが冷めないうちに 』と同じく、タイムリープもの、タイムトラベルものの矛盾=パラドクスがそこかしこに存在する。本作はそこに「歴史の修正力」説を採用するが、なぜそのような力が働くと考えられるのかの根拠の呈示が非常に脆弱である。平野というキャラを nerd にして作家の卵にしたのは、こうしたパラドキシカルな事象を理路整然(必ずしもそれが的を射ていたり分かりやすかったりする必要はない)と説明するためではないのか。実際に本人も嬉々としてそれを語るが、そうした事柄への好奇心や愛着の見せ方が弱かった。そこが弱いために、志織は自らが消滅してしまうビジョンに怯えはするものの、そのことを現実の脅威として捉えていないように映ってしまった。従容として運命を受け入れんとする女性と、なんとかそれを阻止しようと奔走する男性というのは、クリシェではあるが、現代的とは言えない。メッセージ性が足りないのだ。それが本作の最大の欠点である。

もう一つ提言するなら、平野と詩織を巡る時間の円環が閉じた、という感覚を得られないことも問題であろう。運命に翻弄される男と女が最終的に添い遂げるというのは、古今東西で最大のクリシェであるが、なぜそうしたプロットが生き延びているのか。それは陳腐な物語に身を任せた先にあるカタルシスの爽快さの故である。『 わたしに××しなさい! 』についてもエンディングの弱さを指摘したが、このあたりが山本透監督の課題であろう。さらなる精進を期待したい。

総評

可もなく不可もなくであろう。本当に面白いタイムリープものなら、高畑京一郎の小説『 タイム・リープ―あしたはきのう 』が白眉である(映像化されているようだがJovianは未見である)。または、同じく小説から映画化された『 僕は明日、昨日の君とデートする 』の方が、ファンタジー作品と割り切っている分、より純粋にストーリーを味わうことができる。また、時間のループが綺麗に始まり、綺麗に閉じる物語としてはジェームズ・P・ホーガンの古典的名作小説『 星を継ぐもの 』、『 ガニメデの優しい巨人 』、『 巨人たちの星 』がお勧めである。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, ラブロマンス, 川口春奈, 日本, 監督:山本透, 配給会社:, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画, 高橋一生Leave a Comment on 『 九月の恋と出会うまで 』 -タイムリープ要素以外はまあまあ-

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